今後の学級編制及び教職員定数の改善に関する有識者ヒアリング(小川正人氏提出資料)

2010年5月12日

今後の学級編制・教職員定数改善ヒアリング 提出資料

小川 正人(放送大学教授)

はじめに

 

1.学級規模をめぐる論議と課題の整理─米国の少人数学級研究からの示唆

 学級編制(以下、学級規模)の問題は、教育・学校改革が論議される際に常に取り上げる重要な課題である。しかし、学級規模は、教職員定数(給与費)の増加に連動するため政府と自治体の財政事情に大きく左右される施策であることもあり、政府と自治体の財政事情が厳しくなる1990年代以降、国の学級編制標準は40人に留められてきた。また、学級規模の縮小は大きな財政支出を要する施策であるにも拘らず、その教育効果の検証が難しいと指摘されてきた。学級規模縮小の教育効果を実証的に検証するには、厳密に諸条件を統制した中での実験的調査研究が必要であるとされるが、この分野で先駆的であると言われる米国等における学級規模研究でも殆どが自然に出来た大小の学級規模をそのまま活用した成績の比較研究に留まり、学級規模以外の要因を除去できないためにその効果検証の信憑性には疑問も多く出されてきた。実際、米国等における学級規模の教育効果検証の多くの研究論文では、学級規模の教育効果を巡って評価が二分されてきた(市川1995:295~309頁)。

 そうした中、米国における少人数学級研究のターニングポイントなった実験的調査研究があった。それがテネシー州のSTAR計画(Student/Teacher Achievement Ratio)である。1990年代以降、米国では、半数以上の州で学級規模縮小の政策が推進され、それを連邦政府も後押ししてきた。それらの取り組みに大きな影響を与えたのがテネシー州において試みられたSTAR計画(1985年)であった。この計画は、13~17人の少人数、22~26人の普通学級、常勤補助教員を配置した普通学級という三種類の学級を編成し、それらに生徒達をランダムに配置し、幼稚園から小学校3年までの4年間にわたって3種類の学級別の教育効果を検証したものである。STAR計画が米国でも大きな注目を集めた理由は、【1】初年度に79校329学級で6000人強、4年間で最高12000人の生徒が参加した大規模調査であったこと、【2】三種類の学級の編成という統制以外は、教員への特別の研修やカリキュラムなど特段の調整を行わなかったこと、【3】計画に参加した生徒達は、4年次以降は普通学級に在籍することになったが、その後も追跡調査が実施され小学3年次までの少人数学級の教育効果の影響が検証されたこと、等の特徴をもったプロジェクトであったことによる。

 STAR計画のデータ分析に中心的な役割を果たしたフィン(Jeremy D.Finn)教授は、この計画で実施された少人数学級の教育効果を以下のように指摘している。

 【1】少人数学級に在籍した子どもの成績は全ての学年、教科で向上した。又、少人数学級  に早期に在籍し、在籍の期間が長い子どもの成績向上が大きかった

 【2】少人数学級の効果は、非都市部学校の白人生徒よりも都市部学校に在籍している生徒  やマイノリテイ生徒の方が大きかった

 【3】少人数学級から普通学級にかわった4年次から8年次までの成績を追跡調査した結果  でも、少人数学級在籍の子どもの成績は優位であり、又、少人数学級に早期に在籍し  在籍期間が長い子どもほどその効果がより強く長く持続している

 更に、フィン教授によれば、STAR計画では少人数学級の教育効果に関心が集まり過ぎて、補助教員配置の教育効果の検証結果が見過ごされたが、この計画実施の際には、補助教員という方法は、経費が安くしかも少人数学級と同じような教育効果の結果を示すかどうかという検証も期待されていたという。しかし、分析結果では、補助教員を配置した普通学級と未配置の普通学級の間には教育効果の上でほとんど差がなかったことが指摘された。

 STAR計画後、多くの州で学級規模縮小の政策が試みられていくが、それら小規模学級の取り組みから共通して指摘されてきた改善点をフィン教授は以下のように整理している。

 ・教員のモラールが少人数学級では改善している/・学級規模が小さい時、教員は教授 指導に費やす時間が多くなり、逆に学級経営に費やす時間が少なくなっている。少人数学級では生活指導問題が少ない/・少人数学級では、生徒の出席率が良くなり学習に真摯に取り組む生徒も増え、逆に中途退学や留年が減少している、等

 しかし、少人数学級の教育効果が様々に言われるのに伴い、少人数学級の更なる研究課題が指摘されている。フィン教授によれば、よく繰り返される質問としては、・少人数学級というが少人数とは何人なのか、20人と17人ではどれだけの違いがあるのか、・中学年や高校では少人数学級はどのような効果があるのか、・少人数学級のメリットをある特別な教育プログラムや方法と結びつけることでその教育効果をさらに高めることができるのかどうか、等であるという。そして、残される大きな課題の一つは、少人数学級はなぜ教育効果を生み出すのか、という問いであるという。一般的は、教員が少人数学級では個別指導やより質的に高い指導を通じて教授スタイルを変えるために教育効果があがると言われてきたが、フィン教授は、STAR計画や他の学級規模縮小の試みでは教授指導に費やす時間が増えたり学級経営や生活指導に煩わされる時間が減ったことをあげながらも、それら教員の教授上の変化だけで少人数学級に顕著に見られた子どもたちの一貫した成績向上の理由を説明できないと指摘している。代わって提示される仮説は、少人数学級では子どもたちが学習に専心し反社会的行為を減じていくという子どもの側の変化である。この子どもの側の変化については、学習過程への継続的な参加を促す、生徒間或いは教員と生徒の間の緊密な共同体意識が促される等の心理学的な説明理論が行われているようであるが、少人数学級の教育効果を検証しそれを学校教育改革の全体的戦略に位置付け活用していくためには、少人数学級がなぜ教育効果をうみだすのかという課題は無視できない重要な研究テーマであるとされている(Jeremy D.Finn2002、Timothy A.Hacsi2002)。

 

2.日本における学級規模を巡る論議と改善の留意点

(1)日本の教育活動の特徴―学級を基盤にした生徒指導と教科指導の一体的取組み

 学級規模の教育効果に関する米国等の調査研究を参考にする際には、欧米等と日本の間における学級の機能の違いに留意する必要がある。

欧米では、学級は学習集団で、しかも学級内の学習指導は個々の子どもの個別指導が重視されるため、一人の教員が子どもの学習指導上において個別指導が可能な人数として概して少人数で編制される傾向にあるといえる。生徒指導的機能は無いわけではないが、それは教員が個々の子どもと親への指導(しかも、生徒指導の専門家とされるカウンセラーが、その個別指導にあたるー学級担任との協力・連携等の意識は低い)であって、学級の生徒集団的機能が強く意識化されることはない。

それに対して、日本では、長い間、学級は学習集団であると同時に、生徒指導集団、学校行事、学校経営の基礎的集団として考えられてきた。学校は、学習指導の外に、集団の生活・活動を通じて生徒指導も期待され、学級を基礎とした生徒集団の「教育力」にもとづく指導が重視された。教員に求められる力量でも、異なる能力・個性をもった子どもたちを集団としてまとめつつ、その違いを学習指導や生徒指導に活用していく授業力や学級経営の技量が重視、評価される。こうして、学級は、学習指導とともに生徒指導-子ども集団の「教育力」が重視-や学校経営の基礎的な集団機能を担わされることで、相対的に大きな規模で編制される傾向を生み出した。

こうした日本の生活集団と学習集団を一体とした学級経営を基盤に教科指導と生徒指導の双方の取り組みを行う日本の学校は、従来、子どもの社会性と均質な高い学力の育成に成功をしているモデルとして従来海外からも高く評価されてきていた(恒吉2008)。

(2)問題と見直しの課題

  しかし、近年、その成功モデルが様々な問題を抱え、その改善が課題とされている。

 【1】学級経営を基礎に教科指導と生徒指導の双方の取り組みを行う教育活動は、その分、教員に多様な能力とその開発を求めるし、また、教員の業務内容も多様にならざるを得ない面があり、教員の超過勤務を生み出す原因の一つとなっている(欧米の教員と比較した場合、日本の教員は、授業以外の多くの業務も本務として担うという業務形態の特徴がある)。

   加えて、近年の子どもの変化、家庭・地域との連携・協力等の新たな課題、学校経営上の新たな取り組み、学習・教育指導の高度化等で、業務内容は従来と比べ拡大してきており、業務内容と勤務形態の在り方が検討課題として浮上している。

 【2】児童生徒の「変容」の下で、学級集団の指導・経営は従来と比べて難しくなっていると共に、個に応じた教育や創造性の育成など従来の一斉授業ではカバーできない新たな学習・教育指導の要請も高まってきた。

 ⇒教員の業務内容や勤務形態の見直しと共に、学級規模の縮小=少人数学級の実現は、米国等と比べて一層切実で重要な課題としてとらえられるべきであった。

(3)少人数指導から少人数学級をベースに適切な少人数教育の組み合わせへ

 前政権で実施された第7次改善計画では、上記の問題が論議され、学級編制標準の改善(縮小)か少人数指導の拡充か、が重要な争点の一つにはなった。しかし、少人数学級の教育効果に関する実証的、実験的調査研究が乏しく、また、存在する調査研究でも少人数学級の教育効果を確定できるデータ等の蓄積も脆弱であったこともあり(この間、少人数学級の教育効果の調査研究は従来より多く試みられるようになってきたが、それら調査研究では20人前後、20人以下の学級規模の教育効果が顕著である等の指摘はあった)、少人数指導の拡充方策が選択されたという経緯がある。

 確かに、前政権で実施された第7次改善計画の少人数指導は一定の成果を上げてきたと評価されているが、学校現場や自治体教育行政の側からは、学力だけではなく生徒指導上の問題の改善には、少人数指導のみでは不十分という認識も強かった。そのため、自治体は、小1・中1プロブレム、不登校児童生徒等の生徒指導上の諸問題への取り組みも視野に入れて、単費による少人数学級の導入を国に率先して進めてきた(その後、総額裁量制の導入で国庫負担教員を活用した少人数学級が拡充していった経緯がある)(小川2006)。

少人数学級を導入してきた多くの都道府県は、その教育効果の検証を継続的に進めてきているが、学力の向上だけではなく不登校・欠席児童生徒数の減少等の生徒指導面でも効果のあることなどが報告されている(例えば、山形県『教育山形「さんさん」プラン これまでの評価』など)。また、少人数学級の教育効果に関する実験的調査研究も少しずつ取り組まれ始めており、『少人数教育の効果に関する調査研究』(平成19年3月)や『学級規模が児童生徒の学級や学校の生活への適応および生活態度の育成に与える影響』(平成20年3月)では、少人数学級が学力面でも学校生活適応、生活態度育成の面でも一定効果のあることを検証している。

 ⇒そうした都道府県の検証や近年の調査研究等からは次のように課題を整理できる。

 【1】学力向上等の教科指導面では、著しい教育効果を生み出すことのできる学級規模は15~20人前後である。

 【2】しかし、学級(生活集団)を基盤に生徒指導と教科指導を一体的に取り組む日本の学校では、学級規模を30~35人学級に改善(縮小)することで生徒指導上の問題の改善と共に一定の学力向上にも成果があることが見出されている。児童生徒の学校生活の場である学級の「質」を高めることで、生徒指導面でも教科指導面でも一定の改善を可能とすることができる。

 【3】生活集団としての学級という意味では、あまり小さくない学級集団が不可欠であるが、教科指導、学力向上の取り組みには、15~20人程度の少人数の学習集団がより効果的であるため、生徒指導と教科指導を一体的に行う教育活動は30~35人学級をベースとしつつ、重視すべき教科指導については必要に応じた少人数教育(15~20人前後)を適宜組み合わせて進めていくという方向が、日本の学級機能(=生活集団)を重視した教育活動の取り組みに適合しているのではないか。

 

3.学級編制標準の見直しと教職員定数改善の論点

(1)改善計画の前提条件―改善計画に取り組む可能な財源枠

 厳しい国と自治体の財政事情の下で優先順位をつけるにしても、その前提条件としてどれだけの財源枠が可能かを想定せざるを得ない。

○前政権の第七次改善計画策定時点(平成12年度)での試算(文部省試算)

【30人学級実施の場合】

小学校 増加学級数 約56,000学級 教員増 約67,000人 

中学校 増加学級数 約31,000学級 教員増  約48,000人

計 約115,000人 約9600億円(国・地方総額)

 【35人学級実施の場合】

小学校 増加学級数 約23,000学級 教員増 約28,000人

中学校 増加学級数 約13,000学級 教員増 約21,000人

計 約49,000人 約4000億円(国・地方総額)

 

○現時点での試算(概算)

【30人学級】小学1年生~中学3年生までの全学年で実施した場合

増加学級数 約81,000学級

増加教員数 約110,000人

追加予算額 約7,300億円(国・地方総額)

*但し、上記数値は現時点で一気に実現する場合の推計であり、今後6年間の児童生徒数の減少等で生じる教員の自然減24,000人程度を見込むとすると、増加教員数は約86,000人、5,700億円程になる。

【35人学級】小学1年生~中学3年生までの全学年で実施した場合

増加学級数 約34,000学級

増加教員数 約46,000人

追加予算額 約3,100億円(国・地方総額)

*  同上、今後6年間の児童生徒数の減少等で生じる教員の自然減24,000人程度を見込むとすると、増加教員数は約22,000人、1,500億円程になる。

【小学校低学年30人学級、小学校中・高学年、中学校35人学級】

増加学級数 約45,000学級

増加教員数 約59,000人

追加予算額 約3,900億円(国・地方総額)

*  同上 今後6年間の児童生徒数の減少等で生じる教員の自然減24,000人程度を見込むとすると、増加教員数は約35,000人、2,300億円程になる。

(給与所要額は、平成22年度義務教育費国庫負担金予算単価6678千円で試算)

  

(2)選択肢

 【1】学級編制標準の改善(縮小)か教員の負担軽減か

 議論としては、現行の学級規模をそのままにして、教員の授業時間を軽減するために大幅に教員を増加したり、事務・補助スタッフの大幅増員等で教員の業務内容を縮減し、授業や指導の質を高めていく勤務形態や体制づくりを図る選択肢もある。ただ、学級規模を縮小し、学級を基盤とした学級経営と学習指導の負担を軽減するとともに、学級増に伴う教職員増によって教職員の負担軽減が図られるために、学級規模の縮小と負担軽減は必ずしもトレードオフの関係ではない。しかも、教員の多忙化を改善する方策は、学校の組織・運営の効率化や管理・経営の改善等に関わる課題でもあり、多忙化の改善=負担軽減を第一目的として教員増を図るというストレートな相関関係が成り立つわけでもない。

 原則は、子どもの学習条件と教員の学級経営・教育指導の改善・質的向上という点から、学級編制標準の改善(縮小)を第一の目的に置き、学級増に伴って配置増となる教職員を活用しつつ、学校の組織・運営の効率化や管理・経営の改善を図っていくかという体制づくりを通して教員の負担軽減を進める方が適切であるように思う。

【2】学級編制標準の改善(縮小)の基本的考え方

 米国等の調査でも、教科指導において教育効果が著しく現れるのは、1学級15人前後と指摘されている。日本の調査でも20人以下であると指摘する調査研究が多い。

しかし、生活集団と学習集団を一体とした学級経営を基盤に教科指導と生徒指導の双方の取り組みを行う日本の学校では、1学級15人程度、20人以下という学級は問題であるとされるし、それに要する経費を現下の財政事情で賄うのは困難である。

 現下の財政事情を考慮すれば、上記の試算でも明らかなように、先ずは、当面は35名、しかし、小学校低学年は30名とし(都道府県独自の少人数学級施策では、小学校低学年が最重視されていることからも明らかなように現場の切実な要請でもある)、その上に、自治体毎に実情と課題に応じた取り組みの工夫を促していける定数運用の方法を考えるのが望ましい。

【3】学級編制標準の改善(縮小)と教職員定数改善のプライオリテイ 

 1)学級編制標準の改善(縮小)

 財政事情の制約が強くある中では、一律の学級編制標準の改善(縮小)ではなく、学校種別、学年別でそれを違えるという考え方もあり得る。

 ただ、国が学級編制標準の改善(縮小)を図る際に、ある特定の学校種、学年に特定化して実施するということは自治体の実情に合った運用や創意工夫を促す点で問題がある。

 事実、現在、総額裁量制と義務標準法の弾力的運用の下で、各自治体が学級規模の縮小を図っているが、その傾向をみると、確かに、小学校では1・2年の低学年と中学1年での学級規模縮小が圧倒的に多い。ただ、それ以外の小学校の学年、中学校の学年でも学級規模の縮小を実施している自治体も一定数ある。

 そうした全国の実情を見ると、小学校低学年30人、小学校の他の学年と中学校では一律の35人としたうえで、それ以下の改善(縮小)については、自治体毎の実情と取り組み課題に応じて35人以下学級に取り組めるように促すのが望ましいのではないか。

 2)教職員定数改善のプライオリテイ

 教員の多様な業務内容の見直し、負担軽減を進めていくために、学校事務職員の増員や外部委託、支援・補助スタッフの増員と体制づくり等は不可欠であるが、それと同時に、学校の組織・運営、学校経営・管理の見直しも同様に重要である。学校によって教員の超過勤務時間の長さが違うという調査もある。学校経営や対外等の業務の教員負担を軽減するために、例えば、教頭(副校長)2人体制などの配置も考えてはどうか。主幹教諭等の配置とその充実等は課題であろうが、校長等の声を聞くと教頭(副校長)2人体制がプライオリテイとしては高いように思う。

 3)現行の各種の加配教職員定数

 約6万人ある加配教職員定数のうち指導方法工夫改善の加配約4万1千名が現在も様々な少人数教育に活用されている。上記2で述べたように、30人~35人の少人数学級をベースに適切な少人数教育の必要性は益々高まっていることを踏まえれば、今後も指導方法工夫改善の加配教員定数は継続して活用していくことが必要である。ただ、その指導方法工夫改善の加配教員定数の活用は、今次の学習指導要領の改訂で重視されている理数系などのある特定の教科等に重点的に活用されるなどの方策があってよいように思う。

 

4.都道府県における学級編制基準と教職員定数の改善を担保する財源保障

現状 1980年代後半以降、国の財政悪化に伴い国の義務教育経費の削減政策の影響を受け、義務教育費国庫負担制度から教材費や教員旅費、教職員共済費、退職金等の費目が次々に外されて一般財源化(地方交付税に措置)され続けた結果、義務教育費国庫負担制度は義務教育学校教職員の給与本体だけをカバーするだけの制度となった。加えて、三位一体改革で国の負担率が3分の1に切り下げられた結果、教職員人件費にしめる国の負担率は22%まで下がり(都道府県の負担割合68.8%)、また、義務教育費総額に占める国の負担率も17%までに縮小している(都道府県50%強、市町村30%―文部科学省:2006年度地方教育費調査)。義務教育費国庫負担制度が存在しているにも拘わらず、実態は地方が義務教育費の大半を負担するという実態になってしまっている。

 創設の当初は、義務教育費を国と地方が半分ずつ負担し合うことで平等な義務教育の確実な保障と地方の自由・競争という双方のバランスを調整できる柔軟な制度として支持され維持さてきた義務教育費国庫負担制度であったが、義務教育費全体に占めるその割合の縮小は、この負担制度の目的であった平等な義務教育の確実な保障という機能そのものの低下を招来することになった。特に、三位一体改革以降における地方への税源移譲により拡大した自治体格差を補填すべき交付税総額が急激に削減される中で、義務教育費国庫負担制度が担う平等な義務教育の確実な保障という機能低下は著しく、地方間の財政力格差を反映し義務教育経費の格差も拡大している(義務教育費国庫負担制度における国保障の定額を下回る道府県の増加傾向、非常勤・臨時教員の増加傾向)。

改善方策 今次の学級編制標準の改善(縮小)と教職員定数改善と同時に、都道府県が確実にナショナル・スタンダードの実現を図りながら、都道府県毎の課題に取り組んで行けるようにするために必要な財源保障を確実なものにすることが肝要である。

現行の国(義務教育費国庫負担金制度)と地方(自主財源、交付税)が負担し合う制度を前提に緩やかな見直しを図る場合には、国負担の制度的要である義務教育費国庫負担制度の平等機能を強めるために、教職員給与費の国庫負担率2分の1への「回復」を実現していくことが求められる。

また、学級編制基準の決定権限の基礎自治体への移譲等も課題であるが、しかし、それは教職員の人事権等の移譲と基礎自治体の義務教育財源保障の在り方と同時に検討されることがなければ実効性に乏しい。教育一括交付金制度構想の検討と合わせて取り組むべき課題である。

 

5.学級編制標準の改善(縮小)と教職員定数改善に伴う課題

  ―学校経営の改善と検証のしくみづくり―

 

 

【参考文献】

市川昭午(1995)『臨教審以後の教育政策』教育開発研究所

小川正人(2006)「義務標準法制改革と少人数学級政策」(東京大学・基礎学力研究開発センター編『日本の教育と基礎学力』明石書店)

恒吉僚子(2008)『子どもたちの三つの「危機」』勁草書房

『少人数教育の効果に関する調査研究』(文部科学省委託研究 平成19年3月)

『学級規模が児童生徒の学級や学校の生活への適応および生活態度の育成に与える影響』(文部科学省委託研究 平成20年3月)

Jeremy D.Finn“Small Classes in American Schools”Phi Delta Kappan March 2002

Timothy A.Hacsi“Children As Pawn”Harvard University Press 2002

 

お問合せ先

初等中等教育局財務課