今後の学級編制及び教職員定数の改善に関しての日本高等学校教職員組合(日高教)の意見(日本高等学校教職員組合)

文部科学省 御中

今後の学級編制及び教職員定数の改善に関しての日本高等学校教職員組合(日高教)の意見

                                                                平成22年2月10日

はじめに

 高校においては、第6次定数改善以降、前政権による「小さな政府」構想に端を発する行政改革推進法の施行により、久しく定数改善が実施されておりません。少子化により生徒数が減少している一方、生徒や保護者の教育的ニーズは著しく多様化が進んでおります。このようななか、「確かな学力、豊かな心、健やかな体の調和を重視する『生きる力』をはぐくむこと」を柱として、学習指導要領が改訂されました。高校では、いわゆる「歯止め規定」が削除され、学校裁量により週当たりの単位時間数を増やせることが明示されました。さらに、生徒指導・進路指導等の一層の充実や、高校全体で2.2%在籍しているとされた特別な支援を必要とする生徒への配慮等を含め、個に応じた指導の充実を図る指導方法や指導体制の工夫改善が最も重要であることが示されました。

 この方向性に異を唱えるものではありませんが、現在の教職員数では、学習指導要領を含む様々な教育施策に十分に対応することは極めて困難であると指摘せざるを得ません。

 このことは、平成18年に実施された文部科学省「教員勤務実態調査」の結果からも明らかであり、授業の準備や個別の生徒指導に費やす時間の減少は、早急に解決すべき課題です。また、長時間に及ぶ過密勤務と超過勤務が、教職員の健康に大きな被害をもたらしている実態を真摯に受け止める必要があります。学校現場には、教職員がゆとりをもって教育活動を行うことのできる環境が最も重要です。そのためには、高校においても生徒の活動拠点となる一学級の生徒数を減じて適正化を図るとともに、教職員定数の標準については早期に大幅な拡充を求めます。

 日高教は、運動方針において、連年に渡り「高校30人学級」の実現を強く求めてきましたが、未だ実現には至っておりません。一方で、各自治体では、小学校を中心に40人を下回る学級編制や習熟度別によるクラス編制を進めるなど、弾力的な運用が図られています。

 今後、学級編制及び教職員定数の改善に向けた議論が進んでいくものと期待されますが、子どもと向き合う時間の確保を図るため、多忙を極める学校現場の実情を十分に認識され、学級編制及び定数改善と併せて職務の精選についてご議論いただきたく存じます。

○国の学級編制の標準の今後の在り方について

《1》 第6次定数改善計画の問題点について

 1.教頭の複数配置は、生徒収容数921人以上の単一学科設置校及び681人以上の複数学科設置校に改善された。しかし、教頭は、教員評価などをはじめとする新たな教育施策の導入により業務量が増大している。一方、教頭は法律上、教諭等の中に含まれているだけでなく、担当授業時数が少ないため、教諭の授業時間数増に繋がり負担増となっている。

 2.都道府県の判断により40人以下学級の編制が可能であるが、自治体の深刻な財政難が続く中、自治体独自の教員加配は困難な状況が続いている。

 3.高等学校の定数は、生徒収容定員で計算されている。しかし、小規模校では一人の教職員が複数の校務分掌を担当することが多く、負担が大きくなっている。

 4.総合学科や単位制高校では、生徒の興味・関心に基づき、多岐にわたる科目の開設が期待されている。しかし、教職員配置が十分でないため、開設科目の制約や、教員の担当時数の増加などに繋がっている。

 5.養護教諭は、生徒数801名以上の学校では複数配置に改善されたものの、職務の困難性が増しており、小規模校においても複数配置が求められている。

 6.学校司書に関する定数規定が定められていないため、教諭が司書教諭との兼任となっている場合があり、図書館教育の充実に十分対応できていない。

 7.特別支援学校では、特別支援教育への転換により、小中学校教員や保護者への支援を行う地域におけるセンター的役割を担わなければならない。さらに、障がいの重度・重複化、多様化に対して、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、医療的ケアの実施に伴う学校看護師の配置などの要望も強く、時代の変化に対応できていない。

○計画的な教職員定数の改善を行う場合の具体的要望事項について

《1》 高等学校及び特別支援学校教職員定数の拡充について

 ※平成21年度における日高教の運動方針として、教職員定数の拡充については、以下のような要望項目を決定し、取り組みを進めています。ご検討いただきたく要望いたします。

【平成21年度 日高教運動方針における教職員定数の拡充に関する要望項目】     

(一)実効ある学校週5日制実現のための教職員定数の拡充を図られたい。        

(二)教職員定数を抜本的に改善されたい。                                   

 1.1学級あたりの標準生徒数を全日制課程30人、定時制課程20人とされたい。    

 2.教頭及び「新たな職」については、従来の教職員定数と別枠で配置されたい。   

 3.校務分掌の過密化を解消するため、非常勤講師・再任用短時間勤務職員を教職員定数外とされたい。                                                       

 4.「その他の職員」として積算されている現業職員の定数化を図るとともに、職務内容を明確にし、その完全配置を図られたい。                                 

(三)次の事項を早急に実現されたい。                                       

 1.養護教諭の算定標準をさらに改善し、小規模校や分校及び定時制・通信制課程に完全配置を図るとともに、実態に応じて複数配置されたい。                   

 2.現行の「実習助手」制度の抜本的な改善を図られたい。当面、現行法における実習教員数について、次の点に留意し改正されたい。                             

  (1)実習教員を全校に配置すること。                                         

  (2)商業または家庭に関する学科を置く課程に対する「実習助手」の加算定数は、全日制定時制とも生徒の収容定員が181人以上の課程に対してそれぞれ1名とすること。                                                                   

  (3)標準法第11条第1号・第2号・第3号、政令第3条第1項・第2項の算定標準を実情に見合うよう改善すること。                                               

 3.学校事務職員については全校配置とし、最低標準を2名とされたい。さらに、 農・水・工・総合学科については加配されたい。                               

 4.専門教育の充実を図るため、専門教育に関わる学科の教職員等の定数増を図られたい。                                                                   

 5.重度・重複障がい児童生徒の実情に見合うよう、介護職員・運転手・学校看護師・学校栄養職員・理学療法士・言語聴覚士などを配置されたい。               

 6.寄宿舎指導員の最低保障人数を15人に引き上げられたい。                   

 7.学校司書を教育職として位置づけるために専任司書教諭制度を創設し、その全校配置を図られたい。                                                       

 8.食育を推進するため、栄養教諭の配置拡大を図られたい。                   

 9.産休、育休、傷休、自主研修、介護休暇などに伴う代替教職員の完全配置を図られたい。                                                                 

 10.妊娠に伴う負担軽減措置のため、妊娠判明時よりの代替教職員の配置を図られたい。                                                                     

 11.育児短時間勤務制度の充実と代替教職員の確保を図られたい。               

《2》 学校現場の実態に即した具体的要求事項について

  1.定数改善の前提条件として、児童生徒と向き合う時間を創出するため、教員の職務の精選を進める必要がある。現在、文部科学省が職務の精選について調査研究を行っているが、その結果を基に、早急に実効ある施策を実施されたい。その上で、教職員定数の改善を実施されたい。

  2.教職員定数の改善により、組織力のアップに繋がり、様々な教育課題や保護者の多様なニーズに対して適切に対応しやすくなる。また、教職員のスキルアップのための自主的な研修や10年経験者研修等を積極的に受講することが可能となり、教員の質の向上に繋がる。さらに、部活動や課外授業において、児童生徒一人ひとりに対する、より密度の高いきめ細かな指導が可能となる。

  3.標準定数法を改正し、国の財政負担による1クラスの定数を30人とすることにより、学校の内外における児童生徒の学習や生活の実態把握に適切に対応することができるようになる。これにより、学力向上及び教育相談などの成果が大いに期待され、事件や事故など不測の事態にも迅速に対応することできる。

  4.学級編制では、30人を基本とし、総合学科及び専門高校、中高一貫教育校など各学校の特色を活かすため、弾力的に運用できるシステムが求められる。

   5.現在、特別支援学校では、児童生徒の障がいの重度・重複化、多様化が進んでおり、教職員の負担は極めて大きくなっている。児童生徒の十分な安全確保とともに、適切な支援が可能となるよう定数上の配慮が必要である。

  6.定時制・通信制における生徒の多様化は顕著であり、様々な課題を持っている。これらの生徒にとって、学校は最後のセーフティネットとなっており、全日制の生徒以上にきめ細かな指導を行う必要がある。そのためには、定時制の学級編制を20人とし、通信制においても教員の配置基準を改善することが求められる。

  7.「新たな職」の定数については、下記のとおりとされたい。

  (1)教諭とは別枠とされたい。

  (2)職務内容が過重負担にならないよう留意されたい。

  (3)設置により管理強化に繋がらないよう努められたい。

  (4)職務、職責に見合った適正な処遇改善が図られるよう検討されたい。

  (5)学校規模を基準として設置する場合、人事異動の硬直化に繋がらないよう、ガイドラインを示されたい。

  8.精神性疾患で休職する教職員が16年連続で増加しており、その数は現在5,400人に上り、民間企業と比べるとおよそ2.5倍となっている。その一因と考えられる多忙化の解消は喫緊の課題である。定数改善により多忙化を解消することで、教員間のネットワークやコミュニケーション、教授法等の情報交換が活発となり、その結果、学校の活性化や教員の質の向上に資することができる。

  9.文部科学省の「教員の勤務実態調査」によれば、超過勤務の実態やほとんど取得できない休憩時間など、勤務の劣悪さが際立っている。部活動指導の負担軽減も含め、それらを解決するための定数改善は必要である。

  10.「日本の教育を考える10人委員会」が2007年に実施した保護者向けアンケートによれば、「保護者が思う適正な一クラスの児童生徒数」は、高校の場合、48.5%の保護者が30人学級を望んでおり、30人学級以下を合計すると、実に78.0%に上り30人以下学級のニーズが非常に高いことも検討の視野に入れるべきである。

  11.他の先進国との比較でも、日本における教員一人当たりの生徒数が多いことは明らかとなっており、国家戦略の観点からも30人学級の実現は必要であると考える。

  12.教育は国の責務であることからも、義務教育費国庫負担制度は、堅持されるべきである。しかし、現在は国の負担割合が3分の1に止まっていることから、各自治体の負担が非常に大きく、地域によって教育格差が生じる懸念がある。義務教育費は、国による全額負担が相当と考えるが、当面、国の負担を3分の1から2分の1へ復元すべきである。 

  13.定数改善のための財源確保を理由に教員給与を削減することは、教員の志気の低下を招くとともに、人材確保法の趣旨に反するものであり、認めがたい。

○その他

 高校への進学率は平成21年度実績で98%となっている。加えて、高校授業料が実質無償化されることから、高校全入時代は、ほぼ現実のものとなった。また、高校教育に対する国民からのニーズや期待は大きく、国として適切な対応を図らなければならない。高校教育の充実によって子ども達の未来を切り拓くためにも、近年行われてきた義務教育諸学校のみの定数改善ではなく、高校における定数改善も確実に行っていかなければならない。

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