児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成23年度)(第2回) 議事要旨

1.日時

平成23年9月29日(木曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省 旧庁舎2階第2会議室

3.議題

  1. 自殺予防教育の取組に関する事例紹介
  2. 討議
  3. その他

4.出席者

委員

新井委員、市川委員、川井委員、菊池委員、窪田委員、阪中委員、高橋委員、坪井委員、村瀬委員

文部科学省

白間児童生徒課長、鈴木生徒指導調査官 他

5.議事要旨

開会

議事

 (1)自殺予防教育の取組に関する委員からの事例紹介及び討議が行われた。

 

(1)事例紹介及び討議

【委員】第2回の調査研究協力者会議を開催したい。本日は、我が国における自殺予防教育の取組について、委員から話題提供をいただき、その後、自由討議に入りたい。 

【委員】それでは、話題提供としてお話させていただく。本市では数年前に子どもの自殺があり、自殺予防教育について喫緊の課題と捉えてきた。心のサポート体制ということで総合的な子どもたちの自殺予防に取り組んでおり、その根幹として、子どもたちに直接、自殺予防について話をする段階にこれから入るところである。具体的には、研究指定校においてモデル的に、いのちを支え合う授業として、11月初めから子どもたちへの授業を行うところである。

 「いのちの支え合い」を学ぶ授業の目的や内容についてご紹介する。この授業は、いじめや暴力行為、自傷行為といった自他の生命を軽視する行動や、全国的に続いている小・中学生の自殺といった痛ましい事故の発生を防ぐために、悩みやストレスへの対処法、友人との好ましい関係づくりや助け合いのスキルなどを学ぶことをねらいとするもの、として定義づけしている。授業内容は、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」マニュアルに基づいている。ひどく落ち込んだときには誰かに相談すること、友だちから「死にたい」と打ち明けられたら必ず信頼できる大人につなぐこと、自殺予防のための相談機関や関係機関についての知識を子どもたちに与えること、などが中心となっている。

 本市では、小学校5年生から中学校3年生までの5年間、各学年1時間ずつのカリキュラムを考えている。小学校5年生は「悩みと上手につき合おう」、6年生は「友だちのよい相談相手になろう」というタイトルになっている。

 中学校1年生は、ストレスの発散の仕方、ストレスに関する知識や、ストレスを感じたときにどう対応すればよいかという内容である。中学校2年生は、「心だって風邪をひく」というタイトルで、悩みというものは必ず生まれるものであり、悩みを抱えたときにどう対応したらいいのかということ、最終的には、TALKの原則を子どもたちと一緒にロールプレーイングを行ってそのスキルを学習すること、悩みを抱えたときにはそれを相談できる機関があって、どうしても耐えられなくなったら相談機関に相談するという手順を理解させること、などの内容が中心となる。中学校3年生は、世の中では、自らの立てた目標が必ずしも思い通りにならないこともあるため、自分の立ち位置を理解し、修正を加えながら、常に前向きにそれぞれの場で一生懸命頑張っていくという考え方が大切であるという内容を、進路の題材等を利用して、子どもと話し合いながら深めていくことにしている。

 「いのちの支え合い」を学ぶ授業を、学校の教育課程のどこに位置づけるか、教育委員会内ではかなり議論となった。まず、以前は240日以上の日数で1,050時間の授業を行っていたが、現在は198日の授業日数で1,015時間の授業を行わなければならず、また、学習指導要領に示された指導すべき内容から逸脱しないよう配慮しなければならない。さらに、社会のニーズに応じた様々な種類の教育が、全て学校に求められているという厳しい現状にある。様々な議論があった結果、特別活動の中に位置づけるという方向で話を進めており、保健体育や道徳といった特別活動以外の授業で扱う内容と互いにうまく機能させて深めていけるよう考えているところである。

 また、本市では、人間関係プログラムと呼ばれる、子どもたちのコミュニケーション能力を高める学習内容が教育課程に位置づけられている。イメージを持っていただくため、中学校1年生の授業の年間計画の概略をご紹介すると、4月当初、クラス内に今まで出会ったことのない友達が交じっている状況の中で、6時間、構成的グループエンカウンター、ソーシャルスキルトレーニングなどの学習をしている。そこで学んだ内容をもとに1年間、体育や特活の授業等の中で活用することを含めてプログラムと考えている。この人間関係プログラムについては、子どもたちの自己肯定感やスキルに関する効果を継続的に測定しているほか、抑うつ傾向を調べる内容を含む「心と生活のアンケート」も全生徒に実施している。このアンケートは4月に実施し、厳しいデータが出た者がいれば必ず教員の教育相談を行い、その上でもリスクの高い者には、教育相談室に常駐している相談員を活用したり、スクールカウンセラーを活用したりして対応している。

 また、「いのちの支え合い」を学ぶ授業のモデル校となっているため、4月と6月に教職員対象の校内研修を行っている。本市は6月をいじめ防止の強化月間としており、いじめ防止にかかわる道徳や話し合い活動を行っている。7月の保護者会では、全生徒に対する二者面談、家庭訪問を行っている。8月はサマースクールがあるほか、教職員に対する自殺予防に関する研修を複数回行い、「いのちの支え合い」の授業の内容等について、教員が生徒役になったりしながらロールプレーイングをして授業研修を行っている。9月には、再度、グループエンカウンターやソーシャルスキルトレーニング等を実施している。10月には、学校保健委員会の中で、ストレスマネージングなど、生命尊重に関する内容を取り扱っている。また、同月には、先ほども申し上げた自己肯定感や抑うつ等に関する調査を再度行い、それに基づく子どもたちへの面談も行っている。それから、保護者向けの講演会として、主に親と子のコミュニケーションを題材として実施する予定である。11月には全学年の3者面談を行っているほか、「いのちの支え合い」を学ぶ授業について公開授業を予定している。12月は人権講演会を行い、1月に再度、グループエンカウンターとソーシャルスキルトレーニングを行っている。2月は、1年生が3日間、地域で職場体験を行う。

 その他の取組として、あいさつ運動に力を入れるほか、生命尊重教育に合わせて、それにかかわるテーマの読み聞かせも行っている。

 職員に関係する内容としては、毎週1度の生徒指導委員会で、養護教諭、スクールカウンセラー、相談員等も含めて情報の共有を図っている。教育相談部会も月1回開いている。また、小学校との連携の観点では、市に配置された小学校専任の相談員も配置されており、中学校に上がってくる3校の小学校を順に回って、相談活動を行っている。また、生徒指導のモデル推進校として小学校と中学校の兼務発令を受けた教員を1人多く配置し、小・中の連携を深めているところである。さらに、常駐しているさわやか相談室や適応指導教育、スクールカウンセラー、市独自で配置している学校学級支援員、市の教育相談室や心の健康センターとも連携をしている。

 最後に、自殺予防教育という観点ではないが、子どもたちの自殺予防という観点から抱えている課題は、厳しい状況下に置かれていて、家庭に帰してそのまま放置するのは危険ではないかと思われる子どもの安全を確保するような施設や関連施設が絶対的に不足していることである。その子どもから目を離さない必要がある時に、閉鎖病棟のある施設が満杯であるといった課題がある。市を上げて、子どもの自殺をなくしていけるよう、そのような面についても取り組んでいる最中である。  

【委員】非常に具体的で、系統的に取り組まれている例をご紹介いただいた。ご意見、ご質問などがあればお願いしたい。

【委員】この授業を始めるにあたり、保護者に対する研修や講演会をするなど、条件整備の取組はされていたのか。

【委員】市として、子どもの自殺予防に力を入れる中で、子どもの自殺が報道された際には、保護者として子どもにはこうかかわってほしい、という資料を繰り返し配布している。三者面談の際にも同じ資料をもとに話をするなどの対応を取ってきた素地はある。

 また、11月のモデル授業の実施に先だって、保護者が集まる授業公開日を設定しているので、その案内を出すときに前もって触れる予定である。

【委員】学校で、人間関係作りプログラムを体系的に行うプロジェクトと、自殺予防についてを並行して進めてきた経験からは、生徒を対象とした自殺予防教育を行う素地として、自己肯定、他者理解、他者とのコミュニケーションの部分を育てる必要を感じてきた。市での取組では、人間関係プログラムの授業を教育課程上どう位置づけているのか、また、人間関係プログラムの推進は担任の先生方が教えていると思うが、「いのちの支え合い」教育に関する研修やプログラム作成は誰が中心となって進めているのか。

【委員】人間関係プログラムは、授業時間を確保するため、教育課程の特例措置を受けて、総合的な学習の時間を少なくして浮いた時間を使用している。ただし、この時間だけで終わりというわけではなく、ここで学んだスキルを、どのような体験・機会で活用すればよいか、体験、それに基づいた改善も含めて考えていかなければならない。

  いのちの支え合い教育は、市教育委員会の指導主事が中心となって行っている。本市では、全教職員がカウンセリングの初級研修を受けており、ロールプレーイングやスキルトレーニングについて全員が体験済みである。そういう素地があるため、違和感なく入れることもあると思う。

【委員】プログラムの開発や研修においては、スクールカウンセラーなどは絡んでいないのか。

【委員】「いのちを支え合う」授業には、ゲストティーチャーとしてスクールカウンセラーと相談室の相談員が入っている。当然、スクールカウンセラーや相談員の力なくしてはできないので、かなり重要な部分を占めて研修に入っている。

【委員】いのちの支え合いの授業を、担任の先生が教えるということだが、教員間や学校間で温度差があったりするのか。

【委員】「知っておきたい子どもの自殺予防」の冊子を取り上げた研修を、小学校・中学校の生徒指導主任や教育相談主任、全中学校に配置しているさわやか相談員、スクールカウンセラーに対して毎年行ってきており、既に3年が経っているので、教員の温度差といったものは減ってきた。ただ、保護者には、子どもを直接対象とする教育を行うことに対して、かなりの抵抗とためらいがあるように思う。

【委員】人間関係プログラムを実施してきて、そこからさらに自殺予防教育を実施しようと踏み出すに当たってのモチベーションとなったものがあれば教えてもらいたい。もう1点は、いのちの支え合い教育のプログラムは、各学年で1時間ずつということで、非常に短時間である。そこで学んだことを定着させていくためには、普段の教育活動といかに連携させるかが実際の課題だと思うが、特活や学校行事などの中で、「いのちの支え合い」という観点をどのようにつなげていこうとしているか教えていただきたい。

【委員】教育現場において子どもの命がなくなるということは、本当に大変なことであるという強い認識が、自殺予防教育に踏み出した要因と考えている。2点目の質問に対しては、まさに今後の課題として考えている部分であり、どのように普段の教育活動の中で定着に向けた活動をすればよいのか、意見をいただく中でよいものを取り入れていきたい。

【委員】先ほど話に出たが、既に切迫した状況に置かれている子どもに対しては、自殺予防教育だけでは対応できないかもしれない。そのような子どもについて、何か具体的に取り組まれているのか。

【委員】現状は、まず家庭と連絡を取ることから始めるが、それぞれの家庭の事情によっては、子どもが一人にされてしまうケースがある。その場合、心の健康センターに相談したり、子ども向けの閉鎖病棟を備えている県の精神医療センターに連絡を取って、空いている病棟に入れてもらったりと、事が起きたらできることから必死でやっているのが現状である。

【委員】ハイリスクの子どもを見つけたときに適切な治療については、学校と心の医療センターとの間で連携して、システムを作ればよいのではないか。

【委員】命を大切に、といった視点で取り組まれてきた道徳教育と、このような自殺予防という視点の教育は、同じ流れの中に位置づけられているのか、それとも新たな教育として位置づけられているのか。

【委員】道徳の授業や体験活動によって自己肯定感を高めたりする教育を、漢方薬のようにじわじわ効く教育だとすれば、それとは別に、ワクチンのように効く教育として、信頼のできる大人につなぐ、相談機関につなぐといった具体的な対応を教える教育があるのではないか、というとらえ方で「いのちの支え合い」の授業を考えている。

【委員】自殺予防教育を学校教育の中のどの時間で行うか、という点については、以前は、道徳、特別活動、総合的な学習の時間と教科ごとに細かく分けずに、大くくりにして総合的な学習の時間で実施した例もある。また、自殺予防教育を10年ほど前からやろうとしてきたが、当初提案した際にはかなり教員からの抵抗感があり、また、一人でも抵抗感を示す方がいると、なかなか実施できないこともあった。一方、学年代表や信頼の置ける校長先生が提案してもらえると、こういった自殺予防教育を実施できる面もあるので、市が独自にリーダーシップを持って進めているのはすばらしい取組であると思った。

【委員】市の取組は、研修が重要な要素になっていると思う。研修の参加者として、管理職に参加してもらうことで、学校組織として取り組むことができる。また、市のレベルであれば、管理職から生徒指導主事、教育相談担当者、養護教諭等を一堂に集め、そこで研修をやっていくことができるので、そのような取組が重要であると思う。

 また、市の取組は、スクールカウンセラーやさわやか相談員などの人員が、他の自治体よりも充実しているように思う。同様の取組を全国的に広げていくときには、同じような人的な措置を他の学校でやれるかというのが大きい要素になると感じた。

【委員】直接子どもを相手に、自殺予防に焦点を当てて何らかの授業をしているケースはどの程度あるのか。誰がどの程度の期間やっているという実態とともに、実施に当たって合意形成するのは非常に難しかったとか、継続するのは難しかったとか、そういった情報を調査してこの委員会に上げていただけないか。

【事務局】自殺予防教育の定義がはっきりしていないため、難しいと思うが、やり方も含めて検討させていただきたい。

【委員】調査の際には、自殺を直接扱ってはいないが、ストレスの問題やコミュニケーションに関してある程度体系的に扱っているようなケースについてもあわせて調べていただくと良いと思う。

【委員】自殺予防教育は、まだ学校単位としての取組にはなっていないのではないかと思う。学校規模、あるいは学年規模での展開は非常に難しい。命の大切さといった価値的なものではなく、相談機関に関する知識や、実際の援助希求行動について教育として扱うことに、教員は抵抗感があるだろう。現職の教員ではなく退職した養護教諭等が取り組んでいる例も聞いている。

 教員の意識について昨年調査をしたところ、必要性は感じていて関心もあるが、いざやるとなると誰がどう行うか、取り扱って大丈夫かといった疑問が出てくるというのが現状だと思う。

【委員】情報提供として、3点述べたい。道徳の授業では、以前は価値を教えるような取組が多かったが、ここ数年は、構成的グループエンカウンターのようなスキルの部分を教える例も多くなってきている。これは、人権教育の側面から取り上げられていることも多いと思う。2点目は、先ほど話に出た退職教員を活用した取組は、元々医療機関が始めた取組である。臨床心理士と連携した取組であり、知見が得られると思う。3点目は、精神病の偏見をなくすために、精神疾患に関する教育を行っている中で、自殺予防に触れている例もあるように聞いている。また、TALKの原則を子どもに対して直接教える点については、少し疑問がある。基本的には、大人を対象とした内容であるように思う。

【委員】「いのちの支え合い」の授業については、担任の先生が担当するということだが、先生の経験や知識によって、指導がかなり違ってきてしまう可能性がある。初期段階ではある程度メンタルヘルスに詳しい先生が行うという形がよいのか、教員全員に知ってもらう意味で、やはり担任が行う形がよいのか、このあたりについてどう考えるか。

【委員】子どもを日々見ているのは担任の先生なので、日々の教育活動の中に生かされたり、日常に何かするという意味では、基本的に担任の先生がメインで取り組み、専門的な部分についてスクールカウンセラーや相談員がサポートするという形で行うのが良いと思う。

【委員】担任が実施するメリットが沢山あると思うので、それを目指しつつ、まずは臨床心理士やスクールカウンセラー、精神科医などの専門家が取り組んでいるのを見てもらいながら、徐々に教えられる教員を増やして行く方法が良いのではないか。

【委員】すべての児童生徒を対象にした自殺予防教育という点からは、やはり担任が関わるべきであり、その中で、担任ができるところと、専門的な知識を持った方が入るべきところを仕分けしていくことも大事かと思う。専門家ばかりで活動すると、その方々に任せておけばいいということになりかねない。研修を受けて、ある程度専門的な知識を身につけた人が担当するということであれば、まず核となる人を研修で養成し、それを毎年繰り返していくことで、そうした教員が市内で異動し、徐々に広がっていくと思う。

【委員】いのちの支え合いの授業の中では、昨年、アメリカの自殺予防教育の視察で報告されたようなテキスト、キットなどを使用しているのか。

【委員】アメリカのことはよく分からないが、授業を実施するに当たり、指導案は作成している。授業の進め方や発問の仕方をまとめた計画書を煮詰めている段階である。

【委員】ある程度の妥当性を評価された標準的な教材というのをどこかで用意しないと、一方的に価値観を押しつけるような教育が広がるおそれもある。この検討会で、なにか参考にできる教材を用意することも一つの役割かもしれない。

【委員】教員の意識調査では、教材がないことが支障となっているとの意見も多かった。

【委員】ここまで、非常に知見に富む発表及び質疑応答をいただき、感謝したい。また、本年の9月半に北京で開催された国際自殺予防学会に参加し、学校での自殺予防教育について情報を収集してきた。そこで話題に上ったのは、一番大切なのは地域での合意形成であるということ、また、十分に関係者の間で話し合うことが重要であることから、どのプログラムが良いとか悪いとか、一概には言えないということであった。また、今後の克服すべき課題として4点挙げられたのは、1)学校全体の関係者からの支持・合意を得ること、2)他の授業の時間との関係性を考えること、3)自殺予防教育のプログラムを実施した後の有害事象が生じないかを確認すべきで有ること、4)自殺予防教育のプログラムの中で生徒が身につけたスキルが長期間にわたって効果を維持できること、といったことであったので、この場で紹介させていただきたい。

【委員】次回だが、自己肯定感の育成と自殺予防教育をどのように統合させるのかということについて、委員から話題提供をいただきたい。また、今年度、この検討会でどこまで議論を進めるべきなのかという点を詰めていきたい。

それでは、本日はこれで閉会としたい。ありがとうございました。

閉会

 

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初等中等教育局児童生徒課生徒指導室