児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(平成21年度)(第1回) 議事要旨

1.日時

平成21年7月30日(木曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 児童生徒の自殺が起こった際の事後対応に当たっての留意点について
  2. 自由討議

4.出席者

委員

高橋主査、新井委員、川井委員、河野委員、菊地委員、窪田委員、阪中委員、中馬委員、坪井委員

文部科学省

金森初等中等教育局長、徳久大臣官房審議官、磯谷児童生徒課長、岸田生徒指導室長、粟野生徒指導調査官 他

5.議事要旨

開会

議事

(1)主査に高橋委員(防衛医科大学校教授)、副主査に新井委員(兵庫教育大学教授)が選任された。

(2)議事の取扱いについて了承された。

(3)各委員から挨拶があった。

(4)事務局から資料について説明があり、その後討議が行われた。

【委員】これまでの「児童生徒の自殺予防に関する調査研究」の経緯については、2006年8月に「児童生徒の自殺予防に向けた取組に関する検討会」が立ち上がり、2007年3月に第一次報告を発表した。特にこの中で大事なのが、4章の実施すべき対策であり、中長期的な課題と、緊急の課題とに分けられている。緊急の課題には4つあり、一番目が、「実態把握のための体制の整備」である。当時、いじめによる自殺はゼロという統計が何年も続いており、実態を反映していないとして一番目の課題に挙げた。二番目は、不幸にして自殺が起きてしまった後に残された子どもや遺族に対するケア、ポストベンションの重要性を取り上げた。三番目は、子どもの自殺予防に関する、教師を対象とした教育である。子どもの自殺を見ていると、家族全体の病理を子どもが代表して表しているということが多く、先生が子どもの自殺の危険に気付いて適切な対応をしたことで、子どもも親も助かるということがある。四番目は、Webサイトに自殺予防の基礎知識をQ&A形式にして掲載することである。昨年の4月には「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」が立ち上がり、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」という小冊子が出来上がった。欧米では、生徒・教師・親を対象とした自殺予防教育が実施されているが、日本では子どもを直接対象とすることには抵抗が強いため、まずは教師を対象とした。

【事務局】平成19年度の児童生徒の自殺の状況について説明する。昭和49年以来の児童生徒の自殺者数の推移を見ると、いわゆるいじめ自殺という言葉が誕生した昭和54年度や、アイドル歌手の自殺やいじめ自殺報道があった昭和61年度、あるいは、わが国の自殺者数が3万人を突破した平成10年度等に自殺者数が突出している。自殺の状況に関する調査については、実態を反映していないのではという指摘を受けて、平成18年度から、公立の小・中・高等学校に加えて、国立・私立の学校も調査対象に加えている。自殺した児童生徒が置かれていた状況については、いじめの問題や進路・学業不振、教職員との関係の悩みなど、状況別の人数・構成比が載っているが、従来、「その他」として計上されることが多かったため、平成19年度調査から、回答区分を見直して、「不明」という項目を加えた。その結果として、平成19年度調査では、「不明」という回答がもっとも多くなり、構成比で全体の55.3%を占めている。また、自殺した児童生徒が置かれていた状況として、いじめがあった生徒は6人、構成比3.8%である。全体で平成19年度に自殺した児童生徒数は、小学校で3人、中学校で34人、高等学校で122人、となっている。この数字について警察庁の統計数値との間に開きがあるということが指摘され、いずれも警察庁の統計数字のほうが人数が多くなっている。警察庁の調査は、警察の捜査権限に基づく、検死・事情聴取に基づいて集計したものであるのに対して、文科省の調査は学校が把握し、教育委員会から報告があったものを集計したものであるため両者を単純に比較することは出来ないが、指摘を受けて平成18年度調査から、警察庁から各都道府県別に集計した数値の提供を受けて、各都道府県教育委員会が集計した数値との照合を行っている。その結果、捜査権限がない為に学校として自殺であるという判断が出来ない場合、それから、遺族の心情等に配慮して、自殺として計上していない場合もあるという報告があった。しかし、限られた情報であっても、学校及び教育委員会が、児童生徒の亡くなった状況を調査して、その結果を自殺予防にむけた取組の参考とすることは非常に重要で、引き続き自殺の状況の把握に努めていく必要がある。

 今年度の会議の方向性について説明する。平成18年度の報告書で、ただちに実施すべき対策が挙げられており、このうち、教師を対象とした取組に関しては、自殺予防のマニュアルを作成・配布し、現在、各教育委員会に通知を発出するなどして、有効な活用を求めている。その他、残された課題として、自殺が起きてしまった際の、遺されたほかの子どもたちや、家族に対するケア、子どもの自殺の実態把握のための体制の整備などがある。平成19年6月26日付けの通知「児童生徒の自殺防止にむけた取り組みの充実について」では、必要に応じて第三者による実態調査等を実施し、児童生徒の自殺の実態把握に努めるということを挙げている。こうした事情から、今年度の調査研究の内容として、子どもの自殺が起こった場合の、学校における事後対応についてということを挙げている。児童生徒の自殺が起こった場合のケアといった危機対応、あるいは、自殺の背景調査、あるいは、学校および教育委員会とCRTなど第三者機関との連携について検討いただきたい。

 検討内容の例としては、まず一番目に、自殺が起こった場合の危機対応と背景調査についての基本的な考え方、それから自殺が起こったときの対応方針、それを行うための体制といった危機管理計画などの問題がある。二番目に、危機対応についてということで、大きくは関係者に対する心理面でのケア、それから、学校の休校・再開、遺族・保護者・報道関係者への対応などの問題がある。さらに、そういった一連の対応を行う場合の、校長を中心とした管理職や学級担任、養護教諭などそれぞれの役割がどうあるべきかという問題が想定される。また、CRTが派遣される場合の、連携のあり方も大きな問題である。三番目に、事後対応と自殺の背景調査について、学校による調査に加え、第三者による調査が行われる場合について検討する必要がある。学校だけでは困難な自殺の背景の調査を専門家が行って、学校を支援していくといった側面、あるいは、調査自体の客観性を確保するといった側面等がある。事務局としては学校や教育委員会による調査は重要であると考えおり、これを否定する意図はない。本会議は背景調査だけではなく、事後対応全般について検討いただきたい。

【委員】検討すべき大きな柱としては2つある。1つは、ポストベンションである。今まで想定していなかった事態が起こることで、学校はどう対応していいのか本当に分からない状態になる。実際にシミュレーションをして危機に備えることの重要性を感じている。実態把握については、ポストベンションの中での危機対策と、実態把握とは離れているものか、重なっているものなのか、教えて欲しい。

【委員】ポストベンションを考えるときに、あまり「背景」を入れた複雑な事案で作るとマニュアルが複雑になる。そういうものがない想定でポストベンションの基本線は作る必要がある。その上で、学校の危機対応の中で背景調査をどう位置づけていくのか考えなくてはいけない。調査は、重大事象が発生したときの解決の手法・手段の1つにすぎない。いきなり第三者調査の話が入ってくると、議論がばらつくのではないかと危惧している。

【委員】ポストベンションはかなり知識も経験も豊富でないと難しい介入法である。学校で問題が起きると、すぐにスクールカウンセラーが派遣されたといった記事が出るが、経験が何もなくて派遣されて、かえってスクールカウンセラー本人も混乱してしまうといった話をよく聞く。

【委員】自殺に限らず、学校を取り巻く事件・事故後の緊急支援というのは、スクールカウンセラーの日常業務ではないが、今のスクールカウンセラーの活動としては標準装備として、身に着けておくべきスキルとして位置付けが高まってきている。かなり研修等でも力を入れてきている。都道府県単位で教育行政とスクールカウンセラーとの関係性や連携の仕方は異なるが、各臨床心理士会のほうでも事件・事故後のポストベンションについてのトレーニングには力が入っていている。

【委員】緊急事態に対して、専門家は十分にトレーニングをしておくこと、そして学校と専門家との間の連携を十分にとっておくということが必要である。

【委員】実態調査との関連で、実際私自身が直接関わった自殺後のポストベンションの事案は、どれも背景がよくわからない、絵にかいたようないじめがあったとか家庭の問題があったということではなく、一般の方が期待するような勧善懲悪的なものがあってということではないという事案をいくつか経験した。実際に自殺後の周囲に起こる反応としては、やりきれなさを誰かを悪者にすることで乗り切りたいという心理がすごく働いて、原因究明へのニーズが高まるが、そこには、2次被害を生む危険もある。直後にやるべきことは、遺された人々の安定を図ることであり、原因究明と再発防止への取り組みは非常に慎重に時間をかけて丁寧にやっていくべきことである。

【委員】必ずしも原因が1つに特定できるものではないというようなことに関しても明らかにするということがいわゆる第三者機関の役割の一つにもなる。

【委員】事後の親のケアと背景調査の問題について、子どもを亡くした親にとって、なぜ起きたのかという疑問が全くの不問にふされるということはものすごく辛い。事実が起きたときに、何を誰から調査して、どう整理して、どう伝えれば相手が理解できるかということは、先生たちはプロではない。いじめや事故が起きたときの学校の調査報告はぜんぜん信頼されず、親のほうは不信感に陥って、そして裁判になるという経緯を見ていると、事実が起きたときに、どこまで誠意をもって事実調査ができるかが重要である。専門家が協力をしないと、学校の先生だけの調査ではすごく限界があると思う。原因追及よりも、どれだけ学校が誠意をもって対応したかということが、結局親に対して慰めになる。親と学校の間の信頼関係を回復するにはどうしたらいいか考える必要がある。

 学校の子どもたちのデータについて説明があったが、例えば未成年の子どもたちで、高校を中退した子どもたちのデータというのはここでは問題にならないのか。必ずしも高校生ではない子どもの自殺というのがけっこうある。また、子どもたちが自殺未遂をした事案について、どれだけ調査分析がなされているか。自殺未遂をした子どもたちは、子どもたちが回復していく過程で本人が語ってくれるということが非常に重要な要素となっていて、何が子どもたちを自殺に追いやったのかといった点について調査が可能になる。

【事務局】高校を中退してしまうと、学校としても把握する手段がなくて、これは統計にはのっていない。卒業した後の生徒についても、何とか把握する手段がないのかということは、諸方面から要望もある。自殺未遂に関しては現在の統計には載っていない。今後どうするかということを含めて検討したい。

【委員】自分を傷つけて医療が必要だったというものを未遂と定義するならばある程度データを集めることができるが、医療にのらない事案だとどこまでを未遂とするのか、データを集めるに際しても難しいのではないか。学校に行っていない子どもたちの自殺状況はどこかがきちんと調査しなければいけない。アメリカでは、子どもの反社会的行動は実は「自殺行動の代理」であるという考え方がある。暴走族など仲間と加わって問題行動を出しているときはいいが、集団自体が崩れたり、集団から追放されたときに、突然もともとの抑うつ感とか自殺行動とかが噴出して自分を傷つける行動に出るということが言われている。日本だと、医療少年院に収容されている子どもの中にこれまでに自傷行為の多い子どもが高率にいると言われている。

【委員】子どもの自殺のサインは、1番身近な子どもたちの中でキャッチすることがある。関わっている周りの大人が、親も含め、どう自殺のサインをキャッチしてつなげていくかが大事である。ポストベンションに関しても、何人もの子どもが影響を受けて、不安定になることがある。とにかく直接的に子どもに関わる方法について考える必要がある。

【委員】児童生徒の自殺の状況の数字は教育委員会から出てきている数字ということだが、これは何かしらの調査をやった上での数字なのか。

【事務局】児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査は、何かマニュアルのようなものがあって、すべての学校が同一の手法によって、均等にデータをとってそれを足し合わせていくというものではない。例えば新聞報道で出たものを遺族から聞き取ったり、あるいは、遺族の意向によって、「病死」扱いにしてほしいという要望が学校側になされたりして、自殺に計上しない場合はある。そういった諸々の数を足し合わせた数がこの数字である。

【委員】「背景調査」というものをこの会議において考えるにあたって、現在の児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査の中身や課題をつまびやらかにすることで、今後どうすべきということが見えてくるのではないか。

【事務局】平成19年6月に発出した「児童生徒の自殺防止に向けた取組の充実について(通知)」では、各教育委員会・学校に対して、自殺に関する調査方法を改めるということに加え、調査方法の変更の趣旨を十分踏まえつつ、各教育委員会や学校においては、「必要に応じて第三者による実態調査等を実施し、児童生徒の自殺の実態把握に努めること」と周知している。これに関しての具体的な対策については、今年度検討していきたい。

【委員】児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査は、各学校の生徒指導担当や管理職が、自分の学校の中で不登校や自殺の件数を教育委員会にあげて、そして教育委員会から文科省に数字があがっていく。学校のほうで自殺らしいということを把握していても、保護者が「これは事故死である」とした場合には、「事故死」としてあげざるをえない。実態の反映についても、「置かれている状況」ということで、「いじめ」を選ぶには、学校の中でいじめがあったということをきちんと把握しなければならず、難しい面がある。

【委員】調査で、いじめが何件とか、いじめの自殺が何件とか、個別に細かく専門家が入って調査チームで検討してやったという事案はほんのわずかで、ほとんどは項目調査で分類しているにすぎない。個別の事案で、訴訟も含めて大きな問題になりそうな場合にきちんと調べるというやり方は、全ての事案でやったら膨大な経費がかかるが、何例かはきちんとやらざるを得ない。それは必要な場合は検討するということであって、その問題と統計調査のやり方は別次元の話ではないか。

【委員】自殺については、大人も含めた自殺全般の話と、児童生徒の問題の特殊性については注意して議論しなければならない。自殺全般については、学校だけでなく、職場なども含めた、ポストベンションというものが本来どんなものかということを知っておかないと、議論が狭くなる。自殺の動機を分析・調査する手法のひとつとしては、外国では心理学的剖検というような手法もある。児童生徒の自殺に関しては、群発自殺の問題も踏まえておく必要がある。学校危機管理、あるいは学校安全といった切り口で考えると、自殺に限らず自殺未遂やいじめ、インフルエンザなど様々な問題がある。全体を捉えた上で、突発的な重大事象、殺人事件、自殺等が起こった時の後の対応というのを考える必要がある。

 いじめの問題で、自殺や殺傷事件等が起こった場合と、そこまでいかないけどかなり深刻ないじめがあるという場合、議論を分ける必要がある。大事なのは、深刻ないじめがあったとき、どうやって解決しているのか、いじめの事実をどうやって確認されているのかということは踏まえる必要がある。今までの議論を基本にして初めて、いじめが背景であろう自殺や殺傷が起こった際についての議論ができる。

 自殺が起こったときに、どうしたら良い方向に解決出来るのか。これは単なるポストベンションの考え方だけではできない。すべての場合に調査が必要だとは思わないが、解決のために調査が必要な場合に、どうしたらいいのか。その調査の中の1つとして、第三者を加えるという話が出てくる。医療事故や航空機・鉄道の事故に関する第三者調査が少しは参考になるのではないか。

 その他、児童生徒の精神状態、発達障害の状況などは知っておかなければいけない。自殺を特殊扱いするのではなく、親にとっての子どもの喪失の問題として他の事例と共通に考える必要がある。PTSDを含めたトラウマのことも知っておく必要がある。

 調査には国民の知る権利や報道の自由、子どもの人権や少年法のこと等いろんなことがからむので、多様な角度から整理が必要である。犯罪被害者支援と言う考え方は、遺族支援を考える上で参考になる視点だろう。

【委員】すべての観点を検討するのは困難であるので、基本的なポストベンションの考え方や心理学的剖検とか、群発自殺とか、今年度のこの目標を達成する上で必要なものを絞って検討していく必要がある。それと同時にワーキンググループを並行して行って、素案を少しずつ作っていくのが良いのではないか。ドラフトができた段階でこの全体の会議に出して、細かい点について議論をするといった形で進めるといいのではないか。

閉会

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初等中等教育局児童生徒課生徒指導室

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