インターネット・携帯電話の普及をはじめ、経済・社会・生活のあらゆる場面で情報化が進展し、その恩恵を享受していること、一方で、有害情報や「ネット上のいじめ」など情報化の影の部分への対応が喫緊に求められており、これらの中で、すべての国民が情報や情報手段を適切に活用できることが求められるようになっている。
平成8年7月の中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」は、変化の激しい社会を担う子どもたちに必要な力は、基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、たくましく生きるための健康や体力などの「生きる力」であると提言した。
21世紀は、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代であると言われており、このような知識基盤社会化やグローバル化の状況において、「生きる力」をはぐくむことがますます重要になっている。平成20年1月の中央教育審議会答申を踏まえた今回の学習指導要領の改訂においては、生きる力という理念を継承し、生きる力を支える確かな学力、豊かな心、健やかな体の調和のとれた育成を重視している。
確かな学力の育成には、基礎的・基本的な知識・技能の習得、これらを活用して課題を解決するための思考力・判断力・表現力等をはぐくむことの双方が重要であり、これらのバランスを重視する必要がある。このため、各教科において基礎的・基本的な知識・技能の習得を重視するとともに、観察・実験やレポートの作成、論述など知識・技能の活用を図る学習活動を充実すること、さらに横断的・総合的な課題について各教科等で習得した知識・技能を相互に関連付けながら解決するといった探求的な活動の質的な充実を図ることとしている。また、これらの学習を通じて、その基盤となる言語に関する能力の育成、さらに、学習意欲を向上させ、主体的に学習に取り組む態度を養うこと等を重視している。
「教育の情報化」とは、特に指導場面に着目したときの従来からの整理とともに、昨今の教員の事務負担の軽減等の観点も含め、
・情報教育~子どもたちの情報活用能力の育成~ ・教科指導でのICT活用~各教科等の目標を達成する際に効果的に情報機器を活用すること~ ・校務の情報化~教員の事務負担の軽減と子どもと向き合う時間の確保~ |
の3つから構成され、これらを通して教育の質の向上を目指すものである。
そして、その実現において教員のICT活用指導力の向上(研修等)、学校のICT環境整備が必要であるとともに、教育の情報化を推進するための教育委員会や学校におけるサポート体制の整備が極めて重要である。
我が国の初等中等教育における情報化への対応は,昭和40 年代後半に高等学校の専門教育において,情報処理教育が行われるようになったことに端を発しているが,「情報活用能力」の育成という観点については,臨時教育審議会(昭59.9~62.8)と教育課程審議会(昭60.9~62.12),並びに情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議(昭60.1~平2.3)における検討を経て,将来の高度情報社会を生きる子どもたちに育成すべき能力という観点から,「情報活用能力」を学校教育で育成することの重要性が示されたことが発端といえる。
特に臨時教育審議会第二次答申においては,「情報及び情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な資質(情報活用能力)」を読み,書き,算盤に並ぶ基礎・基本と位置付け,今日の情報教育の基本的な考え方になっている。
教育課程審議会答申では,「社会の情報化に主体的に対応できる基礎的な資質を養う観点から,情報の理解,選択,処理,創造などに必要な能力及びコンピュータ等の情報手段を活用する能力と態度の育成が図られるよう配慮する。なお,その際,情報化のもたらす様々な影響についても配慮する」と提言された。
これらの答申を受けて,平成元年告示の学習指導要領では,中学校技術・家庭科において,選択領域として「情報基礎」が新設され,中学校・高等学校段階で,社会科,公民科,数学,理科,家庭(高等学校)など関連する各教科で情報に関する内容が取り入れられるとともに,各教科の指導において教育機器を活用することとされた。
平成2年7月には,情報教育の在り方,学習指導要領で示された情報教育の内容,情報手段の活用,コンピュータ等の条件整備の在り方,特殊教育における情報教育,教員研修の在り方などについて解説した「情報教育に関する手引」が刊行された。
平成8年10 月に「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の進展等に関する調査研究協力者会議」が設置され,情報教育について具体的な検討が始められ、平成9年10月に「体系的な情報教育の実施に向けて」(第1次報告)が提言され,情報教育の基本的な考え方と体系的な情報教育の内容について整理した。
これを踏まえ,教育課程審議会から平成10年7月に「幼稚園,小学校,中学校,高等学校,盲学校,聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改定について」が答申され,中学校技術・家庭科における「情報とコンピュータ」を必修にすることと,高等学校普通科に教科「情報」を新設し必修とすることが提言された。
教育課程審議会答申等を受け,平成10年12月に小学校及び中学校学習指導要領が改訂告示された(高等学校学習指導要領は平成11 年3月告示)。この学習指導要領では,
平成14年6月には,情報活用能力の育成の基本的考え方、各学校段階・各教科等との関わりなどの記述を充実するなど、情報活用能力の育成という視点に重点を置いて新「情報教育に関する手引」(情報教育の実践と学校の情報化)が刊行された。
平成20年1月の中央教育審議会答申において、「社会の変化への対応の観点から教科等を横断して改善すべき事項」の1つとして「情報教育」が挙げられ、「情報活用能力をはぐくむことは、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着とともに、発表、記録、要約、報告といった知識・技能を活用して行う言語活動の基盤となるもの」として重要性が指摘された。
また、情報化の影の部分も子どもたちに大きな影響を与えており、インターネット上の誹謗中傷やいじめ、個人情報の流出やプライバシーの侵害、有害情報やウイルス被害に巻き込まれるなどの問題への対応として、学校では家庭と連携しながら、情報モラルについて指導することが重要であるとされた。
こうしたことから、小中高等学校を通じて、各教科等において、コンピュータや情報通信ネットワークの活用、情報モラルに関する指導の充実を図ることや、情報活用能力の育成に係る中学校技術・家庭科(技術分野)や高等学校普通教科「情報」における内容の改善について提言された。
なお、併せて、「諸外国に比べて我が国では学校におけるICT環境整備が遅れている現状を踏まえ、学校における情報機器や教材の整備や支援体制等、ICTに関する条件整備も必要である」ことも提言されている。
平成20年3月、小学校及び中学校の新学習指導要領が告示され、教育の情報化について、情報教育及び教科指導でのICT活用の両面で様々な充実が図られた。その概要については第2章で述べることとする。
平成9年10月の「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の進展等に関する調査研究協力者会議」第1次報告において、情報教育の目標を次の3つの観点に整理している。これら3つの観点は独立したものではなく、これらを相互に関連付けて、バランスよく身に付けさせることが重要である。
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こうした情報教育の目標は、情報活用能力の育成を通じて、子どもたちが生涯を通して、社会のさまざまな変化に主体的に対応できるための基礎・基本の習得を目指しており、このことは「生きる力」の重要な要素である。また、情報教育において情報モラル等を扱うことによって育成する「情報社会に参画する態度」は、「豊かな心」に密接に関係しており、「生きる力」の育成の上でも、情報教育が非常に重要な役割を担っているということができる。
情報通信技術の活用により世界的規模で生じている急激かつ大幅な社会経済構造の変化に対応することの緊急性に鑑み、平成13年1月、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が施行された。同法では、「すべての国民が、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを容易にかつ主体的に利用する機会を有し、その利用の機会を通じて個々の能力を創造的かつ最大限に発揮することが可能になる、もって情報通信技術の恵沢をあまねく享受できる社会」を実現することを目指している。こうした社会を形成するために、国、地方公共団体、民間が協力して、我が国のあらゆる分野における情報化を進め、世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成、情報通信技術を活用するための教育及び学習の振興並びに専門的な人材の育成など必要な措置を講ずることとしている。
同法の施行に基づき、平成13年1月、内閣総理大臣を本部長とする「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」が設置された。
IT基本法に基づき、平成13(2001)年からの5年以内に我が国の世界最先端のIT国家となることを目標とした「e-Japan戦略」が策定されたが、平成18年1月には、ITの構造改革力を追求し、世界のIT革命を先導するフロントランナーとして国際貢献できる国家を目指し、新たなIT戦略「IT新改革戦略」が策定された。
学校教育の情報化については、IT新改革戦略の中で「人材育成・教育」がIT基盤の整備のための施策の一つとして位置付けられた。
具体的には、次世代を見据えた人的基盤づくり(全ての教員へのIT機器の整備、IT活用による学力向上)の重要性が規定された。IT新改革戦略及びその下での「重点計画」において、1.学校のICT環境の整備、2.教員のICT指導力の向上、3.ICT教育の充実、4.校務のIT化の推進、5.情報モラル教育等の推進の重要性が規定されており、平成22年度までの達成目標が明確化されている。
なお、IT新改革戦略等に基づく学校のICT環境整備を推進するため、地方財政措置(地方交付税)が講じられているところである。
【IT新改革戦略等に基づく達成目標】 ○学校におけるICT環境の整備 ・コンピュータ教室1人1台の整備、普通教室等への整備を推進し、教育用コンピュータ1台当たり児童生徒3.6人の割合を達成 ・液晶プロジェクタ等の周辺機器の整備の促進 ・校内LANの整備等により、すべての教室をインターネットに接続 ・概ねすべての公立学校に光ファイバ等による超高速インターネットを接続 ・教員に1人1台のコンピュータを配備 ○教員のICT活用指導力 ・全ての教員がICTを活用して指導できる |
平成20年7月、教育基本法に基づき、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、「教育振興基本計画」が閣議決定された。教育振興基本計画における「今後5年間に総合的かつ計画的に推進すべき施策」77項目のうち、教育の情報化の関連では、以下のような施策を推進することとされている。
基本的方向1 社会全体で教育の向上に取り組む 1学校・家庭・地域の連携・協力を強化し,社会全体の教育力を向上させる ◇青少年を有害環境から守るための取組の推進 (略)また,各種メディアへの過度な依存による弊害について啓発するとともに,子どもたちが有害情報等に巻き込まれないよう,地域,学校,家庭における情報モラル教育を推進する。 基本的方向2 個性を尊重しつつ能力を伸ばし,個人として,社会の一員として生きる基盤を育てる 1知識・技能や思考力・判断力・表現力,学習意欲等の「確かな学力」を確立する ◇総合的な学力向上策の実施 ・児童生徒の発達段階に応じた情報活用能力の育成に加え,情報モラル教育の充実を促す。 基本的方向2 個性を尊重しつつ能力を伸ばし,個人として,社会の一員として生きる基盤を育てる 3教員の資質の向上を図るとともに,一人一人の子どもに教員が向き合う環境をつくる ◇教員が子ども一人一人に向き合う環境づくり (略)学校と地域との連携体制を構築し,地域住民が事務等について学校を支援する取組を促す。その際,教員に広く一般社会から教育に熱意と能力・適性を備えた人材の導入の促進を目指し,社会人採用のための特別免許状や特別非常勤講師制度の活用等を促す。あわせて,調査の見直し,教育現場のICT化,事務の簡素化・外部化,学校事務の共同実施などに取り組む。 基本的方向4 子どもたちの安全・安心を確保するとともに,質の高い教育環境を整備する 2質の高い教育を支える環境を整備する ◇学校の情報化の充実 教育用コンピュータ,校内LANなどのICT環境の整備と教員のICT指導力の向上を支援する。また,教材・コンテンツについて,その利用等を支援し,ICTの教育への活用を促すとともに,校務の情報化,ICT化のサポート体制の充実を促す。IT新改革戦略に基づき,平成22年度までに,校内LAN整備率100%,教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数3.6人,超高速インターネット接続率100%,校務用コンピュータ教員1人1台の整備,すべての教員がICTを活用して指導できるようになることを目指すとともに,教育委員会や小中高等学校等への学校CIOの配置を促す。 また,平成23年の地上デジタル放送への移行を踏まえ,その効果を教育において最大限活用するための取組を支援する。 |
教育の情報化に関する文部科学省の諸施策のうち、本手引と併せて活用することが望まれる最近の報告書等を以下に紹介する。
このほか、平成19年の学校教育法の改正等を踏まえ「学校評価ガイドライン〔改訂〕」が作成されたが、各学校において評価項目・指標等の設定について検討する際の視点の例として、「教育課程・学習指導」における「○各教科等の授業の状況」の9項目の中に、「コンピュータや情報通信ネットワークを効果的に活用した授業の状況」「視聴覚機器や教育機器などの教材・教具の活用」の2項目が挙げられているところでもある。
初等中等教育局