第6章 校務の情報化の推進

第1節校務の情報化の目的

 校務の情報化の目的は、効率的な校務処理とその結果生み出される教育活動の質の改善、教員のゆとり確保にある。
 校務が効率的に遂行できるようになることで、教職員が児童や生徒の指導に対してより多くの時間を割くことが可能となる。また、各種情報の分析や共有により、今まで以上に細部まで行き届いた学習指導や生徒指導等の教育活動が実現できるなど、様々な恩恵を被ることができる。このように校務の情報化は、ますます進展する情報社会において、ICTを有効に活用して、よりよい教育を実現させるためのものである。
 校務の情報化の形態は、地域や自治体の状況などにより様々であり、一律に規定できるものではないが、本章における校務の情報化は、図1で示すような職員室をイメージしている。教員1人1台のコンピュータが配備され、出欠・成績・時数・給食・保健などの管理ができる校務システムやグループウェア等が整備されている状態を前提として進めることにする。
 なお、グループウェアとは、校内LANを活用して情報共有やコミュニケーションの効率化を図り、グループによる協調作業を支援するソフトウェアの総称である。主な機能としては、グループ内のメンバー間及び外部とのコミュニケーションを円滑化する電子メール機能、メンバー間の打合せや特定のテーマについて議論を行うための電子会議室機能、グループ全体に広報を行う電子掲示板機能、メンバー間でスケジュールを共有するスケジューラ機能、アイディアやノウハウなどをデータベース化して共有する文書共有機能、稟議書など複数のメンバーで回覧される文書を電子化して流通させる機能などがある。

図6-1校務の情報化が進んだ職員室イメージ

第2節校務の情報化が生み出す学校の変容

 校務の情報化が進むと、学校内外で大きな変化が生まれ、例えば、教職員一人一人の仕事ぶりが変わる。また、教育活動の質にも好影響が出てくる。
 ここでは、その変化について「業務の軽減と効率化」と「教育活動の質の改善(児童生徒に対する教育の質の向上と学校経営の改善と効率化)」の2つの視点から示す。

校務の情報化

1.業務の軽減と効率化

 校務の情報化により、それぞれの立場において、業務がどのように軽減し、効率化されるかをいくつかの具体例を基に解説する。

(1)管理職

 管理職の重要な仕事の一つに、教職員とのコミュニケーションがある。管理職の考えや思いをはじめ、教育委員会、校長会、教頭会からの伝達事項を伝えたり、教職員の考えを聞いたりすることは、学校全体としてのまとまりを生み出すために欠くことができない。しかし、コミュニケーションの時間を確保することはなかなか難しい。会議もできる限り減らし、教職員が児童生徒に関わる時間を少しでも確保したい。
 そこで、管理職として活用したいのが「電子メール」である。全教職員のアドレスを一括登録しておけば、一斉に連絡事項を流すことができる。打合せの時間を使う必要もない。口頭での連絡と違い、記録として残すこともできる。
 また、電子メール機能の一つであるメーリングリストを利用するのもよい。メーリングリストでは、ある特定の宛先にメールを送ると、そのメールはあらかじめ登録されている人全員に配送される。送られてきたメールに返信をすれば、そのメールも登録されている人全員に送られ、1対1ではなく複数同士でのメールのやり取りが実現できる。
 この機能を利用して、例えば、メンバーとして運営委員会(校長、教頭、主幹教諭、教務主任、学年主任など)を登録しておくと、電子メールを使って運営委員会を開催することができる。あらかじめ議題を知らせておくこともできる。事前にメンバーに意見を投稿してもらっておくこともできる。実際に顔を合わせての話合いが必要な場合のみ、会議を開催すればよい。メーリングリスト上で共通理解を図っておくと、会議を開いた場合でも短時間で充実した話合いをすることができる。
 学校運営上、学校を動かす中心メンバーには、管理職としての思いをメーリングリストで配信することで、ミドルリーダーの学校経営への参画意識を高めることができる。
 さらに、校務の情報化として「グループウェア」が整備されれば、一層、仕事の効率が上がる。
 職員室の黒板には、今週の予定(日程表、出張業務、提出物一覧など)が記載されているが、これと同じ情報を教頭も教務主任らも、自分の業務手帳に記載しているのではないだろうか。これらの情報を「グループウェア」に入力するだけで、同じ情報を手帳や黒板に記載する手間はなくなる。さらに教職員は、手元のコンピュータで情報確認することができ、その情報を活用することもできる。

(2)教員

 校務の情報化によって、教員の仕事は格段に効率化される。例えば、職員室のネットワーク上に文書データベースが設置されれば、教員間の文書の共有化ができ、前年度の文書をもとにして今年度用の文書を作成することが容易となる。また、文書だけでなく、デジタル写真を一括保存するフォルダを決めておけば、誰もが教材作成や学年・学級通信やホームページに利用できる。
 また、児童生徒名簿や年間スケジュール表や月予定表など、どの立場においても活用する基本文書を置いておくと、それをもとに各自が必要に応じて加工して活用することもできる。このようなデータ共有が進んだ職場は、無駄がなく互いに効率的な仕事ができる環境となる。
 グループウェアの掲示板を教職員間の諸連絡に利用している学校もある。これによって、朝・帰りの職員打合せを短時間で終えたり、打合せの回数を減らしたりすることができ、児童生徒と教師がふれあう時間や提出物の点検や教材・教具の準備を行う時間を生み出している。
 グループウェアの中には、成績処理から学校独自の通知表作成、そして指導要録作成の作業が、一貫してコンピュータでできるものがある。これを使うことによって、作業時間は大幅に削減される。これまでは確定された成績データを通知表や指導要録に転記する作業だけでも、多くの時間を要してきた。これがデータの自動転記により、作業時間ばかりでなくデータの転記ミスも皆無となる。校務の情報化の進展で、これまでの学期末や学年末の慌ただしい業務が緩和し、担任は児童生徒所見書きや懇談会の準備などの本来時間をかけなければならない業務に集中することができる。
 とりわけ高等学校においては、生徒数や教科数が多く、小中学校とは違い、膨大な受験書類を作成・管理することもあり、校務の情報化は有効である。例えば、熊本県教育委員会では、文部科学省委託事業である「先導的教育情報化推進プログラム」に取り組み、日常の校務処理をはじめ、かなりの事務処理を要する進路指導にまで一貫して活用できるシステムを構築している。電子押印ができるようになっているため、指導要録の作成をはじめ学籍管理、出欠管理、進路指導管理、受験管理、卒業生進路情報、各種証明書類発行などが同一システムで処理できる。このことにより時間が生まれ、それを生徒へのきめ細やかな指導の時間に充てている。
 また、グループウェアの中に入力されている出張データをもとに、出張申請書などの書類が簡単に作成できる。厚生手続きもシステム化がされていれば、短時間で終了することができる。多忙な業務の軽減のため、ちょっとした手続きを空いた時間に終えることができる効果は、大変大きい。
 文部科学省は平成18年度に「校務情報化に関する実態調査」(小中高等学校9,503校(無作為抽出)、有効回答5,846校)を行った。その調査において、80%以上の学校が「校務の情報化の効果あり」と回答した項目を参考に挙げておく。

  • 情報の再利用により、転記作業が少なくなる。
  • 情報の一元的蓄積により、情報を探す時間が減り、情報を活かす時間が増える。
  • 情報の再利用により、通知表や指導要録の作業時間が減少する。
  • 情報の再利用により、転記ミスなどが減少し、正確な資料が作成できる。
  • 資料の電子化により、手書きによる資料作成が少なくなり、情報の再利用が可能になる。
  • 児童・生徒の情報を一元的に蓄積することができ、学習指導に活かすことができる。
(3)養護教諭

 養護教諭が取り扱う情報量は膨大である。身体測定、内科検診、歯科検診、眼科検診、聴力検査、心電図など、一人の児童生徒データだけでもかなりの量となる。これらのデータを管理した上で、児童生徒の身体や健康状態に関する統計作成や、治療勧告書や教育委員会への報告書づくりなどの業務をこなす。また、児童生徒の出欠席や健康管理をはじめ、最近では保健室登校をする児童生徒への対応等、養護教諭の業務はますます多岐にわたってきている。
 こうした養護教諭の業務において、情報化を進めることは、業務の効率化と軽減に大きな成果を生み出す。
 グループウェアを活用している学校では、学級担任が出欠席の状況をコンピュータに入力し、それによって養護教諭が全校の出欠状況をネットワークで的確につかむことができる。特にインフルエンザが流行する時期は、学校として的確で素早い判断が求められるため、養護教諭の確実な情報把握は欠くことができない。
 また、児童生徒の健康データをデータベース化していれば、様々な場面で容易に活用することができる。例えば、保護者宛てに児童生徒の健康データを知らせる文書などを容易に作成することができるし、各種治療勧告書の発行に際しても、一定の条件を付加することで、該当児童生徒の抽出から勧告書の印刷まで自動的にできる。これらを手作業で行う場合と比べると、その作業時間は比べものにならないほど短い。
 既に小学校から中学校へ児童の健康データが転送されている地区においては、9年間の一人一人の健康データが一括管理され、的確な保健指導がなされている。

(4)栄養教諭・学校栄養職員

 校務の情報化は、栄養教諭・学校栄養職員(以下、栄養教諭)の仕事も変容させる。
 栄養教諭の業務の一つに、学校や学級ごとの必要給食数をまとめ、品目ごとに整理して物品発注をする仕事がある。校務の情報化が進むと、この仕事が次のように効率化する。

  1. 各学校の端末で、学級ごとの必要給食数を入力すると、そのデータが給食センターへ転送される。
  2. 転送されたデータが自動集計され、あらかじめ作成されていた献立内容に基づいて、必要品目数が算出され、関係業者へ発注される。
  3. 同時に発注や物品受理に必要な文書が自動作成される。

 これらのことを手作業で行う場合と、上記のようにネットワークを活用して行う場合の時間差は歴然としている。業務をシステムで定型化させることで、ミスも防止できる。
 また、一定期間のメニューやカロリー摂取量をデータ化することで、給食の献立作成が容易になる。グループウェアを活用して連絡掲示板に給食献立の詳細情報を流し、教員による児童生徒への食育指導が充実するように情報提供することも可能である。

(5)事務職員

 年間を通して定型的な業務が多い事務職員にとって、校務の情報化はその業務を飛躍的に効率化させる。
 学校と教育委員会を回線で結ぶことで、旅費請求や厚生手続きなどを学校から直接行うことができるようになる。逆に、給与明細などは、回線を通してダウンロードすることができる。オンラインでなければ、学校から教育委員会へ文書を届けるだけでも数日かかることもある。時間と手間のかかり方は比較にならないだろう。
 また、市町村教育委員会が集約すべき備品管理データなどは、各学校がオンライン上で入力することで、即時集計ができ、適切な管理が可能となる。
 校内においては、グループウェアを活用して、児童生徒の転出入書類を自動作成したり、教職員に各種手続きの案内等を確実に行ったりすることで、業務の効率化を図ることができる。文書フォルダの中に、各種定型文書を保管し、いつでも取り出せるようにしておくことも業務の効率化につながる。

2.教育活動の質の改善

 校務の情報化は、業務の軽減と効率化によって、教育活動の質まで変化させる。
 ここではその変化について、「児童生徒に対する教育の質の向上」と「学校経営の改善と効率化」の2つの視点から解説する。

(1)児童生徒に対する教育の質の向上

 校務の情報化によって、教職員の業務の軽減と効率化を実現することで、教育活動そのものに変化が生じてくる。
 例えば、職員掲示板の活用で、職員朝会の時間が短縮し、そこに空いた時間が生まれる。わずかな時間とはいえ、教員の心の余裕の時間や子どもとのコミュニケーションの時間が増す。
 教職員間の情報共有も進む。従来は、学級担任や教科担任が単独の目で見ていた児童生徒の学習記録や生活記録などの学習者情報を電子化・共有化することにより、学級担任・教科担任以外の複数の教職員(校長、教頭、同学年教員、部活担当職員、委員会担当職員、養護教諭、栄養教諭、事務職員など)の目で見た多様かつ広範な所見を、通知表などの形で児童生徒や保護者に返すことができる。
 既にこの取組みを行っている学校では、教職員による児童生徒の「よいとこ見つけ」と称して、日頃から児童生徒のよさを捉え、それぞれがグループウェアに用意された児童生徒のデータベースにそれを書き込んでいる。通知表にも自動的に記載され、児童生徒や保護者に伝えることで、学校に対する信頼を高める一つとなっている。
 また、学習者情報の共有の中で、他の教員(特に先輩教員)の所見を読むことにより、児童生徒をどのような視点で見ればよいのか、その子が持つよさをどう文章に表現するかなどを学ぶこともできる。
 職員室ネットワーク上に学習指導教材や学級経営上で必要となる各種文書を保管する共通フォルダを置き、共有化している学校がある。それらを参考にしたり、利用したりすることで、仕事の効率化ばかりではなく、教員間のコミュニケーションが増し、授業力や学級経営力を高めている。
 このように、容易に情報共有できる環境は、教員の力量向上を図る上でも重要である。

(2)学校経営の改善と効率化

 校務の情報化は、学校経営そのものに変化をもたらす。本節1.で述べたように、管理職や教員の業務の軽減と効率化によって、本質的な業務に費やす時間を生み出すことができる。
 例えば、電子メールの活用は、教職員のコミュニケーションを活性化し、管理職の判断をスピーディにする。また、非常勤講師やスクールカウンセラーなど、常勤していないスタッフとの連絡調整などは、電子メールを活用することで、スムーズかつ綿密に行うことができる。さらに、学校評議員やPTA役員など、日頃から関わりをもっておきたい外部とのやり取りにおいても、電子メールは実に有効なツールである。
 グループウェア等を活用して、児童生徒の成績データを一元管理することで、通知表や指導要録を自動的に作成するのみならず、適切な評価・評定をするための資料作成が容易となる。ある学校においては、コンピュータに一定の基準を入力し、不適切な評価・評定を抽出することで、学校全体の評価の信頼性を高めている。これまでは転記や点検作業に時間がかかりすぎるために、こうした学校として本来すべき業務に十分に時間をかけることが難しい状況もあった。
 職員室ネットワーク上に「会議室」を設けることも可能である。提示された議題に対して、あらかじめ教職員が「賛成」「反対」のいずれかの立場で意見を入力する。それをもとにして職員会議を開催することで、教職員の参画意識が高まり、充実した会議を運営することができる。
 また、生徒指導主事や保健指導主事が作成する日誌をグループウェア上でデジタル化して閲覧できるようにし、担当だけではなく、だれもが生徒指導や保健指導上で気付いたことを入力できるようにしている。このことは、すべての教職員が学校全体の状況を把握する上で実に有効である。多くの場合、こうした日誌は、管理職などの限られた者のみへの情報提供であったり、事実発生から数日経ってからの情報把握になりがちであったりするが、このことを防止することもできる。
 さらに、グループウェア上で、コピー使用枚数や消耗品数などの状況がビジュアルに見られるようにしている学校がある。教職員の環境意識を高める上で効果的な事例である。
 学校評価(自己評価)の必要性は十分認識していても、その事務処理の煩雑さで躊躇する学校がある。自動的にアンケートを作成したり、処理をしたりするソフトウェアを使い、事務処理にかかる時間を極力短縮し、分析と今後の方策を考える時間を増やしている学校もある。
 教育委員会と学校間とのネットワークにより、情報共有のスピードが格段にアップされ、適確な学校経営が促進されている例もある。ある市においては、教育長や指導主事などの教育行政職と校長・教頭の管理職によるメーリングリストを立ち上げ、情報交換を活発に行い、教育委員会と各学校間の結び付きを強め、市全体で教育を向上させようとしている。
 このように校務の情報化によって、情報共有やコミュニケーション量はこれまでと比較にならないほど増加し、管理職が学校経営を推進する上での貴重なデータを得ることができるようになる。例えば、成績の一元管理によって児童生徒全体の学力のとらえは容易であり確かなものとなる。教科ごとの評定分布や観点別評価分布を見るだけでも、今後の学習指導方針を立てることができる。グループウェアに蓄積された生徒指導に関するデジタル記録はアナログ記録と違い、あるキーワードで取り出したり整理したりすることができる。このことで問題傾向を確かにとらえることができ、今後の具体的行動を立案することができる。ややもすると経験だけに基づいて行われてきた学校経営を、実証的なデータ等に基づいて具体的に進めることができるのも校務の情報化がもたらす大きな利点である。

3.保護者と地域との連携

 情報化の進展は、学校の情報発信の形を大きく変容させた。従来は、主に紙による情報伝達であったのが、デジタルによる発信が可能となり、保護者や地域とのコミュニケーションの形も変化し、学校と保護者や地域との連携強化もこれまで以上に図ることができるようになった。ここでは、具体的にどのような取組を行うことができ、それによってどのような変化が生じるのかを解説する。

(1)保護者との情報共有の促進

 多くの学校がWebページを開設し、情報発信をするようになってきた。学校Webページの発信が始まったころは、Webページ言語を理解している担当者が一人で記事を作成していたが、簡単に作成できるソフトウェアが普及したことや、CMS(コンテンツ・マネージメント・システム)の導入により、組織的かつ頻繁なWebページ発信が可能となってきている。
 そのため、学校は教育方針や年間計画、学校行事の案内などをはじめ、日々の学校の様子を写真とコメントで発信したり、PTA活動や地域行事なども合わせて発信したりする学校が増えている。
 また、修学旅行などの宿泊行事の折りには、移動先からWebページを通じて情報発信をする学校もあり、保護者が学校のことについて得られる情報の量は以前とは比べものにならないほど増加している。携帯電話を利用してWebページを閲覧できることもその利用を促進させている。
 さらに、電子メールを利用して、あらかじめメールアドレスを登録した保護者に「学校メール」を配信することも可能である。
 こうした学校からの積極的な情報発信は、保護者にとって日々の教育活動を知り、学校のことを理解するための貴重な情報源となる。また、児童生徒からの情報だけでは偏った情報になりがちであり、それを補完する意味でもその価値は大きい。

(2)児童生徒の安全・安心情報の提供

 校務の情報化は、児童生徒の安全・安心情報の提供においても有効である。
 例えば、保護者の携帯メールに対して、暴風警報による緊急下校や警察・教育委員会から不審者情報などの緊急情報を流すことで、児童生徒の安全について注意を促すことができる。また地域の方にも情報を流すことで、児童生徒の登下校に際して、立哨指導をお願いすることもできる。

(3)地域への情報公開・説明責任の明確化

 Webページによる情報発信は、保護者のみならず、地域への情報発信でもある。
 また、所管する行政や議員等への情報提供になることも忘れてはならない。Webページを作成するときは、誰もが見ることを常に意識すべきであるが、とりわけ学校に関わっていただける方を視野に入れて作成し、説明責任を果たすための情報発信と考えることが肝要である。
 例えば、学校の「自己評価」や「学校関係者評価」の結果を掲載することが考えられる。平成19年の学校教育法施行規則の改正により、「自己評価」の公表は義務化、「学校関係者評価」の公表は努力義務化された。学校が自校の教育活動をどうとらえ、どう評価し、どう改善していこうとしているのかをWebページにおいて広く示すことは、説明責任を果たす意味で重要である。また、このことは地域の学校教育への理解を深め、地域と学校との連携を強化することにもなる。いわば学校が情報公開によって胸襟を開くことで、地域からの信頼が得られるわけである。

 なお、本節で示した多くの具体例は、平成18年度文部科学省委託事業「校務情報化の現状と今後の在り方に関する研究」に詳細が書かれているので参照されたい。

第3節校務の情報化の進め方モデル例

1.校務の情報化のあるべき姿

 「校務の情報化」で目指している姿は,形式的には,学校内の文書や子どもに関する情報がデジタルデータ化され,職員間で相互に共有できるとともに再利用でき,教育委員会及び各学校間が相互にネットワークで結ばれ情報のやり取りができる状態であり,学校内のシステムから各学校及び教育委員会が連携している姿である(図6-3)。
 内容的には,校内にある情報が連携して活用でき,個々に処理していた時より,時間が短縮できるとともに,教育の質も向上している状態である。単にコンピュータを使って文書を作成したり,統計処理を行ったりしている状態は,校務の情報化が緒に就いたばかりの段階である。

図6-3校務の情報化のあるべき姿

 具体的に記述すると最初の段階では,

  • 学校の教職員間でデジタル化された事務文書が共有され,再利用できる。
  • 児童生徒の学習活動や成績情報,出席情報,身体情報を教師が共通のアプリケーションソフトを利用して処理することができ,通知表や指導要録に反映することができる。
  • グループウェアを利用して教職員間の情報の伝達やコミュニケーションの促進を図ることができる。グループウェアは,校内のみならず,教育委員会と学校間,学校と学校間での情報共有に利用することができる。
  • CMS等を利用した学校Webページ作成システムにより簡易に情報を発信することができる。

  • さらに次の段階では,
  • 決裁が必要なものは,電子決裁を行うことができる。
  • 進学や転校する場合,児童生徒の進学や転出に関するデータを市町村及び都道府県を越えてデジタルデータとして送ることができる。

 校務の情報化は,データの共通利用や教職員の異動時のことを考えると、都道府県単位で同一のシステムを使用することが望ましい。群馬県では,県で使用する校務システムを統一し,各市町村がシステムを導入する場合にそれを推奨している。
 以上のような校務の情報化の目指す姿を達成するためにどのような整備をしていけばよいのか,そのモデルケースを学校の校務用ネットワーク環境の整備状況別と整備を主導するのが学校なのか教育委員会なのかによる整備主体別により記述する。

2.校務用ネットワーク環境整備の状況別モデルケース

 校務用ネットワークとは,児童生徒が授業等に使用する授業用ネットワークとは別に教職員が校務に使用するネットワークのことである。
 授業用ネットワークと校務用ネットワークは,物理的または論理的に切り離され,授業用ネットワークから校務用ネットワークの中にあるデータを見ることはできないようにしておかなければならない。一つのネットワークを単にユーザ名とパスワードで制限して分けるだけでは情報セキュリティ上好ましくない。
 校務用ネットワークは職員室と事務室のみ整備されている場合もあるが,校長室,保健室など校務の仕事を行う割合の高いところも校務用ネットワークのグループに入れることが望ましい。

 校務用ネットワークは,次の順で構築を目指す。

  • 職員室校務用ネットワーク → 学校内校務用ネットワーク → 学校間・教育委員会校務用ネットワーク
(1)校務用ネットワーク整備済みの場合

 校務用ネットワークが整備されていても,1人1台のコンピュータが整備されていない場合,やむなく個人所有コンピュータのネットワークへの接続を認めている場合もある。しかし,情報セキュリティの観点からできるだけ早く1人1台コンピュータの整備を行うことが望ましい。
 校務用ネットワークは,校内だけのものから域内の各学校及び教育委員会を包括した教育用イントラネットへ発展させていくとデータは内部を流れることになり情報漏えい対策上有効である。

 校務情報化の最初の段階では,校務用ネットワーク内に校務用のデータを保存したり,ネットワークへの接続を認証したりするためのサーバを設置するが,この段階で校務処理に使用する共通アプリケーションを決めることができると大変有効である。各校務処理で使用するアプリケーションは,同じ操作方法のものであれば、負担が少ないし効率も良い。費用面ですべて一度に導入できないときは,年度計画で導入する方法もある。さらに,校務に使用するアプリケーションはブラウザーで動作するWebアプリケーションにすると端末には特別なソフトが必要でなくなるためメンテナンス性も向上する。
 サーバは各学校に設置する場合が多いが,教育用イントラネットが構築されている場合は教育センター等にサーバを設置する方法もある。この方法をとるとサーバに不都合が発生した場合対処しやすいし,ソフトの更新も行いやすい。また,早い段階で公的な教員個人メールアドレスを付与してメールによる文章のやり取りになれておくと,グループウェアの活用に移行しやすい。

図6-4校務用ネットワークが整備済みの場合

(2)校務用ネットワーク未整備の場合

 校務用ネットワークが整備されていない状態では,USBメモリー等の外部記憶媒体の受渡しでデータを共有することになり,個々のコンピュータ同士のデータ共有が難しい。そのため、最初に職員室のみのネットワークをサーバ等の整備も含めて構築する必要がある。その場合,教育委員会と連携を取りながら域内の各学校を同じ環境にしていくためのモデル例として整備を進めていくことが望ましい。
 この場合も1人1台コンピュータの整備を同時に進めていくことができるとネットワーク整備を含めて総合的に整備の効果を検証することができる。職員室のネットワーク運用が軌道に乗ると,校内に広げて校内校務用ネットワークにしていくとともに,他の学校の校務の情報化の整備も進めていく。そして最終的に各学校を結んだ地域内の教育用イントラネットを構築すると校務データのやり取りを安全に行うことができる。この場合も教育用イントラネットの構築に併せてグループウェアを導入するとともに公的な教員個人メールアドレスを付与することが望ましい。

図6-5校務用ネットワークが未整備の場合

3.整備主体別モデルケース

 校務の情報化の推進は,教育委員会が主導して行う場合と学校が主導して行う場合がある。学校が主導する場合もデータの共有やシステムの操作性の観点から教育委員会と協議しながら進め,他の学校も含め教育委員会単位で共通したシステムになるように先を見越した整備を進めていくことが望ましい。

(1)教育委員会主導の場合

 教育委員会が主導して,域内に同一のシステムを構築していく方法をとると各学校が個々にシステムを構築する場合と比べて,教員の異動時の操作性やデータ共有上の問題,システム構築にかかるコスト面などの問題を解決することができる。
 また,校務の情報化に向けて,一度にすべての校務内容をシステム化することは難しいので中長期的なビジョンを策定し計画的に進めていくことが大切である。数校のモデル校を決め,校務の情報化の成果や効果を確認しながら運用面も含めて課題を洗い出してから全校に広げる方法も良い。

(2)学校主導の場合

 学校独自で校務の情報化を進めていく場合は,学校によってシステムが違うと操作性やデータの共有の面で支障が生じる。そのため,教育委員会と整備のビジョンを話し合い,その学校が地域のモデル校となる考え方で整備を進めていくことが大切である。推進を希望する学校が数校あれば、最初は教育委員会が調整役を務め,徐々に主導的な働きをしていく方法が域内で統一した整備をしていくのに適している。各学校には校務の情報化は1校では完結しないという認識を持ってもらうことが重要である。
 この場合も整備と運用が調和して上手く効果があがるように仕事の進め方を話し合っていくことが大切である。

図6-6整備主体別のモデルケース

第4節校務の情報化を進める上での留意点

1.教育委員会と校長のリーダシップ

 校務の情報化は,学校が個々に推進していくと,システムの操作性が違ったりデータの互換が取れなくなったりするので,教育委員会が早い段階でリーダシップを取る必要がある。そして,域内同一のシステムにしていくことが重要である。また,追記型の文書や手書きを前提とした文書などの規定も含めて制度面で変更しなければならない点もあるので,教育委員会は校長と連携を取りながら整備と運用を上手く調整していくことが望まれる。
 校長は,校務の情報化の推進にあたって校内をまとめるためにリーダシップを取っていくことが重要になる。
 校務の情報化に必要な予算についても校長が教育委員会と詳しく話し合っていく必要がある。

2.校務の情報化について職員間での意義の共有

 校務の情報化を進めるにあたっては,単にコンピュータを使用して校務処理を行うのではなく,校務処理への負担を少なくしつつ教育の質を高めることを目的にしていることを教職員が実感できることが大切である。
 このためには,管理職が進んで校務の情報化の意義を説明するとともに先進地の実例を紹介することも有効である。
 また,校務の情報化を行うと学校の仕事がどのように変わるのかはっきりと提示し,教職員間でイメージの共有化をはかることが大切である。

3.校務の情報化に合わせた制度と公文書規定の見直し

(1)校内の仕事の仕組みや体制の見直し

 校務の情報化を進めていく場合,単に今までの仕事をコンピュータとネットワークを使うことに置き換えるのではなく,仕事自体の見直しや仕事の進め方も考え直してみることが大切である。現在行っている校務を見直す良い機会としてもとらえたい。

(2)電子化に合わせた公文書の扱い

 公文書をデジタルデータとしてやり取りする場合,公印の省略や電子印鑑の採用も含めそのデジタルデータを、所定の手続きを踏んだ場合には公文書と認める取決めを行う必要がある。また些細なことであるが、通知文や依頼文などの本文書に添付するいわゆる鑑文書は、ネットワークでやり取りする場合は不要とすることも考えられる。
 中長期ビジョンとして,保管が義務付けられた文書についても,デジタルデータとしての保管を認めるようにしていくことが望ましい。その際には原本データが改ざんされていないかを担保する仕組みも同時に考えていくことが必要である。

4.学校情報セキュリティの確保

(1)システム構成の基本

情報セキュリティを守る上で校務用ネットワークと授業用ネットワークを論理的または物理的に分離し、児童生徒側から校務用データが見えないようにすることが校務用ネットワークの基本である。

図6-7校務用ネットワークの例(学校内)

(2)1人1台コンピュータの必要性

 コンピュータを数名で共有して使用している状態では,使いたいときに使えないので仕事の能率が悪くなるとともに,コンピュータの状態がどのようになっているのか把握しにくくなり,使用者自身も使っているコンピュータの管理に責任を持ちにくくなる。このようにならないために,1人1台のコンピュータは,校務の情報化に必須である。

(3)学校情報セキュリティポリシーの策定

 学校内にある情報資産の管理は,校務の情報化を進めるにあたって避けて通れない課題である。情報資産には,卒業生台帳や指導要録,成績一覧表,学校要覧,健康診断票等の公文書や教師個人が持っている児童生徒の住所録,会議の記録等がある。情報セキュリティとは,「情報資産」を「安全に守る」ことであり,「情報の漏えい」「情報の改ざん」「情報の破壊・消失」から守ることである。学校の情報資産の管理の仕方を定めたものを学校情報セキュリティポリシーという。情報セキュリティポリシーは,基本方針,対策基準,実施手順に分けられる(図6-8)。
 基本方針は,学校の活動全般に関わる情報セキュリティ対策の目的や原則を定めたもので憲法に当たる。
 対策基準は,学校にある情報を脅威から守るための具体的な対策基準を示したもので法律に当たる。
 実施手順は,情報セキュリティ対策を実行するために,教職員が行動する具体的な作業手順を示したもので制度や手続きに当たる。
 具体的には,「システムに接続するにはOSのパスワード認証を使用すること」,「電子メールでデータを送信する場合は,電子メール送信ガイドラインに従って行うこと」は対策基準にあたり,「OSの基本認証に用いるパスワードは,6文字以上12文字以内で半角英数が混ざったものとすること」,「電子メールで個人情報を送信する場合は,校務情報化イントラネット内のみで行うこと」は実施手順にあたる。他にウィルスに感染したときの対処方法,心当たりのない不審メールを受信したときの対処方法等の具体的な記述も実施手順にあたる。
 学校情報セキュリティポリシーの策定にあたっては財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)が作成している学校情報セキュリティポリシーハンドブックなどを参考にすることができる。このハンドブックには,学校情報セキュリティポリシーの対策基準のひながたも掲載されている。
 学校情報セキュリティポリシーを策定することにより校内にある情報資産の扱い方が職員間で同じになり,組織として情報資産を守ることができるようになるため,学校情報セキュリティポリシーの策定においては,自治体の情報セキュリティポリシーに基づき,基本方針と対策基準は教育委員会で策定し,実施手順は学校で策定するなどにより、実効性のある学校セキュリティポリシーを策定することが重要である。
 次に示す校務用データファイルの保存の仕方や電子データの持ち帰りに関することも学校情報セキュリティポリシーに記述されるべき内容である。
 さらに,情報セキュリティ監査を定期的に受けることも情報セキュリティを守る上で有効である。

図6-8情報セキュリティポリシー

(4)校務用データファイルの保存の仕方

 基本的には,職員が校務で使用するデータは,職員個人のものではなく公的なデータであるという意識を持つことが大切である。
 そのため,校務用データは,個々で保管するのではなく,まとめてサーバの中に保存するようにしたい。特に個人情報が含まれているものは,暗号化して保存しておくことが望ましい。この場合,教職員が意識しなくても決まった場所にデータファイルを保存すると自動的に暗号化されるような仕組みを考えると実効性が高まる。
 データファイルの事故や誤った消失に備えるためのバックアップも職員個々で行うのではなく,システムとしてバックアップをとるようにしておくことが大切である。職員個々でバックアップをとるとデータファイルの拡散が起こり情報漏えいの危険性が高まる。

(5)電子データの持ち帰り

 情報漏えいの原因は人的要素が大きな割合を占めている。特に校外にも持ち出した場合に情報漏えいが多く発生している。
 そのため,個人情報が入ったデータを校外に持ち出したりすることは,情報漏えいを防ぐためにも極力避けなければならない。個人情報が入ったデータを校外に持ち出す例外的なケースについては,教育委員会等であらかじめ示しておき,これに従うようにする。持ち出されるデータファイルは,暗号化等により,データが紛失した場合にもその内容が第三者に読み取れないようにする。
 児童生徒に関する情報は,あくまでも保護者から学校が預かっているという意識を持つことが求められる。

5.校務の情報化の効果の検証と見直し

 校務の情報化を進めていく過程で,その効果を検証していくことが大切である。ともすると,校務の情報化を進めることが手段ではなく目的になってしまい,仕事が以前より複雑になってしまったり,教育の質も向上していない結果になってしまったりすることも考えられる。そして,運用方法を見直してより効果が上がるようにしていくことが大切である。

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初等中等教育局 参事官付課

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