第4章 特別支援教育を推進する上での小・中学校の在り方について

1 特殊教育に係る小・中学校の制度

(1)視覚障害者・聴覚障害者以外にも教育の機会を保障する必要性から、昭和16年の文部省令において、身体虚弱、精神薄弱(現在の知的障害のこと)その他心身に異常のある児童であって特別養護の必要があると認められる者のために教育を行う特別な場として、養護学校とともに、「養護学級」が法制度上位置付けられた。また、昭和22年に制定された学校教育法においては、小・中学校に特殊学級を置くことができる旨規定され、いわゆる中軽度の知的障害者、肢体不自由者、身体虚弱者等に対して、その障害区分ごとに、発達の遅れやその特性から学籍を固定して小集団における発達段階に応じた特別な教育課程や指導法により対応する、いわゆる固定式の場で教育を行うものとされた。
 特殊学級の設置目的は上述のとおりであるが、その整備の過程では、知的障害者等の受入れのための養護学校の整備が十分に進まない中で、障害のある児童生徒の教育機会を確保するために小・中学校に特別な教育の場として整備が進められた場合もあった。
 また、特殊学級については、その設置の立ち後れから、昭和29年の中央教育審議会答申においてその計画的設置が提言され、漸次、その整備が進められてきた。最近は、全在籍児童生徒数の増加傾向に比し、学級数の増加傾向が顕著であり、一学級当たり2.79人(平成14年5月現在)となっている。
 特殊学級では、在籍児童生徒への障害に応じた特別の教育指導に加えて、通常の学級に在籍する障害のある子どもへの指導を担当する教員の相談支援について、その専門性に応じた役割を果たしている例もある。

(2)通級による指導は、教科等の指導のほとんどを通常の学級で受けつつ、障害の状態に応じた特別の指導を特別の場で受けるという指導形態で、平成5年に制度化され、その対象児童生徒数は大きく増加している。平成5年(5月時点)に12,259人であったものが、平成10年(5月時点)では倍増し、平成14年5月現在で、義務教育段階では、言語障害、情緒障害、弱視、難聴、肢体不自由、病弱・身体虚弱を対象に31,767人が通級による指導を受けており、うち言語障害が26,453人を占めている。
 通級による指導は、障害の状態の改善・克服を目的とした特別の指導を行うものであり、特に必要な場合に教科の内容の補充指導を併せて行うものとされている。また、指導の時間も年間35~105時間(週1~3時間が標準)と短時間である。
 なお、平成5年の制度化に当たってはLDを対象とすることについては、定義や判断基準が明らかになっていない等の理由により引き続き検討すべき課題とされている。
 他方、通常の学級に在籍する児童生徒が、特定の時間、特定の場所で教科指導を含め必要な教育を受ける指導の形態は、学校によっては、LDの児童生徒に限らず、教科学習につまずきのある児童生徒をも対象に、放課後に自由に参加できるいわゆるオープン教室の形で指導を行い成果を上げている事例がある。

(3)平成14年4月に行われた就学指導の在り方の見直しのための学校教育法施行令の改正により、就学基準に該当しても市町村の教育委員会が障害の状態や学校の状況等を踏まえて総合的な判断を行い、小・中学校において適切に教育を受けることができる特別の事情があると認める場合には小・中学校に就学することが可能となった。こうした児童生徒については、これまで特殊教育で培ってきた指導方法、ノウハウを活かすことがますます重要となるため、個別の教育支援計画の作成を通じた小・中学校の学校全体での指導体制の充実や特別支援学校との連携協力が重要である。この点からも、学校内及び関係機関や保護者との連絡調整役として、特別支援教育コーディネーター(仮称)が重要である。

2 LD、ADHD等の現状と対応

(1)LD、ADHD、高機能自閉症のある通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への教育的対応は緊急かつ重要な課題となってきている。こうした児童生徒が学級にいる場合、担任教員の理解や経験又は学校内での協力体制が十分でないこと等から適切な対応ができない、また、時には、学級としてうまく機能しない状況に至る事例もある。
 これらの児童生徒は多様な障害の状態像を示すことがあり、その状態に応じて情緒障害、言語障害等の通級指導教室や特殊学級において教育を受けている場合もあるが、総合的、体系的な対応はなされてこなかった。

(2)LDについては、通級指導教室に関する調査研究協力者会議の報告(平成4年)で初めてその対応についての検討の必要性が取り上げられ、「学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議」の報告(平成11年7月)により、その定義、判断・実態把握基準(試案)、指導の方法などが示された。また、平成12年度から、LDのある児童生徒に対する指導体制の充実事業が全国で展開されてきており、同会議の示した定義、判断・実態把握基準等の検証や学校における適切な指導体制の整備に向けて取り組んでいる。具体的には、小・中学校に校内委員会を設置し学校における実態把握を行うとともに、教育委員会に置かれる専門家チームの意見を踏まえてLDの判断や適切な教育的対応を決定するほか、専門家による巡回指導の有効性の検証を行ってきている。
 しかしながら、ADHDや高機能自閉症については、その定義や判断基準が明確になっていないこと等から学校における適切な対応が図られてこなかった。

(3)LD、ADHD、高機能自閉症により、学習面や生活面で特別な教育的支援を必要とする児童生徒数は、既に述べたとおり、通常の学級に在籍する児童生徒の6%程度と考えられること、また、学習上で著しい困難を示すLDと、行動上で著しい困難を示すADHDや高機能自閉症とが重複している場合があること、LD、ADHD等については指導内容や指導上配慮すべき点について類似する点も少なくないことから、個々の障害ごとにではなく総合的に対処することが適切な場合も考えられることから、これらの実態を踏まえて効果的かつ効率的に対応することが求められる。

(4)本調査研究協力者会議では、ADHDや高機能自閉症について、その定義と判断基準(試案)、学校における実態把握のための観点(試案)、指導方法等(別添資料参照)について作業部会を設置して検討してきた。今後は、同作業部会のとりまとめた内容が実際に学校教育の場で効果的に活用できるよう検証するとともに、学校における適切な指導体制を早急に構築する必要がある。国においては、上述のLDへの指導体制の充実事業を通じて整備を進めている支援体制を拡充し、ADHDや高機能自閉症を含めた総合的な支援体制の確立に向けた、「特別支援教育推進体制モデル事業」を平成15年度より開始することを予定しているが、本事業を通じて、地方公共団体と連携を図りながら、早急に学校及び地域における体制整備を図ることが必要である。
 ADHDや高機能自閉症は、近年、その教育的対応の重要性が認識されてきている障害であることから、管理職を含む教職員や保護者等への幅広い理解の推進が必要である。
 また、LDとともに、ADHDや高機能自閉症といった通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒に関わる教職員に対する研修や相談支援を、国立特殊教育総合研究所や都道府県等の教育センター等において積極的に行う必要がある。
 LD、ADHD等は、個々の児童生徒により多様な状態を示すことがあり、例えば、ADHDの児童生徒が同時に高機能自閉症と判断されること、又は、同時にLDと判断されることもある。このため、これらの児童生徒の教育的ニーズは多岐に渡ることもあることから、国立特殊教育総合研究所においては、当該児童生徒への具体的な指導方法の実践的な研究を引き続き進めるとともに、これまでの研究成果や実践事例をとりまとめ活用し易いものにして、学校や都道府県の教育センター等に対して的確に情報提供することが必要である。

3 学校内における特別支援教育体制の確立の必要性

(1)このように多様な障害のある児童生徒が小・中学校に就学することを考慮すれば、教職員の理解促進を含め学校全体が組織として一体的に取り組むことを確保する体制の構築、特殊教育により培った指導方法・ノウハウの効果的な活用が不可欠である。また、一人一人の教育的ニーズを把握して適切な教育を行うための計画を作成し、実行するためには盲・聾・養護学校や福祉・医療機関等との連携協力が重要である。このことを踏まえて、LD、ADHDなどの障害により、通常の学級に在籍する特別な教育的支援の必要な児童生徒への総合的な支援体制を確立する必要がある。
 この点で、LDへの最近の教育実践にもみられるように、校内委員会等による学校内の体制整備や障害のある児童生徒の実態把握や指導に対して助言を行う専門家による支援体制の整備に加えて、児童生徒の指導を直接担当する教員等の学内の関係者、保護者や関係機関との連絡調整役としての特別支援教育コーディネーター(仮称)による対応や、少人数指導や個別指導を行うチーム・ティーチング(TT)の活用は、今後の支援体制を考える際に重要な要素を提供しているといえる。
 また、小・中学校に置かれる特別支援教育コーディネーター(仮称)について、各学校で具体的にいかなる機能や役割を担わせるかは、学校や地域の実情によって多様であると考えられるが、少なくとも上述の連絡調整の機能や役割を果たすことを基本として、迅速かつ効果的に学校における体制整備を進めることが重要である。また、その職務を学校内において円滑に実施するために出来る限り指導的な立場にある者がこれに当たることが望まれる。
 なお、一般的に言えば、盲・聾・養護学校で指導した、又は、特殊学級や通級指導教室を担当した経験を有する特殊教育の経験者は特別支援教育コーディネーター(仮称)の候補者であるが、それらのものに限らず、コーディネーターとしての高い資質や能力を有する教員が、特別支援教育コーディネーター(仮称)となることも考えられる。このため、教員が必要な知識や技能を身に付けることでコーディネーターとしての役割を果たすために効果的な研修等について具体的な検討が必要である。

(2)小・中学校においてこのような体制整備を図るに当たって、小・中学校に蓄積された人的・物的な資源を効果的に活用することに加えて、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等外部人材の積極的な活用を図るという視点が重要である。また、盲・聾・養護学校から巡回による指導等による支援を効果的に受けるための連携協力も重要であり、その意味で、これまで特殊教育で培われた教育や指導上の知識や経験を中心に、幅広い分野の専門的知識や技術を総合的に活用していくことが必要である。
 なお、小・中学校においては、学力の向上を目指した個に応じた指導の充実、不登校やいじめに対する学校内や地域の教育相談体制の充実による対応等種々の取組が既に行われ、今後、更に充実が図られる予定であるが、これらとの有機的な連携に十分留意して、適切な特別支援教育体制を構築していくことが必要である。
 また、親の会やNPOの中にはLD、ADHD等の理解の促進等を目的に活発に活動を行っているものがある。こうした草の根的な活動は、教育の充実や効果的な展開を図る上で、重要な役割を果たしうるものと考えられることから、親の会等との連携協力も図りながら取組を行うことも重要なことと考えられる。

(3)特殊学級は、盲・聾・養護学校の対象でない比較的障害の軽い児童生徒に対して適切な教育を行う場として設けられたが、この特殊学級については、特定の児童生徒に対する専門的な指導が可能であるという点を評価する意見がある一方で、その在り方については検討すべき点があるとする指摘もある。例えば、1障害のない児童生徒との交流の重要性に鑑み多くの時間を交流学習にあて通常の学級に在籍する児童生徒と共に学習する機会を設けている実態を踏まえれば、必ずしも、固定式の教育の場を設ける必要はないのではないか、2障害のある児童生徒の発達や障害等について専門的な知識や技能を有する特殊学級の担当教員は、小・中学校において重要な役割を担うべき者であり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の教育のためにはもちろん、関係機関との連絡・調整役となるコーディネーター役として活用されるべきではないか、3特殊学級に蓄積された指導上の知識及び経験並びに設備及び機器は、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒の指導にも広く活かされるべきであり、特定の児童生徒のみの特別の場として位置付けることは適当ではない、というものである。このような指摘を踏まえ、特殊教育の中で培われた資源を有効に活用してより質の高い教育的支援を行うということを念頭に特別支援教育の在り方を考えていく中で、特殊学級の在り方を検討することが必要である。

(4)通級による指導は、通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童生徒に対する特別の指導を行うための制度として設けられ、近年、対象児童生徒数が増えていることからもそのニーズは高いといえる。しかしながら、1障害の状態の改善・克服を主たる目的としており、LDのように特定の能力の困難に起因する教科学習の遅れを補う指導が中心となる場合を想定していない、2指導時間数が1~3時間と短時間であり、LD、ADHD等については適切な対応が困難な場合がある、ということを踏まえ通級による指導の制度の目的や指導時間について、より弾力的な対応ができないか検討する必要がある。

(5)このため、特殊学級や通級指導教室について、その学級編制や指導の実態を踏まえ必要な見直しを行いつつ、障害の多様化を踏まえ柔軟かつ弾力的な対応が可能となるような制度の在り方について具体的に検討していく必要がある。
 この際、単に、特殊学級や通級指導教室の教員のみで対応するのではなく、学校内の教員全体の理解の促進と支援体制の構築、非常勤講師や特別非常勤講師、高齢者再任用制度による短時間勤務の教員等の活用、「特別支援学校(仮称)」や福祉、医療等関係機関、都道府県等の設置する特殊教育センターに相談し、指導や助言が受けられるような体制を構築して総合的に対応するための仕組みづくりに取り組むことが重要である。

(6)特殊学級の機能として、その制度の本来の趣旨を尊重し、盲・聾・養護学校の対象とはいえない程度の教育的ニーズを有する障害のある子どもを教育する機能を今後も持たせることが適当であり、この場合には、これまでの交流学習等の実践でも明らかなように、他の子どもと共に学習すること、又は、生活する時間を共有することが有効であると考えられる。
 このため、小・中学校に在籍しながら通常学級とは別に、制度として全授業時間固定式の学級を維持するのではなく、通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で教育や指導を行う形態(例えば「特別支援教室(仮称)」)とすることについて具体的な検討が必要と考える。

(7)この場合、例えば、小・中学校の障害のある児童生徒は、障害の状態等に応じてできるだけ自らが在籍する学級において他の児童生徒と共に学習し、生活上の指導を受け、障害に配慮した特別の教科指導や障害に起因する困難の改善・克服に向けた自立活動といった特別の指導が必要な時間を、この特別支援教室において担当の教員等から指導を受けることになる。
 特別支援教室の運営形態としては、障害の状態によって、1従来の通級指導の対象となる児童生徒のように週に数時間のみこの教室で指導を受ける場合、2従来の特殊学級における教育の対象となる児童生徒のように週の相当の時間をこの教室で指導を受ける場合、また、3小学校の低学年で集中的に特別の指導をこの教室で受け、高学年ではほとんどの時間を他の児童生徒と共に学習するという場合等様々なものが考えられ、従来の特殊教育の機能を包含しつつ弾力的な対応を可能とするものである。

(8)今後、小・中学校における障害の児童生徒への対応を考えるに当たっては、多様な障害種に応じた教育的対応が求められることに留意する必要がある。例えば、学校における教員等の配置についても、各学校に配置された教員がその学校の児童生徒の教育を担当する形態に加えて、特定の学校に一定数の教員を配置し同学校を拠点に他の学校の特別支援教室に出向いて教育や指導を行う巡回指導の形態等、柔軟な対応について具体的に検討することが必要である。

(9)LD、ADHD等を含め、障害のある子どもで特別の教育的支援を必要とする者について、上述のような小・中学校での取組に加えて幼稚園、高等学校、高等教育の各段階において適切な対応を図ることが重要である。
 幼児期からの支援を進めるためには、幼稚園全体で支援しあえるような体制の整備、日頃から保護者への理解推進を進めていく研修等の充実が必要である。
 文部科学省においては、平成15年度より都道府県教育委員会と連携して幼稚園における障害の状態に応じた個別の指導計画の工夫、教職員の協力体制や障害に配慮した指導体制の在り方等について実践的な調査研究を開始することを予定しており、こうした取組を通じて、LD、ADHD等についても受入れ体制や、指導の充実が図られることが重要である。
 また、幼稚園と比べて保育所の在籍幼児数が多い実情を踏まえれば、障害に対応した適切な教育的対応を考えていく上で保育所の役割を軽視することはできない。保育所においても幼稚園と同様の視点から取り組むことが期待され、また、小学校や盲・聾・養護学校の小学部において幼稚園や保育所と日頃からの情報交換を行うことが就学後に児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応した教育を行う上で重要と考えられる。
 また、中学校を卒業した後は、高等学校へ進学する生徒も多いことから、高等学校においても、LD、ADHD等へ対応した特別な支援体制を構築することや、研修などを通じて理解推進が図られることが重要である。また、都道府県等の教育委員会に設置された専門家チームが、必要に応じて高等学校への支援を行うことについて検討する必要がある。さらに、養護学校高等部との連携も重要である。
 高等教育段階においても、大学において、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由等の学生について、ノートテイカーの配置、講義ノートの作成等の障害に応じた教育上の配慮、エレベーター、スロープ等の施設や設備面での整備等の取組が各大学において進められている。また、LD、ADHD等の学生について、大学関係者の理解の促進が図られ、学生に対し相談支援を行う組織体制についての具体的検討や個々の学生への支援の内容や方法についての検討が進められることが重要である。

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