第1章 特殊教育から特別支援教育へ

1.特殊教育の果たしてきた役割

(1)これまでの特殊教育は、障害の種類や程度に対応して教育の場を整備し、そこできめ細かな教育を効果的に行うという視点で展開されてきた。具体的には、障害の状態によって就学の猶予又は免除を受けることを余儀なくされている児童生徒が多くいる事態を重く受け止めて、教育の機会を確保するため、障害の重い、あるいは障害の重複している児童生徒の教育に軸足を置いて条件整備が行われてきた。
 盲・聾・養護学校は平成14年5月現在で、全国に993校設置されている。また、障害の状態によって通学が困難な場合には、教員が家庭等において必要な指導を行う訪問教育の制度を設けて積極的な対応を図ってきた。このほか、小・中学校等に就学して教育を受ける障害のある児童生徒に対しても、障害の状態に応じた適切な教育を行うために、特殊学級の設置、又は、通級による指導(通常の学級に在籍してほとんどの授業を通常の学級で受けながら一部特別の指導を受ける制度のことで通級指導教室と称される)の制度化を図ってきた結果、障害があることを理由に保護者の申請により就学を猶予又は免除された児童生徒は非常に少なくなっている(全学齢児童生徒数の約0.001%)。
 現在、特殊教育の対象となっている児童生徒は、義務教育段階でみると、盲・聾・養護学校で約5万1千人、特殊学級については全国の小・中学校の約半数に設置されており、在籍者数は約8万2千人、通級による指導の対象児童生徒数は約3万2千人であり、特殊教育を受けている児童生徒の約7割が小・中学校に就学して、障害に応じた教育を受けている。

(2)このように、特殊教育は障害の状態等に応じた弾力的な教育的対応にも配慮しつつ、障害のある児童生徒の教育の機会の確保のために重要な役割を果たしてきた。また、この間、盲・聾・養護学校等において、障害の種類や程度に対応した教育上の経験、ノウハウ等の蓄積、障害に対応した施設や設備の整備等の条件整備が進められるなどにより、障害のある児童生徒の教育の基盤整備については、全ての子どもの学習機会を保障するとの視点から、量的な面において概ねナショナルミニマムは達成されているとみることができる。

2.障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化

(1)障害のある児童生徒の教育をめぐっては、1最近では、養護学校や特殊学級に在籍している児童生徒が増加する傾向にあり、通級による指導を受けている者も平成5年度の制度開始以降増加してきていること、2また、LD、ADHD、高機能自閉症により学習や生活の面で特別な教育的支援を必要とする児童生徒数について、平成14年文部科学省が実施した「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」(別添)の結果は、その調査の方法が医師等の診断を経たものでないので、直ちにこれらの障害と判断することはできないものの、約6%程度の割合で通常の学級に在籍している可能性を示していること、3さらに、盲・聾・養護学校に在籍する児童生徒の障害の重度・重複化が進んでおり、概ね半数近くの児童生徒はその障害が重複していること、肢体不自由の養護学校等では日常的に医療的ケアを必要とする児童生徒が増加していること、知的障害養護学校に多く在籍している自閉症の児童生徒に対する適切な指導法の開発が課題となっていること等の情勢の変化があり、これらを踏まえて今後の適切な教育的対応を考えていくことが求められている。

(2)また、LD、ADHD、高機能自閉症の児童生徒については、これまでその定義、判断基準が明らかでない等の理由から、学習や生活上での困難を抱える子どもの早期発見、専門家等との連携による適切な指導体制の確立等の十分な対応が図られてきておらず、その教育的対応が重要な課題となっている。今後は、これらの児童生徒についても、特殊教育の対象とされる視覚障害、聴覚障害、知的障害等の児童生徒と分けて考えることなく、一人一人の教育的ニーズに応じて特別の教育的支援を行うという視点に立ち、教育的対応を考えることが必要である。
 これにより特別の教育的支援を必要とする範囲は、対象児童生徒数の増加等にみられるように、量的に増加するとともに、対象となる障害種の多様化により、質的に複雑化することとなるため後述する制度の見直し、教育システムの再構築、指導面で高い専門性を有する人材の養成等の取組が必要である。また、人員の配置、施設や設備の整備等について適正な条件整備を図ることも課題の一つであり、近年の国・地方公共団体の厳しい財政事情等を踏まえ、既存の特殊教育のための人的・物的資源の配分の在り方について見直しを行いつつ、また、地方公共団体においては地域の状況等にも対応して、具体的な条件整備の必要性等について検討していくことが肝要である。

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