特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議(第13回) 議事要旨

1.日時

平成21年5月20日(水曜日)10時~12時30分

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.議題

  1. 義務教育段階を中心とする特別支援教育の推進体制の充実について 1,事務局による説明(今後の主要検討事項及びスケジュール) 2,事例発表1(上田清次 横浜市立大曽根小学校校長) 3,事例発表2(佐々木智美 上尾市立西中学校特別支援教育コーディネーター)
  2. 自由討議
  3. その他

4.議事要旨

  (1) 髙倉座長より挨拶が行われた。

  (2) 事務局より配布資料の確認が行われた。

  (3) 上田校長及び佐々木教諭より資料に基づき発表が行われた後、自由討議となった。その概要は以下のとおり。

    〔概要〕○:委員 ◎:ヒアリング者 △:事務局

 

(神奈川県横浜市立大曽根小学校)

○ 1学級当たりの児童生徒は何名で編制しているか教えてほしい。また、専科体制を導入している趣旨と、一部見直した趣旨は何か。過去に専科教員と子どもの間で問題が生じたために見直しを行ったとのことだが、それは特別な配慮を要するような子どもに関わることであったのか。最後に、校長先生から各校に対する人的支援について要望があったが、県費や市費による助成等はあるのか。

◎ 1学級当たり児童生徒数はおよそ37~38名。6年生が最も少なく、1学級33名。専科体制については、おそらくどの学校でも導入していると思う。高学年になると音楽や家庭科などの教科の専門性が高くなり、小学校全科の免許状では、指導に困難を伴う。このような教科に対する指導上の専門性確保や教材研究の時間の確保を図るという趣旨から、特定の教科を専門的に担当する教員を配置している。専科教員と子どもの問題は、特別な配慮を要する子どもに関するものが多い。特別な配慮を要するような子どもは、授業開始時間までに準備が間に合わないことがある。専科教員は、担当する教科のみ指導すれば良いとの思いが強く、このような場合の責任を、学級担任教員の責任にしてしまう。そのようなことから、学級担任教員は、子どもに注意してしまうことになる。一方、サポートティーチャーは学年担任の一人として行動するので、今申し上げた事例のような問題にも責任を持って対応する。人員支援の点については、横浜市も県と交渉し、教員の加配措置等を確保しているようだが、横浜市の学校数は346校と多く、加配措置は各校まで行き渡らない。また、予算が措置されたとしても、人材の確保は学校対応となることもある。

○ 資料2、7ページにあるサポートティーチャーの指名等に関して配慮していることについて教えてほしい。

◎ 教務主任は業務多忙であるため、また、特別支援学級の担任は、通常の学級の担任との関係に対する配慮から、特別支援教育コーディネーターには、教務主任や特別支援学級担任を指名しないこととしている。通常の学級の担任やサポートティーチャーを特別支援教育コーディネーターに指名している。教諭経験10年~15年程度の者を特別支援教育コーディネーターに指名しており、サポートティーチャーについては、学年主任を任せることが可能である程度の能力を持つ教員を指名している。サポートティーチャーに初任者を指名することはない。また、子どもと教員の間に入り、子どもと共感し、考えを伝えることができる教員を指名している。さらに低学年では女性教員が多いということもあり、あえて男性教員をサポートティーチャーに充てるなどの工夫も行っている。

(埼玉県上尾市立西中学校)

○ 資料3、18ページのアンケートは、特別支援学級の生徒に対しても実施しているのか。

◎ 特別支援学級の生徒に対しても、可能な限り、同形式でアンケートを実施している。文言が難しいので、表現を分かりやすくして実施する場合もある。

○ それでは、この円グラフは両方の学級の生徒に対するアンケートの結果と考えてよいか。

◎ 今回提示しているデータは、通常学級を対象にしたアンケートの結果のため、特別支援学級の生徒を対象にしたアンケート結果は含まれない。

○ 資料3、9ページの「部会2 通常学級における特別支援教育の在り方」中の「研究のねらい」の中に、「『困っている』を感じている生徒」が挙げられているが、そのような生徒はどの程度いるのか、またどのような生徒であるのか、教えてほしい。

◎ 従前から手のかかる生徒は存在したが、ここでの「困っている」は特別支援教育からの視点であり、「困り感」という表現が用いられることがある。埼玉県では、「困難さ」、「不自由さ」と表現する。そのような視点から作成された県からの資料などを、学年や校内の支援委員会で取り上げ、検討を重ねた上で、事例対象の生徒を決めている。本校では、この2年間研究委嘱を受けており、8名の生徒を事例対象としているが、医療的な診断に基づくものではなく、校内において支援が必要であると思われる生徒。多動傾向だったり、学習能力的支援が必要であったり、不登校傾向があるなどさまざま。新1年生においても数名の生徒を事例対象に挙げて、校内全体の体制づくりを進めているところである。

(自由討議)

○ 資料2、3ページの「教育相談を保護者に勧めたい児童約15人」を、「特別に配慮を要すると診断された児童数32人」に加えた児童数47人は、全校児童数734名中6.4%程度を占めることとなり、全国平均と同程度の学校といえる。

  家族への支援が、今後の取組における大きな課題としてあると思うが、小学校や中学校の各段階においては、どのような対応が可能か。様々な課題を持つ子どもの保護者に対する日常的な接し方など、教えてほしい。

  2点目として、特別支援教育コーディネーターの指名について意図的な対応をされているようだが、その結果として確認できた良好な事例について教えてほしい。

  3点目として、中学校の事例は、1年生の「困難さ」や「不自由さ」を持つ生徒を対象とした事例の検討とのことだが、このような生徒に接する教員側の対応など校内体制について補足説明をお願いしたい。また、説明のあったスキル教育について、日常の授業における活用方法や、今後の見通しなど補足説明をお願いしたい。

◎ 保護者対応の点について、特別支援教育も含め、学校教育の根幹として、まずは子どもをどのように育てていくかという視点が非常に重要。保護者にも伝えることだが、まずは子どもの自立を目指さなければならないと思う。それについては、保護者や担任に対して、自立についてどう考えるかを質問として投げかけている。その答えとして、子どもの存在感がある。社会の中での存在感を子どもに自覚させると同時に、その存在感を大切にして生きるという生き方を身につけることが一番大事、学力で存在感を発揮する子どももいれば、グループの中での存在感を発揮するために自らの長所を発揮していく子どももいる。そのようなことを考えることが小学校では特に大事。保護者には、そのところから説明する。

  保護者が特別支援教育に期待するのは学力アップであることが多いが、その子どもたちに必要なのは学力アップ以上に、学習への姿勢や集団の中でのコミュニケーションのとり方などの基本的な部分であり、保護者にはそのことを伝えている。

 担任、校長、サポートティーチャー、特別支援教育コーディネーターに共通するが、最終的に、子どもの進学などの将来に対する見通しに基づき必要とされる能力について、保護者と話し、その点から生活面や学習面の指導について指導計画を作成する。

  特別支援教育コーディネーターについて、良かった事例としては、本校ではどの教員もすべての情報を校長ではなく、まずコーディネーターの3人に入れ、重要な案件等については、その後にある程度の方向性をつけた上で、私に話を持ちかける。1年目は校長が直接指示することも多かったが、2年目、3年目になると、自主的に考え、特別支援教育コーディネーター同士が連携しながら、解決するようになった。すべての情報が特別支援教育コーディネーターに集約されることで、問題は図式化され、把握が容易となる。学校として何かあったときには、特別支援教育コーディネーターが中心となり発言をするので、非常に取り組みやすい。これが利点である。

◎ 校内体制について、本校規模の学校では、学年単位での取組が基本。現在、3年生にも支援を必要とすると思われる生徒は在籍している。3年生に対しては、校内委員会などを通じて情報交換を行うことで対応している。

  スキル教育については、スキル教育という言葉がひとり歩きしてしまわないようにというのが本校の考え。きちんとした経験を積んでこなかったために、今やらなければならないことができていないような生徒などに、体験学習などを通して実際の社会の中でも使えるようなスキル・トレーニングを実施してきた。

  その視点を、特別支援教育に置きかえて、周囲の生徒との関わり方がうまくいかない場合や、その授業に参加する方法がうまくわからないといった生徒に対して、授業規律の部分で、取り組み方のアドバイスを行う、あるいは教員側から授業展開の中で子どもたちに身につけさせたいスキルを生徒に提供するなどという取組が、本校のスキル教育で進めているもの。

○ 資料4の第1点目の特別支援学級教員養成課程や通級指導教室教員養成課程についての記述の意図について教えていただきたい。特別支援教育コーディネーター養成課程というよりは、現職教員も含めて、現在の教員養成課程の中に特別支援教育の科目を導入することが、まずは先決ではないだろうか。この点から、専門家を養成するということと、全教員にできるだけ特別支援教育の考え方を学習させることとの関連について、考えを教えてほしい。

○ ご指摘のとおり。一般教員向けの研修・講習と、地域の核になるスペシャリストの養成という二本立てが必要。特別支援学級に配置される多くの教員の免許状は小学校全科である。このため、教員は現場に入った後に一から勉強している。現在、初任者は増加しており、本市でも教員500人中300人が5年以下の経験という状態が、この一・二年続いている。その中で、教員養成課程の中に特別支援教育の科目を取り入れ、教員を目指す全ての者が特別支援教育を勉強することと、それとは別に、地域で区市町村を引っ張る方には特別の養成課程が必要であるとの考えに基づき、資料を作成した。

○ おそらく教員養成に関わる話になってくるであろう。教員養成のすべてにわたって特殊教育について学習するという仕掛けをつくったのが平成10年だと記憶しているが、その時は独立の科目を設定するところまで行かなかった。一部の科目の中に差し込むところまでであった。だから、少なくなくとも一つの科目を設定するところまでは必要ではないか。もう一つはスペシャリストとしての養成のための科目。それについては、現在特別支援教育コーディネーター養成コースなどを、既に設置している大学院などから拡大していくことが良いと思う。

○ 今回テーマにしている校内体制、指導の充実については、通級による指導に対しての定数改善が最優先課題。主にLDとかADHDの通級が独立して一つの対象になり、文部科学省で教員の加配を措置しているものの、対象児童生徒は平成18年度から21年にかけて1,011名の増加となっている。発達障害の疑いのある児童生徒は68万人と言われており、その全部について支援が必要とは思わないが、単純計算では、カバーするのに250年ぐらいかかる。この改善については頑張っていただきたい。

○ 配布資料にある体制整備に関して言うと、校内委員会の設置や特別支援教育コーディネーターの指名自体は簡単なこと。機能強化や質の向上など実態における実効性の確保が課題であり、実態把握などを含め施策の検討をお願いしたい。

○ 資料4にあった発達障害のための療育手帳については、発達障害を障害者自立支援法改正において、発達障害を障害者自立支援法の対象に含める法案が現在国会に提出されており、昨年の厚生労働省の社会保障審議会障害者部会においてもその方向での結論が提言されている。ただ、発達障害の扱いについては、現状の3障害の枠の中で扱うということにされており、精神保健福祉手帳の対象、もしくは精神保健の対象の一部に含めるという解釈が出ており、この路線ははっきりしない。資料においては、その点の整合性がないかもしれない。

○ 小学校の事例について、目立たない子どもの話があったが、学習面に特異な困難を持っている子どもの中には行動面に問題が出ないために目立たないという例がある。また、学習に困難は無くても、社会性などに問題があり外への影響がないために目立たないという例もある。そこのところにもご配慮いただきたい。

△ 先ほどの資料1-5の体制整備の件については、ご指摘のとおり、量の問題から質の問題を検討していく必要がある。その質をどうやって測定するか、また、どう把握するか、適した測定手法について検討しているところ。例えばだが、校内委員会は設置だけではなく、開催の回数を聞いてみたところ、複数回数、あるいは4回以上というのがかなりあるという結果だった。特別支援教育コーディネーターも同様に、実際に連絡調整をやったのかどうかということを聞いたところ、指名はしたものの、必要な連絡調整については未実施というのが20%程度あった。このような状況から、体制整備の質の問題についてはさらなる検証を図りたい。

○ 体制の整備はまず必要なこと。次にどう機能するか。そして、その成果がどうであったかということまで視野に含めて総合的な議論をしていくことになるのではないかと思う。

○ まず平成19年4月の特別支援教育の推進についての通知の2番目に、校長の責務ということがあり、その中にリーダーシップの発揮について記載されている。今回の小学校の事例は、まさにそれを具現しているところに感銘を受けた。現場からは、予算や人が不十分なことを理由にして、推進できないと言われることが多いが、それがなくても、校内支援体制一つを例にとっても、大きな工夫の余地がまだあるということを痛感した。

○ アプローチの仕方というのは学校の状況や子どもたちの様子、地域の実態により様々であり、まさに校長の力量とセンスにかかわっていると思う。専科についても、校内的には当初抵抗があったと思われるが、うまく活用されていると感じた。担任教員は、子どもたちを平面的にとらえがちであるが、そこに例えば専科の目とか、サポートティーチャーの目が入ると、別の側面から見ることが可能となり、より子どもを立体的に生きた子どもとしてとらえることが可能になる。

○ 特別支援教育コーディネーターについては、指名してお任せみたいな点があり、特別支援教育コーディネーター本人としては自分で何をやるのか分からないといったようなことを聞く。特に、中学校、高校になるとなかなか難しいところがあるようだ。そういった意味では、特別支援教育コーディネーターを学校の体制の中で複数という形で置いているのは、非常に機能しやすいであろう。特別支援教育コーディネーターも、深い専門性を求められてきているところはあると思う。

○ 特別支援教育コーディネーターが1人で抱え込んでしまう状況では、特別に教育に対する専門性が高くないと、それを全部に求めるというのは難しいと思う。もちろんその専門性を高めていくことも並行して必要なのであろう。ある意味、部分的に携わることができる、そういう複数体制も特別支援教育コーディネーターのあり方として、学校によっては非常に意義のあることと痛感した。

○ 特別支援教育が始まり、3年目を迎えた現在においては、理屈上の問題よりも実態をどう進めていくかが大事。それに関して、初等中等教育局長通知においては校長がリーダーシップを発揮することが記載されており、また資料1-7においても位置づけが記載されているといった具合に、校長の判断で最も実情に即した位置付けを行っていくことが求められている。特別支援教育を推進していくために大事なのは、学校の中の若い教員からある程度年齢を召した経験豊富な方まで含めて共通の理解を持ち、子どもたちに向けて、各々が信頼し合いながら進めていくことである。

 

(4) 事務局より今後の会議の運営について説明があり、閉会した。

 

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初等中等教育局特別支援教育課

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