特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議 審議経過報告

平成22年3月24日
特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議

 

目次

はじめに

1.特別支援学校における現状と課題
(1)改正学校教育法への対応
(2)交流及び共同学習(副籍、支援籍等の取組を含む)
(3)職業教育・就労支援

2.早期からの教育支援、就学相談・指導

3.小・中学校における特別支援教育の現状と課題
(1)校内体制の整備
(2)特別支援教育コーディネーター
(3)個別の教育支援計画
(4)個別の指導計画
(5)特別支援教育支援員
(6)特別支援学級、通級による指導
(7)特別支援教室構想

4.高等学校における特別支援教育

5.教員の特別支援教育に関する専門性の現状と課題
(1)特別支援学校教員の専門性
(2)小・中学校の担当教員等(特別支援学級担任、通級指導、担当教員、特別支援教育コーディネーター)の専門性
(3)小・中学校等の通常の学級担任の専門性

6.学校外の人材や関係機関、民間団体等との連携協力
(1)学校外の人材の活用と関係機関との連携協力
(2)親の会、NPOや学校ボランティア等との連携協力

○参考資料

 

はじめに

 特別支援教育については、平成17年12月の中央教育審議会答申(「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」)により、「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、それに対応した適切な指導及び支援を行う」という理念及び制度改正の方向が示された。これに基づき、平成18年6月に学校教育法が改正され、平成19年4月から新たな制度としてスタートした。

 現在、都道府県や市町村、各学校における特別支援教育の体制整備は一定程度進みつつあるが、特別支援教育の理念の実現という観点からは、これらの取組は今後更に時間をかけて進めるべきものであり、特別支援教育の更なる質的な充実を図るためにはなお多くの課題がある。

 このような状況の中、本協力者会議は、平成20年7月に設置されて以来、21回にわたり、(1)幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における特別支援教育の推進体制の整備、(2)乳幼児期から学校卒業後までの一貫した支援、(3)障害のある児童生徒の就学等について検討を行ってきた。その間、平成20年11月には関係する12の団体からヒアリングを行い、平成21年2月には、「早期からの教育支援の在り方」に係る審議の中間とりまとめを行った。

 また、平成21年4月より高等学校における特別支援教育の推進についてワーキング・グループを設置して7回にわたり検討を行い、同年8月に高等学校ワーキング・グループとしての報告をまとめた。

 その後も精力的に検討を重ねてきたところであるが、今回、本協力者会議におけるこれまでの検討について論点整理を行い、(1)特別支援学校における現状と課題、(2)早期からの教育支援、就学指導、(3)小・中学校における特別支援教育の現状と課題、(4)高等学校における特別支援教育、(5)特別支援教育担当教員の専門性に関する現状と課題、(6)学校外の人材や関係機関、民間団体等との連携協力、について、審議経過報告として取りまとめた。

 現在、政府の「障がい者制度改革推進本部」の下に「障がい者制度改革推進会議」が設けられ、障害者の権利に関する条約の批准に向け、障害者に係る制度の改革に関する議論が進められている。当該会議でも、インクルーシブ教育システムの構築という同条約の理念を踏まえた制度改革の基本的な方針が議論されているが、本審議経過報告で示した論点について今後更に幅広い層の意見を取り入れつつ議論、検討が深められることが望まれる。これによって、早期からの教育支援の体制が整備されるなど特別支援教育の更なる充実が図られ、就学前から就学先のそれぞれの学校において、子どもたちの将来の自立と社会参加に向けて、一人一人の教育的ニーズに対応した適切な指導及び必要な支援が推進されることを期待するものである。

 

1.特別支援学校における現状と課題

(1)改正学校教育法への対応

 平成19年4月に特別支援学校制度に関して規定された改正学校教育法が施行され、従来の盲・聾・養護学校が特別支援学校として一本化され、在籍する障害のある幼児児童生徒への教育に加え、幼稚園、小・中学校及び高等学校等の要請に応じて助言・援助を行う、いわゆる「センター的機能」が付加された。

○現状・これまでの取組

 この制度改正に対応し、特別支援学校に係る取組が以下の通り行われている。

  • 旧盲・聾・養護学校の校名変更の状況(H21.4現在)427校(41.5%)
  • 複数の障害種を対象とする特別支援学校の状況(H21.4現在)146校(14.2%)
  • 特別支援学校のセンター的機能についての都道府県教育委員会の取組状況(H19年度中)
    • 支援に関する指針(ガイドライン・要項)等を示している・・・26自治体
    • 旅費等について予算化している・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35自治体
    • センター的機能に関する研修を実施している・・・・・・・・・・・41自治体

 なお、文部科学省においては、上記法改正を踏まえ、「特別支援教育の推進のための学校教育法等の一部改正について」(H18.7文部科学事務次官通知)を発出し、その中で、特別支援学校については、次のような留意事項を示した。

  • 各特別支援学校においていずれの障害種別に対応した教育を行うこととするかについては、当該学校の設置者がそれぞれの地域の実情に応じて判断することとなること。その際、幼児児童生徒ができる限り地域の身近な特別支援学校に就学できるようにすること、同一障害の一定規模の集団が確保されるようにすること等を勘案しつつ、障害の重複化への対応という制度改正の趣旨を踏まえ、可能な限り複数の障害種別に対応した教育を行う方向で検討されることが望ましいこと。
  • 特別支援学校の行う助言又は援助(いわゆるセンター的機能)に関しては、法律に規定されている「幼稚園、小学校、中学校、高等学校又は中等教育学校」のみならず、保育所をはじめとする保育施設などの他の機関等に対しても同様に助言又は援助に努められたいこと。

 また、「特別支援教育の推進について」(H19.4初等中等教育局長通知)において、特別支援学校における取組の考え方、留意事項等を次のとおり示した。

  • 従来の特別支援教育の取組を更に推進しつつ、様々な障害種に対応することができる体制づくりや学校間連携を一層進めること。
  • 地域における特別支援教育のセンター的機能については、個別の指導計画や個別の教育支援計画の策定への援助も含め支援に努めること、保育所をはじめとする保育施設などの他の機関等に対しても同様に助言・援助に努めること、特別支援教育コーディネーターは関係機関、保護者、地域の各学校等との連絡調整を行うこと。
  • 様々な障害種についてのより専門的な助言などが期待されていることに留意し、教員の専門性の更なる向上を図ること。

○検討の方向性及び課題

(在籍者への対応)

 各都道府県において、特別支援学校の近年の在籍者数の増加や対象となる幼児児童生徒の障害の重度・重複化等の状況を踏まえ、特別支援学校の複数障害への対応も含めた適正配置に向け、規模の適正化を含め計画的な整備を行うことが重要である。

 また、各特別支援学校においては、在籍する幼児児童生徒に対して質の高い教育を実施できるよう、新しい学習指導要領(平成21年3月公示)において示された個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成・活用を推進するとともに、教員の専門性の向上、指導内容・方法等の改善・充実に取り組む必要がある。

(センター的機能)

 特別支援学校のセンター的機能については、どのような助言・援助が可能か等について、幼稚園、小・中学校、高等学校等(保育所等も含む)への理解啓発を図る必要がある。

 また、センター的機能をより有効に活用するためには、特別支援学校の教員が小・中学校等の校内研修や授業公開に参加すること等により、日頃から支援先の学校の状況を把握するように努め、小・中学校等の新しい学習指導要領等(幼・小・中:平成20年3月公示、高等学校:平成21年3月公示)において示された個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成・活用等への援助に積極的に取り組むことが大切である。

 その際、発達障害を含む多様な障害に応じた指導・支援の充実を図る観点から、例えば、新学習指導要領に示された自立活動の指導内容としての「他者とのかかわり」等について、特別支援学校のセンター的機能の発揮・活用を図ることが重要である。特に、小・中学校における重要課題となっている自閉症の児童生徒に対する指導・支援については、その特性に応じた教育課程の在り方や指導内容・方法の工夫等に係る調査研究事業 の進捗・成果等を踏まえつつ、特別支援学校のセンター的機能の活用について検討していくことが求められる。

 さらに、就学指導・支援に関する情報や専門機関についての具体的な情報の提供等、小・中学校等で必要とされるセンター的機能の提供を図るため、特別支援学校教員の専門性の向上や特別支援学校のサテライト拠点 の設置、関係機関とのネットワークづくり等に取り組むことが期待される。

 同時に、国や都道府県においては、センター的機能の更なる向上のために、特別支援教育コーディネーターの機能強化のための人的措置等に取り組む必要がある。

(2)交流及び共同学習(副籍、支援籍等の取組を含む)

 特別支援学校や小・中学校等が、それぞれの学校の教育課程に位置付けて障害のある者とない者が共に活動する交流及び共同学習は、障害のある幼児児童生徒の経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で大きな意義を有する。加えて、障害のない幼児児童生徒にとっても、障害のある子どもやその教育について理解と認識を深める機会となるなど、双方の幼児児童生徒にとって意義深い教育活動である。また、このような交流及び共同学習は、幼児児童生徒が他の学校の幼児児童生徒と理解し合うための絶好の機会であり、同じ社会に生きる人間として、互いを正しく理解し、共に助け合い支え合って生きていくことの大切さを学ぶ場ともなる。

 特に、特別支援学校の児童生徒が自らの居住地の小・中学校と交流及び共同学習を行うこと(居住地校交流)は、障害のある児童生徒にとっては居住する地域とのつながりを深めることができるとともに、地域の小・中学校の児童生徒や教職員にとっても、当該小・中学校の学区内に居住する特別支援学校に通学する児童生徒を知るとともに、学校全体の障害のある児童生徒に対する意識を変えることにつながるものである。

○現状・これまでの取組

 平成16年6月の障害者基本法改正により、交流及び共同学習を積極的に進め、相互理解を促進することが規定された(第14条第3項)。これを踏まえ、今回の学習指導要領等の改訂においては、幼稚園、小・中学校、高等学校について、交流及び共同学習を推進すること、特別支援学校においては交流及び共同学習を計画的、組織的に行うこと、また、地域の人々などと活動を共にする機会を積極的に設けることが位置付けられた。

 このほか、文部科学省においては、平成19年3月に全国特別支援教育推進連盟に委嘱し、障害のある児童生徒の居住する地域や特別支援学校を取り巻く地域での交流及び共同学習の先進的取組を集めた事例集を作成している。

 また、地方自治体においては、居住地校交流を自治体の制度として積極的に進める取組がみられる(東京都の「副籍」、埼玉県の「支援籍」、横浜市の「副学籍」など)。

○検討の方向性及び課題

 交流及び共同学習については、今後、これまでの取組事例を参考にしつつ、学校教育活動として適切に位置付け、更に積極的に取り組むことにより、心のバリアフリー化を推進することが大切である。

 特に、特別支援学校に就学する児童生徒が居住地校交流を行うことについて、保護者や教職員の理解啓発を図ることが大切である。また、直接的な交流及び共同学習として参加する授業の教育課程上の位置付け・評価や、送迎、付き添い、安全確保の在り方、特別支援学校側の指導体制等の具体的な課題について検討を深めることが必要である。その際、特別支援学校の教員と小・中学校の教員の役割分担やボランティア等の活用の在り方についても検討する必要がある。

 さらに、これまで行われてきた学校間の交流及び共同学習並びに居住地校との交流及び共同学習について、教育課程全体としてのバランスを考慮して、計画的・組織的に取り組むことが必要である。

 このほか、障害のある幼児児童生徒と障害のない幼児児童生徒間の交流及び共同学習のみならず、幅広い障害や困難・ニーズに対する理解を推進するとともに、異なる障害種別を対象とする特別支援学校間における交流や理解を進めるための取組も必要との意見もあったところである。

(3)職業教育・就労支援

 障害のある児童生徒が、生涯にわたって自立し、社会参加していくためには、企業などへの就労を支援し、職業的な自立を果たすことが重要である。このため、福祉から雇用に向けた施策と同時に、職業教育や進路指導の充実など学校卒業後の就労に向けた取組を進めるなど、教育、労働、福祉、医療、保健などの関係機関が一体となった施策を講じることが必要である。

○現状・これまでの取組

 就労拡大に向けた関係者の取組は進みつつあるものの、平成21年3月に卒業した特別支援学校高等部(本科)の卒業生のうち、就職した者は23.7%と依然厳しい状況にある。

 文部科学省においては、「障害者福祉施策・特別支援教育施策及び障害者雇用施策の一層の連携の強化について」(H19.4初等中等教育局長通知)の中で、関係機関の一層の連携強化を求めるとともに、厚生労働省と連携し、特別支援学校における職業教育や進路指導の改善を図り、職域・職種を拡大するための方策など先進的な研究を行う「職業自立を推進するための実践研究事業」を実施した(H19年度~20年度)。

 また、新しい特別支援学校高等部学習指導要領においては、自立と社会参加に向けた職業教育の充実に関し、地域や産業界等と連携し、職業教育や進路指導の充実を図ることを規定するとともに、特別支援学校高等部(知的障害)の専門教科として「福祉」を新設したところである。

○検討の方向性及び課題

(教育課程・指導内容)

 特別支援学校高等部においては、職域の拡大も視野に入れつつ、時代のニーズに合った就労につながる職業教育に関する教育課程の見直しや就労に向けた支援方法の開発を推進する必要がある。

 また、生徒自身が働くことについての意識を高めることができるようなキャリア教育に関する取組が必要であり、小・中学部段階からの職場体験活動の機会拡大など多様な就業体験の充実を図るとともに、体系的なソーシャルスキルトレーニングの導入についても取り組むべきである。さらに、生徒の就労意識を高める上では、保護者の接し方が重要であることから、様々な機会を通じて保護者の理解促進・啓発を図る必要がある。

(関係機関・企業等との連携)

 特別支援学校とハローワーク等の関係機関が連携し、企業関係者向けのセミナーや学校見学会を開催し、企業側の障害者雇用への理解促進を図ることが求められる。また、特別支援学校の進路指導担当教員が地域の就労支援ネットワークに参画し、学校における職業教育の状況や就労支援、生活支援等に関する情報をハローワーク、職業センター、企業等と共有することも大切である。

 さらに、現場実習先の開拓や就労先の拡大のため、特別支援学校に就職専門員としてハローワーク退職職員等を配置することも有効と考えられるほか、就労支援における「個別の教育支援計画」の活用に当たり、関係機関との連携強化、家族の理解啓発、個々の生徒の特性・障害の状態の把握や必要な支援の提供等について検討することが必要である。

 このほか、特別支援学校において農業高校や工業高校等の充実した職業教育のための施設の利用を含めた連携・交流を図ることは、専門的な技術の習得など職業教育・就労支援を充実する上で有効である。また、高等学校に在籍する支援が必要な生徒に対して、特別支援学校が連携して職業教育や就労支援を行うことができるよう検討することも必要であるとの意見があった。

 

2.早期からの教育支援、就学相談・指導

 平成21年2月、本協力者会議の審議の中間とりまとめ「早期からの教育支援の在り方について」において、次の事項について提言・報告を行った。

○1早期からの教育相談・支援の充実
○2就学指導の在り方
○3継続的な就学相談・指導の実施
○4居住地の小・中学校とのかかわり
○5市町村教育委員会等の体制整備
○6障害者の権利に関する条約

 特に、上記○2及び○3の提言を踏まえた就学相談・指導の在り方については、これら提言を基に、今後、障害者の権利に関する条約批准のための政府全体の障害者制度改革の検討状況も踏まえつつ、更なる検討を加えることが必要である。

 

3.小・中学校における特別支援教育の現状と課題

(1)校内体制の整備

 発達障害を含む障害のある児童生徒に対して適切な教育を行うため、各小・中学校等において特別支援教育に関する校内委員会の設置、実態把握の実施、特別支援教育コーディネーターの指名、個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成・活用、巡回相談や専門家チームの活用、特別支援教育に関する教員研修の実施等の校内体制の整備が必要である。

○現状・これまでの取組

 平成19年4月に施行された改正学校教育法では、小・中学校等において、発達障害を含む障害のある児童生徒等に対して適切な教育を行うことが規定された。これを受けて文部科学省においては、「特別支援教育の推進について」(H19.4初等中等教育局長通知)により、各学校における体制整備等の推進について指導を行っているところである。

 平成20年度の校内体制整備の状況は、公立の小・中学校については、校内体制に関して比較できるすべての調査項目で前年度を上回っており、全体として体制整備が進んでいる状況がうかがえる。また、「校内委員会の設置」や「特別支援教育コーディネーターの指名」といった基礎的な支援体制はほぼ整備されているが、「個別の指導計画の作成」、「個別の教育支援計画の作成」については進捗が見られたものの、未だ十分とは言えない状況にある。

 一方、私立の小・中学校については、全体的に体制整備の遅れが見られ、「校内委員会の設置」、「特別支援教育コーディネーターの指名」など基礎的な支援体制も十分とは言えない状況にある。

○検討の方向性及び課題

(校内体制の整備)

 小・中学校においては、通常の学級に在籍する学習障害(LD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症等、発達障害のある児童生徒に対する支援が課題であり、このため、特別支援教育に関する校内体制を整備する必要がある。特に、「校内委員会の設置」や「特別支援教育コーディネーターの指名」といった基礎的な支援体制は数字の上ではほぼ整いつつあるが、これらが実際に機能しているかどうかなど、支援体制の「質」を評価すべき時期にきている。

 障害のある児童生徒一人一人に対する支援の「質」を一層充実するためには、校長のリーダーシップの下、校内委員会の実質的機能発揮のための全校的体制の構築、個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成・活用、教員配置の検討や教員の専門性の向上などに取り組むことが必要である。

 また、全体的に遅れが見られる私立の小・中学校についても体制整備を進めるべきであり、市町村教育委員会等においては私立の小・中学校にも巡回相談や教員研修の案内を行うなど配慮をすることが大切である。

(校長のリーダーシップ)

 このような特別支援教育の校内体制が実質的に機能するためには、校長の特別支援教育実施の責任者としての自覚、適切なリーダーシップが極めて重要であり、教育委員会等は校長に対する特別支援教育の研修を確実に実施する必要がある。

(教員配置)

 特別なニーズのある子どもに対して的確な対応をするためには、教員配置の在り方についても検討すべきである。通級による指導のための教員定数改善も年々図られているところであるが、発達障害のある児童生徒数は義務教育段階において約68万人と推計されており、今後も通級による指導の充実のための定数改善が必要である。また、小・中学校の学級に発達障害の児童生徒が広く在籍する可能性があることを考慮し、1学級当たりの児童生徒数についても検討すべきである。

(2)特別支援教育コーディネーター

 特別支援教育コーディネーターは、学校内の関係者や福祉・医療等の関係機関との連絡調整及び保護者に対する学校の相談窓口として、校内における特別支援教育に関するコーディネーター的な役割を担う教員であり、校務分掌として校長が指名するものである。

○現状・これまでの取組

 「特別支援教育の推進について」(H19.4初等中等教育局長通知)において、各学校の校長は、特別支援教育コーディネーターを指名し、校務分掌に明確に位置付けることとされた。さらに、特別支援学校においては、地域における特別支援教育のセンターとしての機能の充実を図るため、特別支援教育コーディネーターは関係機関や保護者、地域の幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び他の特別支援学校並びに保育所等との連絡調整を行うとともに、専門性の更なる向上を図るよう指導を行っている。

    ・特別支援教育コーディネーターの指名率(H20.9.1現在)

<国公私立別>

    (幼稚園)国立:67.3%、公立:74.4%、私立:28.8%、全体:46.4%
    (小・中学校)国立:77.0%、公立:99.8%、私立:22.4%、全体:97.6%

 また、各学校においては、特別支援教育コーディネーターの機能の向上のために次のような取組を行っている例がある。

  • 特別支援教育コーディネーターの指名
    • 1校に複数の特別支援教育コーディネーターを指名(小学校等)
  • 養成研修・資質向上
    • 経験、専門性、目的等に応じた研修の実施
    • 地域でリーダーシップを発揮する特別支援教育コーディネーターの養成
    • 特別支援教育コーディネーター同士が情報交換する場の設定
  • 不登校対応コーディネーターとの連携
    • 特別支援教育コーディネーターが活動しやすくなる工夫
    • 管理職を対象に特別支援教育コーディネーターについて解説する研修会を実施
    • 養成研修修了特別支援教育コーディネーターを学校に複数確保
    • 要請に応じて学校を訪問し支援する専門家の配置

○検討の方向性及び課題

(専門性の向上)

 学校により特別支援教育コーディネーターの経験や資質・専門性などの格差が大きいことから、特別支援教育コーディネーターが実質的に機能するためには、研修等を通じた人材養成の推進が必要である。また、民間主催の研修会や自主的な研究会を活用した特別支援教育コーディネーターの資質向上や連携協力を図ることも有効である。

 さらに、特別支援教育コーディネーターについては、専門性をもって対応できるよう、一定規模以上の学校に置いては複数配置等により専門性をカバーし合い、学校として組織的・機能的に対応できるようにすることが必要である。また、特別支援教育コーディネーターは1年程度で替わることが多く、支援の連続性の確保の観点からも、数年間特別支援教育コーディネーターを継続させることや、特別支援教育コーディネーターの複数配置を図ることなどが重要である。

(配置)

 大学院レベルの特別支援教育コーディネーター養成課程等において高い専門性を身に付けたスペシャリストを各地域に1~2名配置し、地域全体の特別支援教育の推進強化を図るべきである。

 また、可能な限り特別支援教育コーディネーターが校務に専念できるようにするため、特別支援教育コーディネーターの専任化についても検討すべきとの意見もあった。

(3)個別の教育支援計画

 個別の教育支援計画は、医療、保健、福祉、労働等の関係機関との連携を図りつつ、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って一貫した的確な教育的支援を行うために、障害のある幼児児童生徒一人一人について支援の内容等を示した計画である。

○現状・これまでの取組

 個別の教育支援計画の作成率(H20.9.1現在)は次のとおりである。

<国公私立別>

    (小・中学校)国立:21.1%、公立:52.3%、私立:6.7%、全体:50.9%

 また、「特別支援教育の推進について」(H19.4初等中等教育局長通知)及び小・中学校等の新しい学習指導要領等において、必要に応じて個別の教育支援計画を作成することなどにより、個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行う旨を示したところである。

○検討の方向性及び課題

 幼児児童生徒の一人一人のニーズに応じた適切な支援を行うためには、必要な幼児児童生徒に対し個別の教育支援計画を適切に作成・活用することが重要である。そのためには、個別の教育支援計画の作成・活用に関する実態把握や、作成・活用のための専門性・ノウハウについての小・中学校等への支援、特別支援学校のセンター的機能の活用、PDCAサイクルの確立等が必要である。

 同時に、個別の指導計画と同様に、小・中学校等における個別の教育支援計画の活用・評価に関する具体的かつ実践的な研修を実施していくことが求められる。

 個別の教育支援計画は医療、保健、福祉、労働等の関係機関と連携した支援を行うために活用するものであるが、これらの機関と個人情報を共有するためには、保護者・本人の同意を得ることや当該計画(票簿)の管理を適切に行うなど個人情報保護の観点に留意する必要がある。さらに、計画の内容について、学校と関係機関との間で共通理解を図るよう工夫しながら作成・活用することが重要である。また、個別の教育支援計画の作成にあたっては、保護者の積極的な参加を促し、計画の内容や実施について保護者の意見を十分に聞いて、計画を作成・実施し改善していくことが重要である。

 このほか、関係機関で作成している類似の計画(個別の支援計画、幼稚園における個別の教育支援計画、就学移行期における個別の教育支援計画、個別移行支援計画など)、関係団体や自治体により開発・活用されている相談支援ファイルなどとの関係について、生涯にわたる一貫した支援という観点から整理すべきであるとの意見もあった。

(4)個別の指導計画

 個別の指導計画は、幼児児童生徒一人一人の障害の状態等に応じたきめ細かな指導が行えるよう、学校全体の教育課程や指導計画、当該幼児児童生徒の個別の教育支援計画等を踏まえて、より具体的に幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標や指導内容・方法、配慮事項等を示した計画である。

○現状・これまでの取組

 個別の指導計画の作成率(H20.9.1現在)は次のとおりである。

<国公私立別>

    (小・中学校)国立:26.3%、公立:80.9%、私立:8.1%、全体:78.6%

 また、「特別支援教育の推進について」(H19.4初等中等教育局長通知)及び小・中学校等の新しい学習指導要領等において、必要に応じて個別の指導計画を作成することなどにより、個々の児童の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行う旨を示したところである。

○検討の方向性及び課題

 幼児児童生徒の一人一人のニーズに応じた適切な指導を行うためには、必要な幼児児童生徒に対し個別の指導計画を適切に作成・活用することが重要である。そのためには、個別の指導計画の作成・活用に関する実態把握、作成・活用のための専門性・ノウハウについての小・中学校への支援、特別支援学校のセンター的機能の活用、PDCAサイクルの確立等が必要である。

 同時に、小・中学校等における個別の指導計画の活用・評価に関する具体的かつ実践的な研修を実施していくことが求められる。

 個人情報保護との関係については、個人情報として当該計画(票簿)の管理は適切に行う必要があるが、計画の内容(教育上の課題、具体的な指導内容、必要な支援等)については、学年間や学校全体で共通理解を図ることができるよう工夫する必要がある。

 また、保護者との関係については、前述した個別の教育支援計画が保護者等との連携の下に作成されるものであるのに対して、個別の指導計画はあくまでも学校が実際の指導を行うために作成する計画であり、保護者からの情報を得た上で、学校の責任において作成すべきものである。

 このほか、個別の教育支援計画や個別の指導計画については、国において、使用者の範囲、保管方法、第三者への提供の在り方等に係るガイドラインを示すべきであるとの意見もあった。

(5)特別支援教育支援員

 特別支援教育支援員は、障害のある幼児児童生徒の学校教育における日常生活の介助や学習活動のサポートを行う者で、具体的には、食事、排泄等の補助、車いすでの教室移動の補助、LDの児童生徒に対する学習支援、ADHDの児童生徒等に対する安全確保等の支援を行っている。

○現状・これまでの取組

 特別支援教育支援員(介助員及び学習支援員等)の活用状況(H21.5.1現在)は次のとおりである。

    • (公立小・中学校)全体:31,173人(公立小・中学校設置数:32,018校)

 なお、文部科学省においては、特別支援教育支援員の配置に関する地方財政措置を平成19年度より実施している。

    • 平成21年度措置額:公立小・中学校 約360億円(約3万人相当)

 このほか、文部科学省の「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」 により、学生支援員の活用促進と特別支援教育支援員等への研修開催の促進を図っているところである。

○検討の方向性及び課題

 発達障害のある児童生徒数は、義務教育段階において約68万人と推計されるが、小・中学校の学級に発達障害の児童生徒が広く在籍する可能性があることを考慮し、地方財政措置の一層の充実や特別支援教育支援員の配置の一層の促進等を図る必要がある。また、地域により取組に差があることを踏まえ、特別支援教育支援員の活用が進んでいない地域においては、積極的に取り組むべきである。

 このほか、特別支援教育支援員について、その役割・機能に関する実態把握、人材確保や研修の在り方、教員と特別支援教育支援員との役割・責任の分担、学生支援員の活用促進等について検討することが必要である。

 また、現在、特別支援教育支援員の活用については各々の市町村の教育委員会において対応しているが、今後、関係機関と連携して対応する仕組みを作ることが必要であり、その中で、例えば行政とNPO等との連携やその活用を更に進めていくことも考えられる。

(6)特別支援学級、通級による指導

 特別支援学級は、障害の比較的軽い児童生徒のために小・中学校に障害の種別ごとに置かれる少人数の学級(上限8人)であり、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害、自閉症・情緒障害の学級がある。

 また、通級による指導は、小・中学校の通常の学級に在籍している障害の軽い児童生徒が、ほとんどの授業を通常の学級で受けながら、障害の状態等に応じた特別の指導を特別な場(通級指導教室)で受ける指導形態であり、指導の対象は、言語障害、弱視、難聴、自閉症、情緒障害、LD、ADHD等である。

○現状・これまでの取組

 特別支援学級在籍者及び通級による指導の対象者はいずれも増加傾向にある(H20.5.1現在)。

    • 特別支援学級数:40,004学級(小学校27,674学級、中学校12,330学級)
    • 特別支援学級在籍者数:124,166人(小学校86,331人、中学校37,835人)
    • 通級による指導対象児童生徒数:49,685人(小学校46,956人、中学校2,729人)

 なお、小・中学校の特別支援学級担任が特別支援学校教諭免許状を保有している割合は32%(H20年度)である。

 小・中学校の特別支援学級においては、学級編制基準上、手厚い措置(8人を上限として1学級)を行っているほか、通級による指導についても教員加配を行っている。

 また、学校教育法施行規則の改正により、平成18年4月からLD、ADHDを新たに通級による指導の対象として追加したところである。

○検討の方向性及び課題

 特別支援学級担任や通級指導担当教員の専門性の向上を図るとともに、児童生徒の実態に応じた教育課程を編成することが大切である。

 また、特に知的障害の児童生徒については、障害の特性や発達段階に応じた特別の教育課程や指導法による指導が効果的であることから、現在、制度上は、ほとんどの時間を通常の学級で通常の授業を受けることが前提となる通級による指導の対象にはなっていない。このことについて、現在の知的障害特別支援学級に在籍している児童生徒の実態を踏まえ、引き続き固定式の学級において適切な個別の指導計画の下で教育すべきとの意見がある一方、境界域の知的障害の児童生徒については、通常の学級に在籍しつつ若干の個別指導や少人数指導を受ける仕組みも検討すべきとの意見があった。

 さらに、特別支援学級における交流及び共同学習が進んでいない状況にあるとの意見もあることから、これを学校教育活動に適切に位置付けることにより、小・中学校の児童生徒の心のバリアフリー化を推進していくことも重要である。

 このほか、通級による指導については、通級指導教室における指導時間数が限定されていることへの対応のほか、新たに通級の対象となったLD、・ADHDへの対応の充実、自校通級に比して他校通級が多い実態への対応、巡回指導の促進等を図るべきである。

 また、病院内に設置されるいわゆる「院内学級」について、入院に伴う短期間の在籍でも学籍異動の手続きが必要となること等の課題を検討すべきであるとの意見があった。

(7)特別支援教室構想

 特別支援教室構想は、小・中学校において、LD、ADHD、高機能自閉症等を含めた障害のある児童生徒が、原則として通常の学級に在籍し、教員の適切な配慮、ティーム・ティーチング、個別指導や学習内容の習熟に応じた指導等の工夫により通常の学級において指導を行いつつ、必要な時間に特別の場で障害に応じた教科指導や、障害に起因する困難の改善・克服のための指導を行う形態であり、平成15年3月の特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議報告「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」の提言を受け、平成17年12月の中央教育審議会答申(特別支援教育を推進するための制度の在り方について)において構想として示されたものである。

○現状・これまでの取組

 特別支援教室構想の具現化に向けた取組として、特別支援学級と通常の学級との交流及び共同学習の促進、特別支援学級担任の一層の活用、通級による指導の対象者の拡大(LD、ADHDへの通級指導)等が行われている。

 また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において、「特別支援教室構想」に関する研究が行われた(平成21年3月報告)ほか、研究開発学校による特別支援教室構想に関する研究(学習指導要領によらない特別の教育課程の研究)が行われているところであり、以下の研究開発学校においては、校内の資源や支援体制に応じて個別の児童生徒に必要な特別の指導の内容や時間数について、知見及びデータを積み重ねているところである。

    • 大阪府高槻市立五領小学校(H17~19年度)
    • 宮城県仙台市立小松島小学校(H18~20年度)
    • 埼玉県熊谷市立富士見中学校(H19~21年度)
    • 茨城県坂東市立岩井中学校(H20~22年度)
    • 岐阜県高山市立東小学校(H21~23年度)

○検討の方向性及び課題

 特別支援教室構想については、現在の特別支援学級と通級による指導では制度として連続性がないため、児童生徒のニーズに応じて、指導時間においても連続性のある形で対応することが可能な制度にすべきとの意見や、知的障害のある児童生徒も、教科によっては通常の学級で学ぶことができる弾力的な仕組みについて検討すべきとの意見があるほか、特別支援教室構想は理想的ではあるが、その制度化に当たっては、教職員配置の在り方を含め、総合的かつ慎重に検討すべきとの意見もあった。

 他方、研究開発学校の成果として、特別支援教室構想の効果や有用性を示すデータも得られつつあることから、こうした成果も踏まえ、特別支援教室構想の制度化に当たっては、従来の特別支援学級での指導の在り方や、障害のある児童生徒の通常の学級での授業形態や評価方法について、改めて整理することが必要である。

 特別支援教室構想については様々な意見があるが、これまでの研究等を踏まえ、今後次のような課題について検討することが必要である。

  • 特別支援教室を障害種別に設置するか否か
  • 児童生徒が籍を置かない「教室」に対する教員配置システムの在り方
  • 特別支援教室及び在籍する通常の学級担当教員双方の専門性確保の在り方
  • 教育課程の編成・実施・評価の在り方(必要な指導時数、一貫性のある指導・支援、PDCAサイクルによる指導・支援の弾力的見直しなど)
  • 在籍学級と特別支援教室との指導・責任の分担
  • 現行制度において通級指導の対象外である、より軽度の障害のある児童生徒への対応の在り方

 さらに、教員配置システムを検討するに当たっては、次のような課題があり、これらについて検討することが必要である。

  • 教員数の算定について、例えば個々の児童生徒が特別支援教室で指導を受ける時間を積算し、必要な教員数を割り出すといった根本的な見直しが必要になること
  • 新入生の場合、年度当初の4月の段階で特別支援教室における指導内容、指導時間数を確定することができず、教員配置の積算が困難であること

 

4.高等学校における特別支援教育

 平成21年8月、本協力者会議高等学校ワーキング・グループ報告「高等学校における特別支援教育の推進について」において、次の事項について提言した。

○1高等学校における特別支援教育の必要性
○2高等学校における特別支援教育体制の充実強化
○3発達障害のある生徒への指導・支援の充実
○4高等学校入試における配慮や支援等
○5キャリア教育・就労支援等

 高等学校における特別支援教育の取組は緒についたばかりであり、今後、先進的な取組事例の蓄積、成果を踏まえつつ、上記の提言に沿って、高等学校における特別支援教育の推進、充実に積極的に取り組む必要がある。

 

5.教員の特別支援教育に関する専門性の現状と課題

(1)特別支援学校教員の専門性

○特別支援学校教員に関する免許制度

 特別支援学校教員については、幼・小・中・高等学校の教諭の免許状を基礎として特別支援学校教諭免許状を保有することが必要であり、特別支援学校教諭免許状には5つの教育領域(視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱)がある。

 ただし、幼・小・中・高等学校の教諭の免許状を有する者は、当分の間、特別支援学校教諭免許状を保有しなくても特別支援学校の教員になることが可能とされている(教育職員免許法附則第16項)。

○研修による専門性の確保への対応

 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における都道府県等の指導的立場にある者を対象とした研修のほか、各都道府県等の教育委員会主催の研修、各学校における校内研修等により専門性の向上を図っているところである。

○特別支援学校教員に求められる専門性

 特別支援学校教員に求められる専門性について、平成19年4月の教育職員免許法改正において次のとおり整理した。

  • 5つの障害種別(視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱)に共通する専門性として、特別支援教育全般に関する基礎的な知識(制度的・社会的背景・動向等)
  • それぞれの障害種別ごとの専門性として、各障害種の幼児児童生徒の心理(発達を含む)・生理・病理に関する一般的な知識・理解や教育課程、指導法に関する深い知識・理解及び実践的指導力
  • 特別支援学校のセンター的機能を果たすために必要な知識や技能(特別支援学校の特別支援教育コーディネーターには、小・中学校に比し、より幅広い専門性が要求される)

○現状・これまでの取組

 平成19年4月の特別支援学校制度化に伴い、従来の盲学校・聾学校・養護学校ごとの免許状が特別支援学校の免許状に一本化されたところであるが、平成20年度の特別支援学校における特別支援学校教諭免許状保有率は69.0%である。

 さらに、特別支援学校教員の専門性確保に関する国の取組は次のとおりである。

  • 各都道府県の教員等を対象にした専門性向上事業の実施
  • 文部科学省の「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」による都道府県等の研修実施の促進
  • 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における指導的立場にある者を対象とした各種の研修実施
  • 放送大学における特別支援学校の教諭免許状取得に活用できる科目の開設

 また、都道府県等の取組は次のとおりである。

  • 各都道府県・指定都市教育委員会における特別支援学校免許状の保有率向上の計画について、中期計画(5年以内)として数値目標を設定している都道府県及び指定都市:24県・市
  • 特別支援学校教諭免許状に関する認定講習の開催
  • 教育委員会主催の教員研修や校内研修の開催

○検討の方向性及び課題

(特別支援学校の専門性の確保)

 特別支援学校教員の専門性については、教員の養成、採用、配置(人事異動)、研修等を通じ、組織的かつ体系的に専門性の向上を図るべきである。

 特に、複数の障害を対象とする特別支援学校として整備を行う際には、それぞれの障害種ごとの専門性を担保することが必要である。

(教員免許)

 特別支援教育に係る教員免許制度の在り方に関しては、次のとおり様々な意見があるが、現在、文部科学省において、教員の資質向上方策について抜本的に見直すこととしており、特別支援学校教諭免許状の在り方についても、その動向を踏まえて検討する必要がある。

  • 教育職員免許法附則第16項について、時限を設けた廃止について検討すべき。
  • まずは特別支援学校教諭免許状の保有率の向上を図り、附則第16項が不要となる環境を整備し、その次に内容の充実を図る方法について検討すべき。
  • 特別支援学級や特別支援教室構想も踏まえた特別支援教育についての免許状の在り方を検討することが必要。
  • 特別支援学校教諭免許状の保有率の向上については、都道府県等の中期計画等に位置付けた取組の推進や免許法認定講習等の拡充が必要。
  • 特別支援学校教諭の免許状の各障害種に対応した教育領域に共通する専門性や教育領域ごとの専門性を考えていくことが必要。
  • 免許状取得過程において、特別支援教育に関する科目を全領域教授することが可能となる38単位をすべて履修することは、その分、教科に関する内容が薄くなることが懸念される。免許状取得の手順についても考えることが必要。
  • 特別支援学校教諭の免許状を含め、一般の教員の免許状取得要件の中にも「連携・調整能力」を特別支援教育の専門性の要素として盛り込むべき。

(採用・配置(人事異動))

 特別支援学校の専門性については、教員養成や採用、人事異動が強く影響するため、教員の採用や人事異動に当たっては、特別支援学校としての専門性の確保を考慮することが重要である。具体的には、特別支援教育を推進する上で、担当教員が短期間で異動することは大きな影響を生ずるため、各地方公共団体の判断により、特別支援学校としての障害種ごとの専門性の確保を考慮しつつ、同一校内における教員の在職年数の延長や特別支援学校間の適切な異動など弾力的な人事上の配慮を行うことが求められるほか、人材が限られている分野については、広域単位での採用も検討すべきである。

 また、特別支援学校の障害種に対応した教育領域について、在籍教員の免許状保有率の向上を図ることに加えて、将来の人事異動を念頭に置き、他の障害種の免許状の取得についても計画的に促進すべきである。

 さらに、障害の重度・重複化に対応し、自立活動を主として指導する場合の授業づくりについて、経験ある教員を育成すべきである。

(研修)

 通常の学校との間での人事異動の多い特別支援学校においては、異動してきた教員が、可能な限り短期間に日々の教育において必要とされる専門性を身に付けることができるよう、研修の充実を図ることが必要である。

 また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、各地域・自治体レベルでは対応の難しい高い専門性が要求される障害種への指導・支援の在り方をはじめ、国全体の特別支援教育に関する研修システムを調整する役割が求められている。このため中央における研修同様、地方における研修の質及び量を充実させるべく、同研究所を中核として、各自治体の教育センターや地方の大学との連携による研修ネットワークの構築を図ることが期待される。

(2)小・中学校の担当教員等(特別支援学級担任、通級指導担当教員、特別支援教育コーディネーター)の専門性

○小・中学校の特別支援学級担任、通級指導担当教員に関する免許制度

 現行制度では、幼・小・中・高等学校の免許状を保有していれば特別支援学級担任、通級指導担当教員になることが可能であり、その他特別の免許状の所持は必要とされていない。

 ただし、幼・小・中・高等学校の免許状取得に当たっては、教職に関する科目(「教育の基礎理論に関する科目」)中、「幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」において、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」を学ぶこととされている。

 また、実態としては、教科又は教職に関する科目において、特別支援教育に特化した内容の科目を開設している大学も見受けられる。

 なお、特別支援教育コーディネーターについても、その他特別の免許状の所持は必要とされていない。

○研修による専門性の確保への対応

 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における都道府県等の指導的立場にある者を対象とした研修、都道府県等の教育委員会主催の研修、各学校における校内研修等により、専門性の確保・向上を図っているところである。

○特別支援学級担任、通級指導担当教員、特別支援教育コーディネーターに求められる専門性

 特別支援学級担任、通級指導担当教員、特別支援教育コーディネーターに求められる専門性については、次のとおり整理した。

  • 特別支援教育全般に関する基礎的知識(制度的・社会的背景・動向等)
  • 障害種ごとの専門性として、担当する障害のある子どもの心理(発達を含む)や障害の生理・病理に関する一般的な知識・理解や教育課程、指導法に関する知識・理解及び実践的指導力
  • 小・中学校の特別支援教育コーディネーターについて、勤務する学校の特別支援教育を総合的にコーディネートするために必要な知識や技能

○現状・これまでの取組

 平成20年度の特別支援学級担当教員の特別支援学校教諭免許状保有率は32.0%である。

 文部科学省においては、「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」により、都道府県等の研修開催を促進している。

 また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において指導的立場にある者を対象とした各種の研修を実施しているほか、各教育委員会や学校においても特別支援教育に関する教員研修や校内研修を開催している。

○検討の方向性及び課題

(専門性)

 小・中学校においても、特別支援学級担任や通級指導担当教員の専門性の向上等により、各障害種の専門性を担保できる仕組みをつくることが求められる。特に、特別支援学級が増加する中で、特別支援教育の経験の少ない若い教員への支援の仕組みについて検討する必要がある。

 また、小・中学校の学習指導要領の改訂により、必要に応じて個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成する旨規定されたが、その作成のため、専門性のある者が支援する体制の確立を図ることが重要である。

 さらに、特別支援教育コーディネーターについても、その機能、役割を踏まえた専門性の確保が必要であり、3(2)に述べた配置の在り方も念頭に置きつつ、具体的な専門性確保の方策について検討すべきである。

(教員養成・免許)

 特別支援学級担任等についても、特別支援学校教諭免許状の取得を促進することが有効であり、免許状を取得しやすい環境の醸成を図ることが必要である。

 さらに、特別支援学級担任及び通級指導担当教員の養成の在り方や専門性の担保の在り方についても検討すべきであるとの意見があった。

(採用・配置(人事異動))

 特別支援学級担任等について、採用、配置、研修等を通じた専門性の向上方策について検討すべきである。

 また、特別支援教育を推進する上で、短期間での人事異動は大きな影響があるため、各地方公共団体の判断により、校内の特別支援教育の専門性の確保を考慮しつつ、同一校内における特別支援教育の専門性を有する教員の在職年数の延長や特別支援学校との適切な人事交流など、弾力的な人事上の配慮を行うことが必要である。

(研修)

 特別支援学級担任について専門的な研修を受ける機会を増やすことが必要である。特に、特別支援学級担任の授業力、学級経営力を育成するため、教育委員会が中心となり、研究授業等を内容とする研修システムについて検討すべきである。

 また、特別支援教育コーディネーターについても、専門性の確保が必要であるが、特別支援学級担任や通級指導担当教員と同様、校内における人員が少ないがゆえに特別支援学校教諭免許状を取得するための時間を確保することが困難な状況にある。このため、これらの者が免許を取得しやすい環境の醸成を図ることが必要である。

 さらに、民間主催の研修会や自主的な研究会を奨励し、特別支援教育コーディネーターの資質向上や連携協力を図ることも併せて検討すべきであるとの意見があった。

(3)小・中学校等の通常の学級担任の専門性

○小・中学校等の教員に関する免許制度

 学校教育法上は、幼・小・中・高等学校においても特別支援教育を行う旨規定されているが、教員免許については、特別支援学級担任等と同様、幼・小・中・高等学校の免許状の保有で足り、その他の免許状の所持は必要とされていない。

 また、幼・小・中・高等学校の免許取得に係る教職に関する科目における特別支援教育の内容としては、(2)で述べたとおり、「教育の基礎理論に関する科目」中の「幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」において、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」を学ぶこととされているように、内容は示されているものの時間数は示されていない。

 このため、小・中学校等の免許状を取得する者が特別支援教育について一層学べるよう工夫することが重要である。

 なお、実態としては、各大学において、教科又は教職に関する科目の中で、特別支援教育に特化した内容の科目を開設している例も見受けられる。

○研修による専門性の確保への対応

 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における都道府県等の指導的立場にある者を対象とした研修、都道府県等の教育委員会主催の研修、各学校における校内研修等により、専門性の確保・向上を図っているところである。

○小・中学校等の通常の学級担任に求められる専門性

 小・中学校等の通常の学級担任に求められる専門性については、次のとおり整理した。

  • 特別支援教育に関する基礎的知識(障害特性、障害に配慮した指導、個別の指導計画・個別の教育支援計画の作成・活用等)
  • 教育基礎理論の一環として、障害種ごとの専門性(障害のある幼児児童生徒の心理・生理・病理、教育課程、指導法)に係る基礎的知識

○現状・これまでの取組

 国公私立の小・中学校教員のうち、平成15年4月1日から平成20年9月1日までの間に特別支援教育に関する研修を受けた者の割合は58.8%である。

 文部科学省においては、「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」により、都道府県等の研修開催を促進している。

 また、教育委員会や学校においては、特別支援教育に関する教員研修や校内研修を実施している。

○検討の方向性及び課題

(専門性)

 多くの通常の学級の教員は、発達障害等の理解や知識、経験が不足しているとの声が聞かれる。また、その一方で、特別支援教育固有の視点のみでは特別支援教育の推進は困難であり、学級経営力、授業力、人間形成力など教員としての基本的資質の総合力が求められるものである。加えて、各教科などに特別支援教育の視点を加えた授業力や、特別支援教育について最低限必要な知識・理解の上での応用力・判断力・対応力等も重要である。

 そのため、小・中学校等においても、学校組織としての専門性をどのように担保するか、養成、採用、配置、研修の在り方について体系的に考える必要がある。

 また、小・中学校等の学習指導要領が改訂され、必要に応じて個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成する旨が示されたが、通常の学級においても、その適切な作成ができるよう専門性を備えた者が支援する体制の確立に関する検討が必要である。

(教員養成・免許)

 教育職員免許法施行規則第6条に規定される小学校教諭等免許状の取得に係る教職に関する科目等における特別支援教育に関する内容の位置付けについて、例えば、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」として取り扱うべき内容を具体化する等の検討をすることが必要であると考えられる。

 併せて、教員免許更新制度に関して、教員から大学に対して特別支援教育に関する講習開設の要望が強いこと等も踏まえ、教員養成及び資質向上方策における特別支援教育に関する内容について検討することも考えられる。

(研修)

 小・中学校等の教員についても、研修等を通じた特別支援教育に関する基礎知識の修得が必要であり、これらの教員を対象とした特別支援教育に関する校内研修や教育委員会等の主催する研修を充実すべきである。

 また、通常の学級で特別支援教育を推進するためには、学級経営力や児童生徒への的確な対応力が求められており、研修もより具体的で実践的な内容にすべきである。例えば、気になる児童生徒について、教員と専門医等が連携しながらケーススタディを行うことは、教員の理解を高める上で効果的である。

 

6.学校外の人材の活用や関係機関、民間団体等との連携協力

(1)学校外の人材の活用と関係機関との連携協力

 学校において質の高い特別支援教育を進めるためには、医師、看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)等の外部の専門家を総合的に活用することや、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との連携協力を進めることが必要である。

○現状・これまでの取組

 文部科学省においては、「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」により、地域の関係機関の連携協議会、専門家による巡回指導等の体制整備を推進してきた。また、「PT、OT、ST等の外部専門家を活用した指導方法等の改善に関する実践研究事業」 により、特別支援学校における医学、心理学等の専門家を活用した指導内容・方法等の改善についての実践研究を行ってきた。

 また、特別支援学校学習指導要領において、医療、福祉、保健、労働等の業務を行う機関との連携を図るために個別の教育支援計画を作成する旨を規定したほか、小・中学校等の学習指導要領においても、必要に応じ、医療、福祉等の業務を行う関係機関と連携した支援のための計画を個別に作成する旨を示したところである。

○検討の方向性及び課題

 国及び地方公共団体は、各学校と地域における医療、保健、福祉、労働等との効果的かつ効率的な連携・協力や連携協議会等の在り方について検討する必要がある。

 また、教員と外部専門家の連携・協力による指導の在り方や外部専門家を活用した校内研修による教員の専門性の向上を図るべきである。

 なお、現在の制度や仕組みの中で、通常の学級の教員が特別支援教育で要求されるすべてのことに対応することは極めて困難である。このため、通常の学級では、教員の資質向上だけでなく、外部のPT、OT、ST、心理学の専門家の活用など教員を支えるシステム作りや、学校単位での専門性の担保、地域単位での支援体制の整備等に関する検討を行うことが必要である。

 また、生涯にわたり一貫した支援体制を確立するため、学校において作成される個別の教育支援計画と関係機関において作成される個別の支援計画等との関係を整理し、一貫性・整合性ある計画となるようにする必要がある。特に、ライフステージを通じた相談・支援については、移行期における支援が重要であり、支援の繋がりに切れ目が生じないよう関係者の連携強化が必要である。さらに、どの時期に誰が責任をもって担当するのか、窓口の一本化やサポートする者は必要か等、具体的な検討が必要であり、これまでの各自治体の取組状況を見ながら整理すべきである。

(2)親の会、NPOや学校支援ボランティア等との連携協力

 学校が総合的な特別支援教育体制を確立するためには、学校や教育委員会のみの対応では十分ではなく、「新しい公共」の視点も踏まえつつ、学校が関係機関等と連携するとともに、親の会やNPO、学校支援ボランティア等とも連携し、その活用を図ることが必要である。

○現状・これまでの取組

 文部科学省においては、「発達障害を含む特別支援教育におけるNPO等活動体系化事業」 により、民間団体における教育支援活動について、ネットワークの構築等団体間の連携、情報共有、支援活動の互助を推進している。また、発達障害のある幼児児童生徒への教育・支援に関係する教育団体、関係機関、保護者団体等が一堂に会し、連携協力体制の構築のための情報交換等を行う「特別支援教育ネットワーク推進委員会」を開催してきた。

○検討の方向性及び課題

 幼児児童生徒の個々のニーズに応じたよりきめ細かなサービス提供のため、各地域における親の会、NPO、学校支援ボランティア等の活用を推進すべきである。

 特に、保護者の立場にある者が中心となったNPOが行政において相応の役割を担うことは、保護者の新しい役割として高く評価できる。一方、そのような団体は教育委員会等行政機関とは直接話ができる関係にあるものの、保護者という立場から、学校とは本音で話しにくい傾向があるとの声も聞かれており、学校や行政においても改善を図っていくことが重要である。

 親の会、NPO、学校支援ボランティア等の活用を進めるに当たっては、これら組織の特性である機動性・先駆性等を生かした事業展開を活用し、地域において個に応じた支援を実現するための仕組みの構築を図ることが必要であり、これらの業務が維持・定着できるような予算措置及び事業化について検討が必要である。

 また、企画力や組織の継続性に不安のあるNPO等の育成・支援の在り方についても検討すべきである。

 さらに、「新しい公共」の視点も踏まえつつ、教育機関や福祉等の関係機関、親の会、NPO等の間の連携と有機的なネットワークの構築、学校支援ボランティアの育成を図ることが大切である。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)