子どもの徳育の充実に向けた在り方について(報告) はじめに

○ 人の生涯、乳幼児期から青少年期は、人格形成に非常に重要な時期である。人格の完成を目的とする教育の営みはいずれの社会においても、家庭・地域・学校等を通じて、知・徳・体の調和ある発達を目指して行われるが、人が人としての尊厳を持ち、人間性の涵養を図る上では、とりわけ、子どもの時期における「徳育」の果たす役割が重要である。人と人が協力し合い「社会」を築きあげるという人の普遍的な営みにおいて、「徳育」は不可欠である。このことは人類の歴史上、今日に至るまで国際的にも共有されてきた考え方である。

○ 諸外国と同様に、我が国においても、これまで、家庭を中心に地域や学校において役割分担をしながら、社会全体として次世代を担う子どもの徳育を進めてきた。しかしながら、近年、経済の発展や社会の進歩につれて、子どもたちの間に、また、社会の形成者である大人たちの間にも「徳」が見失われてきているような状況が見られ、そして、こうした状況が当然のように社会で受け止められてきている。

○ 我が国は、優れた伝統や文化を持ち、人々の生活の中で、誠実さや勤勉さ、互いを思いやり協調する「和の精神」、人間を超えたものへの畏敬の念、自然を愛し調和しようとする自然観や宗教的情操等を大切にし、長い歴史を通じ、世代を超えて継承してきた。しかしながら、ここ数十年の間に、こうした伝統や文化を継承すべき大人のモラルの低下が進み、良き伝統や文化が急速に失われ、社会全般での「徳」が見失われてきている。さらには、インターネットの急速な進展といった大きな社会構造の変化の中、子どもがはぐくまれる環境にもひずみが大きく生じているという指摘もある。このように、知・徳・体の調和ある発達に不可欠な「徳」が、社会の中で見失われ、あるいは、埋没しているという危機的な状態にある今こそ、子どもの徳育について、その在り方を見つめ直さなければいけないのではないか。

○ このような危機意識のもとで、平成20年8月に「子どもの徳育に関する懇談会(以下「本懇談会」という)」が文部科学省に設置され、子どもが心身ともに健やかに成長し、豊かな道徳性を身につけた社会の形成者として自立することを社会総がかりで支援するため、家庭・地域・学校における子どもの徳育の充実に向けた方策の在り方について、検討を行ってきた。

○ 徳育に関連するテーマについては、本懇談会の設置以前においても、様々な議論が行われ、提言されている。例えば、中央教育審議会においては、平成10年6月30日に、「新しい時代を拓く心を育てるために‐次世代を育てる心を失う危機‐(答申)」をとりまとめ、子どもたちのよりよい成長を目指して、社会全体、家庭、地域、学校それぞれが取り組むべき方策を具体的に提言するとともに、心の教育の充実に向けた国民一人一人の理解を呼びかけている。
 また、平成20年1月17日に初等中等教育における教育課程の改善についてとりまとめた中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」においては、道徳教育の充実に関して、子どもたちが学校だけではなく、家庭や地域における教育によってはぐくまれるほか、社会の大きな変化を踏まえ、家庭や地域と学校との連携・協力が不可欠であり、社会全体で、子どもたちの生活習慣の確立、規範意識の醸成、道徳的価値観の形成などを推進していくための具体的諸方策が必要であると提言している。
 この他、教育再生会議最終報告(平成20年1月31日)においては、心身ともに健やかな徳のある人間を育てることを目指し、徳育を教科として充実させ、自分を見つめ、他を思いやり、感性豊かな心を育てるとともに、人間として必要な規範意識をしっかり身に付けさせることや、家庭、地域、学校が協力して「社会総がかり」で、心身ともに健やかな徳のある人間を育てることが提言されている。

○ 本懇談会は、これまでに、12回の会議を開催し、検討を行ってきた。検討にあたっては、子どもの発達に関する専門家や、諸外国の徳育に関する専門家からのヒアリングも行い、子どもの発達段階に応じた徳育の課題や社会環境の変化による子どもの発達への影響といった観点から、審議を進めてきた。このたび、子どもの徳育についての基本的な認識、現代の子どもの発達と徳育をめぐる今日的課題、子どもの発達段階ごとの特徴、徳育の今後の在り方等について、本懇談会としての基本的な考え方を整理し、「子どもの徳育の充実についての在り方について」として報告をとりまとめるものである。

○ 子どもの徳育に関し、我々は、安易な解を求めるかのごとき態度は自ら戒めつつも、未来の我が国を支える子どもたちの健やかな成長を願い、大人社会の責務として、今何をなし得るのか、何をなさねばならないかを真摯に検討してきた。とりわけ、脳科学や発達心理学の進展、あるいは、社会構造の変化という背景の中、改めて、子どもの豊かな心身の育成に取り組むにあたって、各発達段階において重視すべき事柄は何かという観点から審議を重ねてきた。

○ 子どもの教育・徳育について検討することは、子どもの成長と発達にかかわる様々な環境や社会の在り方そのものを検討することである。このため、本懇談会は、発達段階に応じた子どもの徳育の取組について、家庭・地域・学校をはじめとする社会全般に向けた提言を行うことを目指した。    本報告をすべての国民に伝え、理解していただき、そして、行動につなげていただきたいと願うものである。

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