今後の幼児教育の振興方策に関する研究会(第6回) 議事要旨

1.日時

平成20年11月11日(火曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省16階 16F特別会議室

3.出席者

委員

無藤座長、秋田副座長、稲毛委員、岩立委員、岩淵委員、大竹委員、佐藤委員、森上委員

(発表者)
池本美香日本総研株式会社主任研究員、津本忠治独立行政法人理化学研究所グループディレクター

文部科学省

金森局長、德久審議官、濵谷幼児教育課長

オブザーバー

神代調査企画課長、伊藤厚生労働省保育課長補佐

4.議事要旨

1.津本グループディレクターより資料1に沿ってプレゼンテーションが行われた後、以下のやりとりがあった。

【座長】
 私から二つ質問させていただきたい。第2外国語の学習のところで、学習の初歩の時は関係する部位の活性化が大きく、むしろ習熟してくると活性化が下がってくるということで、理解してよいか。最近、大脳の活性化がたくさんある方が、学習が活発だというか、脳に良いといった議論があるようだが、それはそう簡単なものではないということか。

【発表者】
 そう簡単なものではない。例えば、初めて色々なゲームや練習をしたりピアノを叩いたりすると前頭葉がものすごく活性化される。ところが慣れてくると活性が無くなってきて他の部分に移る。よって、何かをやって活性化されているということが、良いかどうかというのは、実は分からない。それは恐らく初めての作業であるために脳の前頭葉などの色々な場所を使って始めるのだが、慣れてくると脳のある部位だけが代行して行い、他の部分を使わなくなることが分っている。だから何かをやってそこが活性化されたからそれが良いかどうかということは分からない。それから、そこが活性化されたからその後もその部分の機能が良く保たれているかどうかといったデータはない。

【委員】
 二つお伺いしたい。一つ目は、臨界期という言葉は、今はあまり使われなくなったということだが、このことについては人間と動物の場合でかなり違うと思う。人間の場合は、もっと柔軟性があると考えた方がよいのではないかといった意見が出ていて、例えば生涯教育、ライフロングエデュケーションというものを生み出したポール・ラングランという人は「最適期」という言い方をしている。確かに良い時期はあるが、逆に興味、関心、意欲があるというということが、人間には非常に重要なファクターになるのではないかと言っている。だから大人になってから音楽を始めた人でも非常に上達している人がいる。そちらとの関係で、あまり限定して考えすぎると問題であるというような言い方をしているが、そのことについて伺いたい。
 もう一点は、今から十数年前に絶対音感とういう本がベストセラーになったが、その中で絶対音感はかなり小さい時期にトレーニングしないと育たないが、絶対音感をあまり強調しすぎると音のハーモニー、音に対する敏感性が育ちすぎるというようなことが本の中で書かれていたのを見たが、それについてはどうか。つまり教育というものを考えるときにあまり狭い時期に限定されすぎると問題が起こるかもしれないと思うが。

【発表者】
 初めの質問だが、今日お話した動物実験のことは視覚のことで、物を二つの目で見る両眼視の機能のことである。これは脳の中でも後ろの領域がやっているのだが、この両眼視機能は割と早い時期に発達し、比較的早く感受性期が終わる領域で、この場合には、動物も人もある程度当てはまる。猫の場合は、大体生後3ヶ月くらい。人の場合にはこのデータでは7,8歳くらいまでであり、これは両眼視のことである。先ほどもう一つお話したことで、感受性期は、脳の部位や働きによって違うということも調べられている。人の場合には、特に前頭葉機能が非常に重要であるが、前頭葉機能というのは動物ではあまり分かっていない機能である。ただ発達が非常に遅いということは既に人間のデータにある。前頭葉機能というのは特に発達が遅くて、大体17、18歳くらいまでかかると言われている。このデータは同じ十数人の人を4歳から21歳までずっとフォローしているものである。脳が発達してくると神経細胞が一部死ぬので、大脳皮質が少し薄くなるのだが、薄くなるなり方というのは、脳の場所によって違う。この前頭葉の部分というのは、とても遅くまで発達する。脳の形態学的な発達が、機能発達の臨界期や感受性期と直接関係しているかどうかということは、まだはっきりとは言えないが、恐らく間接的には関係があると言われている。前頭葉機能の発達は、3歳で終わることはなくて、17,18歳くらいまでは発達する。それくらいまでは、感受性があるし、その時期までの体験や訓練が非常に重要であると思える。3歳くらいまでと申し上げたのは、あくまで視覚機能の話しで、脳の他の機能に関してはもっと長いし、学習効果もあるだろうと思う。
 次に絶対音感の話だが、私自身もそんなによく知っているわけではない。先ほどの資料の中のデータは、ピアノの音に対する反応を示している。丸は絶対音感がある人で、四角は無い人であるが、反応の強さはあまり絶対音感とは関係ないと思う。少なくともこれは、反応の大きさを見ているだけである。もう一つ、先ほどのバイオリンの話で強調しておかなくてはいけないのは、確かに左手の小指の領域は広がるが、これはバイオリンの演奏の上手、下手とは直接関係がない。演奏の上手、下手とはまた別の問題だと思うが、少なくとも小指の情報を処理する部分が広がっているということは、脳科学的にはあることだと思う。

【委員】
 最後の方で説明された愛着のところであるが、子どもがより良く育っていくためには愛着を形成し、信頼関係を構築することが非常に重要で、今後親育ち支援にも力を入れていかなければいけないと考えている。良い養育を受けた子どもは、セロトニンが出てステロイド受容体がよく発現するというところをもう少し詳しく聞かせてほしい。

【発表者】
 これも動物実験の結果であって、動物実験ではそういったことが言えるという話である。良く養育されないとセロトニンが不足してステロイド受容体遺伝子のDNAがメチル化を受けやすくなる。ここでは、専門的な言葉になっているが、遺伝子の情報がうまく働かなくなるということである。そうするとその遺伝子が働かなくなってしまうので、ステロイド受容体が生涯ずっと少なくなってしまう。ステロイド受容体というのは、ストレスが加わったときに働いて、活動を上げたり血圧を上げたりというような色々な作用があるのだが、そういったシステムが十分発達しなくなってしまう。そういったことが生物学的に分かってきている。仕組みとしては、遺伝子のDNAのメチル化というものが影響を受けるということが動物で分かっている。これが即、人に当てはまるかということはもうワンステップ別の研究が必要となるところである。

【委員】
 脳科学と学習ということで、どこをやると右脳がどうなる、左脳がどうなるといった話は色々とあるが、医学部の脳科学の人たちに話を聞くと、今までの個別の学習や練習等のトレーニングでどういった影響を与えられるかということだけでなく、ここ数年において、共同で人が何かを行うということが、人の脳にどういった影響を与えるかということの研究が海外で出てきているという話を聞いた。幼児教育においては、学習というところと繋がると、個別の何かの学習をしてどうなるかということと、同時に人と関わるということなどが、どういった影響を与えるのかなどを知りたい。今日の御報告では虐待とか愛着といった側面の話を伺ったが、社会的なものが、どのような影響を与えるかということがもし分かるようであれば伺いたい。

【発表者】
 最近の研究はまだ話ができるところまではいっていないが、そのような社会的な関係の中で、脳の活性化がどう起こるかということが、現在研究され始めている。古いデータとしては、ねずみの集団におもちゃなどを与えて飼育すると大脳皮質が厚く、大きくなる。一匹だけを個別飼いすると脳の発達が悪いということは、脳科学的に調べられている。但し、これはねずみの話で、人が集団で学習する場合にどうなるかといった研究はしなければいけないということは認知され、始まってはいるが、まだ結論を話す段階には至っていない。

【委員】
 養育と愛着が遺伝子機能に作用して、ストレスに影響するという点についてであるが、遺伝子機能に作用して生涯影響があるということだったが、先ほどの説明であると猿などの被検体ではあるが、感受性期内に介入があれば、回復するということは知見と少し矛盾するのかと思うがどうか。

【発表者】
 生涯同じ状態であるというのは少し言い過ぎであるが、遺伝子はメチル化ということにより、その機能がよく発現したりあるいは発現しなかったりするのであるが、これは後でも変わる。メチル化の程度というものは変わりうるわけで、一生涯ずっと同じ状態であるというのは少し言い過ぎである。但し、この感受性期がどのくらいでどの時期にどう変わりやすいかということについては、今の段階では分かっていない。

 

2.池本主任研究員より資料2に沿ってプレゼンテーションが行われた後、以下のやりとりがあった。

【委員】
 幼児教育への投資が、女性の就労を促進するという部分についてであるが、無償化をしていく場合にもある投資をするとことによって、何が幼児教育について変化し、その結果として何が得られるかという地図を描かなければいけないと思うが、御報告いただいた内容は、投資をして幼稚園の就園率が上がれば、女性の就労を促進するということは言えるが、5歳などや幼稚園の場合を考えると、そういった部分は言えるのだろうか。例えば、女性の就労促進は就園率が99パーセントに近い5歳の場合には、何が説明できるのだろうか。投資が、幼児教育の期間を長くすることがあるのであればそれによって社会性とか子どもの側への影響であったり、幼児教育へ投資すると、あるプログラムや質が変化することによって子どもの側に変化があるというデザインを描き出すことができると思うが、幼児教育の投資が女性の就労促進・格差是正に役に立つということをもう少し具体的にどのように説明するのかというところを聞きたい。海外でまだ就園率が低い国については、説明できると思うが、日本の場合にどのようなものが描けるかということについて質問したい。
 二点目は個人的な意見だが、大規模な調査が日本でも極めて重要ではないかと私自身思う。このEPPEが昨年で終わったが、イギリスではまた新しいものが2008年から2013年まで立ち上がっているし、韓国では2010年から2032年まで0歳から22歳までの子どもの縦断研究をすることによって、その教育効果の影響を見ようというようなことをやっている。日本もそういった意味での効果研究というものが、池本先生から御報告いただいたように大規模に必要になるのではないかと思う。
 もう一点は、親支援機能というものをコミュニティサービスとして考えていくことも各国が今出してきているところであるので、日本も各園がどうか、各親がどうかということだけでなく、コミュニティサービスとして保育所や各地域の保健センター、子ども、幼児に関わるセンターがどういう機能を果たしていくのかというデザインを考えてそこに投資をしていくということも今後大事だろうと思う。

【発表者】
 お話を聞いていて、そこについてはあまりきちんと考えていなかったことを感じた。今無償化をしている国はたぶん日本と同じように3,4,5歳の就園率が高い国なのではないかと思っている。幼児教育の無償化を導入した国の第一の目的というかメインとしては、小学校のための土台を築くということで、その部分の保育料が免除されることによって、例えば午後もその分の保育料をプラスして長く預けて働くことができるので、就園率が高まるという流れになるのではないかと、少し曖昧であるが、今考えた。幼児教育の無償化の理念というものが何かというところは、まだ十分調べきれていない。ニュージーランドでは、小学校の無償化や中学校の無償化などと同じくらいのインパクトがあるものであると言われていて、教育制度の中でそこまでは外でカバーするというような教育制度自体の改革として捉えているような印象を受けたり、スウェーデンなどではそこまで教育制度ということではなくて、これまでずっと保育という福祉で来たところを教育というものの中で位置付けようといった場合にその部分はすべて国として保障するという考えなのかと思ったりするが、そこの点についてはまだ深く考えられていない。御指摘のとおり既に就園率が高い中で、無償化すると就労率が上がるかというと、そこは単純ではないと思う。ただそこは、幼稚園の幼児教育を受けながら働くということがもっと現実的に一般の人にもイメージできるようになると、そこは一つ就労支援にはなるのだと漠然と考えた。このこといついてはまた考えてみたいと思う。

【委員】
 幼児教育への投資というのは、子どもが育つための権利保障という意味と女性の就労率を上げるという両方の機能を果たさないとあまり意味が無いということを感じた。無償化に向けての動きというのは、たぶん教育課程に係る教育時間以外の教育活動というものを前提にして考えていけば、就労率が上がるということに繋がるのかと思う。ここを考えないとあまり意味が無いのではないかということを一つ感じた。
 次に先生の御説明の中で、就学前教育、保育施設における親支援の事例として、親も当番として保育に参加していくということだが、これは就労促進と保育への参加というのが、同時に成り立つのか。ニュージーランドのプレイセンターにおいて親対象の学習コースなどに参加する親などは、就労との関係をどのように調整しているのかということが一つ疑問に思った。それから感じたこととしては、養成の立場から親支援が非常に重要になるということから言えば、今の養成の中で、親支援の専門性に関する養成というのは非常に課題になっており、これからもっと充実させていかなければならないということを一つ感想として持った。それから効果測定のところの測度としては、学習成績や高校卒業率とかいう形で出されているので、社会性といった測度も多少あったが、今後日本の幼児教育の効果測定をする場合には、どういった測度をどのように入れ込んでいけるかということが大事だということを感想として持った。

【発表者】
 最初の親参加型の保育施設と就労促進との関係であるが、そこをうまく調整するためにワークライフバランスというか、働き方を変えるというか、多様性というか、柔軟化するということが、無くてはならないと思う。ニュージーランドなどでも働きながら週に一回だけプレイセンターで親と参加し、他の日は保育所に預けていたりとか、シフト勤務でお父さんが参加するというようなこともあったりなど、働き方が柔軟であるために親の参加が可能となり幼児教育も良くなり就労も全く中断するということにはならない。ところが、今の日本の働き方だと子どもの教育をそれなりに熱心にやりたいと思っている人にとってはやはり今のハードな働き方が無理であるため、働きたくないわけではないが、働き方が無理なため仕事を辞めてしまうという人が、女性の場合かなり多いと思う。また、先ほど紹介しなかったが、一番最後に挙げたグラフの中でも職場の子育て支援に対するニーズの4番目に子どもの学期に合わせた勤務制度を希望している人がいる。やはり子どもの教育もしっかりやりたくて、子どもが休みのときには、親が見ていたいという人に対する働き方というのは、今の日本においてほとんど考えられていない。子どもの教育に熱心に関わりたくて、仕事もしっかりとやっていきたいといった選択肢を幼児教育の側にも働き方の側にも準備していくことが必要かと思う。

【委員】
 働きたくて、教育もしっかりやっていきたいという人を保障していくことが大事であるということであるが、例えばフランスの親保育園において、親も当番として保育に参加する場合、親も多様なニーズを持つので、当番として保育に参加したくないからその分お金を払うなどという選択肢も可能となるのか。

【発表者】
 フランスの場合はそもそもそういったやり方が好きだからといって集まってきた人であり、直接は聞いていないが、原則週に一回半日は、子どもと一緒に保育園で過ごすということが決められていると、そこの保育園の話ではなっていた。但し、プレイセンターではそういった問題が生じてくるので、どうしても都合がつかない場合は、そこはお金で払うということも実際はやられている。

 

3.事務局から資料3、4に沿ってこれまでの主な意見の整理案の修正版と、これをもとに今後更に検討すべき課題案について説明が行われた後、以下のやりとりがあった。

【座長】
 最後の「今後更に検討すべき課題」というのが、今回では非常に重要なので、抜けている点等あれば御意見をお願いしたい。

【委員】
 今後更に検討すべき課題として、認可外保育施設のことについて触れさせてもらう。
 一点目は認可外保育施設といっても事業所内の保育施設と他の認可外施設というように大きく二つに分かれている。事業所内保育施設というのは、病院内で行われる院内保育施設とその他。その他というのは一般的に事業所内保育施設と言われているものである。他の認可外保育施設の中にはベビーホテルやその他、その他というのは、一般的に託児所や無認可保育所と言われているものである。ここでいう認可外保育施設というのは、どの施設を指しているのか。またはすべてを指しているのかというところの整理も必要なのではないか。
 二点目は認可外保育施設の果たしている役割というものをきちっと踏まえておかなければいけないのではないかと思っている。認可外保育施設は待機児童の受け入れや長時間保育、休日、夜間保育の実施などいわゆる本来認可保育所が担うべき役割を補完しているというところを視野に入れた上での検討が今後必要だと思う。
 三点目は「認可外保育施設を認可施設化する方策が必要では」という文言が先ほどの説明にもあったが、少子化や財政難を理由に保育の実施主体である市町村が認可保育所の認可基準を満たしていても認可外保育施設を認可しないという現実があるということも踏まえて検討しなければいけないと感じている。

 

4.無藤座長より「今後更に検討すべき課題」について追加意見がある場合は、事務局に申し出てほしい旨の発言があった。事務局より次回の日程については、年明け以降で考えている旨の説明があり、閉会となった。

お問合せ先

初等中等教育局幼児教育課