教科書デジタルデータ提供促進ワーキンググループ(第1回) 議事要旨

1.日時

平成20年5月26日(月曜日)15時30分~17時

2.場所

文部科学省東館3階1特別会議室

3.議題

  1. 拡大教科書の普及推進について
  2. その他

4.出席者

委員

田中主査、伊藤委員、今井委員、大旗委員、大場委員、川戸委員、小林委員、柴崎委員、嶋本委員、末吉委員、成松委員、花香委員、渡辺(哲)委員、香川座長、千田座長代理、宇野委員、高柳委員、渡辺(能)委員

文部科学省

伯井教科書課長、矢崎教科書課課長補佐、松木教科書課課長補佐
山下文化庁長官官房著作権課長

5.議事要旨

 主な意見は次のとおり。

  • (1)主査の選出

     拡大教科書普及推進会議座長の指名により、本ワーキンググループの主査に田中委員が選出されたことを報告。

  • (2)拡大教科書の現状等について

     「拡大教科書普及推進会議(第1回)議事要旨(案)」について、事務局による説明。これまでの取組みについて、嶋本委員及び田中主査による発表。「教科書デジタルデータ提供促進ワーキンググループにおける検討事項(案)」について、事務局による説明の後、意見交換が行われた。

    • ア 嶋本委員の発表

      【委員】

       平成18年度は「拡大教科書発行に関する調査検討ワーキンググループ」、平成19年度からは「拡大教科書普及充実のための小委員会」を設置し、拡大教科書の普及充実のための方策について調査・研究を実施。平成19年度には、文部科学省の「拡大教科書の普及充実のための調査研究」事業を受託し、拡大教科書製作ボランティア団体等へのデジタルデータの提供について研究を実施。

      【委員】

       デジタルデータの全面的提供にはさまざまな解決すべき問題が多く、19年度は、データの仕様、作成、費用、配付等における諸問題を検証するための試験的提供を目的として、作成対象を限定した(平成19年度に作成・提供したデジタルデータは小学校教科書全427点中42点)。

      【委員】

       デジタルデータの内容は、テキストデータとして本文やタイトル、写真やイラストの解説、脚注、側中、ふきだし、著者紹介等をテキストデータに変換し、ボランティア団体に提供。画像データについては、頻出する記号、国語の筆順表示等を提供。

      【委員】

       作成したデータをボランティア団体に試験的に使用してもらった上で、使い勝手等についての意見交換を行った。デジタルデータの仕様を改訂して、さらに20年度の下巻本のデータを作成した。現在、教科書協会では、この仕様書に基づいてデジタルデータを提供したいと考えている。

      【委員】

       デジタルデータを提供するために必要な作業については、現在、教科書会社が教科書を印刷する際に使用しているDTP(DeskTop Publishing)ソフトで作成されたデジタルデータが使用されているが、このDTPソフトには、代表的なものとして、クォークやインテザインなどがある。さらにハードはマッキントッシュ用とウィンドウズ用のものがある。

      【委員】

       現在使用されている17年度版、18年度版の小学校と中学校の教科書で使用されている割合は、マッキントッシュのクォークというソフトを使ったものが一番多い。

      【委員】

       新しい教育課程の23年度版小学校と24年度版中学校については、各社とも予定ではあるが、マッキントッシュのインデザインというソフトを使ったものが一番多い見込み。他に、若干アナログというものも残っている。

      【委員】

       教科書会社が使用しているソフトをボランティアの団体の方々が使用するための方法を3つ検討した。1DTPソフト上でのまとまりごとにテキストデータへの変換作業を一つ一つ行う方法。2PDFデータに変換し、それをテキストデータに変換する方法。3すべて最初から打ち込むという方法。

      【委員】

       教科書会社では、一太郎やワードでの原稿を、クォークやインデザインのソフトで変換して教科書を作り上げるが、相当な修正が必要。また、検定意見を踏まえた修正も必要。したがって、最初に取り扱った原稿はほとんどそのまま役に立たない。最終的には、供給本として作られたソフトから変換する方が効率がよい。その結果、DTPソフト上でのまとまりごとにテキストデータへの変換作業を一つ一つ行うという方法が、ベストではないかと考え、この方法を採用している。ただし、小学校低学年では、最初から打ち込んだほうが早いものもあり、そういった場合は打ち込んでいるところもある。

      【委員】

       画像データについては、EPSデータからボランティア団体が使いやすいようにJPGデータへの変換作業を一つ一つ行っている。人手に頼るような作業をしているので、大変時間がかかる。

      【委員】

       デジタルデータ提供の問題点としては、著作権の問題がある。著作権については、文化庁著作権課から拡大教科書向けであればデジタルデータの作成・提供は可能との見解をいただいているが、この点について、著作権管理団体等の意見調整が十分とは言えず、今後のルールづくりに向けて交渉が必要。

      【委員】

       著作権に関しては、イラストや写真について各教科書会社から写真のエージェントの方に写真を貸していただくようお願いして契約をしているが、権利書の問題がある。これは、単に著作権の利用にとどまらず、多くは原版の所有者からの有形的提供を伴うものであり、その利用については所有者との契約に基づくものが現状。最初の契約というのは、教科書を作り始めた頃に行うため、途中から契約内容を変更するのはなかなか難しい。

      【委員】

       教科書本文等のデジタルデータ提供が現状では困難な教科がある。算数、数学は、数式が多いため、そのまま変換してもほとんどデジタルデータにはできない。英語については、中学校1年生の場合は、ブロック体に似せた各社独自に作成したフォントを用いているが、これをそのまま変換しても使用できないという問題がある。2年、3年生には発音記号が掲載されているが、これもテキストデータに変換することはできないため、今後、画像処理をするなどの検討が必要。

      【委員】

       今後検討すべき方策としては、著作権については、教科書発行会社からのボランティア等に対するデジタルデータの提供を円滑に進めるために、その提供を著作権制限規定に明確に規定することが考えられる。
       図版の所有者に対しては、検定教科書に利用するための貸借契約締結時において、「拡大教科書等の製作のために第三者の提供することを認める」旨の条項を含めることを教科書発行会社から所有者に求めていくこと。その際、国が主たる所有者団体等にその周知を図るための支援策を講じることが有効ではないかと考える。
       また、デジタルデータの作成については、現在は大変な時間と費用がかかるため、例えばPDFに変換したものをそのまま提供し、必要なところだけをコピーペーストして作成するなど、作成に手間がかからない簡便な方法を模索する必要がある。

    • イ 田中主査の発表

      【委員】

       アメリカ合衆国における障害児教育にかかわる教科書デジタルデータの取り扱いについては、個別障害者教育法(IDEA)、全国教材アクセスビリティ標準規格(NIMAS)、全国教材アクセスセンター(NIMAC)を中心に説明。

      【委員】

       デジタルデータに関しては、障害のある児童生徒がアクセス可能な教科書を作成して提供する国立機関を設けることがIDEAの中でも触れられている。これを受け、ファイルの共通フォーマットであるNIMASという規格が共通に設けられており、このファイルからいろいろな形で拡大教科書、点字本の作成や音声ソフトに活用するなどされている。適用の範囲は、小学校、中学校、高等学校であり、障害の適用範囲は、盲の他にプリントディサビリティ(普通の活字媒体の印刷物に対する障害。弱視の児童生徒の場合は視力が0.1以下の子どもたちが対象。身体的な制限により読むこと、あるいは標準の印刷された教科書が使えない者、それから、器質性の機能障害によって通常の方法で印刷されたものを読むことが妨げられている読み障害を有する者)が対象となっている。具体的には、例えば肢体不自由のある児童生徒が自分の手で教科書をめくることができないといったような児童生徒、いわゆる学習障害、知覚に課題があるため、見ることについては問題ないが文字を認知して理解することに課題を抱えている児童生徒にも適用される。

      【委員】

       点字、拡大文字、音声ファイル、DAISYという規格が共通になったファイルフォーマットがNIMASという形で作られている。

      【委員】

       NIMASファイルを管理する場所は、オンラインのデータベース上にカタログ化して保存をしており、管理している場所がNIMACと呼ばれる全国教材アクセスセンター。

      【委員】

       全国教材アクセスセンターでは全国から集まってくるNIMASフォーマットのファイルを集約し、カタログ化して管理をするデータベースセンターとなっている。そのファイルを活用できる人が管理ユーザーであり、アクセス権のある登録者。そのような人たちにIDとパスワードを配り、その人たちのみがそのファイルにアクセスして、必要なファイルをダウンロードすることができる。

      【委員】

       地方の教育機関が全国教材アクセスセンターに対して、特定の教科書のファイルをNIMASファイルで作成するための申請を行う。教育機関が独自でNIMASのフォーマットにしてもよいが、それを専門に請け負う会社も存在しており、地方レベルにおいてはファイルの変換は点字出版関係の会社であるということが多い。

      【委員】

       著作権の保護の問題については、このNIMASのファイルをダウンロードできる者は限られている。事前にNIMASとの使用制限承諾書に同意して署名した認定ユーザーがデータベースにアクセスでき、誰がどのようなファイルにアクセスしたかという記録を残す仕組みによって管理されている。もし、その当該のファイルが使用目的以外に流用された場合は、版権者から訴えられ、処罰が適用されることになる。

      【委員】

       もともとデジタルデータは、点字化をする、点字本を作ることに重きが置かれていたが、盲の他に弱視を含めたいわゆるprint disabilitiesというような子どもたちにそのようなファイルを適用するようになった。現在の運用は、2006年ごろから始まったばかりであるが、まだ十分に機能しているわけではないようだ。

      【委員】

       韓国における拡大教科書については、デジタル教科書というものを国の施策として試行しており、2011年からすべての教科書をデジタル化することになっていると把握している。しかし、この場合のデジタル教科書は、コンピュータ画面上において見ることができる教科書のことであり、いわゆる紙媒体として出版されるか否かについては現在のところ把握できていない。

    • ウ 自由討議

      【委員】

       教科書発行者から提供するデータのあり方という点については、昨年、教科書協会で検討を行い、限られた教科書、学年ではあるが提供されている。今回、すべてのデータを提供しようとするのか、あるいは、限られたデータからの数を増やしていこうとするのか。また、教科書デジタルデータを管理する組織については、アメリカのNIMASやNIMACのような、一元管理の方法を模索しようとすることをこのワーキングの議題とされているのか。

      【事務局】

       昨年12月、一部の教科用図書について教科書本文デジタルデータを提供していく方法が試行的に行われた。そのやり方の是非も含め、効率的なデータ変換方法、データ変換をする場合に必要な事項、発行者の作業負担、ボランティア団体等が使い勝手のよいデータの提供等についてご議論をいただきたいというのが検討事項を提案した趣旨。

      【委員】

       デジタルデータの一つの大きな目的・キーワードは、ボランティアの使い勝手がよいということ。我々はそれを期待している。私一人で作る拡大教科書は、13種類、140~150冊。特に中学校の地理は画像をスキャンし、背景処理あるいはコピーをとりコントラストを上げるなどして、約1年かかる。さらに年度が変わると375のデータを更新した。平成24年になると新しく作らなければならないが、今は、昨年までのデータの蓄積があるからできている。すべての教科書についてデジタルデータの提供をするというところをこのデジタルデータワーキングの帰結点として、是非議論していただきたい。

      【委員】

       次期の改訂までに新しい形態のデジタルデータの提供についてしっかりした体制を作っていく必要があるが、現行のものについてどうしていくかということも、併せて話を詰めていかなければならないと考える。

      【委員】

       ボランティアにデジタルデータを渡すということを当面は並行して考えざるを得ない。それをベースに考えた場合、ボランティアが一太郎、花子、ワードなどのソフトを使っており、片や出版社がクォークエクスプレス、インデザイン等々を使用しているので、テキストファイル、JPEGという結論になる。クォークエクスプレスやインデザインのデータをそのまま渡す方が楽だと思うが、ボランティアに今からその使用法を勉強してもらうのは現実的ではない。ボランティアが作りやすいということを考えれば、テキスト、JPEGであり、小学校から高校まで掲載情報を別に打ち込むのでなく、レイアウト編集のみに専念していただけるようなデータを提供をするという結論は見えていると思う。

      【委員】

       もっと先に考えるべきなのは、1つのソースをいろいろな形で利用できる「ワンソース・マルチユース」ということ。拡大教科書もそうだが、点字、音声、電子媒体と、いろいろな形での利用が想定される。元のデータを効率よく、いろいろな形に変換しやすいものにしておけば、拡大教科書も1種類のみならず、数種類作りやすくなるということが言える。
       同じく、点訳する時にも、テキストだけを抜き出すことが容易になるとともに、音声にもしやすくなる。もしくは、発達障害のお子さんを中心として、電子教科書として提供してほしいという声も聞かれる。そう考えると、拡大教科書でボランティアにお手伝いしてもらうという側面も当面は大事だが、もっと先を考えると教科書のユニバーサル・デザインということが検討されるべきだと思う。

      【委員】

       インデザインをベースとした時に、どのような図画の処理をしたらいいか、マルチユースに対応できるのかということについて早い段階で指針を作ることが求められていると思う。

      【委員】

       著作権の改正や写真のレンタルエージェンシーとの兼ね合いについて解決しなくてはならないと思うが、教科書協会の懸念に対して著作権課はどのように解決を見込まれているのか。

      【事務局】

       著作権の問題については、ご承知のように著作権法33条の2という規定がある。これは拡大教科書を作成することそのものについて、検定済教科書を拡大教科書を作成するために拡大して複製することができるという規定。著作権法を改正した時には紙ベースの処理を念頭に置いていたが、拡大教科書を作成するプロセスの中で、デジタルデータのやりとりが行われるということについては、あり得ることだろう。例えば、スキャナで画像をコピーし、それをパソコンに取り込んで使うということもデジタルデータの一種であり、そういう意味では同じことだと思う。ただ、データ提供の方法もいろいろあり、例えば、教科書出版社のホームページに常にデジタルデータがアップロードされ、誰でもダウンロードできるという形でデータ提供を行うとすれば、これは今の規定から難しいと言わざるを得ない。やり方の問題ではないかと思っている。

      【事務局】

       著作権の権利者団体の方々というのは、今、非常にデータのデジタル化ということについてはナーバスになっている。例えば、障害者支援の面でも放送番組や映画に字幕を挿入するという作業を社会福祉法人の方々がされている。厚生労働省のお金が出ており、今は契約ベースで、個々の権利者団体にお金が払われて処理されているが、こうしたものについて、著作権法の権利制限規定を置いてくれという話が出ている。これは、いちいち許諾をとる手間暇がかかるため大変であることから無許諾でできるように考えており、この際、一定程度補償金は払うという方向で検討している。

      【事務局】

       放送事業者あるいは映画制作者連盟などから話を聞いても、障害者の方のために使うということについて、反対する人はいない。ただ、一番懸念されているのは、例えばインターネットを通した流出やファイル交換で海賊版が広がるということ。その点は、同じ権利制限規定を設けるにしても、例えばその社会福祉法人がDVDのコピーガードを外して字幕を挿入する処理をパソコンで行い、その後はもう一回コピーガードをかけるという話が出ている。

      【事務局】

       権利制限規定を置くかどうかというよりも、むしろどういうようなやり方でこれを教科書出版社に渡されるのかということをある程度ご検討いただいた上で、今の規定の解釈で読むのは難しいという懸念があるのであれば、著作権法の改正ということを検討することについては十分あり得ることだと思う。この会議でそのようなことも含め、具体的に検討が進むということを期待している。

      【委員】

       音楽だけの教科書を出版しているが、楽譜は画像の形でデータ処理される。それをPDFでボランティアに渡すことは可能だが、実際にそれをどのように使うのか。例えば、楽譜であれば一段に4小節、1ページに3段か4段入っている。これを拡大した場合には、当然1ページに入らない場合、画像の形でお渡ししたのであれば作り直しは非常に難しく、むしろ切り貼りしてしまった方が早いということも起こり得る。最終的に、どのような形でボランティアの方で使うのかという情報をいただいておかなければ、適正にお渡しすることは難しい。今後は、どういう形で楽譜の画像データというものを提供するのがよいのかという情報もいただきたい。

      【委員】

       写真であれば、登録された著作物の利用というよりも、原盤をいただくという形が多い。イラストであれば、書いていただけない、貸していただけないという事例があると聞いている。そのような形の提供も含めて許諾してくれないかというお願いに対して、それはちょっと別事じゃないかという話がある。

      【委員】

       ボランティアや民間業者がスキャンしたデータを拡大教科書を作る者でシェアできるのであれば、救われる方がいるのではないかと思う。その際、教科書協会のPDFデータがもし出せるのであれば、より効果的であると思う。

      【委員】

       将来的には、視覚障害の方に限定するのではなく、発達障害の方をサポートする非営利団体が幾つか存在しているので、そこへの提供ということも検討していただければありがたい。

      【委員】

       アメリカでの事例を発表していただいたが、文部科学省が、データの流出などに反する者は罰するというしっかりした態度でやっていただければと思う。ぜひ、4年も先にならないで、早く子供たちに拡大教科書を提供していただくようこのグループで考えていただきたい。

      【委員】

       図や写真を含め編集可能なPDFを教科書会社は本当に出せるのか。画像等がすべて入っているデータが出せるのであれば、相当状況は変わってくると思う。また、全国のボランティアの団体の方々とデータを流出しないということが義務づけられる契約をすることが考えられるのではないか。また、もしデータが流出した場合の責任等に関して考えなければならない。

  • (3)事務局より今後の日程について説明があり、閉会となった。

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初等中等教育局教科書課