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資料5

言語力の育成方策について(報告書案)【修正案・反映版】

1. 基本的な考え方及び課題

(1) 言語力について
 この報告書では、言語力は、知識と経験、論理的思考、感性・情緒等を基盤として、自らの考えを深め、他者とコミュニケーションを行うために言語を運用するのに必要な能力を意味するものとする。
 また、言語力のうち、主として国語に関するものについて論じるが、言語種別を問わない普遍的かつ基盤的な能力を培うとの観点から、外国語や非言語等に関する教育の在り方についても必要に応じて言及する。
 言語は、文化審議会答申(平成16年2月)が国語力について指摘するように、知的活動、感性・情緒等、コミュニケーション能力の基盤として、生涯を通じて個人の自己形成にかかわるとともに、文化の継承や創造に寄与する役割を果たすものである。

(2) 言語力育成の必要性
 言語に関する豊かな環境が言語力を育てる土壌となる。また、言語を適切に用いることによって物事を決め、作り上げ、解決することができるように言語に対する信頼を高めることが言語力育成の根本にある。
 子どもを取り巻く環境が大きく変化するなかで、様々な思いや考えをもつ他者と対話をしたり、我が国の文化的伝統の中で形成されてきた豊かな言語文化を体験したりするなどの機会が乏しくなったために、言語で伝える内容が貧弱なものとなり、言語に関する感性や知識・技能などが育ちにくくなってきている。このため、言葉に対する感性を磨き、言語生活を豊かにすることが大変強く求められている。
 OECDの国際学力調査(PISA)において「読解力」(注1)が低下していること、いじめやニートなど人間関係にかかわる問題が喫緊の課題となっていることなど、学習の面でも生活の面でも、子どもたちの生きる力を育成するために、言語力の必要性がますます高まっている。
 さらに、社会の高度化、情報化、国際化が進展し、言語情報の量的拡大と質的変化が進んでおり、言語力の育成に対する社会的な要請は高まっている。PISA調査で要請されている、文章や資料の分析・解釈・評価・論述などの能力は、今日の社会において広く求められるものである。
 中央教育審議会では、学習指導要領の改訂に向けての審議において、今後の学校教育において、知識や技能の習得(いわゆる習得型の教育)と考える力の育成(いわゆる探究型の教育)を総合的に進めていくためには、知識・技能を実際に活用して考える力を育成すること(いわゆる活用型の教育)が求められているとしている。その際、「言葉」を重視し、すべての教育活動を通じて国語力を育成することの必要性が指摘されている。

(注1) いわゆるPISA型読解力は、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力。」と定義されている。

(3) 言語力育成の課題
(ア) 言語の果たす役割に応じた指導の充実
 言語は、知的活動(特に思考や論理)、感性や情緒、コミュニケーション(対話や議論)の基盤であることから、それぞれの役割に応じた指導が充実されることが必要である。同時に、これらは相互に関連するものであることから、統合的に育成することについても留意しなければならない。

(イ) 発達の段階に応じた指導の充実
 幼・小・中・高等学校における幼児児童生徒の発達の段階に応じて、言語による理解・思考・表現などの方法を身に付けさせるための教育内容・方法の在り方について検討する必要がある。同時に、指導に当たっては、個々の幼児児童生徒の発達の実態や経験の違いに応じた配慮を行う必要がある。

(ウ) 教科を横断した指導の充実
 言語は、学習の対象であると同時に、学習を行うための重要な手段である。学習で用いる言語を精査し、国語科を中核としつつ、すべての教科等での言語の運用を通じて、論理的思考力をはじめとした種々の能力を育成するための道筋を明確にしていくことが求められる。
 そのためには、国語科及び各教科等で用いられる用語や表現・表記の特質に留意しつつ、育成すべき資質を明らかにしておく必要がある。

(エ) 多様な教育環境を活用した指導の充実
 言語力を育成するためには、教室内による指導のみならず、学校図書館や地域の文教施設、体験活動の場など多様な教育環境を活用することに留意しなければならない。

2. 知的活動に関すること

(1) 事実を正確に理解し、的確に分かりやすく伝える技能を伸ばす。
 思考や論理は、的確であることが基礎となる。そのため、事実を記録する、描写する、報告するなどの活動を発達の段階に応じて適宜行い、正確に理解したり、分かりやすく伝えたりするための技能を体系的に身に付けることが必要となる。国語科を中心として、記録文、報告文などを読んだり書いたりする指導が重要である。その際、思いを述べることと、考えを説明することとを区別する指導が求められる。朝の会、帰りの会などで行われている1分間スピーチなどの場を有効に活用することや、英米において行われているショー・アンド・テル(注2)などの活動を参考とすることも考えられる。

(注2)ショー・アンド・テル〔Show and Tell(見せて発表する、の意)〕… 特定のテーマに沿い生徒等が持参したものをクラスで見せながら発表する活動。

(2) 自らの考えを深めることで、解釈や説明、評価や論述をする力を伸ばす。
1  学習が進むにつれて、根拠や論理(推論)に基づいて、筋道を立てて考えを説明することへと思考の客観性や一貫性などの質を高めていくことが必要となる。学習の内容についても、個別的・具体的な事象から、一般的・抽象的な概念が多く含まれてくるので、例えば、概念の意味を理解し、その概念を用いて説明する、情報の意味を解釈し、説明することなどが重要となる。数学科、理科、社会科などで様々な具体的な事象から概念を導き出したり、具体的事象に当てはめて説明したりする活動を大切にして、基本的な概念の理解を確実にする指導などが求められる。
2  さらに学習が進むと、クリティカル・リーディング(注3)の考え方によって、自らの考えを深めること(自己内対話)が求められる。具体的には、与えられた情報や資料について、目的意識をもって、自らの有する知識・経験と結びつけて分析・評価する、比較考察や批判的検討を加える、自分なりの意見を論述する、客観的に論証することなどが重要となる。そのためには、例えば、国語科では、段落相互の関係や論理の一貫性など、文章の内容や展開、構成等に留意しながら、論証の確かさや説得力などについて評価を行った上で論文を書かせる指導、社会科では、対立する見解を分析し比較検討させる指導などが望まれる。
3  今後、いわゆるPISA型読解力の考え方を踏まえ、資料や文章を読んで、情報を取り出す、解釈する、熟考・評価して論述するなどのプロセスに即して、それぞれのプロセスに必要な技能、それを伸ばすために必要な言語活動について、発達の段階を踏まえて教育内容に適切に位置づけていくことが必要である。

(注3)クリティカル・リーディング… 自分なりの判断や根拠に基づいて評価しながら情報を読み取ること。

(3) 考えを伝え合うことで、自らの考えや集団の考えを発展させる力を伸ばす。
 自らの考え、あるいは集団の考えを発展させていくためには、考えを伝え合うこと(他者との対話)によりお互いの考えを深めていく活動が求められる。その際、内容に応じて問答やディベートなどの対話や議論の形式を用いることも有効である。例えば、ディベートの形式を用いる場合には、自分の判断を保留し、肯定と否定の両方の立場から議論することで、主観と客観を意識させるプロセスや留保条件付き判断ができるプロセスが重要である。
 なお、小学校段階においては、発達の段階に応じた指導が重要であることに留意しつつ、論理的な思考に基づく議論の力を付けていくような指導も必要である。そして中・高等学校と進むにつれて他者の考えを汲み取って議論を練り上げていくような指導を考えることが望ましい。

(4) 指導方法
 上記(1)(2)(3)の力を養うための指導方法については、例えば、各教科等での指導なども含めて、次のような意見があった。
   自ら考え、自ら学習するという態度に思考力や言語力を育成する契機があるので、考えさせる指導、書かせる指導がより一層必要である。記録文、報告文、説明文、物語文、生活文、論文などを書く機会を児童生徒の状況に応じて多様に設定することが期待される。その際、事実と意見を書き分けること、また、書いたものを分析することを通じて、自分の考えを自分自身にフィードバックさせることを指導することが望ましい。例えば、総合的な学習の時間などで体験活動を行う場合には、自らの考えを深めるため、活動を振り返って「学んだことを書く」ことにより体験を言語化させる指導を行うことが期待される。その際、実感し、思考を深め、自らの生き方を考える、という段階を意識させる指導をする必要がある。
 論理的思考は、例えば、「事実と意見との区別」や「判断と根拠」、「原因と結果」、「比較・対照」という観点から考えることができるので、こうした観点を基にして、国語と各教科等との分担や連携を図りつつ指導することが望ましい。
 例えば、国語科及び外国語科の読みの指導においては、文章を分析するだけでなく、自らの知識や経験に照らして文章の内容を評価し、自らの考えを表現する、いわば文章と対話するような指導をすることが望ましい。
 例えば、理科の観察の活動において、観察したことを基に説明するときに、「なぜ」という観点を補うよう指導することや、視点を変えて多面的・多角的に物事を見るように指導することが望ましい。
 例えば、社会科の学習において、同一の事象や出来事について、様々な立場の人が書いた文章を読んで比較することで、社会の仕組みの長所短所を理解したり、比較したり、よりよくするための議論をしたりするなどの活動をすることが望ましい。
 文章や資料を読んだり書いたりすることを通して、論理的思考力を育成することが望ましい。
 日常生活の中で、新聞を読んで、自分の意見を話したり書いたりすることが望ましい。
 指導方法を明確にするため、教員の研修や各学校における実践事例の集積・共有、その事例に基づくワークブック教材の作成などが求められる。

3. 感性・情緒等に関すること

 感性や情緒は、他者との人間関係の中ではぐくまれていくものであり、様々な人間関係の中での美しい言葉や心のこもった言葉の交流は、人間関係を豊かなものに高めていくものである。
 様々な事象に触れて感性を磨くことは、豊かな人間性を育成する上で大切である。例えば、喜怒哀楽の感情をどのように言葉で表現するかということを考えるとき、身体表現や文化的背景とのかかわりなどについても考える必要がある。
 情緒を育てる場合において、論理と情緒とを対立する問題としてとらえることは適当でない。物事を直感的にとらえるだけでなく、分析的にとらえることも情緒を豊かにすることにつながるからである。例えば、絵画の説明や分析などの活動も、感性・情緒を豊かにしていく上で有効である。また、物語、小説などの文学的な文章を読むときに、内容や表現についての討論を前提として、登場人物の関係性や作家の発しているメッセージを分析することなどの活動も有効である。
 国語科においては、様々な言葉や文章を聞いたり読んだりする機会を充実し、文章の内容だけでなく表現・修辞から生じる感性・情緒にも目を向けさせること、また音読・暗唱などの指導や古典の教育の充実が求められる。
 生活科や総合的な学習の時間などにおいては、体験活動等を通じて子どもたちが驚いたり、疑問に思ったり、感動したりして発する、実感の伴った言葉を豊かにしていくことが求められる。
 特別活動における学校行事などの体験活動は、豊かな自然や文化に触れる中で、児童生徒の心情を豊かなものにするとともに、言語活動を一層高めていく契機となることが期待される。
 また、音楽、図工、美術、道徳での指導を通して、感性を磨き、情緒をはぐくむ指導も深めていく必要がある。

4. 他者とのコミュニケーションに関すること

 人々の共同生活を豊かにするためには、個々人が他者との対話を通して考えを明確にし、自己を表現し、あるいは他者を理解し、他者と意見を共有し、お互いの考えを深めていくことが望まれる。日常のコミュニケーションから協同的な関係を築くよう努めることが重要である。
 指導方法としては、ペアや小グループでの活動を含めて、学級内での異なる考え方を相互に取り入れ深めていくなど、教室内の日ごろからのコミュニケーションの充実により、集団としての学習力を高めていくという視点が求められる。その際、すべての子どもたちがコミュニケーションの場にいられるよう配慮しなければならない。また、教員は、子どもの「聞く力」を育てる指導を重視する必要がある。積極的に発言することだけでなく、相手の発言をしっかりと聞き取り、受け止めること、状況に応じて的確に返すことを含めて、すべての子どもが偏りなく授業やコミュニケーションに参加し、互いに理解し合えるような配慮が求められる。さらに同級生だけでなく、異年齢の幼児児童生徒、地域の人々など様々な他者とのコミュニケーションの機会の設定も重要であり、その際、障害者等との適切なコミュニケーションについて配慮することが大切である。
 対話を促進するための具体的な授業の展開としては、正解が一つに絞れない課題を考える必要がある。社会科、理科、家庭科、技術・家庭科、総合的な学習の時間などでは、例えば、環境問題に関して10年先、20年先の状況について、根拠を示しながら予測する、未来予測の授業など正解が一つとは限らない問いが考えられる。また、結論は同じでもプロセスが多様である課題について議論しながら学習を積み重ねていくことも大切である。
 特別活動は、望ましい集団活動を通して行われていく教育活動という特質を有している。学級活動や児童会・生徒会活動、学校行事も、話し合いや対話等を基盤として成り立つものであり、こうした教育活動はコミュニケーション能力を高めるものであって、同時に言語力の育成に資することが期待される。
 議論は、時に他者と対立するものととらえられ敬遠されがちであるが、対話すること、議論することを通して、自分の思考・理解が深まり新たな発想が生まれるという実感、他者とかかわりながらよりよく問題解決をする楽しさが味わえるという意識を培うことが望まれる。具体的に、例えばKJ法(注4)やディスカッション、ディベートなどを通じて、意見の異なる人と議論して協同的に問題解決をする態度を育成することや、意見の対立が生じたとき、その対立を乗り越えて問題解決をする仕方を身に付けさせることが期待される。
 我が国の言語文化の優れた点を継承しつつも、対話や議論に関する新たな文化を創造することを目指す必要がある。その際、多様な発想を互いに披瀝(ひれき)し、その発想を吟味検討することを通して新しい認識、総合的な認識が出来上がっていくことを実感させたい。

(注4)KJ法… 文化人類学者である川喜田二郎の頭文字をとった創造的問題解決法。KJ法は単なる情報の整理術ではなく、個性の発揮と集団の知的・情緒的生産とを同時に可能とするチームワークの技法でもある。

5. 指導に当たっての配慮事項等

 指導に当たっては、下記の各事項を通して、子どもの言語力が確実に育成されるよう、総合的に実施するなどの配慮が必要である。

(1) 語彙について
 幼児児童生徒の現状を見ると、生活体験が不足し、感情を直接的に表現する言葉が多用され、語彙が乏しくなっているので、実生活の中で読書や遊びを通じてそれを充実させることが望まれる。
 論理や情緒に関する語彙を豊かに身に付けることは、思考力を高めたり情緒を豊かにしたりすることにつながる。そのためには、各教科等で習得すべき学習の基本語彙を整理して明確にしたり辞書等を活用したりすることなどが重要である。

(2) 言語運用法について
 従来の教育においては、感性・情緒の面に重点が置かれ、論理や表現法に関する配慮が不足していたので、義務教育の段階で、言語運用法の指導を体系的に行うことが求められる。
 文や文章の構造と機能についての理解と自覚を深め、効果的な言語運用を可能にする力を育成することが望まれる。文法についても、国語(言語)の特質の理解を進めるとともに表現や対話に役立つ実用的・実践的なものとなるよう見直していく必要がある。

(3) 教材について
 主たる教材として重要な役割を果たす教科書については、その質・量両面で充実する必要がある。
 国語の学習を通じて日本のことを深く理解するために、教材として日本の文学作品を重視すべきである。子どもが熟読するためにふさわしい古典を教材とすることが望ましい。言語運用法に関する教育を充実するため、子どもたちに言語に関する技能としての説明や報告を繰り返し行わせ、論理的思考力などの育成を図るための教材も必要である。

(4) 読書活動について
 言語力の育成のため、読書するための基礎・基本の力を養うことが求められる。PISA型読解力の育成を図るため、例えば1冊の書物をしっかり読み合って議論をするなど、国語と他教科等とのねらいの違いを認識した上で、各教科等において、どのような読書活動を推進するのか明確にする必要がある。
 例えば、国語科においては、小学校では、児童が日常的に読書に親しむようにするために指導内容を明確に位置付け、中学校では、生徒の読書をより豊かなものにするために指導内容を明確に位置付けることが望ましい。他の教科や総合的な学習の時間、道徳、特別活動においても、それぞれのねらいや特性に応じて、読書活動を一層充実することが求められる。
 また、学校での朝の読書、日常生活の中での読書など、教科等の授業時間以外の幅広く継続的な取組が重要であり、これを促進する仕組みを検討することが期待される。具体的には、ものの見方、感じ方、考え方を広げたり深めたりするとともに、言語感覚の育成や日常の言語生活の質の向上を目指して、学校・家庭・地域を通じた読書活動の一層の充実を図ることが大切である。
 このほか、読書活動の推進を図る上で、学校図書館や地域の図書館など、読書活動を推進するための環境の整備についても配慮されなければならない。

(5) 言語生活について
 言語力は、豊かな言語生活を基として育つものである。言語生活を豊かにするために、学校教育活動においては、既述の多様な教育環境を活用することに留意するとともに、辞書、新聞、図書館など様々な言語的な道具や場の利用法について指導すること、また、それらを活用して得られた体験を含め、生活体験、自然体験などを自らの言葉で表現し、体験を言語化させるよう指導することが望まれる。その際、言語力を用いる際のモラルや、それに伴う責任を併せて教えることも必要である。

(6) 評価について
 上記に関連する指導を実施した後、子どもたちの変容などを把握し、それらに対する評価を適切に行うことが期待される。評価を行う際には、評価に基づいて指導を改善し、指導のさらなる充実につなげていく視点が重要である。

6. 発達の段階に応じた指導の充実の考え方

(1) 基本的な考え方
 言語力の育成に当たっては、子どもたちの発達の段階に応じて指導の重点を工夫しつつ、より効果的にはぐくんでいくこととしたい。子どもたちの意欲ということに留意しつつ、体験や指導を通して、言語に関する様々な約束事(型)に気付かせ、その約束事(型)を使ってものを考える機会をもち、それが身に付いてくるにしたがって約束事(型)の意味を理解し自分の技術として使えるようにすることが求められる。
 発達の段階に即して教えることなどと、同じ内容を繰り返して教えることなどとを組み合わせて、指導内容を配列していくことが大切である。
 幼稚園ならびに小学校では、特に低学年で聞くことに関する指導が重要である。他者の話に耳を傾けることは、人間関係の基本であることから、形式面だけにとらわれずに、実感をもってその重要性を理解させる必要がある。

(2) 学校段階ごとの指導の特質
 幼児期から小・中・高等学校へと発達の段階が上がるにつれて、具体と抽象、感覚と論理、事実と意見、基礎と応用、習得と活用と探究などについて認識や実践ができる水準が変化してくる。それに応じて、指導内容や言語活動の特色付けをしていく必要がある。この点については、例えば、次のような意見があった。
   幼児期は体験を共有している人に伝えること、小学校では、体験を共有できていない人に伝えること。幼児期や小学校低学年では、体験したことや自分の気持ちを子どもなりの表現で伝え合ったり、話し合ったりすることを楽しむこと。小学校高学年では物事を多面的・多角的に見ることにより論理的な思考を身に付けさせること。
 小学校では観察・実験において丁寧に見て、記録すること。中学校では、問題を発見・検証して他人に説明すること。高等学校では、なぜと問いながら活動し、事実判断に加えて価値判断を自分の言葉で他人に伝えること。
 幼稚園は体験し、自分なりに思考し、表現する時期。小学校は体験を組織化して目的に応じて整理できる時期。中学校は自らの考え方を主体として論理的に考える時期。高等学校は妥当性をチェックし論理的に表現できる時期。
 小学校段階では、低・中学年で観察・見学・事象の表現、高学年になると、具体の世界から抽象の世界に渡って意図の推測もできるので、目的的行為の説明などが有効。中学校段階では、問題・仮説・検証過程の表現や留保条件付きの判断、高等学校段階では、自己の判断根拠の表現が有効。また、いずれの段階でも、なぜと問いながらの活動を重視することが有効。
 幼児期には、イメージの形成が中心となるので多くの実体験が重要であること。小学校低・中学年では具体的な思考が中心となるので、事実の正確な理解・記録・伝達が重要であること。小学校高学年では形式的・抽象的思考が可能となるので、概念の意味を理解したり、概念に基づいて説明したりすることが重要であること。中学校・高等学校では、より高度な形で自分なりの考え方を形成することが可能となってくるので、文章や資料を読解し、評価し、自分の考えを論述することが重要であること。
 言語に関する感覚や思考力を高めていくため、メタ認知能力(注5)を育成すること。特に小学校段階から各教科等で振り返りの時間を適切に授業に組み入れること。例えば、小学校であれば、その日の授業について家族に手紙を書くことなどが指導に当たっての工夫として考えられること。

  (注5)メタ認知能力… 自らの思考や行動を客観的にとらえて、自覚的に処理する能力。

7. 教科等を横断した指導の充実の考え方

(1) 基本的な考え方
 言語力の育成を図るためには、前述した観点からの検討が求められるものであるが、学習指導要領の各教科等の見直しの検討に際し、特に次の点に留意することが必要である。
(ア) 知的活動に関すること
 思考や論理は、的確であることが基礎となるので、事実を正確に理解し、他者に的確に分かりやすく伝える技能を伸ばすこと
 クリティカル・リーディングやいわゆるPISA型読解力の考え方を踏まえ、自らの考えを深めることで、解釈や説明、評価や論述をする力を伸ばすこと
 対話や議論の形式を活用するなどして、考えを伝え合うことで、自らの考えや集団の考えを発展させる力を伸ばすこと

(イ) 感性・情緒等に関すること
 感性や情緒は、他者との人間関係の中で育まれていくものであり、美しい言葉や心のこもった言葉の交流は、人間関係を豊かなものに高めていくものであること

(ウ) 他者とのコミュニケーションに関すること
 個々人が他者との対話を通して考えを明確にし、自己を表現し、他者を理解するなど、お互いの考えを深めていくことが人々の共同生活を豊かなものにすること

 言語力の育成については、これらのことを踏まえた上で、国語科を中核としつつ、すべての教科等での言語の運用を通じて、論理的思考力をはじめとした種々の能力を育成するための道筋を明確にしていくことが求められる。その際、各教科等の特質を踏まえて取り組むことが重要である。

(2) 教科・領域ごとの特質を踏まえた指導の充実
<国語>
   国語科は言語力育成の中心的な役割を果たすべく、メタ言語活動(注6)の指導の充実など国語科自体の改善を図ることが必要である。
 例えば、小学校・中学校においては、言語の教育としての立場から、実生活や実社会で必要な言語能力、各教科等の学習の基本となる言語能力、さらに言語文化に親しむ態度を確実に育成することが求められる。
 高等学校においては、加えて、社会人として必要な言語能力の基礎を確実に育成するとともに、言語文化を享受し自ら創造していく能力や態度を育成することを重視する必要がある。
 国語科で育成を図る言語力については、他教科等での活用も視野に入れ、基礎的・基本的な知識・技能を習得することと、それを活用して課題を探究することを重視すべきである。
 言語力を育成するため、「受け答えをする」「事実を正確に伝える」「要点をまとめる」「相手・目的・場面を考えて情報を理解したり伝えたりする」「多面的・多角的に物事を見る」「情報を的確に分析する」「自らの知識や経験に照らして情報を評価する」などの技能や能力を育成していくことが望まれる。このため、発達段階に応じて重点化を図りながら、適切な言語活動や言語運用法の指導を組み込んでいくことが望ましい。
 文章や資料を活用し、論理的に考え、表現する力を育成するためには、「情報の取り出し」→「解釈」→「熟考・評価」して論述するという、いわゆるPISA型読解力のプロセスを参考として指導することが期待される。
 伝え合う力を育成するため、相手の立場を考慮しながら双方向性のある言語活動をしたり、建設的な合意形成を目指した言語活動をしたりする技能を育成することが望ましい。
 我が国の文化や伝統を継承・発展させるため、近現代文学や古典をはじめとする言語文化に親しむ態度や、日常的に読書をしたり表現したりする言語生活を形成する態度を育成することが大切である。
 今日の情報化社会の中で、複数のメディアやテキスト等を活用して、メディアの特性を踏まえた情報評価能力を育成することが期待される。

  (注6)メタ言語活動… 発表する、感想を述べるなどの言語活動自体について、客観的にとらえ自覚的に行う言語活動。(P)

<社会、地理歴史、公民>
   社会科、地理歴史科、公民科では、身近な地域の観察・調査などを行う学習において、的確に記述し解釈を加えて報告すること、法則性や概念を基に事象を説明すること、価値判断や未来予測、また、未来がどうあるべきかという議論が必要な場面を設けて各自の解釈・判断を論述したり、意見交換したりすることが考えられる。
 また、言語力や思考力の育成のために、様々な資料を的確に読むことや、それらの資料を関連付けて読む、比べて読む、批判的に読むなどの指導を充実することが望ましい。

<算数・数学>
   算数・数学科では、算数・数学を活用して考えたり判断したりする活動に重点をおき、その活動がよりよく行われるよう、言葉や数、式、図、表、グラフなどを用いて、筋道を立てて説明したり論理的に考えたりして、自ら納得したり他者を説得したりする指導を行うことが大切である。また、予測や推測を生み出しそれらを確かめたり、よりよい予測や推測をしたりするための指導を行うことも大切である。
 その際、帰納的な考え方や類比の考え方、予測や推測を検証するための演繹的な考え方をはぐくむ必要があり、それらの考え方をよりよく用いるために必要な言語力を身に付けさせることが期待される。例えば、事実の説明あるいは理由や手順の説明の仕方を身に付けさせることなどである。
 なお、指導にあたっては、根拠を基にして、ある事柄が「正しい」「正しくない」ということを明確に説明できるようにすることが期待される。

<理科>
   小学校中学年では、例えば植物の観察などにおいて、問題意識や見通しをもちながら視点を明確にして、差異点や共通点をとらえ記録・表現すること、小学校高学年では、例えばものの溶け方などにおいて、条件や規則性に着目して事象を説明すること、中学校から高等学校の段階では、観察・実験の結果、状況により資料等を加え考察し、科学的な概念を理解し、実証性・再現性・客観性などの視点から評価・論述したり、討論したりすることが考えられる。
 理科では、発想した予想や仮説の検証方法を考察する場面で、それぞれの予想や仮説と検証方法について討論しながら考えを深め合うこと、結果の解釈場面で、結果の確証や反証を基に観察・実験の方法や、発想した予想や仮説の真偽を検討しあうことが望ましい。そうした指導の充実がコミュニケーション能力の育成に有効である。

<生活科>
   体験活動を通して得られた気付きの質を高めるため、見つける、比べる、たとえるなどの学習活動や、体験したことを振り返り、言葉や絵などによって表す学習活動を重視することが考えられる。
 身の回りの人とのかかわりや自分自身について考える力を育成するため、体験したことを伝え合う機会や、発表したり感想を述べ合ったりするなどの機会を増やすことが期待される。
 小学校生活への適応や幼児教育との連携を図るため、体験と言語等とのかかわりを重視した合科的・関連的な指導を充実させることが望ましい。

<音楽>
   音楽のよさや美しさを生み出している様々な要素の働きなどを聴き取り、イメージや感情を比喩的な言葉で表したり、音楽に対して、根拠をもって自分なりに批評したりすることのできる力を育成する指導を一層充実することが望まれる。
 音によるコミュニケーションを通して、生活や社会と豊かにかかわる態度をはぐくみ、生活を明るく潤いのあるものにする音楽の役割を実感させるような指導を重視することが期待される。
 良好な人間関係を構築する能力を育成する観点から、合唱や合奏、グループによる創作を通して皆で一つの音楽をつくっていく体験を重視し、表現したいイメージを伝え合ったり他者の意図に共感したりする指導を充実することが望ましい。
 歌唱表現において、歌詞の内容や言葉の特徴を生かして歌ったり、日本語のもつ美しさを味わったりするなど、言語と音楽との関係を大切にした指導を重視することが望ましい。

<図画工作、美術、美術・工芸>
   表現や鑑賞の活動を通して、感性や想像力を働かせながらよさや美しさを感じ取り、思考・判断し、表現するなどの資質や能力を育てることが求められる。
 生活や社会と豊かにかかわる態度をはぐくむため、身の回りの形や色、環境などから感じ取ったことを伝え合ったり、形や色、材料などを生かして他者や社会に表現したりするなどの学習を一層重視することが考えられる。
 感じ取る力や思考する力を一層豊かにするために、自分の思いを語り合ったり、自分の価値意識をもって批評し合ったりするなどして、自分なりの意味や価値をつくりだしていくような指導を重視することが望ましい。

<外国語>
  【中・高等学校】
 コミュニケーション能力の育成と文法指導を対立的にとらえることは適当ではない。ルールとしての言葉の仕組みの理解と、ルールに基づく創造的な言語運用について、両者を関連付けた指導を充実することをめざす必要がある。
 外国語の学習を通して思考を知覚の対象とし、思考に対して注意を払うことにより、言葉を焦点化したり修飾関係をとらえたりして、メタ言語能力を高め、言葉に対する感性を磨くことが期待される。
 コミュニケーション能力や思考力の向上のためには、言語の基盤となる語彙力の充実が求められる。その際、語彙を機械的に覚えるだけでなく、実際に使用するなど積極的に活用させることが望ましい。
【小学校】
 小学校の英語活動等においては、体験的な活動等を通して言葉のもつ意味、言葉の大切さ(言語による相互理解等)、日本語との違いなどに気付かせることが重要である。このことがメタ言語能力の芽生えを形成する上で重要な役割を果たすものであると考えられる。
 小学校の英語活動等においては、コミュニケーション能力を養う上で必要となる積極的な態度の育成が可能であり、中学校以降続く英語教育にも資するものである。また、非言語を含めて、コミュニケーションを図るために、言語力を総動員することの大切さを理解させることができる。
 小学校の英語活動等は、小学生にとって自己を表現したり、言語やコミュニケーションに関する感覚を養ったりする体験的機会ととらえることができる。他の言語にふれる体験を通して、日ごろ用いている日本語の特性に気付いたり、日本文化について発信したりするなどの機会とすることができる。

<家庭、技術・家庭>
   幼児や家族、地域の人々と触れ合い他者とかかわる力を高める活動や、情報通信ネットワークや情報の特性を生かして考えを伝え合う活動を一層重視することが期待される。
 合理的判断力や創造的思考力、問題解決能力の育成を図るため、衣食住などの生活における様々な事象や技術製品などのもつ科学性を説明する活動や、価値判断が必要な場面を設けて、各自の解釈・判断を論述したり、最適な解決策を探究したりする活動を一層重視することが望ましい。
 衣食住やものづくりなどに関する実践的・体験的な活動を一層重視し、その過程で様々な語彙の意味を実感を伴って理解させるよう配慮することが考えられる。

<情報>
   他者とのコミュニケーション能力を育成するため、情報通信ネットワークやメディアの特性を生かし、ルールを守り、安全に配慮しながら、相手や目的、場面を考えて、様々な他者との間で考えを伝え合う活動を一層重視することが考えられる。
 情報通信技術やメディアの特性を踏まえて、新たな情報を創り出したり、問題解決の手順を明確に記述させたり、最適な解決策を探究するとともに解決した結果を評価したりすることで、合理的判断力や創造的思考力、問題解決能力の育成を図る活動を一層重視することが望ましい。
 実践的・体験的な活動において、情報通信技術やメディアを適切に活用して、自分の考えなどを整理し、分かりやすく表現したり、説明したりする活動を一層重視することにより、様々な語彙の意味に対する実感の伴った理解を深めるよう配慮することが考えられる。

<体育・保健体育>
   他者とのコミュニケーション能力を育成するため、ダンスなどの身体表現や、ゲーム場面での意思疎通などの集団的活動で互いに励まし合ったり、相手チームの健闘を称えたりして、協力して学び合う活動や、実習やロールプレイングを実施した際の観察や体験を基に話し合いを行い、考察し、健康にかかわる概念や原則を見いだすなどの活動を充実することが期待される。
 論理的思考力を育成するため、筋道を立てて練習や作戦を考え、その結果を客観的に評価し、必要な修正を図るなどの活動や、健康に関わる概念や原則を基に、身近な生活や社会における健康課題を的確にとらえたり、改善の方法について具体例を挙げたりしながら筋道を立てて論述するなどの活動を重視することが考えられる。

<総合的な学習の時間>
   問題解決的・探究的な学習を充実するため、学習活動の中でPISA型読解力における読解のプロセスを参考とした「問題意識をもつ・問題を設定する」から「情報の取り出し・収集」から「整理・分析・思考」から「まとめ・表現」という学習の流れを重視することが考えられる。
 他者や社会とかかわる力を育成するため、多様なグループ編成によって互いに教え合い学び合う学習活動や、異なる立場の人、地域の人との意見交換など協同して課題を解決しようとすることを重視することが望ましい。
 国語科とも連携し体験を言語化する指導の充実や言語に対する関心を育成することが求められる。

<道徳>
   道徳的価値観の形成を図る観点から、自己の心情・判断等の表現力を高めるため「書く活動」を重視することが考えられる。
 道徳的心情を豊かにするため、人に感動を与える心の美しさや強さを浮き彫りにした題材等を活用することが考えられる。
 道徳的な問題に対する判断力を育成するため、公正、正義などの倫理的諸価値を用いて様々な課題について討論等を行い考察させるような指導を行うことが考えられる。

<特別活動>
   学校や学級における生活上の問題を、言葉や話し合いを通して解決する活動を一層重視する必要がある。
 人間関係や集団生活の形成に必要な言語力を育成するため、協同の目標の下に行う同年齢や異年齢による言葉の交流活動を一層重視することや、自分や他者の多様な考えをよりよい方向へまとめていくような力を育成することが重要である。
 また、構成的グループ・エンカウンター(注7)、ソーシャルスキル・トレーニング(注8)、ピア・サポート(注9)など好ましい人間関係やよりよい集団生活を形成するのに必要なスキルを学ぶ場を適宜設けることが望ましい。
 学級会や児童会・生徒会など様々な会議の方法について、国語科で学習した内容を体験的に理解したり実践したりできるようにすることが考えられる。
 実生活や実社会で役立つ言語力を育成するため、あいさつや言葉づかいの啓発活動を重視することや、地域との交流活動、児童会・生徒会と地域の人々との合同会議などを実施し正しい敬語の活用など言葉によるコミュニケーションを促すことが期待される。
 体験したことを言葉でまとめたり、発表し合ったり、手紙に表したりする活動を一層重視することが望ましい。

  (注7)構成的グループ・エンカウンター… 教師や同級生等から「尊重される、認められる、褒められる」体験を経ることで、自分のよいところや努力を周囲の仲間に評価されることを実感するとともに、自分を肯定的に評価でき、自尊感情をもてるようにする取組。
  (注8)ソーシャルスキル・トレーニング… 人間関係についての基本的な知識、自分の意思を状況や雰囲気に合わせて相手に伝えること、対人問題の解決方法などについて説明を行い、また、ロールプレイングを通じて、グループの間で練習を行う。
  (注9)ピア・サポート… Peerイコール「仲間」をSupportイコール「支援する」。異学年交流を通じ、「お世話をされる体験」と、成長した後に「お世話をする体験」の両方を経験し、「自己有用感」を獲得する。同時に、自ら進んで他者と関わろうとする意欲や必要な能力を、仲間との活動によって培う。



参考:言語力育成に関する整理用一覧表(修正案:反映版)


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