1.学校教育活動における国際教育の充実

 本章においては、先に示した基本的視点を踏まえつつ、国際教育の充実のための具体的方策を提言する。

(1)学びが広がり深まる授業づくり

  • 各教科等や総合的な学習の時間の相互関連性を意識した授業づくり
  • 先進的な取組事例の情報提供
  • 学習内容・方法等の開発・普及
  • 情報通信技術の活用
  • 言語教育の充実

1.各教科等の関連を意識した授業づくり

 国際教育は、各教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間などのいずれを問わず推進されるべきものである。
 総合的な学習の時間だけでなく、各教科等においても、自国や外国の歴史・文化の理解と尊重、地球的視野と多様なものの見方、人間尊重と共に生きるという考え方、表現力・コミュニケーション能力といった国際教育の要素を意識して指導することが重要である。
 また、各教科等で培った基礎的・基本的知識、技能等を、総合的な学習の時間や学校行事において体験などに結びつけ、それをさらに学ぶ意欲につなげることが求められる。逆に、総合的な学習の時間等における異文化体験などを、各教科等での学習への関心や学習効果につなげていくことも大切である。
 例えば、日本と世界のつながりを学習するため、日本と外国の文化について、社会科の学習を通じて理解を深め、美術や音楽の学習を通じてよさを感じとり、総合的な学習の時間を使い、調査や発表、ものづくり体験を行うなど、学習のねらいや内容に関連のある複数の教科等を結びつけることは、国際教育の観点から効果的である。
 学校全体の教育目標に国際教育を明確に位置づけ、各教科等においても国際教育の視点を盛り込みつつ、教科における学習と総合的な学習の時間の関連を常に意識するなど、各教科等を相互に有機的に結びつけながら、授業に広がりと深まりをもたらすことが重要である。その際、貴重な実践経験をもつ学校の外部にある組織や人材等と協働した授業づくりを進めることが大切である。

2.実践的な態度・能力を育成する授業づくりへの支援

 学校や教員が、子どもたちや学校、地域の実情に応じ、創意工夫しながら国際教育に取り組むためには、先進的な実践事例やモデルとなるような学習内容・方法等を普及し、授業づくりを支援していくことが求められる。

優れた取組の普及

 国際教育について大きな成果を上げている取組が多くの学校で行われているが、このような優れた実践事例を広く提供することが必要である。実践事例の収集・提供に当たっては、各教員が抱える教育課題の解決や授業改善に結びつくヒントとなるよう、質の高い授業作りに役立つ情報の蓄積や共有化を図り、教員自らが工夫・発展させることができるものとすることが大切である。

学習内容・方法の開発

 各学校において、地域の実情にあった学習内容や方法を開発し、創意工夫を発揮した特色ある国際教育を展開することが大切となる。モデルとなるようなカリキュラムを大学やNPO等と連携して開発し、それを基に、各学校や教員が、必要な工夫を加え、授業に活用していくことが考えられる。
 あわせて、国際教育に関する教材開発を行うことが必要である。例えば、写真、映像、マルチメディアなど多様かつ有用な教材が、国際教育に関連する様々な分野や国内外の国際機関、教育関連団体において作成されている。これら多種多様な教育資産を学校における国際教育に有効活用していくことが大切である。

情報通信技術の活用

 インターネット等の情報通信技術を、国際教育に積極的に活用していくことが大切である。特に、インターネットについては、規模や地域、周辺環境に関係なく、子どもたちが世界とつながり、共同プロジェクトに参加し交流ができるという利点がある。世界中の人々がつながり合っていくコミュニケーションの手段として大きな可能性を秘めているインターネットの活用を促進していくことが必要である。

3.言語教育の充実

国際教育の推進にあたっては、相手の国の言語を学び合うことが大切である。また、一つの学習課題を次の学習課題に発展させていくためには、コミュニケーション能力が重要な鍵を握ることから、コミュニケーション能力の基盤をなす言語教育にも十分に配慮する必要がある。

外国語教育の充実

 英語をはじめとした外国語運用能力については、コミュニケーションの手段として国際社会で実際に通用するよう、「聞く」、「話す」、「読む」、「書く」の能力をバランスよく育成していくことが重要である。
 また、外国語教育は、単に言語運用能力の習得だけを目的とするのではなく、異なる文化や言語をもつ人々とのコミュニケーションという主体的な活動を通じて、自分の考えを持ち、それを主張する中で合意を形成していくという態度・能力の育成にも直接的に寄与するものでもある。子どもたちの主体的な活動への参加が促されるよう、子どもたちの発達段階を踏まえた話題、題材、素材を扱うなどの工夫が必要である。
 文化の異なる人々と対話を通して豊かな関係を構築するためには、伝達手段としての言語だけではなく、国や自己の在り方と不可分の関係にある言語を理解することが不可欠である。国の姿や文化を映す鏡としての言語の重要性に対して認識を深めることも大切である。

国語教育の充実

 コミュニケーション能力などすべての知的活動の基盤となるものが国語力である。国語を用いてものごとを正確に理解し適切に表現する能力を育成するとともに、伝え合う力を高めることは極めて重要である。国際教育に関する取組においても、読み書きなどの徹底はもちろんのこと、相手や目的、場面に応じて国語を用いて正確に理解し適切に表現する能力が育成されるようにするとともに、特に、互いの立場や考えを尊重し言葉で「伝え合う力」を高めることを意識しつつ指導していくことが大切である。

(2)教員の実践力の向上

  • 多様な経験を有し、国際教育に情熱を持ち、実践的な指導ができる教員を育成
  • 学習指導や教材開発の方法の習得など参加型・実践型の研修を重視

 国際教育の充実は、何よりも教員の力量にかかっているといっても過言ではない。
 国際教育における教員の役割は、単なる指導者としての立場だけではなく、学習の成果を高める学びの企画・構想者(プランナー)、学習者をよく理解し、励ますとともに適切な情報や学び方を提供する支援・援助者(ファシリテーター)、教員相互や関係者と連帯・協力する協働者(コラボレーター)としての役割を果たすことが重要となる。
様々な実践経験を積み、情熱を持ち、指導力の高い教員が、国際教育推進の中心となって実践していくことが必要である

1.教員養成段階における取組の充実

 国際教育の基本的な理念・視点は、「異なるものや異なることへの理解」、「多様性の受容」、「共生」などである。こうしたことについて教員自身が認識を深めていくことは、各教科等や総合的な学習の時間の指導だけではなく、学級経営、生徒指導などあらゆる面において役立つものと考える。教員養成段階において、国際教育にかかわる基礎的・基本的知識や理解を得ておくことは大切である。
 大学の主体的な取組により、国際教育に関する講座などの開設、教育内容や授業方法の改善等を通じて、国際教育にかかわる教員を目指す者の資質・能力の向上を図る必要がある。また、このためには、国際教育について専門的知識と多様な実践経験をもつ大学教員の輩出とそのような大学教員の教員養成への積極的な関わりも必要となる。

2.現職教員研修における取組の充実

 国際教育における教員の重要な役割に鑑み資質向上のための方策を講じることが必要である。各研修を通じて、すべての教員の国際教育の目的・内容への認識を深めることが重要である。また、国際教育に関する実践的指導力が育成されるよう、国・教育委員会・学校の各段階において、研修の充実を図ることが大切である。

参加型・実践型の研修・ワークショップの実施

 国際教育に関する教員の実践力の向上のため、研修の実施形態・方法等を見直し、講義中心ではない、参加型・実践型の研修・ワークショップを企画・実施していくことが必要である。特に、年間指導計画、指導案の作成、学習方法・教材の開発等、教員の実践に役立つ内容の研修を実施することが求められる。これらの研修を、国際教育の分野で専門的な知見や豊富な経験を有する大学、学協会、NPO等と連携して行うことも効果的である。また、実施時期や研修期間、実施場所に配慮し教員の参加しやすいものとすることも必要である。

校内研修の充実

 各学校においては、日常の教育活動や学校運営において、国際教育の観点からも、校長、教頭等が必要な助言、支援、協力を行うことが大切である。また、教員が研究授業を通じて、学校や地域の具体的な教育課題への認識を深め、学習方法や教材開発について研鑽を積んでいくなど、校内研修を充実させる必要がある。

個々の教員の取組の奨励

 個々の教員に対しても、自己研鑽に積極的に努め、国際教育にかかわる研修等の様々な活動に参加したり、研究授業を実施するなど、自主的・主体的な取組を期待したい。校長も個々の教員の取組を奨励・支援していくことが大切である。

海外研修の充実

 教員の国際性を高めるという点では、教員自身が海外を経験することの意義は大きい。教員自らが海外での生活を体験することによって、国際教育の重要性を実感することができ、また、国際教育の実践を進めるための有用なアイディアや素材を得ることができる。教員を対象とした海外研修が、国及び地方公共団体等で様々に実施されている。海外派遣機会の拡充を図るとともに、こうした教員の海外研修制度を充実させ、一層活用することが必要である。

(3)直接的な異文化体験の重視

  • 留学、海外研修旅行、海外修学旅行、姉妹校提携による学校間交流など、バランスのとれた国際交流の推進

 異なる文化・生活・習慣をもつ同年代の若者との交流活動は、異文化を直接体験し、国際理解を深め、国際性を養うという点で大きな意義をもつ。多くの学校で、留学、研修旅行、海外修学旅行や姉妹校提携など、様々な形態での交流活動が行われているが、今後とも、学校段階に応じ、地域の実情にあわせて工夫しながら、バランスのとれた国際交流を進めていく必要がある。特に、海外からの受入れの充実など派遣と受入れの両面での一層の交流を図るとともに、英語圏諸国だけでなく、近隣のアジア諸国との交流の促進が求められる。
 また、地域で行われる国際交流活動への参加や、地域の外国人学校との交流など、身近な国際交流を進めることも重要である。

高校生留学の促進

 高校生の留学や海外研修旅行は、大学生レベルでの留学やその後の国際交流活動の拡大につながるなど国際性の涵養に大きく寄与するものである。これらの海外派遣を充実するためには、国際教育や外国語教育の推進、派遣前オリエンテーションの充実等により生徒自身の留学に関する理解の向上を図ることが必要である。また、留学の意義の周知、留学情報の提供などにより教員や保護者の理解を深めることも大切である。このほか、留学による単位認定制度や大学の入学者選抜における高校生留学の経験の積極的評価の一層の推進なども求められる。
 海外から日本への留学を拡大するためには、受け入れる学校やホームステイ先の拡充とともに、留学生の受入れに関する海外への情報提供の充実などが必要となる。

学校間交流の促進

 学校間交流を促進するため、姉妹校提携や姉妹都市交流による交流先の拡充、優良な交流事例の紹介や普及、外国の学校との交流や受入れを希望する学校についての相互の情報提供などが必要である。
 また、海外修学旅行は、直接的異文化体験の機会として有効であるが、単なる施設、史跡名勝への訪問やお仕着せの交流活動にとどまることのないよう、目的の明確化や事前の準備学習、交流活動の意味づけなどを十分に行い、体験が学びの深まりにつながるような活動として充実する必要がある。

(4)外国人児童生徒教育の充実

  • 日本語指導等の一層の充実・不就学等新たな課題への確実な対応
  • 外国人にかかわる政府関係省庁や地方の関係機関の連携促進
  • 外国人児童生徒とともに進める国際教育の推進

 外国人の子どもたちへの教育については、従来より、日本語指導等に対応する教員の配置、母語のわかる指導協力者の派遣、JSL[Japanese as a Second Language:第二言語としての日本語]カリキュラム(※5)の開発、日本語指導者に対する講習会など、必要な支援が行われてきた。

  • ※5 JSLカリキュラム:日本語を母語としない子どもたちの学習支援のためのカリキュラム。文部科学省において開発、平成15年に小学校編を完成、平成18年中には中学校編が完成予定。

日本語指導等の充実

 今後とも、日本語指導の内容充実や指導方法を改善するため、日本語指導等に対応する教員の配置、教員に対する実践的研修の実施、JSLカリキュラムの普及などを通じ、外国人児童生徒の日本語能力の向上や学校生活への適応を着実に図っていくことが必要である。あわせて、母語を活用した教育支援が、日本語指導・適応指導の両面で効果的なことから、母語が理解できる人材を指導協力者や教育相談員等学校支援スタッフに登用するなど、受入体制の充実を図ることが求められる。
 また、問題となっている外国人の子どもたちの不就学についても、教育委員会が地域の関係機関やNPO、企業と連携して取り組むことにより、不就学の実態把握及びその要因分析、それらを踏まえた就学支援を行い、外国人の子どもたちの学ぶ機会を確保することが必要である。

関係機関の連携促進

 外国人の子どもたちを取り巻く環境は、保護者の意識、経済状況や来日前の学習歴など多様である。このため、子どもたちの教育環境の整備に当たっては、教育機関のみで取り組むことは容易ではなく、入国管理面や労働環境面など関係機関との一層の連携が不可欠である。従来より、市町村での外国人登録の際、公立学校への編入学に関する情報を提供するなど、地方公共団体内で必要な連携が図られているところであるが、外国人の子どもたちの教育環境の一層の充実のためには、関係省庁や地域の関係機関の密な連携が期待される。

外国人児童生徒と共に進める国際教育

 各学校においては、外国人児童生徒の母語や母文化を紹介し、国際理解を進めるという取組が行われている。このような取組は、外国人児童生徒にとっては達成感、存在感等の涵養に資し、その他の児童生徒にとっては異文化・異言語に身近に接することができ、教育上の効果も大きい。外国人児童生徒の異文化性を過度に強調してしまうことがないよう、児童生徒一人一人の実態を十分に踏まえ、学級運営において必要な配慮や継続的な指導を行いながら、取り組むことが必要である。児童生徒がお互いの違いを理解・尊重し、対等な立場で意見や考えを述べ、また協力しあう関係を構築するという「共に進める」視点をもち、今後とも、外国人児童生徒とその他児童生徒との相互理解を通じた国際教育を推進していくことが大切である。

 外国人の子どもたちも日本人の子どもたち同様、国際社会に生きる人材として育成していかなければならない存在である。自立して学び働くことのできる学力の育成とともに、国際社会に通用する態度・能力を有する人材として育成していくことが求められる。その際、母語・母文化を尊重し、家庭や地域の諸活動を通じてその保持・伸長がなされるよう配慮していくことも大切である。

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総合教育政策局国際教育課