1.学校としての組織的な取組と関係機関等との連携等

1.人権尊重の精神に立つ学校づくり

参考:人権が尊重される授業づくりの視点例

 人権教育の推進に当たり、日々の授業における活動の一つ一つが、人権尊重の雰囲気を醸成する上での重要な要素となる。授業の実施に際し、教員は、児童生徒の感情や考えをあせらず、あわてず、最後まで聴く姿勢を持つとともに、児童生徒の言葉や行動の内容の是非を性急に判断するのでなく、その背後にある心情や意味を理解するよう心がける必要がある。取り扱う学習内容や指導方法の特性については、予め十分把握するとともに、授業中には、児童生徒の発言や活動の様子を観察し、学習過程でのつまずきに伴う不安を受容して解決の見通しを示すなど、常に、受容的・共感的な姿勢・態度で接することが求められる。さらに、児童生徒が有用感・成就感を実感できるよう、互いのよさや可能性を認め合う活動を意図的に仕組んでいくことも大切である。
 以下に示すのは、人権教育の視点に立った授業の工夫を進めていく際の、主な視点の例である。

人権が尊重される授業づくりの視点例

視点 ねらい ポイント・留意点
自己存在感を持たせる支援を工夫する。 「授業に参加している」という実感を持たせる。
  • 学習内容や活動に応じた座席の工夫や発問・応答のパターンの工夫を行う。
  • 児童生徒の既習事項や生活体験、興味・関心等を把握し、様々な視点から解決できるように課題設定の工夫を行う。
  • 児童生徒の学習意欲や習熟の度合いを把握し、課題(教材)を複数準備したり、ヒントカードを与えたりする。
  • 結果にこだわらず、思考過程や学習過程を認める。
「自分が必要とされている」という実感を持たせる。
  • 意図的な指名等、一人一人が活躍する場や課題を工夫する。
  • 自由な発想や方法が認められたり、自己選択できる場を工夫する。
  • 互いの発言を最後まで聴く習慣や誤答を大切にする習慣を身に付けさせる。
  • 協力して活動できる場を工夫し、互いの考えや方法のよさに気付かせる。
教師自身が一人一人を大切にする姿勢を示す。
  • 一人一人の名前を呼び、目を見て話す。話をよく聴く。
  • 発言しない児童生徒に配慮するとともに、適切な支援を行う。
  • 承認・賞賛・励ましの言葉をかけ、個に応じた改善課題や改善方法を示す。
共感的人間関係を育成する支援を工夫する。 「自分が受け入れられている」と実感できる雰囲気をつくる。
  • 「誰にでも失敗はある」、「誰もがよさや弱さを持っている」という認識に立って、互いを尊重し合う人間関係づくりを行う。
  • 一人一人が自由に発言できる雰囲気づくりを行う。
  • 教師の意図と異なる考えを抑圧したり切り捨てたりしない。
「共に学び合う仲間だ」と実感できる雰囲気をつくる。
  • 他者の発言や作品のよさに気付き、学ぼうとする態度を育てる。
  • 自分の考えと異なる意見や感情を拒絶せず、それを理解する技能を育てる。
  • 他者の気持ちや立場を考えて自分の言動を選択・構成する態度を育てる。
  • 互いの役割や責任を認め合う態度を育てる。
自己選択・決定の場を工夫して設定する。 学習課題や計画を選択する機会を提供する。
  • 発達段階に応じて、複数の学習課題の中から自分にあった課題を選択する機会を設定する。
  • 発達段階に応じて、学習の見通しをもって計画を立てるための支援を行う。
学習内容、学習教材を選択する機会を提供する。
  • 児童生徒の実態を踏まえて多様な教材・教具を準備し、選択の幅を与える。
  • 自分の習熟の度合いや興味・関心に基づいて、教材・教具を選択できる場を設定する。
学習方法を選択する機会を提供する。
  • 児童生徒の実態を踏まえて児童生徒の実態や学習内容に応じた学習方法を提示し、選択の幅を与える。
  • 課題解決のための情報や資料を準備し、その活用方法について適宜助言する。
  • ワークシートやノート整理の方法、学習内容のファイルの仕方を助言する。
表現方法を選択する機会を提供する。
  • 児童生徒の実態を踏まえて多様な表現方法を提示し、選択の幅を与える。
  • 考えをまとめるための多様な学習ノートを準備する。
  • 相手や内容に応じた表現ができるよう、多様な表現スキルを提示する。
学習形態や場を選択する機会を提供する。
  • 児童生徒の実態や学習内容に応じた学習形態や活動の場を多様に提示し、選択の幅を与える。
  • 自分の課題や方法に基づいて活動内容や場所を選択する機会を設定する。
振り返りの方法を選択し、互いの学びを交流する機会を提供する。
  • 児童生徒の実態や学習内容に応じた学習成果のまとめ方を多様に提示し、選択の幅を与える。
  • 自他の学習課題や解決方法、学習の仕方やまとめ方等を振り返って交流する時間を設定し、他者の成果に学ぶとともに、今後の学習課題や方法について選択・決定できる場を工夫する。

参考:人権が尊重される人間関係づくり・雰囲気づくりのための環境整備の取組

 人権尊重の精神に立つ学校づくりは、教科等指導、生徒指導、学級経営など、学校における教育活動全体を通じて進めていくべきものであり、そのための取組は、授業をはじめとした「学習活動づくり」とともに、人権が尊重される「人間関係づくり」、「環境づくり」として、推進していく必要がある。
 人権尊重の「環境づくり」は、学校全体の雰囲気そのものにかかわるものであり、こうした雰囲気は、教職員の日常的な言動の在り方や、教職員と児童生徒の間、児童生徒同士の間の人間関係の在り方等によって形作られるものであるが、同時に、校内において、人権尊重の雰囲気を積極的に醸成するために、人権をテーマとした様々な取組の工夫を行うことも、環境づくりの取組として有効である。
 さらに、日々の学級経営においては、教室が、安心して過ごせ、学べる場となるよう、人権尊重の視点に立った教室環境の整備に努めることが重要である。

人権尊重の視点に立った校内環境づくりの取組例

取組 内容
1.「人権コーナー」等の設置 校内や教室内に「人権コーナー」等を設置し、児童生徒や来訪者が、いじめや差別のない人権が尊重される学校・学級づくりの必要性に ついて考えることができるようにする。また、児童生徒の作品を展示する場合は、作品に教員や友だちの評語を付けたり、本人のコメントを付けたりするなどし て、肯定的なセルフイメージの高揚や、児童生徒間の相互理解の促進を図る。
2.人権啓発作文・標語・ポスターの作成・掲示 人権週間等に合わせて、人権啓発に関する作文や標語づくり・ポスターづくり等を行うとともに、その作品を校内に掲示し、人権尊重の雰囲気の醸成を促進する。
3.人権集会・人権学習発表会等の開催、学習成果の発信 全校集会や学年集会等で、児童生徒が、他学年・学級の児童生徒や保護者、地域の人々に学習活動の成果を発表する機会を設ける。ま た、「学校だより」、「学級通信」、「PTA新聞」等を通して、人権学習の成果を校内外に発信する。これらを通じ、人権教育の取組に対する学校内外の理解 を促進する。

人権尊重の視点に立った教室環境づくりの視点と取組例

取組 内容
1.人間関係を深め、安心して生活・学習ができる場づくり
  • 前面に、学級目標(目指す子ども像)を掲示する。また、それを児童生徒の自画像で囲むなどして、一人一人の帰属感を高める。
  • 「学級の歴史」コーナーを設置し、一人一人が学級づくりに参画している実感を持たせる。
  • 「今月の誕生日」、「私の好きな言葉」、「本や音楽の紹介」等のコーナーを設け、児童生徒の相互理解や交流を深めるきっかけとする。
  • 学級組織(係)ごとのコーナーを設け、学級への願いや要望、よりよい学級生活をつくるための問題提起を行う。
  • 「気持ちを表す言葉」、「聞き方・話し方のスキル」など、コミュニケーションを円滑にするための手がかりとなるポスターを示す。
  • 学習で使ったものや学習内容の要点を示す掲示物を貼り出し、学習内容の振り返りや、課題解決のヒントとして活用する。
  • いつでも活用できるように、辞書や事典類を常備しておく。
  • 学習の成果物(作品等)を掲示する。その際、児童生徒自身の解説や評価(自己評価、他者評価)、教師の評語を添え、達成感や有用感、肯定的なセルフイメージの形成を図る。
2.課題意識を高める場づくり
  • 児童生徒に話題を提供したり、問題意識を喚起するような情報を教師が意図的に掲示する。
  • 学習内容に沿ったクイズやコラムなどを掲示したり、児童生徒が関心を持った時事的・社会的な情報を掲示する「切り抜きコーナー」を設置したりして、日常の学習を広げたり、学習課題設定のきっかけにしたりする。
3.発見の喜びを味わえる場づくり
  • 児童生徒が集めた情報の中から、喜びや感動、疑問や怒りを感じたことを級友に知らせるコーナーを設置し、帰りの会等で発表させる。
  • 小動物や昆虫、植物の飼育・栽培活動を通じ、生き物の成長の過程に直接触れさせ、発見したり、疑問を持ったりしたことを記録・発表させる。
4.創造する喜びを味わえる場づくり
  • 児童生徒が共同作業をすることのできる作業台(広めの机)を設置したり、筆記具・文房具を常備したりして、自発的・創造的な協働作業を促す。
  • 詩や絵などを自由に発表することのできるコーナーを設置する。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課