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第2章 学校における人権教育の指導方法等の改善・充実

 前章では、人権教育の目標に関連して、人権に関する知的理解の深化及び人権感覚の涵養を基盤として、人権擁護の意識、意欲、態度、さらに実践行動にまで高めてくことの必要性について指摘した。さらに、人権教育の成立基盤としての学校・学級の在り方そのものが持つ重要性にも言及した。これらを踏まえ、本章では、さらに学校における人権教育がその目標を達成するためにどのような点に留意すべきかについて示すこととしている。その際、「学校としての組織的な取組等に関すること」、「人権教育の内容及び指導方法等に関すること」、そして「教育委員会及び学校における研修等の取組に関すること」の3つの観点から検討することとした。
 なお、本調査研究会議は、調査研究を進めるに当たり、都道府県教育委員会の協力を得て人権教育の実践状況及び指導事例等の収集・把握を行った。この章では、これらの事例と国際的な人権教育に関する理論的・実践的研究成果を踏まえて、上記のそれぞれの観点ごとに考え方を示すとともに、これへの理解を補うための基本的な事例等を併せて提示している。さらに、より具体的・実践的な事例資料等については、実践編にまとめて収録しているので、必要に応じ、これを参照しつつ活用されたい。

第1節 学校としての組織的な取組と関係機関等との連携等

1.学校の教育活動全体を通じた人権教育の推進

 学校教育においては「生きる力」を育む教育活動が進められている。平成20年1月の中央教育審議会答申では、現行学習指導要領が重視する「生きる力」の育成という理念が、社会の変化の中でますます重要となってきていること、改正教育基本法を踏まえた学習指導要領の改訂に際しても、「生きる力」という理念の共有が図られるべきこと等を指摘している。
 「生きる力」については、平成8年7月の中央教育審議会答申において、「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」、「自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性」、「たくましく生きるための健康や体力」などからなる全人的な力として捉えられている。
 すなわち、「生きる力」は、変化の激しい社会において、他者と協調しつつ、自律的に社会生活を送るために必要な実践的な力であり、これらは、人権教育を通じて育まれる他者との共感やコミュニケーションに係る力、具体的な人権問題に直面してそれを解決しようとする行動力などとも、重なりを持つものといえる。人権教育については、このような「生きる力」を育む教育活動の基盤として、各教科、道徳、特別活動及び総合的な学習の時間(以下「各教科等」という)や、教科外活動等のそれぞれの特質を踏まえつつ、教育活動全体を通じてこれを推進することが大切である。

(1)人権尊重の精神に立つ学校づくり

 学校においては、教科等指導、生徒指導、学級経営など、その活動の全体を通じて、人権尊重の精神に立った学校づくりを進めていかなければならない。
 教職員による厳しさと優しさを兼ね備えた指導と、全ての教職員の意識的な参画、児童生徒の主体的な学級参加等を促進し、人権が尊重される学校教育を実現・維持するための環境整備に取り組むことが大切である。また、こうした基盤の上に、児童生徒間の望ましい人間関係を形成し、人権尊重の意識と実践力を養う学習活動を展開していくことが求められる。
 その際、校長は、人権教育の推進の視点に立って学校の教育目標を作成するとともに、自校の実態を踏まえ、人権教育に関わる目標について教職員相互の共通理解を図り、効果的な実践と適切な評価が行われるよう、リーダーシップを発揮しなければならない。

【参考】人権尊重の視点に立った学校づくり

(2)人権教育の充実を目指した教育課程の編成

 現在、学校教育においては、各教科等の教育活動全体を通じ、児童生徒が学ぶことや働くこと、生きることの意義や尊さを実感できる教育を充実し、学ぶ意欲を高める活動に取り組んでいる。人権教育についても、各教科等のそれぞれの特質に応じ、教育活動全体を通じてこれを推進していくことが大切である。
 学校において人権教育を展開する際には、人権教育の目標と各教科等の目標やねらいとの関連を明確にした上で、人権に関する意識・態度、実践力を養う人権教育の活動と、それぞれの目標・ねらいに基づく各教科等の指導とが、有機的・相乗的に効果を上げられるようにしていくことが重要である。
 また、教育課程の編成に当たっては、以下の【参考】に示した諸点に留意するとともに、個に応じた指導を充実し、一人一人が大切にされる授業等を通じて、人権意識等や実践力を身に付けさせていく必要がある。さらに、その指導の展開に際しては、誰もが自分のよさや可能性を発揮し、輝くことができるような学習活動づくりに努めていくことが大切である。

【参考】教育課程の編成に当たっての留意点
  1. 「地域の教育力」を活用する
    各教科等の特質に応じて、地域のひと・もの・ことや施設等、地域の教育力を計画的・効果的に活用して、教育活動全体を通して人権教育を推進する。
  2. 「体験的な活動」を取り入れる
    フィールドワークなどの体験活動を積極的に活用して、人権についての「関心・意欲・態度」、「思考・判断」、「技能・表現」、「知識・理解」を育て、人権感覚を育成する。
  3. 学習形態、教育方法上の工夫を行う
    児童生徒の実態を踏まえ、人権教育の目的に応じて、計画的に、一斉学習・グループ学習・個別学習などの学習形態の工夫を行う。また、目的・内容に応じて、授業担当教員とゲストティーチャー(地域人材等)とのティーム・ティーチングを取り入れたり、コンピュータなどの情報機器を活用したりするなど、指導形態・方法の工夫を行う。
  4. 「生き方学習」や進路指導と関わらせる

 学級活動やホームルーム活動などでの人間としての在り方生き方についての自覚を深める学習や、進路指導の機会等を通して長期的・広域的視野から人権教育を推進する。

(3)人権尊重の理念に立った生徒指導

 学校における生徒指導は、個々の児童生徒の自己指導力を伸ばす積極的な面にその本来の意義があり、全ての児童生徒の人格のよりよき発達を目指すとともに、学校生活が、児童生徒一人一人にとって、また、学級や学年、学校全体といった集団にとっても、充実したものとなるようにすることを目的としている。この点において、生徒指導の活動は、[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]ができる人権感覚を育成し、学校において、一人一人の児童生徒が大切にされることを目指す人権教育の活動とも、互いに相通ずるものということができる。
 生徒指導の取組に当たっては、学業指導、個人的適応指導、社会性指導、余暇指導、健康安全指導などその指導の全体を通じ、児童生徒一人一人の自己実現を支援し、自己指導能力・問題解決能力を育成するとともに、併せて、人権感覚の涵養を図っていくことが期待される。
 学校においては、学級・ホームルーム活動における集団指導や、様々な場面における個別指導等の中で、自己指導能力の育成を目指した積極的な生徒指導の活動の展開を図り、児童生徒間の望ましい人間関係を形成するとともに、これらの取組を通じて[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]ができる人権感覚を涵養していくことが重要である。また、このことは、暴力行為やいじめ等の生徒指導上の諸問題の未然防止にも資することとなると考えられる。
 同様に、児童生徒の肯定的なセルフイメージの形成を支援すること、受容的・共感的・支持的な人間関係を育成すること、自己決定の力や責任感を育成すること等を内容とする人権教育の取組についても、「積極的な生徒指導」の取組と歩調を合わせてこれを進めることで、より大きな効果を上げることができるであろう。
 なお、児童生徒の問題行動等への対応などいわゆる消極的な生徒指導の側面について見れば、暴力行為、いじめ、不登校、中途退学などの問題は、人権侵害にもつながる問題であり、また、これらの事案の個々のケースにおいては、複数の児童生徒の人権相互間の調整を要することとなる場合も少なくない。学校においては、こうした可能性を常に念頭に置きつつ、問題解決に向けた取組を進める必要がある。とりわけ、いじめや校内暴力など他の児童生徒を傷つけるような問題が起きたときには、学校として、まずは被害者を守り抜く姿勢を示すことが重要である。さらに、問題発生の要因・背景を多面的に分析し、加害者たる児童生徒の抱える問題等への理解を深めつつも、その行った行為に対しては、これを許さず、毅然とした指導を行わなければならない。

【参考】積極的生徒指導の取組と人権教育

 ※ 自己指導能力の育成を目指すという生徒指導の積極的な意義については、中学校学習指導要領においても、従来よりこれを重視し、「生徒が自主的に判断、行動し、積極的に自己を生かしていくことができるよう、生徒指導の充実を図る」こととしている。

 生徒指導とは、本来一人一人の児童生徒の個性の伸長を図りながら、同時に社会的な資質や能力・態度を育成し、さらに将来において社会的に自己実現できるような資質・態度を形成していくための指導・援助であり、個々の児童生徒の自己指導能力の育成を目指すものです。自己指導能力には、自己受容、自己理解を基盤とし、自ら追求する目標を確立し、その目標の達成のために自発的、自律的に自らの行動を決断し、実行することが含まれます。そして、その能力は児童生徒が日常生活のそれぞれの場でどのような選択が適切であるか、自分で判断し実行して、それらについて責任をとるという経験を広く持つことの積み重ねを通じて育成されます。

『生活体験や人間関係を豊かなものとする生徒指導』
(文部省 生徒指導資料第20集 昭和63年3月)

(4)人権尊重の視点に立った学級経営等

 人権教育の推進を図る上では、もとより教育の場である学校が、人権が尊重され、安心して過ごせる場とならなければならない。
 学校においては、的確な児童生徒理解の下、学校生活全体において人権が尊重されるような環境づくりを進めていく必要がある。
 そのために、教職員においては、例えば、児童生徒の意見をきちんと受けとめて聞く、明るく丁寧な言葉で声かけを行うことなどは当然であるほか、個々の児童生徒の大切さを改めて強く自覚し、一人の人間として接していかなければならない。
 また、特に、児童生徒が、多くの時間を過ごすそれぞれの学級の中で、自他のよさを認め合える人間関係を相互に形成していけるようにすることが重要であり、このような観点から学級経営に努めなければならない。
 なお、人権が尊重される環境整備のための積極的な取組として、人権コーナーの設置や人権ポスターの掲示、人権学習会の定期的な開催などを通じ、児童生徒が日頃から人権学習に親しむ機会を提供していくこと等も重要である。

【参考】学級経営と人権教育

(5)人権尊重の視点からの学校づくりと学力向上

 学校教育においては、現在、全ての児童生徒に基礎的な知識・技能及びそれらを活用して問題を解決する力等を確実に身に付けさせ、自ら学び自ら考える力などの「確かな学力」を育むことが求められている。
 「確かな学力」を育む上では、児童生徒一人一人の個性や教育的ニーズを把握し、学習意欲を高め、指導の充実を図っていくことが必要であり、そのためには、学校・学級の中で、一人一人の存在や思いが大切にされるという環境が成立していなければならない。
 このように見た場合、校内に人権尊重の理念に基づく教育活動を行き渡らせることは、学習指導の効果的な実施を図る上でも、重要な観点の一つとなるものと考えられる。
 学校においては、「確かな学力」を育むためにも、学校全体として「一人一人を大切にし、個に応じた目的意識のある学習指導に取り組む」等の教育目標の共通理解を図るとともに、学ぶことの楽しさを体験させ、望ましい人間関係等を培い、学習意欲の向上に努めることが求められている。

【参考】効果のある学校(effective school)

今日、「効果のある学校」に関する研究が国内外で進められている。これらの研究では、「教育的に不利な環境の下にある児童生徒の学力水準を押し上げている学校」において、学力の向上と人権感覚の育成とが併せて追求されている点に注目しており、人権感覚の育成は、児童生徒の自主性や社会性などの人格的な発達を促進するばかりでなく、学校の役割の大事な部分を占める学力形成においても成果を上げているとの指摘を行っている。
 一人一人の個性やニーズに応じた基礎学力を獲得するためには、学校・学級の中で、現実に一人一人の存在や思いが大切にされるという状況が成立していなければならないからである。

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初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --