人権教育の指導方法等の在り方について[第一次とりまとめ] はじめに

 1948年(昭和23年)に国連総会において世界人権宣言が採択された後、これまで数十年の間に人権に関する様々な条約が採択されるなど、人権保障のために国境を越えた連携がより一層必要となってきている。我が国も児童の権利に関する条約をはじめ諸条約を締結し、人権が尊重される社会の実現に努めてきている。
 これまで、我が国では、すべての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の下で、人権に関する各般の施策が講じられてきた。また、教育基本法に基づき、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者の育成を期する教育が、家庭・学校・地域のあらゆる場において推進されてきた。このような人権に関する施策や教育の推進により、人権尊重社会を実現する上で一定の成果が達成されてきたのは確かである。
 しかしながら、人権教育・啓発に関する基本計画(平成14年3月閣議決定。以下、「基本計画」という。)で指摘されているように、生命・身体の安全にかかわる事象や不当な差別など、今日においても様々な人権問題(注1)が生じている。特に、次代を担う児童生徒(幼児を含む。以下同じ。)に関しては、各種の調査結果に示されるように、いじめや暴力など人権に関わる問題が後を絶たない状況にある。さらには、児童生徒が虐待などの人権侵害を受ける事態も深刻化している。
 基本計画は、様々な人権問題が生じている背景として、人々の中に見られる「同質性・均一性を重視しがちな性向や非合理的な因習的意識の存在」、社会の急激な変化などとともに、「より根本的には、人権尊重の理念についての正しい理解やこれを実践する態度が未だ国民の中に十分に定着していないこと」を挙げている。また、学校教育における人権教育の現状に関しては、「教育活動全体を通じて、人権教育が推進されているが、知的理解にとどまり、人権感覚が十分身に付いていないなど指導方法の問題、教職員に人権尊重の理念について十分な認識が必ずしもいきわたっていない等の問題」があるとし、人権教育に関する取組の一層の改善・充実を求めている。
 さらに、基本計画は、「人権教育・啓発の推進方策」として、「学校における指導方法の改善を図るため、効果的な教育実践や学習教材などについて情報収集や調査研究を行い、その成果を学校等に提供していく」こと、また、「人権教育の充実に向けた指導方法の研究を推進する」ことを明示している。
 本調査研究会議は、こうした指摘を踏まえ、人権についての知的理解を深めるとともに人権感覚を十分に身に付けることを目指す人権教育の指導方法等の在り方を中心に検討を行ってきた。
 本調査研究会議としては、平成16年度も人権教育に関する具体的な課題について検討を重ねる予定であるが、現時点でとりまとめた内容を広く公表することとした。とりまとめにおいては、特に、人権教育とは何かということを分かりやすく示すとともに、児童生徒はもちろんのこと教職員一人一人が人権尊重の理念を理解し、体得することが重要であることを強調した。
 学校における人権教育の推進に当たって、このとりまとめを積極的に活用していただくことを切に願うものである。

(注1)基本計画では「現在及び将来にわたって人権擁護を推進していく上で、特に、女性、子ども、高齢者、障害者、同和問題、アイヌの人々、外国人、HIV感染者やハンセン病患者等をめぐる様々な人権問題は重要な課題となっており」、また、「犯罪被害者及びその家族の人権問題に対する社会的関心が大きな高まりを見せており、刑事手続等における犯罪被害者等への配慮といった問題に加え、マスメディアの犯罪被害者等に関する報道によるプライバシー侵害、名誉毀損、過剰な取材による私生活の平穏の侵害等の問題が生じている。マスメディアによる犯罪の報道に関しては少年事件等の被疑者及びその家族についても同様の人権問題が指摘されており、その他新たにインターネット上の電子掲示板やホームページへの差別的情報の掲示等による人権問題も生じている」ことが指摘されている。

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