人権教育の指導方法等に関する調査研究会議(第4回) 議事要旨

1.日時

平成15年9月22日(月曜日) 15時~17時30分

2.場所

虎ノ門パストラル 新館5階 「ローレル」

3.議題

  1. 高等学校における人権教育の取組について
  2. その他

4.出席者

委員

 福田座長、押谷座長代理、有村委員、伊藤委員、梅野委員、岡田委員、神山委員、塩委員、菅原委員、高橋委員、林委員、森委員、山田委員、若井委員、太田臨時委員

文部科学省

 金森大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、関児童生徒課長、亀田生徒課課長補佐、宮川八岐視学官、宮川保之視学官、高田人権擁護調査官補佐(法務省)他

5.議事要旨

(1)高等学校における人権教育の取組について

太田臨時委員の意見発表

 太田臨時委員から説明の後、質疑応答を行った。主な内容は以下の通り。

 公民の中で人権教育を生徒の実態を踏まえて教えても、なかなか難しい現状があるとのことであるが、この点についての指導が難しい、といった具体例はあるか。

 生徒の関心を法律や政治に向けるのが難しい。教科書の記述は抽象的になりがちであり、教科書に基づいて板書するような授業では生徒の理解が得られない。教師が何とか具体的に教えようとしても、うまく生徒の興味を引きつけて授業を行うことがなかなか難しい。授業の理解度とも関係があるかもしれないが、目に見えない抽象的な概念は教えることが難しく、体験活動や、新聞記事等の目に見える具体的な理解しやすい教材を生徒に提示していくことが必要であると考える。

 人権、法についての教育は、人間としてのあり方・生き方に関わり、生徒指導上も重要である。少年法の問題など、高校生にとっても、自らの生活の生き方と人権・法教育は直接に関わってくると考えるが、そのことを生徒に伝えるとき、どのような反応があるのか。それとも、授業の中では扱いにくい問題か。

 政治経済、現代社会の中で、時事問題として少年に関わる事件、少年法の問題を扱うことがあり、その場合は生徒に意見を求めるようにしている。本来はディスカッションができればよいのだが、そこまでは生徒に求めるのは難しいので、ペーパーで意見を提出させて、集めた意見を生徒にフィードバックし、さらに意見を求めるなど、生徒に考える機会を持たせている。その中で、「自分の生活を見直す」といった意見が出てくることもある。

 生徒が人権問題として取り上げることはあるか。あるいは先生がいじめを人権問題として教えるような教育実践はあるか。

 教師がいじめを授業で取り上げることはあり、また、生徒が新聞記事を使った授業で、いじめを選ぶことはある。いじめを人権問題として認識している生徒は結構いると思う。

 いじめを人権問題と認識して授業で扱った後、生徒達が現実に何か取り組みを始めるなど、実践につながっているのか。

 学んだことを態度化していくためには、相当繰り返すことが必要であり、自分で体験す  ることも必要ではないか。体験的学習は人権教育においても重要ではないかと思う。

 ディスカッションは難しいということであったが、大学生も同様である。最近の若者に関わる課題として、自分に火を付けて取り組むことができず、社会的無力感を持っていることがあるように感じるが、人権教育との関わりで、これを克服していく方策は何かあるか。

 ボランティア活動など、自分で人権を守るために活動をすることが考えられる。まず、何が問題かを知ることから始まり、そこから「自分に何ができるのか」ということを考えていくのではないか。

 人権教育は、各教科、総合的な学習の時間、ホームルーム、特別活動等、学校教育全体の中で行われるものであるが、生徒指導に自信がない、公民の先生の協力がないと人権に関わる問題について自信を持って指導できない、という先生も多いのではないかと思う。公民は、場合によっては広く家庭、地域から材料を持ってくることもできる教科ではないかと考えるが、公民を中心とした人権教育を進めるとしたら、具体的にはどのようなことが可能であると考えるか。

 例えば、校内研修で人権や法について公民の教員を中心に、または外部の講師を呼んで、学び合うことが考えられる。また、東京都の指導資料に基づいて校内研修を行ったり、教育委員会の研修に参加した教員が、他の教員にフィードバックすることも考えられる。人権教育は個々の教員がばらばらに行うことでは弊害もあるので、校内研修を中心にして共通を得つつ、指導方法の研究などを行い、学校が組織として人権教育に取り組んでいくことが望ましいと考える。

伊藤委員の意見発表

 伊藤委員から説明の後、質疑応答を行った。主な内容は以下の通り。

 「自尊感情」と「帰属意識」を身に付けることは、高校生にとても大きな課題であると考える。高校では、特別活動として位置付けられているホームルーム活動の中で、人権感覚とともに身に付けていく部分がかなりあるのではないかと思うが、ホームルーム活動での実践の具体的な例などはあるか。また、ホームルーム活動はクラス担任の指導によるところが大きいと思うが、クラス担任の指導に関する現状がわかれば教えてほしい。

 ここ数年、文化祭や体育祭での生徒の発表が良くなってきたと感じるが、これらはホームルームを核として活動しているものであり、クラス担任の取組が成果を出しているのではないかと感じる。本校では、学年全体でテーマを決めて取り組むという意識が強く、各学年担任・副担任合わせて12人が一体となって取り組んでいるが、ホームルーム活動については、総合的な学習の時間のようにシラバスを作っての展開はしていない。

 生徒人権相談窓口の設置及び人権侵害に係る校内対応システムの構築に向けた取組について、具体的にはどのような問題に対して、どのように対応しているのか。

 県が推進している取組であり、かなりの学校が窓口を設置し、システムを構築している。本校の場合、教育相談委員会が窓口となっている。いじめや人間関係などに関する問題の対応が多い。いじめだということが分かれば、成績認定会議において、教育相談委員から説明を受けた上で、欠席日数は勘案して生徒の不利益にならないようにする、といった対応をしている。

 県では他の学校も県の指針等に基づいて取組を行い、これだけ様々な取組をしても、いじめ・暴力行為等は厳しい状況にあるなど生徒の人権に対する考え方の変化は難しいようであるが、やはり学校の教科の中で人権教育を行うことは難しいということか。また、教員研修では、一方的に話を聞く形式のものが多いと思うが、教員が自主的にテーマ設定をして研究していくような取組はあるのか。

 本校においても、暴力追放、いじめ根絶に向けた取組を行っており、難しい問題ではあるが、取組を続けていかなければならないと考えている。また、教員研修については、ロールプレイやアサーティヴトレーニング等に関する研修会も開催しているし、教育相談委員会がADHDに関する研修会を2年間行い、具体的に生徒への対応に生かしているが、どちらかといえば講習会形式の研修が多い。

 小中学校がどのような人権教育の取組を行っているのか分からないという話があったが、小中学校に関わる教育委員会の立場として、高校でこれほど盛んに体験的な学習に取り組んでいることは知らなかった。人権教育の内容等について、地域で交流を深めることの必要性を感じる。小中学校でも、特に老人ホームとの交流、アイマスク・車イス体験、障害を持つ方々との関わりなどについて盛んに取り組んできたところであるが、小中学校では障害の有無、年代を超えた人との関わりの良さについて、高校段階ではさらに法令や社会的規範等について学ぶなど、同じ体験でも子ども達の学ぶ内容が変わってくるため、系統性を持たせることが重要であると考える。
 また、自尊感情に関する共通の質問形式があれば、子ども達の心の成長が具体的に見えてくるのではないか。

 本校から2年間、海外の大学院に派遣された教員が、自尊感情について研究をして、自尊感情に関するアンケートを行ったことがあるが、生徒の心の中に切り込んでいくような質問も見られ、生徒の人権上、非常に難しさを感じた。慎重かつ丁寧に設問を設定する必要があるが、適切な設問の設定は難しい。

(2)その他

 今後の検討事項等について自由討議を行った。主な内容は以下の通り。

 日本の子ども達は、諸外国と比べて自尊感情がとても低いが、自尊感情を育むことの重要性を改めて感じる。義務と責任に関しても、自尊感情という視点抜きには指導できないと思う。日本社会では、「おてんとさまが見ているよ」という感覚、英語ではfairnessとでもいうべき感覚を大事にしている。これが自尊感情の中に入るのかもしれないし、外においてもよいのかもしれない。また、行動していくことにより行動力を培っていくことが大事であると考える。

 正義(justice)や公正(fairness)については、それを人権教育、法教育、道徳教育との関わりについてこれまで議論してきたところであり、社会正義、fairnessが尊重されていることが肯定的に認められることはセルフエスティームにつながっているのかもしれないが、その辺についてどう考えるか。

 正義(justice)や公正(fairness)について生徒に教え、考えさせることは容易ではない。単なる教え込みではなく、生徒が様々な経験を通して学んでいくことが必要であり、生徒が自然にそれらについて考えられるような学習環境づくりが重要であると考える。

 小学校4年生から高校2年生程度を対象としたある調査では、自尊感情について、中学校2年生がとても低く、高校生は少し上がって、V字型のような結果になった。自尊感情と子どもの発達課題や心の成長との関係、発達段階に応じた指導方法などに課題があるように感じられるところであり、そのような点について検討、把握したほうがよいのではないかと思う。

 社会学、心理学等学問的な成果を踏まえて、発達段階に応じた小中高校で一貫したカリキュラムをどのように構成するか、ひとつの重要な課題である。

 小学校低学年段階から、「自分が好き」という感覚を培うことがとても大事である。本校では、「2分の1成人式」という、自分史学習の取組を行っている。その中で、自分が生まれたときの苦労話を親に聞いたり、自分史を歌にして親に発表するなどの取組を行っているが、自分を好きになること、その基盤として親子の関係をより近くすることが、特に低学年段階で求められると考える。
  次に、スキルの問題については、小学校でも課題であり、今の子どもは表現力が乏しいように感じる。本市では、不登校に関する研究開発学校の中学校があり、総合的な学習の時間とは別に「人間関係学科」の時間を設けて、コミュニケーション能力を中心に据えた3年間でのスキルの系統化を図る研究を行っているところである。
  小中学校の連携に関しては、「地域」「コミュニティ」などがキーワードになるのではないか。また、小・中・高校の各校種間の引継ぎが連携の突破口になると考えるが、その前提となる「接続」が重要であると思う。本市では、人権教育研究指定校に指定された中学校において、幼稚園を含めて11年のスパンで総合的な学習の時間について研究を行い、各学校の先生からなる専門委員会を設けて、先生の縦のつながりによる研究を行っている。また、先生の交流とともに、子ども同士の交流も盛んに行っている。

 子ども達は、自分のことをうまく評価することができないため、周囲の人達が人間をどういう物差しで人間を理解しているのかということが子どもたちにも大きく関わってくる。大人が人間をきちんと理解できなければ、社会で人間の理解ができる子どもは育たないのではないかと感じる。

 自尊感情に関する国際比較調査の結果を見ても、日本の子どもは特に自尊感情が低いが、大人でも、周りの人達による評価は大きな影響があり、ましてや子どもにとってはその影響はとても大きい。ヨーロッパ評議会においても、人間の評価は、学力だけでなくあらゆる面を評価しなければならないことが勧告されており、世界的な一般通念になっているが、教師を含めた社会一般の基準にはなっていないのが現状である。

 高校では道徳教育が人としての在り方・生き方教育として取り組まれているが、人間そのものの理解といった面が弱いように感じる。人間としてのあり方、生き方をしっかり考えていくカリキュラムを提案していくことが必要であると考える。また、自尊感情と帰属意識を高めていくためには、家庭・地域社会との連携が必要であり、学校、家庭、地域の具体的な取組の方向性についても言及する必要があるのではないかと思う。
 また、生徒会活動において人権教育に関する活動は行われているのか。

 生徒会活動の中に部活動があり、JRC等ボランティア活動を中心に行うものや、部活動を通しての地域の催し物への参加など、地域との交流を行っている。また、全県的な取組としての、エイズフォーラムなどの活動に生徒会の代表が中心になって行事を行うことはあるが、全体としては、生徒会活動を中心に人権教育を推進するというところはそれ程ないだろうと思う。

 高校段階においては、体験活動を行いつつも、知識、理解という面に重点をおくべきではないかと考える。法令等の理解に生徒をひきつけるために体験活動を行うという示唆もあったが、一方で、高校生段階で難しいものを読めないという問題もあるように感じる。

 法教育との関連では、米国では、法教育や市民性教育において、小学校低学年にはお話教材、中学校ではディスカッション、高校では社会問題に関する判例を調査することなどが取り入れられているように思う。日本では、小学校低学年であれば、お話・物語的な教材、中学校では新聞記事等を活用した少し具体的なテーマを扱い、高校では憲法及び諸法令の段階的理解が得られればよいが、実際は、高校生には難しいのではないかとの印象をもっている。
 実践的な人権教育という観点からは、なるべく身近な事例を扱うこと、裁判等の事例について学ばせることにより法令等は単なる理念ではなく実際に適用されるルールであるという感覚を持たせること、トレーニングをきちんと行うこと、という3点が重要である。

 人権教育は、広がりをもつがゆえに、進捗状況を把握しにくい。本会議の検討においても、関係的存在としての人間をどう捉えていくのか、という根本的な部分についてある程度共通理解を得ておく必要があるのではないか。きれいごとではなく、現実になぜ人権を侵害するような犯罪、事件が頻発するのか、根本的なところについて人権教育の問題提起として提示するべきではないか。

 一面的な評価は人権上望ましいものではなく、差別・偏見につながっていくおそれがあるということを意識していく必要があるのではないかと思う。

 自分の大学では、人権教育審議会というものが設置されており、「命と人権を大切にする大学」というように、人権教育宣言を出そうというような議論もあるが、そのようなかたちでのまとめ方もあるかもしれない。

 人権そのものあるいは人権教育の意義などについては、国連10年や基本計画に沿って学校においても対応しているところであり、それらで示されているものについては共通理解を持つ必要があると考える。また、指導方法等に関する調査研究ということで、学校教育現場に具体的な示唆を与えるようなものにする必要があると考える。

 事務局より次回日程について説明の後、閉会。

(以上)

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初等中等教育局児童生徒課