人権教育の指導方法等に関する調査研究会議(第3回) 議事要旨

1.日時

平成15年8月26日(月曜日) 15時~17時30分

2.場所

虎ノ門パストラル 新館6階 「ロゼ」

3.議題

  1. 人権教育の基本的な在り方について
  2. 人権教育に関する都道府県教育委員会の取組について
  3. その他

4.出席者

委員

 福田座長、押谷座長代理、有村委員、伊藤委員、梅野委員、岡田委員、神山委員、菅原委員、高橋委員、仁科委員、林委員、森委員、山田委員、若井委員

文部科学省

 金森大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、関児童生徒課長、宮川保之視学官、鈴木児童生徒課課長補佐、高田人権擁護調査官補佐(法務省)他

5.議事要旨

(1)人権教育の基本的な在り方について

 福田座長から説明の後、質疑応答を行った。主な内容は以下の通り。

 諸外国の概念や知識、教育方法などを日本に紹介する場合や日本のものを外国に発信する場合、言葉の置き換えによって意味が違ってしまうことがあることを意識する必要がある。

 権利に伴う責任を持つという考えや公共性の概念の中から規範の問題が出てくると思うが、相互に権利を守り合うことが出発点となる。小・中学校の先生の話を聞いていると、人権教育と生徒指導が切り離されてしまっているようであるが、人権教育と生徒指導の接続のあり方について議論したい。人権教育の中で、相互に守りあうべき規範とは何か、ということを考えてもよいのではないか。
 アメリカの法教育においては、「正義(justice)」」「公正(fairness)」などの概念が出てくるが、これらを日本に持ってきて実践しようとすると、様々な立場からの正義がぶつかり合い、議論の収拾が付かなくなるような難しさがある。様々な正義・公正の中で、何が最も尊重されるべきものか、何が期待される判断であるのか、ということを示さないと、学校の先生にとって、正義・公正といったものを教育題材としていくことが難しいという課題が出てくる。

 本当の意味で子ども達が納得し、子ども達自身が評価し、実践するような、身に付く人権教育の在り方について検討する必要がある。

(2)人権教育に関する都道府県教育委員会の取組について

 岡田委員から説明の後、質疑応答を行った。主な内容は以下の通り。

 人権教育の内容はとても幅広く、学校教育のなかでどのような教育課程を編成し、どのような時間を設定して実施すればよいのか、難しいところであるが、教育課程の編成等に関する具体例はあるか。また、人権教育の重要性に鑑みれば、人権教育のための時間が設定されてもよいのではないか考える。

 各教科においては、それぞれの教科と人権教育との関わりを明らかにして取り組むことにより、人権教育の位置付けを明確にするように指導しているところである。
 また、人権教育のための特設の時間を設け、小学校においては、12月10日前後に1週間、「人権週間」として学校行事や道徳、社会の時間等において、人権に関する取組を行っている。中学、高校においては、人権集中学習の時間を教育課程の中に位置付け、人権教育を集中して行うための時間を設けており、現在、その時間に使う中学高校用の学習教材を作成しているところである。

 人権教育においては、人間的な価値の認識を助長するとともに、感情移入的能力を養うことが重要であり、教師の教育観やカウンセリング的考え方が重要な意味を持っていると考える。県において、教員を対象としたカウンセリングに関する研修などを実施しているのか。

 人権教育を推進する上で、教育相談的手法は欠かせないものと考えており、そのための施策として、県教育総合推進センターにおいて、県内の教員が教育相談初級を取得できるようにする「ドリームプラン」を3年計画で進めているところである。人権教育においては、教える側にも人権感覚が必要であり、教員に教育相談的手法を身に付けさせることに力点を置いている。

 家庭における人権の学習の支援ということで、保護者会において資料の配付等を行っているとのことであるが、年間にどれくらいの時間を割り当てているのか、また、保護者会を欠席した保護者へのケアなどはどのようにしているのか。

 従来は、単に資料を配付するのみというところもあったが、ここ数年、保護者が学習する場の設定を重視しており、各学校等の実情に応じて、保護者会やPTAにおいて人権に関する学習を行う場を設定し、教師による説明や、保護者からの感想をアンケートにより集約するなどの取組を行っている。配付資料は、保護者が子供とともに読み、学ぶことを目的として作成しており、活用に際してのいくつかの留意事項を付して配付している。

(3)その他

 事務局から説明の後、今後の検討事項、審議の進め方等について審議を行った。主な内容は以下の通り。

 学校における人権問題は、生徒指導上の問題として表出するものであり、この点について学校の先生に具体的に理解してもらえるように議論が深められればと考える。

 参加的な教育方法においては、本や映画だけでなく、学習活動そのものを教材と捉えることができ、何を教材として捉えるかによって議論の内容が随分異なってくる。

 学校における人権教育の推進に関する計画において、カリキュラムの問題も位置付けていく必要がある。また、人権教育を推進する上での学校長の役割についても検討する必要がある。また、「開かれた学校づくり」という観点から、人権教育は特に保護者への説明責任が必要になる。その他、教員が知識のみでなく、いかに人権感覚を身に付けることができるようにするか、効果的な教員研修の在り方などについても議論が深まればよいと思う。
 次に、いかに人権教育の時間を確保するか、ということに関連して、人権教育と道徳教育、法教育等との共通の目的やねらい、それぞれの役割と独自性について、共通の理解が得られるように議論を十分に深める必要性を感じる。
 最後に、特に大阪における人権教育を見ていると、いわゆる「人権についての教育」はよく実践されているが、「人権を通しての教育」、いじめ・校内暴力などの問題行動との関係や、いかに楽しく人権について学習するか、という学習過程における人権の問題についても検討が必要であると考える。また、「人権のための教育」に関連して、人権教育をどのような目標で取り組むのか、どのような実践者を作っていくのかということと、スキルの問題についても議論ができればと思う。

 人権教育は全ての教科領域の中で行うべきものであるが、その中でも特に、道徳教育と並んで、特別活動における取組が重要になってくると考える。今後検討していく内容として、道徳や特別活動の中で、どのように人権教育が推進され、どのような効果を発揮しているのか、また、効果的に人権教育を行うにはどうすればよいのかといった点について、具体性のある検討ができればよいのではないかと考える。

 人権教育をどのように捉えるか、という点に関連して、学校教育活動全体の根幹に人権があり、人権教育につながっていくということを、現場の教員に具体的に理解させていくことが重要ではないかと考える。

 憲法に基づいた教育の在り方の根本に人間尊重の精神がある、ということについて、現場の先生が意識できるような提案ができればということで、原理としての人権尊重、という観点を再認識する必要があろう。

 児童生徒の発達段階を考慮に入れながら、「このようにすればこんな良い学校生活を送れる、良い社会が出来ていく」といった明るさを持った人権教育の在り方を、人権教育の基本的な在り方として示していくことが大切ではないかと考える。
 また一方で、学校は様々な人権問題に対して対応を求められることがあるが、そのような現実に発生する問題に対する教育的、緊急対応的な観点からの対応の基本的なスタンスを示すことが必要ではないかと考える。

 何か問題が発生した際の対処の在り方については、どこかでおさえておいた方がよいのではないか。また、「学習する権利」について、人間として成長するための学習をする権利、というかたちの捉え方もあるのではないか。
 また、常時指導、直接的指導、間接的指導についても説明があったが、それぞれの積み重ねを踏まえながら、それに関する教材や指導方法を考えられれば、調和のある指導が具体化できるのではないか。

 人権についての知識と感覚について指摘があったが、知識レベルにおいても、人権のコンテンツについてはそれなりに知っていても、より基本的な知識として、そもそも人権とは何か、何をやればどのような法規の違反の問題になるのかなど、皆が知っている訳ではなく、知識を深めていくことは共通理解を築いていく上でも大事になってくる。例えば、人権教育に関する文書等に出てくる「偏見」、「ステレオタイプ」といった言葉について、何となく理解した気になっても、実際の概念、定義を理解している人は少なく、現場の先生にとっては、どう調べたらよいのかもよく分からなかったりするが、このようなところについても、共通理解ができるように手助けをすることが必要なのでないかと考える。

 事務局より、次回以降の日程等について説明をした後、閉会。

(以上)

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初等中等教育局児童生徒課