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情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて


(4) 指導体制の充実について

i 教員養成段階における指導力の育成

○高等学校教科「情報」の担当教員の養成にあたっては,インターネットや衛星通信の活用を図ることが重要である。

(教員養成の現状と改善の方向)
○大学での教員養成段階では,「教職に関する科目」である「教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用法を含む。)に関する科目」(最低1単位必修)において,情報機器の活用法等に関する内容が指導されている。本協力者会議第1次報告において提言したとおり「情報活用能力」の育成は,今後とも学校教育活動全体を通じて取り組んでいく課題であり,その意味からは平成12年度の課程から教員養成段階において教員を志願するもの全員に「情報機器の操作(2単位)」(仮称)が課されることは大きな前進である。
  今後は,初等中等教育段階における情報教育の実施状況やハードウェア,ソフトウェアの技術革新などを踏まえて,各大学等において,「教育の方法及び技術に関する科目」や「情報機器の操作」の内容を見直し,改善していくことを望みたい。
また,小学校,中学校,高等学校に新設される「総合的な学習の時間」で,創意工夫を生かした特色ある教育活動が展開されるように,大学の教職課程においては,新設される「総合演習」をはじめ教職課程全体を通じて,国際化,情報化,地球環境等についての教育内容の充実が図られ,学生の「情報活用能力」の向上にも努めることが期待される。

(高等学校の新教科「情報」担当教員の養成)
○次期の教育課程の基準の改訂において,高等学校に新たな教科として「情報」が新設され,必修となる。担当する教員の養成に関しては,大学における教員養成課程において,毎年,継続的に免許取得者が輩出されることが基本要件である。

○ただし,新設教科であり,教員養成には,時間を要することを考慮すると,新しい教育課程を円滑に実施するため現職教員の再教育により教員を確保することも並行して行う必要があると考える。その際には,次項に述べるインターネットや衛星通信を活用するなどして,組織的,計画的,かつ効率的に養成することを検討すべきである。

○また,「情報」担当教員の養成にあたって,インターネットや衛星通信の活用を図ることは,教員となる者自身が情報手段の活用について実体験を通して学び,教育活動における情報手段の有効性を認識するとの観点からも重要なことである。

ii 現職教員の研修の充実,指導法の改善

  1. 情報化に対応した教育の研修に関しては,国,都道府県等,学校において,それぞれの役割分担に応じて,研修の対象,内容,方法等の見直しを行い体系化が図られるべきである。 
  2. 今後は校内研修を奨励,活性化することが必要である。そのために必要な措置を講じていく必要がある。 
  3. ティーム・ティーチングを積極的に取り入れていく必要がある。その際,校内はもとより,学校外の人材の活用を図ることも進めるべきである。 

(教員の指導力の現状と研修等の必要性)
○平成10年3月末の文部省調査によると,公立学校教員のうち「コンピュータ等を操作できる」教員の割合は,小学校で 42.0%,中学校で 51.8%,高等学校で 62.2% ,特殊教育諸学校で 37.3%,全体の平均では  49.0%となっており,また,「コンピュータ等を用いて指導できる」教員の割合は,小学校で 21.7%,中学校で 23.2%,高等学校で 24.4 %,特殊教育諸学校で 13.7%,全体の平均では  22.3 %となっている。本調査を始めてから10年を経過して,10年前に比べるとかなり伸びており,現職研修等が一定の成果を上げてきたことを示している。しかし,数字的にはまだ改善の余地を残しており,継続的な研修が必要であることがうかがえる。

(研修の体系的整備の必要性)
○現在,情報化に対応した教育に関する研修は,国,都道府県・政令指定都市教育委員会等で行われている。研修の現状に関しては,各実施主体の研修を見直し,内容の重複を解消するなどして体系的に整備することが課題となっている。また,1か所に参集しての研修については,物理的に実施規模に自ずと制約がある。
  このため,国,都道府県等,学校段階での役割分担を踏まえ,それぞれの実施主体において,校長等の管理職に情報教育や情報化への対応の必要性を認識させることを目的とするもの,情報科担当教員などの情報教育専任教員の指導力向上を目的とするもの,一般の教員にコンピュータなどを活用した指導法を習得させることを目的とするもの,基本的な機器の操作習得を目的とするものなど,その対象や目的を明確にして研修の内容を構成することが必要である。また,一堂に会しての講義形式の方法だけでなく,討論や課題解決などの演習の伴った主体的参加型の研修や,ネットワークなどの通信手段を活用した遠隔研修の開発を積極的に進めていく必要がある。

(国における研修)
○国による研修では,都道府県・政令指定都市において情報化に対応した教育を推進する指導的役割を担える人材を育成する観点から,毎年約2,000人を対象に実施されている。主として従来から情報に関する教育を担ってきた商業,工業などの職業教科,理科,数学科,技術科の担当教員が中心である。今後は,学校教育活動全体を通じて「情報活用能力」を育成する必要性から,対象を一部の教科にかたよることなく研修を行うとともに,都道府県等における研修の実施等の任務などにも留意し,内容の充実を図ることが適当である。

(都道府県等における研修)
○教員研修の実施に第一義的な責任を負う都道府県・政令指定都市教育委員会では,教育センター等において様々な研修プログラムが組まれて実施されている。また,一定年数の教職経験(5年,10年等)を持つ全教員を対象とした研修において,都道府県等により密度や内容に違いはあるものの「コンピュータ基礎研修」が実施されており,年間約3万人から3万5千人が受講している。「コンピュータ基礎研修」に対しては,国が補助を行っている。
  都道府県等における研修については,次に述べる校内研修の充実の観点から,校長等の管理職研修において学校の情報化に関する内容を充実したり,校内研修における各学校のリーダー養成を目的とした研修を拡充したりする必要がある。
  なお,司書教諭講習においては,情報活用能力の育成を目的とした科目が設けられ,平成11年度からはさらにその充実が図られることとなっている。

(校内研修の充実)
○一定の時期に一か所に集めて行う研修は,国,都道府県等において役割分担しながら積極的に進められるべきであるが,今後は,学校における校内研修を活性化させることも重要である。文部省が行った実態調査によると,何らかの研修を受けたもののそれが「コンピュータ等を操作できる」あるいは「コンピュータ等を用いて指導できる」教員数の増に必ずしも結びつかないという状況が現れており,研修の効果が十分とは言えない。
  このため,受けた研修の成果を確実に身につけさせるためにも,校内研修を質的,量的に充実していく必要があると考える。教員が日常的にコンピュータ等を活用できるように施設・設備の整備を進めるとともに,校内で取り組める研修カリキュラムの開発や各学校においてリーダーとなる人材の養成など,校内研修の活性化や実施に必要な措置を講じていく必要がある。

(ティーム・ティーチングの積極的導入)
○コンピュータやインターネットを活用した授業等においては,ティーム・ティーチングを積極的に取り入れるべきである。コンピュータなどの活用に経験の深い教員や司書教諭などと連携したティーム・ティーチングにより,それぞれの得意分野や専門性を生かして魅力ある授業展開が期待できると考える。また,保護者や地域の人々,情報処理技術者などの技術専門家と連携することも可能であり,学校や教育委員会においては,情報処理技術者等委嘱事業などを積極的に活用し,指導法の改善に努める必要がある。

iii 教員研修におけるネットワークの活用

○インターネットや衛星通信によるネットワークを構築し,教員研修に活用することを検討すべきである。

(インターネットや衛星通信によるネットワークの整備)
○教員の資質の向上を図るためには,現職教員に対する研修を組織的に実施する必要がある。その際,教員自身が,情報手段の活用について実体験を通して学び,教育活動における情報手段の有効性を認識することが,今後の情報化に対応した教育を推進する上で,最も重要であると考える。
このため,情報化に対応した教育の研修を実施する教育センター等には,既述したように先進的なコンピュータ整備や高速回線でのインターネットへの接続,衛星通信設備等を整備することが必要である。また,情報手段を活用した実際の指導法を教員が習得できるようにするために,先進的なインターネット環境等が整備された情報化推進モデル校を,教育センター等の近傍に設けることが望まれる。
また,別途,「衛星通信を活用した教育情報通信ネットワークの在り方に関する調査研究協力者会議」において,衛星通信を活用したネットワークの構築が提言されているので,教員研修におけるこの衛星通信を活用したネットワークの在り方について検討する必要がある。この際,講師側の講義の配信には衛星通信を,受講者側からの質問などには地上系のインターネットも活用できるようにシステムの構築を望みたい。

(研修後のネットワーク作り)
○受けた研修の成果を十分に活用するためには,研修後も継続的に情報交換などを行っていくことが大切である。教育センター等に研修に資する情報や実践事例のデータベースを作るなどして,継続して研修できるシステムが必要であると考える。

iv 学校内体制の整備・充実

  1. 今後も学校教育活動全体を通じて,情報化に対応した教育を推進していくことが重要であるため,学校内の推進体制として,各学校の判断で情報化推進のための校内組織を設けることを推奨する必要がある。 
  2. 司書教諭には学校の情報化,情報教育推進の一翼を担うことが求められているため司書教諭の職務や役割の重要性等に関する周知や資質の向上に一層努めていく必要がある。 

(学校の情報化推進のための校内組織)
○情報教育に積極的に取り組んでいる学校や研究指定校などにおいては,情報教育委員会あるいは情報教育研究部というような情報教育を推進する組織を校内組織として置いている。今後,校内研修の継続的な実施やインターネットなどの新たな情報技術の導入など,学校が適切に情報化に対応できるようにするために,「情報化推進部」というような校内組織を各学校の判断で設けることにより,情報化に対応した教育の推進体制を整備することが考えられる。その際,コンピュータやインターネットに強い特定の教員や司書教諭任せにならないように,推進部が情報化のためのコーディネータ的な役割を担っていくという位置づけが大切である。

(司書教諭の役割)
○学校図書館が学校の情報化の中枢的機能を担っていく必要があることから,今後,司書教諭には,読書指導の充実とあわせ学校における情報教育推進の一翼を担うメディア専門職としての役割を果たしていくことが求められる。司書教諭は,情報化推進のための校内組織と連携をとりながら,その役割を担っていくことが必要である。具体的な役割としては,子供たちの主体的な学習を支援するとともに,ティーム・ティーチングを行うこと,教育用ソフトウェアやそれを活用した指導事例等に関する情報収集や各教員への情報提供,校内研修の運営援助などが考えられる。国や教育委員会においては,司書教諭の職務や役割の重要性等に関する周知や資質の向上に一層努めていく必要がある。

(校長の役割と責任)
○学校における体制の充実に関する成否は,校長の役割と責任に負うところが大きい。校長には,学校として情報化にどう対応するかという明確な理念を持ち,情報教育の重要性,インターネットなどの新しい情報技術の導入やそのために生じるであろう課題,学校図書館や司書教諭の役割の重要性に対する識見,教員組織全体として情報教育を担うための教員の意識改革,特に校内体制や校内研修の充実を図ることなどに関して理解を深めるとともに,具体的な行動を求めたい。
  特に,学校単独で情報化に適切に対応することは困難であると考えることから,校長は,教育委員会や教育センター等と連携をとりながら,外部からの支援を積極的に受けるように努めるとともに,学校内における外部との連絡・調整機能を充実する必要がある。


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