参考資料3 当面の科学技術政策の運営について

平成23年5月2日
科学技術政策担当大臣
玄葉光一郎
総合科学技術会議有識者議員
相澤益男
本庶 佑
奥村直樹
白石 隆
今榮東洋子
青木玲子
中鉢良治
金澤一郎

 東日本大震災は、大規模な地震、津波に加え原子力発電所の事故、風評被害の4災害が重なるという、かつて人類が経験したことのない複合的な大災害である。その影響は、東日本のみならず、我が国の社会・経済の広範に及んでいる。今般の大震災は、社会・経済システムや国民の人生観・価値観、さらには生き方までにも変革を迫っている。また、原子力平和利用における安全性の確保は、世界的課題として改めて認識されることとなった。
 我々は、この大震災を受け、自然の脅威が科学技術による従来の予測・制御の範囲を超える大きなものであるという、科学技術の限界を再認識し、また、原子力発電をはじめとする技術システムやそのマネジメントに関し、重大な反省をするものである。この問題については、「想定外」や「未曾有」として棚上げするのではなく、専門にとらわれない俯瞰的な視点をもって、研究者、技術者、政策担当者がそれぞれの立場で真摯な姿勢で向き合い、検証しなければならない。その上で、一丸となって、復興・再生、そして新たな成長に向けた取組に貢献していくことが求められている。
 私たちは、このような国難を克服し、前進するため、その鍵となる科学技術について、従来の単純延長ではない新たな取組を始めなければならない。

 このような認識に基づき、当面の科学技術政策の運営については、以下のとおり進めていくこととする。

1.基本姿勢

(新たな挑戦)
 今般の大震災による国家的な危機を極めて重く受け止めた上で、これを「新たな挑戦」により克服していく。早期の復興・再生を果たし、持続可能で活力ある社会を再構築していくことは、我が国全体に課せられた歴史的使命である。この使命を果たしていくにあたり、原子力発電所の事故で放出された、放射性物質による、これまで経験のない、広域かつ長期的な環境影響を克服する必要があることを特に留意しなければならない。また、政府は、原子力の安全性の課題について、国際機関、各国政府と高い透明性をもって協力しなければならない。
 被災地域の人々が、安全で人に優しく自然と共生した地域社会の中で、農林水産業の復興・再生や新たな産業の創造・立地によって、働く場を確保する。また、教育・医療を含む質の高い社会サービス、さらには、エネルギー・交通・通信といったライフラインなど自然災害に対して強い社会インフラに支えられた、安定した生活基盤の上で生きがいをもって生活を送る。このような社会の早期実現を目指し、あらゆる努力を払い取り組んでいく。

(科学技術政策の見直し)
 科学技術政策担当大臣及び有識者議員は、科学技術政策全体に責任を有する立場から、これまでの政策、活動を真摯な姿勢で振り返り、検証する。その上で、「新たな挑戦」による危機の克服に向け、科学技術及び科学技術に携わる者が果たす役割について見直し、時間軸に沿った具体的な政策を示し、これを推進する。

2.第4期科学技術基本計画の再検討

(再検討における視点)
 今般の大震災の社会・経済への多大な影響を踏まえ、策定途上にあった第4期科学技術基本計画の再検討を8月までに行う。

 その見直しにより、大震災を受け、我が国が直面している国家的な危機への取組を抜本的に強化し、これまで培った科学技術力と合わせ、これを解決する。

 このことを通じて、政府全体として、新たな産業の創成や雇用の創出により、将来にわたり持続的な成長を遂げる国を目指していく。

(復興・再生並びに災害からの安全性の向上に向けた重点化)
 復興・再生並びに災害からの安全性の向上への対応(リスクマネジメントを含む)を、グリーン・ライフの2大イノベーションと並んで重点化して推進する。その中で、農林水産業をはじめとする被災地域の産業の復興・再生、放射性物質による汚染土壌の浄化や汚染水の処理を含む国土や社会インフラの再構築、放射線による健康への影響評価などの課題の解決に取り組むこととし、その具体的な推進方策を明らかにする。

(エネルギー科学技術を中心としたグリーンイノベーションの再検討)
 グリーンイノベーションについては、大震災を踏まえた政府における原子力を含むエネルギー政策の見直しの方向を見据えつつ再検討を行う。今後想定される電力需給の逼迫、地球温暖化への対応における制約を踏まえ、電力の安定供給の確保や省エネルギー対策を推進することが重要である。このような認識に基づき、エネルギー供給の低炭素化、エネルギー利用の高効率化及びスマート化並びに社会インフラのグリーン化というそれぞれの重要課題について、研究開発から、事業化、普及に至るステップを加速することを含め、その具体的な推進方策を明らかにする。

(基礎研究及び人材育成の強化)
 基礎研究及び人材育成は科学技術を支える基盤であり、引き続き強化していく。その際、若手研究者が海外の研究機関で研鑽を積むことは、これまでどおり奨励・推進していくが、国籍に関わらず我が国の科学技術の中核を担うような優れた研究者が、大震災後における研究環境に関する不安から、来日をおそれ、あるいは日本から海外に活動の拠点を求める動きが加速された場合には、我が国の科学技術の基礎体力が大きな打撃を受けることが懸念される。
 このため、従来にも増して、優れた研究者を我が国の研究機関・大学に引きつけることができるような、処遇の改善を含む魅力ある研究環境を整備する必要性が高まっている。このような認識に基づき、被災した研究機関・大学の研究施設、設備を含む研究環境及び基盤の早期再生について、その具体的な推進方策を明らかにする。

(非常時の科学技術に関する内外とのリスクコミュニケーションの改善)
 大震災後の風評被害は、農作物、水産物、工業品等の科学技術に基づく正しい安全性についての情報が消費者に伝わっていないことが大きな原因の一つとなっている。
 また、原子力平和利用における安全性の確保が世界的課題であることに鑑み、政府は、今回の原子力発電所の事故に関するデータを国内外の科学技術コミュニティと広く共有していく必要がある。加えて、科学技術関係者やコミュニティは、分かりやすい情報を適切に発信することにより、国内外の誤った認識の解消に努めることが求められている。
 さらに、政府や地方自治体は、地震、津波をはじめとする災害対応時に迅速な意志決定・行動を行うとともに、災害情報や避難情報を住民に適切に提供していく必要があり、これに資する取組を進める。
 国民においては、このような情報を受け取ったとき、冷静かつ適切に判断し、活用することができるよう科学技術に関する必要な知識を備えることが求められている。このため、国民の科学技術リテラシー向上のための取組を進めなければならない。
 平常時はもとより、今回のような非常時においても、社会の要請に応え、科学技術により検証された情報を分かりやすい形で提供することが重要である。このため、リスクコミュニケーションの改善に向けて、その具体的な推進方策を明らかにする。

(総合科学技術会議の運営の改善)
 再検討においては、総合科学技術会議が、この国家的危機を乗り越え、第4期基本計画に基づいた主要課題の解決に向けて、その機能を実効的、効果的に果たしていけるよう、運営の改善を行う。

3.平成23年度における取組

(研究開発の成果の早急な活用)
 今般の大震災により、国土や社会インフラが壊滅的な打撃を受け、原子力発電所から放出された放射性物質による環境への影響も発生している。また、今夏は広範囲で電力使用の制限も計画されている。こうした事態に迅速に対応するため、大震災からの復旧・復興に直ちに必要となる対策において、これまで培った技術を活用するとともに、向こう一年程度のうちに適用可能な技術について、その活用主体(政府、地方自治体、民間など)を特定した上で、研究開発を加速し、早期の実用化を図る。
 具体的には、国土や社会インフラの再構築、放射性物質に関する環境モニタリング・汚染土壌の浄化や汚染水の処理、原子力発電所の周辺地域住民の健康調査、電力の安定供給の確保や省エネルギーの推進といった課題の解決に資する技術1について、その成果を活用する。 

(被災地域の科学技術力の復興・再生)
○研究環境及び基盤の復旧・再生
 今般の大震災により、被災地域の研究機関・大学において、研究施設、設備を含む研究環境及び基盤が大きな被害を受け、研究活動に支障が生じている。これらの機関は、地域に密着した、或いはグローバルな研究活動を展開し、地域そして我が国の科学技術、社会・経済の発展に大きく寄与してきた。
 このような研究機関・大学の研究環境及び基盤について、喫緊の課題として、卓越性、活用状況を踏まえた優先度に基づき、その早期再生を図る。その際、単なる復旧でなく、機能の強化(例えば、性能、耐震・耐水性、節電機能、データ・試料・電源のバックアップに関するもの)により、自然災害の影響を受けにくいものとする。

○研究活動への影響緩和
 大震災後における我が国からの国際的な情報発信が十分でないとの指摘がある。このような状況に対しては、速やかに対処し、外国人研究者が安心して研究開発を行い、また、来日を予定している研究者や一時帰国している研究者を含め、より多くの外国人研究者を我が国の研究機関・大学に引きつけていくことが重要である。このため、政府、地方自治体、研究機関・大学においては、研究や生活環境に関する正確な情報を適時的確に提供していくことが求められている。
 また、研究機関・大学においては、大震災による電力供給の制約などにより、研究活動に支障が生じており、今後もこのような状況が暫く続くことが想定されている。このような状況に対応するため、スーパーコンピューターをはじめとする多くの電力を消費する機器設備の共同利用、被災地域の研究者への活動の場の提供といった、大震災の研究活動への影響緩和のための工夫を求める。

 上記を実現するため、平成23年度補正予算が編成される際には、その活用を含め、関係機関との連携を図りつつ、機動的かつ迅速に必要な措置を講じていくことが重要である。
 また、予算執行の円滑化・弾力化等についても検討を行い、必要に応じて適切な措置を講じる。

4.平成24年度に向けた取組

(重点化して推進する課題)
 平成24年度は、今般の大震災の社会・経済への多大な影響を踏まえた取組を抜本的に強化する。第4期科学技術基本計画の再検討の方向を見据えつつ、
 ・復興・再生並びに災害からの安全性向上への対応
 ・グリーンイノベーション
 ・ライフイノベーション
を重点化して推進するとともに、これらを支える基盤である
 ・基礎研究及び人材育成の強化
 ・研究環境及び基盤の再生
も併せて推進することとし、優先度を踏まえつつ、平成23年に引き続き取り組む。

(予算編成プロセスを通じた重点化の実現)
 上記の内容は平成24年度の資源配分方針、科学技術重要施策アクションプランに反映する。

 重要施策に重点化した資源配分を行うため、平成23年度に導入したアクションプランについては、今般の大震災を踏まえた新たな柱を設定し対象範囲を拡充し、平成23年度に柱としたグリーン・ライフの2大イノベーションと同様に推進する。また、その策定にあたっては、重点化すべき課題を設定し、これにより実現が期待される社会像、目標や達成予定時期を示す。関係府省に対しては、これに沿った提案を求め、関係府省と共に作り推進していく。

 また、予算編成プロセスを含む資源配分については、今後策定するアクションプランに加え、資源配分方針、優先度判定についても、我が国が直面している重要課題の解決、各府省施策の誘導、予算の重点化に資するよう、その内容や実施方法について検討、見直しを行う。

 関係府省に対しては、平成24年度予算について、6月頃に策定する資源配分方針に沿って編成作業を進めることを求める。その際、各施策の到達目標の明確化を踏まえ、府省間の連携体制の構築、類似施策の整理統合により、予算の一層の効率的・効果的な活用に努めることを併せて求める。

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大臣官房文教施設企画部計画課整備計画室

(大臣官房文教施設企画部計画課整備計画室)