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第1章  施設に関する点検・評価の必要性

(国立大学等※1施設整備の現状)
  これまで我が国の国立大学等の施設は,高等教育,学術研究の進展に対応し,様々な時代の要請に対応しながら,教育研究との一体的な整備が行われており,国立大学等の教育研究活動の基盤を支える社会資本を形成してきた。
  現在,施設の老朽化,狭隘化が進行している中で,「大学改革等の高等教育の新たな展開」「学術研究の高度化・多様化」「施設の老朽化・狭隘化の計画的解消」等国立大学等の施設に関し,様々な課題への対応が求められている。
  平成8年に策定された科学技術基本計画において,大学における研究施設の計画的改善が盛り込まれ,国立大学等施設の整備が科学技術振興のための主要な施策の一つとして位置付けられた。
  文部科学省では,これらを受け平成8年度から施設の老朽・狭隘化の改善や大学改革等への対応など,国立大学等施設の改善整備を図ってきた。
  この間,11年10月の日本学術会議において勧告された「我が国の大学等における研究環境の改善について」では,その老朽・狭隘化の改善に関する取組は十分でなく,「次期の科学技術基本計画の策定にあたっては,合理的な中,長期計画を練り,十分な予算の手当が大学等の建物建設等のための先行投資に対して,優先的,集中的に行われることが必要である」など指摘された。
  平成13年3月30日に閣議決定された第2期科学技術基本計画では,科学技術振興のための基盤の整備として,大学等施設の老朽化・狭隘化の改善を国の最重要の課題として位置付けるとともに,国立大学等の施設の整備について,本基本計画期間中において,「大学院の狭隘化の解消,卓越した教育研究の実績がある研究拠点の整備,既存施設の活性化などの観点から,5年間に緊急に整備すべき施設を盛り込んだ施設整備計画を策定し,計画的に実施する。」とされた。これを受け,文部科学省では,平成13年4月「国立大学等施設緊急整備5か年計画」を策定し,重点的・計画的整備を図ることとした。現在,同5か年計画に基づき計画的な整備が進められている。同5か年計画の実施については,「個々の施設の整備に当たっては,大学等からの意見を聴取しつつも,当該施設の現況や利用状況の点検等を含む適切な調査・評価を行い,それらの結果に基づき,真に重点整備を行うべき施設をさらに厳選する。」ことが方針として示されていることから,本報告書に基づく点検・評価は必要不可欠である。

(大学における「自己点検・評価の充実」と「第三者評価システムの導入」)
  これまで各国立大学においては,平成3年2月の大学審議会答申(自己点検・評価の必要性に関する提言)を受け,自己点検・評価が制度化されて以来,大半の大学が自己点検・評価を実施している。
  平成10年10月にとりまとめられた大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」において,大学改革の基本理念として,1課題探求能力の育成を目指した教育研究の質の向上,2教育研究システムの柔構造化による大学の自律性の確保,3責任ある意思決定と実行を目指した組織運営体制の整備,が掲げられ,これらを実効ある取組とするために,「多元的な評価システムの確立による大学の個性化と教育研究の不断の改善」が不可欠であるとされている。この「多元的な評価システムの確立」については,具体的には「自己点検・評価の充実」,「第三者評価システムの導入」の必要性が示されている。
  更に答申における「自己点検・評価の充実」の提言を受け,11年9月に大学設置基準等が改正され,「大学の教育研究水準の向上,大学の目的及び社会的使命の達成のため,教育研究活動等の状況についての自己点検・評価の実施とその結果の公表」が規定されるとともに,「自己点検・評価の結果についての大学外の第三者による検証の努力義務」が規定された。※2
  また,「第三者評価システムの導入」の提言を受けて,大学の第三者評価を実施する機関である大学評価・学位授与機構が創設されている。
  更に,同じく大学審議会答申を受け,11年5月に国立学校設置法が改正され,大学の運営に関する重要事項について社会からの意見を聴取するために,外部有識者から構成され,学長の諮問に応じ審議し,学長に助言または勧告する「運営諮問会議」を設置することが規定された。※3
  なお,独立行政法人においては,独立行政法人通則法で,「各事業年度における業務の実績について,評価委員会の評価を受けなければならない」ことが規定されているが,国立大学法人(仮称)においては,国立大学評価委員会(仮称)における総合的な評価を受けなければならないこととされており,評価結果に基づいた施設費の配分が行われることとなる。

(施設の点検・評価の状況)
  これまでの各国立大学の自己点検・評価では,施設に関する記載もあるが,その多くが「施設整備に関する実績」や「施設の老朽化,狭隘化」等施設に関する現状と問題点の記述であり,現状に対する評価が必ずしも十分に行われているとはいえず,また,自己点検・評価の結果がその後の対応方策に結びついているとは言い難い状況にある。
  また,施設の点検・評価に関する手法としては,現在,建物の構造性能や耐震性能を測る健全度調査や必要な面積の水準としての面積基準が用いられており,各々その役割を果たしてきているが,近年求められている教育研究活動等の状況を踏まえた施設の多元的な点検・評価を行うためには十分とはいえなかった。

(本調査研究協力者会議の調査と報告)
  平成10年3月にとりまとめた本調査研究協力者会議の報告書「国立大学等施設の整備充実に向けて−未来を拓くキャンパスの創造−」においては,国立大学等施設を取り巻く様々な課題に適切に対応し,着実に施設の整備充実を図るための基本的な課題と具体的推進方策を示している。このなかで,老朽・狭隘化した施設を計画的に解消するための「施設の自己点検・評価に基づく,中長期の整備計画の立案や既存施設の使用面積配分の見直し」,教育研究の活性化を促す観点からの「評価に基づく重点的な施設整備」などの方策を提言し,今後の国立大学等施設の整備充実にあたって「施設に関する点検・評価」の必要性を示した。
  上記報告を踏まえ,国立大学等施設の整備充実をより一層推進するため,施設に関する点検・評価の充実とその活用が重要との認識のもと,引き続き平成10年度から,点検・評価を実施するにあたっての視点や点検・評価を活用する施設整備システム等について審議を行い,平成12年3月に「国立大学等施設に関する点検・評価について(中間まとめ)」をとりまとめた。
  これらの報告を踏まえ,既に報告に沿った多様な取組を実施する大学等も増えており,施設の点検・評価の実施体制の整備,施設の既存施設の有効活用,教育研究活動の流動化への対応,学部等の枠を越えた全学的共同利用等が積極的に図られている。※2
  本報告書をまとめるにあたり,国立大学法人(仮称)における施設整備の課題により効率的,効果的に対応するとともに,教育研究の活性化を促すため,また施設を国民の財産として有効に活用するため,教育研究の基盤である施設に関する施策立案の手法として,点検・評価について一層の充実とその方策について審議を行った。
  施設に関する点検・評価の視点を明確にするなかで,その手法をまとめ,活用することは,各国立大学等における施設に関する課題を明らかにするとともに,課題への対応方策について大学等としての姿勢を明らかにし,全学的に取り組むことに資するものと考える。



※1  本調査研究においては,国立の大学,短期大学,高等専門学校,大学共同利用機関等を「国立大学等」としている。

※2  参考資料「関係法令の改正」参照

※3  参考資料「関係法令の改正」参照

※2  「施設の点検・評価に関する取組事例」(附属資料2)


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