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3.   エコスクール整備の意義

   エコスクールの整備に伴い、以下のようなメリットを挙げることができる。
   まず、学校の建設・使用・解体に要するエネルギー・資源使用量の全体の増加をできる限り抑えることにより、環境負荷の低減ができることである。また、地域施設としても使えるよう高機能化することによって別の地域施設建設のために必要だったエネルギーを使わなくて済むようにし、その敷地造成による環境破壊をくい止めることができる。
   更に、校地の地域環境への貢献である。学校ビオトープ(8.2参照)整備を通じて、児童生徒、学生は地域の自然を学び、ひいてはこれを自らが守り育てることに繋がっていく。また、自然と共存したまちづくりの拠点として、学校と地域を結びつける契機ともなり得る。
   そして、地域の人々が環境・エネルギーについて学ぶことのできる場を提供することである。地域住民に対し、また、次世代を担う子どもたちに対し、環境・エネルギー消費に対する関心を高め、認識を深めて行く学習の場として、エコスクールのシンボル性及び実物教材としての施設機能の果たす役割も大きい。

3.1 環境負荷を抑える施設整備

   上述のとおり社会的にも環境に配慮した施設への要請が高まり、施設づくりに関わる周辺状況も整いつつある一方で、近年新設・改築された学校施設は、従前の学校施設に比べエネルギー使用量、もしくはエネルギー原単位が大幅に増加している。その原因には、以下のような学校建築特有の事情がある。

   昭和30年代から50年代にかけて実現された学校施設の量的整備・不燃化に際しては、基本的に昭和30年代の施設水準を基準とした施設づくりが続けられてきた。このため昭和50年代に建設された学校施設のエネルギー使用量、原単位とも昭和30年代に建設された学校施設と大差なく、他の施設が人々の生活水準の向上とともに質的向上がなされ、エネルギー使用量、原単位を増やしていったこととは軌を異にしていた。今日行われている学校改築に際し、今日の人々の生活水準に即して、人工照明による照度基準の改善、必要な空調・換気設備の設置など、他の建物並みの設備とするだけでも従前の学校施設に比べ大幅なエネルギー使用量・原単位の増加は避けられない。

   また、教育環境の充実のための努力は、コンピュータ教室や教育相談室のような新たな機能に対応するための特別教室の種類・数・面積の充実、多目的スペースの導入、学級定員の低減による一人当たり教室面積の拡大など、施設面積の増加をもたらしており、児童・生徒一人当たりの床面積は昭和30年代の2倍以上になってきている。さらに、ITに対応した設備・教育環境の整備には教育・施設管理両面で大量の情報機器・設備の導入が必要となり、また、やバリアフリー化のためにエレベータの設置が必要となるなど、時代の要請する学校教育の実現のためのエネルギー使用量・原単位の大幅な増加は不可避となっている。

   これらは、いずれも今日の学校に当然必要なものであるが、これからの施設整備にあたっては、必要な施設機能を充足しつつ建物の寿命を延ばし、施設の建設・使用、最後の解体に至るまでの総エネルギー使用量を最小にすること、環境負荷を最小にすることをめざした施設計画を行うことが必要となる。同時に、既存学校施設についても安易に建て替えてしまうのではなく、できるだけ長く、有効に活用を図っていくことが地球資源を有効に生かすために必要である。

   これら、環境への負荷をいかに減らしていくかを考えたエコスクールは、そうしたことを考慮せずに作られる学校に比べ、建築・使用・解体のライフサイクル全体でのエネルギー使用量を大幅に減らすことができよう。エコスクールにおいて環境負荷をどの程度減らすことができたのか、これを検証できるデータの蓄積が求められる。

   また、学校は古くから地域の中心に位置し、地域住民に広く認知された、まとまった敷地と多様な機能を持った、広い床面積を有する施設である。学校を地域住民の文化・コミュニティ活動の施設として見たとき、利便性の高い施設内容・立地を有している。これまでは学校とは別にこれら社会教育施設の整備が行われてきていたが、両者を統合することができれば、学校や社会教育施設を建設するために費やされてきたエネルギーや施設使用上のエネルギー使用量も全体では低減することが期待できる。

   社会教育施設の建設・使用・解体にかかるエネルギーを学校のそれと合わせた場合、両者を統合することによって全体のエネルギー使用量を現状レベルに近いところで押さえることもできるのではないだろうか。学校を地域の人々全てが利用できる地域施設とし、地域の必要とする多様な機能を備えた高機能施設とすることによって、地域施設の建築やそのための敷地造成を避けることができる両者の統合によるメリットを明らかにするため、これにより得られる環境負荷の低減への寄与を示すデータの蓄積が求められる。


注釈:エネルギー原単位とは、単位量の製品を生産するのに必要なエネルギーであり、省エネルギー効果を数量的に表す尺度のこと。


3.2 地域の環境を生かす校庭整備

   学校施設で考慮すべき環境への配慮においては、各種開発により失われた地域の生態系とそれを支える自然環境を保全・再生することに対しても積極的に取り組むべきであり、この必要性については本編1.と2.で述べた。学校とそれをとりまく地域の環境にとって、省エネルギー・省資源等に配慮した建物づくりだけでなく、学校敷地内の屋外環境整備は重要な意味を持っており、整備による多方面へのメリットが期待できる。

   学校敷地内に設けられる“学校ビオトープ”とは、「児童生徒ならびに学生の環境教育の教材として、学校敷地内に創出された地域の野生の生きものが自立・循環してくらすことのできる空間」12)をいう。近年は、地域のビオトープをお手本に、水辺を創出する事例が多く見受けられるが、樹林や草地などのタイプも考えられる。そのタイプや面積に応じた生きものが訪れることになる。ドイツでは、学校ビオトープを「野外の実験室」と位置付けている。児童生徒や学生が、計画段階から主体的に参加し、地域の自然の現況や、地域の野生生物のことを考え、まず身近な空間である学校を、試行錯誤を繰り返しながら、自然と共存するものに変革していこうというものである。一連の作業を通して、児童生徒、学生は、地域の自然を学び、自然の大切さについて考え、地域の自然を自らが守り育てることの必要性に気づくことになる。

   また、学校ビオトープは学校と地域を結びつける架け橋にもなりうる。近年、学校教育のなかでも地域との連携が求められており、学校ビオトープを通して、PTAや地域住民、環境NGOなどが児童生徒、学生の学習活動を支援する例も見受けられるようになってきている。

   学校ビオトープは限られた面積ではあるが、自然と共存したまちづくりを進める上でのひとつの拠点にもなりうる。各地域に点在する学校に、学校ビオトープが創出されることにより飛び石状に野生の生きものが訪れることのできる空間が配置されることになる。地域の野鳥やトンボなどの昆虫類が移動する際に餌場や身体を休める場所になる。


注釈:ビオトープとは、本来その地域にすむさまざまな野生の生き物がくらすことのできる、比較的均質な一定の面積を有する空間と定義される。樹林、池沼、乾いた草地、ヨシ原、川縁の砂礫地など、私たちのくらす地域を見渡しても、さまざまなビオトープタイプを目にすることができる。 多くの野生の生きものは、一生のうちにいくつかの異なるタイプのビオトープを利用しながら生きている。例えば、アカガエルが生きていくためには、産卵のための湿地、餌をとる草地、越冬するための樹林などといったビオトープが必要となる。野生の生きものがにぎわう、自然と共存したまちづくりを進めていくためには、地域に現存するビオトープを保全し、さらにそれぞれのビオトープを河川敷や道路脇の緑地帯などを通してつないでいくこと、すなわちビオトープ・ネットワークを図っていくことが最低限、求められる。


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