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第1編   エコスクール整備の重要性

1.   学校施設における環境負荷・環境保全の現状と今後の方向
1.1   学校施設における環境負荷低減の必要性
1.1.1   我が国の二酸化炭素排出量に占める学校施設関連の割合


   地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林減少、有害廃棄物拡散、海洋汚染、生物多様性の減少など、さまざまな地球環境問題が社会的に大きく取り上げられている。これらの地球環境問題と建築との関わりの大きさを再認識するため、地球温暖化の主原因とされるCO2排出量の分析結果を代表例として、以下に示す。
   我が国は、米国(約22%)、中国(約14%)、ロシア(約8%)に次ぐ世界第4位のCO2排出国であり、世界のCO2排出量の約5%を排出している。また、我が国のCO2排出量の1/3は、図1に示すように建築関連であると推計され、CO2削減対策において建築分野が果たすべき役割は大きい。
   図の中で「住宅建設」および「業務ビル建設」とは、毎年全国で行われる建設工事に投入された建築・設備資材の製造、現場での工事、運輸、その他建設工事に伴うCO2排出量である。この部分は、資材製造時のCO2排出量が少なく、耐久性、省エネルギー性に優れた建築設備機器や資材の採用、工事の省エネルギ−化、輸送の合理化等によって削減が可能な部分である。また、欧米に比べて短すぎると言われている我が国の建築物の使用年数を延ばす対策を取り入れることで、長期的には新築需要が抑制され、CO2排出量の削減に貢献する。「建物補修」は、建設会社に依頼して行った改修工事分である。なお、この推計では、建築主などが直接、建築設備機器等を発注した分は、その他の産業分野に含まれている。「建物補修」は、現状では「住宅建設」および「業務ビル建設」に比べて少ないが、将来、日本も欧米のように、新築工事が減って改修工事の比率が高まることが予想され、改修工事におけるCO2削減対策も重要になると考えられる。
   「住宅運用エネルギ−」および「業務ビル運用エネルギ−」の項目は、国内のすべての住宅と業務ビル(学校を含む)の冷暖房・給湯・照明などのエネルギー消費に伴う毎年のCO2排出量である。建物の新築時や改修時における省エネルギー対策の導入とともに、既存建物の省エネルギ−管理によって削減が可能な部分である。

我が国のCO2排出量に占める建築関係の割合


1.1.2   学校教育活動に伴うCO2排出量に占める学校施設関連の割合
   学校教育活動に伴うCO2排出量の内訳を、総務省が発行している産業連関表などの統計データを利用して分析した結果を図2〜3に示す。
   全国の国公立学校が1990年の1年間に排出したCO2は、図2に示すように1250万トン-CO2/年と推計される。その約50%が学校施設関連となっている。図の中で、「設計監理」項目は設計監理を委託した設計事務所からのCO2排出量を示しており、全体の0.3%と微量である。20.5%を占める「新築工事」項目は、国公立学校施設の新営工事に使われる資材の製造から運搬・施工などに伴うCO2排出量であり、製造時のCO2排出量が少ない資材の採用、施工の省エネルギ−化など、グリーン購入(後述)などによって削減が可能な部分である。4.0%を占める「改修工事」項目は、建設会社に依頼して行った改修工事分であり、「機器更新」項目は、施設整備者などが直接発注した機器の製造時のCO2排出量である。これらは新築工事の場合と同様に、グリーン購入などによって削減が可能である。「施設管理」は、設備管理、警備、清掃などの委託先企業からのCO2排出量であり、全体の0.6%と微量である。「電力」、「燃料」、「上下水・廃棄物」の3項目は、水光熱利用に伴うCO2排出量であり、学校施設の省エネルギー化、節水などによって削減が可能な部分である。

国公立学校の教育活動に伴うCO2排出量に占める学校施設関連の割合


   一方、全国の私立学校が1990年の1年間に排出したCO2は、図3に示すように、870万トン-CO2/年と推計される。その約40%が学校施設関連であり、国公立学校における約50%と同様、大きな割合を占めている。「新築工事」、「改修工事」、「機器更新時」におけるグリーン購入、学校施設の省エネルギー・節水対策などによって削減が可能な部分である。また、設計監理や施設管理の巧拙が学校施設竣工後の長期にわたるCO2排出量を左右することになるため、設計監理や施設管理の委託に際してのグリーン購入(グリーンサービスの調達)という視点も大切である。

私立学校の教育活動に伴うCO2排出量に占める学校施設関連の割合

1.2   我が国における生物多様性の現況と学校ビオトープの意義
   生物多様性とは、地球上に生息・生育する野生生物種の多様性、野生生物種内(個体群、遺伝子)の多様性、及びそれらの生息環境としての生態系の多様性を意味する。つまり、生物多様性は、種、遺伝子、生態系といった異なるレベルの多様性を意味する包括的な概念といえる。現在、この生物多様性の確保が地球環境保全における重要な課題となっている。まず、わが国の生物多様性の現況について知るために、そのものさしとなる野生生物の絶滅の状況について見ていくことにする。
   現在、全国の野生生物については、環境省の調べによると、哺乳類では3種に1種、鳥類では5種に1種、爬虫類と両生類では3種に1種、汽水・淡水魚類では3種に1種、植物は4種に1種の割合で絶滅したか、絶滅の危機に瀕しているとされている。(図4参照)絶滅の危機にある野生生物は、離島や原生的な自然に生息・生育する生きものにとどまらず、全国各地で身近に見られた野生生物にも及んでいる。例えば、1999年に日本の絶滅に瀕する野生生物種のリストに加えられたメダカなどもそのひとつと言える。メダカについてさらに述べると、分類学上は国内で1種類となっているが、地域ごとに遺伝子が分化しており、地域特性があることが明らかになっている。今のところ、国内では種としての絶滅にまでは至っていないにしても、地域ごとの絶滅は起きていることから、地域特有の遺伝子の喪失は確実に進んでいる。このことは他の多くの野生生物種においても当てはまる。
   既に世界では、種の多様性と同様に、遺伝子の多様性についても私たち人間が生きていくうえで有用な財産であり保全する必要があるという認識のもと、その喪失については深刻な問題と捉え、対策を求めている。
   生物多様性を確保していくためには、まず地域ごとに野生生物が生息・生育する土地を確保していくことが求められる。すなわち、現況の土地利用のあり方、都市計画のあり方を見直すことが大切となる。具体的な考え方としては、現況の自然環境、社会環境を踏まえたうえで、「自然を丸くかたまりで残して、つないでいく」(Diamond M.1975)といった方針に基づき、自然と共存する土地利用計画を立案していくことが必要となる。
   自然をつなげる意義として、次のようなことが考えられる。第一に、野生生物の多くは、一年、一生の生活史のうちに樹林や水辺、草地といった複数の自然のタイプを必要とする。例えば、トンボは、種類によっては一生を水辺で過ごすのではなく、ヤゴの時代を水辺で過ごし、羽化すると草地や樹林を生活の場としていく。コウノトリは湿地、川、沼を採餌場として利用し、樹林を繁殖やねぐらとして利用する。第二に、全ての野生生物は近親交配を防ぐために移動し、他集団との遺伝子の交流を行う必要がある。その際に、連続した自然が彼らの道しるべとなっていく。
   以上のことから、さまざまなタイプの自然が最低限つながっていることが野生生物の生息・生育に欠かすことができない要素となる。これを具体的にまちづくりに反映すると、郊外に自然をなるべく塊で残し、また、保全する自然がない場合は回復させ、それを河川敷や道路脇を自然化することでつなげ、さらにまちのなかまで自然を導いていくということになる。(図5参照)
   このようなことから、全国の各学校敷地内に地域の野生生物が生息・生育できる空間を創出することは、わが国の生物多様性の保全の観点からも大きく2つの利点をもたらすことになる。
   一つ目は、学校は地域に点在している施設であることから、地域の野生生物が移動する際の踏み石状の中継地としての役割を果たすと考えられる。野生生物は種類ごとに移動する距離に限界があるので、その間に自然があるように配置していくことにより、世代を繰り返しながら、さらに次の自然へと移動し、新たな個体、そして遺伝子と出会うことが可能となる。
   二つ目は、学校敷地はすでに土地の担保がなされていることから、限られた面積ながらも、その地域の野生生物の生息・生育地として半永久的に確保され、遺伝子保存の場としても機能することである。近年、学校の敷地内で希少動植物などを増殖させ、再度地域の自然が回復した際に戻していくといった取り組みも各地で試みられるようになってきている。

全国及び東京都における絶滅種、絶滅に瀕している種の現況
踏石ビオトープによるネットワーク化概念図


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