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2 教室の天井高さの在り方について

 本協力者会議は、前述の「規制改革・民間開放推進3か年計画」(平成16年3月閣議決定)などにおいて、その規制の在り方について検討が求められている教室の天井高さの基準の見直しなどについて、研究会での研究結果などを踏まえながら多面的な検討を行った。検討の内容とその結果は次のとおりである。

(1)  教室の天井高さに関する規定の状況
 教室の天井高さは、古くは明治15年の教育全般に関する文部省の基本方針を説明した「文部省示諭(じゆ)」において、「一丈(約3メートル)を下回ってはならない」と示された。その後、その規定は、文部省等により「10尺(約3メートル)以上」や「9尺(約2.7メートル)以上」等と示されてきた。
 昭和25年に制定された建築基準法・同施行令においては、国民の生命、健康及び財産の保護を図るための最低基準を示すものとして、一般の建物の居室の天井高さは2.1メートル、その特例として床面積が50平方メートルを越える小・中・高等学校の教室については、3メートル以上でなけれなばらないとされ、現在もこれが適用されている注5。これは、教室の空気汚染を防ぐとともに、視覚的な環境を保持するために規定されているものと考えられる。

注5  建築基準法施行令
(居室の天井の高さ)
第二十一条 居室の天井の高さは、二・一メートル以上でなければならない。
2  学校(大学、専修学校、各種学校及び幼稚園を除く。)の教室でその床面積が五十平方メートルを超えるものにあつては、天井の高さは、前項の規定にかかわらず、三メートル以上でなければならない。
3  前各項の天井の高さは、室の床面から測り、一室で天井の高さの異なる部分がある場合においては、その平均の高さによるものとする。

(2)  検討の内容
 今後、教室環境をより良いものにしていくためには、1(2)で述べたとおり、それぞれの創意工夫の下、1多様な学習形態への対応、2健康的かつ安全で豊かな教室環境の確保の2つの視点に留意した取組が重要である。本協力者会議は、このような認識の下に、現行の天井高さの規定の在り方がこうした視点に立った教室環境づくりを促進するものか否か、その適否について検討を行った。検討の内容は次のとおりである。

1  建築設備の高度化と学級編制基準の引き下げ等
 空気環境、採光・照明等の教室の環境衛生については、現在、建築設備の高度化等により、以前に比べ、良好な環境の確保・維持が可能になってきている。具体的には、空気環境に関して、換気設備を設置するとともに適切な窓開けに配慮することによって、また、採光・照明に関して、照明器具の性能向上や設置の促進によって、従来に比し、良好な室内環境の確保・維持が格段に容易になってきている。
 また、以前のいわゆる「すし詰め学級」の頃に比べ、学級編制基準の引き下げ注6等により、全体的に一人当たりの気積注7が増加していることから、良好な室内環境の確保・維持が行いやすくなっている。

注6  学級の編制の基準として、昭和33年に「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(以下、義務標準法と呼ぶ)が制定され、それまでの小・中学校における「すし詰め学級」(義務標準法制定以前の各都道府県の学級編制基準の平均は約60人)を解消するため、学級編制基準(50人)が明定された。その後、教育内容の変化や時代の要請等に応じて学級編制基準の引き下げが行われ、現在では40人となっている。さらに、平成13年度以降、各都道府県の判断により、児童生徒の実態等を考慮して、40人を下回る学級編制基準を設定することが可能となるよう弾力化が図られている。
注7  室の実容積。すなわち、室容積から室内の家具などの占める容積及び在室者容積を差し引いた容積。

2  天井高さに対する実測調査の結果
 教室の天井高さが児童生徒への心身の健康に与える影響について、天井高さを3メートル、2.7メートル、2.4メートルに設定した設営室注8を用いて研究会が行った実測調査の結果によれば次のとおりであった注9

注8  設営室とは、余裕教室(普通教室)を利用して天井高さを3メートル、2.7メートル、2.4メートルに設定し、実測調査を行った部屋を指す。
注9  詳しくは、関連資料「教室の健全な環境の確保等に関する調査研究報告書」(2次・概要版)【抜粋】の16ページ、17ページを参照。

(児童生徒対象)
「教室が広い・狭い」について
2.7メートルと3メートルの設営室については、両者に差はあまり見られない。また、2.7メートル・3メートルの設営室は2.4メートルの設営室と比べ、より広いという印象を受ける傾向が見られる。
「教室が落ち着いた・落ち着かない」について
2.4メートル・2.7メートル・3メートルの天井高さの違いによる大きな差は見られないが、3メートルの設営室よりも2.7メートル・2.4メートルの設営室の方が、より落ち着いているという印象を受ける傾向が見受けられる。
「黒板の文字が見えやすい・見えにくい」について
2.4メートル・2.7メートル・3メートルいずれの天井高さについても「見えやすい」という印象を受ける傾向があり、これらの間に大きな差は見られない。

(教師対象)
全体の印象としては、天井高さの変化には、2週間目では「慣れた」と答える教師が多かった。また、2.4メートル以外の教室は概ね好印象で、教室環境に対する「不満」の理由は、内装の老朽化や汚れ、収納スペースの少なさなどが多い。
なお、2.4メートルの設営室を体験した教師からは、天井が低くなった結果、音が響くこと、掲示スペースが狭いことなどの不満の意見が聞かれた。

3  海外の学校における教室の天井高さの規定の状況
 海外における教室の天井高さの規定の在り方について、調査した国の範囲では、最低基準として示している国は少ない。また、教室の天井高さを最低推奨値として示している国は比較的多く見られ、その場合、2.7メートルと示している例が多い。なお、教室の天井高さについて最低推奨値を示している国の中には、別に一般的な建築物の天井高さの最低基準を定めているところもある。

4  学校以外の建物の天井高さの現状
 学校以外の建物の天井高さについては、建築主や設計者がその機能に応じて設定しており、近年の建築雑誌において掲載されているオフィス等の商業建築、病院・福祉施設・図書館・児童利用施設等の公共施設、並びに集合住宅の実施例では、2.1メートルの基準ぎりぎりに設定している例は一部の集合住宅を除き見られない。

5  学校施設を有効活用することの重要性
 施設管理者が、普通教室を中心に、教室の天井高さの基準を制約として感じる場合の要因について、研究会における調査結果では、「既存施設の改修(OAフロア等の二重床等)に関すること」が最も多く挙げられ、次いで「整備コストに関すること」、「冷暖房設備に関すること」が挙げられている。このような面から、教室環境については、情報化への対応、教室の用途変更、空調設備の設置等に柔軟に対応できるようにする必要性が高まっている。
 また、学校施設は、地域社会において最も身近な施設であること、児童生徒数の減少に伴って余裕教室が生じていること等から、他の用途の公共施設へ転用するなど、社会資本として有効活用を図ることの必要性も高まっている。同時に、他の建築物を学校施設に転用しようとする例もあり、教室の天井高さの規定について、他の用途の公共施設と同様の取り扱いとする必要性が高まっている。

6  教室の天井高さと建設費
 研究会が行った試算によれば、現行法規により建設された標準的な設計の小学校校舎と、これをモデルとして教室の天井高さ及び各階の階高注10を例えば30センチメートル下げた校舎の建設費を算出し、コスト比較を行った結果、総工事費は約1.5パーセントの減となった。また、建物の階高を変えずに教室の天井高さのみ30センチメートル下げた場合は約0.1パーセントの減であった。

注10  ある階の床面(水平基準面)から、その直上階の床面までの高さ。

7  研究会からの報告
 研究会における多面的な検討の結果、空気汚染の緩和及び視覚的・心理的・身体的な環境の保持の観点から、現在では、天井高さについて、3メートル以上なければならない直接的な根拠は見出せないとの報告がされている。

(3)  検討の結果
 本協力者会議においては、「1 今後の教室環境づくりに向けて」及び上記(2)のような検討結果を総合的に勘案し、建築基準法施行令において学校の教室のみに定められている天井高さ3メートルの最低基準は廃止することが適当であるとの結論に至った。
 この結論を出すことに関連して本協力者会議として特に強調しておきたいことは、あくまでこの廃止の趣旨が、既存施設の有効活用も含め教室環境づくりにおける各学校設置者の計画・設計上の自由度を増し、従来に比し創意工夫を活かした多様な教室環境づくりを促進し、将来の変化に耐え長寿命な学校づくりを可能にするために行われるということであって、当面の経費節減の観点のみの教室環境づくりが進められるようなことがあってはならないということである。
 そのためには、教職員、保護者、地域の人々、行政関係者、専門家等が、その趣旨を十分に認識し、これらの間の緊密な連携協力の下、教室環境づくりが進められることが重要である。このような関係者の連携・協力の下、学校の設置者は、教室を利用する児童生徒の声にも配慮しつつ、自らの判断と責任において、教室環境づくりを進めていくことが重要である。
 また、こうして進められる教室環境づくりに対しては、その後の維持管理も含め学校建築の専門家をはじめとする関係者による適切な点検評価等を行うことを求めたい。
 このような観点から、本協力者会議では、今後、教室等の良好な室内環境を確保する方策として、既存施設の有効活用を含め創意工夫によって多様な教室環境づくりを進める際の考え方等について取りまとめることとしており、文部科学省において、それを踏まえつつ、その趣旨等について幅広く周知徹底を図っていくことを望むものである。
 また、学校施設を長く利用し、将来の教育内容・方法の変化等に柔軟に対応し、常に良好な環境を確保・充実できるようにすることや、学校施設を他の社会資本として容易に有効活用できるようにするために、階高の設定については十分に検討することが重要であることも併せて指摘しておきたい。


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