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第1章   総      則


第1節   幼稚園施設整備の基本的方針

1   自然や人,ものとの触れ合いの中で遊びを通した柔軟な指導が展開できる環境の整備
       幼稚園は幼児の主体的な生活が展開される場であることを踏まえ,家庭的な雰囲気の中で,幼児同士や教職員との交流を促すとともに,自然や人,ものとの触れ合いの中で幼児の好奇心を満たし,幼児の自発的な活動としての遊びを引き出すような環境づくりを行うことが重要である。

2 健康で安全に過ごせる豊かな施設環境の確保
       発達の著しい幼児期の健康と安全を重視し,良好な日照,採光,通風等の環境条件を確保するとともに,幼児期の特性に応じて,また,障害のある幼児にも配慮しつつ,十分な安全性,防災性,防犯性を備えた安心感のある施設環境を形成することや,自然や文化性を生かして快適で豊かな施設環境を確保すること,さらには,環境に配慮して施設づくりを行うことも重要である。

3 地域との連携や周辺環境との調和に配慮した施設の整備
       幼稚園は,地域の幼児教育のセンターとしての役割を果たすことが重要であり,このためには,親子の交流や子育て相談等を通じて家庭や地域と連携したり,可能な限り周辺の施設と有機的に連携すること,また,近隣の町並みや景観との調和に配慮して整備することや施設のバリアフリー対策を図ることが重要である。


第2節   幼稚園施設整備の課題への対応

第1   幼児の主体的な活動を確保する施設整備
  自発的で創造的な活動を促す計画
  (1)    幼児の主体的な活動を確保し,幼児期にふさわしい発達を促すことのできる施設として計画することが重要である。その際,幼児の遊びの場を十分に確保すること,小グループや一人一人の特性に応じた活動を可能にする多目的な空間を計画すること,保育室と遊戯室や図書スペース等の連携に配慮することも有効である。また,各種視聴覚機器等の教材を必要に応じて活用できる計画も有効である。
  (2)    幼児の多様な活動に即して,幼児の豊かな創造性を発揮したり,幼児期にふさわしい生活を展開することのできる施設として計画することが重要である。その際,様々なコーナーを設定したり,家具の配置を工夫できる弾力的で多目的な変化のある空間を計画することも有効である。

  多様な自然体験や生活体験が可能となる環境
  (1)    幼児の身体的発達を促すため,自然の中で伸び伸びと体を動かして遊ぶなど幼児の興味や関心が戸外にも向くよう,幼児の動線に配慮した園庭や遊具の配置を工夫することが重要である。
  (2)    豊かな感性を育てる環境として,自然に触れることのできる空間を充実することが重要である。その際,自然の地形などを有効に活用した屋外環境及び半屋外空間を充実することも有効である。
   
       ※半屋外空間・・・・ バルコニー,テラス,庇の下等,保育室等の内部空間と密接に関係した屋外空間

  人とのかかわりを促す工夫
     幼児が教師や他の幼児などと集団生活をおくる中で,信頼感や思いやりの気持ちを育て,また,地域住民や高齢者など様々な人々と親しみ,自立心を育て人とかかわる力を養うことに配慮した施設として計画することが重要である。その際,様々な人々との交流に使われる多目的な空間を配置したり,アルコーブ,デン等を計画し,幼児と人との多様なかかわり方が可能となる施設面での工夫を行うことも有効である。
   
       ※アルコーブ・・・・ 廊下やホール等に面した小スペースで休憩,談話,読書等ができ,人とのコミュニケーションや多様な活動が展開できる場
  ※デン・・・・・・・ 手を伸ばせば壁や天井に触れることができる幼児の人体寸法に合った家庭的な雰囲気の穴ぐら的な小空間

  多様な保育ニーズへの対応
  (1)    幼稚園全体の協力体制を高めるとともに,幼児に対しきめ細かな指導を行うため,ティーム保育を導入し実践することが要請されてきており,施設計画においてもこれに対応することは重要である。その際,多様な保育形態に対応できる多目的な空間を配置することも有効である。
  (2)    幼稚園における3歳児(満3歳児入園の園児を含む。以下同じ。)の入園についてのニーズが高まってきており,施設計画においてもこれに対応することが重要である。その際,幼児の人体寸法や活動内容に留意した専用の落ち着いた空間を計画することも有効である。

第2   安全でゆとりと潤いのある施設整備
  生活の場としての施設
  (1)    幼稚園は,幼児にとって人間形成の基礎を培う大切な場であり,遊びや生活の場として,ゆとりと潤いのある施設づくりを行うことが重要である。
  (2)    幼児等の行動範囲,人体寸法,心理的な影響も含めて施設を計画することが重要である。
  (3)    多様な教育内容・保育形態に対応するとともに,豊かな生活の場を構成することのできる机・いす・収納棚等の家具を施設計画と一体的に計画することが重要である。

  健康に配慮した施設
  (1)    幼児の健康に配慮し,園内の快適性を確保するため,採光,通風,換気等に十分配慮した計画とすることが望ましい。
  (2)    幼児の心と体の健康を支えるため,保健衛生に配慮した施設計画とすることが重要である。
  (3)    使用する建材,家具等は,快適性を高め,室内空気を汚染する化学物質の発生がない,若しくは少ない材料を採用することが重要である。
  (4)    新築,改築,改修等を行った場合は,養生・乾燥期間を十分に確保し,室内空気を汚染する化学物質の濃度が基準値以下であることを確認させた上で建物等の引渡しを受け,供用を開始することが重要である。

  耐震性の確保
  (1)    地震発生時において,幼児等の人命を守るとともに,被災後の教育活動等の早期再開を可能とするため,施設や設備の損傷を最小限にとどめることなど,十分な耐震性能を持たせて計画することが重要である。
  (2)    幼稚園施設は,地震等の災害発生時には地域住民の応急的な避難場所としての役割も果たすことから,このために必要となる機能も計画することが重要である。

  安全・防犯への対応
  (1)    幼稚園内にあるすべての施設・設備について,幼児の多様な行動に対し十分な安全性を確保した計画とすることが重要である。
  (2)    外部からの来訪者を確認でき不審者の侵入を抑止することのできる施設計画や,緊急事態発生時に活用できる通報システムを各幼稚園へ導入することが重要である。
  (3)    敷地内や建物内及び外部からの見通しが確保され,死角となる場所がなくなるよう計画することや,どの範囲を何によってどう守るかという領域性に留意した施設計画が重要である。
  (4)    幼稚園や地域の特性に応じた防犯対策を実施し,その安全性を確保した上で,地域住民等が利用・協力しやすい幼稚園施設づくりを推進することが重要である。
  (5)    既存施設の防犯対策についても,図面や現場等において点検・評価を行い,必要な予防措置を計画的に講じていくことが重要である。
  (6)    幼稚園施設の防犯対策は,安全管理に関する運営体制等のソフト面での取組と一体的に実施することが重要である。その際,家庭や地域の関係機関・団体等と連携しながら取組を進めることが重要である。

  施設のバリアフリー対応
     障害のある幼児や教職員,保護者及び園舎や園庭の開放時の高齢者,身体障害者等の多様な利用者に支障のない計画とすることが重要である。その際,スロープ,手すり,便所,出入口等の計画に配慮することが重要である。

  環境との共生
  (1)    幼児が自然環境と触れ合いながら様々な体験をすることができるように配慮するとともに,施設自体が環境教育の教材として活用されるよう計画することが望ましい。
  (2)    資源の再利用を図る計画や,自然環境等に配慮した施設づくりを行うことが重要である。

  特色を生かした計画
     幼稚園における教育理念を施設計画に反映させることによって,特色ある計画とすることが重要である。その際,モニュメント,シンボルツリーを設けたり,色彩や曲線を生かしたデザイン手法を活用することや,地域の文化的特性や伝統を取り入れ,風土,景観等の特色を生かした計画とすることも有効である。

第3   家庭や地域と連携した施設整備
  幼稚園・家庭・地域の連携
  (1)    幼稚園施設の計画に当たっては,家庭等とも連携した地域の学習環境の基盤整備ととらえ,教職員・保護者・地域住民等の関係者の参画により,総合的に検討を進めることが重要である。
  (2)    専門的知識・技術を持つ社会人をはじめ,地域の様々な人材を受け入れ,教育活動への地域の活力の導入・活用を促すための諸室についても計画することが重要である。
  (3)    他の文教施設等の整備状況を勘案しつつ,必要に応じ,これらの施設との有機的な連携について計画することが望ましい。とりわけ,保育所や小学校との連携を視野に入れた施設計画が重要である。さらに,他の文教施設との情報ネットワークを構築することも有効である。

  「預かり保育」への対応
     近年「預かり保育」に対するニーズが高まってきており,地域の状況や保護者の要望に応じた「預かり保育」に対応する施設計画が重要である。その際,活動日数や活動時間帯等の運営方法,午睡やおやつ等の「預かり保育」独自の活動に留意するとともに,幼児が長時間園内に滞在することに配慮した家庭的な雰囲気のある保育室として計画することが望ましい。
   
       ※「預かり保育」・・ 子育て支援等の観点から,通常の教育時間の前後や長期休業 期間中などに,地域の状況や保護者の要望に応じて希望する者を対象に行う教育活動

  子育て支援活動への対応
     地域の幼児教育のセンターとしての子育て支援機能や「親と子の育ちの場」としての役割や機能を一層充実させるための施設計画が重要である。その際,子育てに関する情報交換や相談のための専用の子育て支援室やPTA室等を計画すること,インターネットを活用した子育て支援ネットワークを構築すること,乳幼児を伴う保護者の利用に配慮すること等も有効である。

  幼稚園開放のための施設・環境
  (1)    地域に開かれた幼稚園として,園舎や園庭の開放が求められており,幼児や地域住民が有効に活用できる施設計画とすることが重要である。また,幼稚園や地域の特性に応じた防犯対策を実施し安全性を確保した上で,必要に応じ,地域住民の利用の促進を図ることができるよう,地域住民との共同利用のできる施設として計画することも有効である。
  (2)    多様な利用者に配慮した,快適,健康,安全で利用しやすい施設であるとともに,幼稚園開放の運営と維持管理が容易な施設として計画することが重要である。

  保育所と連携した施設計画
  (1)    幼稚園と保育所の施設の共用化など,両施設の有機的な連携について計画することも有効である。その際,遊戯室,調理室,管理諸室,屋外環境等について共用の空間を計画することが望ましい。
  (2)    幼稚園と保育所の施設の共用化を図る際には,施設相互の関連に配慮するとともに,合同の活動や行事など幼児が様々な触れ合いをもつ空間として計画し,幼児の教育・保育の場として十分機能させることが望ましい。また,教員と保育士の交流の促進や子育て相談等における連携・協力を図る計画も望ましい。

  複合化への対応
  (1)    幼稚園と保育所,小学校,社会教育施設,高齢者福祉施設等との複合化について計画する場合は,幼稚園における幼児の教育と生活に支障のないことはもちろん,施設間の相互利用,共同利用等による教育環境の高機能化及び多機能化に寄与する計画とすることが重要である。
  (2)    多様な利用者を考慮し,防犯対策等の安全管理,バリアフリーに配慮した計画とすることが重要である。
  (3)    幼稚園の教育環境に障害又は悪影響を及ぼす施設との合築は避けることが重要である。また,教育環境の高機能化及び多機能化に寄与しない施設との合築についても慎重に対処することが重要である。


第3節   幼稚園施設整備の基本的留意事項

  総合的・長期的な視点からの計画の策定
  (1)    多様な教育活動の実施,安全性への配慮,地域との連携を考慮するとともに,当該地域の幼児数や保育ニーズの将来動向,幼稚園教育の今後の方向等を考慮しつつ,総合的かつ長期的な視点から施設の運営面も含めた施設計画を策定することが重要である。
  (2)    当該地域における文教施設の整備計画や幼児教育施設等の整備状況を勘案して幼稚園施設の規模,立地を計画することが望ましい。
  (3)    増築,一部改築,改修,補強等の場合も,幼稚園施設整備の基本方針,新たな課題への対応を踏まえ,総合的かつ中・長期的な視点から計画することが重要である。

  適確で弾力的な施設機能の設定
  (1)    幼児期の特性に応じ,また,障害のある幼児にも配慮しつつ,多様な保育形態による活動規模を考慮した施設機能を設定することが重要である。また,その際,教育の内容や方法,設備,園具,遊具等の利用方法を把握するとともに,地域の気候,風土やその季節的な変化,周辺環境の活用の可能性等も考慮して,必要な施設機能を弾力的に設定することが重要である。
  (2)    教務,事務の内容や方法,事務機器,家具等の利用方法等を把握し,必要な施設機能を設定することも重要である。
  (3)    幼児の人体寸法,動作寸法,行動特性に適合した家具の導入を考慮し,施設機能を設定することが重要である。
  (4)    親子の交流や子育て相談等における施設・設備の利用方法等を把握し,必要な施設機能を設定することが重要である。

  計画的な整備の実施
  (1)    施設機能を適確に設定するため,企画から基本設計までの期間を十分確保するとともに,企画から施工に至る各段階の内容的な連続性,整合性に十分留意しつつ,計画的に整備を進めることが重要である。
  (2)    施設計画と園具,遊具等の導入計画との一体性に留意しつつ,総合的に整備を進めることが重要である。
  (3)    完成後には施設に係る評価を定期的に行い,将来の改修・改築等の計画に生かしていくことが重要である。
  (4)    施設の整備を段階的に行う場合は,最終的な施設計画を想定した上で,計画を策定することが重要である。

  長期間有効に使うための施設整備の実施
  (1)    幼稚園施設を常に教育の場として好ましい状態に維持するためには,日常の点検・補修及び定期的な維持管理が必要であるとともに,これらを行い易い計画とすることが重要である。
  (2)    建物構造体を堅固につくり,室区画や室仕上げは将来の教育内容や指導方法の変化に応じて変更可能とすることや,設備の交換・補修を容易にすること等,長期間建物を有効に使える計画とすることが重要である。
  (3)    情報技術の進展をはじめとする将来のニーズや機能の変化を見込んで,改修整備を行いやすい施設となるよう計画することも有効である。

  関係者の参画と理解・合意の形成
  (1)    特色ある教育内容や指導方法等を反映し,地域と連携した幼稚園運営が行われるよう,企画の段階から教職員・保護者・地域住民等の参画により,総合的に計画することが重要である。また,より効果的・効率的な施設運営を行うためには,施設の完成後においても継続的に施設使用者との情報交換を行うことが有効である。
  (2)    開放施設の利用内容・方法や管理方法,幼児の通園方法,当該幼稚園施設が周辺地域に及ぼす騒音・交通・じんあい等の影響,災害時の対応などについて,事前に地域住民等と十分協議することが重要である。

  地域の諸施設との有機的な連携
  (1)    当該地方公共団体における全体的な中・長期の行政計画,文教施設整備計画との整合を図りつつ,これらの施設と有機的に連携した計画とすることが望ましい。
  (2)    幼稚園と地域社会の連携を深めていく上で,社会教育施設や高齢者福祉施設等と複合化し,教育環境を高機能化・多機能化させることも有効である。その際,幼稚園における教育と生活に支障を生ずることのないよう計画することが重要である。

  整備期間中の教育環境の確保
     整備期間中においては,適切な事故防止策を講じるとともに,工事に伴う車両等の出入り,騒音,振動,ほこり等の発生により,幼児の健康,安全や教育環境に支障が生じないように十分留意することが重要である。また,必要に応じ適切な仮園舎を確保することも有効である。

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