[谷藤委員提出資料] 我が国の科学技術情報発信力強化への取組によせて

我が国の科学技術情報発信力強化への取組によせて
-ジャーナル問題に関する検討を基に

 

谷藤幹子, (独立行政法人)物質・材料研究機構
2014年6月23日

 

  『ジャーナル問題に関する検討会』は、日本における(1)オンラインジャーナル購読と(2)オンラインジャーナル出版の二つの側面を、我が国の学術政策における喫緊かつ重点課題と捉え、大学・研究機関の図書館や学会、情報関係機関等からの有識者による検討の場として、文部科学省研究振興局下に時限付きで設置された会である[1]。(1)(2)が一つの課題として俎上(そじょう)に上がる背景には、受信(図書館機能)と発信(学術誌出版機能)は、研究・教育を支える学術情報基盤の両輪であり、研究活動に不可欠なものという理解がある。すなわち、日本の研究・教育環境は高い水準の学術情報基盤を持つこと、その中には日本独自の査読文化を持ち、国内外に力強く発信する出版文化があり、ひいては社会に知財として還元するイノベーション創出の基盤も指している。この両輪に加え、我が国の科学者コミュニティがどのようなリーダーシップを発揮するべきかという国の課題との認識に立脚している[2][3]。
  受信・発信いずれにおいても、世界的出版資本による科学論文出版の寡占的状況における日本が持つ危機感と、近年に学術界に登場した“オープンアクセス”という欧米を中心とした運動や政策に対し、科学という視点だけでなく、“科学技術イノベーション”という政治経済にもかかる国策として、何らかの制度設計が必要との広義の現状認識も背景にある[4]。
  以上の認識と検討会議論を参考に、我が国の科学技術情報の未来に視点を向けて、大学・研究機関における学術基盤政策3点を提案する。


 1. 受信

オンラインジャーナル等へのアクセスの公平性を確保し、先進国に相応(ふさわ)しい受信環境支援

(1) 多様な購読モデル創出を可能とする支援策
  組織、研究領域、複数機関の先端研究プロジェクト等、粒度の異なる利用契約を可能とする購読モデルが必要。

例えば、論文アクセスの多様性に答える購読モデルの創出を国内外の出版社・学会等に対して促すとともに、多様な利用契約に対する図書館のアクセス認証システムを支援(‘学認’の発展系、ポータブル認証システムというイメージ)。
複数の大学・研究機関-複数の研究PJごとにIDサーバ(ORCID等の研究者ID)←認証→出版社・学会 

(2) 機関リポジトリ機能の強化
  オープンアクセス時代に対応する受け口として、1)セルフアーカイブの推進、2)オープンデータも含む機関リポジトリデータベース機能の充実とともに、3)イノベーションという出口を意識した知的財産という観点での研究成果の保全。これらを促進する4)人材支援プログラム

2. 発信

科学者コミュニティによるオープンアクセス制度の構築。

(1) 学問領域ごとにあったオープンアクセス、経済的に自立する研究論文出版システムへの転換をはかる支援策
  学会会員が学会ジャーナルに論文出版するだけに留(とど)まらず、1)会員が所属する機関のリポジトリデータベースに登録する制度設計、2)オープンデータとして国内の産業社会に活用されることへの活用支援、3)公的資金研究成果のオープンアクセス公開を義務化することに向けた学術誌刊行方針設計を支援
  例えば、科研費の強化かつ柔軟な支援によって、出口に重きを置いたプラットフォーム構築。アクセス内容分析・販促活用・OA効果検証等をビックデータ処理・分析支援。

(2) ジャパンブランドの構築
  日本発ジャーナルが、世界のオープンアクセス政策の受け口となり得るよう、1)高品質な査読文化・出版文化をジャパンブランドとして構築し、世界標準に拮抗(きっこう)するジャパンオリジナルな出版システムを構築する支援。また2)日本独自の評価システム(メトリクス)を創出する支援。

 3. 未来への投資(人材育成・活用)

少子高齢化・科学に携わる人口減少が近未来に予測される中で、ポストドクから定年退職後の再雇用までを視野に入れた専門家育成プログラム支援。研究者が、査読・編集・英文校閲・校正・研究会広報等に必要とする職能を身につけ、本職としてジャーナル刊行に関わることを可能とする人材支援プログラムは、科学知識・経験が有用な第ニの活用の場を学術受発信システム(社会システム)に盛り込む制度構築が必要ではないか。

参考 

[1] ジャーナル問題に関する検討会
[2] 日本学術科会議主催学術フォーラム「世界のオープンアクセス政策と日本-研究と学術コミュニケーションへの影響」(平成26年3月13日)
[3] 日本学術会議提言書「包括的学術誌コンソーシアムの創設」(2010年8月)
[4] Global Research Council(GRC)「Action Plan towards Open Access to Publications」
[5] 文部科学省研究振興局振興企画課学術企画室「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について(中間報告)」

  •  学術研究のボーダーレス化、グローバル化が進む中、全ての研究の推進を支える学術情報の流通・共有のための基盤整備は不可欠。このため、全国の学術情報基盤を担う組織が一体となり学術情報ネットワークの強化を図ることが必要。
  •  優れた研究成果の受発信・普及に重要な役割を担っている学術雑誌については、海外との情報受発信を強化する学協会の取組を支援するなど、学術情報の流通促進を図る科研費等の取組の強化が必要。

お問合せ先

研究振興局参事官(情報担当)付学術基盤整備室

小野、清水
電話番号:03-6734-4079
ファクシミリ番号:03-6734-4077
メールアドレス:jyogaku@mext.go.jp(コピーして利用する際は全角@マークを半角@マークに変えて御利用ください)

(研究振興局参事官(情報担当)付学術基盤整備室)