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2.今後の研究課題と開発が期待される計測分析技術・機器

       将来の創造的な研究活動を先導する先端計測分析技術、機器の開発にあたっては、研究者のニーズを踏まえて、開発を行うべき技術・機器の領域の設定を行うことが重要である。
   本検討会では、各先端研究分野の研究者から意見聴取を行い、5年から10年後における先端研究分野において必要性が特段に高いと考えられる計測分析技術・機器という観点から、以下の領域を設定することとした。

   .領域の選定の視点
     早急に着手すべき先端計測分析技術・機器の開発領域の選定の視点は以下のとおりである。

  1 将来の独創的な研究開発に資するもの
       我が国が科学技術分野で真に諸外国を先導するためには、世界最先端の研究データ、独自の研究データを取得できる先端計測分析技術・機器が必要である。開発された技術・機器が、我が国の研究開発活動にブレークスルーをもたらし、その進展に大きく貢献するといった視点が重要である。

  2 研究者の強いニーズが現実にあるもの
       開発された先端計測分析技術・機器が、広く利用されるためには、重点四分野等における最先端の研究を行う研究者の強いニーズが現実に存在することが重要である。

  3 将来、広汎かつ多様なニーズの増大が期待できるもの
       開発された先端計測分析技術・機器が、国際的に広く利用されていくためには、開発された技術・機器が根源的かつ普遍的なもので新しいニーズを呼び出し、さらに多様化し、広範囲化していくことが必要である。

  4 5年後に開発の実現可能性が見越せるもの
       昨今の研究開発活動の迅速化をみると、5年度程度で実際のデータ取得が可能となるものでないと、現在の独創的なアイデアも陳腐化するおそれがある。また、開発可能性を見越せない場合には、優れた人材の参画も期待できないおそれがある。

  5 研究ニーズと技術シーズがベストマッチした提案を期待できるもの
       最先端の研究を行う研究者のニーズと独創的な技術シーズを適切に結び付けることが、トップレベルの計測分析技術・機器の開発に重要である。

  6 多様な提案が期待できるもの
       先端計測分析技術・機器開発実現のために、多様な提案がなされ、競争的な環境の下で、選定されていくことが重要である。

  7 既存の技術レベルでは達成できないもの
       既存の技術レベルで達成できるものや、既存の技術の単なる延長線にすぎないものではなく、新規性、革新性が高く、かつ、既存の技術レベルを大きく凌駕する性能を目指すことが重要である。


.今後、開発が期待される計測分析技術・機器
   ライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料、情報通信、環境の各研究分野において、今後開発が期待される以下の計測分析技術・機器の領域について検討した。

 
生体内・細胞内の生体高分子の高分解能動態解析(原子・分子レベル、局所、3次元解析)
単一細胞内の生体内高分子、遺伝子、金属元素等全物質の定量的、網羅的分析
実験小動物の生体内の代謝の個体レベルでの無・低侵襲的解析、可視化
人体内の臓器、病態などの無・低侵襲、リアルタイム3次元観察、及び人体中の物質の無・低侵襲定量分析
ナノレベルの物質構造3次元可視化
ナノレベルの物性・機能の複合計測(マルチプローブ等)
ナノレベルの領域における微量元素の化学結合・分布状態・定量分析(ナノキャラクタリゼーション)
極微少量環境物質(大気浮遊粒子1粒子等)の直接・多元素・多成分同時計測
生体及び環境試料の超微量物質(ppbレベル)の化学形態別分析

     以下それぞれの開発領域について(1)研究ニーズと期待される成果、(2)この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術について述べる。なお、(2)については、あくまで想定される機器と要素技術の例であり、これ以外の全く新しい独創的な手法に基づく提案も期待する。


生体内・細胞内の生体高分子の高分解能動態解析(原子・分子レベル、局所、3次元解析)

       生体内や細胞内に存在する生体高分子(タンパク質、遺伝子等)の動態を原子・分子レベルで解析し、生体内・細胞内の局所を3次元で直接観察、イメージング解析する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
生体高分子(タンパク質、遺伝子等)の動作原理を直接理解することができ、また、その機能解明において直接証拠を得ることが期待される。
試験管内での生体高分子相互作用の基礎解析、細胞内での動態解析が可能となる。
生体又は細胞が生きた状態のまま、タンパク質立体構造と機能の関係を解明できる。
遺伝子制御ネットワーク解明の基礎を与えることが期待される。
システム生物学や細胞シミュレーション研究に必須情報を与える。
プロテオミクスへの寄与が期待できる。
細胞内におけるタンパク質の動態やタンパク質間の相互作用が明らかになって、診断・治療等の医療に関する基礎データが得られ、疾患原因を確定できるようになり、先端医療診断、遺伝子診断・治療、新規医薬品開発に貢献が期待できる。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 個別タンパク質分子を平均化することなく構造解析できる極低温電子顕微鏡。分解能0.1nm
(要素技術)
高感度高解像度電子線2次元ディテクタ
単色性の良い電子線源
位相情報を用いたコントラスト技法
自動顕微鏡法に適した標識物質

2 試料に及ぼす力学的影響が0.1pN以下であるような非接触高速原子間力顕微鏡、多探針走査プローブ顕微鏡、分解能1nm、フレームレート10ms
(要素技術)
液中動作用高感度カンチレバー作成技術
プローブ走査の高速化
プローブ先端の生化学修飾
プローブ法と各種光学分析法との融合
マルチプローブ計測技術
試料作成技術

3 蛍光多重標識された生体高分子1分子を液中で観察できる高感度高解像度蛍光顕微鏡、位置分解能0.1nm、時間分解能1ms
(要素技術)
高感度、高速度、高ダイナミックレンジの検出器
新規蛍光プローブ
超短パルスレーザー技術
非線形光学現象の応用
近接場光技術

4 細胞ナノCT計測システム
(要素技術)
高分解能MRI
光CT
ナノバイオ構造を低ダメージ、高コントラストで観測する電子光学系
標識技術


単一細胞内の生体内高分子、遺伝子、金属元素等全物質の定量的、網羅的分析

       1つの細胞内の生体高分子、遺伝子、金属元素等の全ての物質を網羅して定量的に分析、解析する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
個人全ゲノム解析、SNPs解析により、個人の遺伝子レベルで疾病診断・医療を行うテーラーメイド医療の加速が期待できる。
蛋白質機能解析に必須な構造データベースを高速、かつ高効率に作成し、バイオの医療・創薬応用を加速する。
重要性を増す糖あるいは関連するタンパク質の構造解析が大きく前進することになる。
プロテオーム解析の分野の大きな進展が期待できる。
細胞のデザイン、人工細胞構築への発展が期待できる。
高効率な機能をもつ微生物の設計・開発につながる。
システム生物学や細胞シミュレーション研究に必須情報を与える。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 個人全ゲノム解析に向けたテラベース級のDNAシーケンサー
(要素技術)
高速、高感度電気泳動技術
無標識DNA・タンパク質の超高速測定

2 タンパク質、糖タンパク質等の生体内高分子を網羅的に解析できる質量分析装置
(要素技術)
高精度、高分解能質量分析装置
細胞の微少範囲(分子レベル)のイオン化装置
高分子物質の新規解離法
構造解析のための高精度なデータベース

3 試料を精細に観察でき、その観察部位の化学分析が可能な顕微観察/分析装置
(要素技術)
視差のない鏡筒同軸構造
高輝度電子線源、高感度X線源
常圧・低真空下での二次電子線検出技術

4 細胞内全元素分析ができるICP−AES/ICP−MS
(要素技術)
光・イオン検出複合インターフェース
レーザ ー
光ファイバー
マイクロサンプリング技術


実験小動物の生体内の代謝の個体レベルでの無・低侵襲的解析、可視化

       マウス等の実験動物を傷つけずに、又は、ほとんど傷つけずに個体内の代謝を解析し、イメージング技術により可視化する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
ヒト疾患モデル動物を利用する基盤技術で、ヒトでの臨床試験前の動物実験の解析に多くのデータを得ることができ、先端医療、新規医薬品の開発が期待できる。
小動物の脳機能を解析することにより、ヒトの脳疾患の診断への臨床応用が期待できる。
標的組織への薬剤輸送などに代表されるナノ医療の進展に寄与する。
生きたまま3次元でがんや血管網の経時的な観察が可能となり、臨床試験における新たな評価手法が期待できる。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 実験小動物用の3次元計測装置(MRI、ESR、X線CT、超音波エコー、光CT、ファイバー顕微鏡(内視鏡で1μm分解能))
(要素技術)
各計測装置の高度化
標識技術

2 X線顕微鏡(分解能100nm)、超小型多光子顕微鏡(自由行動中のマウスの脳に固定可能な重量・体積)
(要素技術)
X線光学系、検出器
超小型半導体パルスレーザー、光検出器、スキャナ



人体内の臓器、病態などの無・低侵襲、リアルタイム3次元観察、及び人体中の物質の無・低侵襲定量分析

       人体を傷つけずに又はほとんど傷つけずに、体内の特定の臓器や病態を、リアルタイムかつ3次元でイメージング技術等により観察し、同時に、人体内の生体高分子、遺伝子、健康状態の指標となる成分等の各種物質を定量分析する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
生体内の経時的な病理観察技術の開発によって、がんの基礎医学や新薬開発の加速に期待できる。
脳機能を支える仕組みに対して多くの知識が得られると同時に、医療現場での応用により、様々な脳機能疾患、精神疾患の原因の特定と医療対策の策定が迅速に行えるようになる。
生体中の様々な物質、あるいは状態を無・低侵襲で定量、あるいは評価可能にすることにより、例えば糖尿病のような生活習慣病に関係する簡便な計測・評価技術が開発され、生活習慣病の予防、早期発見、体調管理に貢献することが期待できる。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 光吸収、電位、磁場、陽電子、X線などを用いた機能イメージングシステム
(要素技術)
計測分析用の光、電位、磁場、陽電子、X線などの発生器
高感度、高空間分解能検出器
三次元イメージングソフト

2 ナノピコリットルサンプリングセンシングシステム、ナノプローブ生体ダイナミック計測システム、無侵襲生体センシングシステム
(要素技術)
特定物質の無・低侵襲定量化技術
血液状態の外部からの把握
センサーを搭載した無線通信可能なセンシングデバイス

3 fMRIと多チャンネルMEGデータの連携解析装置
(要素技術)
高分解能fMRI、MEG
多機能高信頼性のデータ解析ソフト

4 ポジトロンCT(PET)の高度化・高速化
(要素技術)
高速データ収集・処理(並列処理による高速画像再構成)
光情報処理技術を用いた高速画像検索技術
高感度・高解像度検出技術


ナノレベルの物質構造3次元可視化

       ナノ(nm)のスケールにおける、物質の3次元構造を計測・解析し、イメージング技術等により可視化する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
半導体分野でナノデバイスの3次元構造を非破壊で可視化することが可能となることによって、新たな3次元デバイス開発が期待できる。
MRAMや次世代CMOS配線技術などへの多大な波及効果が期待できる。
生体試料、生体材料などの分野において、ナノスケールにおける立体構造とその機能との関係を解明し、新たな機能を付与した新機能生体材料の開発に貢献できる。
高機能材料(機能膜、触媒、燃料電池用電解質膜、ナノアロイ、ナノ多孔質材料等)の3次元構造と機能との関係が解明され、新規先端ナノ材料の創出に貢献できる。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 3次元計測(新規X線CT、光電子ホログラフィー、磁気共鳴原子間力顕微鏡、静電気力顕微鏡、超音波原子間力顕微鏡)
(要素技術)
多波長強力X線源
3次元画像化技術(トモグラフィー、ホログラフィー)
超強磁場発生器
超高感度の静電気力検出器
新規超音波プローブ
コヒーレント電子源
信号処理機能をもつ高空間分解能二次元検出器
高エネルギー分解能X線検出器

2 3次元アトムプローブ
(要素技術)
高速/高分解能プローブの2次元走査・位置検出技術
アトムプローブ加工技術
2次元荷電粒子検出器

3

ダメージレス高分解能電子顕微鏡

(要素技術)
低加速電圧電子ビーム制御
低真空荷電粒子検出器



ナノレベルの物性・機能の複合計測(マルチプローブ等)

       ナノ(nm)のスケールにおける複数の物性(電気的特性、磁気的特性、熱特性、力学特性等)や機能(トランジスタ機能、スイッチング機能、メモリー機能等)を一度に多元的に測定する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
ナノ領域における電気的特性、磁気的特性、熱特性、力学特性などの物性計測について、任意の場所での計測ができる。
電気的特性の計測により、半導体エレクトロニクス分野では超高速、超大容量の新原理ナノデバイス、量子デバイス等の開発、バイオの分野では生体内シグナル伝達の機構解明などへの貢献が期待できる。
カーボンナノチューブ、タンパク質、先端高分子材料の強度計測など、ナノ領域の力学特性の計測により、ナノマシン、ナノ機械分野への貢献、ナノロボット技術への展開が期待できる。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 マルチプローブ顕微鏡
(要素技術)
マルチプローブのコンピューター制御技術
超高感度導電性AFMプローブ
プローブ先端の力学特性制御技術
高感度電気検出器
電気特性の2次元マッピング法(可視化技術)



ナノレベルの領域における微量元素の化学結合・分布状態・定量分析(ナノキャラクタリゼーション)

       ナノレベル(nm)の領域に存在する微量元素を定量分析するとともに、ナノレベルの領域の元素の結合状態及び分布状態を解析する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
ナノレベルの領域における微量の元素について定量分析(原子数計測)を行う。
半導体分野では材料の特性を決める添加共存物質等の量を計測分析する要求が高く、水平方向サブミクロン、厚さナノレベルの領域の元素分布解析などが期待される。
ナノ領域の元素分析ができることにより、各種次世代デバイスの高性能化、高信頼化に寄与できる。
各種デバイスや機能材料の開発において、従来できなかったような領域の元素分析や結合状態の解析ができることにより、故障解析や問題解決のスピードが大幅に短縮でき、開発がスピードアップできる。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 ナノSIMS、ナノESCA
(要素技術)
ナノサイズのイオンビーム技術
X線(高輝度放射光を含む)のマイクロプローブ化
二次イオン、光電子の高感度検出技術
クラスターイオン源

2 近接場顕微ラマン分光、IR分光
(要素技術)
極微弱光の検出技術
近接場光走査プローブ

3

多光子共鳴イオン化質量分析計

(要素技術)
小型高性能波長可変レーザー
マイクロサンプリングシステム
高安定極紫外線レーザー


極微少量環境物質(大気浮遊粒子1粒子等)の直接・多元素・多成分同時計測

       複数の元素を含む極微少量の環境物質(大気浮遊粒子1粒子、水試料1滴)を前処理無しで、多成分を一度に同時に計測する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
環境分野の研究では、極少量の試料に含まれる極微量の元素・成分を測定する必要がある。
例えば、大気中の微粒子のような極少量試料に含まれる元素・成分の測定や大気中の極微量の有害物質の測定が必要である。特に、全元素・全成分分析から新たな知見が得られることが期待できる。
環境分野の試料は夾雑物が多く、夾雑物の除去、目的成分の濃縮などの前処理が必要で効率的な計測分析が困難である。前処理等を省き試料を直接分析する技術の開発が期待される。また、固体試料の直接測定が期待される。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 高感度高精度ICP−MS
(要素技術)
検出器の高感度高精度化
夾雑物の影響の除去技術

2 サブミクロンSIMS・レーザーイオン化質量分析複合システム
(要素技術)
サブミクロンビーム
レーザー
SIMS、ICP−MSの高感度高精度化
小型(搬用)飛行時間型質量分析器

3 レーザーアブレーションICP−MS(固体の直接分析)
(要素技術)
レーザーアブレーション技術
標準物質の整備


生体及び環境試料の超微量物質(ppbレベル)の化学形態別分析

       生体試料や環境試料中に含まれる超微量物質(含有率ppbレベル)の化学形態(試料中の存在形態)を分析する。

(1) 研究ニーズと期待される成果
生体中、環境中の極微量元素が生体、環境に与える影響は、化学形態の違いにより大きく異なるので、化学形態別分析のニーズは高い。
極微量元素の全濃度を定量するだけでなく、化学形態も明らかにすることで、生物に対する元素の必須性や毒性を評価することができる。
   
(2) この領域において今後開発が想定される機器と開発される要素技術の例
1 LC/ICP−MS/ESI−MSの複合化
(要素技術)
感度改善
高性能エレクトロスプレイイオン化

2 LC/GC/ICP−MS複合分析システム
(要素技術)
感度改善
中空キャピラリLC



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