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はじめに

   大学等(大学、大学共同利用機関及び高等専門学校をいう。以下同じ。)における学術研究は、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として真理の探究を目指すものであり、これまでも、その成果によって社会的諸活動及び制度の基盤を形成し、人類共通の知的資産を蓄積するとともに、広く文化の発展や文明の構築に貢献してきた。学術研究は、教育とともに、大学等の基本的使命であり、今後ともその発展が図られるべきものである。
   一方、新世紀を迎えるに当たり、今後、より豊かで潤いのある社会を実現していくためには、大学等は、先導的・独創的な学術研究を推進するとともに、その成果に基づく新たな知見や技術が活用されることにより、人類社会が直面している諸課題の解決や産業経済の発展に寄与することが求められている。こうした社会的貢献を進める上で、大学等と産業界との研究面等における連携・協力が有効なシステムであるとされている。
   特に、「知」の創造と活用が重視される「知の時代」の到来により、特許をはじめとする知的所有権の重要性が増しており、学術研究の中心的な担い手である大学教員(教員:教授、助教授、講師及び助手をいう。以下同じ。)の「発明」は、学術研究活動の成果として広く学術・文化の向上に資するとともに、産業や国民生活の充実にも資することから、その意義が極めて大きくなっている。
   他方、大学等における教員の優れた発想が特許等(「特許権及び特許を受ける権利」をいう。以下同じ。)に結実し、産業界における活用が促進されるとともに、その実施成果が発明者及び大学等へ適切に還元されることにより、大学等の教育研究活動自体も一層推進され、更なる研究成果を生み、同時に広く社会に波及効果を及ぼすことも期待されるようになった。このような期待は、我が国が科学技術創造立国を目指す観点からもますます高まりつつある。
   本協力者会議においては、平成11年6月の学術審議会答申「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について−『知的存在感のある国』を目指して−」(注1)を踏まえつつ、こうした「知の時代」にふさわしい技術移転の在り方とともに、各大学等の主体的、組織的な取組を推進する方策の検討を行い、ここにその審議の概要を取りまとめることとした。
   まとめに当たっては、まず、本協力者会議において行った検討の対象範囲を示し、次に、検討の背景としている昭和52年の学術審議会における基本的考え方と、近年の特許等をめぐる状況について分析した。第三に、特許等の取扱いに関する問題点を検討し、今後の改善方策について具体的なシステムの在り方を提示している。最後に、更なる技術移転推進の観点から、今後検討すべき課題について整理を行った。

1   検討の対象範囲

   人間の精神活動により生じた知的生産物に対する財産権は知的所有権(知的財産権ともいう。)と称され、この知的所有権には、工業所有権、著作権、回路配置利用権及び育成者権などが含まれる。
   このうち工業所有権は、「知的創作物についての権利」と「営業標識についての権利」とに大別され、「知的創作物についての権利」には特許権、実用新案権、意匠権、企業秘密保護権などが含まれ、「営業標識についての権利」には商標権、商号権、著名商標及び原産地表示等の保護権が含まれる。なお、工業所有権を狭義にとらえる場合、企業秘密保護権、商号権、著名商標及び原産地表示等の保護権は除かれる(注2)
   本協力者会議においては、大学等の研究成果の社会における有効活用を図ることを目的に、大学等から企業等への技術移転を促進するための具体的方策として、上記区分の工業所有権のうち、特に特許権を中心とした知的創作物に係る狭義の「工業所有権」を念頭に置いて、新しい技術移転システムの在り方を検討した。工業所有権と著作権等とは、立法趣旨からも権利の性質が異なることに留意しつつ、近年の学術研究の高度化・多様化にかんがみて、大学等におけるデータベースやプログラムに係る著作権、回路配置利用権、育成者権等の取扱いについても、今後、検討を行うことが望まれる。
   また、本協力者会議においては、国・公・私立にわたる我が国の大学等すべてを念頭に置きつつも、公・私立大学等については各設置者の意向を尊重すべきものであることにかんがみ、国立大学等の技術移転の推進方策を中心に検討を行った。

2   検討の背景

(1)昭和52年学術審議会答申の基本的考え方
   国立大学等における特許等の在り方については、昭和52年6月の学術審議会答申「大学教員等の発明に係る特許等の取扱いについて」(以下「昭和52年答申」という。)において、その統一的な基準が明らかにされ、各国立大学等の内部のシステムとしては発明委員会で、中枢システムとしては日本学術振興会で、集中的に処理することが適当であると考えられる旨の指摘がなされ、この答申を受けた「国立大学等の教官等の発明に係る特許等の取扱いについて」(昭和53年3月文部省通知)により運用されている。この取扱いによれば、応用開発目的の研究であって、国が特別の経費を措置した場合等にのみ、国に発明に関する権利が帰属し、それ以外は原則として教官個人に特許を受ける権利が帰属し、教官個人が出願手続などを行うこととされている(注3)。また、昭和52年答申では、公・私立大学等においてもこうした方針を参考に、設置者の判断により適切な特許等の取扱いを行うべきであるとされている。
   なお、昭和52年答申では、(a)大学教員等の通常の研究活動の持つ特性にかんがみて、大学等と民間企業等における職務発明の概念は、全く同様というわけではなく、(b) 各大学等や国に特許等を迅速・的確に取得・管理する能力がないままに教員の発明をすべて国等に帰属させることとすると、結果的に優秀な発明が特許出願されないおそれがある等の事情を勘案して、教員等の発明に関する権利は原則個人有とし、特別の場合に国に帰属させるべきであるとされている。

(2)国立大学等における特許等の帰属・活用の現状
   国立大学等における発明に関して、発明委員会によって審議された状況は下記のとおりである。

発明委員会の開催回数 発明委員会の審議件数 国が承継したもの 発明者に帰属したもの
承継すべきもの 発明者から譲渡 構成比 構成比
633回 1,725件 229件 52件 281件 16.3% 1,444件 83.7%

(平成11年度実績)

   これら大学等の研究成果による特許等が実際にどの程度企業で活用されているかについては、大学等の教員が発明者になっている特許等すべてについて調査することが困難なため全体像を把握することはできないが、産業界において数多くの大学等の研究成果が目に見える形で十分活用されているとは言えず、また、発明者等への還元が十分にされていない状況にあることが指摘されている。
   このうち、国が承継した特許を受ける権利に関しては、後述する科学技術振興事業団(JST:Japan Science & Technology Corporation。以下「JST」という。)を経由して出願事務が行われ(注4)、委託開発事業などにより活用が図られてきている。しかしながら、平成11年度現在で、国有の登録特許件数が1,142件、実施料収入は191百万円となっており、必ずしも十分な活用が進んでいるとは言えない。

(3)特許等をめぐる状況の変化
昭和52年答申から四半世紀を経た現在、大学等の特許等をめぐる状況は大きく変貌した。技術移転を通じた大学等の社会貢献という役割の重要性が増大するとともに、大学等における知的所有権の保護や発明者・組織への報奨付与の必要性が指摘されるようになった。また、我が国の企業が海外の大学等の研究成果を活用することが日常化するなど、世界的規模で技術移転が生じるようになったことから、我が国の大学等においても、産業界への技術移転に関するルールの明確化や迅速な対応が求められている。加えて、ベンチャー企業の育成など新産業創出の観点からも技術移転の促進が喫緊の検討課題として浮上してきた。

   (a)欧米における特許等の組織管理・帰属の傾向
   各国が競って「知」の創造と活用を進める時代的背景により、特許等の知的所有権の価値も著しく増大している。欧米諸国、特にアメリカでは、1980(昭和55)年12月に米国特許法に修正条項が付け加えられ(通称「バイ・ドール法」)、連邦政府資金援助によってなされた発明の利用を促進するため、大学等が当該発明を評価した上で自ら特許権を取得する権限が、原則として発明者の所属する大学等に与えられることとなった。これにより、大学等は、その発明を商業化する上で必要となる特許権の実施に関して企業と交渉できるようになった。その後、連邦政府資金による発明のみならず他の資金により生み出された発明についても、発明者個人ではなく発明者の所属する組織に帰属させるとともに、バイ・ドール法の下で各大学等に整備が進んだ技術移転の専門部署が特許等の管理・活用を担うようになり、大学等から産業界への技術移転が一層促進された。近年、研究成果の効果的な活用を進める観点から特許等を組織的に管理する傾向は、アメリカのみならず、イギリスなど先進諸国で見られるようになった(注5)
   これらの特許等の活用促進という観点に加えて、アメリカやイギリスの大学等では、教員が大学業務の一環として技術移転に積極的に参加することを推奨する一方、教員が金銭的利益のために資金源に基づいて恣意的に知的所有権の帰属を決定すると、個人の私的な利益と大学等の公的責任の相反(産学連携における「利益相反」)が生じかねないことから、研究資金源に関係なく大学等に特許等を帰属させる傾向が強まっている(注6)

   (b)グローバリゼーションと技術貿易の進展
   グローバルな経済活動の進展から、特許や実用新案等は権利譲渡や実施許諾という形で国際的に取引されている(これらの取引を「技術貿易」という。)。年度による変化は見られるものの、基本的に技術貿易の取引額は年々拡大傾向にあり、各国では自国で生じる知的所有権を重視するとともに、その積極的な保護と活用が国際的な傾向となっている(注7)。こうした流れの中で、我が国の大学等にも、企業への技術移転に関するルールの明確化や迅速な対応が求められている。また、「知」の創造と活用が重視される時代において、我が国が国際競争力を確保し世界に伍していくためにも、産学官が協力して優れた研究成果を出すとともに、特許等知的所有権の保護と活用を進めることが重要となってきている。
   さらに、企業間における「技術」のビジネスが盛んになるとともに、ある「技術」に関連する多数の特許等を併せて取引する形態が見られるようになった。産学連携においても、このような技術の高度化・複雑化に対応した取引形態に留意することが求められている。

   (c)技術移転機関の整備
    国立大学等の教員の発明に係る特許化の支援体制については、昭和53年度以降、国有特許の実施事務については日本学術振興会が処理し、実施に際しては、日本学術振興会とJSTにより行っていたが、平成11年度からは、国立大学等とJSTとの間で直接実施されることとなった。
   また、「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」(以下「大学等技術移転促進法」という。)が平成10年8月に施行されて以来、今日までに17の技術移転機関(TLO:Technology Licensing Organization。以下「TLO」という。)が承認(うち国立大学等の教員の個人有特許を取り扱うものが13機関)され、既に500件以上の特許出願を行い、30件以上の実施権許諾に成功している(注8)。現在もいくつかの大学等や地域においてTLO設立に向けての準備が進められており、大学等の「特許部」としての今後の発展が期待される。
   さらに、平成12年9月には、国内のTLOが連携・協力してその機能を高めるため、承認TLO等及びその活動を支援する団体等の全国組織として、TLO協議会(任意団体)が設立された。
   このように、近年、大学等で生じた特許等の活用と発明者等への対価の還元が機動的に図られるシステムが整備されつつあると言えよう。

   (d)新産業創出への貢献
   前述のバイ・ドール法により、アメリカでは、企業と大学等とが合意すれば、企業が大学等から独占的実施権を獲得することが可能となった。このため、企業にとっては、大学等が連邦政府資金により開発した研究成果のライセンスを受けることにより、研究開発投資のリスク低減効果が生じることとなり、ベンチャー企業創出にも大きく貢献したと指摘されている。知的所有権を核として技術移転が促進され、大学等の研究と産学連携システムがアメリカ経済における革新の原動力となったと言われている。
   一方、我が国の国立大学等においても、大学等技術移転促進法が制定されたことなどを踏まえ、平成12年3月に人事院規則(14-17)が制定され、国立大学等の教員がTLOの役員等として兼業できるようになった。また、平成11年10月の「産業活力再生特別措置法」(注9)の施行により、国費を財源とする委託研究から生じた特許権について、受託した企業や公・私立大学等の設置者に対して帰属させることが可能となった(ただし、国立大学等の場合は従来から国に帰属。)。さらに、平成12年4月に「産業技術力強化法」(注10)が制定されたことなどを踏まえた、同年4月の人事院規則(14-18及び14-19)の制定により、国立大学等の教員の研究成果を活用する企業の役員等として当該教員が経営活動に参加することや、株式会社等の監査役に就任することが可能となるなど、教員がベンチャー企業等へ参加できる環境が整い始めた(注11)

3   特許等の取扱いにおける問題点

   上記のような社会的変化が生じている中で、我が国の大学等の現状をみると、以下のような問題点を挙げることができる。

(1)大学等から「良い発明・特許」を出す仕組みの不足
   そもそも我が国の大学等においては、実用化の価値が高い「良い発明・特許」を生み出すための仕組みや環境自体に不十分な面がある。
   学術研究は、研究活動の遂行上特許につながるような研究成果を上げることを直接目的としているものではなく、また大学等のすべての教員に発明を求める性格のものでもない。しかしながら、学術研究は、個々人の知的探究心に加え、企業や社会のニーズを踏まえて進展する可能性をも有しているが、こうしたニーズを察知し、研究が促進されるような柔軟なシステムが大学内において整備されているとは言い難い。
   さらに、現行制度下では原則として教員個人に特許を受ける権利が帰属することもあって、教員に対する発明相談、出願代行等専門性を要する特許化のための支援体制が大学内部において未整備であり、特許化のためのノウハウの蓄積も十分でない。また、仮に個人で出願する場合には、金銭的・時間的負担が大きい。国有特許の取扱いに関しても、財産処分契約等に関する大学等の事務体制や人材確保の点で不十分である。

(2)特許等の帰属ルールの複雑さ等
   国立大学等における教員の発明に係る権利の帰属に関しては、「応用開発」を目的とする特定の研究課題の下に特別に国が措置した研究経費を受けて行った研究等により生じた発明に関する権利及び発明者から譲渡の申出があった発明に関する権利は、国に承継することとされているが、「応用開発」目的の基準が明確には示されておらず、結果として発明者個人にその権利が帰属することが多くなっている。
   また、国立大学等の教員が行った発明に関する権利の帰属は、同一人の研究の成果であっても発明者個人に帰属するものと国に帰属するものとの両者が混在する状況にあり、活用する立場の産業界等から見て分かりにくく、特許等の有効利用が損なわれる結果となっている(注12)
   教員が発明を行った場合には、大学等の長にその旨を届け出るとともに、特許等の帰属の決定に当たっては、各大学等に設置された「発明委員会」の審議結果に基づき大学等の長が決定することとなっている。しかしながら、この手続が十分に周知されているという状況にはない。そこで、各大学等においても、教員の発明の全貌を把握できておらず、このことは、外部から見た場合、教員の研究活動と特許等との関係について透明性を欠いているとの批判を招くことにもなると考えられる。また、発明委員会の構成も一般に学内関係者で占められており、技術移転の可能性の判断など実質的な審議の実施が困難であって、委員会が形骸化しているという批判もある(注13)

(3)不十分な特許等の活用
   平成10年3月の「産学の連携・協力の推進に関する調査研究協力者会議まとめ」(以下「平成10年まとめ」という。)においても指摘されているように、個人有の特許等に関しては、当該教員から特許を受ける権利が企業に無償で譲渡される傾向にあるため、企業においても企業の業務と無関係なとき、あるいはその特許の応用可能性が不明なときには、企業が出願しても審査請求しなかったり、特許権がいったん成立しても維持しなかったりする場合がみられる。また、個人有の特許等が教員の個人的な人脈により、企業に譲渡された場合に、必ずしも実施のために最適な企業へ譲渡されるとは限らず、特許等の有効な活用につながらない。
   さらに、大学等の研究成果から生じた特許等は、それが実用化されるまでに時間がかかるという側面がある。このため、大学等の特許等の産業界での活用状況の把握には困難な点もあるが、大学教員から特許を受ける権利を取得した企業が、実施を希望する他の企業に対しても実施させず、実態として特許権が休眠状態となって、大学等の研究成果が社会に有効に活用されない場合がある。
   国有の特許等に関しては、2(2)で現状について述べたように、これまで必ずしも十分に活用されていない。

(4)研究成果の対価の還元に関する問題
   個人有とされた大学教員の発明に関する権利を基に、企業が事業化に成功しても、TLOの仕組みを通していないときには大学等や教員が十分な対価を得られない場合が多い。これは、発明者個人の知的資産が正当に評価されていないという点で大きな問題であるばかりでなく、教員が発明をなすことに対する誘因に欠ける状態となっている。国有特許の場合も、発明者に対する発明補償金について統一的に上限を設ける制度となっている(注14)。また、大学等が組織的に取り組むための誘因も十分とは言えず、国有の特許等による実施料収入の大学等への還元についてもより充実すべきとの指摘がある。

(5)TLO等に関する問題
   大学等技術移転促進法により、TLOによる技術移転活動を実施している大学等もかなりの数に上っているが、TLOが未整備の大学等も少なくない。こうした大学等では、教員個人がJSTの特許化支援事業を活用するなどしている例もあるが、研究成果の効果的な特許化や活用を進める上で十分な体制が整っているとは言えない。また、TLOを整備している大学等でも、個人有の特許等を扱うには、発明に関する権利について教員個人の任意による譲渡が前提となっており、必ずしもすべての有用な特許等が集まる仕組みにはなっていない。さらに、競争入札を原則とする国有財産の処分手続上の問題等から、これまで国有の特許等を扱うTLOがなく、TLOが大学等における特許を統一的に扱うシステムが整備されていない。

4   今後の方策

(1)検討の観点
   特許等をめぐる状況の変化に対応し、特許等の取扱いにおける問題を解決するために、「知の時代」にふさわしい技術移転システムとして、大学等がより主体的、組織的に、研究活動の活性化やその成果の有効活用を図るとともに、発明者への十分な対価の還元を確保する仕組みを整備することが必要である。これによって、我が国の大学等が有する潜在的な研究能力を十分に生かし、大学等の研究成果が最大限に活用されるようにすることが肝要である。そのためには以下のような点に留意して検討を進める必要がある。
   技術移転をより効果的に進めていく方策は、大学等の研究成果が、1)特許化を通じて、2)企業等により実施されることにより社会貢献を果たし、その対価が、3)適切に大学等や教員に還元され、4)大学等の更なる教育研究活動に充てられ、新たな研究成果を生み出すという循環のメカニズムをいかにつくり出すかにかかっている(注15)
   また、大学等における研究成果を適切に保護し、その活用を促進するためには、特許等の帰属主体、管理主体及びライセンシングやマーケティング等、技術移転機能の適切な担い手を検討することが重要である。加えて、活用がより促進されるためにこれらの機能を一つの組織に統合させるという観点も逃せない。
   特許等の活用のみならず受託研究・共同研究や技術指導等関連する他の産学連携活動との組合せによって、技術移転を推進する視点も必要である。
   さらに、国立大学等の独立行政法人化についてもその是非を含めた検討が開始されているが、本協力者会議では、国立大学等の特許等の取扱いに関して、仮に国立大学等が法人化されれば特許等の組織帰属や組織管理も可能となることを考慮し、法人化後を想定した長期的な改善方策と当面の改善方策との二つの段階に分けて検討を行うこととした。

(2)長期的観点からの施策の方向性
   (a)研究成果の活用・還元を進めるための帰属ルール
   今後、仮に国立大学等が法人化した場合における特許等の帰属については、以下のように考えるのが適当である。大学教員の研究成果の効果的な技術移転を進める観点からは、発明に関する権利の帰属のルールができる限り簡明なものであると同時に、特許等の帰属・管理・活用の主体が一元化されることが望ましいが、この場合、帰属について個人有への一本化又は国有への一本化とすると、次のような問題が生じる。すなわち、特許等の個人有を原則とした場合は、公的資金による研究経費の増加に対する国民の理解を十分に得ることが難しく、また、特許維持費を個人で負担し、契約事務を研究者が直接担当するのは一般的には極めて困難である。一方、仮に国有の特許等を原則とした場合、国有財産処分手続上の問題により、必ずしも効果的な国有の特許等の活用が実行できない。これらの問題点を解決するとともに、発明の発掘・特許化に機動的に対応できるよう、各機関が責任をもって組織的に技術移転に取り組める体制を構築するためには、特許等について原則組織(法人)帰属とすることが望ましい。
   その際には、発明者個人の業績を正当に評価し、発明者等への十分な対価の還元を図るシステムを整備することも不可欠である。また、権利の活用等に当たっては、発明者の意向を尊重するなど発明者に対する十分な配慮が必要である。    法人化後における発明委員会など個別案件の帰属決定の仕組みについては、今後検討すべき課題ではあるが、全学的に特許等の帰属ルールの透明性を確保しつつ、技術アドバイスや評価等を行う組織を大学等に設ける必要があると考える(注16)

   (b)「知の時代」にふさわしい大学等における産学連携システム
   TLOの実施する事業は、大学等における発明に連なる幅広い学術研究の進展に資するとともに、その研究成果を新技術・新産業に結びつけ、経済社会の活性化を図るという社会的意義を有している。技術移転の更なる進展を図るためには、TLOを含め、大学等における産学連携を効率的に進める体制の構築が不可欠である。    国立大学等の独立行政法人化に際しての制度の内容については現在調査検討が行われており未確定であるが、仮に法人化された後であれば、大学等が主体的、組織的に産学連携に取り組むため、現在、共同研究センター等の「教員組織」、研究協力部課等の「事務組織」、外部機関としての「TLO」に分かれているリエゾン(仲介・連絡)機能、契約事務機能及び技術移転機能を統合したシステムを設けることも可能であると思われる。これに関し、TLOを国立大学内部の一組織として設置することや、大学等と特別な関係を持つ外部の組織として設置することも検討が可能である(注17)
   各国・公・私立大学等が、産学連携システムの整備に関して具体的にどのような形態や戦略を採るのかは、最終的には各大学等の判断で行われるべきであり、大学等の実態に応じて効果的な技術移転が可能となる体制を構築すべきである。
   また、このような体制は、共同研究や受託研究等により大学等が受け入れる研究費に関して間接経費を課して、これを各大学等が自らの判断やルールにより、特許維持やTLO活動等産学連携活動の充実に充てることのできる仕組みの導入など、財政的なシステムの在り方とも関係しており、今後検討する必要がある。
   さらに、このような産学連携システムを構築していく際に、大学等の研究成果や特許を適切に産業界等が評価できる「市場」を創出する観点も重要であり、そのためには、技術評価の「目利き」人材や法務・契約等の専門家の養成、技術・研究支援などを行う事業の産業化、産学官の関係者による対話の促進や場の形成が必要である。

(3)当面の改善策
   (a)大学等の組織的管理を推進するための当面の改善策
   国立大学等の特許等の組織的管理を推進するための当面の改善方策に関して、本協力者会議では、
1)      発明の帰属のルールを原則個人有から国有へ変更し、TLOができるだけ一括して技術移転できるようにすること、又は
2)      帰属のルールを基本的には現状のままとして、諸方策により研究成果の活用を促進すること、
の二案を軸に議論した。
   案の1)の場合には、国有原則となり、学外から見て帰属のルールが理解しやすく、基本的には大学等が特許等を管理する体制となる。また、仮に法人化した場合に組織有を基本とするのであれば、これへ移行しやすい。一方、各大学等において研究成果を有効に活用するためのTLOの整備やJSTの事業による対応が追いつかないおそれがある。また、大学等の業務運営上、特許化・維持が必要かどうか判断する機能が必要であるし、大学側にコスト意識が低いままにすべて国有原則として扱うと海外における特許等の出願・維持に関する経費のみが増大する可能性がある(注18)。    案の2)の場合には、各大学等がTLO又はJSTとの連携やその他の組織的な管理体制の整備、教員への特許意識の浸透などそれぞれの状況に応じて、大学等の特許管理機能の強化を図ることができる。しかしながら、帰属は個人有と国有が混在し、依然として学外から見て複雑である。TLOが整備されていても、どれだけの個人有と国有の特許等が扱えるかは、当該大学等とTLOとの連携の緊密さによることとなる(注19)
   本協力者会議としては、案の1)の場合による帰属のルールの大幅な方針変換を短期間に実施するとすれば、新しいルールの周知が不十分となって現場の混乱を生じさせる懸念があるとともに、国有の特許等の活用を進める体制が大学等によっては制度変更と同時期には整備できない可能性が高いこと、案の2)であれば、TLOの整備や特許等に関する契約事務のノウハウ蓄積など、大学等の主体的、組織的取組を通じて、特許管理体制の強化が図られることなどを勘案して、当面の改善策としては、案の2)の方が優れていると考える。    さらに、案の2)を達成するためには、以下の各項目の改善が前提となる。

   一   国有特許の活用の促進
   国有財産処分手続上の検討を行い、国有特許の活用を進めることが必要である。その際、大学等の研究者が研究活動の成果として単独で発明を行った場合と、企業と共同で発明を行った場合に分けて考える。

   (ア)国単独有特許の場合
   随意契約により、国有の特許等をTLOへ譲渡すること、又は専用実施権を設定した上で、TLOが第三者に実施権を設定することを検討すべきである。
   現行法令上でも国有の特許等を第三者に譲渡し、又は専用実施権を設定することは可能であるが、原則として一般競争入札等の手続が必要とされ、特許等の資産的評価が困難であることなどから、現状では第三者に対する譲渡は行われていない。
   しかしながら、実用化される「製品」や「技術」が一般に複数の特許やノウハウ、アイディア等の集合体であることからみて、TLOの取り扱う特許等が、一部の教員個人有の特許等に限定されたままでは、産業界への有効な技術移転は期待しにくい。また、大学等や教員と密接な連携を持ち、かつ特許やマーケティングに関するノウハウを有するTLOが、国有の特許等を扱いやすくすることは、有効な技術移転に資する。したがって、大学等の研究者の研究活動により生じた特許等をTLOが一括して管理・活用できるような道を開く必要がある。さらに、TLOの主な業務の一つが特許の実施許諾等にある以上、TLOが、新規市場の創造に意欲的な企業やベンチャー企業等に独占的な実施権設定等を行う必要がある。
   また、企業からの受託研究における特許等の取扱いに関して、委託者である企業に対しても、TLOに対する場合と同様に、国有の特許等を譲渡又は専用実施権を設定することを検討すべきである。

   (イ)国・企業共有特許の場合
   随意契約により、国と企業とが共有している特許等に係る国の持分について、相手方企業やTLOへ専用実施権を設定し、サブライセンス(再実施権)(注20)の同意権を付与すること、又は相手方企業やTLOへ全面的に譲渡することを検討すべきである。
   現行制度では国と企業との共有の特許等の場合、企業が独自に第三者に持分を譲渡する、又はサブライセンスやクロスライセンス(相互実施権)(注21)の形での活用を希望するとき、独自に条件を設定したり、特許等の処分を行ったりすることはできない。煩雑な手続の存在が企業側の共有特許の活用意欲をそいでおり、結果として研究成果の有効活用が行われなくなっている。これらを踏まえ、国の持分に関して、当該特許等を有効に活用できる相手方企業等への専用実施権の設定や譲渡を円滑に行う必要がある。
   一方、大学等で生じた特許等に関して、TLOができるだけ総合的に扱い、効果的なマーケティングを実施するためにも、国・企業共有特許等について国の持分のTLOへの譲渡等を円滑に行う必要がある。

   二   発明委員会の活性化等
   現行の発明委員会の運営については、教員の研究活動により発明が生じた場合に、迅速に的確な権利処理を行うという機能を十分発揮し得ていないという指摘がある。しかしながら、発明委員会は、権利の帰属の判断を学内組織において行うことにより、帰属判断の透明性、権利者の妥当性などを確立するものとして重要な役割を担っていると考えられる。
   各国立大学等に設けられている発明委員会を適切に運営していくためには、学内の教員の積極的な協力が不可欠である。すなわち、教員の発明があった場合に、大学等の長にその旨届け出ることが徹底されなければ、各大学等としても、教員の発明の状況を正確に把握することができない。届出の徹底は、教員の研究活動と特許等との関係を透明化し、各大学等の社会への貢献の実態を広く一般国民に訴えていくためにも必要である。また、このことは、仮に国立大学等が法人化した場合に、組織帰属の考え方を採るとすれば、その際の円滑な移行を可能にするための措置としても重要であり、ひいては、TLOに個人帰属の有望な発明について交渉する機会を与えることから、TLO活動の支援にもつながることとなる。
   各国立大学等に設けられている発明委員会の運営や発明に関する相談体制の整備について、TLOや外部の専門家等との連携・協力を進め、より効率的に行えるよう工夫するとともに、国有特許の技術評価機能の強化を図ることも必要である。

   三   TLO活動の支援と効果的な産学連携体制の整備
   産業基盤整備基金からの助成金については、TLOの活動を支える有用な制度であるが、助成金の対象として弁理士費用が認められていないという問題が指摘されており、現在のTLO支援制度全体を踏まえつつ、弁理士費用の助成対象化の是非について検討する必要がある。また、大学等の外部に設けられたTLOや私立大学等のTLOについて、TLO協議会で進められている調査研究の状況も踏まえつつ、税制上の優遇措置の検討が必要である。
   現在、(財)日本テクノマート(注22)からTLOに派遣される特許流通アドバイザーが積極的な活動を行い、重要な役割を果たしており、その拡充が求められている。さらに、今後技術移転を担っていく人材の育成が課題である。したがって、技術移転の専門家を育てるフェローシップ制度や各大学等の判断に基づくMOT(Management of Technology)(注23)に関する講座等が整備され、専門家育成の仕組みが幅広く形成されることが望ましい。
   また、上記のように国有の特許等がTLOに対して円滑に譲渡されることとなれば、大学等技術移転促進法に基づき、国有の特許等を取り扱う認定TLOの仕組みを積極的に活用する必要がある。
   こうしたTLO活動の充実等とともに、円滑な技術移転活動を推進するためには、大学等が効果的な産学連携体制を整備する必要がある。例えば、教員組織であって、リエゾン機能を果たす共同研究センターの施設の中に、TLOや研究協力担当事務組織を置いたり、客員教授の仕組みを活用して外部の専門家を受け入れるなど、様々な工夫により、大学等において「ワンストップ・ウィンドウ(注24)」に近い体制を整備することも重要である。
   また、大学等における研究成果の民間事業者への移転促進の取組に対する意欲を高めるため、国有特許の企業への実施許諾等により得た実施料収入の大学等への還元をより一層進めるとともに、発明者に対する発明補償金の上限を撤廃する必要がある。
   さらに、技術移転をはじめとする産学連携の諸活動への取組や研究成果の特許化等に関して、適切な評価が行われることが望まれる。

   (b)特許等のマーケティング機能を強化するための当面の改善策
   大学等における発明が円滑に事業化されるためには、技術開発動向の調査や企業ニーズに対応した大学等の研究成果や技術の紹介を行うとともに、必要に応じて大学等からノウハウの提供や技術指導、さらには製品化のための生産技術、製品技術等の提案を行うなどの広い意味でのマーケティング機能が欠かせない。現在これらの機能は、JSTやTLOなどが担っているが、    今後マーケティング機能の強化を図るには、JSTとTLOとの役割分担を明確にしつつ有機的連携を図る必要がある。両者の保有する特許情報の共有化・ネットワーク化についても検討することが重要である。
   大学等としては、各大学等の実態に応じて独自のマーケティング方法を主体的に選択する姿勢が大事である。

5   公・私立大学等の特許等の取扱い

(1)現状
   公・私立大学等の特許等の取扱いに関する職務発明規程は、各地方公共団体や各公・私立大学等において整備されることとなるが、必ずしもすべての大学等で整備されているわけではない。個々の地方公共団体、大学等によって職務発明規程や発明の帰属の在り方は区々である。

(参考)職務発明規程の整備状況

  整備済 未整備 合  計
公立大学 15 13 28
私立大学 25 98 123
出典:産学連携の現状と課題に関する調査

(平成11年9月 筑波大学先端学際領域研究センター(文部省委嘱))

   特許等の維持・管理に関しては、公立大学等について、各地方公共団体に権利が帰属するものは、各々の会計規程に基づき管理を行うこととなる。私立大学等では、学校法人として管理することをはじめ、学内外のTLOを活用するなど、積極的に対応している大学等もあるものの、十分な取組の行われていない大学等も少なくない。
   公・私立大学等で生じた発明に関する権利の実施化方策としては、JSTの技術移転制度を活用するなど、外部の制度を利用している場合もある。また、まだ数は少ないがTLOが整備されている大学等では、当該TLOを積極的に活用している。
   発明者への対価の還元については、職務発明規程がある場合は、学内の規程等により発明補償金制度が整備されることとなるが、還元率や還元額などに係る考え方は様々である。また、TLOが整備されている大学等では、個々の基準により発明者への対価の還元が行われている。

(2)今後の方向性
   本「審議の概要」で検討した内容は、公・私立大学等における問題点・課題にも共通するものであり、各設置者・大学の判断により、大学等の組織的な産学連携の取組を進めることが望ましいと考える。
   また、「平成10年まとめ(付属資料)」において、私立大学等と企業等との共同研究等に係る規約等の参考例を示したところであるが、現在でもなお、多くの私立大学等で発明規程が未整備であったり、企業が共同研究の成果に関しての発明を実施する場合、大学側が生産手段を持っていないため不実施の対価としての実施料を大学側に払うルールを適用することに対して、企業側から理解が得られないケースがあるなどの問題が残っている。先に述べた国立大学等の例と併せて、大学全体として、明確なルールに基づいた技術移転システムの構築や産業界との対話促進の努力が必要であるが、産業界の意識の改革も望まれる。

6   今後の検討課題

   大学等の研究活動の活性化やその成果の有効的な活用を通し、大学等がより主体的に社会に貢献していくためには、大学等から企業への技術移転に関連する以下のような諸課題についても、産業界との連携を図りつつ、引き続き検討を進める必要がある。

(1)大学等における知的所有権に関する取扱いの在り方
   これまで、特許権に関する技術移転については検討が加えられてきたが、これに準ずる実用新案権はともかくとして、意匠権、回路配置利用権、育成者権等、知的創作物に係る知的所有権についての取扱いに関する規程は、現在大学等において整備されていない。今後、大学等におけるこれら知的所有権の取扱いや新しい課題としての「マテリアル・トランスファー(注25)」の在り方について検討する必要がある。また、データベースやプログラムに係る著作権については、昭和62年の文部省通知(注26)に基づいて各大学等において規程の整備が行われているが、今後、学術研究の高度化の状況に応じた検討が望まれる。

(2)技術移転や利益相反に関する大学等の方針の確立
   各大学等の判断により、産学連携に関する方針を確立することが重要である。これにより、教員が産学連携活動に参加しやすくなり、また、産学連携に関して適切な評価を行える環境が整うものと考えられる。また、知的所有権の取扱いを含めた技術移転が活性化すると、大学等と企業等との間に利益衝突が生じやすくなる。技術移転の在り方も含め、「利益相反」を想定した大学等の産学連携に関する方針を事前に確立しておかないと、係争になった場合などに適切な対処ができないおそれがある。大学等で策定すべき方針の基本的事項について検討を行う必要がある。
   また、大学院学生やポストドクトラル研究者など、大学等で研究活動に関係する様々な者の発明の取扱いについても検討する必要がある。
   さらに、仮に国立大学が法人化された場合においては、各大学等の特許等の取扱い方針の下に、あらかじめ大学等と研究者が契約を交わしておくことなどについて考慮すべきである。その際、発明者に十分な対価の還元が図られることが重要である。

(3)大学組織管理体制に向けての公的支援・コスト負担等の在り方
   今後国立大学等が仮に法人化された場合に、特許等が組織に帰属することを想定し、効率的運用を図るためには、組織有となった場合の公的支援の在り方やコストの負担等の在り方について検討しておく必要がある。

(4)大学等と企業等との共同研究等に係る契約の在り方
   研究成果の事業化の主体となる企業が、研究開発戦略上、大学等との共同研究等において様々な特許等の取扱い方法を求めるようになってきている。また、研究活動や経済活動が今後ますますボーダレス化していくにつれ、大学等の教員が、諸外国の企業を含め複数の企業との共同研究に参画する機会が増大することも見込まれる。こうした場合を想定すれば、それぞれの事例に応じて、共同研究等の基礎となる契約に研究成果の取扱いに関してあらかじめ明記できるようにする必要がある。その際、大学等においては、学術研究の継続性を保つことが社会的使命となっていることに十分配慮する必要がある。また、研究成果の実施化による収入の還元という観点からも、共同研究等の契約の記載内容について改善を図る必要がある。
   さらに、特許等以外の研究成果についても、大学等としての取扱いを定めるべきものが含まれる可能性がある。加えて、進行状況報告の履行、営業秘密保持と研究成果公表とのバランスの問題等についても、大学等と企業等との間の明確なルールを整備する観点から引き続き検討する必要がある。

【参考】産学連携における「利益相反」に関する諸問題・課題について

   本協力者会議では、第7回会議において、産学連携活動における(大学等の)研究者の利益相反について、有識者等からのヒアリングを実施し、併せて自由討議を行った。その中で議論された主な事項についてまとめると以下のとおりである。
   また、「審議の概要」の「6.今後の検討課題 (2)技術移転や利益相反に関する大学等の方針の確立」において述べているように、産学連携の利益相反の諸問題・課題については、今後とも関係機関等において検討されるべきである。

   1)   利益相反(Conflict of Interest: COI)とは、「責任ある地位にいる者の個人的利益と公的責任との間とに生じる衝突」と定義できる。アメリカの例では、大学等においてCOIを管理するのは、研究の客観的な妥当性を確保し、個人の金銭的利益によって研究の公益性が歪曲されることを回避するためである。また、連邦政府の研究資金配分機関は、大学等の研究の公益性を確保する観点から、資金受入大学等に対して、文書化されたCOIの管理方針を持つことを求めている。

   2)   諸外国の例で、アメリカでは、大学協会がCOI管理に関するガイドラインのモデルを示していることもあって、ほとんどの研究大学等でCOI管理に関して文書化されている。イギリスでは、公的研究資金配分機関が各大学等にCOI管理の文書化を求めているが、機関間での文書内容の相違が大きい。カナダの主要な大学等もCOI管理のためのガイドラインを有している。フィンランドでは、研究資金配分機関がガイドラインを示している。

   3)   日本の国立大学等の場合、国家公務員法及び人事院規則等が、「服務規則」の根拠法令であり、公務員の法的な「責務相反」を対象としていると考えられる。また、国家公務員倫理法及び国家公務員倫理規程が、「倫理規則」の根拠法令であると言える。産学連携における「利益相反」は、「服務規則」と「倫理規則」との両者の間に位置するものである。これは法的規制の対象として固定的に定義しにくい概念であり、また一方で国民に対する説明責任があることから、基本的には大学等の自主的な規制の対象とすることが必要である。

   4)   アメリカなどの例では、大学等において生じた特許等の帰属に関して個人の自由裁量を認めると「利益相反」を生じる可能性があることから、権利の帰属を大学等の組織有とするという考え方もある。

   5)   日本でも産学連携が活発化するにつれて、海外の大学等と同様にCOIの問題への対処が必要になるのではないか。仮に国立大学等が法人化した場合、各大学等が一方で公的資金に支えられ、他方で産業界等の私的な機関との知的資源の流通を促進させることを想定すると、利益相反に関する問題に遭遇する可能性が増すので、教員の行動基準としての利益相反のガイドラインが必要になると思われる。

   6)   今後、産学間の技術移転活動が国際的に行われる場合が増えることが考えられることからも、COI管理のためのガイドラインを整備することが望まれる。

   7)   日本でCOI管理を扱う場合、政府が直接に管理モデルを作るのではなく、学術研究資金配分機関の方針等も勘案して、国・公・私立大学の関係団体等が基本モデルを作成し、次いで各大学等がガイドラインを作成することなどが考えられる。

   8)   COI管理のガイドラインは、各大学等における産学連携の実施及びCOIに対する基本方針と、産学連携活動を行うに際しての教員の行動基準に対する考え方が明記されたものであることが考えられる。行動基準は具体的に遵守できるものであり、かつ実行面、精神面の両面で、産学連携の実施に対して阻害的にならないものであることが必要である。また、これに加えて、利益相反の疑義に関して、大学内において個別事例を判断できる組織を整備しておくことも重要である。


(注1)冊子P27〜30   資料1「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について−『知的存在感のある国』を目指して−」  (平成11年6月、学術審議会答申)―抄―

(注2)冊子P31         資料2「知的所有権」

(注3)冊子P32          資料3「国立大学等における特許等の取扱いについて」
        冊子P33〜38    資料4「大学教員等の発明に係る特許等の取扱いについて」(昭和52年6月、学術審議会答申)―抄―
          冊子P39〜40    資料5「国立大学等の教官等の発明に係る特許等の取扱いについて」(昭和53年3月、文部省通知)―抄―

(注4)平成10年度までは、日本学術振興会を経由して出願事務が行われてきた。

(注5)冊子P41〜43   資料6「欧米の大学等における知的所有権の取扱いについて」

(注6)冊子P44〜46   資料7「欧米の大学等における知的所有権の取扱いと技術移転の取組みについて」

(注7)冊子P47         資料8「主要国の技術貿易額の推移」

(注8)冊子P48         資料9「技術移転機関(TLO)の概要」
        冊子P49〜53   資料10「大学等技術移転促進法」―抄―

(注9)冊子P54         資料11「産業活力再生特別措置法」―抄―

(注10)冊子P54         資料12「産業技術力強化法」―抄―

(注11)冊子P55         資料13「国立大学等の教員の企業等役員等兼業」

(注12)冊子P56         資料14「国立大学等で生じた発明から実施までの流れ」

(注13)冊子P57〜59   資料15「発明委員会の機能における現状及び問題点等」

(注14)冊子P60〜62   資料16「国家公務員の職務発明等に対する補償金支払要領」(平成10年8月、特許庁通達)―抄―

(注15)「産学の連携・協力の推進に関する調査研究協力者会議まとめ」(平成10年3月30日)
            P9「技術移転機関の整備の促進に向けて」参照。

(注16)冊子P63         資料17「法人化後の大学等で生じた発明から実施まで」

(注17)冊子P64         資料18「今後の産学連携体制の一例」

(注18)冊子P65         資料19「国立大学等で生じた発明から実施まで(法人化前パターン一)」

(注19)冊子P66         資料20「国立大学等で生じた発明から実施まで(法人化前パターン二)」

(注20)サブライセンス:実施権者が、更に第三者に実施権の再許諾をすること。特許権者の同意が必要である。(特許法第77条第4項参照)

(注21)クロスライセンス:複数の特許権者が双方的に実施許諾をすること。

(注22)(財)日本テクノマート:技術情報を総合的に収集管理し、かつ、提供することによって、地域間、業種間及び企業間の技術交流を促進することにより、技術格差の是正及び技術基盤の拡充を図ることを目的とする公益法人(通商産業省所管)。

(注23)MOT(Management of Technology):技術の経営や管理、技術経営政策。

(注24)ワンストップ・ウィンドウ:様々なサービスを一つの窓口で取り扱う機能。資料18参照。

(注25)マテリアル・トランスファー:大学等で開発された材料等の移転。

(注26)冊子P67         資料21「国立大学等の教官等が作成したデータベース等の取扱いについて」(昭和62年5月、文部省通知)―抄―

 

(研究振興局研究環境・産業連携課)

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