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政策評価に関する有識者会議

2001/09/18 議事録

政策評価に関する有識者会議(第2回)議事録

政策評価に関する有識者会議(第2回)議事録

1.日時

平成13年9月18日(火)14:00〜16:00

2.場所

虎ノ門パストラル「菊の間」

3.出席者

(委員)

伊藤座長,浅井委員,麻生委員,池上委員,大窪委員,大田委員,岡本委員,小川委員,小出委員,古賀委員,伊達委員,田吉委員,永井委員,中西委員,長谷川委員,星野委員,横山委員

(事務局)

御手洗文部科学審議官,結城官房長,林官房審議官,丸山政策課長,板倉評価室長

(オブザーバー)

高施設企画課長,辰野初等中等教育企画課長,板東高等教育企画課長,和田開発企画課長,高塩文化庁政策課長,布村教育課程課長,田中ライフサイエンス課長,川上計画官ほか

4.会議の概要

(1)政策評価をめぐる最近の動き等についての説明

  事務局より,行政機関が行う政策の評価に関する法律,平成14年度の概算要求の基本的な考え方について説明が行われた。

(2)平成13年度事業評価について

  事務局より,平成13年度の事業評価の結果及び今後の政策評価の進め方について説明が行われた。

(3)意見交換

(行政機関が行う政策の評価に関する法律,平成14年度の概算要求の基本的な考え方について)

【浅井委員】

事前評価をどのように実施するかという議論及び要領について,細目はクリアになっているのか。

【伊藤座長】

文部科学省の政策は,成果が現れるまでにかなり長期間を要する政策等があり,事後評価だけで,あるいは試行錯誤で実施するというわけにもいかず,相当綿密に事前評価をする必要がある。
  事前評価とは。また,法律との関係はどういうものなのか。

【評価室長】

総務省から基本方針の案が示されておらず白紙状態である。

【古賀委員】

総務省から全省一律に政策評価の手法が決まっている部分と文部科学省で独自に行っていい部分と分かれていないのか。

【評価室長】

総務省から基本方針の案が示されておらず不明。

【古賀委員】

法律が来年の4月から施行されるが,13年度はトライアルを各省で行うということか。

【評価室長】

総務省が現在基本方針案を策定しており,それに基づき各省で基本計画及び毎年度の実施計画を策定する。

【麻生委員】

文教政策は,その効果が出るまでに非常に時間がかかる。事前評価は分かるが単年度ごとの決め方でいいのか。政策というものの評価の類型というものがあるような気がする。特色を十分に生かして実施しないと,余り意味がないのでは。類型論のようなものが必要では。

【伊藤座長】

そういうことについて,総務省の方でまとめていると思うが,文部科学省として意見を述べる機会はあるのか。

【評価室長】

法律には単年度の計画とあるが,年度内に実施したものをその年度内に評価するという意味ではない。どの段階で何を指標として評価するかについて,基本計画ないし実施計画を策定する際に決めていく。

【大田委員】

まず,初等中等教育の場合にだれが,何を,どこまで評価するのかが分かりにくい。政策評価を考える際に責任の所在がどこにあるのか,明確にしていく努力が必要である。
  次に,個々の学校の自己評価が求められているが,単に自己評価を促しても真の意味での評価はできない。学校選択制度のように親及び児童に評価されることも必要である。評価の周辺的な条件整備が非常に重要だ。
  最後に,文部科学省がアカウンタビリティをどう果たしていくかが注視されている。教育というのは効果が出るまでに時間がかかり定量的な評価ができないが,早い段階で軌道修正が必要であれば対応すべき。事後評価であれ,柔軟な姿勢をもって政策評価を行ってほしい。

【伊藤座長】

教育評価と学校評価の関係をどう考えたらいいのか。また,政策の成果が出るまでに時間がかかるので,途中で軌道修正していかなければいけないが,事業評価に業績評価を組み合わせたり,あるいは事業評価と総合評価とを組み合わせるといったような複合評価の方式も考えなければならないのではないか。

(平成13年度事業評価について)

【山谷委員からの意見】

(書面で寄せられたものを評価室長が読み上げ)

1.政策評価制度全般に関して

  1「政策体系」という考え方が現状のままでの文部科学省の活動施策すべてになじむわけではない。ただ政策体系を作る努力は必要。2評価の方式(事業評価,実績評価,総合評価)の使い分けが必要。なお事業評価は目的が必ずしも明確でなくても,実際に出てきた効果を測定することによっても可能である。3上記3と関連するが,政策の質的改善を図るためには,事前評価よりもむしろ事後評価の方が効果的な場合もある。(フィードバック)

2.予算との関連

  1予算制度と関連させ,予算要求にも使うという考えは重要であるが,現状では時期尚早ではないか。本格的に予算制度と連動させるということは,政府全体,財務省が取り組むべき課題であろう。文部科学省の政策評価の議論で行うには荷が重過ぎる。2現状では「結果的に予算要求しなかった」「結果として予算の見直しになった」程度でよいのではないか。

3.具体的な方式に関して

  1地方公共団体が行っている「評価シート」,「評価カード」の考え方が国の府省の政策評価になじむかどうかは疑問。作成するならば政策実務担当者の意識改革に使う程度でよいのではないのか。2実績評価・業績評価の実績や,業績(パフォーマンス)は「現場主義」的な発想が背景にある。したがって,作業管理的な性格を持つ。内部管理事業を生み出すことは主目的であることを意識すべきである。3実績評価という考え方と政策体系の考えとは,もともとは違うルーツを持つ。政策体系は政策→施策(プログラム・サブストラクチャー)→事業(プロジェクト)を組むときにこのシステムの整合性(目的=手段の適合性)を重視しなければ意味がない。4「事業評価」と「事務事業評価」とは違う。後者は地方公共団体に見られる。5教育や福祉,医療など,人間を対象とする活動には定量評価よりも定性評価になじむものが多い。アメリカで行われているプログラム評価(program evaluation)の検討が必要。6新規事業に関しては事前のアセスメントがふさわしいがそのためには数値目標の設定が不可欠で,数値目標をつけない事前評価は説得力がなくアカウンタビリティに苦労する。

4.有識者の外部評価委員会について

  1専門的視点から,政策評価の仕組み・制度について意見を言う場ではない。いわゆる「評価の評価」である。政策や事業の内容についての意見を言う場ではない。2有識者の外部評価委員会は民意を反映する場ではない。いろいろな分野の専門家の「専門的知見」を反映する場である。

【田吉委員】

学校では新しい教育課程の中で移行措置を進めてきている。学校そのものがアカウンタビリティを果たさなければならないというところにきている。
  1点目は,今まですべての目標と内容が出されていた各教科等々だけではなく,総合的な学習の時間や選択授業等,新たな流れが生じてきた。
  2点目は,絶対評価,到達度に応じた評価が導入されようとしている。年間の指導計画を各学校が責任を持って提示し,それについてどこまで到達できたかということを保護者,生徒,地域社会に発表していくというアカウンタビリティが必要とされる。そのことを自己評価していくに当たって,自己評価の改善と同時に保護者や地域社会,生徒など外部からの評価を求めようとしている。このように学校も変わりつつある。
  今回学力向上施策として出された小人数指導の実現が,今はほんのわずかの学校にしか配置されていない。しかし,更に進んでいくことで大きな力になる。

【麻生委員】

第1に,評価を行うグループには権威や学問的なものが大事だ。そのため国立教育政策研究所で行う。学力テストを実施するというのはいいが,公表するのであれば特にその責任は明確にすべき。
  次に,定点観測のシステムを全国的に整備するというのが国立教育政策研究所の一番重要な役割である。定点観測の網の目をきちんと作ることが必要である。学力調査においては知・徳・体を一緒に実施した方がいい。モラルの問題,身体の問題についてもきちんと文部科学省は実施している。読めば相当怖いことが出ているが,余り話題にされずに見過ごされている。身体の問題も長期的には学力より恐ろしい問題である。
  第3にゲノムの問題。エキスパートの判断が随分入っていると思うが,評価の主体を公表するべきである。信用に欠ける。責任の所在をはっきりすることが必要である。

【評価室長】

この事業評価は評価の実施主体である文部科学省が評価の主体である。個々の評価を行った責任者は,担当課長等であり,個々の事業評価シートにも明示してある。

【横山委員】

ゲノム科学で欧米に先を越され,ポストゲノム時代をどうするかという戦略を立てたのは分かる。一方で,ゲノムで日本が実績を上げられなかったのは基礎固めが十分ではなかったからである。長期的な視点を取り入れてほしい。加えて,ゲノムに関してはメインの話ではないが,倫理的,法的,社会的問題に対する配慮が軽視されているといった心配がある。
  もう一点は,ここでも中核的な実施機関を設定しているが,そこにだけ予算が集中しているようである。それでは中核機関を設定して,関係機関のネットワークを図ってもなかなか長期的視点で見た場合に効果が上がらないのではないか。

【ライフサイエンス課長】

長期的な視点が必要と考えている。ただし,ゲノムの次はタンパクである。タンパクをどうやって戦略的に進めるのかということに留意して,今回の評価を行っている。基礎的な研究については,現在,科学技術・学術審議会のライフサイエンス委員会において研究開発計画づくりを行っており,そこでは基礎的な研究の重要性,人材の養成及び育成の重要性等々について計画づくりをしている。ライフサイエンス全体としては短期的なもの,長期的なものをあわせて推進をして全体のライフサイエンス推進ということを図りたい。今回はタンパクということについて限ってまとめている。
  倫理については,科学技術・学術審議会,あるいは総合科学技術会議等,様々なところで倫理の面の議論を進めてもらっている。倫理を考慮しつつゲノムの問題ということについて適切に施策を起こしていきたい。
  3番目の中核的実施機関の設定について,新しい施策では,能力があるところで,かつアカウンタビリティを持ったところを設定していくことが大事であると思っている。計画は平成14年度から走り出すが,現段階から14年度までに議論を積み重ねて,理化学研究所,大学,あるいは独立行政法人,大学共同利用機関といった全体をにらみながら,適切な中核実施機関を設定していきたい。

【永井委員】

学力の問題について,教育課程審議会,若しくは学習指導要領の趣旨は学力よりも教育の基調を転換する,あるいは学力の質のとらえ方を変えて,質のアップを図るという趣旨ででき上がっており,学力が落ちて構わないといったことを考えている者は一人もいないと思う。ここでうたわれている全国的総合的な学力調査と,各学校における自己点検評価の確立の部分をつなぐものを考えておくべきではなかろうか。これは抽出調査で行われるはずだが,全国的総合的学力調査のテストの設問と結果の分析をすべての学校が利用・活用でき得るような仕掛けにしておけば,個々の学校ごとの自己点検評価に際して,大きな材料として全国的総合的な学力テストの結果を使えると思う。個々の学校のアカウンタビリティを発揮するための大きな材料として利用できるという趣旨のことが,どこかに伝わってくれば更によいのではないか。

【伊藤座長】

全国的な学力テストは定量的な調査になるが,学校評価は,定性的な評価になる。その2つをどういうふうに結びつけたらいいのか。

【教育課程課長】

この評価システムの確立については,今回教育課程の基準を設定している文部科学省において,教育課程の基準を評価するというシステムであり,そのための全国的な学力調査もその1つと位置づけている。また教育課程を実施する小中高等学校における自己点検,自己評価という形でセットで考えてシステムの構築をしたい。全国的な学力調査については,今回は学力を単なる知識のみならず,判断力,思考力,意欲,態度を幅広くとらえたいと思っているので,全国的な学力調査においても従前にない意識調査,あるいは解答の過程を評価する。そこで判断力,思考力を問うという形で評価の手法自体も工夫をしていきたい。
  定点調査についても平成7年度より並行して取り組んでいるので,今後も引き続き全国的な学力調査と定点調査を加味して評価を続けていきたい。
  国が実施する全国的な学力調査が終わった後,できるだけ問題を公表して,抽出の対象となった学校以外の学校でも活用できるような方法も引き続き検討していきたい。

【古賀委員】

今の基礎学力の向上とは,基礎を教えて,required minimumだと言われていると理解している。基礎についてはあらゆる生徒がしっかり理解する。それを定点観測するということだと思うが,この評価システムの中,時間軸というのは全然ここに表現されていない。どこかにあるのか。
  最終的に目標をいつごろまでに成果として仕上げるかというようなことが不明確である。ゲノムの方での,40兆(国際医薬品市場)の3分の1シェアというのはいつ達成するのか。評価する際の時間軸がはっきりしていない。

【評価室長】

基礎学力の向上については,この評価システムを作ったということが1つの評価の成果である。調査結果のフィードバックについては次回の新学習指導要領の改訂の際,学力の定点観測の結果が反映されているかどうかを見ることになる。具体的に改訂の時期は決まっていないと理解している。
  ゲノムについては,時間軸を考慮した達成目標の明確化と書いてあるように,5年間というのが1つのポイントであると考えられる。もちろん,5年間が固定的であるわけではない。他の欧米諸国が更に早く進むのであれば,目標を場合によっては早める可能性もある。世界の研究動向を把握して,それを支援,反映と書いてあるが,現在のところ一応5年間という目標を設定している。

【御手洗審議官】

基礎学力の問題について。ここの評価にあげている教育過程は,これまで戦後から,10年ぐらいを目安にその時々の経済発展状況,日本の置かれた国際状況,あるいは子供たちの問題状況というものを評価しながら変更している。
  今後,各教科の個々の構成内容については,調査をもとにして各教科単位でも微調整ができるシステムも取り込んでいく必要があると考えている。大体5年ないし10年というところでひとつの評価と結果が出てくる。
  今回評価したのは,あくまでも基礎学力の向上に資する教育課程の評価システムという非常に限られた分野だけ。具体的に子供の学力を考える場合には,様々な条件整備の問題,評価のシステムが徹底しているかといった要素が加わる。基礎学力を一点でとらえて,具体に評価するのは困難。
  その意味では,教育課程の改善をするときには,総合的な評価を全体的に実施しなければならない。今回はこの政策評価の試行段階ということで,教育課程の評価システムの確立という本当に狭い範囲だけで基礎学力の問題について評価しているということを考慮願う。全体としてこれからの学力をどう評価していくかが課題である。
  基礎学力の問題では,基礎学力を使っていく意欲,それを使い得る体力,意欲を含めた道徳性といった分野について総合的に評価しないと,成否を一概に言えない。限られた学校教育という時間の中でやれること,さらには子供のトータルの能力を考えた場合にはやはり地域社会や様々な活動を含めて,学校教育,あるいは青少年の教育というものをどう構築していくか等の問題がある。総合的な評価というものをどこかで考えていかなければならない。

【大窪委員】

長期間を要するもので,即刻成果が得られるものと,本当に短期間で明確に出さなければならないものをはっきりしていかなければならない。例えば教員の資質に対する評価の問題等のように国民が期待しているものに対して,明確に結果を出していく必要性,即効性が必要なものがあるというふうに考えている。法律が6法案改定されたが,国民の期待が大きいものに対して,単刀直入に言えば兵庫県の事件だが,そういうものに関して法律が後押ししているにもかかわらず即効性を見ないなどということがないように,なるべく時間がかかるものとすぐにも達成できるもの,数字がなくても達成しなければならないものをはっきり出していくことが必要である。

【中西委員】

教育という問題が非常に大切なせいか,教育に関しては個性を伸ばすとか,基礎学力をどうするとか,非常にきめ細かい政策が立っているが,科学技術に対しては余りきめ細かくないような気がする。
  ゲノムといっても非常に目標が分かりやすいし,目標も数値も立てられ,資金をいくら投じたらどうなるということの結果を見やすいものだ。公共事業的に資金を投資さえすれば伸びるのではないかというような側面がある。外国に水をあけられたということもあるので,ゲノムということは非常に大切だと思うが,何か次期の産業を支える新しい芽を育てるという観点から,その政策は非常に難しい。なぜなら,新しい研究というのは教育と違って,底上げする必要がない。いい研究が出てきたらそれをとにかく思い切って伸ばす。思い切って伸ばすためには何が必要かというと,責任を持った人の独断が必要だ。独断的に賭けるので,失敗するかもしれないが,独断的にこういう日本特有のものを育てようという志向というのが余りない。大勢の人で評価しても,善し悪しや,将来性についての判断が全くできず,平均的なもので沈んでしまう。いいものを育てるには誰かが独断でいくつか選別するシステムが必要だ。
  平成13年の科学技術の戦略的重点化の第1番が基礎研究の推進と書かれているが,非常に評価方法も難しい。試行錯誤でいいので何か芽となるものを伸ばす,育てるという観点が,教育とは異なり,非常に欠けていると思う。欧米も多分だれかが思い切って賭けて,その結果伸びてきた。ITでもゲノムでも皆がやっているからやるではなくて,日本独自のすばらしいものがあるはずである。それを伸ばすような試行錯誤的な評価法というのはあっていいと。
  責任を明確にして,うまくいかなくても,これを拾い上げる。将来それが伸びるかもしれないというものには勇気をもって政策として投資してもいいのではないかと思う。そういう評価法というのが余り読み取れない。教育の方は皆の様々な意見もあり,様々なことが生きると思うが,科学政策はどうしても表だけ見るとゲノムとポストゲノムだけが一人歩きするようなところもあるので,是非育てるという観点を入れてほしい。

【伊藤座長】

欧米というふうに一口に言うが,アメリカとイギリスとはまた大分違うような感じがする。真に独創的な研究を行っているのはイギリスではないかという感じがする。アメリカは応用の方で非常に強いと思うが,なぜイギリスはあれだけ独創的な研究が行われるのか。それは独断を許すといった大胆な実験を許すような環境があるから,そういう環境がもとになって,本当の独創的な研究というのが行われるのではないかという感じがする。これまでは理化学研究所が中心だったけれども,これから先はもっと多元化していくのだとライフサイエンス課長も述べていた。様々なところにチャンスを与えるということを言っていた。多元化していくということであり,私は非常に大事なことだと思う。
  そして市場競争のようなものを促すということが大事だと思う。そのために一体どういう施策が考えられるのか。これは非常に難しい問題である。この有識者会議の守備範囲を超える問題かもしれないが,本当に日本の少し立ち遅れてしまったというものを取り返す,あるいは抜き返すためには何とかして多元性を促すような,奨励するような研究教育風土のようなものをつくっていかなければいけないという感じがする。

【浅井委員】

科学技術政策の件だが,ゲノムの例が今回出ていて,日本の貢献は全体の6%であったという話があり,これは低めであるという評価である。自ら次の改善策について今回の評価で考えていこうという姿勢がこの報告にあらわれていて,謙虚に事実をもう少し出して,その事実の上に立って次の政策を考えるというのが,事業評価,実績評価,総合評価のいずれにおいても大事なのではないかと思う。
  科学技術の評価の一例としてのゲノム研究の評価ということに関して言うと,この報告書には明確には書いていないが,先ほど評価室長が6%に終わり,残念だと話した。しかし,予算は限られていたのだから,限られた予算で6%とかなりの成果を上げたと言えるのかもしれないので,もう少しきちんとそういう事実を挙げて,その認識を共通にしながら次を考えていくようにしなければならないと思う。
  比べてみると基礎学力の方はそういうことが余り書いてない。これはやはり問題で,恐らく数学の力が今高校生でどうなっているのかというデータもあるし,とらえていると思うが,そういうものもこういうところにきちんと並べながら議論していく必要がある。世界の中学生の表現力,高校生の数学力,それから大学生の英語力等もそういった形できちんと評価していかないといけないのではないか。
  定点観測は評価項目の定点性ということもあると思う。それを忘れて毎年違う項目から評価してしまうと,何を行っているのか分からなくなってしまう。そういうところに関しては,事実,つまり調査研究を行った結果そのものを基にして実施していくべきではないか。データベースをきちんとつくりながら実践したい。
  それから科学技術政策についてだが,様々な研究テーマ,研究資金の出し方がある。それを比較して議論するのがこの会議の責任ではないかという議論もある。いわゆる公費として大学に落ちるような研究費と科研費のようなものと,それからほかの様々な研究資金があるが,そういったものをどういうふうに全体配分するのか。競争的なグラントと研究ベースのお金として配られるものとの間の比率,及び中西委員が述べたようなピアレビューで選ぶのか,それともトップダウンで目の利く人に委ねるという種類のグラントと2つ種類があって,必ずしもどちらがいいというものでもないので,その両方を適切に配分する必要がある。いかに配分するかといった全体のマッピングを1回是非作ってみたい。そのようなことはどこで議論されるのか。
  また,初等中等教育には非常に私自身も企業人としていろいろと懸念をしている。そういったことから見て様々な手を打っていく必要があると思うが,どんなことも人間がやることであり,一生懸命頑張っている人間を評価するということが一番大事な評価ではないか。結局は現場の先生達や指導者たちのリーダーシップ,あるいは現場の努力,そういうものをいかに拾い上げて評価していくかというような仕掛けの方を事業でしっかり見ておくということを是非やってほしい。

【伊藤座長】

教師がどれだけ努力したかと,それを評価するというのは一番大事なことだと思う。これらの支援・評価は難しいが,そういった評価に今後力を入れていきたい。
  資金の流れを含めた研究開発システムの問題については,総合評価を企画している。総合評価の2番目のテーマとして「優れた成果を創出する競争的かつ流動的な研究開発システムの構築」というものに期待したい。この中に当然資金の流れ,あるいは資金の仕組み等も入ってくるだろうと思う。どのようにしたら一番日本が強くなれるかということをここで真剣に検討してみたい。早く計画を立てていただくことを期待したい。

【星野委員】

政策評価の制度というのを活用されて今年度試行で実施しているが,その辺の考え方がきちんと浸透しているか,徹底できているかという立場で少し助言したい。政策評価の目的というのがアカウンタビリティであると言っている。今日,具体的事例で2つの重点課題のPLAN・DO・SEEという過程でまとまってきているが,もう少し国民に理解していただけるような説明が必要ではないか。重点課題は比較的国民に分かると思う。ゲノムは知らない人がいるかもしれないが,少なくとも基礎学力の向上というのは国民の大半が憂えているし,非常に危機感を持っていると思う。PLAN・DO・SEEだから,今までどんなことをやってきたのか,結果はどうだったのか。その結果という観点でいくと比較的ゲノムの方は分かりやすくなっている。基礎学力の方がよくわからない。そうすると,ゲノムも基礎学力も実は事業ではなくて,ある意味では1つ大きな施策といえるのでは。
  まだ今年度実績評価ということで別紙の2にあるような文部科学省の使命と政策目標という政策施策というのと体系とこの2つの重点課題が少しまだ整理されていない感じがする。これは今年度の課題だと思う。整理すると,基礎学力の向上はある意味では実績評価,つまり現状の日本の水準はどこなのかということである。そのために学力調査をやる。
  国民的な観点でいくと,基礎学力の向上は恐らく10年前,15年前と比べると落ちているはずだといった1つ大きな現状としての認識があると思う。それに対して今まで取り組んできた過去10年なり,過去15年なりでもいいから,少なくとも平成に入ってからの今の仕組みというのをもう一回ここで振り返って,それが実際に手を打ったときにどれだけ基礎学力の向上に結びついたかどうかということを説明すべきだ。それを受けて更にその改善案として来年度からの新学習指導要領を組み込んだ新しいPLAN・DO・SEEの仕組みにしていくというところがまさに基礎学力の向上というレベルでのPLAN・DO・SEEだと思う。今まで取り組んできたことをSEEして,新しくプランを立てる。そのプランというのがこの新学習指導要領に基づくPLAN・DO・SEEの仕組みであるといえる。そうすると実際に成果がいつ出るのかといった,時間軸での目標というのが必要。
  新学習指導要領に基づいてPLAN・DO・SEE,教育課程の評価システムを確立していく中で,この基礎学力の向上に結びつくには,それなりの時間がかかると思うが,少なくとも常態的な当面の目標でいくと,この新学習指導要領が受け入れられて定着化していくとすれば,それはいつまでなのか。学校側の方の関係者の受けとめ度合いや,一般の国民の受けとめ度合いといったものは2,3年ぐらいのタイムスパンで目標を定めなければいけないのではないか。
  そういう意味で全体の事業評価の仕組みというものを考えると,本来の事業評価でいう事業というのは基礎学力の向上ではない。基礎学力の向上というのはどちらかというと施策目標であって,教育課程の評価システムの刷新なり新学習指導要領に基づくいわゆるPLAN・DO・SEEの仕組みづくりの定着化というのが文部科学省の来年度からの新規事業であるといえる。
  来年度からの新規事業の目的が何かというとはっきりしない。これは当然,新学習指導要領の議論をするときから目的を議論しているはずである。それをもう一回このシートに入れて,国民に伝わるようにして,今までの振り返りをしながら基礎学力の向上に結びつくような新しいPLAN・DO・SEE,ある意味では教育マネジメントシステムをどうこれからつくっていくか,それはいつの何年度に大体成果となって現れるかを明らかにする。これは20年,30年というと長過ぎるから,とりあえず3年後,5年後ぐらいのタイムスパンで時限目標を作るといいのではないか。
  整理すると,やはり目的があり,目標がある。目標と目的の違いは時間軸である。何年後までにどう持っていくのかというのが目標だから,タイムスパンを考慮に入れて検討する。それは時間がかかるか,かからないかということではなく,時間がかかるのであれば10年後,15年後に設定し,その上で3年後には常態的な指標の目標でも十分いいと思う。大事なことは基礎学力という最終目標,施策目標と,新学習指導要領に基づくPLAN・DO・SEEの仕組みというものの関連性をきちんと見ていくことであり,それが本来のアウトカムである。事業の目的が施策の目的にどう貢献したのかどうかがアウトカムだから,そういう観点で今回の試行を振り返って,基礎学力の向上もゲノムも来年度以降も報告してもらうわけであり,そのようにして実績評価で実施する部分と事業評価で実施する部分の整理をしてもらえれば,もっとアカウンタビリティの確保につながるのではないか。事業評価でいくと,国の関与とか公共関与。どこまでが家庭の責任なのか,どこまでが公的関与の責任なのか。公的関与の中でも市町村と都道府県と国との三階層でどういうような役割分担なのかが事業評価のポイントである。今自治体でやっている政策評価のシートなどは活用できるのではないか。

【伊藤座長】

基礎学力の向上というのは確かに非常に広い範囲の問題であり,事業評価よりはむしろ施策評価になじむ,あるいは政策総合評価になじむのかもしれない。そういうわけで余り最初から分類してしまう固い議論ではなくて,もっと柔軟に考えていったらいいのではないか。
  それから,政策評価をしてその結果をどう使うかという評価情報の使い方についても柔軟に考えた方がいい。世の中の議論を聞いていると,すぐに予算に結びつけなければいけないという議論が強い。結びつけていいものもあるかもしれないが,今の段階はまだそこまでとても到達していないものが多い。
  まずは文部科学省の職員の意識を,評価は大事であり,成果重視の行政だという意識にもっていく。そういう段階であると様々なところで強調してあるが,そうだとすると評価情報というのはまず意識改革という教育的な面に使われるのではないか。それが積み重なって,将来はもう少し予算に結びつけることができるかもしれないといったようなことだと思う。あくまでも今は試行的な段階だということ。
  試行的な段階だということで,もう少し事実を正直に出していいのではないか。ただし,責任といった重い言い方ではなく,とにかく事実を出してもらう。それについて率直な議論を行うと。評価情報の使い方としてはむしろ警告情報のように,このような問題があるということをみんなに警告を出すという使い方もあるから,評価情報の使い方ということについても少し柔軟に考えていくことが必要である。

【池上委員】

政策科学というかそういうものの系譜から言うと,リスク評価というのを多くの人が指摘しているのではないか。どのような政策も一定のリスクを伴う。実績で評価しようが,あるいは長期的な目標で評価しようが,やはりリスクは存在し,リスクはリスクとしてきちんと踏まえて評価に臨んだ方がいいのではないか。すべてうまくいくという前提で政策を立てるというのは決していいことではない。学力についても,この政策はもちろんリスクがあると思う。批判もあって当然である。こういう科学技術政策でも同様であるが,それにもかかわらずリスクをきちんと評価して,いわば足元を固めて臨んでいくということが必要ではないか。
  もう一つは基礎的な学力と公正競争の中で絶えず高めていかなければならないものとの結合,その接点がどこかということをこの資料で読むと,基礎学力の場合は非常にそれがきめ細かく配慮されていて,様々な教育システムの問題にそれを反映させていることがよく分かり,特に先導試行という形でそれを実施しようと考えているということが分かった。それに対して科学技術の場合はどういうシステムで基礎と公正競争をどう結合するか,その接点はどこかというのは少し見えにくい。その点を明確にして,日本のこれからの芽をどう育てるかという視点でまとめてもらいたい。

【伊藤座長】

リスクに対する意識がどうも日本の社会では低いということには,全く同感である。しかし評価をしていく場合には,今後,リスクという要素をもっと大胆に取り組んでいかなければいけない。行政官の方にも恐れずに社会実験のようなことも盛んに試みてもらう必要があるのではないか。そのときに同時にリスクを評価しておくということが政策評価の,特に事業評価などの一番望ましい姿なのではないかということを痛感させられた。

(4)閉会

閉会に先立ち、事務局より今後の有識者会議の開催予定について説明があった。

―了―

(大臣官房政策課)

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