大学設置認可の在り方の見直しに関する検討会(第2回) 議事録

1.日時

平成24年12月6日(木曜日)

2.場所

文部科学省旧文部省庁舎6階 第2講堂

3.議題

  1. 大学設置認可の在り方の見直しについて

4.出席者

委員

(座長)浦野光人座長
(副座長)黒田壽二副座長
(委員)相川順子、今村久美、及川良一、北山禎介、佐藤東洋士、佐野慶子、林文子の各委員

文部科学省

田中文部科学大臣、森口事務次官、山中文部科学審議官、前川官房長、板東高等教育局長、小松私学部長、浅田高等教育企画課長、
岡本大学設置室長

5.議事録

【浦野座長】 定刻になりましたので,ただいまから大学設置認可の在り方の見直しに関する検討会の第2回目を始めさせていただきます。
 本検討会座長の浦野でございます。よろしくお願いいたします。
 本日も田中文部科学大臣,委員の皆様には,お忙しい中御出席いただきまして,まことにありがとうございます。
 本日,今村久美委員が少し遅れての到着となりますが,御出席いただける予定でございます。なお,本日は,北山委員と林委員におかれましては,17時半ごろまで御出席いただけるというように伺っております。
 本検討会は原則として公開で行うこととしておりまして,今回も取材,傍聴の方がおられますこと,及び,冒頭から大臣の御挨拶までカメラによる撮影があり得ることをお断りしておきます。
 それでは,今,今村委員が御到着です。自己紹介をされますか。

【今村委員】 遅くなりまして申し訳ありません。NPOカタリバの今村と申します。
 前回は予定があり,欠席させていただきました。私は,12年前に高校生たちのモチベーションをどうやって高めていけばいいのかということを考えるNPOを立ち上げまして,これまでずっと活動してきました。現在,震災以後は,岩手県の大槌町と宮城県の女川町に,それぞれ小学生から高校生までが通ってくる放課後の居場所を確保する取組をしていまして,今日は岩手から来ました。よろしくお願いいたします。

【浦野座長】 それでは,田中眞紀子文部科学大臣から御挨拶をお願いいたします。

【田中大臣】 本日は,皆様,お忙しいところ御出席くださいまして,本当にありがとうございます。御礼申し上げます。
 11月21日に1回目の検討会がありました。基本は,大学設置審は今まで有効に機能してきたわけでございますけれども,大学自体のありようということもありますが,それよりも,どのようにして国際社会で自立して生きていける人をつくるか,そういう日本人のありようをもう一回見直して,日本社会及び世界のニーズに合わせて,たった一回の人生をいいものとして生きていける,自信を持って,自立して,自分の足で立って,自分で判断をして生きていけるような人づくりをするにはどうするかということが主眼でありますので,今までいろいろと御尽力いただいた設置審の先生方もいらっしゃるわけでございますけれども,また別の視点からも御意見をいただければと思いますので,よろしくお願いいたします。
 ありがとうございます。

【浦野座長】 ありがとうございました。
 本日は第2回目にあたります。前回,様々な御意見をいただいておりますが,それを踏まえまして,主な論点を整理しつつ,特に大学等の設置認可の在り方を中心に議論を深めたいと考えております。
 まず,事務局から配付資料について御説明願います。

【浅田高等教育企画課長】 それでは,資料について御説明させていただきます。
 資料1は,前回もお配りした本検討会の設置に関する大臣決定です。大学の設置認可の在り方について見直し,大学教育の質の向上を図るため,審査基準,審査体制,審査プロセス,スケジュールの在り方などを中心に御検討いただくこととしております。2枚目に委員名簿がございます。なお,浦野座長の御指名により,黒田委員に副座長をお願いしております。
 資料2は,前回の御議論を踏まえ,本検討会の主な論点と考えられる項目を整理したものです。大きくは,第1に,「大学の質の向上のためのトータルシステムの必要性」,第2に,「大学等の設置認可に関する論点」,第3に,「設置認可以外の質保証に関する論点」に整理できるかと思います。このうち設置認可に関しましては,「審査基準」,「審査体制」,「審査プロセス,スケジュール」等が,また,「設置認可以外の質保証」に関しては,「設置後の評価等を通じての質保証」,「早期の経営判断とそれに基づく適切な対応」などが主な論点として考えられます。
 資料3は,前回の検討会でいただいた御意見を,この各論点別に整理したものです。
 「1.大学の質の向上のためのトータルシステムの必要性」に関しては,大学の質を高めるには,設置審査に加え,設置後の質保証のための仕組みとあわせて考える必要があるという点は,概ね共通理解が得られていると考えます。
 「2.大学等の設置認可に関する論点」に関しては,特に「(1)審査基準の在り方」について様々な御意見をいただきました。それらを分類すると,1つ目に,「設置段階での厳格な事前審査が必要」,「画一化を招かないように」,「チャレンジングな大学も認めるべき」といった「基本的な考え方」に関するもの,2つ目に,自治体,地域社会,地元経済界との関係など「社会的ニーズへの対応」に関するもの,3つ目に,財政状況のチェックなど「学生確保,経営の見通し」に関するもの,4つ目に,教員の資格審査,学校校地の基準など「教員,校地等」に関するもの,5つ目に,大学のガバナンス,教育・経営情報の公開など「管理運営,情報公開」に関するもの,6つ目に,現行基準の運用の厳格化といった「基準の運用等」に関するものなど,多岐にわたります。
 「(2)審査体制の在り方」に関しては,「地域社会の状況などをよく知る人を加えるべき」,「大学教育に深い見識を持つ専門家が中心に審査をする必要がある」といった御意見がありました。
 「(3)審査プロセス,スケジュール」については,前回は具体的な御議論はなかったと思います。
 この(2),(3)も含め,設置認可の在り方は本検討会の中心的な検討課題でもありますので,さらに様々な視点から御意見をいただければと思います。
 「3.設置認可以外の質保証に関する論点」のうち「設置後の評価を通じての質保証」に関しては,「既存の大学の質の向上が重要」,「設置後も年次計画終了まで毎年チェックを行い,7年に一度義務づけられた認証評価へという流れをつくる」,「情報公開の重要性」などの御意見がありました。
 「早期の経営判断とそれに基づく適切な対応」に関しては,大学の閉鎖等の場合に,学生の学習機会を確保することや,段階的なソフトランディングができるような仕組みが必要との御意見がありました。
 このほか,前回は第1回目ということもあり,そもそもの「大学の在り方」,我が国の大学の課題の1つである「社会人の受け入れ」,また,大学の質保証という観点から,高等学校以前の「初等中等教育との関係」などについても多くの御意見をいただいたところです。
 資料4は,設置認可にかかわる参考資料として,平成19年に当時の大学設置・学校法人審議会の会長から,また20年に当時の学校法人分科会会長であられた黒田委員から公に出されたコメントの要旨です。
 19年の会長コメントは,当時の設置認可申請の状況について,「準備不足の傾向が顕著である」,「大学の設置に関する基本的理解を欠いているのではないかとの懸念がもたれるような申請内容のものが見られた」として,関係者に警鐘を鳴らしています。
 また,文部科学省に対しても,基準を明確化し,適正な審査を行う観点から,大学院大学や通信教育に係る基準の明確化などの検討を期待したいとしています。これについてはその後,例えば「大学通信教育等における情報通信技術の活用に関する調査研究協力者会議」を設けて検討を行ったり,中央教育審議会の大学分科会において検討を予定しているところです。
 20年の分科会長コメントは,「安定性が学校経営の最も基本的な命題であるにもかかわらず,経営見通しの甘い大学の例が多く見られる」,「一部とはいえ私立大学に対する社会の信頼を失いかねない事案が続いている」などの状況は極めて遺憾であり,「数値基準さえクリアすれば、といった低い意識の申請が増加するなど,規制緩和の弊害が目立ち始めている」として,文部科学省に対しても,学校法人のガバナンス機能を高める平成16年の私立学校法改正の趣旨を改めて徹底することを求めています。
 この平成16年の法改正は,理事,監事の職務を明確化し,外部理事,外部監事の選任を義務づけるとともに,財務情報の公開も義務化したものです。文部科学省では,このコメントを受けて,学校法人の監事研修会や事務局長会議などで法改正の趣旨の周知徹底を図るとともに,財務情報の公開状況を毎年度調査し,結果を公表するなどの対応を講じております。また,後ほど御説明しますが,学生確保の見通しについて審査を行うこととしました。
 資料5も前回お配りしたものですが,大学の設置認可制度に関する基本的な資料ですので,改めてお配りさせていただきました。
 公私立大学の設置には文部科学大臣の認可が必要であり,認可を行う場合,大学設置・学校法人審議会に諮問することとされています。設置審では,教学面については大学設置分科会,私立大学の財政計画・管理運営面については学校法人分科会で,それぞれ法令の規定に基づいて審査を行います。
 資料の4ページにありますように,大学設置分科会では28の専門委員会を置いて学問分野ごとの専門的な検討を行い,それを踏まえて審査会で審査し,運営委員会で調整等を行い,最終的に分科会で判定を行います。
 大学新設の場合の審査スケジュールは6ページのとおりです。開設しようとする年度の1年少し前の3月末に申請を受け付け,約7カ月かけて審査を行い答申をおまとめいただき,その後,認可権者である大臣が最終的に認可の可否を決定するというプロセスです。既設の大学が学部等を設置しようとする場合は申請が5月末ですので,大学新設の場合より審査期間が2カ月短くなります。
 資料6は,実際の審査で用いられている審査の基準の内容を,より詳しくお示ししたものです。教学面については大学設置分科会で審査を行いますが,その基準として,文部科学省告示である「大学,大学院,短期大学及び高等専門学校の設置等に関する認可の基準」が定められています。
 最も重要な規定は,第1条本文の「学校教育法,大学設置基準その他の法令に適合すること」という要件です。大学設置基準については次の資料7で御紹介します。
 加えて,申請者が既に設置している大学等で入学定員を著しく超過していないこと,医師,歯科医師,獣医師,船舶職員という4つの専門職の養成に係る大学の設置でないことが要件とされています。現在,大学の設置等に関していわゆる抑制方針が残っているのはこの4つだけですが,このうち医師については,現在,臨時定員増を認めることとしており,第3条でそのことを規定しています。
 第2条は,過去の不正行為などを欠格要件として定めるものです。
 財政計画・管理運営面については,学校法人分科会で審査を行います。基準として,同じく文部科学省告示である「学校法人の寄附行為及び寄附行為の変更の認可に関する審査基準」が定められています。
 学校法人を新設する場合,教育研究に必要な校地,施設,設備は自己所有が原則ですが,一定の要件の下に借用も認められます。
 施設,設備の整備については,開校時までに全てが完成している必要はなく,段階的整備が認められています。
 設置のための経費,設置後の経常経費については最低基準額が定められており,設置経費及び開設年度の経常経費は,設置認可申請時までに寄附金として収納されていることが必要です。
 その他,役員などについての規定や,「大学等を設置する学校法人にふさわしい管理運営体制が整えられていること」といった規定もあります。
 以上は学校法人を新設する場合の基準ですが,既存の学校法人が大学,学部等を設置する場合も,基本的に同様の基準が適用され,さらに負債率や負債償還率などの要件が加わります。
 資料7は,大学設置基準そのものです。かなり細かいものですので内容の説明は省かせていただきますが,実際の審査はこういった基準に照らして行われます。第1条の第2項にありますように,設置基準は「大学を設置するのに必要な最低の基準」として定められているものです。
 資料8は,設置認可の際の審査基準に関する論点のうち「社会的ニーズ」及び「学生確保の見通し」についての取り扱いをまとめたものです。
 まず法令上の根拠ですが,「社会的ニーズ」そのものについて審査を行うとする直接の規定はありません。資料6で御説明した「認可の基準」を受けて,学校教育法に規定する「大学の目的」に照らして審査を行う中で見ているということです。
 「学生確保の見通し」については,「経営に必要な財産」,「経常経費の財源」といった観点から,学校法人分科会で審査を行います。平成22年度開設分からは,マーケティング等の専門委員を置いて審査を行うようになりました。
 実際の審査では,「社会的ニーズ」については,「養成する人材像やそれに対する社会的人材需要」,「想定される卒業後の具体的な進路」などの資料の提出を求めます。自治体などからの要望書が添付される場合もあります。
 「学生確保の見通し」については,データ等に基づく資料の提出を求めた上で,専門委員2名と分科会委員1名で計画の確実性について審査をし,分科会に意見を述べていただくことにしています。
 この専門委員による審査は,当初は大学新設の場合だけでしたが,平成25年度開設分,つまり今年度の審査から,大学の学部などの新設の場合にも広げたところです。
 参考までに,平成15年の規制緩和以前は,大学の新設については抑制方針がとられていましたが、審議会の内規において「看護職員」や「情報,社会福祉,医療技術,先端科学技術」といった特定分野の人材養成など「特に必要と認められるもの」については例外扱いとする旨が定められていました。このような規定は,この抑制方針の撤廃に伴って廃止されています。
 学生確保については,かつては大学設置分科会長決定で,「長期的に安定した学生の確保について,十分な見通しが示されていること」という基準が定められていましたが,これは審査基準の「準則化」として審議会内規等を整備した際に廃止され,現在はこういった規定はありません。
 資料9は,審査期間が1年8カ月であった平成4年から6年度と,現在の審査スケジュールを対比したものです。1枚目が大学設置分科会,2枚目が学校法人分科会における審査で,例えば大学設置分科会における審査では,かつては審査の初めの段階で,面接審査を含む「構想審査」を行い,設置の趣旨や必要性,教育課程などの基本的な審査を行っていました。1年目にこの構想審査と全体計画の審査,2年目に教員組織中心の審査と土地・建物を含む大学キャンパスの立地審査を行い,開設前年の12月に答申・認可というスケジュールでした。その後,社会の変化や学術の進展に大学が迅速に対応できるようにするという要請や,審査の簡素化,申請者の負担軽減の観点から,段階的に審査期間が短縮され,平成20年度審査から現在の形になっています。
 学校法人分科会の審査期間も同様に短縮されてきたところです。
 資料10は,私立大学の学校数と在学者数を大学の規模別に見たものです。私立大学577校のうち,在学者数1万人以上のいわば大規模な大学は39校,6.8%ですが,在学者数ではこの39校で全体の約40%を占めています。
 2枚目は,これを最近約10年間の経年変化で見たものです。大きくは変わっておりませんが,在学者数1,000人未満の大学の数がやや増加傾向にあります。
 資料11は,大学・短期大学の入学定員数を,東京,大阪,京都近辺の7都府県と,それ以外の40道県に分けてみたものです。赤が7都府県,青が40道県です。また,これを当該地域の18歳人口で割った場合の比率を折れ線グラフで示しています。上が東京,大阪,京都などの7都府県で,平成24年度は81.5%であるのに対し,下の40道県では38.5%と半分以下で,大都市部とそれ以外の地域とで18歳人口に対する大学・短期大学の入学定員数の割合に大きな差があることがおわかりいただけると思います。真ん中の点線は,全国の平均です。
 以上が,事務局で用意させていただいた配付資料です。
 このほか,公務のため,第1回,第2回とも御欠席の高知県知事・尾﨑正直委員から書面により御意見をいただきましたので,お手元にお配りしております。内容を少し要約して御紹介させていただきます。
「地方は今,若者の県外流出や過疎化などの問題に直面している。その中で,経済の活性化をはじめとする地域の課題に対応するには,人材の育成・確保が特に重要と考えている。大学の収容率や大学進学率では,地方と都市部との格差はまだまだある。高校生を対象にしたアンケートでも,地方では高等教育に対するニーズは高い。こうしたニーズにこたえることで,地域を支える人材の確保,若者の県外流出の防止にもつながっていくと考える。
 加えて,これからの大学には,地域貢献の観点からも大きな期待を寄せている。地方では,都市部と違い,自社で研究員や研究費を持って技術的な研究を進められる大手企業が少ない。新しい技術を生み出すために,大学の持つ知的資産を活用し,研究開発力を発揮してもらうことが必要であり,こうした大学などの知の集積が,地域の産業振興などにとって極めて重要である。
 高知県では,県内の高等教育機関と産業界で構成する産学官連携会議を設置して,産業の創出につながる共同研究を行っており,南海地震対策や医師確保など喫緊の課題解決に向けても,県内大学との連携を積極的に行っている。
 社会人教育という点でも,県の産業振興の核となる人材を育成するため,社会人を対象に,ビジネスの基礎から応用,実践までを系統的に学ぶことができる機会の提供にも力を注いでおり,講師を派遣していただくなど,大学にも大きな役割を果たしていただいている。
 全国的には,将来にわたり若者の人口減少が見込まれるが,特に地方では,大学に対し,このように多様な観点から高い期待感がある。地域振興など,大学が地域において果たす多様な役割を十分考慮した上で,設置認可の在り方を検討していただく必要があると考える。」
 以上のような内容でございます。
 なお,委員の皆様の机上にでは,前回までの配付資料集というファイルを御用意させていただいておりますので,適宜御参照ください。
 資料の説明は以上でございます。

【浦野座長】 ありがとうございました。
 ただいまの説明につきまして,何か質問があれば,先にお願いしたいと思いますが,よろしいですか。
 今の説明を繰り返すようで恐縮ですが,もう一度,資料2を見ていただきたいと思います。前回,まさにここで整理していただいたとおり,大学の質の向上のためのトータルシステムの必要性ということが,大きく認識のベースにあったと思います。先ほど大臣の御挨拶にもありましたけれども,究極のところは,世界に通用する人材を育てていきたいという観点からすると,この質の向上の直球ストライクゾーンというのは,まさに大学分科会や大学教育部会,あるいは大学院部会でやっている教育・研究の面,ここで本当に質を高めていくということがストライクゾーンで,その周辺にこの設置認可の問題,認可後の評価等を通じての質保証の問題,さらには,場合により退出に当たっての退出の基準を考えるというようなこともあると思います。
 そのような中で,本日の議論は,この主な論点の2の大学等の設置認可に関するところに絞っていきたいと考えております。それは,先ほども申しましたように,この設置認可が今回の問題の発起点であったということと,それ以外の部分については大学分科会等々でかなり議論されている問題もありますので,本日はこの設置認可に絞りたいと考えております。
 今村委員は前回御欠席でしたので,ただいまの尾﨑委員と同じように,全般的なことで御意見をまず頂戴できればと思います。

【今村委員】 では,発言をさせていただきます。大学設置認可についての専門性は足りないかもしれませんが,普段仕事をしている現場の中で気づくことから,発言をさせていただきます。
 現在私たちは,全壊した被災地に拠点を置きながら,大学進学前までの,小学生から高校生までの子どもたちを中心に指導する放課後教室を開いております。この現場で見えてくるのは,やはり今の生徒たちの進路選択の実態は,ビジョンや学ぶ意欲を持ち,自分が選択した学問領域と出会いたくて進路先を選択し,志望とおりに入学するという生徒はごくまれです。現実的には,偏差値輪切りの中で,成績や経済的な理由から考えると自分の入学できる学校はここだという条件設定から進路選択をしています。進路指導部の先生方も多大な苦労をされています。大学や学部や入試に関する情報もどんどん増えていくので,高校の先生方もどう生徒の進路選択を助言したらいいのかわからない。とはいえ高卒の就職事情も厳しい状況で,だからというわけではありませんが,やはり受け皿としての専門学校や大学という位置づけにはなる。いずれにせよ,高校の現場は,生徒たちの出口指導を,大変頑張っておられます。
 そういう事情の中,社会的に見て、どうしてもやはり大学生になるようなレベルに達していない,学力にも十分に満たない子たちも大学生になっている現実はあります。ただ,では,その子たちが日本の国にとって大学生にすべき対象ではないのではないかというと,一概にそうとも言えないのではないかとも思うわけです。高卒就職が不安定な中で,就職できない,または安定しない仕事に就くことを高卒後のキャリアとして応援すればいいのかというと,それも一概に正解かどうかわかりません。
 まさに今日議論に上がる設置後の教育の内容がどうあるべきなのかという点は最も大切な観点です。学生たちがモラトリアムな学生生活を過ごすことになるだろうけど,想定していなかった学びと出会えるいいモラトリアムの期間にできるのかどうか,だからこそそこは大学の教育力が問われてきます。もしかしたら,これまでだったら1次産業の担い手になっていたかもしれない,これまでだったら大学を卒業しなくても就けていた職業に進むかもしれない子たちにも,大学で学ぶ機会をできるだけ提供でき,一人でも多くの学生の学ぶ意欲が引き出され,入学時には想定していなかった学びの中で学生自身が右往左往することを許容する社会は強い社会に向かうと思います。だからこそ,地方と都会の格差なく,多くの生徒に大学進学のチャンスを作ることを私は希望します。
 ここのところ,中学生の家庭訪問を今繰り返している中で気づくのが,やはり経済的に格差はあるという当然のことです。お父さんが月収12万で,お母さんがパートで6万円で働いているという家庭が,現実的にはたくさんあり,その中で大学生になる,もしくは専門学校生になるということを選択する生徒がいる。当然,十分な経済力を持っていないために、進学をあきらめさせる家庭もあります。この現実の中で作っていかなければいけない制度,例えば奨学金の仕組み等ももっと整備が必要ですが,大学周辺で一人暮らしをしながらも,特に過疎地は高齢化が進んでいるので,せめて,例えば家族に何かあったときに,3時間かければ実家に帰って来られるような場所に,大学があるということも,すごく大切な基準になってきます。そういう意味では,地方の公立大学をこれからどう増やしていくかという点についても,できるだけ,もちろん予算がかかることなのでどこまでという点は議論する必要はありますが,大切な観点ではないでしょうか。
 もう一点,放課後の時間に子どもたちを見守る放課後学校を設置している立場からも少しだけコメントさせていただきます。
 教育評価の議論になるとPDCAを履行していくべきだという話になります。私たちも,年度当初にプラン,子どもたちの家庭訪問や学力レベル等から分析してプランを立てます。PDCAのPを立ててから取組を実行するんです。ただ,年度当初に決めた理想的なプランは,やってみると上手くいかないことがたくさんでてきます。成果は教育者側が設定しても,子どもたちには個別の事情もあり,常に現場のその時々の努力によって常にトライ・アンド・エラーを繰り返す必要があります。しかし,年度当初に決めたことを,決めたことだからやらなければいけないという消化試合的にやってしまうと,子どもたちにとっても,指導側にとっても,いい状態とは言えない状況になります。
 大学の先生方には,よりいい大学をつくっていっていただくための努力をし続けていただかなければいけないわけですが,PDCAの評価に,余りに行政機関のチェックが厳しく入りすぎ,現場が見えないからこそ当初計画を履行しその成果を評価するような評価基準になってしまうと,生徒や学生の顔を見ながら仕事をしている先生方の悪戦苦闘がしづらくなります。
 昨年度まで文科省のみなさんが取り組んでこられた「熟議」という取組はすばらしいと思います。どんな場でも熟議する機会が足りません。学校で,先生方自身が,常に自分たちの在り方や,子どもたちにとっての最善は何かということなど,あるべき姿と現実を熟議しながらトライ・アンド・エラーをしていけるような,現場が考える力を持って取り組んでいけるような形の評価を今後考えていくべきだと考えています。

【浦野座長】 ありがとうございました。
 今の御意見は,形式的な基準だけにとらわれずに,実質を見て,いろいろ考えていければという御意見だったと思います。
 今の御意見は,また次回以降の論点その他のところでしていくとしまして,本日は,先ほど申しましたとおり,設置基準の中身について議論をしていただければと思います。
 先ほど資料4で,今までの設置審の中で,現状についてこう考えるというようなことで事務局のほうから御紹介がありましたけれども,そこのあたりの部分から少し話に入っていければと思います。まず黒田委員のほうから,当時の分科会長としてのコメントの御説明等を含めて,御意見をお願いいたします。

【黒田副座長】 ありがとうございます。
 資料4の下段のほうに当時のコメントが書かれております。3点コメントしたわけでありますが,平成20年,ちょうど分科会長の任期終了ということがありましたので,常日ごろ感じていたことをここで書かせていただいた。このコメントというのは,文科省始まって以来のことで,分科会長がコメントを出すなんてという話もありましたが,どうしても出しておきたいということで,出させていただいたわけです。
 もともとこの学校法人分科会というのは,私立学校法に基づく私立大学審議会があったわけです。私立学校法に基づく審査について,寄附行為の変更とか,寄附行為のつくり方,そういうものも全て規定されていたわけです。これが,審議会の統合ということで,大学設置審議会と一つになって,大学設置・学校法人審議会という名称に変わったわけであります。したがって,この学校法人分科会というのは,昔の私立大学審議会であるという観点からものを判断していたわけですが,ちょうどこの時代は,事前規制から事後チェックという大転換があり,設置基準が緩和された。緩和された上に,また特区で,株式会社はこの設置基準の基準を下回るような適用除外がたくさん起きてきたわけです。したがって,そういう大学を本当に認めていいのだろうか,しかし,基準が緩和されているので認めざるを得ないという,大変苦しい立場に置かれていたわけであります。
 この学校法人という制度は,世界に冠たる、日本の私立学校をつくるための制度なんですね。これは民間が参入する法律で決められた制度で,これを利用して学校をつくられている民間企業もあるわけですね。日通とか,ソニーとか,それからトヨタも学校法人立でつくっています。これらはみんな企業が生きていますが、1つ例を挙げますと,スーパーのダイエーが流通科学大学をつくった。これが企業の中で一部局としてつくられていたら,企業の倒産と同時にこの学校も廃止になっていたはずですが,学校法人をつくり,きっちりした制度の下でつくられたから大学は生き残っている。今も立派に経営をやっておられるわけです。
 そういう意味で,この学校法人制度というのは非常にすばらしい制度です。民間の企業,民間人が公教育に参加できる唯一の道として,学校教育法の中に書き込まれているわけです。ですから,このことをしっかりと,学校法人をつくられた方は認識してくださいということなんです。
 学校法人の経営については,一番重要なのは,安定性と継続性。これは在校生のみならず,卒業生,それにまつわるいろんな関係者がいますね。その人たちに安心を与えるためにも,経営の安定性というのが重要です。だから,その辺のことはしっかりと自覚をしてください、ということです。ちょうどこの頃,いろんな不祥事が起きてきました。昔ですと,学校法人の理事長は大変厳しく審査されていました。理事長としての社会的資質があるかないか,また,それだけの自覚をされているか,そういうところまで審査していましたが,この時代はもう既にそういうことはなくして,理事長と名前を連ねてくればそのまま通るという,そういう事態になっていました。そういうことで,理事長として認めた人がいろんな不祥事を起こすということが起きてきた。ですから,これを防ぐためには,社会の信頼を得るために,まず私立大学が情報公開をしてくださいということをお願いしたわけです。財政面でもそうですし,教育面についても情報公開を推進しましょうと,そういうことを提言しております。
 そういうことで,これはガバナンスの強化ということにもなるんですが,平成16年に私立学校法を改正した。先ほど説明がありましたように,理事長の権限を強めると同時に,監査機能を強化するということ,それから評議員会の在り方,こういう管理運営面での強化を私立学校法の改正で行った。それとあわせて,大学の設置,あるいは学部の設置のときには,しっかりした数値目標,学生の確保の見通しとか,運営するための経常経費の確保の仕方,そういうものもしっかりと守ってくださいというお願いをする意味で,このコメントを出させていただきました。今,まさにこういうことが,この規制緩和のために問題になっているんだろうと思うんですね。
 今後,これをどこまで運用上で審査できるかということだろうと思います。規制を強くしていくということは,おそらくあまりあってはならない。この多様化された時代で,多様な大学が全国にできることが好ましいわけでして,一律の規制をかけるということはよくないと思います。私のところの石川県なら石川県で必要な大学というのはこうなんだと,それに合ったシステムを大学が構築できるような基準,そういうことが必要だと思いますね。ですから,そういう意味で,規制を強化するのではなく,審査の運用上でどこまでチェックができるかという,そういうことだろうと私は思っております。
 この学校法人分科会で一番問題になりましたのは,結局,設置経費の問題と経常経費の問題です。昔ですと,設置経費は,1年間預金通帳で文科省に預けて,大学審議会の認可がおりた段階で取り崩してよろしいということになっていたのですが,今はもうそういう制度がなくなっていますね。だから,最初から校舎を建て出して,認可になったらもう即使えるようにしていくという制度になっています。そういう意味で,つくる側にとっては非常に便利になっているのも確かですが,校舎は建てた,先生は集めた,それで認可がおりなかったということになると,大変なリスクを背負うことになります。
 私が分科会長をやっているときに,学部設置の段階で,1件だけ認可しなかったことがあります。これは,設置のときの資金のつくり方がルールに違反していたというものでした。あれは借入金で行ってはならないということになっているんですね。自己資金に,寄附金として取り入れてやりなさいということですが,確かに寄附金で処理はされているんですけれども,その先をたどって見ると,寄附した人がよそからお金を借りていたり,企業がお金を借りてそれで寄附している。そうなってきますと,設置認可されたと同時に返還するということになり、その大学の資金がなくなってしまう。それが余りにも見え見えでわかったものですから,これは認可できませんよということで,申請を取り下げてもらった。そういうこともあったんですけれども,そういうことが今後起きてくる可能性もあるので,その辺のことをどういうふうに審査していくか。
 これは文部科学省の権限から言うと,越権行為になるらしいんですね。法的措置できないという。1つ前のところまでは見られるんだけれども,その先まで見るのはだめなんですと。2校,3校とたくさん学校を持っているところは,そこで資金がぐるぐる回って,学校がどんどんつくられるということもあり得るわけです。だから,そういうことがわかっていても,資金を回すことで学校がつくれてしまうんですけれども,その資金がまた消えていく,そういうふうに循環している。そういうことの規制がどこまでできるかという,これは法的な問題が1つ絡んできていると私は思います。
 その辺のことをどう今後直すか。審査の手続き上のところですね。これは規制を強化しなくても,今やれる審査のありようで,それは変えられるのではないかと私は思っているんですが。

【浦野座長】 ありがとうございました。
 今,最後のところで触れていただきましたように,決して規制強化ということではなくて,審査の在り方のチェックの問題だというお話がありました。
 そういう意味で,現在の審議会の会長であります佐藤委員,何かございますでしょうか。

【佐藤委員】 ありがとうございます。では,現在設置審で審査をしている立場から,それから、私自身が二十数年前から,自分の所属している所で学部増の申請をしてきたという経験から,あるいは,規制緩和以来,事後チェックは大切だということで,認証評価の制度はできたわけですが,それを立ち上げるために,また,以後評価に,国立大学評価委員会も含めて関与してきた立場から,少しお話をさせていただきます。
 最初に自分が大学設置に関与したのは,まだ第三次,第四次全国総合開発計画のころで,多極分散型国土の形成というようなことで,大学も計画に従って配置していくというような時代でしたから,簡単に私たちが手を挙げてつくりたいと言ってもつくれなかった時代がしばらく続きました。かなり厳しかったですよね。学部増設でも,2年がかりで審査をして。先回,大臣から,認可のプロセスの中で,設備のほうがどんどん進行していくのはおかしいのではないかというような御発言もあったのですが,実際にそのときは,年次で審査をしていきますから,事前の第一段階の審査でパスしたところで建物を着工して,2年目の審査のときに教員審査,カリキュラム審査が進んで,設置認可ということになっていましたから,現状は確かに御指摘のような短縮された仕組みになっているところもあるのではないかという気がします。ただ,そのころは大変厳しくて,作業も,提出する書類も膨大なものでして,学部増とか大学増をすると,必ず申請者側のスタッフに体を壊す者が出てくるみたいなことがあったりして,大変な思いをしながらつくってきました。
 それがだんだんと緩和されてきて,今のような状況になっています。そのような中でだんだんと審査の期間が短くなってきて,準備不足があるのではないかということで,当時の設置分科会の会長であった永田先生がコメントをお出しになったと思います。現在でも,審査期間は以前と比べたら短いですから,それなりに申請者への負担が軽減されているということはあっても,やはり審査をしていくと,是正意見をたくさんつけなければならないとか,改善意見をたくさんつけなければならないというような申請が増えてきたというのも事実だと思います。それが余りにも多い場合には,早期の不可や不認可も答申として出して参りましたし,また,やりとりの中で,警告という制度も使って,警告をしてそれが改善されなければ不認可ですよというように,何重にもステップを踏んでやってきております。そういう意味では,準備不足のところをいかにしてきちんとした大学として出発をさせることができるかということでは,かなり努力がなされていると思っています。
 今日は,審査基準,審査体制の在り方を中心にということですが,今の設置審議会の審査に実際にかかわっている委員,専門委員たちの意見から言うと,もう少し時間をかけてきちんと審査をする体制にしたほうがいいのではないか。以前のように,ものすごく厳しかった時の状況まで戻るということはできないにしても,もう少し時間をかけて審査ができるような形にするのが,当面,大臣が御指摘になるようなことに対する解決になるのではないかと感じております。
 質の問題について言えば,やはり先ほど黒田委員のお話にあったように,かなり多くの人たちが進学をするようになってきました。また,冒頭に今村委員もお触れになったように,高校を出た後,大学に受けとめてもらって育ててもらわなければ,という社会の要請も含めて考えた場合に,基本的には,大学としてのありようについてはきちんと審査をしていく。だけれども,それと同時に,多様な学生を受け入れる多様なプログラムが成立するような審査をしていくということが,今の段階では必要ではないかと思っています。

【浦野座長】 今,審査基準のところ,あるいは審査プロセス,スケジュールといいますか,そういったところの過去の反省も踏まえて,黒田委員と佐藤委員から御意見を頂戴しましたが,ここからは意見交換ということで,どなたでも結構でございます。
 では,林委員。

【林委員】 資料3の2(1)審査基準の在り方のマル2社会的ニーズへの対応の観点について,前回,こういったことが必要であろうと御提案申し上げたので,ここで整理されている事についてもう少しお話をさせていただきたいと思います。
 第1回目の検討会では,多くの委員の方が,社会人教育,そしてリカレント教育の必要について御発言をなさっていました。これは、基礎自治体で仕事をさせていただいている私としては本当にうれしいことでして,これからの地域社会の活性化を考えると,大学と地域との協働はとても大事です。具体的な例を申し上げますと,横浜では,現在,保育所待機児童ゼロという目標を掲げて政策を進めているのですが,市内にある慶應義塾大学と横浜国立大学の敷地内に,地域貢献の視点も踏まえて,保育所を新設していただきました。これが大変な人気です。そして,国からの御支援もいただいた結果,待機児童は当時の全国ワーストワンの1,552人から179人まで88%も減らすことができたのですが,こういった大学の御協力が非常に大きかったのです。
 毎年4,000~5,000人規模で入所の希望者が増えておりますので,当然,保育士さんも必要になってまいります。また,数を増やして受け入れたとしても保育の質はどうだということになってきます。今,保育士さんでさえ,御自身が結婚なさってお子さんを持たれたら,その後職場復帰できないという問題もございます。加えて,最近は保育士さんの保育のスキルは,非常に高度なものが要求されてきています。今,保育園は,地域の子育て支援拠点としての機能,お子さんを預けていない方への育児の御相談にも乗るような機能も併せ持っています。また、養育困難な状況のお子さんもお預かりします。そうしますと,保育士さんも,ソーシャルワークやカウンセリングといったスキルが求められる場合も出てまいります。
 こういった時,大学の役割が非常に大切になってまいります。横浜市内のある短大では,卒業生を対象に復職支援講座を開設していただき,保育士さんの再研修に御協力いただいています。このように地域の課題解決に対して,大学の知見が非常に役立っております。
 私どもとしては,こうした地域貢献の視点をぜひ審査基準に入れていただきたいとお願いしたのですが,例えば,これを認可の視点にする場合には,どういう手続きで行えばいいのか考えてみました。
 まず,大学側が設置予定の自治体に対して,地域貢献に関する内容について話し合いの申し出を行っていただく。大学が,ここに設置したいという段階で,当該の自治体に御相談に来ていただきたいのです。そして,大学からは自治体にどういうことをしてほしいのか,自治体も大学に対してどういうことをしてほしいのか,お互いに期待することを大学側と自治体の間でよく話し合いたいと思います。また,必要に応じて,地域の経済界とも話し合いをしたらどうかと思います。
 そして,審査の際ですが,書類上の審査とあわせまして,当該自治体へのヒアリングを行っていただきたい。今は,設置にあたっては,文部科学省と大学が話をし,大学が設置される自治体との話し合いは全くない状態です。その際,地域社会のニーズや要望をよく御存知の審査委員がその役割を担っていただければ意思疎通はスムーズではないのか。このような提案をしたいと思います。
 こういった手続きを慎重に行うことを考えますと,今の審査に要する期間についてはやはり大変短いと思いますので,お話が出ましたが,慎重に時間をかけて審査をなさったほうがよろしいのではないかと思います。
 以上でございます。

【浦野座長】 田中大臣、どうぞ。

【田中大臣】 ただいま,林委員から,自治体がコミットしていくほうが,より実務的にファンクショナルになるという御指摘がありましたが,全くそのとおりだと思います。
 私は,それ以前の御議論についても申し上げたいと思うのですけれども,先ほど黒田副座長がおっしゃったこと,それから、佐藤委員がおっしゃったこと,今までの設置審のありようの中で,黒田先生が大変はっきりおっしゃったと思うのですけれども,設置を求めている側が借入金によって寄附金を賄っている実例があるというふうなこともおっしゃいました。そういうことはいろいろあると思うんですが,設置審で,期間が長い短いはあるにしても,十二分にいろいろと議論はされていると思いますが,今回のケースを見ていて,私の問題意識は全く素朴なことで,おかしいと思ったことを申し上げます。
 それは,設置認可が10月の末におりて,翌年の4月には開校すると。こういうことであると,認可を得るために借入金が要るとは思いませんけれども,やっぱり泥縄的に運動場をつくる,体育館をつくる,校舎をつくる,先生もそろえる,全部そろえちゃったのに,何で許可が出ないのかという話になりかねないわけですから,結論から言えば,認可が出た後,1年とか1年半とか,それだけの猶予を持ってやらないと。大学に入るときは,私たちは1月に試験を受けたりして4月に入る。受験生の場合,そうでした。しかし,大学をつくるときは,いろいろと詳しく,よくあらゆる面から立体的に調査なさった結果でしょうけれども,最後にドタバタっといく感じがするわけで,その審査が狙っていることと実際に起こることに齟齬や問題が生じてくることもあるというふうに思います。そういうふうに,認可後,どのぐらいの期間を設けるかということについても,今までも多分御議論なさったと思いますが,私は外部から見ていて,これが問題を起こしている原因ではないのかなと思ったりもしておりますが,いかがでしょうか。

【浦野座長】 今の御議論の中で,ちょっと整理しておきたいと思います。
 まず,設置のスケジュールということについては,皆さん方の御意見としては,少し短すぎて,なかなかきちんとした見極めがつかないという御意見だったと思います。
 それから、尾﨑委員の御意見も含めて,今の林委員の意見とあわせて,やはり地域の視点というのを審査基準,あるいは審査の体制の中に組み込んでいただきたいというのも,かなり大きな声になってきたかと思います。
 それでは,今の大臣の御質問に対して何か。

【黒田副座長】 大臣の言われたとおり,泥縄式に物事をするから,そういう資金ショートも起きるということですけれども。

【田中大臣】 言葉が悪くて申し訳ありません。

【黒田副座長】 審査基準で,年次計画で整備していいという制度もできてきているわけですね。開校時は1年生しかいないわけですから,4年間できっちり順次を追って整備をしていくという,その整備の在り方,スケジュールを審査する,そういう制度も取り入れられていますので,認可のときにそう窮屈な思いをすることは,今はなくなってきていると思います。

【田中大臣】 なるほど。

【黒田副座長】 ただ,10月に認可で,4月にもう新入生が入るという,その期間については,これはちょっと短いような気はします。募集に間に合わないと思いますね。これをどういうふうにずらすか。
 確かに,審査する期間というのは短いんですね。短い間で,委員の皆さんはもうすごい苦労をして,自分の本職の仕事を後回しにしてまでやらないと追いつかないくらいの量なんです。そういう量をこなしながら審査しているわけですから,それをもう少し余裕のある審査期間がつくれれば,私はいいんだろうと思っていますが。

【浦野座長】 それでは,今の観点も踏まえて,先ほど黒田委員のほうからも情報の公開のこととか,経常経費,設置経費のこと等の裏側の話もあったわけですが,そのあたり,佐野委員は専門のお立場からいかがでしょうか。

【佐野委員】 まず全体的なお話をさせていただきますと,規制緩和の中で,やっぱりたがの締め方と緩め方が,ちょっと以前とは変わってしまったと。社会のニーズに合わせた伸び代というのは当然必要なんですけれども,その伸び代が,従前の伸び代以上に,つまり,決められた一定のルールから外れてまでも,あたかも伸びきったゴムみたいに,どこまでもいっちゃうというようなイメージさえ持つほどです。規制緩和の中で,やはり規制強化という方向は好ましくないのは重々私も認識していますけれども,やはり,そのたがの締め方も少しきちんとしたほうがいいのかなと思います。
 例えば,今座長から御紹介があったように,公認会計士という立場からですと,設置認可に関しては,認可が必要なときには,財産目録の監査に関与させていただきます。ところが,財産目録の監査をするにあたって,財産目録をどのようにつくりなさいというルールが明確化されていない。となりますと,つくるほうも,先例を見たり,それから,担当官と相談しながら,こうしようああしようということで,無駄なといいますか,余分な時間も取ってしまう。また,監査をするほうも,きちんとしたフレームがない中での監査を強いられますので,意見について責任を持ちにくい状況に追いやられてしまうといったことがございます。
 先ほど副座長から御紹介があった寄附金などの問題についても,監査の立場で見ますと,御承知の方も多かろうかと思いますけれど,今,不正監査というようなことも取り沙汰されておりますが,やはり今見える財産目録の残高について監査をさせていただいている立場から言いますと,その原資の出所についてどこまでさかのぼれるか,この辺も非常に問題のあるところです。今,私たち公認会計士という立場から設置認可にかかわるとすれば,財産目録の点に尽きているわけですけれども,その辺でさえ作成のルールが明確化されていないということがございます。したがって,規制強化ということではなくて,この財産目録に限らず,申請書類について,わかりやすい,可視化されたルールづくりというのがやはり必要ではないかなと思います。
 これは,多分,当局等の方々は,先ほども資料が示され,詳細な条文に表されているとおり,ここを読んで,こういうふうになりますということをおっしゃるのだろうと思いますけれども,もう少しこれをわかりやすい,つくりやすい,可視化できる明確なルールにして見せていただければ,作成者側にとっても期間の短縮につながる。短縮せよと言っている意味ではなくて,今の審査期間7カ月は,御紹介があったように,非常にハードなスケジュールです。これは十分に期間をとっていただいた上で,無駄な労力を使わずに,先ほど座長からストライクゾーンの話がありましたが,ストライクゾーンは見えているわけですから,そこに向かって各人がどういった努力をすればより効果的に設置認可に結びつくか,社会のニーズに合うか,そういった大学をつくれるか,そこに全精力を傾注できるのだと思います。
 平成4年ないし6年の審査スケジュール表が資料9に対比型で出ておりますけれども,それに比べると,今は平成4年から6年の当時の開設前々年の4月からの部分が,見えないところでの相談事項になっているようにお見受けします。これをもとに戻すところまでいくかどうかは検討の余地があるんですけれども,もう少しルールをきちんと可視化して,わかりやすくして,この審査期間を7カ月でやるというだけではなくて,長いスパンをとって順次学校が準備をしているということが見えるようにする。これを今回の設置認可に関する問題点の1つの論点にしていただければと思っております。
 以上です。

【浦野座長】 今の意見に対して,事務局のほうにもお伺いしたいんですが,今の実際に申請する前の事前相談の実態といいますか,その期間や件数,その辺はいかがでしょうか。

【岡本大学設置室長】 事前相談につきましては,特に明確に手続きとして定まったものではありませんけれども,申請書類をつくる際に,書類自体も非常に膨大になりますので,その作成の仕方から,どういう書き方がいいとかといったことも含めて,大学から相談を受け付けてやっております。
 大体どのくらい前から来るかということにつきましては,本当に大学によってまちまちでございます。ただ,一般的には,大学を全く新しくつくるというケースにつきましては,2年前くらいから御相談に来られるケースが多いかなと思います。学部等につきましては,1年前くらいから御相談に来られるということが多いかなとは思っております。

【浦野座長】 そうすると,実態としても,実質1年8カ月とか2年ぐらいかけている例が多いということですね。そのことも含めて,ここは議論の1つの対象になってくると思います。
 北山委員,どうぞ。

【北山委員】 佐野委員のおっしゃったことと若干関連するのですが,既に設置審委員の皆さんが課題として認識していること,文科省が課題として認識している,特に設置基準や設置審査のところで不明確な規定であるとか,抽象的な規定の運用という記載が,設置のところに関してはございます。
 資料7に細かな条文が書いてあるんですが,具体的に明確化すべきファジーな表現がどの部分なのか。抽象的な規定の運用ということになりますと,幅があり,一体どこに物差しを持っていけばいいのかというのがはっきりしないというところもあるのだろうと思うんですけれども,やはり最終的には文書に規定として落とし込まなければいけないものでしょうから,その辺のことを,今日でなくてもいいのですが,今課題として挙がって取り組んでおられるところはどこがファジーで問題なのかという点を教えていただけると,理解がしやすいんですが。

【浦野座長】 大変いい御指摘をいただいたと思います。この設置基準も法令でしょうけれども,いわゆる政令,省令といいますか,そういったたぐいでの決め方というのはどのようなものがあるのか等々,ちょっと御説明いただければと思います。

【板東高等教育局長】 設置基準自体は省令でございます。かつては,そのさらに下に法令ではない形で,審議会のほうで内規をつくり,いろいろ解釈,運用基準のようなものを定めていたということはございましたけれども,先ほどお話をさせていただきましたように,規制改革のときに,そういうことは審議会が定めるのではなくて,むしろ審査内規的なものは精選をして,必要があれば告示以上の法令にしていくべきではないかということがございまして,そのときにかなり絞り込んだという状況がございました。
 解釈の基準としても,今でも通用しているものも若干ございますけれども,ちょっと不明確になっている部分や,実際に担当が困っている部分の例を挙げさせていただきますと,例えば教員の数,専任教員は何人置かなければいけないというのは大学設置基準の中で数量的に定められておりますが,では,専任教員というのは一体どういう人を専任というのかということについては,かつて審査内規などでかなり細かく決めてあったりしたことはございましたけれども,それが今はなくなっているということもあり,これは専任というにはかなり怪しいのではないかというような実態の方が専任としてカウントされているというようなケースも出てきているということはございます。我々としても,そういった実際の運用の中で吟味していくと,もう少し明確にしなくてはいけない部分というのが多々あるのではないかということで,今,実は課題の整理をさせていただいているところでございます。

【浦野座長】 今,北山委員のおっしゃったこと,それから局長の今のお答えも含めて,そこの整理をできるだけ早くやっていただいて,それは佐藤会長のほうも現在の審議会の立場でかかわっていただいて,やっていただければと思います。
 それで,もちろん旧内規を全て復活させるとか,そういうお話ではないでしょうけれども,やはり旧内規で落としすぎたところがあれば,それは率直に御意見等を言っていただいて固めていければなと,そこの部分については思います。
 それでは,そのほかの御意見はいかがでしょうか。
 相川委員。

【相川委員】 受験する生徒の立場から考えると,高校に入学して,将来自分がどういう方向に進みたいかということを考えたときに,通常,高校生を見ていると,2年生の夏ごろ,早い子であればもっとその前から,自分の目標,目的というのを考えていると思うのですけれども,それに合った大学が自分の周りにあるのか。さっき今村委員から,3時間の通学というお話がありましたけれども,やはり地元にある大学で自分の夢が達成できる大学があるのかないのか,そして,もしそういう動きが,今,申請で上がっているとすれば,それはいつできるのだろうかという,そういう情報を子どもたちも保護者もまず集めると思うんですね。そういう状況の中で,このスケジュールが7カ月ぐらいでできるのであれば,こういうふうになるのかなという,子どもたちなりの漠然としたステップを考えると思います。
 ですから,そこのところで,認可がおりてから,いわゆる10月の認可で4月の開学というのではなくても,認可がおりてから1年後ないし2年後に開学するということを明確にしておいてもらうことで,子どもは次の準備ができるのではないかなと思います。今の流れでいくと,認可ができれば,すぐ4月から入れるというふうに子どもたちは思うわけで,そこのところの情報を。前回も情報を開示してほしいということをお願いしました。7カ月で作業をしてというのは,とても作業量としても膨大なものなのではないかなというように思います。そこに落とし穴があったりしてはいけないし,前回も触れましたけれども,入った後に学校がなくなるということが,そこで学ぶ子どもたちにとっては一番あってはならないことなので,その辺の慎重な議論の期間というのは必要ではないかなと感じております。
 ですから,財政だとか,設計の基準だとか,当然,安全の基準だとか,いろいろな観点で審議をしていただいていると思うんですけれども,やっぱり学校建設ありきではなくて,ちゃんとしたルールにのっとって,その後のこと,大臣がおっしゃるように,子どもたちが自分の夢をきちんと持って,社会に通用する人間になれるように大学の場で学んでいくとすれば,大学がなくなるというのが一番困るわけで,そういうところを考えると,審査期間の短縮による弊害が,リスクのない形で検討していただきたいなと思っております。

【浦野座長】 今の相川委員の話の中で出てきたことで,申請中の情報公開といいますか,それをどんな形でやるのか。大学のほうは,マーケティングで高校に行くわけですから,「こんな大学をつくるとしたら,皆さん方はいかがですか」と言いますよね。あるいは,林委員がおっしゃるように,地方自治体と相談が始まれば,それも事前にかなりわかるようなことも含めて,今現在は,申請中の情報の公開につてはどうなっているんでしょうか。

【岡本大学設置室長】 申請中の場合は,申請中であるということをきちんと明示をしていただいた上で,広報活動を行っていただくことは認めております。ただし,学生の募集を開始することについては,認めておりません。

【浦野座長】 そうすると,そこのところは,うまく情報公開につなげるようにしていただいたほうが,地域や高校生にとって選択肢の幅が広がるということも含めて,決して意味は小さくはないというような気もするので,その辺も1つの検討課題でしょうかね。
 ほかはいかがでしょうか。
 及川委員。

【及川委員】 先ほど北山委員がファジーな部分のことについて御質問されましたが,私もお伺いしたかったことで,それに対して,板東局長がお答えになり,そのことについては理解できました。
 そのことに重なってしまうのですけれども,意見を述べさせていただきます。資料7の大学設置基準の2ページ,第14条の教授の資格というところに,教授となることのできる者は,次の各号のいずれかに該当し,かつ,大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者とするとあり,その次に1から6まであって,かつ,教育上の能力を有すると認められるというふうになっています。1から6まで出ている中に,研究業績というようなことが出ていますけれども,そういったものについては見えやすいのだろうと思います。しかし,大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有するという,この部分はなかなか見えにくいだろうと思います。
 ただ,大学改革実行プランの中でも,課題解決型の能動的な学習であるとか,主体的な学習といったような形での質的転換を求めているということがありますので,こういった,数値基準としては見えにくいけれども,しかし質確保の上では重要な部分だと思いますので,そういったところの整理も是非していただきたいと思いました。

【浦野座長】 事務局のほうで,何か,今のことに関して。

【岡本大学設置室長】 大学の教育を担当するにふさわしい教育上の能力ということにつきましては,統一的というか,数値的な基準を設けるというのは,これは難しいかなと思っておりますけれども,どういうふうに見ているかということにつきましては,過去の経歴として大学等で教育経験があるといったようなことがあれば,そういったことについては勘案をしていく。全くそういうことがない者については,本当にできるのかどうかということについて,例えば,ほかの教育上の業績がないかといったことを,申請者のほうに再度求めるといったようなことはございます。

【浦野座長】 それでは,私も座長の立場を離れて,個人的に意見を申し上げたいと思います。
 この設置基準のことでいくと,私がやはり気になるのは,法人分科会に属していて,大学の法人の経営者の方々は,リスクシナリオを全く書かないのです。やはり企業であれば,当然,松竹梅がありまして,竹コースでいくのですかというようなことで,一応投資の基準も決まるわけですが。しかし,やはり歯止めとして,リスクをとったときに,どこまで資本は毀損していくの,でもそれで企業の足腰が立たなくなるようなところまでいかないよねというようなことを含めて考えるわけです。
 そうしますと,「学生の定員確保」とか「社会的ニーズ」といったことについても,やはりうまくいかなかったときのリスクシナリオとして,どこまでなのかと。例えば,定員が6割に満たないときに,固定費のカバー等々を含めてどうなんだといったようなことが,やはり設置のときからきちんと議論されていれば,先ほど相川委員がおっしゃったように,悲しい思いをする大学生が減るだろうとは思います。その上で,さらに退出のルールということはあるでしょうけれども,まず認可のときに,発展シナリオだけでいってしまうというのは,どう考えても私には解せないということだけ問題提起をさせていただきます。
 あと,いかがでしょうか。どんな観点でも結構です。
 では,佐藤委員,お願いします。

【佐藤委員】 これは審議会の立場というより,一大学人として過去を振り返ってみると,審査体制の在り方について,昔は,設置審の中に計画分科会とか基準分科会などがあり,きちんと枠組みを見るという機能があったと思います。それが今はないのではないかと。そういったことも検討してよいのでは,という気がします。
 それから、もう1点は,審査体制というか,審査をする委員の構成について,メディアを通しての議論など,いろいろあるわけですが,これについても,ずっと過去何十年間か,大学を取り囲む環境は変わったけれども,選出の母体みたいなものは,同じような選出の形にしているのではないかという気がしておりまして,その辺も一度検討して,社会からの批判に耐えるような形を考えたらどうかと思っています。

【浦野座長】 今の委員の構成については,法的にといいますか,省令なのか何なのか,その辺のレベルはいかがでしょうか。

【岡本大学設置室長】 委員の構成につきましては,現在,大学設置・学校法人審議会令という政令の中で基本的には定められております。その中で,委員につきましては,正委員,特別委員,専門委員という3種類の委員が設けられております。また,委員の属性といいますか,その選出母体等につきましては,規定がございます学校法人分科会の関係でございまして,こちらは一定割合が私立学校関係者で占められなければならないということが規定されております。大学設置分科会につきましては,同様の規定はございません。

【浦野座長】 そうしますと,その辺も,今,佐藤委員のおっしゃったような視点というのも1つあるかなと思いますので,検討課題としたいと思います。
 そのほか,いかがでしょうか。
 もし設置基準について,今,これ以上のことがなければ,ほかの論点にも入っていけるかと思いますが,よろしいですか。今日はかなりこの設置基準のことについて御意見をいただきましたので,事務局のほうできちんと整理をしていただいて,次回に生かしていければと思います。それでは,設置基準のところはよろしいですかね。
 そうしましたら,もう一回,資料2に戻っていただいて,論点ということで,トータルシステムの必要性とか,あるいは,設置後の評価を通じての質保証とか,全般についてで結構でございますので,御意見等ございましたら,お願いいたします。どなたからでも結構です。
 相川委員。

【相川委員】 少し全般的なことといいますか,学部・学科の課題といいますか,先ほど林委員のほうからも,地方での取組ということで少しお話もありました。やはり都市部と地方の差というものはあるようにも思います。それは,地方での医師不足ということで,医師確保のための新設とか定員増に対する考え方も当然出てくるでしょうし,都市部では,先ほど学童保育の部分でお話がありましたように,結局,地方ではそれほど待機児童がないという状況があったとしても,都市部ではまだまだ待機児童があるのだと,そういうことによって保育士の不足が叫ばれているということ,そしてまた,介護など,児童福祉や障害者福祉,その福祉の分野は,もう全国的な傾向で人材が不足しているというようなところだとか,そういう部分というのは,文科省の中だけではなくて,いわゆる工業の分野でも,他の産業の分野でも,いろいろな観点で不足しているところというのはあるように思います。そういった部分を考えると,いわゆる関係省庁との連携というのは,当然,情報を取り合いながらしていかなければいけないのではないかなと思っております。
 そしてまた,学生の負担ということを考えると,先ほども触れましたけれども,進学したいけれども近くに専門的な分野の大学がないということで,やはり近くに大学があれば経済的理由で通えるというところがあって,進学への財政サポートはあっても,地元にあればさらに子どもたちは通えるという部分,そんなことから考えると,本当に地方にも専門的な育成の観点から,学部の設置というのは望まれるのだろうなと。そういうところが,自治体とどう話し合っていくかというところにもつながっていくのかなとも思っております。
 やはり地域に求められているもののニーズ把握というのは,すごく大事ではないかなと思っておりますし,当然,自治体は,その自治体の目指す地域づくりというのがあるわけですから,それに合った学部を申請しよう,申請したいと思うわけです。ですから,そういう部分での,先ほどの自治体へのヒアリングだとか,学生確保という部分では,事前のリサーチ,県民・市民のいろいろな要望がどれくらいあるのかとか,やはりそういう部分は必要ではないかなという気がします。事前の審査では,学生確保の見通しに関する基準というのは明確に置かれているのですか。その辺はどうなのかなと。学生を確保するための基準の数値みたいなものというのは具体的にあるのかなという疑問があるのですが。
 間違っていたらごめんなさい。前に学生確保の見通しに関する基準が置かれていたけれども,廃止されて,そして,今どうかといったら,少子化傾向にいく中で,長期的に安定した学生を確保するために十分な見通しが示されているのかどうかというのが何か合わない気がするのですが,その辺はどうなんでしょう。

【岡本大学設置室長】 学生確保の見通しにつきましては,資料8で御説明をしたとおりでございまして,平成15年の規制緩和の前につきましては,2枚目の一番下にございますが,長期的に安定した学生の確保について,十分な見通しが示されているということは,審議会の内規としてでございますけれども,基準として定められておりました。ただ,こちらにつきましては,数値的な基準ということではございませんでした。
 これにつきましては,規制緩和の準則化に際して,内容を精選するということから,結論といたしましては,現在の認可基準の中には盛り込まれていないというところでございます。

【浦野座長】 今の相川委員の前段のほうの話で,私も普段から思っているのは,各省庁との連携といいますか,この辺が今の設置認可の過程の中ではないと思うんですけれども。逆を言いますと,各省庁で必要なものは,大学でなくても,大学校という形でそれぞれ,例えば,防衛大学校にしても,気象大学校にしても,水産大学校にしてもありますよね。そういった形で,地域のニーズなり,産業のニーズというのは拾っていけるという考え方があります。現実には,防衛大学校にしても,気象大学校にしても,もう大学相当のレベルということで,学士号の授与とか,そういったことも行われていると聞くわけですけれども,その辺,改めて素朴な疑問ですが,なぜ大学なのかといったところと,大学校との兼ね合いといいますか,今の相川委員の疑問にもつながると思いますので,もし何か御説明があればと思います。

【板東高等教育局長】 省庁の大学校は,基本的には各省庁の行政目的や,防衛大学校などですと,例えば自衛官であったり,あるいは防衛医大では自衛隊の病院の医師であったり,そういう自らの省庁で必要な人材を育成するか,また,省庁として採用するのではないけれども,必要な分野の中核になるような人材育成等を行うための機関ということでつくられてきています。ただ,その中身については大学教育と同等であると評価できるというものがかなりあるということで,それは大学評価・学位授与機構において審査をして学位授与できるという仕組みにしております。
 各省庁の大学校というのは,人材育成としては非常に数が少ない育成をしておりますけれども,職業能力開発関係ですと,かなり幅広いシステムをお持ちになっているというような状況がございます。中教審の大学分科会などでも議論されておりますように,そのあたりの大学校と大学との接続や単位互換なども,もう少し道を開いたほうがいいのではないかということについても,今,議論していただいているというところでございます。
 各省庁との連携で申しますと,特に最近,先ほど御指摘がございました医師不足の問題につきましては,どれぐらいの需給を,どういう形で大学の定員を増やして不足のところを補っていったらいいかということについて,厚労省と完全に連携をとった形でやらせていただいているという状況でございます。

【浦野座長】 今御紹介ありましたように,例えば,職業訓練大学校とか,あるいは,各自治体でいきますと,農業大学校などは,数はあるわけです。
 そういった視点で,今村委員が冒頭おっしゃっていた,高校生がより高いレベルで――あくまで相対的レベルでいけば――学んでいける場所としては,大学校と大学の違いというのは今御説明があったようなことですけれども,そこは特に大学ということにこだわらなくてもというようなお考えがあるのか。どうでしょうか,今村委員。

【今村委員】 明快に回答できないかもしれませんが,そこでされる教育内容がどういったものかというところだと思います。もともと確固たる知識になっているものを細分化して教える専門学校的な学びの場というところに当てはめるべきなのではないかということであれば,それも実用性はあるのかなとは思うのですけれども,やはり大学生活4年間の中で,もちろん,学ぶ力が必要なので,どう初年次教育でモチベーションを上げていくのかという前提は必要になりますが,大学生になることで,本当は想定していなかった可能性が開けている人も中にはいるのも事実だと思います。また,今,地方の中で見えているニーズだけにこたえるという議論をなさってはないと思うのですけれども,今見えているニーズが,本当に10年後,20年後もこの地域にとって必要な人材育成の職業なのかというところは,一致するかどうか,分かりませんが。
 個人的な話ですが,今,水産業の再生にかかわっているのですけれど,ほとんど大卒の人がいない方々の中で,やはりもっと勉強しておけばよかったと言っている方々がたくさんいらっしゃって,その方々にとっては,水産業の担い手になる,だけども,もっと豊かに学ぶ機会が自分にあったら,今,復興してもらえなかった浜でも,自分で新しい販路を拡大できる力があったかもしれないとか。もちろん,インターネットを通じて学んでいる方々はたくさんいますが。要は,大学教育の価値というのは,これが学べるようになるよというスキルを明確化したもの以上のものがあると思うので,そこのところの可能性をどう見るかというところかと思います。

【浦野座長】 今の御意見は私も大変よくわかります。やはり本当に今,火急に必要だといった場合に,例えば,日本の農業を考えたときに,今の農学部ではほとんど役に立たないです。そういう意味でいくと,もう大学校をつくってしまおうというような動きのほうが早かったりするので,私は,この大学の価値というのは,そういうものとは別角度の見解も1つはあるのかなと思います。ただ,現実に,前回御紹介いただいたような新設の大学を見ていくと,やはりそういう職業特化的な部分が強く見られるので,逆に言うと,その辺の関係性が今非常にわかりにくくなってしまっている。だから,今村委員がおっしゃるような意味での大学というのは,少しその職業特化のものとは違うのかなとは思っているところです。
 佐藤委員,どうぞ。

【佐藤委員】 浦野委員のおっしゃっていたとおりなんでしょうけれども,最近,私たちは中教審でも,学生のモビリティーというようなことを議論しているわけですが,それは大学間だけではなくて,例えば,こういう省庁の大学校との間でも,モビリティーが本来はあってもいいことかもしれません。
 アメリカでは,アナポリス(アメリカ海軍兵学校)だとか,ウエストポイント(アメリカ陸軍士官学校)という学校は,ハイヤー・エデュケーションとしてのアクレディテーションはきちんと受けていると理解をしています。そういう意味では,省庁立の大学校も,やはり評価を受ける,ハイヤー・エデュケーションの領域にあるという認証評価を受けるというような形が何か措置できるとよいのではないでしょうか。
 防衛大学校や防衛医科大学校の場合は,かなり以前から,大学評価・学位授与機構を通して,大学と同じレベルと認められているけれども,では7年に一度の認証評価を受けているかといったら,それはまた別問題になっているのではないでしょうか。
 これは,学生が自分で学んだものを持って編入や転学など移動をしていくためにも,研究してみてはいかがでしょうか。

【浦野座長】 そのほか,いかがでしょうか。佐野委員。

【佐野委員】 本日の主な論点の3番目に関係する,設置認可以外ということで,私は設置認可後のことを2点,意見を申し上げたいと思うんですが。
 1つは,16年の私学法の改正でガバナンス機能の強化をされた。これは十分,法文上はそうです。しかしながら,それが7年,8年たった今,十分機能しているかというところに焦点を当てますと,いかがなものかと。例えば,監事機能強化といいますか,監事機能が明確になったとか,理事者の機能が明確になったとかになっても,それは条文の上であって,実はどうなのかなと。そういったところが,安易に学校分野へ進出してくるところにつながっているのではないかと思います。やはりこの私学法の精神の徹底というのは欠かせない。
 そこに関連いたしまして,1つは,私学法で,先ほど来,情報公開が徹底されているというようなお話もありましたが,今ある私学法では,法的利害関係のある,権利義務関係のある者に対する閲覧開示義務が課せられているだけであって,いわゆる社会公開とは違う。ただ,これは指導上,もちろん,ホームページ等への掲載を促しているということはありますけれども,やはりその辺は,まだこの学校という分野においては,これだけ公的な性格の強い機関でありながら,情報公開に遅れがあるのではないかなと思っております。
 それと,設置認可にあたっては,いろいろ物的財産についても,また教育分野についても,専門的な方々のチェックがされているわけですけれども,設置後になりますと,学校がいざ運転し始めるとなると,その後のことにつきましては,運営に関しては,運営調査をして助言をするというシステムが構築されていますけれども,例えば,財産規模についてどうかというと,全く歯止めがない。設置認可時に十分な設備基準を満たしていたとしても,その後,それを処分されてしまえば,少なくとも設置認可時には必要だと言われた資産がなくなっているということがまかり通っているというのも現実だと思います。
 この辺のところ,いろんな事業計画を実行していくには,財政基盤がないことにはできない,いい教育もできないということを考えると,やはりその辺の設置認可後の財産基盤についての一定の処分歯止めのようなものも考えないと,認可のときには厳しくしても,その後のことは,財産については学校任せということでは,これでは質の高い教育を保証することができないのではないかと思っております。
 ということで,設置後の認可後の資産処分問題,それと情報公開の在り方,これについて,前回も申し上げましたけれども,財務情報の公開も含めて,もう少し効果の高い見せ方,また,見せる道具のつくり方などを少し検討していただければと思っております。
 以上です。

【浦野座長】 私も全く佐野委員と同じ意見でございまして,もう少し言葉をかえていくと,メルクマールになるような経営指標とか,あるいは,学生の募集の状態についても,経年を見ていくと傾向値が出てきたりとか,そういう危うい傾向というものは早目早目に見て取れるような基準があればいいかなと思うんですね。
 産業界ですと,上場している企業は,当然,それなりの厳しい規制もありますし,銀行等ではもっと厳しくBIS規制みたいなことでありますし,そんなことも大学の中にあっていいのかなというようなことで,私も今の佐野委員の意見には大賛成でございます。

【田中大臣】 関連して申し上げたいと思います。今は設置認可後の資産の処分についておっしゃったのですが,他方,設置認可後に資産を,不動産を増やしていく。実際に私がよくわかっているのは,軽井沢のほうに,これは学校なのか不動産屋かと思うほどたくさん土地を持っているところ。アートでも何でもないようなところが能舞台をつくったり,すごい美術品を購入したり。こういうことについても,やはり情報も公開しながら,同時に,必要性についてチェックしていくということも必要ではないかと思います。

【浦野座長】  そのほか,いかがでしょうか。
 なければ,次回以降に向けての課題は,今日,相当出されましたので,それを整理した上で,次回のこともいろいろ考えていきたいと思っております。事務局から,その辺の話も連絡事項としてあると思いますが,最後に,今日全体を通して,田中大臣から,感想等いただけますでしょうか。

【田中大臣】 暮れのお忙しいところ,各分野の先生方がこれだけ御熱心に御参集くださり,そしてまた傍聴の皆様方,メディアの方もそうですが,これだけ関心を持っていただいていることを大変ありがたいと思っております。
 先ほどまで雪の中で泳ぎ回っておりましたが,はせ参じてきて,頭もクリアになり整理されて,本当にありがたいと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。

【浦野座長】 それでは,事務局のほうから連絡事項をお願いいたします。

【浅田高等教育企画課長】 今日はどうもありがとうございました。
 次回の日程につきましても,委員の皆様方,それから大臣の御日程と調整させていただいた上で,御連絡させていただきます。

【浦野座長】 それでは,時間前でございますが,これで終了したいと思います。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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