資料3 モデル・コアカリキュラムの改訂について(案)

1 改訂に関する基本的な考え方

1)学生と教員が情報を共有できる分かりやすいものとする。
2)現行のカリキュラムとの対比が容易で、変更箇所が明確なものにする。
3)SBO(Specific Behavioral Objective)表記の原則は、「何をすればよいのか」が学生に直接伝わるものとする。
例えば「そのまま試験問題として使用できる」具体性を持つ必要がある。
4)現カリキュラムでは各コース・ユニットを「なぜ」学習するのか、その意義が記載されていない。
これを補うために「薬剤師として求められる基本的な資質」(以下「資質」と略)をカリキュラム最初に明示する。
5)各分野のGIO(General Instructional Objective)を、「資質」部分とリンクする内容に書き直す。
6)各分野のGIOを達成するために必要なSBOsを列挙する。
7)全体の量を減らし、窮屈感を解消する。
8)薬剤師の将来像を見据えたものとする。

2 改訂の具体的手順

1)「薬剤師として求められる基本的な資質」

「資質」(案)
(資質1:薬剤師としての職責)
・豊かな人間性と生命の尊厳についての深い認識を有し、人の命と健康を守る薬剤師としての職責を自覚する。
(資質2:患者中心の視点)
・患者およびその家族の秘密を守り、薬剤師の義務や医療倫理を遵守するとともに、患者の安全を最優先し、常に患者中心の立場に立つ。
(資質3:コミュニケーション能力)
・医療情報を適切に収集し、提供することによって、良好な人間関係を築くためのコミュニケーション能力を有する。
(資質4:チーム医療)
・医療機関や地域における医療チームに積極的に参画し、相互の尊重のもとに薬剤師に求められる行動を適切にとる。
(資質5:科学力)
・化学物質としての医薬品と生体との相互作用を深く理解し、薬物治療への応用を計るための基礎科学の能力を有する。
(資質6:総合的な薬物療法の評価と実践能力)
・患者の様々な病態における医薬品の使用を包括的に管理し,薬物療法の安全性・有効性を保障する専門的な実践的能力を有する。
(資質7:地域医療)
・医療を巡る社会経済的動向を把握し、地域医療の向上に貢献するとともに、地域の保健・医療・福祉・介護および行政等と連携協力する。さらに街の科学者として国民への医療および科学の普及に努力する。
(資質8:薬学研究への志向)
・薬学・医療の進歩と改善に資するために研究を遂行する意欲と基礎的素養を有する。
(資質9:自己研鑽)
・男女を問わずキャリアを継続させて、生涯にわたり自己研鑽を続ける意欲と態度を有する。
(資質10:教育能力)
・次世代を担う人材を育成し、これを通して自らが成長する能力を有する。

2)GIO作成の原則的な考え方

 分野は現行のものから大きく変更しない。現在のコアカリGIOの「ニーズ」に相当する部分を「資質」にリンクさせて書き直す。学習項目との関連を示した後半部分は削除してもよい。

 例示)ニーズの部分とは;C-4「化学物質の性質と反応」(コアカリ合本11ページ)

修正前)一般目標GIO
 化学物質(医薬品および生体物質を含む)の基本的な反応性を理解するために、代表的な反応、分離法、構造決定法などについての基本的知識と、それらを実施するための基本的技能を修得する。

 アンダーライン部分が「ニーズ」に相当する。後半部分(イタリック)は、以下に続く科目の内容を羅列しているだけなので削除可能。その代わりに、「ニーズ」の部分を【「資質」の獲得というニーズを達成するための行動目標】と考えて書き直す。これによって「資質」と各分野の関連を明確に表現する。
 例えば、「資質」に「薬学研究への志向」「科学力」があるとすれば、上記のニーズを以下のように書きかえることができる。

修正案1)
 科学および薬学研究に関わる基礎的素養を醸成するために、化学物質(医薬品および生体物質を含む)の基本的な反応性を理解する。

修正案2)「資質」との対応をNoで表現する
 主に資質5、8に関わる基礎的能力を身につけるために、化学物質(医薬品および生体物質を含む)の基本的な反応性を理解する。

この様なGIO作成のプロセスを経ることで、「資質」の表現方法についても再検討する。

3)SBOの整理に関わる注意点

単純にSBO数で議論するのでなく、減らすのであれば実質的な内容から整理する必要がある。

【悪い(と思われる)改正例】
(現行)C4-4-2
【1H-NMR】到達目標:
1.NMRスペクトルの概要と測定法を説明できる。
2.化学シフトに及ぼす構造的要因を説明できる。
3.有機化合物中の代表的水素原子について、おおよその化学シフト値を示すことができる。
4.重水添加による重水素置換の方法と原理を説明できる。
5.1H NMRの積分値の意味を説明できる。
6.1H NMRシグナルが近接プロトンにより分裂(カップリング)する理由と、分裂様式を説明できる。
7.1H NMRのスピン結合定数から得られる情報を列挙し、その内容を説明できる。
8.代表的化合物の部分構造を1H NMR から決定できる。(技能)
となっているが、これは以下のように変更しても内容は同じである。

(SBOを減らすためだけの改正案)
【1H-NMR】到達目標:
1.代表的化合物の部分構造を1H NMR から決定できる。
SBOの数は8分の1になっても、学ぶべき内容は同じ。学生には学習のプロセスが分かりにくい。   

4)重複しているSBOについて

機械的に削除・統合するのは避け、読みやすさ、前後とのつながりに配慮する。C13とC14に多数存在する。

5)整理するSBOsの候補-1

C「薬学専門教育」で△印のついたSBOsはCBTの出題範囲外である。これには、「実習で習得すべきものでありCBTの形式に不適」なものと、「4年までに学習するには内容が高度」なものが含まれる。この部分について優先的に検討し、アドバンストと考えられるものをコアカリから削除する。

現行のSBOs数およびそこに含まれる△の数は以下の通り
C1 79(内5) C2  46(内8) C3  23(内11) C4  94(内3) C5  23(内3)C6  32(内5)
C7  39(内8) C8  68(内12) C9  105(内13)C10  45(内4) C11  54(内4) C12  58(内4)
C13  107(内14) C14  116(内12) C15  53(内22) C16 42(内7) C17  60(内48)  
C18 42(内17)

C「薬学専門教育」のSBOs1086の内200(18.4%)が△付き

6)整理するSBOsの候補-2

「病院」と「薬局」で重複するSBOsを整理する。(△の数:病院 41/108、薬局 52/114)
「病院」と「薬局」の実習順が選べないことを考慮し、どちらから始まっても学習者への不利益を生じないよう留意する。
「病院」→「薬局」と、「薬局」→「病院」の2つのVer.があれば分かりやすい。

7)整理するSBOsの候補-3

 具体的な「行動目標」となりにくいSBOsについて「資質」や「GIO」にその内容を盛り込めるのであれば整理可能。
100近く存在すると考えられる。重要なものが多いので取り扱いには注意が必要。
例)合本P1 【生命の尊厳】5.自らの体験を通して、生命の尊さと医療の関わりについて討議する。etc

8)事前学習・実務実習のSBOsについて

 完成度の問題はあっても、現コアカリが提案されたことによって、それまで薬学にはなかった実務実習が厳然として存在するようになった。これを考えると、10年後の、より高次の業務を行う薬剤師育成のためのSBOsをカリキュラムに盛り込み、社会に対して提示するべきだと考える。現行SBOsの改訂と平行して、これらを作成する作業を行う必要がある。
・実務全体のSBOs一つ一つを見直し、6年制薬剤師に相応しい内容にup dateする。
・重複を減らすことと合わせて、新しく加えるものも検討する必要がある。
・事前学習には「薬学生はここまで学んでいるのか」と社会に認識してもらえるような内容を含んでも良いのではないか。
例)注射、採血の技能習得。基礎的なPhysical assessmentに関わる知識、技能、態度の習得。

お問合せ先

高等教育局医学教育課