薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成23年9月29日(木曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省東館5階 5F2会議室

3.議題

  1. 今後の薬学教育モデル・コアカリキュラムの在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

市川座長、吉富副座長、赤池委員、井関委員、伊藤委員、井上委員、入江委員、奥委員、長野委員、中山委員、奈良委員、平井委員、松原委員、森委員

文部科学省

奈良大臣官房付、村田医学教育課長、渡辺企画官、小野医学教育課課長補佐、伊東薬学教育専門官、大林技術参与ほか関係官

オブザーバー

厚生労働省 医薬食品局総務課 山本薬事企画官、中井課長補佐

意見発表者
花井十伍(全国薬害被害者団体連絡協議会代表世話人)

5.議事録

【市川座長】
 それでは、皆さんおはようございます。定刻になりましたので、ただいまから第2回目の委員会を開催させていただこうと思います。よろしくお願いします。
 まず、事務局の方から、委員の出席状況及び配付資料について確認をお願いします。
【伊東薬学教育専門官】
 それでは、本日の委員会でございますが、太田委員のみ欠席でございます。また、前回御欠席だった東京医科歯科大学の奈良先生においでいただいておりますので、御紹介させていただきます。
【奈良委員】
 よろしくお願いします。
【伊東薬学教育専門官】
 それでは、本日、配付しております資料を確認させていただきます。
 議事次第に続きまして、資料1が、前回の委員会での主な意見を取りまとめたものでございます。資料2が、市川先生からお話を頂きます薬学教育に関する資料でございます。資料3が、奈良先生にお話しいただきます資料でございます。資料4が、中山先生からお話しいただく資料となってございます。資料5でございますが、本日、花井十伍様においでいただきました。その資料でございます。後ほどプレゼンをお願いいたします。
 今日、お配りしている資料は以上でございます。
【市川座長】
 それでは、議事に入りたいと思います。今日の議題は、一番最初の次第にありますように、「今後の薬学教育モデル・コアカリキュラムの在り方について」ということで、前回に引き続いての議論をお願いします。
 前回の委員会では、このモデル・コアカリキュラムの改訂については、現場の大学からの意見、団体の意見、あるいは、様々な検討会が行われたときの意見を踏まえて、委員の意見交換ということで行いました。その内容を事務局で資料1として用意していただいて、先ほど説明がございましたが、それは後でごらんいただければと思います。そこにあるような形で、全体について、コアカリの問題点、あるいは基本理念、位置づけということがまとめられております。
 今回、改訂を行うコアカリについては、その理念等をどのようにするのかというのが問題点の中に強く浮き上がってきたんじゃないかと思います。また、もう一つの問題点は、実務実習の方略というのが、今までのカリキュラムの中で、実際に行うときに窮屈さというか、いろいろなことで束縛しているので、どうしたらいいかという問題が指摘されました。
 話合いをやりまして、改訂をする場合の基本骨格としては、モデル・コアカリキュラムと実務実習のカリキュラムを融合するのはいかがであろうかというのが1点、もう一つは、内容は6年制についてのものにするということで、それに基づいて、今後は基本理念や位置づけ、構築の問題、あるいは内容のセクションですけれども、ABCDという分類についての議論、そのようなことをこれからしていきたいということで、皆様方のコンセンサスを得たというのがまとめだと思います。
 次に議論へ入るわけですけれども、議論の前に、今後、この委員会の議論の進め方ということについて事務局の方から案を出していただいて、それを皆さん方と共有しながら進めていきたいと思います。
 それでは、お願いいたします。
【伊東薬学教育専門官】
 資料は特にございませんが、本委員会と並行いたしまして、コアカリキュラムの改正の素案というものにつきましては、医学、歯学のときの先導的大学改革推進委託事業と同様な委託事業で、公募した機関の関係者で調査研究チームというものを立ち上げていただき、検討の上、作成いただくことといたしております。その改正素案をこの委員会で検証して、最終的には、薬学系人材養成の在り方に関する検討会で意思決定をするというような体制で、今後、改正の作業を行いたいと考えてございます。
 また、調査研究チームの公募につきましては、昨日、締切りをしたところでございます。今後、内容を精査して、委員会の方にかけまして、採択をして決めるという流れとなってございます。
 その作業でございますが、11月からとなると存じます。具体的な作業に着手を頂くこともありまして、基本理念や位置づけなどの方向性を定め、調査研究チームが今年度できるところから作業を開始いただきたいと考えておりますので、それを踏まえて、御議論をよろしくお願いしたいと思います。以上でございます。
【市川座長】
 ありがとうございます。
 では、ただいま御説明を頂いたように、今後そのような方向で、この委員会と作業部会というような関係で、密接な関係を持ちながら討論を進めていきたいと思います。特にこの点に関して御議論いただくことがなければ、先へ進みます。よろしく御協力のほど、お願いしたいと思います。
 本日の予定ですけれども、まず、医療関係者と患者の立場から、ヒアリングを行うということで、前回、話があったわけですけれども、それを行っていただきます。その前に私が、薬学の方からも、薬学教育コアカリキュラムがどのような過程でできたかという話をさせていただきます。その後に、医学教育の立場から奈良委員、看護教育の立場から中山委員、薬害被害者の立場から全国薬害被害者団体連絡協議会世話人代表の花井十伍様に来ていただいておりますので、それぞれお話を伺いたいと思います。
 まず、私の方から、薬学教育モデル・コアカリキュラム策定の経緯について簡単に説明をさせていただきます。これは、ここにいらっしゃる方は御承知かと思いますけれども、一応それを確認して、それからいろいろほかの、先ほどの話ですと医学の話、看護の話、薬害被害の話というようなものも、その中でイメージをしていただければいいかと思います。
 それでは、資料2であります。この内容はパワーポイントのスタイルになって、ちょっと見にくいところがございますけれども、御了承ください。
 薬学教育モデル・コアカリキュラムの策定といいますか、その経緯のスタートの背景になっているのが、右にありますような、医薬分業完全実施というところに伴う問題、もう一つは医療技術、あるいは医療・科学技術の進歩が非常に著しいものがあるということで、医療の質、そこに関与する薬剤師の質というものが非常に問われるということで、そこに対応する薬剤師を育成する薬学教育に対しては改革が必要であるということになるかと思います。
 その経緯でありますけれども、下の方の左で、小さい字になっていますけれども、1994年から96年と書いてありますが、正式には1993年12月に、当時は文部省ですね、ちょっと間違っています。文部省の薬学教育の改善に関する調査研究協力者会議というのが開かれて、そこで10数回の検討が行われて、そのまとめが1996年3月に出されております。
 そこを簡単に触れておきますと、薬学教育改善の基本的な視点として、一つは幅広い薬学関連の人材養成、二つ目が医療薬学教育の重視、三つ目が創薬基礎科学に関する教育研究の推進、4番目が薬系大学の薬剤師生涯学習への貢献ということでまとめられております。それに伴って、学部教育の位置づけとして、学部段階では広い教養とともに専門分野の基礎を習得することを主眼とすべきで、卒業後いずれの分野に進むにせよ、薬の本質、疾病と薬物治療、医薬創製の道筋、薬と社会のかかわり方などができるような人を育てることを目指すという位置づけにしたらどうかというのが当時のまとめ方であります。
 その中で、カリキュラム改革のポイントとしては、先ほどあった幅広い人材養成に対応して調和のとれた体系的カリキュラムというのと医療薬学と実務実習の重視、倫理観の醸成、問題解決能力、そのようなことがまとめられております。資料はございませんけれども、当時のことを読むとそういうことになっています。
 しかし、問題点は、カリキュラムに関してはまとめることができなかったということであります。「提案できず」とそこに書いておきました。その話が、当時の薬剤師養成問題懇談会、当時は4者懇談会といっていたもので、両省、文科省、厚労省と、それから日本薬剤師会、日本病院薬剤師会ということでの検討がなされていた。その検討の中で、私の知る範囲では、薬剤師の教育の年限の問題が裏にありながらいろいろな議論が進められたために、なかなかまとまらなかったと理解しております。
 それを受けて、年限の問題も含め、薬学教育として一体何を求めるのかということの議論を中心にすべきだということで、カリキュラムの必要性問題が浮き上がってきたということであります。それを受ける形で、日本私立薬科大学協会と国公立大学薬学部長会議の二つでモデル・コアカリキュラムがつくられたというものであります。それが2001年から2003年ぐらいにかけてでありまして、細かいところは、めくって2枚目の頭に、2001年8月に日本私立薬科大学協会の薬剤師養成カリキュラム検討委員会において、薬学教育モデル・コアカリキュラム(案)というのが最初につくられました。それは、大まかに言うと、薬剤師教育に必要な内容の積み上げというような形で書かれた内容のものであります。それとほぼ時期を合わせて、2001年9月に国公立大学薬学部長会議教育部会から、薬学教育モデル・コアカリキュラムがつくられた。これは薬学教育ということを基盤に置いてつくられた、わりと幅広い内容のものになっているということです。
 右の方に、その当時のメンバーが書かれておりまして、すぐ右が私立薬科大学協会の当時のメンバーで、関東地区の私立薬科大学の9校で最初スタートして、それからどんどん広がっていった。最終的には、その下に書いておりますけれども、29大学、当時の私大の数、29名が委員となっていて、作業部会、協力者と書いてある部分は、実際にいろいろな分野のSBOの作成に関わった人です、それが94名と5名です。次いで、国公立大学の学部長会議からモデル・コアカリキュラムが作成されました。日本薬学会は、2002年8月と書いてありますけれども、当時、薬学会は研究と両輪の関係にある教育もやらねばならないという方針の下で、教育充実のためにいろいろな検討を始めたときに、この二つのモデル・コアカリキュラムが公表されたので、薬学教育の中にモデル・コアカリキュラムが二つあるというのも変な話で、かつ、私立と国公立の二つが存在しているというのも、将来を考えたときに問題があるということで、当時、私が会長をしていたこともあって、それをまとめ、統合型にするということで検討を始めました。薬学会編の薬学教育モデル・コアカリキュラム作成委員は、私大の方から121人、国公立の方から17大学のメンバーが入って、薬学教育ワークショップといって、SBOをつくったり、GIOをつくったりすることの教育を受けた人たちのメンバーになっております。これが、今現在あるモデル・コアカリキュラムということになります。
 その作業が、右の方に書いてありますけれども、原案は各国公私立大学に読んでいただいて、それに対してアンケートをとっております。いろいろな大学からいろいろなコメントが当時あったということで、最初の私立大学の案のときには1,500件ぐらいだった。2番目が、薬学教育モデル・コアをつくったときに約600件ぐらいあった。それを取捨選択していった。当時、およそ3割ぐらいの大学から同じようなコメントがある場合、それを採用して、検討し直すという方策をとりました。
 次に共用試験に必要のあるものを選ぶ作業があり、それ以外のものは三角印をつけました。ここには書いてありませんけれども、SBOのところに三角をつけるという選択をして、そのときにもコメントは100ぐらいあったということで、最終的に46校の代表が一堂に集まって大学からの承認を得た。
 これが実際には、1枚目に戻っていただきますと、年表の中の2004年ですけれども、薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議の資料になったということになります。その資料の中で、問題点は実務実習モデル・コアカリキュラムの部分です。実務実習の部分であります。それは資料2枚目の左上であります。これが、モデル・コアカリキュラムの(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)とつくった薬学会のバージョンです。そのうちのちょっと薄字になっている(D)の部分です。これは「未使用」と書いてありますけれども、検討が十分でないということから、文部科学省での薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議で小委員会が開かれ実務実習モデル・コアカリキュラムが作成されました。
 それは今のページ、2枚目から3枚目のところにかけて(A)、(B)、(C)、(D)の概要が書いてありますけれども、(D)のところに、実務実習モデル・コアカリキュラム、薬学会編(D)は検討不十分、文部科学省の実務実習小委員会で実務実習モデル・コアカリキュラムを作成した。たたき台になったのは、確かに薬学会のもとがありました。それから、私立薬科大学協会の方にもありましたので、それをもとに検討したということであります。
 それが経緯でありますが、全体の内容的なものの概略に関しては、1枚目の下の右ですが、そこのところにある薬学教育への期待というのは、そのときのまとめであります。最初に、薬学は、病院・薬局で働く薬剤師、医薬品の創製にかかわる基礎研究うんぬんという、非常に多様な人材を養成してきた、次に、医療の質の改善が求められており、特に、「モノ」から「ヒト」を対象とする薬物治療に関連する学問を発展させる必要がある。また、医薬品の創製とともに、適正使用に関わる人材も養成しなければいけないとまとめられたわけです。
 期待と今後の在り方というところで、2番目に医療薬学教育への期待、その右の方にある3番目が、基礎薬学、創薬科学、衛生薬学教育への期待、その他の領域への期待という形で整理されています。実務実習の充実と薬学の科学的な基盤うんぬんということで、実務実習の充実が指摘されています。
 モデル・コアカリキュラムの作成方針は、基礎知識と臨床能力のバランスと、基礎薬学と医療薬学の統合カリキュラムに配慮することでした。モデル・コアカリキュラムの例示で、(A)、(B)、(C)、(D)の抜粋をするとこうなるということになります。
 最初に、全学年を通して、ヒューマニズムについて学ぶというのがあって、その中に、「生と死」とかこういうものがあって、次に、(B)にイントロダクションで、「薬学への招待」、「早期体験学習」というのをしましょうということがあります。
 その次に、(C)になりまして、専門教育ということで、ここは物理、化学、生物系の薬学もある。それから、健康と環境という分類になっている。
 モデル・コアカリキュラムには理念と位置づけの記載がほとんどないです。使用方法としては、これはガイドラインであり、コアカリキュラムが7割、残り3割はオリジナルの教育をするようになっています。
 実務実習モデル・コアカリキュラムは、そこにあるとおりで、これは文部科学省の小委員会で開かれて、つくられたものでありまして、そこにある薬局実習、病院実習、事前学習という三つのバージョンで組まれている。内容的には、次のページにあるような内容があるということであります。
 作成経緯と内用の概略を説明しました。今ちょうど6年目の教育が終わりかけたときに、いろいろな問題点が出てきたことから、新たなるモデル・コアカリキュラムを改訂することがこの委員会の目的になるわけです。説明について御質問等がございましたら、お願いしたい。
 特段なければ、また、いろいろな議論の中に入れていただければと思います。
 それでは、その次に、奈良委員の方から、医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂に携わった立場、御経験、あるいは薬学教育モデル・コアカリキュラムに望むことなどをお願いしたいと思います。それからもう一つ、特別にお願いしたいことは、前回のまとめの中で、今日の資料1でまとめがありますけれども、その中にも、基本理念の4つ目のマルのところで、薬学のアウトカム・ベースド・エデュケーションについて、薬剤師にもう少しポイントを置くべきだという意見が大きいです。その辺のことを含めて、お話の中にちょっと入れていただければ有り難いと思います。よろしくお願いします。
【奈良委員】
 御紹介いただきました、東京医科歯科大学の奈良と申します。前回、海外出張のために出席できず、申し訳ございませんでした。
 私に与えられた課題は、医学教育モデル・コア・カリキュラム策定並びに改訂の経緯と課題だと承知しております。市川座長のお話を伺っていますと、薬学教育と医学教育はかなり似ている部分がありますが、それでいて異なった面もたくさんあるように存じます。医学部では全80校の教育システムはほぼ統一されているのに比べ、薬学教育はより複雑であるように拝聴しました。
 お手元の資料3に沿ってお話しさせていただきたいと思います。まず、医学教育改革が進められた経緯を簡単に御紹介したいと思います。医学教育のミッションは、良質の臨床医を育てることと、すぐれた医学研究者を育てることにあります。この二つのミッションは世界共通なのですが、どうも日本の医学教育は海外とは大きく異なっているように見られているようです。例えば、東大の元客員教授Nowellさんが、日本の医学教育はガラパゴスであると発言されています。これは決して悪い意味で言ったわけではないそうなのですが、ただ、日本では海外とは違った独特な医学教育を行っていると評されました。慶応大学にいらしたRao先生はもっと酷評され、日本の臨床技能教育が極めて粗末であると論文で発表しています。
 私は文科省の先導的大学改革推進委託事業で、海外13か国の医学部35校での医学教育の実情を視察する機会を得ました。詳細は議題から離れますので省略しますが、海外諸国でもそれぞれに違ったスタイルで教育が行われていることが分かりました。
 ところが、共通することが幾つか確認できました。まず、どの国でも知識教育、これは医学教育でも骨子を占めていますが、従来の講義スタイルから少人数で、しかも学生を主体としたテュートリアル教育に移行している点です。PBLやTBLといったシステムが多くの医学部で積極的に導入され、成果を上げているようでした。学生の自己学習を推進するために、eラーニングが整備されている医学部も多くの国で認められました。
 次に、従来は基礎医学、臨床医学が明確に区分されて教育されてきました。しかし、基礎、臨床医学は本来一貫性があり、むしろ統合して教育する方が学生の理解を促進すると思われます。そこで、ブロック制とかハイブリッド型のカリキュラムの導入が幾つかの医学部で採用されていました。
 それから、医学教育の大きなミッションである臨床技能教育についてです。ほとんどの海外医学部では学生の入学当初からコミュニケーション技法や診察技法などの訓練が積極的に行われています。日本は理論を重視する立場のドイツの医学を輸入したものですから、どちらかというと知識教育が重視されてきた傾向が否めません。その結果、欧米に比べて臨床技能教育が劣っているのは事実だと反省されます。実は日本の手本になったドイツにおいても現在では理論中心から臨床技能教育重視にシフトしております。
 臨床技能教育では、標準模擬患者(SP)の積極的活用、シミュレーション教育の充実、学生自身が医療チームの一員として参加するクリニカルクラークシップなどが積極的に取り入れられています。
 臨床医を育てるのが海外の医学部教育で目立つとはいいながらも、一方では有能な研究者を育てることも忘れられていません。例えばMD-PhDコースやエレクティブコースの活用などが推進されています。
 日本でも医学教育の改革は進められていますが、ここまで述べたような海外の医学教育に比べて、まだまだ改善すべき余地は大きいと思われます。
 さて、医学教育を改革しなければいけないという背景には、医学医療面での大きな変化がございます。一つには、現代の医学知識あるいは技術の量が膨大化し、同時に細分化されてきたために、従来の学体系ではもはや対応できない事情があります。二つ目としては、社会のニーズが多様化し、学際的な生命科学がどんどん現れていますし、地域医療、福祉・介護、国際協力、創薬、などを医学教育に取り入れられなければならないということもあります。
 さらに、学習スタイルの変化も見過ごせません。現在の大学教育では、成人学習理論が重視されるようになっています。成人である大学生は、勉強しろと言われて勉強するのではなく、自らが目的意識を持って勉強すべきとの考えです。特に医学教育は生涯教育に通じ、学生自身の勉学意欲を向上させることが医学部での教育の柱になります。
 そこで、現在の医学教育の方向性としては、必要最低限は教えるけれども、むしろ学生の自主的な学習を促すといった方向性を見出(いだ)したわけです。それに従って、医学教育モデル・コア・カリキュラムが策定されました。
 医学教育改革の議論は、既に1987年、調査研究協力者会議で論じられました。
 その後、いろいろな会議を経て、モデル・コア・カリキュラムが2001年に公表され、それと同時に、学生の学習到達度を評価する共用試験が2005年から正式に始まりました。モデル・コア・カリキュラムが公表された2001年以後、医療もどんどん変わっておりますので、第1回目の改訂が2007年に行われ、今年、第2回目の改訂が行われました。
 医学教育モデル・コア・カリキュラムの理念、あるいは基本方針をお示しします。先ほど申しました背景に基づきますが、まず、医学医療の進歩に基づいて、履修すべき必須の学習内容を精選しました。“Less is More”という精神から、教えることはなるべく少なくし、学生に、問題点を自からが見出(いだ)して、それを解決させるような教育に重点を置きました。
 また、先ほど申しましたように、医療は社会に非常に密接に関わっていることもあり、社会からの要請を真摯に受け止め、コミュニケーションや安全性を担保するといった観点も大きく盛り込むことにしました。
 それから、学習内容の精選と学生主体の教育と言った点を中心にそなえ、医学教育モデル・コア・カリキュラムでは学習内容の2/3をコアとし、残りの1/3は選択制カリキュラムの導入を推奨しました。大学によって卒業生の進路も大きく変わるでしょうし、地域性なども考慮した選択制カリキュラムの導入を積極的に推進したわけです。
 次に医学教育モデル・コア・カリキュラムの内容を御紹介します。第1回目に策定されたカリキュラムでは、AからG領域まであります。
 Aは基本事項ということで、医療倫理、医師法、医療安全などが含まれます。これらは医学部の6年間を通じて教育することが定められております。
 Bという領域は、医学一般と書いていますが、従来の基礎医学である解剖学、生理学、生化学、薬理学などが含まれます。
 C領域は、人体各器官の正常構造、機能、病態、診断、治療です。これはまさしく基礎医学と臨床医学を統合したもので、例えば循環器領域では、循環器の構造と機能を学んで、疾病の診断、治療などにつなげるものです。各器官に分けられず、全身にまたがるものがD領域で、例えば感染症とか免疫が該当します。
 それから、診療の基本として、検査、薬物療法、放射線診断、診療録記載など基本的な診療の知識がE領域に入っています。F領域は社会医学の領域で、衛生学、公衆衛生学、法医学などが教育されます。最後にG領域があり、臨床実習の内容が盛り込まれています。ただ、第1回のモデル・コア・カリキュラムでは臨床実習の領域が十分ではなく、本年の改訂で大きく改正されることとなりました。
 医学教育の構造ですが、まず、医学教育モデル・コア・カリキュラムにのっとって臨床実習前の教育を行った後、おおむね4年次の後半に共用試験が行われ、それにパスした者だけが臨床実習に進めるといった方式になっております。そして、卒業後は医師国家試験を受け、合格すれば2年間の臨床研修を受けて医師になる仕組みです。
 医学教育モデル・コア・カリキュラムの第1回目の改訂は平成19年12月に公表されました。このときは、病名の変更、例えば精神分裂病や妊娠中毒症といった名称がなくなったことに対応しました。また、当時、重要視された医療安全、地域医療、がんの均てん化法案に伴う癌(がん)治療の項目を新たに追加しました。また、医師国家試験出題基準との整合性も検討しました。
 2011年には、第2回目の改訂が行われました。第1回目の医学教育モデル・コア・カリキュラムの発表以来、既に10年ほどが経過しました。ここでもう一回振り返ってみますと、臨床実習の内容が手薄だったのかなという反省がございます。先ほど御紹介した海外に比べて日本の医学教育では臨床実習が手薄ではないかという指摘に対して、まだまだこたえられていませんでした。しかも種々の調査を行いますと、大学によって臨床実習の質・量ともに相当なバラツキが目立ちます。臨床実習を系統的かつ体系的に充実させ、医学生に基本的な診療能力を確実に習得させるということを主旨に、大きく改訂することにしました。
 先ほど薬学の方から、outcome-based educationという提言がございました。私どもの医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいても、特にG領域の臨床実習には、医学生が卒業時点で習得しておくべきmedical competencyを明確化して、それに基づいたカリキュラムに改訂することとしました。
 第2回目改訂の骨子をお示しします。まず1番目には、繰り返しになりますが、基本的診療能力の確実な習得という点です。医学生にとって必要な「知識」、「態度」、「技能」の三つに対する目標を明確にして、それから、当初のコア・カリキュラムEの診療の基本とG領域の臨床実習について一貫性を持たせることとしてEとG領域を大幅に改訂しました。また、現在、地域医療がいろいろな観点から問題になっていますので、それを解決するような項目も記載しました。これらが、基本的診療能力の一番大きな改訂箇所です。
 それから、基礎と臨床の有機的連携について改訂を加えました。特に2004年に臨床研修の必修化が始まってから、医学研究に携わる医師が減ってきたという事実がございます。そこで、学生の時代から研究マインドを涵養(かんよう)して、必ずしも研究者にならないとしても、臨床医にとっても研究志向は身につけておくべきだということを明確にいたしました。
 さらに、社会的ニーズへの対応という観点にも配慮しました。これは医師として普遍的に求められる資質、すなわち、患者さんを思いやる心とかコミュニケーション能力、それと同時に医療安全、患者中心のチーム医療を目指す医療分野での多職種連携についても明確に記載することにしました。大学によっては、例えば薬学の学生、看護学の学生などと一緒に講義や実習を行うところがぼちぼち増えつつあります。そこで、多職種連携について記載したわけです。
 さらに、各大学で工夫した特色ある取組についても重視しました。必ずしも全国の大学が一律の教育ではなくて、コアはコアとして、どんどんと積極的な特色ある取組をやってほしいし、また、各学会等に対しても画期的な取り組みを示すよう期待が込められています。
 コア・カリキュラムの構成も変更されています。第2回目改訂のB領域は従来のF領域「医学・医療と社会」でございます。変更した理由は、これらの社会医学、予防医学等は6年間を通じて学ぶべきで、A領域に続くのが適当であるとの認識に立っております。そして従来のB領域はCに、C領域はDに移行するというような順送りになっております。G領域は同じですが、Fの「診療の基本」というところからGの「臨床実習」というのを一貫性を持たせたということは、先ほど御紹介した通りです。
 これが医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂の骨子です。
 最後に、ちょっとお時間を頂戴して、臨床実習の改善に対する私たちの取り組みを御案内させていただきたいと存じます。
 臨床実習では、実際の患者さんに直接接する前に、例えば学生同士が実習を行うとか、あるいは、精巧なモデルを駆使したシミュレータによるトレーニングの必要性が重要視されます。場合によっては標準模擬患者さんとの接触を経て、実際の患者さんに行くことも重要になります。こうした広い意味でのシミュレーション教育が現在、活発になっています。
 私どもの医学部では、医歯学教育システム研究センターにシミュレーション教育を専門に行うスキルスラボラトリー(スキルスラボ)を設置しています。面積はほぼ380平米で、臨床実習の学生、研修、コメディカル、専門医等を対象に、24時間オープンにしてシミュレーション教育を実施しています。学生がいつでも自由に利用できますし、講習会では系統的な臨床実技を習得するようにもしています。
 また、コンピュータソフトを駆使したバーチャル体験で、患者のシナリオに応じて、診断、処置、治療などの訓練も行っています。専門医教育としては、鏡視下手術の訓練をバーチャルで行う装置も備えてトレーニングに供しています。
 また、学生の臨床実習はアメリカのクリニカルクラークシップ制度を取り入れ、学生と研修医が一体化して診療チームに所属し、実際の患者さんの診療に従事するシステムで教育しています。
 臨床実習は、大学附属病院の病棟に限らず、外来、在宅医療、さらにはハーバード大学など海外での実習も行わせています。とかく不備と言われた我が国の臨床実習を大きく前進すべく努力をしている次第です。
 市川座長から宿題を頂きましたけれども、薬学におかれましても、卒業時点で何を習得すべきか、はっきりとコンピテンシーを明確にされて、アウトカム・ベースドのカリキュラムを作られることが望ましいとせん越ながら感じました。
【市川座長】
 どうもありがとうございました。ただいま大変貴重なお話を頂いたので、どうぞ、質問とか、あるいはコメント等があれば、よろしくお願いします。
【長野委員】
 どうもありがとうございました。大変興味深い話を聞かせていただきました。
 2点質問させていただきたいんですが、1点は、ちょっと意外な感じがしたんですけれども、聞き違いがなければ、2枚目の左の上で、日本よりもむしろ諸外国の方が大人数の講義があって、しかし、実際にやっていく上においては、400人いたとしても、チュートリアル、少人数のをやっていくと。そうしますと、例えば400人を今度、少人数ということで10人ぐらいかと思いますけれども、膨大な教員が必要になってくると思うんですが、それが本当にきちっと動いているのか。むしろ日本の方が少人数だったというのは、ちょっと私にとっては意外な感じがしたんですが、その点はいかがですか。
【奈良委員】
 私自身も海外へ行っていて、一番その点が気になって、実際はどうなのか確認しました。すると、多人数の学生の場合でもテュートリアル教育を行っているとのことです。チューターはどう確保するのかが当然疑問になります。確認してみますと、決して常勤の教員だけでは数が足りず、他病院勤務医師や在宅にいる医師など、非常勤の教員を活用しているとのことです。彼らはボランティアでチューター役をかってでています。彼らの考え方としては、自分たちは教育を受けた、今度はそれを恩返ししなければいけないというボランティア精神で参加しており、交通費程度しか大学からは支給されていないとの話を聞きました。
 9番目のスライドの左下の図の真ん中の女性がチューターなんですが、彼女も出産を終えて、子育てがぼちぼち片づいたので、学生の教育に参加したいと、ボランティアで週に何回か来ている。こういう人がたくさんいます。ですから、医学教育でも、常にPBLとかTBLを導入するに際し、チューターをどう確保するのかが問題になります。限られた人材の中でテュートリアル教育を行うとなれば、非常勤の教員、場合によっては大学院生をティーチングアシスタントとして活用することが考えられます。
【長野委員】
 まさにそういった少人数でやるということがワンウエー、一方通行の教育ではなくなりますし、もちろん居眠りも五、六人の前ではできませんでしょうから、マン・ツー・マン的な教育で、非常にいいものができていくんじゃないかなと思うので、その点は、いろいろな面で学んだ方がいいんじゃないかと思いました。
 二つ目ですが、こういう格好で、基礎の教育と臨床を近づけるといいますか、融合する、一体化していく。かなり臨床も現場のところへ入れていき、更に卒業後も研修医制度というのが始まって、一方において、MD-PhDコースは一応ありながら、ただ、日本において、基礎の方に行く研究者がかなり減っているということをよく聞きますけれども、この点に関して諸外国では、やはり基礎の研究者になる人も医学部を出て、医師の免許を直接使わずに、そういう人も多いんでしょうか。その辺に関してはどんな現状にあるんですか。
【奈良委員】
 基礎医学を研究する医学部出身が非常に少ないというのは全世界に共通した課題です。これを解消する一つの方策がMD-PhDコースです。少しでも基礎医学研究に対して興味を持つように学生に仕向けて、研究者になっていただきたいという狙いがあります。
 それでも医学部出身の基礎医学研究者は不足しております。ただ、基礎医学教育に対する工夫は幾つかの大学で試みられ、例えばUCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)では、呼吸生理や細菌学は、それぞれ呼吸器内科医、感染症科医が教育するなど、臨床医が積極的に参加し、学生の反応もよいとのことでした。また、ハーバード大学では、同じ講義の中で基礎医学者と臨床医が同時に参加して討論しながら進めるといった形式もありました。
 研究面にしろ、教育面にしろ、基礎医学研究者の不足は重大な問題ではありますが、日本でも工夫していかねばならないと存じます。
【長野委員】
 今回の日本の、先生が中心になってされたのかもわからないですけれども、コア・カリキュラム改訂において、特に基礎の先生方の方から、例えばちょっと後ろ向きといいますか、余り臨床を入れ過ぎると基礎の方に来にくくなるのでといった議論はあったということはないんですか。
【奈良委員】
 それはありました。学体系を外すということに対しては非常に抵抗があったのは事実です。
 しかしながら、先ほど申しましたように、日本が医学を導入したドイツですら改革していますので、日本でもやれないはずはないということで、全国の医学部の教員には医学教育モデル・コア・カリキュラムの趣旨を丁寧に説明し、了解を得て参りました。現在では、抵抗される先生は余りいらっしゃらないと存じます。
【長野委員】
 ありがとうございました。
【市川座長】
 赤池委員、どうぞ。
【赤池委員】
 京都大学の赤池でございます。大変参考になりました。ありがとうございました。
 モデル・コア・カリキュラムを2回改訂され、今回、新たに改訂されたというわけですけれども、改訂のときの方針を決めるというプロセスが非常に重要だろうと考えておりますが、そのときに、方針の意思決定というのはどういったレベルでされたのでしょうか。
 それから、当然、最終的に改訂されたものは全国の大学で使われるわけですから、内容も含めてということですけれども、方針につきましても、全国の大学からどのように意見を集められて、場合によっては修正されたのかもしれませんけれども、どういうふうにされたのかというのを伺えたらと思います。
【奈良委員】
 お手元の黄色い「医学教育モデル・コア・カリキュラム」という冊子の150ページに、モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員会構成、151ページに専門研究委員会構成が記載されております。後者の委員会で具体的な改訂作業を担当し、前者の委員会に決定していただくといった構図となっております。改訂素案をつくる過程では、医学部関係者以外も、各方面の有識者、場合によってはマスコミ関係者等にも御参加いただいて協議しました。
 改訂作業を行うにつきましては、御質問のように、全国の医学部並びに学会等にアンケート形式で御要望、御意見を伺い、委員会での協議に反映させていただきました。
 あくまでもコアという精神にのっとって、教育内容を増やしすぎないのが基本方針で、必ずしもすべての要望や意見が採用されたわけではありません。ただし、医学医療や社会の発展に伴って、不足していると考えられたものは採用させていただきました。トータル的にはそれほどボリュームは大きくは変わっていませんが、臨床実習の内容は明らかに以前より手厚くなってございます。
【市川座長】
 入江委員、どうぞ。
【入江委員】
 熊本大学の入江と申します。私たちが、今後具体的に何をやっていけばいいかが非常にわかりやすくなってまいりました。ありがとうございました。
 お聞きしたいのは、医学教育で、アウトカム・ベースド・ラーニングを基本にとらえておられるように思いますし、コンピテンシー(資質)が8つございます。私がわからないのは、アウトカム、コンピテンシーを設定し、実際にはカリキュラムの一般目標、到達目標の間の部分がどうつながっていくのかわかりません。私が持っている資料ですと、例えばオーストラリアの薬剤師会では、アウトカム、コンピテンシーがあって、ドメイン、その後、スタンダードがあり、階層があるように思います。このような階層についてどのようにとらえたらよろしいでしょうか。教えてください。
【奈良委員】
 あくまでもモデル・コア・カリキュラムでは一般目標、到達目標を提示しただけで、学習方略等の細かな教育手法は各大学の教員にお任せしてございます。各大学で独自の目標を作るのも大いに歓迎し、選択カリキュラムも推奨している次第です。
【入江委員】
 はい、わかりました。
【奈良委員】
 私から、一つ質問させていただいてもよろしいでしょうか。先ほど市川座長から御説明いただいた中で、2009年に薬学教育評価機構というのがございますね。先ほどの御質問にオーストラリアのことが触れられましたが、国際基準にのっとって薬学教育の評価がなされているのでしょうか。
【市川座長】
 井上委員から。
【井上委員】
 国際的な標準のようなことは、基本的には考えておりません。アメリカ等でそれを標準化したいということを言っているんですけれども、もともと日本の薬学教育とアメリカとは全く違うところがありますので、臨床を非常に重要視するということについては、私どももその方向は考えておりますけれども、アメリカなんかですと、それがものすごく多くて、逆に研究ということに関しては、今まではほとんどないような状態で、彼らも最近は反省して、もうちょっと研究マインドを入れていかなければいけないということを言っているんですけれども、そういうことで、随分日本と違うものですから、日本は独自の基準をつくって、コアカリを遵守するといいますか、全体を構築したということでございます。
【奈良委員】
 実は、今、医学教育で国際認証というのが話題になっております。国際的に認証できるような教育基準を設けるべきだということで、検討が進められております。是非お知恵を貸していただければと思って御質問させていただきました。ありがとうございました。
【市川座長】
 ほかに。伊藤委員。
【伊藤委員】
 昭和大学の伊藤と申します。薬学の場合には、コアカリがCBTとか国家試験の出題範囲とリンクするために、非常にいろいろな意見が出やすいというか、あるいは利害が対立するような面も出てくるわけなんですけれども、医学部の場合には、コアカリと国家試験の関係というのはどういうふうにとらえればいいでしょうか。
【奈良委員】
 共用試験CBTと国家試験の一貫性は重要なテーマと存じます。現時点では実現しておらず、それぞれ独自の試験、独自の評価が行われております。ただ、医師を育てるという観点に立てば、臨床実習開始前の共用試験と、卒業後の国家試験には連続性が必要だと考えられます。共用試験が国家試験になるかどうかは別にしても、両者が一貫性を持って行われることが望まれます。これらについては、2011年に行われた医道審議会の国家試験改善検討部会でも論点になり、前向きに検討することが結論されています。 
【市川座長】
 ほかに、質問がございますでしょうか。
 私から一つ、臨床実習のカリキュラムの場合に、一番大事なのは、全大学にいる全員の学生がほぼ均一な実習を受けられることかと思いますが、医学部のモデル・コアカリキュラムをつくられたときに、その面での配慮はどうでしたか、薬学部の場合、実習内容とそれを実施する教育環境においてもう少しいろいろと考えねばならないことが多いと思うので、お聞きするのですが。
【奈良委員】
 医学の場合における臨床実習は、すべての学生が修得しなければならないものばかりです。したがって、どこの大学でも実施できるものですし、実施できるものしか医学教育モデル・コア・カリキュラムには掲載されておりません。
ただ、医学部での臨床実習における課題のひとつが、参加型臨床実習、すなわちClinical Clerkshipの充実です。その内容は大学間で相当な開きがあります。医学教育モデル・コア・カリキュラムでは、履修すべき内容は記載していますが、臨床実習の方法や期間までは触れておらず、各大学医学部に任せられております。先ほど少し申しましたが、国際基準での医学教育が求められており、臨床実習の充実が重要になってきています。
【市川座長】
 ありがとうございます。
 それでは、ほかに。どうぞ、吉富委員。
【吉富副座長】
 福山大学の吉富と申します。医学部と薬学部の関係をいろいろ考えさせられたんですけれども、一つお聞きしたいのは、一番最後に、改訂に関する専門研究委員会があるというのを紹介していただきましたけれども、常時こういう委員会を、毎年といいますか、常時こういう検討をされているのか、改訂をしようというタイミングにこれを新たにつくられているのか。恐らくモデル・コアというのは、改訂をしてもさらに、いろいろな圧力と言ってはいけませんけれども、意見が出てくると思うんですけれども、そういう意見を常時酌み取るシステムがあるのか、ないのかを教えていただきたいんです。
【奈良委員】
 御指摘の通りで、医学医療の進歩、社会環境の変化等に対応して医学教育モデル・コア・カリキュラムを恒常的に改変する必要はあると思っています。実際には、定期的に見直しているわけではございませんが、この10年間で2回の改訂を行いました。2009年に開催された医学教育カリキュラム検討会でも、恒常的な改訂を行うことがうたわれております。
 ただ、改訂を担当する組織なり、システムは構築されておらず、必要に応じて委員会を立ち上げて議論してまいりました。今後はやはり恒常的に改訂を行うための母体となる組織が必要だと存じます。
【市川座長】
 森委員どうぞ。
【森委員】
 日本薬剤師会の森と申します。昨年から、薬学教育でも実務実習が始まりましたが、一つ学生の評価が大きな課題になっています。医学部、歯学部と異なり外部の施設でやるということもあるのですが、到達目標に関して学生の評価をする中で、苦労をしました。薬学の場合、初めての実務実習だということで、実習のモデル・コアカリキュラムを丁寧につくってあって、知識教育が多かったこと、カリキュラムをこなすことに視点が行って、現場の薬剤師も苦労したことがあります。医学部の実習で、学生の評価を指導医の先生はどうされているのかということを教えていただきたいのですが。
【奈良委員】
 御指摘の通り、学生の評価は重要なテーマです。医学教育モデル・コア・カリキュラムでは評価までは踏み込んでおらず、現実的には現場の先生方に任せているというのが現状でございます。現状における臨床実習後の学習到達度の評価は、OSCEによる臨床能力評価試験、ポートフォリオ評価などが採用されている大学が増えてきています。残念ながらまだ全国統一された評価基準というのはありませんので、今後評価基準の策定を議論する必要があるかと思います。
 先ほど入江委員がオーストラリアの例をお話しされましたが、評価法につきましても、海外の例を参考にしながら、構築していきたいと考えます。
【市川座長】
 ほかに。
 では、先へ進めさせていただいて、また途中でありましたら、御質問等をお願いいたします。
 それでは、次に、中山委員の方から、看護系大学におけるモデル・コア・カリキュラム導入に関しての調査研究や、あるいは検討会での検討状況などについて、御説明をお願いしたいと思います。
【中山委員】
 中山でございます。私たちは平成21年度、22年度に、先導的大学改革推進委託事業のお金を頂き、「看護系大学におけるモデル・コア・カリキュラム導入に関する調査研究」を行いました。その調査結果の一部を今年の3月に出しました、大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会の最終報告に入れまして、その部分を、今日は資料として先生方に出させていただいています。
 前回も話しましたように、看護系大学としましては、看護教育の在り方として、モデル・コア・カリキュラムを導入するかどうかということは、ここ10年ぐらいの課題でした。厚生労働省、文部科学省の学校養成所指定規則の中で、カリキュラム、国家試験の受験資格にはどういう内容の教育が必要なのかということを規定されておりますので、二重に縛られることへの問題もあって、今回の調査研究でもモデル・コア・カリキュラムの導入を見送りました。
 先生方の資料の1枚目をあけていただきたいのですが、ここのところでは、学士課程においてコアとなる看護実践能力と卒業時到達目標という形で、卒業時に学士課程を修了する学生が習得すべき必要不可欠なコアとなる教育を示しています。特に看護実践に必要なものということで、出させていただいたのが、調査研究結果でございます。
 22ページの1)になりますが、各大学が独自の教育理念や目的に応じて教育課程を編成し、かつ社会に対して必要不可欠な看護実践にかかわる教育の質を保証するための参照基準を作成するということにいたしています。これは、看護系大学が200校ぐらいになり、その看護系大学に対する標準みたいなものを示すことになるのか、あるいは、あくまでも到達目標は質の保証、到達目標に基づいて教育をしているということが、看護系大学の200課程の質の保証ということになるのか、この辺のところが議論になり、質の保証というところに重点を置き、各大学が独自の教育理念に基づく教育を展開するということを重視しようと考えました。
 それから、2)ですが、平成16年度の基本的な考え方の前提を踏襲しつつ、社会や医療、看護の変化に対応するとあります。平成16年のときに「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標」を出していますが、このことが大きいわけです。当時、医学におきましてはモデル・コア・カリキュラムができていましたので、看護の中にも導入できないかということで始めた看護学教育の在り方に関する検討会でしたが、ここでは大学卒業時の到達目標ということになりました。これを今回も踏襲するということです。それが1から5までになっております。
 それから、3)のところで、看護の国際的な動向、今後の社会や医療、看護の変化に対応可能な必要最小限の看護実践能力を中心として構成するということで、アメリカの看護教育も重要視いたしました。どういうことかといいますと、看護学の学問体系になりますが、これは1967年のカリキュラム改正に始まるんですが、基礎看護学、母性看護学、小児看護学、成人看護学という人間の成長発達に基づいた看護学が基本になっています。その中で、いろいろな看護学の領域が、学校養成所指定規則が改正するたびに増えていったわけです、老年看護学、在宅看護論、精神看護学とか。
 このままですと、今、新たにできています遺伝看護学だとか、そのような形で様々な看護学ができてくるということの問題もあり、国際的にも、そういった領域別のカリキュラムではなく、看護に必要な能力、コンピテンシーを基本にしたカリキュラムということが標準にもなってきている。そのことを受けて、平成16年から、コンピテンシーを基本にしていくということになっています。
 ただ、今回、非常に重要視したのは、今まで看護系大学、学士課程の教育では、看護師の国家試験受験資格と保健師の国家試験受験資格、選択ではありますが、助産師の国家試験受験資格を入れていたのですが、看護師はどこの大学も入れるのですが、保健師、助産師については選択制にいたしました。これまで看護師の国家試験受験資格と保健師の国家試験受験資格の二つがあるということが看護系大学の特徴でしたが、保健師の国家試験受験資格を選択制にするということになりますと、3年制の看護学校と4年制の看護学学士課程の違いはどこにあるのかということの問題が出てきます。
 そのこともありまして、23ページの一番上にあります、5つの要件を提示しました。一つ目が、個人-家族-集団-地域を対象とする看護実践である。二つ目が、あらゆる年代の人々に対する看護実践である。三つ目が、多様な場で、継続的なケアを提供できる看護実践である。4つ目が、健康から病気、疾病まで連続性を踏まえた看護実践である。5つ目が、ヘルス・プロモーションや予防を促進する看護実践である。ということで、4年制の特徴として、とりわけ5番目のヘルス・プロモーション、病気の人たちを対象とするだけではなく健康な人々も、看護職は対象とするということを明記することで、保健師の国家試験受験資格が選択制になるということの問題を少し解決したというのがあります。
 それで、その後にあります5つの群と20の看護実践能力ということで、先生方のお手元の資料にあるように説明しています。こんな形で実践能力を定義して、卒業時に必要な実践能力とはどういうことなのかということを述べたということになります。
 その次に、「学士課程においてコアとなる看護実践能力と卒業時到達目標-教育内容と学習成果-」ですが、これが比較的、コア・カリキュラムの中で取り入れられていることと似たようなことを、このような形で書きました。教育の内容と学習成果につきましては、これは例示であるということで提示しております。これはどういう議論の中でこういう形を最終的にはとったかと申しますと、コンピテンシーだけでは、ほかの領域、あるいは一般の方々から、看護学の学士課程を卒業する学生たちがどんな学びをしているのかが見えないということでしたので、教育内容と学習成果の例示を示せば、どういうことを最低限学んでいるかということを示すことができると考えたからです。
 この中でも幾つかの指摘がありました。看護学というのは、解剖生理学といったものを基本にしているんですけれども、そういう基礎医学の部分がこれでは不十分ではないかとか、そういった御指摘もありました。ただ、これは、先ほど言いましたように、看護実践能力という部分であって、看護学の学士課程全体を示すものではない。ですから、看護学全体としては基礎医学も十分取り入れていかなければならないということは承知の上で、看護実践能力と卒業時の到達目標を出させていただきました。
 私の個人的な意見になるのですが、看護学という学問の性格からしますと、医学や、もちろん先生方の専門とする薬学もそうですが、そういった知識を活用して看護ケアを生み出していくというところに学問の特徴があることを考えると、実践能力をどのように教育するかということに特徴を持たせなければ、看護学の教育の特徴が出ないということになると思います。ですから、私たちの看護学の教育の中で一番重要視するのは、学生たちにどのような看護実践能力をつける教育をし卒業していただくかということに尽きるということです。看護実践能力の育成に中心を置いたということが、今年度までの研究成果です。
 最後に、看護学、薬学教育が今後どのようにあったらいいかという希望も含めてですが、教育の独自性を出すために一番必要になるのは、医学の方が相当進んできてもいるし、それを看護学でも取り入れてはいるんですが、やはり教育方法をどうするのかということだと思います。今日、PBLとかそういったものが重要視されていますが、その問題をどうするか。これはひとえに教育をする者の教育力の問題にはね返ってきます。ですから、そこが薬学の先生方にとっても多分、大きな課題になるのではないかと思っています。
 私は今、医科大学におりますので、医学部の先生たちを見ることができます。医学部の先生たちの特徴は、医学部は附属病院を持っていますので、そこの中で臨床教育ということをやってきたのですが、でも、医学部の先生たちのこの数年の努力を見ますと、診療と研究が中心で教育ということが中心ではなかったので、教育ということをどのように取り入れて自分を変えていくのか、これがFDでの大きな課題でもあり、そのことに非常に努力をしてきたのではないかなと思っています。
 そういうことを考えますと、私自身が今、一番大きな課題としているのは、看護における臨床教育ということです。多分、薬学においても臨床教育をどのようにするのかということが大きな課題ではないかと思っています。看護学の中で直面している問題は、免許を持たない学生にどこまで具体的なことをさせるかという問題です。御存じのように、看護学では逆に、何でも学生のうちにやってきたというのがあります。私は随分古い教育になりますが、40年も前の教育ですので、注射などは学生のうちに経験するというのが当たり前のことでした。そういったことが、患者さんたちの人権を守る、あるいはリスクの問題等から、できなくなってきたというのが、看護教育においてはあると思います。そういうことも含めて、臨床教育、とりわけ免許を持たない段階でどういうことまでを経験できるのかという課題があると思います。
 今日の市川先生のプレゼンテーションの中に、6年を終えたら即戦力ということが入っていましたが、即戦力というのはどういう即戦力なのかということも問題です。看護学では、かなり切り替えてきました。ここにも出ていますように、ベッドメーキングだとか簡単な看護技術というものは、訓練すれば臨床にでてからでも習得できる。しかし、知識をどのように使っていくのかという知識の活用についての教育はかなりの年月が必要になります。とりわけ入学してからの積み上げでなければこれはできない。こうした教育をどのようにするのかということが課題であり、多分、薬学の先生たちも、同じような悩みを持つかなと思い、そこが課題かなと思っています。
 私たちも今、修士課程で専門看護師という教育を行っています。国際的な水準からすると、学士課程と、修士課程を終えた6年の教育が、Advanced Practice、要するに高度実践のエントリーレベルだと言われています。そういう意味では、薬学という高い専門性を持つ薬剤師たちが6年を終えるということは、エントリーレベルで、その後、博士課程などの大学院教育をどうするのかということもあり、その長いスパンの中での6年の教育であるわけで、そういうことからすると、6年までの到達目標をどの点に置くのかということが大きな議論の的になるかなと思っています。以上です。
【市川座長】
 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまの中山委員の御説明について、特に臨床教育のうんぬんで、松原委員、どうぞ。
【松原委員】
 一つ質問させていただきたいんですけれども、学士課程におけるコアとなる看護実践能力、こういうものをおつくりになって、すばらしいと思いますけれども、それは、4年制大学の中における、薬学でいけば臨床薬学の部分のみですよね。例えば薬理学とか解剖学、生理学、そういうものが看護学の中に入っていますから、私も循環から交感から、私の大学の看護、医学科の薬理、どこも全部教えているんですけれども、非常に混乱するところがあって、看護の先生と話していると、コアとなるのはその上の話の看護のところだけで、基礎のところも全く触れられないままになってしまっているという、その辺の関係はどうなんでしょうか。そこは薬学上の問題になるんだろうと思うんですけれども。
【中山委員】
 これは、両省の学校養成所指定規則の中で科目が入っていますので、基礎医学系の科目は、どこの大学でもきちんと入れていると思います。
 それからもう一つは、やはり国家試験の縛りがありますから、学生が国家試験に受かるということは、どうしても看護系教員にとっても大きな課題になりますので、そこのところでの最低限の知識は縛られていると考えていただいたらいいのではないかと思います。
 その上で、その知識をどう使うかということが臨床教育と考えています。
【松原委員】
 それと、これは管轄の省庁が違うから一概に言えないんでしょうけれども、看護師の免許、資格を取るということは、薬剤師を取る、医師免許を取るというのも同じことなんですけれども、3年と4年と言われましたが、准看護師が看護師の受験資格を得るための2年制もありますね。2年制の看護師教育課程、3年制の看護師教育課程、4年制の看護師教育課程、それに准看護師の方に、今度は高校の中に併設された准看、これはまた文科省になってくる。非常に複雑な体系になっていると思うんですけれども、そこの中をすべてカバーするという意味でしょうか。
【中山委員】
 これは大学教育だけです。学士課程教育だけでという形になっています。今、言いましたように、全体としては看護系大学が増えてきたといいましても、今、国家試験の受験資格のある学生数から見ますと、半分が3年制の課程、4分の1が大卒、4分の1が進学コースと、このぐらいのことですので、30%も看護系大学の卒業生は満たされていないという状況です。これは大きな課題だと思うんですけれども、今、日本の中で140万人ぐらいの看護職というのが、准看護師さんも含めましているのですが、一体どのぐらいの層を、どういう仕事をする人として必要かということについての議論がまだきちんとなされていないわけです。先ほど言いました高度実践能力を持つ看護師にしても、全部の看護師がそうなる必要はないのだと思います。
 そうなってきますと、学士課程の教育を終えた人の中で、ある部分の人たちが修士課程に進んで高度実践能力を持ち、そして博士課程に行くという道をとるだろう。それが、全体のどのぐらいが日本のこの状況の中で必要なのかということについての議論も、試算もされていませんので、まだわからないのです。現状では、4分の1ぐらいの看護系大学を卒業した学生たちを社会へ送ることで看護の質を上げようと目指していると考えていただければいいと思います。
【松原委員】
 奈良先生にお聞きしたいんですけれども、医学のコア・カリキュラムの場合の国家試験とのリンク、さっき先生がおっしゃいましたけれども、現状では、例えば基礎医学の中から出てくるのは社会学系のみからの出題しか、ほぼないですよね。公衆衛生、法医学分野ですね。そうすると、看護系の場合だと、コアカリと連動せずに、厚労省が独自に国家試験の出題範囲を決めているということになるんでしょうか。
【中山委員】
 看護系の教員たちがほとんど入っていますので、独自ということにはなりませんけれども、厚生労働省の方が国家試験の出題基準というのは出しております。先ほど言いましたように、大半が看護系大学ではありませんので、厚生労働省が管轄している看護学校の学生たちが国家試験に受かるように配慮しての出題基準になるかと思います。
【松原委員】
 多分、ここで問題になるのは国家試験とのリンクの部分で、薬学のコアの問題になるんですけれども、先ほど聞かれたんですけれども、医学系の場合は解剖学とか生理学から問題を出したりとか、そういうことは以前にはなかったんですか。
【奈良委員】
 医師国家試験でも一部、基礎医学に関する出題はあります。また、基礎医学と臨床医学の統合の観点からは、臨床症例を対象に、臓器の構造や機能を問うといった基礎医学の内容にも触れられる問題があります。
【市川座長】
 そうしたら、まだあるかもしれませんけれども、ちょっと時間が追っておりますので、後で時間ができましたら、またこの議論を進めさせていただきます。どうもありがとうございました。
 それでは、次に、本日は大変お忙しいところ、全国薬害被害者団体連絡協議会の世話人代表をされておられます花井十伍さんに御出席いただいていますので、花井さんから御意見を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
【花井氏】
 こんにちは。花井といいます。今日は、お呼びいただいてありがとうございます。
 私は、いわゆる薬害被害者という立場でもあるんですが、個人的な話をさせていただきますと、私は薬害エイズの被害者ということになります。そういうわけなので、もともと血友病患者で、ずっと医療にかかわっていて、今、HIV感染症の治療も続けているので、患者という視点も結構あります。そういう立場からお話しさせていただきます。
 資料は5で、字が小さくて恐縮ですが、まず、私たちは全国薬害被害者団体連絡協議会という、何ですかと言われるんですけれども、これは薬害被害者団体のスモンの人たちが1987年ぐらいから非常に薬害根絶ということを言っていて、イベント等々をやっていたわけですね。そこに、96年にエイズが和解した後に、京都で、一緒にやろうという話がでた。私もちょうど京都にいたものですから、やろうということになって、一緒にやっているうちに、これは、複数の薬害にはいろいろな違いがあるし、それを知り合うのは大事だし、いろいろなことをやるのに大同団結が要るんじゃないかということで、当時は6薬害ですが、薬害そのものが増えるので、今、9薬害11団体ということで活動しております。
 大同団結がどんなのか、難しいんですが、要は、目的は薬害根絶だけであって、例えば被害者救済の福祉とか医療体制、そういうことをやるといろいろ大変なので、飽くまで薬害をなくす、この1点でやるんだということで、今でも活動しております。
 それから、スライドで左下になりますが、これはちょっと字が小さくて見えにくいんですけれども、薬害の発生というのは、強く薬事行政との関連があって、原発なんかは被害者がいないものだから、ずーっと利益相反とかそういう概念すらないまま来たんでしょうけれども、薬害の場合は、サリドマイドのときから少しずつ問題点が、被害が無駄にならなかったと喜んでいいのか、被害が起こらないと直らないと言って嘆いていいのかわからないですが、少なくとも何か起こるごとに薬事法等々を見直して制度改革をしてきた。一番新しいところで、薬害肝炎が終わったところで、今度、抜本的に薬事法をまた改正しようということで今、議論をしている最中であります。ということで、基本的に薬害というのは、極めて薬事行政と近いところでやっていますということになります。
 それから、右下ですが、薬害というと、副作用とどう違うんだとか、いろいろ概念論が出てくるんですけれども、基本的には医薬品というのは、変な話ですけれども、医療に使うものは医薬品という、自己言及的な定義になっていて、医薬品と呼ぶもの、一般の化学物質が医薬品になるためには、医療に使えるという定義、薬局方とかいろいろ薬事法上はあるんですけれども、そういうことなので、要は患者に利益のあるものを医薬品とするということを、大ざっばに言えばそうなっているわけで、だから、本来、利益が全くない、むしろ害の方が多いというものが売られていれば、これは薬害だというのが、単純に言えば薬害であるということです。
 これにつきましては、めくっていただいて、2枚目の左上ですけれども、僕らも定義とか概念をいろいろやっているんですけれども、あんまりクリティカルにやってもそんなに意味がないんですけれども、幸いレギュラトリーサイエンス財団が出版している本で、ちょっと整理してくれたものがあるので、ここに示しました。
 マル1が、いわゆる副作用で、適正に使っても副作用は起こるというもので、SJS、スティーブンス・ジョンソン症候群とか、ワクチンの副反応とか、そもそも医薬品が、容認しているということですね。
 マル2は、用法用量、使用上の注意を守っていれば防げた副作用のうち、その被害は個人レベルということなんですが、糖尿病の治療薬とか処方ミス、それから、ハルシオンを飲んで、お酒を飲みましたみたいなものを含めて、用法用量を守らずに起こった個人レベルで被害ということで、これはある種、右側に書いていますが、医療過誤的なものもあれば、薬物乱用というものも入るので、これも薬害とは言えないんじゃないかという感じのものですね。
 マル3に行くと、今度は、注意を守っていれば防げたんだけれども、その被害が個人を超えて広範囲であるという場合ですけれども、例えば添付文書改訂後のイレッサです。改訂前は薬害だと、今、裁判で争っていますけれども、僕らもそれを主張するわけですが、改訂後はある種――これは、すみません、「ゲジチニブ」は違いますね。イレッサのことであります。「ゲフィニチブ」と書こうと思って、変換ミスでありますが――間質性肺炎であるとか、それから陣痛促進剤に関しましても、添付文書改訂前は、改訂できていない製薬企業と行政の不作為的なものがあるんですが、改訂後は使い方の問題ということになります。しかしながら、それは個人、医療過誤とかそういう問題だけなのかというと、やはり医薬品の使い方について、適正になるように広く周知しなければ、なかなかそうならないというものに関しては、ある種、行政的な責任もくしはメーカーの責任というのはあり得るんじゃないかということで、ちょっと薬害に近づいてくる。
 一番最後は、典型的に薬害と呼んでいるんですけれども、僕は、一番の興味として、一番下の部分を言っているわけですが、企業や行政の瑕疵(かし)、不作為等が原因で起こった医薬品による健康被害で、多くの場合は国賠訴訟なり、メーカーを訴えるという話になる場合で、これは社会的に広範囲に被害が及ぶ。スモンなんかは1万人も被害者がいますし、サリドマイドは300人と言われていますが、日本の被害者は大分前のところで、殺されているというのはあれですけれども、ヨーロッパに比べると障害の重い被害者はなぜかいないというところもあるので、実際にはその倍ぐらいいるんでしょうけれども、わりと元気に300人の被害者が何とか生きている。エイズについても1,500人という数で、かなり広範であるということで、この辺を薬害と、僕らは呼んでいいのかなと。
 右上ですが、これは違う側面からですけれども、医薬品のいわゆる普通の副作用は、医薬品副作用被害救済制度、それから、その後につくられた、血液製剤による感染被害救済制度というので、異なる救済制度があるんですね。皆さんには釈迦(しゃか)に説法ですみません。では、これで対象にならないものは何と書いてあるかというと、ちょうどこれが左の図と合っているんですけれども、法定接種、これは予防接種法で公衆衛生上のコンテクストで使われているものなので、ちょっと違うということでありますし、2に関しては、これこそまさに薬害であって、製造販売業者の損害賠償責任が明らかな場合は副作用とは言わない。そっちに請求してくれということで、救済制度では対象にしない。
 3は、緊急の場合ですね。これは普通そうだろうと。
 4の場合は、締切りが切れました。これも普通、制度として、締切りが切れたものは救済しませんよと。
 5、適正に使用しなかった場合ですね。これが先ほどの左側のマル2に該当して、いわゆるオーバードーズであるとか、医療過誤的なものはそっちでしょう。個人責任か、もし本当に投薬ミスであれば病院を訴えてくださいみたいなことで、うちは払いませんということです。
 一番最後が、今、議論しているんですが、抗がん剤ですね。かなり高い確率で、しかも重篤な副作用が起こることは最初からわかっているけれども、これを医薬品としてリリースするというものを全部救済していたら、それは全部になっちゃうだろうということで、議論で外れていたんですけれども、それはわかるけれども、それでいいのかというのはずっと僕らは言っていたんですけれども、やっと今回、いよいよ抗がん剤についても救済できるかという検討が始まっております。
 そんなわけで、厚生労働省、旧厚生省と親和性が高い僕らなんですが、左下ですけれども、薬害と薬学教育というのはどこで接点があったか。まず、薬害ヤコブの和解確認書があるんですけれども、これは初めて厚生労働大臣が、我が国で医薬品等の悲惨な被害が多発していることを重視し、その多発性を防止するために、医学、歯学、薬学、看護学の教育の中で過去の事件を取り上げるなどしてやる、こういうふうに和解確認で、当時、坂口大臣とも約束して、教育は大事だということになったんですが、実は99年から、私たちは文部科学省ともお話しして、それはなぜかというと、もともと日本の医療提供の基礎が医学系の大学という文部科学省管轄であって、厚労省にばかり言ってもしようがない。使われている現場はやはり文科省だろうということと、それからもう一つは、初等中等で、子供たちを被害者にしたくない、加害者にもしたくないということがあって、教科書を調べたり、そういうことをやったのが99年からで、99年ごろは文部科学省とお互い相互理解は難しかったんですが、今は文部科学省さんはかなり、平成15年以降ぐらいは本当に、むしろ厚生労働省より先んじて、薬害ということは大事だというふうに積極的に進めていただいています。
 下の矢印ですが、そんな和解があったのは知りませんと文部科学省がおっしゃって発覚したわけです。厚生労働省へ行って、ちゃんと文部科学省の人が教育が大事と約束したんだ、厚生労働省はちゃんと伝えたのかと問いただしたところ、いや、もごもごとなって、それはいかんということで、僕らがお願いしたら、むしろ文部科学省が、ここに書いてあるように、単なる副作用ではない、社会的薬害というものをちゃんと取り上げるということをまさに推奨していただけたんですね。
 そういう経緯があって、結構、被害者を講師とかに呼んでいただいたり、今日、太田先生はお休みですが、広島大学なんかは、5人ぐらい被害者が行って、1泊2日でグループをつくって、研究者と、1学年全部という形でやっていただいて、こちらも勉強になりますし、学生さんも勉強になるということで、行った被害者はみんな感激して帰ってきた。
 右下ですが、もう一つの視点として、薬学教育とレギュラトリーサイエンスということなんですけれども、レギュラトリーサイエンスといいますと、ちょうど今年の8月19日に内閣府の科学技術基本計画、これはどちらかというと政治家がかった方ですね。下、国民の健康増進を支える薬害研究、これは内閣府の日本学術会議の方、これはむしろ専門家の人たちが多いところですが、同じ日に、レギュラトリーサイエンスが大事だよということが盛り込まれていまして、そこの定義ですが、上に書いてあるとおり、科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会の調和の上で最も好ましい姿に調整する科学というふうに言われているわけです。
 レギュラトリーサイエンスといいますと、ともすれば医薬品のレギュレーション、つまり規制科学であるという考え方も、狭義の意味でとらえている方も多くて、むしろこれは医薬品の研究開発の段階で、レギュラトリーサイエンスということであるという理解もあるんですが、決してそうではない。まさに医薬品との調和というところであれば、臨床医学なんかもある種レギュラトリーサイエンスであるといった考え方が今、少しずつ理解されていて、もちろんFDAとかヨーロッパの規制当局もレギュラトリーサイエンスというのは推進しているんですけれども、若干、アメリカとヨーロッパでは温度差があるものの、基本的にはこういった思想のもと、専門家として何ができるのかということであります。
 したがいまして、下の矢印ですが、薬学教育において、レギュラトリーサイエンスというのは規制科学じゃないんだと。薬剤疫学とか生物統計という分野はわりとレギュラトリーサイエンスに親和性が高くて、こういうことかなということは、かなり専門家の方々でも御理解いただけるんですが、しかしながら、人と社会に対する深い理解と尊厳を持って人文科学の領域に関する教養も基盤としたものであるという部分については、なかなかこれは、トランスサイエンスといいますか、そういう部分についてはなかなか、専門領域からちょっと外れているので、教養というものにも支えられているし、ある種、社会科学というものにも支えられるので、なかなか入りにくいところではあるんですが、しかし、単なる規制のレギュレーションだけを研究する、若しくは創薬の部分で生物統計の専門家を育成するということでは、レギュラトリーサイエンティストが育成されるとは言えないんじゃないかという趣旨であります。
 めくっていただいて、3枚目ですけれども、レギュラトリーサイエンスに関して、ちょうど学会をつくりまして、第1回学会があったので、そこで私が発表した話なんですが、今の話の続きなんですけれども、要は科学的専門知識というのと、所与の生命としての患者と書いていますが、要は社会そのもの、患者そのものというものの間に、リテラシーとか、インフォームド・コンセントとか、そういうインターフェースがあるわけですけれども、インターフェースの問題だけではないだろうということで、ここに書いてあるとおり、やはり医薬品というものが典型的なんですけれども、過去のデータで、帰納的推論によって確からしさを増していく。データ数が増えれば確からしさは増進する。
 これが科学のモデルで、帰納的推論モデルと思うんですけれども、これはいわゆる蓋然性の世界で、プロバビリティというふうに考えます、プロバビリティの世界が過去を基礎にするとすれば、患者というのも一度限りの生を開かれた未来に向かって生きているわけですね。いわば確認しながら進むんですね。これは帰納的というよりも演えき的であって、ある種、これは可能性の世界である。これは未来に開かれているわけです。未来ってわからない、どうなるかわからないというところであって、これはまさにポシビリティの世界。
 医薬品の、あなたが何%効きますかというのは、この薬を飲んだら何%ぐらいこうなりますというときには、確かに説明ではそうなんだけれども、患者がそこでそれを選択するという行為は、必ずしもそういうものではないんだ。蓋然的な、科学的もものがそのままインフォームド・コンセントされて、患者が使って、そうだねということではなくて、患者が選択していくプロセスそのものに価値を見出(いだ)すということなんだろうということを言わせてもらったわけです。
 その下に、その心はというと、結局、医薬品というのは不完全な商品でしかないので、現場に出て、どんな医薬品でも、治験から上がってきたデータではこのぐらい効く、有効性が高ければ。御存じのように、発売されれば有効性はどの薬でも右肩下がりになるという現実があるわけですね。これは当然です。多様な使われ方をするわけだから、きれいなプロトコルにあったようなところで出たデータとは違うというときに、確かに未知の副作用も出てくるし、それから、使い方もこなれてくれば用法用量も変わるし、併用薬の使い方もある。
 僕はよくAZTという世界初のエイズ治療薬のことを例に出すんですけれども、87年のAZTは僕らも飲んでいたんですけれども、ひどいものと言ってはなんですが、用量も今の倍ぐらいで認可されていました。しかし、当時はそれにすがるしかなかったので、患者は苦しんだわけですね。だけど、それでは薬害かというと、そうじゃないと思うんですね。その苦しみというのは、当時は、それを最初に認可するというのは当然の選択肢だったし、それは正しかった。ただ、今、AZTは、その後の新薬に押されて使われなくなったんですけれども、その後、新薬の方の長期副作用が問題になって、それはもう売られなくなって、また復活して、合剤とかになって、ファーストラインで非常に使いやすい薬として復活しているんですね。
 だから、化学物質としては全く同じであっても、結局、患者は七転八倒しつつ、何年かたつとこなれてきて、育薬というんですかね、そういうことがあるということなので、この不完全性と闘うというのが専門家の宿命だと思うわけです。だから、そういう意味で、薬学教育ということの中には、患者も含めてですけれども、物の不完全性、だけど患者のために使う、これは非常にシビアな宿命だと思うんですね。そういう人たちがいるから、逆に言えば、患者は安心して未知の領域に飛躍できるということを申し上げたかったわけです。
 そういうことで、エイズの世界は、かなり早い段階でチーム医療をやっていまして、私どもがブロック拠点にしている大阪医療センターでも、エイズばっかりが3診あって、もう一つの診療室は薬剤師さんが常にチーム医療でやっているし、セカンドオピニオン的でもあるし、それから、臨床研究でも、薬剤師さんが研究リーダーの臨床研究を、医師はそれを手伝って、ナースも手伝うということもやっていますし、まさに対等ですね。ナース、カウンセラー、ワーカーさん、薬剤師、医師、本当の対等性というのがエイズの世界では実現しているので、今後、6年制を出てこられた学生さんたちは、そういうところで臨床的実践を積んでくれると非常に有り難いし、僕らはうれしいなと思います。
 それから、追加なんですけれども、医薬品を安全に使うシステムですね。虎の門病院なんかちょっと先進的にやっていますけれども、医薬品情報があふれて、PMDAも緊急安全情報のレターを出してくれるんですけれども、増え過ぎると油断につうじるし目を通しきれない。そうすると、必要なところに情報を提供するという仕事は、医薬品安全管理責任者というのがいるんですけれども、形骸化していて、機能させようとするとやはり四、五人のスタッフが医薬品の安全マネジメントを病院の機能として盛り込む。こういうのが診療報酬上、評価していないのも問題だと思いますので、そういうことが評価され、病院の機能として、ある程度、薬剤師の機能というものが位置づけられれば、そういうことも可能かなと思います。
 最後ですが、モデル・コア・カリキュラムに関する要望としていますけれども、これは以前に私たちが、毎年1回の文部科学省との話で提案したものを、ちょっと手直ししたものです。
 (1)ですが、薬学や医療被害の歴史と事実経過、その背景や真相などを、再発防止を強く願う被害者の視点から伝えてくださいということです。
 (2)ですが、事実でない情報を発信したり、そのような情報に惑わされないように、薬学等の事例や偏見、差別の歴史を伝えてほしい。薬害被害者というのは、スモンもエイズもそうなんですが、差別に遭っているという部分もありますし、それから、ともすれば、科学的な言説を装った政治的言説というのが結構ありまして、そういった中で、薬害被害者って、ある程度政治的な存在なのかもしれませんが、専門家はやはりサイエンスをもとに発言してほしいということで、そういう人材を育成してほしい。
 (4)です。科学を根拠に仕事をする者として学問的良心、人間を相手にする仕事をする者として、職業的良心を大切にする価値観。だから、科学者としての良心、それは人間としての良心という側面をお願いしたいということであります。
 (5)ですが、患者、社会的弱者、薬害・薬剤の副作用、医療事故被害者らを救済する制度を伝え、救済の役割を担えるようにする。先ほどもちょっと触れましたが、そういう病院のセクターが、救済制度に対するアセスメントをしてくれると非常に、今、救済をほとんどされていないというか、全体の救済されるべき副作用被害を多分、多く見積もって3割救済されたらいい方で、それを、さっきあったように、適用外というか、不適切ははじくと言われると、医師が積極的に副作用と書きにくい部分はあると思うんですね。だからそこを、そうではないので、別に医療過誤とかそういう話をするわけではないので、そこのアセスメントなんかを病院の機能として持ってほしいし、いろいろな救済制度というものを理解していると、薬剤師さんがかかわるとうまくいくと思っています。
 具体的なことは細々下に書いていますので、マルのところは後でごらんになってください。私からのお話は以上でございます。ありがとうございます。
【市川座長】
 どうもありがとうございました。薬学教育の問題を薬害の教訓から生かして、取り入れていって、さらなる充実をしてほしいということで、お言葉の中にも、「育薬」という言葉を使っていただきましたけれども、非常に重みのある言葉だと思います。御質問とか、あるいは、今後どのように薬学教育の中に生かしていくかというところ、もっと具体的に何かあったら、いかがでしょうか。
 先ほどのエイズのお話の中で、チームというか、患者さんを中心として医療にかかわるお医者さん、看護師さん、薬剤師、その他の方々が一緒になって問題を共有できるというか、あるいは解決に向かっての話合いをするということがあって、非常によくなったということというのは非常に大事なような気がするのですが、その辺について、もう少し説明を……。
【花井氏】
 先ほどの医薬品の、虎の門病院のようなセクターもそうですし、それから大阪医療センターや国際医療研究センターのエイズセクションもそうなんですが、残念ながら、そこでついている薬剤師もやたら多いわけですよ。そんなに雇えるということは通常はなくて、特別な、例えば科研を取って、リサーチレジデントで何人か張りつけるとか、あと、被害者なんかが言っているから、国は独立行政法人の病院機構にちゃんと定員を確保しろということを言って、ある種、税金で特別なことをやっているからできているということがあるんですね。外来にナース4人もいますし、それはほかの科に比べるとちょっとあり得ないし、ただ、そういうところを、本当の医療のクオリティーという部分にもっとリソースが配分されるべきだと思います。
 少なくとも医薬品を安全に使うという機能は、病院が持ってしかるべきで、それを評価しなくてどうするんだという僕の思いがあるので、そういうのを理解してもらわないといけないというのが悩みというか、問題ですね。だから、今、非常に経営が厳しい中でやっているので、せっかくいいものをやろうと思っても、正しく評価されなければ、そんな数は雇えないということで終わってしまうし、先ほど、医薬品安全管理責任者ですか、一応制度としてはつくったんですが、多分、ほとんどワークしていないだろうと思います。
 4人ぐらいのチームがいて、やればできるだろうけれども、そんなことをやっても一切もうからない。やはり病院における薬剤師の機能、それから、医薬分業における薬剤師の機能というのを本当にワークさせるために、必要なリソースを割くということをやらないと難しい。そのためには、皆さん専門家たちの合意も要るし、国民の合意も要るというところを何とかできたらなと思います。
【市川座長】
 そのあたり、平井委員、何か。
【平井委員】
 花井先生には、非常にいいお話……。
【花井氏】
 先生じゃないです。
【平井委員】
 ごめんなさい、花井さんには前、非常にいいお話を伺って、学生が大変感銘を受けまして、有り難かったので、そのときのお礼をまた申し上げたいんですが、また、本日、非常に重いお言葉を頂きまして、最後から2枚目のスライド、患者が命をかけて育てるという宿命を持つ不完全な商品ということで、この言葉というのは本当に私たち重く受けとめなければいけない。
 でも、いろいろおっしゃっていただきましたけれども、私も医薬品安全管理者として、十分な仕事はできておりませんが、いろいろなことに関しては、医薬品情報室とも協力して、院内での適正使用というのは努力しているつもりです。そこに薬剤師の病棟配置を絡めるというのは本当に大事なことで、今、医療安全の部分が大変ロードがかかっているんですけれども、それに対して措置が十分に講じられていない部分もありまして、これは我々の病院自身の努力も必要じゃないかと思っておりますけれども、制度の方もサポートしていただけると非常に有り難いと思います。
 薬学教育に対しても、非常にいろいろなことを提言していただいているんですけれども、レギュラトリーサイエンスの人文科学領域に関する教養も基盤としたものであるという、これはすごくポイントであって、どうもコア・カリキュラムのところで、この部分というのは少しなおざりにされているような感じがなきにしもあらずなんですね。というので、こういうあたりを、薬害被害者の立場の御意見で、今こういうふうに出てきましたけれども、将来的にはどういうふうにこの部分、進めていったらいいかというようなことを、花井さん個人的な御意見でお聞かせいただければ有り難いと思います。
【花井氏】
 ありがとうございます。決して、安全解析ではサボっているということではなくて、仕事をできる体制をつくってという。
 レギュラトリーサイエンスに関しましては、非常に苦労しているところで、その域の専門家はなかなかいないですね。生命倫理学会が一番近い専門家がいそうな学会なんですけれども、生命倫理とかそういうのは結構、医薬品というのはかなり深い専門領域で、医薬品に通じつつ、エチカルなこともちゃんとやっている研究者というのは少ないですね。遺伝子治療とか、不妊治療とか、若しくは最近はニューロエシックスとか、いろいろありますけれども、そういうところはあるんですけれども、医薬品というシステムを知りつつ、そういう研究をしている研究者はなかなかいなくて、どうしても、ともすれば薬学ばっかりになっちゃったりするというところが今、苦労していて、学会のツアーを一応つくったので、そこでいろいろ芽のある若い研究者に声をかけて、いろいろ苦労していますね。
 論文のピアレビューをするためにも、手法が違うんですね。論文の書き方が違うでしょう。僕は村言葉とかいって、悪口ですけれども、各ディシプリンによってお作法が違う。そうすると、このようなディシプリンを超えたところというのは、なかなかそこは学会誌をつくるときにも、そういうところから詰めていかなければいけないところが苦労しています。
 ただ、一つだけ指摘しておかなければいけないのは、総合科学技術会議で言っているレギュラトリーサイエンスという、同じ言葉を使って、ちょっと同床異夢があって、もともとはこれ、ライフイノベーションで、日本の基幹産業の中で、シーズを早く出すという戦略に絡めている話なんですね。デスバレーと言われるところを埋めて、メーカーからいえば、イノベーションギャップというのがあって、そういうことを払拭して、日本の医薬品産業を世界に名立たるものにしようという文脈で使われている面がある。それと、僕らのように、ちょっと実直なとらえ方をしているところとあって、この言葉は今、はやりの言葉になりつつあって、はやり言葉を使うと予算がついたり、人がついたり、そういうので出てくるとちょっとややこしい。
 そんな状況なので、簡単ではないけれども、原発なんかが今、まさにレギュラトリーサイエンスの最たるテーマですね。遺伝子組みかえ食品とかね。そういった社会的背景もあるので、少しずつ皆さんの御協力を得つつやりたいなと思います。
【平井委員】
 ありがとうございました。私は、レギュラトリーサイエンスというのは、みんなの幸せをサポートするための方策を探るものではないかなと思いますので、医薬品というか、今現在行われている医療の範囲を超えたものであっても、それをきちんと科学的に評価できるような方策があればいいんじゃないかな。このあたりは中山先生なんかの看護の領域ともコラボしなければいけない部分だと思うんですけれども、そういうことをやっていけたらいいなと思います。またいろいろと御指導いただければと思います。
【花井氏】
 一つ言い忘れましたけれども、その意味では、単純に言えば、レギュラトリーサイエンスは薬が認可されるまでだけのものだという考え方じゃなくて、使われている段階でと。そうすると、そのときに、適用拡大のための研究はたくさん研究費がつくんですよ、メーカーが出すから。ところが、臨床に出てから、その薬の評価を違った面で評価した方がいいんじゃないか、リスクがあって、研究にはお金が出ないですね。これは税金でやるしかないところなんですが、聞いたところ、数億レベルしかないという、厚生労働であれば。文科省はもうちょっと持っているかもしれませんが、足してもレベルが違う。
 そういうところがあるので、研究費が出る研究がいいということになっちゃうと難しい。だから、さっきから言っている、サイエンスと言いたいのはそこなんですね。だから、飽くまでデータとサイエンスというものをちゃんと科学者の目でやっていけば、決してそういうバイアスはなくなるというふうに、理想としてはそうだと思います。
【市川座長】
 非常に貴重な議論だったと思います。日本学術会議なんかも薬学とレギュラトリーサイエンスという言葉の関連というものが非常に大きな話題として、将来像を含めて今、議論しているところで、そんなことを含めて、また今後の議論にも生かしていきたいと思います。どうもありがとうございました。
 それでは、時間が追っておりますので、本日は3名の先生、医学教育の立場から奈良先生、看護学教育の立場から中山先生、薬害被害者の立場から花井さん、非常に貴重な御意見、薬学教育のカリキュラムを考える場合に非常に有意義な御指摘を頂き、また、私たちも非常に考えさせられる問題が多かったと思います。これを今後の議論の中に生かしていきながら、話を進めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 次回は、本日の議論を踏まえながら、一応、大きなまとめを事務局の方でしていただいて、それに基づいて、具体的にたたき台ができたら、それをもとに基本理念と位置づけというところあたりから、この委員会は少し固めていこうかなと思いますので、今までの議論も少し振り返りながら、次回のときに御意見を用意していただければと思います。よろしくお願いいたします。
 その他というところですけれども、その他、何かご意見があれば頂きたいのですけれども、特段のことがなければ、このまま先へというか、今年度の委託事業としてやっておくべき内容というか、先ほど一番最初に事務局から説明がありましたように、委託事業として作業部会、実際にそれを調査検討する会というのが今、応募が締め切られたという状態ということがありますので、委託事業に対して、どういう形のことをやってもらって、そういうデータをもとに私たちはやる、あるいは、そういうまとめをもとに議論していくということですけれども、何か特段に、こんなことを特に気をつけて、あるいはこういうポイントが欲しいというところがありましたら、お願いしたいんですけれども。どうぞ。
【井上委員】
 ちょっとよくわからないのは、今、例えば委託事業を受けたら、何をやるのかというのをある程度示さなければ、委託を受けた方だってやりようがないような気がするんですけれども、それが11月にスタートするのであれば、例えばこの会をもっと頻繁にやって、それなりの線を出さないとやりようがないんじゃないかなと思うんですけれども、いかがですか。
【市川座長】
 そのとおりだと思います。この会そのものはもう少し頻繁に開くような予定にしております。後で文部科学省から説明があるかと思います。
 委託事業は、応募が締め切られて、11月から実施することになると思うので、その前にモデル・コアカリキュラムの改訂の大きな方針、基本骨格が決まらないと、委託事業で何をやってもらうかというのは難しい。
 今、問題になっているモデル・コアカリキュラムを実際、6年間使ってきましたが、大学あるいはその関連のところで、どういう問題点が本当に出ているのかということを調査研究することは早めにでもできるのではないかと思います。問題点を各大学等にアンケートをとったりすることで意見の徴収はできると思います。
【伊東薬学教育専門官】
 今、現場で問題になっていることは何ですかということを昨年お伺いして、その中にたくさんコアカリの内容が出てきました。ただ、コアカリの中身はどうでしたかという調査は、実はしておりません。
 ですので、恐らく今後、細かい検討を頂くに当たっては、実態の例えば細かい部分、SBOのどこが足りないとか、どういうところが要らないという、そういうデータがあった方が今後の議論に資するということであれば、そういうことも結構かと思います。
【市川座長】
 ほかに、関連のことで、今、このようなことをしたらどうかというのがありましたら、どうぞ。
【井上委員】
 そのアンケートのとり方をどういうふうにするかというのが結構ポイントで、分野ごとに分けちゃったら、恐らく、みんな重要だと、そういうことしか出てこないわけですよ。だから、その辺のアンケートのとり方というのをよほど考えないといけないなと思いますね。
【市川座長】
 今日はちょっと時間がないので、次回の予定を……。
【伊東薬学教育専門官】
 次回は10月25日火曜日、10時半から12時半ということを予定させていただきたいと思います。場所は文科省の16階の会議室を予定しております。
 また、日程調整をさせていただきましたが、第4回目といたしまして、11月21日月曜日の夕刻17時からということでセットさせていただこうと思います。また御連絡させていただきます。
【市川座長】
 次回のときに、今の委託事業としてはどういうことをしてもらうかというのを含みながら議論を進めていきたいと思います。
 一方の作業としては、先ほど言った理念とか位置づけというのは少しずつ固めていく作業をこの委員会の仕事にしたいと思います。
 それでは、予定していた時間も8分ほど過ぎましたので、ここで会議を終了としたいと思います。よろしいでしょうか。
 事務局、終わりにしてよろしいですか。
【伊東薬学教育専門官】
 ヒアリングの件で、まだ追加が必要だというようなものがございましたら、こちらでまた調整させていただきますが、いかがでしょうか。
【市川座長】
 ヒアリングとして、ちょっと忘れていたのですが、今日は三つヒアリングを受けました。あと、モデル・コアをつくったところの日本薬学会の中に薬学教育委員会がございます。そこの委員会も今、薬学教育に関してはいろいろな思いを持っていらっしゃると思うので、そこに少しヒアリングをお願いするというのはいかがでしょうか。
 赤池先生、お願いできるかな。薬学会の薬学教育の方の委員会の内容。
【赤池委員】
 私がするか、あるいは、委員長は松木先生ですので、もしされるのであれば、松木先生にお伝えして、調整して、どなたかがこちらで説明することは可能だと思います。
【市川座長】
 そういうことで、薬学会の方をお願いすること1件と、それからもう1点は、日本薬剤師会と日本病院薬剤師会の方から、実務実習モデル・コアのところで、責任ある立場から……。
【松原委員】
 実習のところを。
【市川座長】
 実習のところで結構ですけれども、実習編のところを中心で結構です。今後の進め方として、先ほども言いましたように、モデル・コアカリキュラムと実務実習バージョンは一緒になるということで、それはかなり重みのあるものができ上がっていくと思います。そういう意味で、現場の先生方の考え方を頂いて、融合したときにどうするのかということを含めて、是非御意見をいただければと思います。一応、その3団体ということでよろしいでしょうか。
 次回は、ちょっと時間的にハードですけれども、ヒアリングを聞きながら、先ほど言いましたような調査の委託事業をどうするかというのも具体的に考えたいと思います。
 それでは、長い時間になりましたけれども、どうもありがとうございました。

 

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