大学における実践的な技術者教育のあり方に関する協力者会議(第3回) 議事要旨

1.日時

平成21年12月7日(月曜日)15時~17時

2.場所

文部科学省東館5階第4会議室

3.議題

  1. 大学における実践的な技術者教育のあり方について(案)
  2. その他

4.出席者

委員

谷口委員(座長)、有信委員(座長代理)、石川委員、内海委員、大西委員、大場委員、岡崎委員、野口委員、古田委員

文部科学省

加藤高等教育担当審議官、澤川専門教育課長、神田専門教育課企画官、その他関係官

オブザーバー

工藤WG委員

5.議事要旨

(1)開会  

(2)事務局から資料1~3を説明

資料3(大学における実践的な技術者教育のあり方について(案))に対し意見をいただき、資料2に反映して技術者教育のあるべき姿や方向性をとりまとめ、達成度評価のための学習成果評価指針や具体的な到達目標を示したモデル・コア・カリキュラムづくりを促進したい。 

(3)第1回~第3回WGについて、野口委員(WG主査)から補足説明

  • 技術者の定義(資料3のP8)をまとめた。
  • アメリカやヨーロッパの教育システムについても勉強したが、その物真似ではなくあくまで日本独自の教育システムを提案していきたい。
  • 工学に夢を持てるようにしていく。
  • 単なるものづくりではなく、技術革新的で創造的な社会に役立つ発想や開発ができるのが「技術者」という定義にしたい。
  • 日本の伝統は何だったのかと、過去100年間の工学の歴史を確認した。
  • 机上配布資料『日経ユニバーシティ・コンソーシアム 未来を創る工学~産業技術立国の実現に向けて~』(12月4日開催)にも示されているとおり、大学の技術者教育はやはり基礎力養成と工学リベラルアーツを重視すべきであり、技術者には志を持って挑戦し変化し続けることが求められる。

(4)柘植委員からの提供資料(資料4)を、工藤委員(WG委員)から代理説明

工学リベラルアーツについて(P24~P31)を中心に説明。

(5)「技術者の人材像」を中心に自由討議。

  • サイエンス(体系された知識)を使って問題解決にあたる人が「エンジニア」だという(資料3の)まとめ方は素晴らしい。
  • 日本の製品を見れば、そのまま技術者が分かると言える。たとえば戦後の自動車と現在の自動車を見れば分かるように、日本の技術者は素晴らしい進歩をしている。これまでの日本の技術者教育は、成功と言えるのではないか。ただ、なぜ問題となっているかというと、機械系・化学系と分野ごとの技術者は素晴らしいが、社会がもの凄い速さで変化しているのに対し、素早く変化していける技術者を育成できていなかった。これまでの技術者教育は間違っていなかったと思っているが、今後は社会や技術が変化したときにもきちんと適応できる技術者を育成していく必要があると思う。
  • 工学リベラルアーツは、工学系の人間だけでなく、人文系を含めた全ての分野の人に必要。
  • 社会が技術者を自然と尊敬するような雰囲気をどう作るかが最も重要。
  • 日本の技術は世界一だと思う。しかし実際出回っている製品は外国におされているのは、マネジメントの差ではないか。技術さえ良ければ売れると考える人たちが多すぎたのか。
  • 日本の製品は多機能に走りすぎ、オリジナリティーが無い。
  • 今の工学教育が不十分だということだが、何故不十分かということを具体的に見ていかないといけない。産業界が大学生に「即戦力にならない」と言っているのは、専門能力が低いということではなく基礎力が足りないということ。
  • 『創造立国に向けて』の提言を経済同友会で出したときの議論は、日本の技術は決して世界のトップになっていない。日本のものづくりのシェアがアメリカ並になったのはほんの一瞬だった。
  • 教育がダメになったわけではないが、今の学生を見て教育の仕方を変えないといけない。
  • 他の審議会でも言われているのは、産業界から出ている一番の危機感は、世界的に見て数学・物理やそれ以外の専門の基礎に関しての学力保証をまずするべきだということ。それに対しての答えをこの会議で出すべき。JABEEをやっていればいいなら、この会議自体不要。「社会人基礎力」に関する中央大学の取組み等のいろんな良い例があるのだから、提言をしてできるだけ多くの大学が取り入れるような仕組みを作らないと、この会議の意味は無い。
  • 専門分野を背負って専門分野だけで生きていけることは少ないので、基本が大切。基本的なことを教えるということについて、例えば日本でコースワークを充実させるというとおそらく先生方は大反対する。何故なら、コースワークを単純に講義だととらえているから。本当のコースワークというのは、知識を使える形で教えるトレーニングといえるもの。今までの大学の教え方にはそこに問題があった。今までそれが問題にならなかったのは、一部の優秀な学生たちが引っ張っていくことでその他大勢はそれについて行けばよかった。
  • もう1つの問題は、本当に優秀な人がエンジニアに来る確率が少なくなってきたこと。
  • 企業が一番困っているのは、戦力にならない学生、面接をした時にもアメリカと違って日本の学生はやりたいことが分かっていない、説明できないこと。
  • 教員が研究が第一だと言って、学生を細かい研究の戦力として使っているとそれでは学生がダメになると思う。ただ分野によっては自動制御の分野など、研究をやればやるほど広い知識が必要になり相手が広がっていく。
  • 創造力や意欲が湧くような教育ができているかどうか。
  • 今のように学生に毎週次々と論文を読ませていると、テクニックはいろいろ覚えるが、そもそも何故その問題を考えたか、をあまり考えていない。
  • 社会に出てもほとんどの人が大学の研究者ではないわけだから、それを踏まえてアドバンスとベーシックのバランスをとった教育をしなければいけない。それがなされてなくて今までは資質で乗り切っていたが、今はそういう状況ではない。アドバンスばかりやっていると、とても社会が要求するような人材ではなくなる。
  • 会社に入ると研究でもなんでも、以前に人がやったことの無いことを実現していかなければいけない。だから、過去の論文を読んで足りないところを研究するというパターンではもはや通用しない。
  • 基礎が大事と言うことで、修士1年生の授業に大学3年生レベルの内容の必修科目を作った。そんなものは研究でやればいいのではないかという声もあったが、それで就職は非常に増えた。
  • 大学院で『工学倫理(技術者倫理)』の必修を実現したが、こういうものは繰り返さないと身につかない。
  • 大企業に入った博士修了生が苦情を言っていたが、新入社員が最小二乗法や非線型解析やフーリエ解析といった理論的なことを大学で身につけずに来るので困っているそうだ。企業が大学に期待しているのは、基本的教育。
  • 基礎力が大事ということだが、その「基礎力」とは何か?分野によって違い非常に難しい。これを明確にする。企業側からそれを提示してもらえれば、大学側はかなり耳を傾ける。
  • CDIOを実際にやってみると知識の活用に効果がある。
  • 技術が何故必要かを分かってもらう必要があるが、小中高でそれをやっている時間が世界と比較してもほとんど無い。これをやらないと「工学離れ」が加速する。日本工学教育協会で技術教育を4年間議論した。科学技術(数学・生物・地学等)については時間があるが、技術教育の時間はまだほとんど無いというアンバランスが、今日の理科離れの原因だと思う。
  • また、我々自身も工学の魅力を発信していない。それらが相まって、工学部受験者の割合が20%程度しか無い。
  • 小中自体に技術系の先生がいないので、いくら文部科学省が「技術系教育をやれ」と言ってもそれは難しい。そこを産業界や大学の工学系が助けていかないと、本当の魅力あるものという風にはならない。
  • 女性が工学を学んだらどうなるのか、どんな職業に就けるのかの理解を深めて、女性の工学希望者を増やそうとシンポジウム等もやっている。男女を問わず、こんな仕事に就けるのだということを発信していくべき。
  • 最近は、一度工学部に入ると女性の方が優秀。博士号を取るよりも早くものづくりをしたいといって就職希望の学生が多い。
  • 大学で作ったものを高校生に実践デモしたりすると、かなり感動してもらえる。
  • 今の学生にはものづくりが面白いというエンジンと、そこからものを作るためにはこれを学ぶ必要がある等のガイドも必要。体感し、内から湧いてくるものが大事。
  • 基礎的なことを何度も繰り返ししっかり身につけさせることが大事。今の学生はあれもこれもいろいろ手をつけて消化不良。
  • 不十分なのは、基礎が一定レベルに達していないこと。
  • 大学の先生は自分の研究の労働力として学生を育てようとして、それに時間を取られ過ぎ、本来教えなければいけないことが他にもあるのにズレていく。
  • 予算の配分も、研究だけではなく教育にも必要。研究だと1億円レベルもあるが、教育は一番大きいものでも1千万円程度しかない。
  • 基本的な4年間の学部教育をまずしっかりするべき。会社の就職試験は非常にベーシック。特定の分野しか知らないということではなく、つぶしがきくように。たとえばどの学科でも同じような基礎的な内容を。
  • 企業との共同研究をやると、学生がもの凄く育つ。
  • インターンシップも、働かせるというより、面白いテーマを与えることもいいのでは。
  • 今の日本社会では、カナダのように長期インターンシップをシステムとして取り入れるのは難しいのかなと思う。ただ共同研究があるので、数ヶ月単位で預けたりするのは可能だが、やはりまず大学独自でやれることを体系的に、学部レベルはここまで、院レベルはここまで、ドクターはここまでと枠組みを作りきちんとやれば、日本の教育もいいところにいくのでは。大学にとってそれを具体的にできるかが現実的に問題だが、財政的な措置が出るかは別としてアクションを起こしていくべき。
  • JABEEも今までのあり方をどんどん進化させているので、それでやるのか、または別の制度を作るのかというところを、提言でまとめないといけないと思う。
  • 我が国独自の方法として一番いい形を、現状を踏まえつつ継続性を保ちながら移行できるような体制を。文化を創っていく必要がある。
  • PBLや共同研究や現場体験授業が工夫して行われているが、それが提案されても実際大学の先生はまだ意識が希薄なので各大学で実行できるかが問題。
  • あまり手取り足取りの施策を決めるよりも、目標だけ決めて具体的な実現方法は各大学に任せるようなまとめ方ができればいいと思う。みんなが同じ事をやる必要は無い。
  • 就職するだけならできるが、就職した後成功するにはどういう力が必要なのかという情報を学生に与えていく必要がある。
  • 教員も企業のことはよく分かっている必要があり、教員のインターシップや企業出身者の教員の採用も重要。
  • 問題は、教えなければいけないのに、教員が学生を部下と思ってしまうこと。
  • 教員の評価における教育業績に切り込まないといけない。
  • 内部昇進が増え、他の大学さえ経験したことがない教員も増えていることは問題。米国ABETの評価では、企業経営者の割合が聞かれている。
  • 日本の大学がアメリカの大学よりも勝っている点は卒論。だから卒論をもっと外部の評価委員などまで設けて、メンバーに産業界の人に入ってもらったりして、学習成果に対応しているか評価していくべき。
  • 全体として人間力を養いながらバランスも取っているプログラムを参考に、文部科学省がその内容を強制するのではなく、良い例をたくさん集めてあとは独自でやってもらう。
  • 産業界が何を求めているかは、大学だけでも分かるはず。産業界にそのアンケートをとっても、アンケートは結局平均値だから、気をつけなければならない。
  • 授業時間に限りがあるから1つの科目で複数の学習成果に対応せざるをえないが、それは各自で発明しなくても既にいい例もたくさんあるので、参考としての例示集が必要ではないか。大切なことはいくつか明示して、あとはそれぞれで工夫して考えてもらうことになる。細かいところまで並べるとそれを真似するおそれもある。
  • 例えば教育センターのようなものを造り、専門の教員、事務員を配置している例もある。ただ現実には、論文を書いている先生の方が教育もしっかりやっているので、教育だけやるというのは難しい点もある。
  • 日本は少資源国で、技術者教育を通じてこれからも国際的なフィールドで戦っていかなければいけない。教育をどう保証するか国際化に向けて、我々はこうしていかなくてはならないという議論をすべき。 

(6)その他

今後WGで具体的に議論しつつ、次回本会議の日程はおって調整していくことになった。

お問合せ先

高等教育局専門教育課科学・技術教育係