大学における実践的な技術者教育のあり方に関する協力者会議(第2回) 議事要旨

1.日時

平成21年8月3日(月曜日)14時~16時

2.場所

文部科学省旧文部省庁舎2階第2会議室

3.議題

  1. 実践的な技術者教育のあり方について
  2. ワーキンググループの設置について
  3. その他

4.出席者

委員

谷口座長、有信座長代理、石川委員、内海委員、岡崎委員、大西委員、大場委員、岡本委員、野口委員、古田委員
説明者:福崎専務理事(日本技術者教育認定協会)

文部科学省

加藤高等教育担当審議官、澤川専門教育課長、神田専門教育課企画官、神田専門教育課課長補佐、その他関係官

5.議事要旨

(1)開会 

(2)事務局より資料確認及び説明

(3)資料2「技術者教育認定の現状と課題」について、日本技術者教育認定協会の福崎専務理事より説明が行われた。

(説明要旨)

  • JABEEの今までの経緯、認定システム、認定から見た課題や審査の課題、今後の方向性について。JABEEのミッションは、技術者育成、国際的質保証、技術士・職業とのリンク、若者の魅力増加、産業競争力の強化、科学技術創造立国への貢献、学士課程への取組、ということである。
  • プログラムの認定は2001年から開始し、2005年に最も新規認定が増えた後、これまでに412プログラムが認定されている。分野は土木、機械分野が多い。高専の専攻科はほとんどが認定を受けている。これまでの修了生は9万人を超えている。今後はこれらの修了生が産業界でどのように活躍するかが問われている。
  • コミュニケーション能力については、現在は日本語による論理的な記述や発表ができるかどうかを審査しているが、英語による国際的なコミュニケーション能力が必要だという声が大きくなっている。
  • 2006年にアンケートを行った結果、色々な課題が出てきた。
  • 職業につながるような能力を具体的に示すことが必要。また、自己学習についてもJABEEではほとんど触れていないので、この点ももう少し変えていかなければならない。審査についてはアウトカムズにもっと目を向けていかなければならない。審査員の質の向上も必要。
  • 国際的にはエンジニア、テクノロジスト、テクニシャンというものが規定されているが日本はあいまい。日本はこれまで国内で技術者の職があったから海外に出ていく必要も限られていただが、今後はこれらを含めて考えていく必要がある。

(説明等に対する主な意見)                   

  • JABEEには若干不満を持っている。中身の議論はほとんどしないで、形式的なことに終始している。これでは評価していても、教育はよくならない。ヨーロッパやアメリカはそこまで踏み込んで審査している。
  • 休校があっても補講をしないとか、シラバスがないとか、形がきちんと整ってないという大学があったことから形式も重視してきた。今後は中身の審査が大事だと考える。
  • 審査員の質の向上が必要。
  • 自己学習は強要するのではなく、自発的に勉強する雰囲気をどのように構築するかということが課題。また、技術者、あるいは工学者の社会的地位をどう向上させていくか。社会の雰囲気をどう熟成させていくか。それがあれば技術者や工学者も増えてくるし、優秀な人材も来る。
  • 議論するためには、技術者のレベルを分けて議論をする必要がある。いわゆる世界のリーダー、トップとなるような技術者、いわゆるミニマムリクワイヤメント、及びその中間くらいの技術者の3つ程度にレベルがあるのではないか。
  • 最初からレベルを意識すると、議論が混乱する可能性もある。日本の優秀な技術者は、質は優秀だが、それがきちんとクオリファイされていないと、外国には通用しない。そのクオリフィケーションにつながるようなシステムとしてきちんと機能するようになっていなければならない。このような形式的なこともやはり重要である。その中で、さらに質的に優秀であるかどうかはまた違う議論であり、さらに優秀な技術者を育てるための教育内容はどうすべきか、ということを次のステップで議論しなければならない。基本的にこの会議で議論すべきことは、技術者に何が要求されるか。その要求されることが教育プログラムの中できちんと教えられているか。それをどうやって確認すればいいか、ということ。その際気をつけなければならないのは、基本的に質の評価はできないということを最初に議論してしまっているということがある。ところが、一方でアウトカムの評価をしなければいけない。質の評価をできないというのは、グレードの評価ができないということで、つまりこの大学は、これだけの優秀な学生を送り出しているというグレードの評価を評価団体はやらない。ただし、その質の高い学生を送り出すための教育システムがきちんとできているかどうかを評価するということになった。
  • その際に、教育システム評価が具体的な内容とどのくらい結びついて評価されているかということが問題になる。JABEEも、課題、問題設定、解決策、というサイクルがきちんと回るための具体的システムや、PDCAが十分機能しているかなどの問題意識をもって進められていると思うが、審査員にさまざまなばらつきがあるため、それでうまくいってない部分もある。この会議では、エンジニアとしてどういう知識が要求されているか、ということと、実際にどのような教育を行えば優秀な技術者を送り出せるのか、ということを分けて議論すべき。

(4)資料3「工学系学部・研究科における技術者教育の実施状況調査結果概要」について事務局より説明が行われた。

(5)工学部関連の最近の新聞記事等について、野口委員より説明が行われた。

(説明要旨)

  • 河合塾ガイドラインという雑誌で工学に関するアンケートを実施しており、工学に関する教育が中学・高校であまり行われていないため、工学が広く社会の役に立つということが伝わっていないということや、大学の後の仕事の情報発信が少ないということ、社会で実際に使うための応用の実験があまりない、といったことが指摘されていた。
  • 国立大学53工学系学部長会議では「未来を創る工学WG」を設置して色々活動をしている。朝日新聞では今年の1月に「人と地球の未来を築く工学部へ行こう」と自らテーマを設定して、WGの取組を紹介したり、マンガを入れたりして掲載した。日本経済新聞でも産官学連携で工学の社会における役割を強調するフォーラムを11月に開催する。また、NHKにも協力を依頼している。
  • 昨年は読売新聞に35の大学が広告を掲載した。
  • 日刊工業新聞のモノづくり推進会議と未来を創る工学部長WGでも話し合いを行い、産業界との連携を図り、新しい方向を目指すということで取り組んでいる。企業、学会、官庁等と一緒に新しい工学の創出に向けて連携していきたい。
  • 10月2日に学部長会議総会があり、そこで工学部長WGの最終報告をする。

(6)説明等に対する主な意見

  • 国立大学53工学系学部長会議での様々な活動は、先生をターゲットにしている部分が大きい。それは、我が国の制度として、先生は基本的に教育学部出身であって、工学者はいないのが現状であり、そのような先生方に工学を理解していただくという活動が、基盤整備のために必要である。
  • 大学が工学教育で「これだけのアウトカムを出す」ということをまず分野別にきちんと行っていくことが必要。例えば大学3年生終了時に、総合力や知識が断定的なものではなく、関連づけられたものになるようにしなければならない。JABEEは質保証に貢献してきたが、大学としてもそれだけではなく、差別化したカリキュラムや、学生に夢を与えるような取組、卒業後の質保証に取り組んでいかなければならない。
  • 企業には、大変優秀な研究者も中堅の技術者も活躍しているが、現実的には中堅技術者が圧倒的に多い。その水準を上げていくということが、今大学に求められていると感じた。また、研究者に占める女性の割合は13%となっており、この20年くらいで少しずつ増加している。しかし国際的に比較をすると圧倒的に低い水準となっている。これは研究者に限らず、女性の活用を進めていかなければならないが、特に工学系に進む女性が少ないことから、工学系に女性を進学させるためにはどうしたらよいかということを工学協会のワーキングなどで取り組んでいる。
  • JABEEは設立からこの10年間で非常に大きな効果をもたらせたと思う。今年になってから、企業から就職の依頼に来られる人の中に、JABEEの修了生から採用したいという意見が出てきた。これはJABEEにとっても非常によい追い風となっており、JABEEも産業界に対してもう少しアナウンスをしていただければ、産業界も振り向いてくれるのではないかと思う。また、JABEEの認定状況を見ると、2005年度までは右肩上がりで増加しているが、2006年度から2007年度まで急激に落ち込んでいる。2008年度に少し回復するが、これが今後どうなっていくかによって、JABEEの今後の展開に大きな影響を及ぼすと思うので、JABEEにも頑張っていただきたい。
  • JABEEは産業界にあまり影響を及ぼしていないという側面があるので、この部分を改善することが必要。
  • 問題点を整理しておきたい。元々は社会のニーズと大学で行われている教育との間に齟齬を来しているのではないか、という問題設定であった。ここは忘れるべきではない。それを踏まえた上で、1つは技術士やプロフェッショナルエンジニアというのが社会のニーズと合致したものという仮定に立っているJABEEの在り方が問題になってくる。もう1つは、産業界としては、優秀なエンジニアを輩出してほしいから、工学部にはできるだけ優秀な学生に来ていただきたい。そのような流れの中で、初等・中等教育を含めて工学離れに対する有効な手を打たなければいけないという位置づけであったことから、一般的な話とは別に、具体的に齟齬を来しているところはどこかというところも議論していかなければならない。
  • 子供たちがものづくりが嫌いなわけではない。自動車技術会で『キッズエンジニア』という、各自動車技術会に入っている企業が手弁当みたいな形で、いろいろなものづくりのベース、素材を持っていって、子供たちと一緒につくるイベントをやっているが、5,000人ぐらい人が集まる。
  • 同じく自動車技術会でやっている『学生フォーミュラ』、これもものすごい人気である。今度から普通のフォーミュラだけではなくて、環境問題にもつながる電気自動車のレースもやろうという話も挙がっている。
  • これらのイベントを通じて生徒がとても伸びていると聞く。最初のうちはもうばらばらで、みんな言いたい放題のことを言って、チームがバラけてしまうのが、期限がだんだん近づくとみんなまとまってきて、しかも自分たちの責任感で一生懸命仕事を始める。これは、本当の基礎工学みたいなことをやらないとできないので、そういう意味ではとてもいいと思う。
  • また、日本のエンジニアは素質としては優秀だと思う。ただ、大学を卒業してきた人がそのまま通用することは全然駄目になってきており、多くの企業では企業内で教育を始めていると思う。
  • トヨタでも4、5年前から教育を本格的に始めているので、今度そのカリキュラムを持ってくる。
  • 高等なものではなく、非常にベーシックなものをもう一回勉強し直して、優秀な素質を各専門部署でもう一回開花させるという、そういうスタイルで企業は動いているというふうに思っている。
  • ドイツ博物館に行くと、中学生の女性が全部自分で実験できるようになっている。中学生の女性が非常に楽しく実験をしている。そういう場が国策に関係すると思うので、やはり新聞やホームページ等を活用したりするような、もともと興味ある人が見る場ではないところに自動的に引き込む何か工夫が必要だと感じている。
  • 千葉大学はJABEEを6年前に受けたが、最初かなり問題を指摘された。形式主義的になっていることや、エビデンス、準備が大変な点でJABEEはいろいろな問題を抱えている。また、ヒアリングを在校生、教員、卒業生、全員にやると、聞き方によっては準備した答え方しかできない。しかし、教員の意識改革に役立った。それまで若い人は、意外と学科会議でも協力的ではなかったり、自分の興味で研究している志向だったのが、やはり教育も大事だと認識したのでよかった。JABEEが指摘されたデザイン教育の評価の弱さという点は、結局、技術者倫理とデザイン教育が普通の大学ではちりばめて教えられているというところ。しかし千葉大学もそれぞれで技術者倫理、デザイン教育をどの分野でも始めている。それぞれの分野での技術者倫理の演習、それぞれのデザイン工学という科目を設けてやっている。
  • 実践的なミッションをどうやって出していくかということについては、やはりインターンシップや実際的な技術者のお話というのがすごく役に立つ。学生に力がついていくと、それとともにやはりある程度勉強の仕方やまとめ方等いろいろなことに関して、やはり教育しておかなければいけないと思うので、その辺の実際的な技術者教育に関する基盤教育とは何かというのがここではしっかりできればいいと思う。
  • この本会議ではなかなかできない具体的な中身をつめてもらうために、ワーキング・グループを作ることになっている。
  • 産業界とのミスマッチみたいなものをなくすための教育というか、何が足りないのか、カリキュラム等々も見せていただいたりしたい。ワーキング・グループのメンバーも、産業界からも入っていただいてく形で進めたいと思う。

(7)ワーキンググループの設置について、資料5「教育内容等に関するワーキンググループの設置について(案)」に基づいて座長から説明し、了承を得た。

 

(8)事務局より次回の日程はワーキンググループの検討状況をみて決定する旨を説明。

お問合せ先

高等教育局専門教育課科学・技術教育係