資料1-1 尾形武寿委員 公益財団法人日本財団理事長 説明資料

我が国の経営系大学院とは (配布資料からの抜粋)

○ 経営系大学院は、高度経営人材の育成を目的としており、社会人として実践経験を有する者を主たる対象とし、ビジネスに関する実践的な事象について学術として体系化された知として、ケースメソッドを始めとする実践的な教育方法により教授している。


○ 経営系大学院は、英語では「ビジネススクール」と言われ、経営学の教授ではなく、知識を体系的に整理し、経営の場で実践できる経営人材の養成が求められている。そのため、理論と実践を架橋する役割を果たすため、2003年度に制度化された専任教員数のうち3割以上を実務家教員とする専門職大学院制度を活用して、経営系専門職大学院として開講するところも増加してきた。


○ 経営系大学院は、修士課程、専門職大学院(専門職学位課程)の何れであれ、修了生は国家資格とは全く結びついておらず、社会(出口)と如何に実質的に連携し、今後の我が国の経済を牽引する優れた経営人を育てることが出来るかが勝負となっている。

ビジネススクールの目的(優れた経済人の育成)

資料では、ビジネススクールの目的は、今後の我が国の経済を牽引する優れた経営人を育てる事と言っている。


○ 我が国の経済を牽引すると言えば、直ぐに経済団体連合会を想像する、過って歴代の会長は財界総理と言われ我が国の経済界のみならず政界にも大きな影響力を与えた。果たして現在は?


○ 歴代の経団連会長で、ビジネススクールで学んだ人は何人存在するか?


○ 会長だけではなく体制を支える多数の副会長を始め、事務局体制も重要な役割を果たしてきた。


○ 戦後の日本経済の高度成長を実現させたのは決して産業界の努力のみではない。永田町と霞ヶ関の存在を忘れてはならない。国家が一丸となって戦後復興に当たってきた結果だといえる。この時代にビジネススクールは存在していたか?


○ 戦後我が国の経済高度成長を牽引してきた人

 名前を挙げるとすれば紙が何枚あっても足りないが、小生が多少関りのあった存在として列挙するなら、松下電器の創業者である松下幸之助氏、ヤマト運輸の創業者小倉昌男氏、佐川急便の創業者佐川清氏の三人を挙げたい。松下幸之助は言う必要も無いが、あとの2名はともにゼロから出発し、我が国の物流システムを革命的に発展させ、日本人の行動様式を変えたと言われている。然しながら組織を拡大させる手法は全く異なる。


松下幸之助
 「パナソニック」を一代で築き上げた経営者で、異名は経営の神様。自分と同じ丁稚から身を起こした思想家の石田梅岩に倣い、PHP研究所を設立して倫理教育や出版活動に乗り出した。晩年は松下政経塾を立ち上げ、政治家の育成にも意を注いだ。松下政経塾も政界に於けるビジネススクールといえる。


小倉昌男氏
 「クロネコヤマトの宅急便」産みの親。その一生は運輸行政を掌る運輸省との戦いと言っても過言ではない。規制を打破する為に運輸省職員を小学生以下と公言して憚らず、時の運輸事務次官をして運輸行政に対する反逆者と言わしめた経営者である。後年ヤマト福祉財団を創設し、知的障害者の雇用促進に努力した。この事業は日本財団の働く日本計画のモデルでもある。東京大学卒


佐川清氏
 佐川氏もまた運輸行政に対して戦いを挑んだ人物ではあるが、直接運輸省と対峙するのではなく、有力者を頼んで制限されていた車両の台数を徐々に拡大する方法を選んだ。日曜集配などの迅速な配達や運転手の集金担当など運送業の革命的な発送で高収益を上げ、各地の運送業者の吸収合併や新会社設立で全国進出を果たした。徹底したノルマ制を導入し、労基法違反と言われるほど働かせる代わりに同業他社の数倍の賃金を支払った。交友関係は多岐に亘り様々な話題を提供した人でもある。有恒学舎卒


日本を代表する我が国の経済を牽引してきた巨人たちにとってビジネススクールは必要だったのか?
この人たちが実践してきた組織運営に対する皮膚感覚をビジネススクールで教えることが出来るのか?

日本財団の人材育成プロジェクト

日本財団の活動原資はモーターボート事業の収益金である。拠りどころと成る法律の趣旨から、対象となる分野は現存する全て社会課題の解決である。
とは言っても原資には限りがあるので、関心領域を大雑把に括り対処している。人材育成もその大きな関心領域である。日本財団がこれまで実施してきた人材育成事業を示すことにより、これからのビジネススクールの在り方のヒントになるかも知れないと勝手に思い一覧表を作成した。

何故ビジネススクールは必要なのか?

学部を卒業しても即戦力にはならない。OJTで仕事を覚えてもらう事になる。学部で学んだことは仕事には直接的には役に立たない。だからBSで再教育する必要がある?
BSと言うと直ぐに思いつくのがケネデイスクールであるが、日本では其れに相当する教育機関はあるのか?
ケネデイスクールで学ぶには大変高額な授業料と生活費を必要とする。
欧米ならば卒業と同時に高収入が保証されていて、投資額に見合う収入を得ることが出来る。
労働の流動性が格段にあがったとは言え、我が国に於いてはBSを卒業した事が社会で有利に働くかと言うと欧米と比較し、それほど優遇されるとは思えない。
経済大国日本だから、日本はビジネスに於いて何か特殊なメソッドを持っているのではないかと諸外国の人々は期待するかもしれない。
そのメソッドをBSに於いて体系的に学問と実践として教育して貰えるかも知れないと期待して日本に来るだろうか。
日本のBSがそれほど高い国際的評価を得ているのだろうか。
最近、特に留学生の来日が減少している実態に鑑みると必ずしも高い評価を受けているとは思えない。
ではこのままで良いのかと言う問いには、対策を立てるべきであろうと言う声が大いに決まっている。ではどんな対策なのか?


*経営系大学院の機能強化方策について

1.単純に大学院の教科システムが良いか悪いかで判断するほど単純ではないかもしれない。
2.一方では修了生を日本社会での受け入れ状況や需要の有無だけで解決する問題でもなさそうだ。
3.学部で何を教えるかも大切だ。
4.海外から学生が来日する事がバロメーターかと言えばそうでもない。
5.ファミリービジネスの経営方法を教えるのがMBAではないような気がする。
6.岩盤規制といわれる教育行政にメスを入れなくとも良いのか?
7.今の社会構造を根本的に改革する必要があるのでは?革命でも起きない限り、今の日本では到底不可能である。
8.産・官・学の三者の連携が必要と言う。そうであろう、では具体的にどのような連携策が講じられるのか
9.地域の格差の問題、業種毎に内在する問題、教育機関の問題、教員の力量やカリキュラムなど様々なことについて論じなければならない。全ての機関において固有の課題を抱えている。一律に議論する事は避けるべきだろう。

事程左様に何かを解決すれば問題が解決するほど単純ではないようだ。


日本財団ならどうする

既存の仕組みを幾ら手直ししても解決策が見出せないなら、新たなビジネスモデルを立ち上げる。そのために規則が邪魔するなら、規則を改廃すればよい。法律を制定するわけでもなく、監督官庁と協議するだけで事は足りる。
出来ない理由を探すより、どうしたら出来るかを考える。


結論

これまで相当な研究と検証が行われて来たと思う。これから更なる議論の限りを尽くしエビデンスを積み重ね、小さくとも良いから日本の社会風土に合わせた質の高いビジネススクールを立ち上げることを考えても良いのでは?


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