資料1 大学のガバナンスの在り方に関するワーキンググループにおける検討状況について

1.総論

○ 我が国の学校教育の中で重要な位置を占める私立学校が今後とも健全な発展を続けていくためには,時代の変化に対応した適切なガバナンスを確保することが必要である。教育事業を担う学校の運営主体としての高い公共性の下に社会的責任を十分に果たすことができるよう,新公益法人や社会福祉法人制度等,他法人制度の改革の状況を踏まえ,これらの公益的な法人と同等以上の運営の妥当性と透明性を確保し,社会から信頼され,支えられるに足りる,これまで以上に十分な公益性を備えた存在であり続ける必要がある。

 

○ また,学校法人は,学生・保護者・教職員はもとより,卒業生や地域・社会などの多様な主体に支えられる存在であることから,幅広く学内外の声に耳を傾けながら責務を全うすることを通じて,高い公益性を追求していく必要がある。さらに,その際には,各法人の様々な成り立ちや沿革の中で各法人の拠って立つところが形成されてきているということに十分に配慮することが求められる。

 

○ 学校法人の活動については,寄附行為の認可,解散命令など所轄庁である文部科学省の所要の役割が位置づけられているものの,学校法人の自主性・自律性が最大限に尊重される原則となっており,その点に鑑みても,各学校法人における自律的なガバナンスの確保は重要である。

 

○ 平成16年の私立学校法の改正では,理事会の設置等をはじめとして,理事・監事・評議員会の権限・役割分担を明確にすることによって,学校法人における管理運営制度の改善が図られた。一方で,各学校法人の現状を見ると様々な工夫を行っている学校法人も見られるものの,制度が想定している機能を十分に活用できているとは言えない状況も見られる。

 

○ 学校法人制度の根幹である理事会制度・監事制度・評議員会制度については,上記を踏まえ,まずは本来期待されているそれぞれの役割が十分に果たされるよう,その機能の活性化を図ることが必要である。その上で,他法人制度に係る改革の状況や考え方も参考としながら,各機能の強化や情報公開の推進により,透明性あるガバナンスが担保されるよう,改善を図っていくことが必要である。

 

○ 学校法人のガバナンスの強化に加え,法人内のみならず,広く社会への説明責任を果たし,健全なガバナンスに資するよう,学校法人に関する分かりやすい情報の公開を推進する必要がある。国公私共通の仕組みである,教学面を中心とした認証評価制度,学校教育法に基づく情報公開,大学ポートレート等の仕組みの活用と合わせて,総合的に学校法人の公益性の確保を図ることが必要である。その際,在学する学生と保護者,進学を希望する高校段階の関係者に対して,正確で必要な情報の提供を行うとともに,広く一般国民に対しても十分な情報を提供することが,特に教育機関として求められることである。

 

 

2.理事・理事会,評議員・評議員会について

○ 学校法人全体の運営に,すべての理事が責任を持って参画し,各理事が適切に職務を遂行するためには,内部統制システム(法令順守体制等を含む)の体制整備及び運用を含め,理事会における議決事項の明確化,理事会への業務執行者の報告事項の明確化,適時・適切な実効性ある理事会の開催,学内理事及び外部理事の役割の明確化,研修の強化等の理事会機能の実質化・実効性確保の方策が必要である。特に外部理事については,その知見を活用するためにも人選にあたっては十分な配慮と,就任後における理事会開催の事前・事後の十分なサポートが必要である。

 

○ また,スピード感を持って改革を進めるためには,経営サイドと教学サイドが連携し,教学サイドの代表者たる学長は理事会の構成員であることを踏まえて,経営と教学の連携に積極的に貢献していくとともに,経営情報について十分に教職員と共有するなど,改革への教職員の参加意識を高めていくことが必要である。

 

○ 学校法人における評議員会は,学生・保護者・教職員のみならず,卒業生を含めた社会の人々により構成され,理事会の意思決定に対してチェックを行う役割とともに,幅広い意見を総合的に学校運営に反映させる諮問機関としての重要な役割を担っており,それらの機能は基本的に維持すべきである。しかし,現状では,理事会と併せた形式的な開催や,報告を受けるだけの場になっているなど,形骸化を指摘する意見もある。学校法人制度における評議員会の意義と平成16年の私立学校法改正の趣旨を踏まえつつ,制度に期待される機能が十分に果たされるようにしていくべきである。

 

○ 評議員会の本来的な機能である大学運営への幅広い意見の反映と理事会の意思決定に対して必要なチェックを行う機能の実効性を担保するため,評議員会の形骸化を防止し,積極的に活用するとともに,評議員の適切な人選についても改善を図っていくべきである。それらを基本としつつ,以下の方向で改善を図るべきである。

    なお,理事と評議員の兼務については,前述のような学校法人における評議員会の性格・位置づけを踏まえ,さらに検討が必要である。

・ 理事長は,毎年度,事業計画について評議員会の意見を聞く必要があり,決算及び事業の実績は評議員会に報告し意見を求めることになっているが,評議員会への諮問事項は,単年度の事業計画だけでなく,中長期計画についても対象とすべきである。また,その際,単に事後的な報告だけでなく,計画策定,実施過程のそれぞれの段階で評議員会が積極的に関わり,18歳人口が急減する時代における安定的な学校法人の運営のために,学校を支える関係者により構成される評議員会の知見を借り,積極的にその協力を求めるべきである。併せて,その前提として,評議員に対し定期的又は事前に情報を提供することや,監事が評議員会で意見を述べるなど,評議員会が活性化するための条件を整えるべきである。

・ 学校運営の妥当性と透明性を確保するために,理事と監事の間には独立性が保たれることが必要であり,監事の選任については,他法人制度における取扱いを参考に,評議員会の関与を深める方向で検討を進めるべきである。

・ 他法人制度における取扱いを参考に,理事・監事の報酬基準の策定プロセスに評議員会の関与を深める方向で検討を進めるべきである。

○ 理事について,理事機能の実効性を高めるため,業務執行者への監督の責任を明確化するとともに善管注意義務や法人・第三者に対する損害賠償責任を明確化する方向で検討を進めるべきである。また,評議員についても,評議員会の機能(現状においては,諮問機関としての役割のほか,学校法人の寄附行為により重要事項の議決を行う場合もあるなど,選択的運用がみられるところである。)に応じて同様に検討を進めるべきである。

 

 

3.監事・会計監査人について

○ 監事の職務機能である理事及び理事会並びに理事長等の業務執行者への牽制機能をより実効性あるものとするため,監事監査基準・同規則等を作成するとともに,重点監査項目等を盛り込んだ具体的な監査計画を定め,関係者に周知を図るべきである。

 

○ 監事の監査報告書については,法人の課題を明確にできるよう,短文式から長文式に改めるなど内容を充実させていくべきである。また,その際,監査報告書のひな形を示し,各法人に充実した監査報告書の作成及び公表を義務付けることも検討すべきである。

 

○  2人以上置くこととされている監事については,業務の継続性が保たれるよう,監事相互の就任・退任時期について十分考慮すべきであり,また,監事の機能強化の観点から,機関としての監事会を定めることも有用と考えられる。

 

○ 監事が,上記職務を実効的に遂行するためには,監事の業務を支援するための体制整備(例えば,補助者の設置及び内部監査室との連携等),研修の充実などに加え,国や日本私立学校振興・共済事業団における監事からの相談体制の整備等を図っていくことが必要であり,さらにその職責に応じた適切な報酬の支給や常勤化に向けた検討も必要である。

 

○ 学校運営の適正性と透明性を確保するために,理事と監事の間には独立性が保たれることが必要であり,監事の選任については,他法人制度における取扱いを参考に,評議員会の関与を深める方向で検討を進めるべきである。(再掲)

 

○ 監事による業務執行者に対する牽制機能として,他法人制度も参考に,違法行為差止請求権等の権限を監事に付与すること及び学校法人に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを理事が発見したときは,速やかに監事に報告することとする方向で検討を進めるべきである。

 

○ 監事の職務対象としては,学校法人の業務及び財産の状況の監査が明文化されているが,監事の監査対象である「理事の業務執行」が明文化されていないこと等を踏まえ,監事の役割・職務範囲についてさらに明確にするとともに,その責任について,他法人制度も参考に,例えば善管注意義務や法人・第三者に対する損害賠償責任などを明確化する方向で検討を進めるべきである。

 

○ 現在,会計監査人による監査は私立学校振興助成法に規定されているが,学校法人の公益性の向上や,他法人制度では法人制度に立脚して定められている状況等を踏まえ,私立学校振興助成法を根拠とするのではなく,私立学校法を根拠とする方向で検討すべきである。

 

○ 会計監査人による監査を義務付ける要件として,学校法人の規模等を勘案して,学校法人の実態に即したものとするなどの検討を行う必要がある。

 

 

4.情報の公開について

○ 学校法人の情報の公開については,平成16年の私立学校法改正により,財務情報の公開を中心に取組が進められてきた。また,教学に関する情報は平成22年に学校教育法による情報公開が規定された。なお,私学助成に関しては私立学校振興助成法に基づき財務書類等の所轄庁への届け出が義務付けられており,情報の開示請求の対象となっている。

 

○ 学校法人については上記のように複層的に情報の公開が定められているが,社会からの信頼を高め,そのサポートを受けるためには,公益性・透明性を高め,チェック機能を向上させるだけでなく,積極的な情報の提供・発信を行っていくことが重要であり,法人内だけでなく,社会に向けた情報の公開の推進が必要である。

 

○ 特に学校法人については,多くの情報が既に自主的に公開されている状況にはあるが,他の公益法人制度のみならず一般企業を含め改革が進められ,公益性を有する法人としての社会に対する説明責任の在り方が大きく変化している状況を踏まえ,高い公益性を有すべき学校法人制度として,情報公開等のさらなる促進は必須である。

 

○ 公益法人制度改革等により,公益財団法人等の情報公開が進んでいること,また,学校法人に関する多くの情報がホームページ等によりすでに自主的に公開されている現状に照らし,公益財団法人や社会福祉法人制度等を参考に,寄附行為,役員名簿,役員報酬基準等も公開の対象とすべきである。

 

○ 財産目録,貸借対照表,収支計算書,事業報告書,監事の監査報告書についても,大学を設置する各学校法人では現状ほぼ公開されているが,制度上も公開の対象とするとともに,公開内容の充実についても検討すべきである。その際には,前提として情報公開の対象となる財務書類の会計基準の根拠を私立学校法に規定する方向で検討することが必要である。なお,今後,そうした制度改正を踏まえた新たな会計基準については,どのような在り方が望ましいか検討を行う必要がある。

 

○ また,スピード感を持って改革を進めるためには,経営サイドと教学サイドが連携し,教学サイドの代表者たる学長は理事会の構成員であることを踏まえて,経営と教学の連携に積極的に貢献していくとともに,経営情報について十分に教職員と共有するなど,改革への教職員の参加意識を高めていくことが必要である。(再掲)

 

○ 学校法人のガバナンスの強化に加え,法人内のみならず,広く社会への説明責任を果たし,健全なガバナンスに資するよう,学校法人に関する分かりやすい情報の公開を推進する必要がある。国公私共通の仕組みである,教学面を中心とした認証評価制度,学校教育法に基づく情報公開,大学ポートレート等の仕組みの活用と合わせて,総合的に学校法人の公益性の確保を図ることが必要である。その際,在学する学生と保護者,進学を希望する高校段階の関係者に対して,正確で必要な情報の提供を行うとともに,広く一般国民に対しても十分な情報を提供することが,特に教育機関として求められることである。(再掲)

 

 

5.上記改革の実現に向けて

○ これらの改革の実現に向けては,各学校法人は成り立ちや沿革等が様々であり,私学の多様性に対して十分に配慮することが求められることから,私立学校法等の法令の改正により対応すべきものもある一方で,多様性・自主性を尊重する観点からは,その詳細について,過度に一律の法規制は避けるべきものもあることに留意すべきである。

 

○ 一方,学校法人制度が公共性・公益性を併せ持ち,社会から支えられる存在であり続けるためには,社会的責任を果たすための不断の努力が求められており,他の公益的な法人と同等以上に,学校法人においても各法人における自律的なガバナンスの一層の強化が期待される。

 

○ 私学団体や文部科学省等が協力して,社会的責任を果たすための望ましいガバナンスの在り方のガイドラインや留意すべき点等を示し,各学校法人における自主的な取組を促進することもきわめて有効であると考えられる。その際には,各金融証券取引所が上場規則等で定めている「コーポレート・ガバナンスコード」の取組等を参考とすることも考えられる。

 

○ なお,本まとめは大学・短大を設置する文部科学大臣所轄の学校法人に関しての提言であるが,高校以下の学校のみを設置する学校法人(都道府県知事所轄法人)については,規模等を勘案した配慮が必要であるとともに,関係者との十分な調整が必要であ


○ また,私立学校法等の法令の改正については,大学設置・学校法人審議会学校法人分科会において,学校法人制度全体を見渡して,整合が得られるよう,さらに検討を進める必要がある。

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高等教育局私学部私学行政課

(高等教育局私学部私学行政課)