資料1 指定国立大学(仮称)の基本的な考え方について(案)

指定国立大学(仮称)の基本的な考え方について(案)


1.目指すべき指定国立大学(仮称)像とその果たすべき先導的役割

 (1)国際的な研究・人材育成/知の協創拠点となる国立大学の形成
  指定国立大学(仮称)は、国際的な研究・人材育成/知の協創拠点となる国立大学であり、以下の五つの取組を推進する。

 <大学全体としてすでに国内トップレベルの研究力、国際協働、社会連携実績あり>
・優秀な人材を引き付ける世界最高水準の教育研究を展開するべく、国内の競争環境の枠組みから出て国際的な競争環境の中でその卓越性の更なる伸張を図る。

 <人材獲得・育成>
・優秀な学生、教員、研究者を国際市場から引き付け、育成する。

 <研究力強化>
・独創的で卓越した研究分野を生かして新たな価値創造のための分野融合や新領域の開拓を進める。

 <国際協働>
・海外大学等との連携を含めた国際協働を進める。

 <社会連携>
・卓越した研究成果を生かすための社会との協働・連携を積極的に展開する。

  また、指定国立大学(仮称)においては、このような取組を進捗させるため、次の二つの点について取り組むこととする。

 <ガバナンス強化>
・教育研究環境の充実のために改革を進め、資源を最大限活用し、透明で効果的な運営を行い、学内外から信頼されるガバナンス体制を構築すること

<財務基盤の強化>
・社会からの評価の対価として、財源の多元化を図ること

  大学の根幹はそこに集う人材である。指定国立大学(仮称)は、大学院を中心に優秀な人材を引き付けることにより、更なる研究力の強化を図り、教育研究の成果をさまざまな形で社会に創出していくことを通じて社会に貢献し、社会の幅広いセクターからも適切な評価を受け、支援を得られる好循環を生み出す。その好循環を持続させるガバナンスが確立されることで、指定国立大学(仮称)は世界に伍し、我が国の高等教育をリードする国立大学となることを目標とする。
  なお、このような取組は、結果として、世界における存在感を高め、国際的なランキングの上昇にもつながることが想定される。

 (注)国際的なランキングについては、問題点を内包するものではあるが、その評価尺度の中には大学の教育研究を高度化するうえで考慮すべき要素を含んでいること、留学生を獲得する際には少なからず影響すること等に鑑み、指定国立大学(仮称)の申請に当たって、当該国立大学において考慮する。

 (2)指定国立大学(仮称)が先導的に打破すべきさまざまな課題(壁)

  国立大学においては、以下のような課題(壁)が存在しており、指定国立大学(仮称)は、その課題を打破していく先導的な役割を果たす必要がある。

 【学内の「壁」】
 ・部局(学部、研究科、研究所等)間の目標や情報の共有、リソースの流動性が少なく、融合分野、新領域の開拓が進みにくい。
 ・研究科・専攻ごとに収容定員が固定化されている実態によって、大学院生の所属が固定化され、優秀な人材獲得と流動性を阻害している。
 ・教員給与をはじめとする処遇について、国家公務員準拠の慣行が踏襲され、個々の教員の業績が適切に反映されていない面がある。

 【学外との「壁」】
 ・産学連携が研究者個人の単位で行われていて、組織的な取り組みが弱く、産業界のR&Dが海外の大学に流出する一因となっている。
 ・社会・経済の新たなシステムの変革に向けての提案等について、大学が組織全体で総合力を発揮して取り組む活動が十分に行われていない。
 ・社会からの評価を受けることが少なく、社会の要請に対して真摯に向き合う姿勢に欠けるところがある。

 【海外との「壁」】
 ・留学生が学びやすい環境の整備に努めているが、途上である。
 ・現在大学に在籍する教職員の活動が「内向き」の場合には、海外からの研究者が、学内で自由闊達な活動を行うことができない面がある。
 ・海外からの研究者を引き付ける教育研究環境の充実や、生活環境も含めた支援についても途上である。


2.指定国立大学(仮称)の目標設定と備えるべき要素

 (1)指定にあたっての考え方

 指定にあたっては、以下の目標設定と備えるべき要素について、優秀な人材を引き付け、研究力の強化を図り、社会からの評価と支援を得るという好循環を実現する戦略性と実効性をもった取組を提示でき、かつ、指定を受けようとする大学が定めたタイムフレームの中で、確実な実行を行い得る大学に限り指定することとする。また、指定された結果、当該大学が、社会や経済に与えたインパクトと取組の具体的成果を積極的に発信し、国立大学改革の推進役としてのリーダーシップを果たすことを期待する。

 (2)目標設定

  指定国立大学(仮称)の指定は、各法人の自主的な判断による申請に基づくものとし、指定を受ける法人においては、以下の二つの観点からの目標を掲げることとする。その目標及びそれらを達成するための具体的な取組については、各法人の中期目標・中期計画に盛り込むこととする。また、その策定に当たっては、海外有力大学の実情を踏まえた高い次元の目標設定が行われているか等について、国立大学法人評価委員会において海外大学のガバナンスに精通した者の参画を得て、有識者による審査を行うことにより、指定国立大学(仮称)にふさわしい水準の目標設定を確保することが適切である。
  なお、国立大学法人評価の結果を踏まえ、目標に対する達成状況が芳しくない場合は、文部科学大臣により指定を取り消すことがある。

◇教育研究の卓越性の観点からの目標設定
  世界の有力大学と伍して、国際的水準で競い合い、求心力を持ち、「国際的な研究・人材育成拠点」となる国立大学を形成するため、海外大学における具体的な取組や、海外大学の研究分野別の状況などを踏まえたベンチマークを活用し、目標を設定する。
◇社会への貢献の観点からの目標設定
  社会の持続的発展に向けて「知の協創の拠点」となる国立大学を形成するため、人類の持続的発展に資する社会・経済に関する新たなシステムの提案、産学連携の状況などを踏まえた社会との連携の状況を踏まえ、目標を設定する。

 (3)指定国立大学(仮称)が備えるべき要素

  指定国立大学(仮称)には、上記の設定目標を実現するため、上記のさまざまな課題を打破するための具体策を求める。具体的には、次に示す【人材獲得・育成】【研究力強化】【国際協働】【社会連携】【ガバナンスの強化】【財務基盤の強化】の六つの柱からなる構想について、大学からの申請を経て、国立大学法人評価委員会の意見を聴取した上で文部科学大臣が指定を行う。

 【人材獲得・育成】
  国内外の優秀な教員・研究者及び大学院生の獲得を進めること。このため、必要な教育研究環境整備を行う。また、大学院生に対しては、研究を支える人材でもあることから、経済的支援の在り方が海外の有力大学の取組において重要視されている。このため、世界市場から優秀な大学院生を獲得できる大学院の組織改革等を推進し、将来的にはすべての大学院生への経済的支援を実施することを視野に取り組む。優秀な教員・研究者に対してはその能力や業績を踏まえた評価による処遇の設定を行う。
  また、大学院教育においては、専門性とともに、課題を俯瞰的に把握し、解決できる教育(教育プログラムと研究指導)を実施する。あわせて、学位取得者の質を保証するための厳格な修了認定を行う。

○大学における具体的取組(例)
 ・大学院生に対する経済的支援(TA・RA、奨学金、授業料減免)
 ・大学院の研究科の収容定員の設定の見直し(硬直的な研究室配属の振り分けの是正)
 ・大学院生に対する専門の枠を越えた体系的教育・研究指導の実施
 ・学修成果及び学位論文等に係る厳格な評価に基づく修了認定の実施
 ・若手研究者に対する支援(スタートアップ資金と共用機器等の活用方策)
 ・教員ポストの本部での管理
 ・教員業績の可視化・エフォート管理

●国立大学法人に関する規制の緩和
 ・教員の給与水準の多様化の促進(国内外の卓越した研究者の招聘)
 ・授業料設定の弾力化(教育プログラムや対象者に即した設定)

 【研究力強化】
  国内において研究力がトップレベルに位置すること。その研究力を生かし、分野融合・新領域の開拓を進め、既存の学問分野にとらわれず、独自性のある新しい価値を創造するための組織の見直し、研究戦略の策定等に取り組む。国内外からの求心力を高め、強力な拠点(ハブ)を形成する。

○大学における具体的取組(例)
 ・強化したい分野等への資源の戦略的な重点配分(資金、スペース等)
 ・大学院の研究科の収容定員の設定の見直し(硬直的な研究室配属の振り分けの是正)
 ・教員ポストの本部での管理
 ・研究設備・機器の共用化
 ・研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーターを含む)の適切な配置

●国立大学法人に関する規制の緩和
 ・教員の給与水準の多様化の促進

 【国際協働】
  国際協働を積極的に推進すること。海外キャンパスの展開、ジョイント・ディグリー(JD)の実施等、海外大学との連携・協働等を含め、教育研究活動の国際展開による世界的な課題解決に資する学問分野の展開に取り組む。

○大学における具体的取組(例)
 ・ジョイント・ディグリー(JD)やダブル・ディグリー(DD)プログラム等、海外大学との連携を含め、多言語のみで学位を取得できるコースの設置
 ・海外の研究者や学生を受け入れるために必要な教育研究環境等の充実

●国における具体的取組
 ・ジョイント・ディグリー(JD)に関する設置審査の在り方を検討

 【社会との連携】
  大学と企業等の共創の場の構築・深化を進めること。大学全体での大型共同研究の推進や、学生・教員によるベンチャーの創出・育成に取り組み、ベンチャー創出のプラットホーム機能を構築する。
  また、社会との連携の強化を図る中で、産学連携収入、寄附金収入の拡大に取り組む。

○大学における具体的取組(例)

 ・教員個人ベースの活動ではなく、大学全体での産学連携や寄附募集(例えば、担 当の理事の配置等を含めた体制整備等を含む)
 ・起業家プログラムの提供や、ベンチャーを支援する者等との交流の場の設定
 ・大学院生の産業界を含む外部機関での長期インターンシップ等の導入
 ・産学連携等に係る活動を教員業績評価において評価
 ・クロスアポイントメント制度の活用

●国立大学法人に関する規制の緩和
 ・出資事業の拡大(子会社等による研究成果の活用によるコンサルティング、企業 等を対象とした教育プログラムの提供等)
 ・寄附金等の自己収入の運用範囲の拡大
 ・不動産の効率的活用

 【ガバナンスの強化】
  学内外に信頼されるガバナンス強化を行うこと。学長のリーダーシップの下、教育研究において強みや特色を発揮し、社会的な役割をよりよく果たすことができるようにする。

○大学における具体的取組(例)
 ・学長のリーダーシップの強化(経営戦略・資金配分・企画体制・学内外の広報広聴体制の強化)
 ・IR機能の強化
 ・経営への国内外の優秀な人材の参画
 ・専門人材の育成・確保
 ・学内情報の可視化
 ・学外への情報公表等

 【財務基盤の強化】
 財務基盤の多元化に取り組むこと。産学連携収入、寄附金収入の拡大を促進するとともに、規制緩和策により、既存の資産(寄附金、不動産等)や子会社による事業展開(出資事業)を効果的に活用する。


○大学における具体的取組(例)
 ・人事給与改革等を通じた自己財源の捻出
 ・外部収入の拡大
   
●国における具体的取組
 ・運営費交付金の安定的確保、間接経費の拡充(他省庁、民間を含めた措置)
 ・卓越した教育研究活動を展開するためのスタートアップに係る支援の検討
 ・目的積立金制度の運用の弾力化

 (4)申請に当たっての要件

  指定国立大学(仮称)に申請する大学は、国内の競争環境の枠組みから出て、国際的な競争環境の中で、世界の有力大学と伍していくことを求めることに鑑み、研究力、国際協働、社会との連携のそれぞれにおいて、すでに国内トップレベルに位置していることを要件とする。

 【要件とする項目例】

 <研究力>
 ・科学研究費等の獲得状況
 ・論文数、論文被引用数
 <社会との連携>
 ・産学連携等収入
 ・寄附金額
 ・大学発ベンチャー数
 <国際協働>
 ・国際共著論文数
 ・留学生受入数
 ・留学生輩出数


3.評価

  指定国立大学(仮称)の評価については、指定国立大学(仮称)としての目標等が中期目標・中期計画に明示されることから、その点を含め、国立大学法人評価の仕組みの中で、目標等の達成状況についての評価を行う。また、年度評価、中期目標期間評価においては、国立大学法人評価委員会において、海外大学のガバナンスに精通した者の参画を得て、有識者による評価を実施する。なお、指定国立大学(仮称)においては、海外有力大学をベンチマークとした目標等を設定することにより、その達成状況について事後的な検証をより外形的に行うことが可能となることから、評価に係る事務作業を簡素化する。
  また、第3期中期目標期間評価においては、すべての国立大学に対して、更なる簡素化を検討する。


4.具体化に向けて留意すべき事項
  指定国立大学(仮称)の創設に当たっては、法制的な整備も含め、早期の制度の具体化を図っていくべきである。その際、以下の観点に留意する。

 (1)改革の取組が実装されるまでの時間的配慮

  文部科学大臣の指定にあたっては、取り組むべき構想の柱や内容、申請にあたっての要件について、国立大学法人評価委員会の意見を踏まえ、あらかじめ公表するとともに、申請を検討する国立大学に十分な検討の時間を確保できるように配慮する必要がある。
  また、指定国立大学(仮称)の戦略の具体化や財務基盤の強化の実装には、初期投資とともに、一定の時間を要するものであり、財務基盤の強化に資する一定のスタートアップを支援し、例えば体制整備や外部資金を獲得するための資金等の支援を行うことが必要である。

 (2)規制緩和策の取扱い

  指定国立大学(仮称)に関する規制緩和策については、国立大学法人がもつ性格を踏まえた上で、財務基盤等を強化できるものについて、可能な限り対応することが必要である。
  また、制度改正のみならず、補助金の取扱いや中期目標期間を越えた繰越し等運用面での取扱いを工夫することができるものについては、全ての国立大学を対象に対応することが必要である。

 (3)大学に関するシステム改革施策や科学技術施策との積極的な連携

  指定国立大学(仮称)に想定される国立大学に関しては、文部科学省の各施策や予算のうち、システム改革や科学技術施策等と密接な連携を取って相乗効果を発揮させることで、これらの大学の強化につなげることとする。

 (4)公立大学、私立大学との関係

  指定国立大学(仮称)は、国立大学法人制度の特例を設けるものであるため、国立大学のみを対象とするが、その目的である優秀な人材を国内外から引き付け、その研究力、人材育成力を強化し、新たな価値創造やイノベーションの創出、新たな社会システムを構築していくことは、国立大学のみならず、私立大学、公立大学もあわせた高等教育全体で取り組むべき課題である。
  この点を踏まえ、国公私立大学全体で、この課題に取り組むことを可能とするよう、国として必要な施策を行っていくべきである。


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