所得連動返還型奨学金制度有識者会議(第2回) 議事録

1.日時

平成27年10月23日(金曜日)11時~14時

2.場所

一橋大学一橋講堂 特別会議室

(東京都千代田区一ツ橋2-1-2 学術総合センター1階)

3.議題

  1. 所得連動返還型奨学金制度について
  2. その他

4.出席者

委員

赤井委員,小林委員,阪本委員,島委員,濱中委員,樋口委員,不動委員,吉田委員

文部科学省

常盤高等教育局長,佐野大臣官房審議官,渡辺学生・留学生課長,八島学生・留学生課課長補佐,片柳高等教育企画課室長補佐

オブザーバー

高橋理事長代理(日本学生支援機構),甲野理事(日本学生支援機構),宗野顧問弁護士(日本学生支援機構)

5.議事録

【小林主査】 それでは,時間になりましたので,これから第2回所得連動返還型奨学金制度に関する有識者会議を開催いたします。皆様御多忙の中,御参集いただき,誠にありがとうございます。今日は樋口委員が遅れていらっしゃいます。また,赤井委員もまだいらっしゃっていませんが,定刻になりましたので開催させていただきます。
まず,本日初めて御出席される委員の方を御紹介いたします。
不動嘉也委員です。一言,御挨拶よろしくお願いいたします。

【不動委員】 三井住友銀行,不動でございます。よろしくお願いいたします。

【小林主査】 ありがとうございます。
それでは,議事に入ります。まず,議事概要の確認についてですが,資料1,議事概要(案)の内容を御確認ください。修正・意見等があれば,10月29日木曜日までに事務局まで御連絡をお願いいたします。その後,私と事務局で修正内容を調整させていただいた上,議事概要として確定させ,文部科学省ウェブサイトに掲載させていただきたいと思いますので,よろしくお願いします。
前回は,検討課題(案)に沿って皆様から多数の意見を頂いたところです。本日は,前回の意見を踏まえながら,事務局にそれぞれの事項に対する方策や課題について整理していただきましたので,資料2,検討課題への対応について(素案)に沿って,所得連動返還型奨学金制度を導入する際の個別の事項ごとに議論を深めてまいりたいと思っております。
議論を深めるに当たりまして,前回の会議において様々な御質問を頂きましたが,そこで不明であった奨学金事業の現状やデータについて,事務局や日本学生支援機構から御説明をお願いいたします。主な事柄として挙げられておりましたのは,日本学生支援機構の返還サポートスタッフの状況について島委員から,それから現行の所得連動返還型奨学金制度の現状と,制度の対象に大学院が含まれていない経緯とその理由について赤井委員から御質問がありました。それから世帯収入把握と家族主義の問題などについて御質問があったかと思います。最初の論点については日本学生支援機構から,2番目の論点については私から,3番目の論点については資料2,検討課題への対応(素案)の説明の中で事務局から, 4番目の論点については,この問題の御専門であります樋口委員が御出席されましたら,樋口委員から資料に基づいて説明していただきたいと思っております。
まず,日本学生支援機構から,机上資料の参考資料5,返還サポートについてを提出していただきましたので,資料に基づき,現在の日本学生支援機構の返還サポート,サポートスタッフの状況について,御説明をお願いいたします。

【甲野理事】 日本学生支援機構の奨学金を担当しております,理事の甲野でございます。それでは,私から返還サポートにつきまして御説明をさせていただきます。
ただいま,小林主査より御提示いただきました参考資料5を御覧いただければと思います。返還サポート体制について,私どもの方でまとめた資料でございます。
この1ページをお開けください。体制についてでございますけれども,私ども奨学金の関係部署といたしまして,奨学事業戦略部あるいは貸与部というものもありますが,返還関係の部門としては,返還部と債権管理部,そして地方ブロック支部が全国7か所という体制で行っているところでございます。返還部につきましては2課2センター,債権管理部は2課を置き,それぞれ分担して業務に当たるという体制の下で,返還業務などを進めているところでございます。
そして,具体的にどのような形で返還業務のサポートを行っているかでございますが,次の2ページを御覧ください。まず,1番目に挙げられるものとしては,返還相談がございます。この返還相談につきましては,コールセンターを設置いたしまして,これに応じているところでございます。このコールセンターは民間委託という形で,平成21年10月から実施をしております。大きく分けますと,一次受け対応,二次受け対応に分かれておりまして,民間委託のコールセンターはこの一次受け対応という形で対応しておるところでございます。所定の番号に電話をいたしますとここにつながる仕組みになっておりまして,住居変更の連絡ですとか様々な願い出,届出の照会をしたり,承ったところでは,その場ですぐ各返還者等に必要書類等を発送するといった業務も,ここで行っているところでございます。
しかしながら,相談内容が大変難しい内容の場合もございます。そうした専門的・複雑な相談につきましては,一次で対応するのではなくて,二次受け対応として,機構が直接設けている返還相談センターで,機構職員と,専門的知識を持った非常勤職員等で対応するという形をとっているところでございます。こうした体制によりまして,返還相談を実施しているところでございます。
続きまして,情報提供の方法でございます。この情報提供につきましては,様々な資料の配付や通知,あるいは電話によりまして情報を提供しているところでございます。申込み,新規採用時におきましては「奨学金案内」,あるいは「奨学生のしおり」というような冊子等を配付しているところでございます。「奨学生のしおり」につきましては,ページ数で言いますと60ページ以上にわたります資料でして,このうちの10ページほどは貸与終了後の扱いも解説をしているところでございますが,こうした形で情報提供を行っております。
そして,貸与終了後,間もなく返還が始まるわけでございますけれども,貸与の終了段階におきましては,「返還のてびき」という冊子を各奨学生に配布をいたしまして,返還をどういうふうに行うのか,あるいは返還が難しくなったときにはどういう対応を取り得るのか,手段があるのか等々,返還免除制度の周知等々も含めまして案内をしているところでございます。これにつきましても,冊子の形で配付をしております。
そのほか,返還開始時,あるいは返還残額の連絡等々,それぞれの節目節目に当たりまして,ここにありますような「返還開始のお知らせ」や「振替案内」といったような通知を各返還者に差し上げることにより,返還のサポート,あるいは注意を促す等々を行っているところでございます。
そして,返還のサポート体制として,次に挙げさせていただいているものが,インターネットを利用した情報提供等についてでございます。ホームページを設けているところでございますが,そこの中で様々な情報を提供させていただいております。「返還を始める皆さんへ」という動画もございますし,またホームページと直接リンクしているということではございませんけれども,平成22年度にスカラネット・パーソナルというものを設けまして,直接様々な届出等ができる形をとっているところでございます。また,奨学金の貸与・返還のシミュレーションもこのホームページ上から行うことができますし,平成21年の8月からはモバイルサイトでメールマガジンの配付なども行いました。
このような形で奨学生の返還サポートを行っているところでございますが,返還サポートの具体的な手段として機構が準備している制度は,最後の5ページになりますが,減額返還制度と返還期限猶予制度がございます。返還が難しくなったという方にはこれらの制度を改めてお知らせしまして,返還をサポートしているところでございます。それぞれ減額返還制度,返還期限猶予制度につきましては,ここに示しているとおりでございまして,時間の関係もありますので詳細は省略をさせていただきますけれども,減額返還制度は毎月定められた額の半分での返還を認めるもの,返還期限猶予制度は,一定の期間返還の期限を猶予するという制度になっているところでございます。
以上,私どもの返還サポート体制について説明をさせていただきました。

【小林主査】 甲野理事,どうもありがとうございました。
ただいまの御説明に対して,御質問ございませんでしょうか。
どうぞ。

【島委員】 僕自身の前回の質問は,所得連動型を導入したときにこういったサポートの充実が必要であるという話の流れで行ったわけなんですけれども,現状は,二次受け対応の部分に関して,アンダースタッフだとか,要するに借りた方,今困っている方が連絡をしたときに連絡がつながりにくいといった状況はないと理解してよろしいんでしょうか。

【甲野理事】 現在では,一次受けの電話の応答率は,話し中でつながらないなどの場合もございますが,90%を超えているところでございまして,様々な通知を出した直後などには,回線が混み合い応答率が若干下がることもありますけれども,おおむねかなりの程度でつながるという形になっているところでございます。また,二次受けにつなぐ場合には,一次受けでは分からないので,こちらから電話をさせていただくという形で対応しておりまして,できる限りコンタクトが切れない形で,相談を継続するという体制をとっております。

【島委員】 ありがとうございました。今の状況にプラスして,新しい制度になったときにはまたニーズが変わってくると思うので,こういった会議でもそういったサポート体制も含めて議論していくことが必要であるかなと思っています。ありがとうございました。

【小林主査】 ほかに,御質問,御意見ございませんでしょうか。
これは,昨年の学生への経済的支援の在り方に関する検討会でもかなり問題になったことですが,日本学生支援機構としてもいろいろなサポートをしていただいているということはよく分かるのですけれども,新しい制度が複雑なので,それにサポートも対応することが非常に重要であろうということで,島委員の方からも御質問があったものと思いますので,これから情報提供をどのようにするか,特に周知期間がかなり短くなりますので,そのあたりのことはまた議論していきたいと思います。ありがとうございました。
それでは,次に順番が変わりますが,先に資料4について私から御説明したいと思います。
これは,昨年の検討会に提出した資料を基に,学会等で発表しました資料を少し付け加えたものです。最初の部分については,特に説明をする必要はないかと思いますが,資料として付けさせていただきました。所得連動型ローンというのはどういうものなのか,どういう長所と短所があるのかについては,前回ほとんど議論されておりますし,その次の各国の所得連動型ローンについても,オーストラリアとイギリスについては前回事務局から説明があり,アメリカについては吉田委員から説明がありましたので,このあたりは省かせていただきます。次のページですが,イギリスでは2012年に改革が行われまして,いき値を1.5万ポンドから2.1万ポンドに引き上げたこと,それから所得に応じた利子を導入しております。また,帳消し期間を25年から30年に引き上げるということがございまして,こういった措置により,未返済プラス利子補給による政府の負担額のローン総額に対する比率,これをイギリスではデフォルト率と呼んでいますけれども,これが当初の見込みの30%から,40%や48%になるということで,大きな問題となっております。さらに,こういった将来に対するシミュレーションが幾つもなされているわけですけれども,最新のレポートでは,学生の4分の3がローンを全額返済しないと推計されているというものも出ております。
次に,6ページのオーストラリアですが,HECSの未返済問題というのも生じております。HECSというのは,もともと未返済率が非常に低い制度で,優れた所得連動型制度と言われておりました。これは,授業料相当額がかなり低かったということが背景にあったのですが,それが最近大幅に上昇しております。それから,いき値が非常に高く設定されております。これは二つ要因がありまして,ここで前回問題になったことですが,家族とか様々な要因を考慮すると非常に複雑な制度になるわけでありまして,そのあたりを考慮しないためにいき値を引き上げたということがありました。さらに,物価スライドでいき値を引き上げております。現在円安ということもありますが,いき値は約500万円という額になっております。それ以下だったら返済は猶予されるという仕組みになっておりますが,そのために未返済の問題というのが懸念されているわけです。それから,オーストラリアの場合,率はまだ高くないのですが,源泉徴収のため,海外居住者から徴収できないということも問題になっております。これらによって,ある試算によりますと,デフォルト率は17%ぐらいになるのではないかと言われているということであります。
次は,所得連動型のモデルでありますが,図のように,こういった形で様々なモデルを考えることができまして,いき値を動かす,あるいは率を変える,これは直線の傾きになりますが,これを変えることによって当然返還額が変わってくるという仕組みであります。これに対して,現行の制度はこの紫の線でありまして,300万までは猶予,それ以降は一定額を支払うという制度になっているということです。
次に,これに基づきまして,私の方で簡単なシミュレーションを行いました。このシミュレーションのやり方につきましては,14ページに資料として付けておりますが,委員として御出席の,国立教育政策研究所の濱中義隆氏のモデルを使いまして,若干私の方で変えてありますが,こういった形で推計を行っております。詳しくは,また御質問があればお受けいたしますが,基本的には年収が次第に上がっていくという形で考えておりまして,それに従ってどういう形で返済が行われているかということをモデル化したものです。
それを基に見ていただきたいわけでありますが,8ページに戻っていただき,現行の所得連動型について,所得層別に平均残額を推計いたしました。これは男子の雇用者の場合で,第1種,私立,自宅外の奨学金を借りた場合です。御覧になってお分かりのように,所得の高い層は大体現行と同じ40歳ぐらいまでに返還し終わるわけでありますが,これはほとんど猶予がないということがあります。それに対しまして,所得の最も低い層になりますと,60歳まででも100万程度は未返還になるというようなシミュレーションになっております。これは,繰り返し申し上げますが,所得が毎年上がっていくという設定でありまして,55歳から60歳は逆に減少するということでやっているのですけれども,それでもこういう形で未返済が残るということが,現行の所得連動型でも予想されるわけであります。これはかなり大まかなシミュレーションでありますので,今後はもう少し細かな,例えば家族の要因とか様々なことを考えて詰めていかなければいけないと思いますが,一つの試算としてお示ししたいと思います。
次が,7ページのモデルで新しい所得連動型ということで作った場合で,いき値を年収300万円にしまして,返還率を様々に動かした場合にどういうふうになるかということを示したものであります。これを見ますと,現行方式に比べまして,例えば5%程度の返還率でありますと60歳時点でも18%くらいが未返還になるという予測になっておりまして,10%で現行とほぼ同じ水準ということになります。15%とか20%にしても余り変わらないというのは,これは若年層の場合には所得が低いために返還額が小さく,逆に所得の高い方は早々に返還を終えてしまいますので,返還率を幾ら高めても,所得の低い人はどうしてもそれほど返還が進まないということがあるということが示されているわけであります。
非常に簡単なシミュレーションでありますけれども,こういったことを通じて何が分かったかということが,次の10ページにございます。現行の返還終了年齢は大体40歳になっているわけですけれども,多くの所得階層では40代から50代に返還期間が延びます。55歳まで返還期間を延長しても10%程度は未返還になりますし,60歳まで延長しても5%が未返還になります。その要因は,今申し上げたように若年層の低賃金ということになります。低所得層では残額が100万円になります。そこにありますように,返還率を変えたところでそれほど大きく変わらないということになります。
こうしたシミュレーションをなぜ行ったかということですけれども,これは現行の制度においてもこういった未返還が残るということを示すことによって,少なくともこれよりは未返還が少ない制度をここでは検討したいという提案でございます。それからもう一つは,前回も出ましたけれども,現行よりも負担が少ない,特に所得の低い人たちに対して負担が少ないような仕組みにしない限り改良とは言えませんので,そこを十分考えていただきたいということの一つの試案であります。
私の発表は以上ですが,これについて何か御質問,御意見ございませんでしょうか。
それでは,もし御意見等ございましたら,後でも結構ですので,先に進めさせていただきたいと思います。
もし,濱中委員の方で補足があれば,何か一言お願いしたいと思いますが。

【濱中委員】 補足をすると,今回小林先生から提出されたシミュレーションでは,無業の方が対象から除かれています。男性でも22歳~24歳で1割近く,その上の世代でも4%か5%ぐらいは無業という方がおられて,その方は基本的に所得がないとすると,資料4よりもう少し数値が下がるかもしれない。特に,配偶者を持ったときにどうするかというのは,今日の後半の方で話題になるかと思いますが,女性については実態として無業の率がもっと高くなるので,無業の方,扶養に入っている方をどう扱うかによって残額がかなり変わるということは一つ言えると思います。
もう一つ,現行の所得連動型と呼ばれているものの推計については,恐らく対象者の率が考慮されていないですよね。現在,第1種奨学金を貸与されている方の約3割が現行の所得連動型の対象なわけですが,恐らく資料4は,第1種貸与者全体に年収300万以下であれば無期限に猶予という条件を当てはめたときのシミュレーションだと思います。したがって,実際の未返還の絶対額はこれの3分の1になる,3割分になるということだと思います。

【小林主査】 ありがとうございました。
少し説明が足りなかったかもしれませんが,濱中委員の御指摘のとおりでありまして,これは現行の制度を全体に広げた場合,しかも男子の場合でありまして,無業者も除いて所得が把握できる方だけを対象にして行っておりますので,実際にはもう少し精密なシミュレーションが必要であろうと思います。
そういったことも,対象を家族単位にするのか,それとも個人単位で行うかという論点とも関わってきますので,後ほどそれは樋口委員からまた御説明いただけると思います。
ほかにございませんでしょうか。
それでは,次に事務局から,現行の所得連動返還型奨学金制度の対象に大学院生が含まれていないことの経緯と理由についてと,併せて,資料2,検討課題の対応について(素案),資料3,所得連動返還型奨学金制度の返還シミュレーション(案)について御説明を頂きたいと思います。
よろしくお願いします。

【渡辺学生・留学生課長】 それでは,お手元の資料2,資料2(別紙1),資料2(別紙2),資料3に基づきまして説明させていただきます。
まず,お手元の資料2を御覧ください。前回の会議の際には,資料7で具体的な論点をリストアップしたものだけお示しをして御議論いただきましたけれども,本日は,その中から特に幾つかの点について具体的な案をお示しさせていただきます。
まず,1ページ目の対象範囲という点でございますけれども,学校種の考え方でございます。現行の所得連動返還型無利子奨学金制度につきましては,大学,短期大学,高等専門学校,専修学校の専門課程が対象となっておりまして,大学院が含まれておりません。新制度におきましては,大学院を含めるか否かについての検討が必要と思っています。現行制度におきまして大学院を対象外とした経緯と理由でございますけれども,第1点としまして,大学院には業績優秀者返還免除制度がございます。これは大学院修了時の成績上位3割が対象になりますけれども,上位3割のうち3分の1が全額返還免除,残り3分の2の方が半額の返還免除になるといった制度でございます。
第2点としまして,制度の創設当時は,大学学部等への高等教育機関への進学を促進するためという理由がございました。
さらには,家計基準の考え方としまして,大学院以外の大学等の方が奨学金貸与を受ける場合には,家計支持者,これは父母等の収入・所得が家計の基準となりますけれども,大学院生の場合は,大学院生本人の収入・所得が基準になります。従いまして,在学中にベンチャーなどを起こして相当な収入がある方以外は,希望する方はほとんどの方が貸与を受けられるという状況がございます。
それから,これは大学学部で奨学金を利用していた学生が大学院で奨学金を利用する場合に,所得連動返還型無利子奨学金制度の対象になりますと,債権として管理をする場合に,学部時代の債権,それから大学院のときの債権を別々に管理をされてしまうと,平成24年に現行制度が導入されていますけれども,学部時代に現行の所得連動の対象になっていなくて,大学院だけが対象になると,返還する場合に返還期限猶予の考え方がずれてしまうということがございます。加えて,現行の所得連動返還型無利子奨学金制度につきましては,貸与開始時の家計支持者の年収が300万円以下の方が対象になっておりますので,先ほど濱中委員がおっしゃいましたように,現状では全体の3割の方が対象になっております。従いまして,制度が発足して既に3年ほど経っておりますけれども,残り7割の方につきまして,将来についても同様にして学部と大学院で所得連動の返還型の無利子奨学金制度の対象になるか否かというのが変わってまいりますと,制度として若干混乱が生じますので,そういったことも加味された上で,当時は対象になっていなかったということのようでございます。
それから,2番目としまして,奨学金の種類が無利子奨学金と有利子奨学金とございますけれども,現行は無利子奨学金のみが対象となっております。これに関しましても,新しい制度を検討するに際しましては,まずは無利子奨学金に先行して導入をすべきではないか。有利子奨学金については,無利子奨学金における所得連動返還型制度の運用状況を見つつ将来的に導入を検討してはどうかという点でございます。
これに関しまして,有利子奨学金と無利子奨学金は財源が異なります。無利子奨学金は全額一般会計,有利子奨学金は財政融資資金の融資を受けて実行しております。従いまして,財政融資資金ですので,償還確実性,それから有利子奨学金ですから利子が発生しております。こうした点についてもかなり詳細な検討が必要になってまいりますが,並行して有利子奨学金のそうした詳細な点についても検討するのは極めて前提条件が相当多岐にわたってまいりますので,そうしたことも含め,まずは無利子奨学金で先行して導入するという方向で検討いただいてはどうかということでございます。
それから,3番目の貸与開始年度でございます。現行制度は,先ほど申し上げました平成24年度に開始されておりまして,遡及適用はございません。一方で,新しい制度は,平成29年度の新規貸与者から適用するという前提で準備を進めておりますけれども,経過措置については検討中と書いてあります。これは,具体的には大学院の問題もありますけれども,例えば高等専門学校から大学院の学部に進学するような場合,こうした方についても,平成28年度までは高等専門学校にいて,平成29年度から大学の学部3年に編入するような方,こうした方を対象にするときには遡及適用をする必要があるのではないかといった問題点でございます。
それから,2ページ目に参りまして,返還の方法でございます。返還の方式につきましては,現状対象になっている方は年収300万円を超えるとその後は一定額を返還ということでございますけれども,新しい制度の下では,返還の方式として二つの選択式としてはいかがかと考えております。
具体的に,資料2の別紙1をお手元にごらんください。これも後ほどまた使いますけれども,所得連動の返還型というのは,所得に連動して返還が開始されていきますので,低い年収所得の場合は低い金額で返還をいたしますけれども,年収が高くなってくると毎月の返還額が大きく増えてまいります。この例で申し上げますと,これは一つの試算の例でありますけれども,この場合ですと年収300万相当では月8,500円なのが,年収が800万円になりますと月3万4,000円返還していただく例であります。こういう場合と,あるいは人によっては所得にかかわらず毎月一定額を返還したいという方もいらっしゃる可能性があります。現行制度では,資料2の別紙1に書いております,1万4,400円,15年というのは,これは学部時代に借りた259.2万円,これは月額5万4,000円を4年間借りた場合に259.2万円ということになりますけれども,この場合は,現行制度の下ではこの金額ですと15年間で返還していただきます。毎月の返還額は1万4,400円ですというふうに,システム的にフィックスされてしまいますけれども,これを,例えば返還月額を抑える代わりに少し長い期間で返還する返し方についても検討し得るのではないかといった意味で,現行制度の拡張版というふうに書かせていただいております。
それから,返還月額の下限の設定であります。現行制度では,最も少ない金額で借りた場合,これは具体的には大学学部4年間毎月3万円の貸与を受けた場合は,4年間で144万円の貸与になります。その方につきましては,返還月額は9,230円,13年間で返還というような設定になっておりますけれども,これにつきましても,諸外国の例を参考にしつつ,社会保険料等の控除後所得の9%を年間の返還額として試算した場合が今先ほど御紹介しました資料2(別紙1)の金額図でございます。9%ですと月8,500円が目安として書いておりますけれども,この場合,このグラフの横軸では100万円単位で年収があって,その下に括弧で所得を記載しておりますが,この所得の計算では年収から給与所得控除,基礎控除,社会保険控除,この三つを引いた額で記載をしております。従いまして,このモデルとしては,横軸は単身者ということで,独身の方ということでお考えください。当然家族が増えてきますと,扶養控除であるとか様々な控除が追加されてきますので,年収が例えば900万円あってもその方に扶養家族がいれば所得は例えば400万円台ということも発生いたします。
いずれにしましても,考え方はそうした控除後の所得に対して一定の率を掛けて,その率で返還額は変動していくといった考えで,グラフとしては試算をしております。
9%のこの図になっておりますけれども,例えばこれが6ポツの返還率ということに関連してまいりますけれども,9%というのが,例えば全体に応じて10%にするとかあるいは8%にする。ないしは年収が低い段階では8%,9%というような率にして,年収が増えてくると,その率を10%,11%,12%,そういった形で増やしていくというような考え方もあろうかと思います。そういった意味で,資料2の6ポツの返還率というところに案1と案2と二つ書かせていただいておりますけれども,そういうことであります。
それから,もう一度,5ポツの返還月額の下限ということに戻っていただきますと,先ほど申し上げましたように,現状,無利子奨学金の大学生の返還の際の最も低い金額では,年収に関わらず9,230円という返還の方式でありますが,例えば年収300万円で9,230円に近い金額で考えてみると大体9%という計算になりますが,これが返還率10%という計算になりますと,例えば300万円の場合にはおよそ9,500円の返還の額ということで試算をしております。
ちなみに,資料2の別紙1の中の赤い点線で囲まれているところでありますが,これは年収300万円以下,なおかつ斜め線についても点線で書いております。これも現状の制度におきましては,年収300万円以下の方は本人の申出によりまして返還猶予が認められているということで書いておりますけれども,ちなみにこの斜め線,9%というのが大体年収100万円でゼロになっておりますけれども,年収が200万円,所得にして57万円のところですと,仮に金額を試算してみると,大体月4,300円の返還額というような試算でございます。
それから,資料2に戻っていただきまして,所得の算出方法であります。この場合,現行では具体的な設定はありませんけれども,新しい制度の下では年収ではなくて,同じ年収であっても先ほど申し上げましたように家族構成など異なってまいりますので,課税対象所得というのを一つの目安として考えてはいかがかというようなことを書いております。その場合に,課税対象所得は給与等収入から所得控除がありますが,所得控除については給与所得,基礎控除,社会保険料,扶養,介護等の様々な控除がございます。
それから,3ページ目をごらんください。3ページ目では,8ポツで個人主義又は家族主義ということも書いております。これは,先ほど小林主査から御紹介ありましたオーストラリアの例ですと,源泉徴収ですから海外に住まわれている方,あるいは扶養に入っている方については返還が発生しませんけれども,この点についても,これは後ほど樋口委員から詳細な御説明があると思います。
それから,最後に保証制度でございます。現状は人的保証と機関保証がございますけれども,平成26年度の実績で人的保証が46%。すみません,データは人的保証が54%で,機関保証が46%で,数字が逆になっております。が,新しい制度の下で,これはまた本日の資料には詳細が書いておりませんが,論点としては前回挙げさせていただいた中で,一体何歳まで返還を求めるかということで考えていきますと,例えば年金開始年齢の65歳まで返還を求めるとした場合は,卒業後30年以上にわたって返還を求めることになります。その場合には,貸与時に例えば,学生本人の御両親ないしはおじ・おばという方々に保証人をお願いするわけですけれども,30年経ってしまったらそういった方々がもう仮に連帯保証であった場合でも支払能力が失われている可能性が高いので,そういった場合のことも考えると,保証の在り方についても現行の選択制のままでよいのかという論点があると考えております。
それから,資料2の別紙2をごらんください。これは,下に書いてありますが,平成26年度の賃金構造基本統計調査,それから平成24年度就業構造基本調査を基に試算をしたものでありますが,日本学生支援機構の奨学金を借りた方が卒業後に,機構が把握しているのは卒業後に返還している方が大体何歳であるのかという年齢分布はあるのですけれども,通常に返還している方についての年収の情報は残念ながらありません。従いまして,機構が持っております返還者のデータと,それから今御紹介しました二つの調査を基に,年齢層が25から29,30から34,35から39歳の三つの年齢層において,一体どれくらいの年収の方々が実際に返還にあるのかということをお示しした図でございます。これをご覧頂きますと,どの年齢層におきましても,例えば年収がゼロから100万円という方が一定の割合いらっしゃいますのと,あとは大体年収200万から400万ぐらいのところにかなりのピークがあるという状況がございます。実際,現状でも年収300万以下の方については,申出によりまして通常返還では最長10年,所得連動返還型であれば期限なく返還猶予ということができますけれども,多くの方は通常返還で返還をしていただいているという現状もございます。
それから,資料3でございますけれども,先ほど小林主査から試算という形でシミュレーションデータをお示しいただきましたが,本日御議論いただき,それから主査がお示しされていることを参考にいたしながら,具体的に,所得連動という新しい制度を導入した場合にどれくらいの返還が一体見込めるのかということにつきましても,少し詳細なシミュレーションを今後行っていきたいと思っております。
こうした場合に,試算の条件としてそこに設定しておりますが,これはあくまでも試算をする場合に何らかの条件を設定する必要がありますので一応ここに書いておりますけれども,条件として,例えば返還期間をまず35年として計算してみましょう,もちろん返還期間を35年にした場合と20年にした場合,あるいは50年にした場合だと当然返還額は変わってまいりますけれども,まずは35年で試算をしてみたいと考えております。それから,貸与終了者数16万人と書いておりますが,これは大体現在の無利子奨学金の事業規模約47万人でございますけれども,47万人の事業規模を単年度に置き換えると約16万人でございます。なので,現状の事業規模で考えた場合の返還者数をベースに考えてみたいと考えております。それから,1人当たりの貸与額についても,これは現状の貸与額の平均値を用いております。そうしますと,1人当たり平均貸与額が250万円で16万人ですと,大体貸与総額というのは単年度で考えますと,その方が借りている額を計算すると約4,000億円になります。4,000億円に対して現状は返還免除等の仕組みがありまして,年間で約300億円の返還免除,これは先ほど御紹介しました大学院生の業績優秀者の返還免除でありますとか,あるいは死亡した場合の返還免除がありますけれども,大体年間約300億円の返還免除で,国庫を投入しておりますので,免除が発生しておりますので,こうした免除も差し引いて現状では大体当該年度に卒業した方から返ってくる返還の見込額は約3,700億円ということが見込まれますけれども,これに対しまして,現状の所得連動の仕組み,あるいは現状の通常返還,それから新しい制度で仮にまずは9%で試算した場合にどのような返還状況になるのか。こうしたことについて,当然これは返還する方々は,たくさんの場合があります。一生涯独身で過ごされる方,あるいは結婚して子供を5人産む方,あるいは生涯にわたって非正規雇用で年収がかなり少ない方,あるいはかなり高所得になる方,様々な方がいらっしゃいます。そうした方々についてもある程度条件を設定して,少しでも精巧なシミュレーションを今後行っていきたいと考えておりますので,こうしたシミュレーションを行うことについても,前提条件として考慮すべき事項等についての御意見等を頂ければと思います。説明は以上でございます。

【小林主査】 ありがとうございました。
いろいろな資料に基づいて説明していただきましたけれども,これからこの素案について検討していきたいと思いますが,これらは相互にかなり密接に関連している問題でありますので,まず初めに全体で御質問等あればお受けしたいと思いますが,いかがでしょうか。議論を始めるに当たって,クリアにしておきたい点ということでありますが。よろしいでしょうか。
もちろん,個別の論点のときにそれぞれ御質問いただいても結構ですので,今日はこれから今の御説明でありました,特に資料2の検討課題の対応について(素案)について,順番に議論していきたいと思います。これで特に大きく決めなければいけない問題というのが幾つか出ておりますので,それを順番にこれから審議していただきたいと思っております。
先ほどの,特に資料2の別紙の2でありますとか,別紙の1,そういったものを参考にしていただくと同時に,それ以外にも幾つか資料を御用意しておりますので,それも参考にしていただいて審議をお願いしたいと思います。
初めに,大きな問題といたしまして,1番目の学校種の問題でありますが,これは大学院を含めるかどうかということの議論で,前回,特に逆に含めない理由というのが何だったのかという御質問に対してこういった形で回答があったわけですが,これについてはいかがでしょうか。原案としては,大学院を含めることについて検討とあり,特に除く理由はないという御説明だったと思いますが,いかがでしょうか。これもかなり大きな問題でありますので,もし御異論がございましたら お伺いしたいのですが。
どうぞ。

【赤井委員】 別の会議で遅れてすみません,申し訳ありません。
基本的に,大学院も含めて同じ教育として捉えたらいいと思うんですけれども,ここに書いてある四つほどの論点で,例えば3のところ,家計基準がというのがあるんですけれども,大学院は院生本人の収入というのは,大学院になるともう独立しているとみなすということと,あとはいわゆる社会人大学院みたいなのを想定するんですかね。ここのところで,大学院は家計が支えているという割合と,あと社会人,自分自身で学費を払っているという割合はどのくらいなのでしょうか。私の意見としては,ここは共通して,もう全部一つ同じ制度でできればいいと思うのですが,社会人だけはちょっとそこのところが難しいのかなという気がします。

【小林主査】 ありがとうございました。
社会人については大きな問題でありますのでまた議論することになるかと思いますが,とりあえずもう一つ大きな論点といたしましては,社会人になりますと特に申請をいつまで認めるかという問題もあります。これは別途議論が必要だろうと思いますが,先ほど御質問がありました実際に自分で収入を持っている大学院生とか,それから社会人学生がどれくらいいるかとか,そういった点について何か事務局,あるいは機構の方で資料がございますでしょうか。
どうぞ。

【濱中委員】 私が本日資料を持っているわけではないですが,学生生活調査では主たる家計支持者が本人か本人以外かということを聞いていますので,大学院について自分で収入を持っている学生の割合がどれぐらいかということは,資料があれば分かるはずなんですけれども。

【小林主査】 では,次回ということでよろしいですか,すぐには用意できないようですので。

【赤井委員】 社会人かどうか。働いている,働いてないというのと,あとは年齢で見るという方法もあると思うんですね。年齢だと,基本的にずっと来た人なのか一回外に出た人なのかがあると思うんですけれども,年齢みたいなもので縛るというのも現実的なのかどうかというのは一つ議論があるかもしれません。
【小林主査】 ありがとうございました。
島委員,どうぞ。

【島委員】 科学技術政策という観点からも,奨学金をもらって大学院に通い,その後,特に博士課程に行った学生はなかなか就職状況が厳しいということもありますので,所得連動型というものを導入する意義というのは大きいのではないかと思います。ですが,多分これから議論することの前提として,きちんと認識しておきたいことがあるので,先ほどの資料3について質問させていただきたいのですが。
試算の条件設定といったところで,総返還見込額が3,700億円ということになっていると。300万円以下の人が奨学金を返還しない,しかも65歳まで返還しないとする率が仮に3割と考えた時に,この3,700億円のおよそ3割,すなわち1,100億円弱が何らかの形で補塡されなければいけない。それは政府が払うのか,また違う形があるのかという形で,そういうふうなものが発生するという中でこの議論を,そういう認識の下で議論を進めていく必要があるのかなと思うので,今言った3,700億円に対する3割というものが何らかの財源措置が必要になるという考え方でまずよいのかどうかというのを御説明いただけますか。僕の認識が違っていたら教えていただければと思います。

【小林主査】 いかがですか。

【渡辺学生・留学生課長】 島委員御指摘のとおりでありまして,具体的に今回の資料3に基づいてシミュレーションを行うと申し上げますのは,まさにこの場合は35年と一旦期限を区切っておりますけれども,35年間で一体どの程度の返還が見込めるのか。つまり,この3,700億円に対して,今委員がおっしゃったように,例えば,ずっと年収300万円以下の方は願い出れば返還猶予ができるという仕組みになりますと,ずっと300万円以下の方がどのくらいいらっしゃるのか,あるいは300万円を超えた場合であっても年収400万円ぐらいまでしか行かない場合にどうなるのか。そういった時に3,700億円の期待に対してどれくらい返ってこないのかということをシミュレーションでは明らかにしていきたいと考えております。

【島委員】 なので,そういう意味では仮に3割だとしたときに,今言ったような額が必要になってくると理解して,暫定的によろしいですか。ありがとうございます。
【小林主査】 よろしいでしょうか。
ほかに,学校種について御意見ございませんでしょうか。
どうぞ。

【阪本委員】 学校種のことなんですが,それに関連して家計基準の問題なんですけれども,特に大学院生等で大学院生本人の所得や収入を基準にして返還の対象を絞ってしまった場合,実際には家計支持者というのが別にいて,そこからお金をもらって大学に行っているという可能性が出てきます。今回,これは無利子奨学金の方に一応絞られるということで,ここが実は難しいところで,そのような場合になったときに,奨学金を借りてそれを別の投資に回すとかということが実は考えられるというのが,ニコラス・バーの検討の中でも出てきたりしています。
もう1点,少し論点がずれてしまうのかもしれませんけれども,300万円以下のような形で家計のもともとの年収で区切ってしまった場合,家計の低い層の出身者が将来全体として見た場合と同じような所得分布になればいいんですけれども,低い所得分布のところに集中してしまった場合,また先ほどの島委員の心配が更に拡大するというようなケースも出てくるので,ここは非常に論点としては大きいのではないかと思ったりしています。

【小林主査】 ありがとうございました。
最初の問題は,なかなか今の制度上は難しい問題でありまして,別の投資に使うということも防ぐことはかなり難しいと思いますけれども,これは一つの論点としてあるのは,もう授業料に組み込んでしまうというような,他のことには使えないということがあって,これは前の検討会議でもその問題はかなり議論したのですが,ただ,機構の奨学金は必ずしも学費だけではなくて生活費にも使えるという意味で柔軟性を持っているというようなこともありますので,そこのところは用途をどのように絞るかというのが一つの論点としてあると思います。それについてはもし必要であれば,また審議の対象としたいと思っておりますが,現在のところは難しいと思っております。

【阪本委員】 すみません,趣旨が伝わらなかったようで。という可能性があるので,大学院の方も家庭という形にした方がそういった可能性が少なくなるのではないかと。本人というふうに限定するのは様々な可能性が出てきてしまうのではないかということのつもりで発言させていただきました。

【小林主査】 はっきりさせたいのですが,現在の本人の収入・所得に応じてというのではなくて,家計支持者になっている場合,扶養者になっている場合にはそちらの方を見るべきだという御意見ですか。

【阪本委員】 はい。

【小林主査】 それについては,いかがでしょうか。もし御意見があれば伺いたいのですが。
どうぞ。

【濱中委員】 返還の話とは直接関係がないと言うか,むしろ貸与基準の話になるので,現行の仕組み自体を大きく変えるような議論をここでするのが適切かどうかというとやや疑問です。先ほど島委員からお話があったように,大学院の奨学金というのは科学技術政策の一部を担うというか,奨学金を貸与することで優秀な方に大学院に進学してもらうということで多分,貸与基準を本人の収入に変えたのだと思うんですね。そういう方面との調整も必要になるので,ここで議論する必要があるかと言えばちょっと違うかなと私自身は考えております。

【小林主査】 いかがでしょうか。これはかなり大きな問題ですので,どうぞ。

【吉田委員】 私も今の濱中委員の意見に賛成なんですけれども,大学院生の収入をどのように考えるかという,貸与するときの話ですのでちょっと違うかなと思います。それよりも,先ほどから出ている科学技術政策との関連として,やはり若手研究者をどのように支援していくかという論点から議論した方がよいのではないかと考えます。研究職,特に現在任期制が非常に多くなっておりますし,なかなか雇用が安定しないという状況があります。優秀な研究者を確保していくためにも,やはりこのような所得連動型に大学院生を組み込んでいくというのが一つの方策ではないかと考えます。

【小林主査】 ありがとうございました。
それでは,一応御意見として出てきたということで,確かにここでこの問題だけというわけにもいきませんので,先に進めさせていただきたいと思います。ただ,今までのところ,大学院生を含めるということについては御異論がなかったと思いますが,それでよろしいでしょうか。
それでは,次の論点に進めさせていただきますが,今,佐野大臣官房審議官が御到着になりましたので,早速で恐縮ですが,一言御挨拶をよろしくお願いします。

【佐野大臣官房審議官】 いつも本当にお世話になっております。所得連動返還型の奨学金返還制度につきましては,文部科学省でも非常に重要な事項として,マイナンバー制度の導入と併せまして検討していく課題になってございますので,是非御審議のほどよろしくお願い申し上げます。

【小林主査】 佐野審議官,どうもありがとうございました。
それでは,次に,第2の論点で,これも非常に大きな論点なのですが,奨学金の種類として第1種の無利子奨学金と第2種の無利子奨学金が大きく分けてあるわけですが,原案といたしましては,第1種の無利子奨学金のみにしたいということであります。その理由については,先ほど渡辺課長から御説明があったとおりなのですが,これについてはいかがでしょうか。これはかなり大きな問題で,ここが決まるか,どうするかによってかなり制度設計の問題が変わってきますので,是非御意見いただきたい。
どうぞ。

【赤井委員】 十分分かってないんですけれども,この無利子奨学金にすべきというのは,どういう論拠だったでしょうか。

【小林主査】 理由をもう一度お願いします。

【渡辺学生・留学生課長】 まず,財源の問題としまして,無利子奨学金は一般会計,有利子奨学金は機構が財政融資資金を毎回借りて,そのときの金利で学生にそのまま提供しています。つまり,金利負担が発生するということと,それから民間資金を活用しているので,これは償還確実性が求められます。その点について,先ほどシミュレーションを今後行うことについてお話をしましたけれども,一体どの程度奨学金の返還を見込むことができるかというシミュレーションが精巧に行われて,なおかつ実際そのシミュレーションどおりかということがある程度はっきりしてこないと,結果的に第2種奨学金において多くの返還金が見込めなかった場合には一般会計など国費による補塡が必要になってまいります。事業規模等を考えても,今無利子奨学金より有利子の方が約2倍以上あります。
それから,さらには実際に返還期間が長くなってくると,当然金利の考え方等についても詳細な設計が必要になってまいりますので,ちょっとこの段階で有利子奨学金について同様に議論をしていくことが果たして物理的な点からも現実的にはちょっと検討が厳しいかなということが大きな理由でもあります。

【島委員】 先ほど,赤井委員や小林主査からお話があったところと,僕がこの文章を読んだときの印象はちょっと違っていて,現行無利子奨学金のみ,新制度は先行導入であって,将来的に有利子のものが入ってこないというわけでは当然ないということで理解しています。
その上で,僕もまず無利子でやってから有利子に進めるというのは,実務的な観点からも妥当なものではないのかなというふうに考えてはいます。

【小林主査】 ありがとうございました。
ほかに,御意見ございませんでしょうか。
どうぞ。

【赤井委員】 今の説明を聞いていると,確かに技術的なところ,利子のリスクをどう考えるのかというお話と,あとは一般会計のお金なのか他のお金なのかとか,そういうようなほかの枠組みみたいなものからこれが提案されているという感じだと思うんですけれども。本来無利子が望ましいのか有利子が望ましいのか。学生にとっては無利子の方がいいかもしれませんけれども,同じ,例えば一定の財源を使うとすれば有利子にすることで幾らかお金が返ってくるので,その分また別の人に回せるということもありますから,実際どちらの方が望ましいのかという観点と,また制度上の観点とは別に考えると,必ずしも無利子がいいとかいうわけでもないと思うので,ここでは制度の面から先行導入だという位置付けだったらいいと思うんですけれども,無利子がいいのか有利子がいいのか,制度の部分を除いて学生にとって望ましいのはどちらなのかというところは余りもう議論しなくていいということなんですか。もうそれは無利子の方が望ましいということになっているんですか。

【小林主査】 どうぞ。

【渡辺学生・留学生課長】 もともと有利子を導入した際にも,あくまでも有利子奨学金は無利子奨学金の補完的措置として導入したということがありました。これが先の国会でも随分総理,それから大臣からも何度も答弁させていただいておりますけれども,まず無利子奨学金を基本として,有利子から無利子への流れを加速すること,そういったのが一番大きな基本方針であります。

【赤井委員】 分かりました。

【小林主査】 ほかに御意見,ございませんでしょうか。
私の方から少し補足しますと,奨学生の観点からということですが,有利子の場合には当然のことながら利子の負担が付くわけです。所得連動型は特に所得が低い場合には返還額が少ないので,返還が長期化します。ということは,利子負担が非常に大きくなると,そういう問題を持っているわけです。ですから,そのあたりも考えないと,特にアメリカの例などでは利子負担の方が大きくなってしまって所得連動型が適用できないというケースも出てきますので,利子がアメリカは非常に高いですので,そういったこともありますので,学生側から考えてみても有利子に所得連動型を適用することについてはシミュレーションでどうなるかということと相当慎重な検討必要だろうと思いますけれども。いかがでしょうか。
どうぞ。

【濱中委員】 それに関連してですが,現状では,有利子奨学金の方が貸与されている学生の数が多いということと,もう一つは,有利子の方が,貸与総額がかなり大きくて返還月額,割賦金もかなり高くなっているので,それを考えると返還の負担は有利子奨学金を利用している方の方が大きいことは確かだと思います。
ただ,小林先生がおっしゃったように,利息の問題もありますし,返還負担を軽減する方策が所得連動型でいいのかというのはもう少し議論する必要があるかと思います。例えば,もう少し返還期間を柔軟に長くして,今の第1種並まで下げるのは難しいかもしれないけれども,月々の割賦金を少し下げる,といった方策は検討した方がいいと思います。したがって,継続的に議論していただくことは大事だとは思いますが,ただ,それが今回提案されている所得連動型を必ずしもオプションとする必要はないのではないかという感じを私自身は持っております。

【小林主査】 ありがとうございました。
どうぞ。

【赤井委員】 もちろんおっしゃるとおりだと思うんですけれども,有利子にすることでより幅広い人に一定のお金だったら渡すことができるようになるという視点もあるので,必ずしも無利子が絶対に望ましいというわけじゃない。いろいろな視点で考えるべきだと思います。

【小林主査】 ここでは所得連動型の導入をどうするかということが議論になっているわけでありますけれども,もちろん現行のその他の制度についても様々に考えなければいけないという問題もあります。この問題は非常に大きな問題だと思いますので,もう少しだけ議論したいと思いますが,いかがでしょうか。
どうぞ。

【吉田委員】 赤井委員がおっしゃるように,私も予算が許せば有利子奨学金まで拡大すべきではないかなと思っております。ただ,限られた予算という中で議論するということであれば,無利子奨学金に先行導入するというのも考えるべきではないかなと。JASSOの調査によりますと無利子奨学金の方が未返還率が高いというデータもあります。つまり,第1種奨学金を借りている貸与者の方が返還できていない人が多いと。つまり返せていない人が多いということであります。ですから,そういうことを考えれば,無利子奨学金の方に先行導入していくというのは筋の通る話ではないかなと思います。ただ,予算が許せば有利子奨学金の方まで拡大すべきではないかなと思います。

【小林主査】 ありがとうございました。
予算が許せばというのは,国庫負担とかというような意味合いでしょうか。

【吉田委員】 はい,そうです。

【小林主査】 まず,事務局から。

【渡辺学生・留学生課長】 すみません。今の延滞,返還の状況についてあったんですけれども,返還,基本延滞状況だけで申し上げますと,今の御指摘というのは,新規貸与者に限ってみると無利子奨学金の方が返還状況はよいです。ただし,総回収率にしていくと,無利子奨学金,第1種奨学金の方が長い期間運用しており,長期延滞者の数が多くなってきているので,その関係で全体の回収率がよくないような状況が見えますけれども,新規の返還者で申し上げると,無利子奨学金の方が若干返還率が高いです。

【小林主査】 どうぞ。

【島委員】 恐らく,多分無利子と有利子の違いという点を我々が共通認識を持つともっとすっきりするような気がするんですけれども,もし僕の事実誤認だったら教えていただきたいと思うんですが,無利子の方が家計所得の基準だとかが厳しい。有利子の方はそういうのがなくて,比較的豊かな家庭の人までも借りられると。そういう無利子と有利子はもともとは第1種,第2種って言っていたような気がするんですけれども,そういうもともとの性質の違う,借りられる人の性質も違っているというふうなことを理解すると,少しなぜ無利子から始めるのかということも共有,合意しやすくなるのかなと思ったので,ちょっとお話をさせていただきました。事実誤認があれば教えてください。

【渡辺学生・留学生課長】 お手元の参考資料4をごらんください。参考の4の1ページ目に表の形で資料を付けております。右の方をごらんいただくと,無利子奨学金と有利子奨学金の一番上は貸与人員から始まって,これは平成28年度概算要求の数字でございますけれども,右の表の真ん中辺に貸与基準というのがあります。ここでは,学力基準と家計基準があります。無利子奨学金の方は,学力基準が高校成績が3.5以上,これに対しまして,有利子奨学金は平均以上の成績の学生,特定の分野において特に優秀な学生,学習意欲のある学生,こういった方々で,家計基準の方でごらんいただいても,これは子供1人から3人までで幅がありますけれども,一番高い,例えば子供3人の場合で比較してみると,1,280万円と1,520万円ということで,比較的有利子奨学金の場合はより緩い基準,成績も少し無利子に比べたら全体としては低い,なおかつ家計の方も比較的無利子に比べたら年収が多いという家庭が借りやすくなっております。

【小林主査】 ありがとうございました。
ほかに。どうぞ。

【赤井委員】この今の表を見させていただいていて,多分こういう制度って所得連動型は本当にその世代の再分配もかなり重要になってくるので,基本的にアドバースセレクションとかを考えると全員が入るのが一番望ましくて,できるだけ幅広くということの方がいいと思いますが,そういう観点からすると,無利子・有利子で幅広い人に入っていただくみたいな考え方も一つあるのかな,と思います。先ほどの話を聞いていると,無利子は政府の予算で有利子は財投になるので,制度設計的なもので難しいというふうに聞こえてくるので,そこがクリアできなかったら無利子からというのは分かると思うんですけれども,クリアできるなら全体両方とも動かせるなら早く動かした方が,後でたくさんの人が母数として入った方が,再分配とかそういう所得連動型の趣旨に合っているような気がします。

【小林主査】 ありがとうございました。
どうぞ。

【阪本委員】 これまでの研究の中で,やっぱり所得連動型の最も形として望ましい形というのは,利子を市場利子率に近い形で入れた上で,全員に入らせてというのが一番望ましいということなので,まずそういうふうなところに持っていけるのか。それとも,もう現行の,特に貸与の対象者というのは現行制度のままほとんど動かさずに返還するところだけを変更するのかというところが最もここで議論する上で最終的に明らかにしておかないと議論がどんどんややこしくなっていくというようなことだろうと思います。

【小林主査】 ありがとうございました。
今のはかなり専門的な話になりますので,少し市場利子率に連動するのが一番いいということの御説明を頂ければ有り難いと思いますけれども。

【阪本委員】 これは,先ほど申し上げたように,市場利子率より低くて誰もが借りられてしまうと,結局のところそこでもうけてしまうという人が出てくるわけで,ですので本来の趣旨からいうとそれは余りよくないですから,市場利子率に連動させていくのがよいということになるということだと思います。

【小林主査】 ありがとうございました。
この問題は,非常に大きな問題であります。それで,いろいろな条件がありまして,条件をクリアすればもちろん第2種まで含めて行うことが望ましいということだと理解しております。この問題は,今のところはそういう形で原案としては無利子を先行してという形にしておきたいと思いますが,条件が許せばもちろん第2種まで拡大するということは方向性として考えていくということで,ほかにもまた先ほど申しましたようにいろいろな要件が絡んでおりますので,もしほかのことでまた出てきましたらまた考え直すということで,今のところは原案の形で進めさせていくということでよろしいでしょうか。
今日は,この次の要件でありますけれども,前回も大きな問題になりましたが,返還の単位を家族的に見るのか,あるいは世帯として見るのか,それとも個人を単位とするのかというような問題が非常に大きな問題としてあるわけであります。それについては樋口委員が御専門でありますので,樋口委員から御提案を頂きたいと思っております。
まず,樋口先生,簡単ですが御紹介をよろしくお願いいたします。

【樋口委員】 遅れて参りまして申し訳ございません。
それでは,資料5が配布されていると思いますが,その議論メモに基づきましてお話をさせていただきたいと思います。
ここでの議論というのが,やっぱり基本的には毎月毎月返還していくと。そして,その中においてどうしても返還能力に欠けるというような人たちに対してその減額をというようなことになるのかなと思いますが,では所得連動の基準と言いますか,何をもってその返還ができないとみなすのかというところについて,少し話をさせていただけたらと思います。
ここではもちろん奨学金の返還について話をしているわけでありますが,政府のいろいろな制度に関しましても,それぞれの目的に応じていろいろな単位という形で取っていることがあるかと思います。例えば生活保護の基準をどういうふうに決めるのかとか,あるいは今度は社会保険の給付の単位をどうするかというようなこともあるわけでありまして,そこでもまた課税の,例えば担税力というのをどう判断するのかというようなこともございまして,少しそこでの議論というものを参考に考えてみたいということであります。
例えば所得の認定単位,①というところに書いてありますが,今,小林先生からお話のありました個人単位,その人の稼いでいる所得というものに基づいて判断していくのか,それとも時には夫婦の合算所得というようなもの,あるいは時にはまた親でありますとか親族,2親等,3親等までというような形でそういったものを捉えていくのかと,これはかなり実際の制度を設計する上で重要なポイントになってくるのかなと思います。
お金を借りるとき,奨学金の貸与の場合,そのときには多くの方々は学生ですので結婚していないというようなことになるわけでありますが,今度,卒業してから年数が何年もということになってくれば,当然その間で結婚,カップルというようなものが起こってくるわけでありまして,そこの一つの問題というのは,個人単位にしたときに,例えば専業主婦の個人単位ということで考えますと,これは所得はないわけでありまして,担税力ももちろんないわけですし,また返還する能力もないというようなことになるわけですが,そういった問題を考えるときには,一つはやっぱりモラルハザードの問題と併せて考えていかなければならないということになるのではないかと思います。返還能力がないという状況を逆に自発的に選択することがないようにというようなことでありますので,そこのところの考え方というのが必要になるのかなと思います。
また,夫婦についての合算所得,ヨーロッパ,欧米でとられているようなN分N乗課税のようなときというのもまさに家計単位というようなことになるわけですが,日本の場合はベースはやっぱり個人単位の課税単位となっていて,そしてその配偶者の状況によって控除という形で生活の必要額といったものを考えていくというようなことになっているかと思います。ここではどちらをとるのかというのは大いに議論のあるところかなと思います。
そのときに,家計単位で仮にとるということになったときに,もし世帯員がN人いますというようなことであれば,夫婦であれば2人,親も同居ということであれば,両親が要れば4人ということになるわけでありまして,じゃあ生活費が4倍必要なのかというようなことを考えてみると,そこでは世帯員についての規模の経済性といったものが働くわけでありまして,2人になったから独身のとき,単身のときの2倍生活費が必要かというとそうではなく,通常,よく用いられているのがこの式にありますようなルートをNで割りますということで,4人であればルート4,すなわち2で割りますというような方法。ここではルートということで0.5乗となっているわけですが,そこをどういうふうに置くのかというようなところも議論があるかと思いますが,通常のOECDであるとかそういったところで使っているのはこのルートNで割りますという方式になっているかと思います。
さらに,今度は計測の単位,実際の制度を考える上では年間の所得という形で捉えられる場合が多いのではないかと思います。例えば日本の場合,特にボーナスのウエートが高いというような季節性を持って給与が払われるというようなことになりますと,月という単位で考えますと,それが非常に低い月があったり,逆に12月ですとか7月というようなことになるとそれが増えますというようなことになるわけでありまして,通常は年間とか,あるいは少なくともそれをならして,平均してというような月額ということになってくるかなと思います。
多分,現実的な制度を考えると,やっぱり年間所得だろうと。例えばある月働かなかったから所得がゼロです,それが返還能力に欠けますと言っても,ある意味では先月までの蓄えというのは資産があるはずでして,これもまた所得でいいのか資産も考慮すべきなのかというようなところも議論になってくるかと思いますが,多くの場合は年間だろうと思います。
次が,所得の源泉でありまして,通常は給与所得,勤労所得という形で考えるわけですが,今事業所得,自分で個人事業主という形で事業をやっている人もいれば,そこでは給与所得じゃなくて事業所得が発生する。あるいは,たくさん資産を持っているというような,ただ今は無業ですというような。ですから,給与所得はゼロで財産あるいは財産所得はかなりありますというような。その場合,総合所得課税と言いますか,総合所得で判断していくというようなことがあるわけでありますが,ここについても,税制上もういろいろ私より赤井委員が専門にやっているわけですが,そこのところの議論というのはあるかと思います。金融資産とか,あるいは実物資産,こういったものをどう評価するのか。例えば,生活保護ではそこまで見ますというようなことになるわけでありまして,そこの把握の問題も含めて,こういった具体的な問題というのが発生してくるだろうなと思います。たくさん資産を持っていながら今年の給与所得はゼロでしたと。したがって,返還能力がないというふうに見ていいのかどうか,これは大いに議論のあるところだということになるかと思います。
2番目は,連動方式という形で比率返還の免除される比率,免除というかその時点で先送りできる比率。こういったものを連続的に捉えていくのか,それともこの人は担税,返還能力がないということで一切払わないでいい。逆に今度は,ある人は全額払いなさいというような,離散型といいますか,そういった形で制度設計をしていくのかというようなところも議論があるかと思います。恐らく,正確にもしこういった所得が把握できるのであれば,やっぱり段階的な連続型,あるいは連続ではないにしても,幾つかのブラケットに応じて何%という,あるいは幾らという形で先送りできますというような方法を考えていくのが望ましいのかなと思います。
今申し上げましたのは,あくまでも論理的な話でありまして,これをどういうふうに実際の制度に現実的に落としていくのかというようなときには,場合によってはかなり妥協しなければならないというようなことが出てくるんだろうと思います。思いますが,やっぱりここに書いてある原則というのは非常に重要な原則であると思いますので,そのとき,一つはやっぱりモラルハザードを阻止するというのはこれは制度設計において避けることのできない問題というような,逆を言えばモラルハザードを引き起こしてない,ちゃんと払っている,返還しているという人が損をするというか馬鹿を見るというような制度はやっぱり望ましくないということでありまして,まさに返還能力というものに欠けるということをどう判断するのかというのが設計上問題かなと思います。
もう一つ,ここには書いてないんですが,所得といったものを,例えば住民税ですと前年の年間所得に対して課税がされるわけですね。所得税であれば12月の段階で1年間の所得が確定して,時には確定申告をして,そしてその年の所得に応じて払うということになるわけですが,この連動返還型の奨学金ということになると,制度的にどの時点の所得に,そしてまたそれをどういうふうに把握できるのか。月々は多分把握できないと思います。そうなってくると,通常この議論によるのが所得証明を出しなさいと言っても,前年の所得証明なんですね。というようなことで,そこにタイムラグといいますか時間的なずれが出てくるということはどうしても避けられないかなと。ですから,恒常的に所得がゼロという人に対しては,もう優先的に返還能力が欠けるとみなしていいということですが,たまたま何かの理由によって欠けました,やむを得ない理由というのもあるかもしれませんが,自発的に今年は働かないと,むしろ学生に戻りますとかというようなことが発生したときに,どうこれを考えたらいいのか。要は,恒常所得なのか,我々の言葉で言うと変動所得といいますか,そのときそのときの所得ということを重視していくのかということもあるかと思います。是非,こういうところについては金融機関のスコアの方法とかいろいろありますので,特に政策金融で返還免除とかいうことをやっておりますので,そういったものも参考にしながら考えていくということが必要ではないかと思います。以上です。

【小林主査】 どうもありがとうございました。
いずれも非常に重要な論点でありまして,前回もモラルハザードの話はかなり出ていたんですが,所得連動型の欠点としましてモラルハザードと逆選抜という問題が非常に大きいわけでありますので,これについて十分制度設計については考慮しなければいけないということです。非常に大きな問題は,これはもう一つ所得連動型で家族単位か個人単位かということはどこの国でも非常に大きな議論になっておりまして,それをどのようにしていったらいいかというようなことの御提案だったかと思います。
等価可処分所得という考え方も確かによく研究で使われる考え方でありますので,そういったことを考えていくのが望ましいのではないかという御意見だったと思いますが,これについて御意見いただきたいんですが,いかがでしょうか。
赤井委員,どうぞ。

【赤井委員】 特に何が望ましいというアイデアはないのですが,国がどのように税金を取るか,所得の把握をどうするのか,というのはいろいろ税調などで議論もされていますから,議論の結果,こういう形で所得を把握してというのは国としてのある程度のものがあるので,そういうものに従わざるを得ないというのが第1点。もう一つは,確かに期間のずれですね。国税ベースか住民税ベースかといろいろあると思いますけれども,タイムラグはもう仕方ないので,そこはある程度割り切って,この制度を入れるからにはしっかりと払ってもらうというところはある程度強く出るというかルールに従って。そのときたまたま学生になったとか所得がないとかいうことはあるとは思うんですけれども,そういうようなところへの配慮というのはなかなか難しいので,きちっと把握した所得に対しては,ちょうど払う時点での状況にかかわらず所得というデータに基づいて払っていただくということを当ててせざるを得ないのではないかなと思います。

【小林主査】 ありがとうございました。単位の問題はいかがでしょうか。家族か個人かという。

【赤井委員】 どうでしょう。

【樋口委員】 大問題が起こるところですよね。

【小林主査】 大問題ですよね,あれについては。

【赤井委員】 それほど決まったのはないので,それほど意見も述べられないですよね。

【小林主査】 結局,各国で所得連動型を入れるときに,やはり一番これが大きな問題だったわけです。今,樋口委員から説明がありましたように,専業主婦問題ですね,簡単に言うと。それが一番大きな問題だったわけで,いろいろな検討はなされたのですけれども,一つはもともと個人主義的な発想が強いということもありますけれども,割り切ってしまって,もう一切配偶者のことは考えないというようなやり方をとっている国もありますし,ある程度は考慮している国もあると様々です。別に諸外国の例も必ずしもいいわけではありませんので日本型を考えればいいと思いますが,その場合にどこまで考慮するかということを,先ほどの事務局の説明では,所得の捉え方のときに扶養控除とかそういったものを入れていく形で家族の問題を少し考慮しましょうという提案だと思いますが,そもそも所得の単位としてどちらをとるかというのは非常に大きな問題ですので,そのあたりについて是非御意見を頂きたいのですが。
先ほど,幾つか技術的な問題も樋口委員が提案されたのですが,それについて何か事務局の方でございますか。例えば,所得の把握の仕方でありますとか。

【渡辺学生・留学生課長】 現状,マイナンバーを用いて情報を入手するのは,飽くまで地方自治体を経由してまいりますので,基本的には所得証明に相当するような情報になってくると思います。一方で,委員より御指摘がありましたように,家計の急変動があった場合には,そこはもちろんセーフティーネットとして何らか証明を出していただければ,その時点からなのかとなるのか,そこは手続を詳細に詰めておりますけれども,返還猶予ができるような仕組みというのは当然入れる必要があると思っています。
事務局として,モラルハザードの観点からも,本当に家計所得として入れることは極めて重要だと考えておるのですが,本当にこれはどうやって捕捉できるか。先ほど主査がおっしゃいました交渉の際に扶養控除をという,これも本人がむしろ扶養している場合に扶養控除で配偶者なりお子さんたちの控除をされるので,本人の奨学金の債権に対する返還ということではすごい意味があるんですけれども,完全に扶養されている立場になってくると,これからマイナンバーを導入してまいりますけれども,あくまでも御本人のマイナンバーしか使えませんので,扶養者のマイナンバー情報までは,今の法令の下では使えません。したがって,マイナンバーを通じて扶養者の情報を入手するためには,法律の改正まで踏み込んでまいります。
一方で,諸外国のことを考えると,諸外国の場合は税金として徴収されているので,それと比較すると日本の奨学金の場合は税金ではないので,そういった意味では制度的な面で言うとそれを債権として扶養者に対してまで与えるというか義務的に負わせるということはかなり難しいと思いますが,返還していただく際には,例えば現状の返還の状況でありますと御本人の奨学金の返還を家族,御主人なり奥様なり,あるいは保護者,親が払っているという例も随分ありますので,そこの制度,今現状動いていることと,ただ新しい制度になってきた場合に,本当にどういうふうに家計所得を把握できるのか。仮に債権として負わせることが制度上どこまでできるのか。そこがかなり厳密な議論が必要と思っております。

【小林主査】 今のお話は二つあったと思うんですけれども,技術的に家計所得がそもそも把握できるのか,捕捉できるのかという問題と,それから債権として見た場合に,家族を単位として債権としてみなすことができるのかという両方あったと思うのですけれども,これについては,私の方では分かりませんが,宗野弁護士,お分かりでしたら少し法律問題としてお聞きしたいのですが。

【宗野顧問弁護士】 そうですね,分かりました。
二つ御指摘がありましたけれども,どちらの方から。

【小林主査】 どちらもお分かりになれば,是非お願いいたします。

【宗野顧問弁護士】 まず,技術的な問題の方なんですけれども,マイナンバーで捕捉する場合は個人単位だという形になっていますので,契約するときは奨学生が契約したときに結婚等されていない場合ですけれども,あくまでも個人と契約されているので,その後に配偶者となった方に,必要だから配偶者のマイナンバーを出せといっても,それを契約上義務付けることは難しい。あくまでも個人との契約ですから,その後第三者が入ってきたときに,じゃあ配偶者になったから出してねと,それは当然には言えないと。
ですので,もしそれをそういう形で捕捉をするという形であれば,マイナンバーの法律の方で,例えばこういった情報のときに個人のところにも世帯単位の考えを入れて情報として入っているという話であれば,個人の,例えば配偶者,被扶養者の方のマイナンバーを頂いたときに,家計全体の情報もそこから取れるという話であれば,それは頂けると思います。しかし,現状では個人という形で捕捉している限りにおいては,それは契約で仮に例えば結婚したときに配偶者のものを出すというふうな約定を置いたとしても,配偶者が拒否した場合にそれを強制できるかというと,それはできないということです。なので,そういうのを出さなかった場合は,例えば免除,猶予とかが得られませんよという形で間接的に強制することはできますけれども,そうした場合,配偶者が協力的かどうかで,そういう猶予が受けられるかどうかというのも変わってくるので,そこはそれでいいのかどうかという議論がまた別の問題として生じると思います。まずそれが技術的な問題と思います。
あと,借入れを家族単位で考えるのか,それとも個人で考えるのか。あくまでも借入れというのは個人の契約ですから,じゃあ奨学生と契約したときに契約の当事者でない,例えば親兄弟,配偶者。これは契約当事者じゃないですから,請求は基本的にはできないと。あくまでも,連帯保証人とか契約上の債務者であるから親だとか親戚から取れる。契約上債務者でない以上は,配偶者の借金を払えということは法的にはできない。
今回,家計を全体基準として返済額を決める。これは別に夫に払えと言うわけではなく,所得のない専業主婦の場合,家計全体を基準として返還額を決めるという話であれば,それは別に夫だとか親に返還を迫っているわけではないので,それは理屈としてはあり得ると思います。ただ,本当に専業主婦で一切働いていないといった場合は,結局は夫の財布から出ているので,それは事実上夫に払わせるのではないかという話も出てくると思います。けれども,そこは家計全体を基礎として可処分所得をどう捉えるかという考え方とした場合,そこはあくまでも返還額を算定する基準としているだけで,契約当事者でない配偶者に返還を強制するとは言えないと思います。専業主婦は,実際は夫が働き,夫が稼いだお金で家計をやりくりし,自身の所得がない以上,個人主義を基準にできないのはやむを得ないので,そこは基準だという形で整理して,あくまでも返還額の基準として家計を基にする,それは一応考え方としてはあり得るかと思います。

【小林主査】 ありがとうございました。かなり難しい問題で,いろいろな法律的な問題も入ってきますのでお聞きしましたが,一応基準としては使えるということでありますけれども,現実の問題としては技術的に本当に捉えられるかという問題が残っているというようなことだったと思います。

【樋口委員】 よろしいですか。

【小林主査】 どうぞ。

【樋口委員】 先ほど,突発的な事故によって所得がゼロになったとか所得がなくなった時の扱いはどうするか。これは雇用保険の認定,失業給付の認定ですか。でも,それはもちろんいつもあるわけですね。この場合には,企業で,例えばどういう理由でその人が辞めたのか,離職したのかという離職票を出してもらう。企業の方の都合で,倒産であるとかそういったものによってこの人は辞めざるを得なかったんだと。そうなりますと,即時的にその認定が認められ,給付がなされる。ところが,自発的に辞めましたというようなときには3か月の待機期間という形で,3か月間はまず求職活動をしなさいというようなことをやったわけですね。それでもまだ失業していれば3か月,4か月目から給付を実施するというようなことで,給与所得については多分突発的な者に対する証明というのはできると思います。ただ,財産所得とか総合所得になってくるとちょっと話がまた違うなということで,そのやり方は一つあるだろうなと思います。
もう一つ,今のマイナンバーうんぬんというのもあるわけですが,要は例えば所得税の配偶者控除を受けるかどうか。これは受けるかどうかというのはあくまでも本人の希望で,ある条件を満たせばということになるわけですね。条件を満たすときに配偶者の所得という所得証明を,通常夫の勤めている会社の方に持っていき,認定を受けて結果的には税務署がチェックするということになるわけですが,実質的には夫の会社の方に何で配偶者,妻の,あるいは夫の収入証明を出さなくちゃいけないのかと,これはかなり議論のあるところですが,一応控除を受ける認定といいますか,希望を出すということの条件としてそこはやっているわけで,例えば今回についても返還能力があるかどうか。原則は払うんですよと。認定を受けた人だけが払わなくても先送りすることができるというようなことになるわけで,そこのところは一旦全員に配偶者の所得も出しなさいという話とちょっと違ってくるのかなと。その払わなくてもいいという権利を行使する,それを希望する人に対して条件を課すというようなことというのはありかなと思うんですが,どうでしょうか。

【宗野顧問弁護士】 それはあります。今おっしゃったように,先ほどのは間接的に強制する,要はそれも言葉が変われば,この控除,猶予を受けたければ配偶者の所得証明を出してください。例えば,マイナンバーで専業主婦だと,所得はないんだと分かっていますと。配偶者がいる場合に,例えば配偶者の所得証明も出していただいて,少ない場合は承認しますと。そうでなければ猶予は受けられませんと。だから,多い方は出しても意味がないですし,少なくても出す出さないは個人の選択という形でやるというのは一応あり得ると思います。
ただ,今回所得連動の仕組みの大元というのが,要はマイナンバーを利用することによって証明書等の管理だとかを減らしてたくさんの方を対象とするという話になるので,専業主婦の方が実際はどれぐらいいるのかは分かりませんけれども,この問題というのは,専業主婦もそうですけれども,昔はなかったいわゆるニートですか。親の家計,支援で生活されている方,これも実質専業主婦の方と同じような問題なんですけれども,そういった方にも,じゃあ親の所得証明を出してもらわなきゃいけないのかという話になり,また紙ベースで出してもらうという話になると,ここはまた技術というか予算の問題として多数の紙ベースで出してもらって申請するという話になると,これは理屈の話ではなく,実務の話としてそれが可能かどうかというのは別の問題としてあると思います。

【小林主査】 ありがとうございました。
いずれも非常に重要な問題ですので,もう少し議論いただきたいのですが,いかがでしょうか。
現行の所得連動型について,やはり同じ問題があると思うのですが,それについてはどのようになっているかということを機構の方からもし御説明いただければ有り難いのですが,いかがでしょうか。つまり,専業主婦問題というのをどういうふうに現在は想定されているか,という問題なのですけれども。

【甲野理事】 それではお答え申し上げます。
現在の仕組みは個人という形になっております。一般の返還の場合でしたら,経済的な困難というのは10年という形で,幾ら個人主義と言いましても10年間しか猶予はなくて,その後,収入が少ない方におきましても返還をしなければならないということになるんですけれども,現在の所得連動返還制度は,その10年という期間がございませんので,個人主義をとる限りはずっと未来永ごうまでといいますか,返還しなくてもいいという状況になるわけでございます。従いまして,個人主義をとると返さなくてもよくなるという状況にございます。

【小林主査】 それで,専業主婦,これは妻でも夫でもあると思うのですけれども,それについてはどのように処理されているのでしょうか。

【甲野理事】 あくまでも個人主義ということでございますけれども。

【藤森部長】 日本学生支援機構の奨学事業戦略部長,藤森でございます。
今の制度では,本人が所得連動の猶予を求めるときには,自分が誰かの扶養になっているかどうかということは申告はさせております。その際に,扶養になっているということであるならば,例えば小さな子供がいるとか,病人を抱えているとか,そういう事情に当たるかどうかの確認をしております。ですから,飽くまで自己申告ですけれども,そこのところを一応チェックをしているというやり方になっております。

【小林主査】 ありがとうございました。
現行制度ではそういう形で,申告制という形でこの問題を捉えているということですが,家族といいますか世帯を単位として,経済学では家計ですけれども,世帯を単位として考えるということで,できなくもないことだと私は認識したのですが。ただ,現実的には技術的な問題というのはかなり大きいということだろうと思うのですが。
いかがでしょうか。
どうぞ。

【赤井委員】 一番,現行と今回の違いとしては,現行は10年経つとどんなに所得が低くても払い出さないといけないんです。要するに,専業主婦でずっといることで払わずに済むということにはならないということなんですよね。今回の所得連動だと,ずっと所得が少ないともうそのまま払わずに済んでしまうという,再分配がありますから,その違いがあるということでいいでしょうか。

【渡辺学生・留学生課長】 若干補足しますと,現行制度は通常返還と所得連動の二つに分かれています。通常返還が約7割,所得連動が約3割です。通常返還の場合は,最大の猶予期間は10年間。

【赤井委員】 所得連動の場合。

【渡辺学生・留学生課長】 期限なし。

【赤井委員】 期限。

【渡辺学生・留学生課長】 期限なく猶予ができる。

【赤井委員】 期限なし猶予ということは,死ぬまでずっとということですか。

【渡辺学生・留学生課長】 現状の制度はそのようになっています。

【赤井委員】 ということは,もうずっと専業主婦をやって人生を終えると1円も返さなくていいということですね。

【渡辺学生・留学生課長】 そういう可能性はあります。

【赤井委員】 実際そうなるんでしょう。

【藤森部長】 一定の要件の下で。

【赤井委員】 要件ですか。

【藤森部長】 障害者を抱えているとか,小さい子供がいるとか。

【赤井委員】 そういう場合だけということなので,そうじゃなければ専業主婦でも返還をさせているということですね。

【藤森部長】 そうです。それでなければ一般と同じ扱いに戻る。

【赤井委員】 ということは,一種の個人単位だけれども,家計単位的な要素を入れているという理解でいいですかね。

【藤森部長】 一部ですね。

【小林主査】 現在の制度もかなり複雑ですので。この辺は現状がどうなっているかはっきりさせておきたいと思いますけれども。ですから,今御説明あったように,全くの個人主義ではないということですけれども,申告制であるというようなやり方でこの問題を措置したい,ということです。

【赤井委員】 個人主義に関して,海外ではそういう感じはどうなんでしょう。

【小林主査】 私が知っている限りでは,イギリスとオーストラリアは全く考えておりません。個人主義です。

【赤井委員】 専業主婦はいますよね。

【小林主査】 専業主婦は当然います。専業主婦からは取れません。

【赤井委員】 でも,さっきのような,ちょっと家族主義的な,家計主義的な条件は入っているんでしょうね,多分。

【小林主査】 いえ。

【赤井委員】 全く入ってない。

【小林主査】 イギリスとオーストラリアは全く入っておりません。先ほど簡単に説明しましたけれども,オーストラリアの場合で言いますといき値が500万円ですので,そこでいろいろな家族の状況とかあるとしても,500万もあれば返してくださいというような考え方で割り切っているわけです。
唯一考慮しているのは,アメリカの所得連動型では家族の人数に応じてやりますので,等価可処分所得という単純に家族人数で返還額を決めるという方式になっていますので。そこはかなり考慮しているのですけれども,それ以外にイギリスの場合には全く考慮していないで,これはかなり私たちも調査したんですけれども,やはり技術的に難しいということが一番大きかったようです。

【樋口委員】 ちょっとよろしいですか。
この制度の問題と一緒に現実の経済,我々,経済学で専業主婦ってどういう夫の所得の人に多いんだろうかということがずっと研究でなされてきたわけですね。有名なのはダグラス・有沢の法則というのがあって,高所得の夫ほど妻は専業主婦になっているという問題で,ただ,最近それが薄れてきているんだという議論はあるんですが。そうなると,例えば専業主婦は返還能力がないというふうにみなすと,割と高所得の夫にそれが発生しやすいという問題が特に日本において存在するんじゃないかという議論というのは起こってくる可能性がありますね。

【小林主査】 どうぞ。

【濱中委員】 一方で,今現在JASSOの方で返還者の属性調査をやっていまして,その結果を見ると,どこまで正確に所得が回答されているか分からないですけれども,女子の方が同じ年収だと延滞率がすごく低いんですね。これは全く学術的な話ではないですけれども,やっぱり女性が結婚するまでに奨学金のローンを抱えていると結婚しにくいとか,親がそう思っているとかそういう話はしばしば聞くわけです。返還の在り方としてモラルハザードを起こさないということはとても重要なのですが,一方でそのことによってそもそも奨学金を借りること自体をためらってしまうと本末転倒というか,何のために奨学金制度を設けているかということにもなりかねませんので,どちらがいいかと問われると非常に難しいのですが,余りリジッドにこういう場合はこうしてこう必ず返さなければいけません,みたいにすることが,ローン回避を生まないような設計にすることも重要かなとは思います。

【小林主査】 ありがとうございました。

【阪本委員】 確認をしたいんですけれども,いわゆる通常返還型というのは,この新制度でも残すということでしょうか。

【渡辺学生・留学生課長】 それは資料2の2ページ目の一番上,4ポツの返還方式というところなんですけれども,所得連動返還型に加えて定額返還型というのは,恐らく現在の通常返還に近い形で。ただし,現在の場合は,貸与総額が決まると,自動的に返還期間が決まってしまうんですね。 先ほど例を申し上げましたように,もう260万借りると15年間とか,144万だと13年間だと。なので,そのあたりは通常の,今の金融機関のローンのような形で,もう少し例えば期間を長くできれば毎月返還額を抑えることができるので,そういった意味での柔軟な形にはしたいと思っていますが,いずれにしても返還金額が変動する方式,新しい所得連動の方式と,もう常に一定額を返還するという方式,その二つの形の選択制にはしたらよいのではないかというのがこの案でございます。

【阪本委員】 であれば,可能性としては,この所得連動型と定額返還型というのを残しておくのであれば,家計情報を知らせない場合には所得連動型に入れないという形をとると,先ほどの条件によって強制というようなお話になるかもしれませんけれども,一つとして可能性はあるのかなと思ったりもするんですが。
【赤井委員】 いや,そうしないといけない。
いいですか。
これ,残すのであれば,絶対個人主義ではなくて,今されている修正的な個人主義も含めて絶対に家計情報を入れないと。まず,専業主婦で個人主義を貫いて一生涯払わなくて済むとなれば全員新所得に行きますよね,当然ね。将来,ものすごく稼ぐような人は絶対に定額に行きますよね,新所得よりいっぱい返さないといけないから。

【渡辺学生・留学生課長】 総額は変わりませんよ。

【赤井委員】 再分配あるでしょう,総額は変わらないんですか。

【渡辺学生・留学生課長】 どちらの方式をとっても,貸与された総額より多くの額を返していただくことは。

【赤井委員】 ないんですか。

【渡辺学生・留学生課長】 現時点では想定はしていません。

【赤井委員】 それは初めに決めたことでしたか。

【渡辺学生・留学生課長】 すみません。もちろん論点としては当然あり得ると思っていますけれども,今お示ししている案の中ではそこまでは現状では書いておりません。

【赤井委員】 すみません。所得連動といいながら,現在よりも多く返さないというのは,要するに早く返しちゃうということですか。

【渡辺学生・留学生課長】 そうです。

【濱中委員】 期間を後ろにずらすだけです。

【赤井委員】 それは所得連動の意味があるのでしょうか。

【島委員】 返還が猶予される方のところに所得連動ということが対応している。しかし,よりたくさんもらっている人の方に所得連動という言葉が生きてくるかというと,そうではないということ。

【赤井委員】 すみません,ちょっと僕だけ理解してないと思う。所得連動の意味は,稼いだ人に,要するに将来のリスクはありますけれども,将来稼ぐか稼がないか分からないリスクがあるので,とりあえずそこのところでそれを借りて,たまたま稼がなかった人は返さないし,稼いだ人は稼げなかった人の分まで返して,そのリスクをシェアする保険料みたいなイメージだったんですけれども。要するに,稼いだ人はもらった額よりも多く返すって,中で再分配をやるということに意義があるんじゃないんですか。

【渡辺学生・留学生課長】 恐らく,それは当然今後の論点として御議論を頂くべき論点だと思います。資料3の方でお示ししましたようにシミュレーションを今後行っていくわけですけれども。

【赤井委員】 だから,返還率だけの資料で,幾ら返すかっていう資料が全然ないのですね。

【渡辺学生・留学生課長】 ええ。ですから,全体として,この制度そのものを資料3に基づいてシミュレーションすると,じゃあ一体仮に300万円以下の方が全員返さないとなれば,その分の財源をどうするかという議論に当然なってまいります。その場合に,それを国庫から負担するのか,あるいは年収300万円以下の方でも基本は返していただくんですけれども,本当に返せない方だけが返還しないのか。あるいは,今委員おっしゃったように,たくさん稼いだ方はむしろコントリビューションとしてこの事業全体に御寄附頂くのか。それは議論として当然あり得ると思っています。もちろん,これは今後御議論いただければと思います。

【赤井委員】 そういう可能性があるのかないのかで大分議論が変わると思うんですけれども,要するに,返せない人がいた時に新たに財源を用意するべきなのか,それとも決まった財源の中で稼いだ人から回すのか。どちらにするかによって制度設計も大分変わると思うし,インセンティブの問題とか将来リスクをどう考えるのかとか,そういうのも全部関係してくるような気がします。本来どっちで行くべきなのか。初めはそうじゃないという形でいいかと思うんですけれども,この所得連動型を入れる意義をどこに求めるのかということで,単に所得を稼いだ人は早く返してもらう,稼がなかった人はゆっくり返してもらう,返す額は一緒だというんだと,どうなのでしょうか。海外はたくさん返還するんですよね,違いますか。

【小林主査】 この図が一番分かりやすいと思うんですが,資料2の別紙1。現在でも先ほど来議論がありますように300万以下は申請により猶予になって,300万以下が続けば全く返さないということもあり得るということですよね。それが1点目です。
それに対して,現行の制度の問題点としては,300万が非常に大きな境目になってしまいますので,これで先ほどから問題になっているモラルハザードみたいなことが起きる可能性というのはかなり高いわけです。300万円以下に収入を抑えるということが起き得るということですね。
それに対しまして,青い方の新しい制度,これは仮の例ですけれども,そういう形にしますと,その問題が回避できるという可能性が高いということですね。特に,先ほど資料2の別紙2で年収の分布というのがありますけれども,実は25歳~29歳,30~34歳,35歳~39歳とありますけれども,実は年収が最も多い層というのは300万から400万ぐらいの層なんですね。この層がこの資料2の別紙1で見ていただくとお分かりのように,ここの分の負担はかなり軽くなるわけです。現行の制度ですと,1万4,400円ずつを300万円超えた時点で払わなければいけないわけですけれども,この青いラインになりますので負担感はかなり減るということがあるかと思います。問題は,逆に300万円以下の方が優位になってしまいますので,300万円以下でダッシュのラインで書いてある,点線で書いてある部分ですけれども,ここから原則として取るような,申請によって猶予するというような形で現行の制度を守るかというのは一つの議論としてあるかと思いますけれども,全体としては,ですから青いラインの方が多くの方にとっては負担感は少ない。ただし,回収については先ほど来議論になっていますように国庫負担金あるいは別の財源を考える必要があるかもしれないという議論だと思っております。
これにつきましては,諸外国の例ということでお尋ねでしたけれども,どこの国も国庫という形で行っておりまして,先ほどオーストラリアとイギリスの例をお話ししましたけれども,デフォルトが非常に大きくなるという問題がありますので,それについては大きな社会問題になっていると。ただし,社会問題になっていますが,もともとこの所得連動型を入れるときにはデフォルトというものを前提にして入れておりますので,ある意味の国庫負担は避けられないと,現行の制度でもなっているということは,この先ほどのシミュレーションで示したとおりです。

【樋口委員】 今の資料2でいいのかなと実は思っているところがあって。

【小林主査】 どちらの方ですか。

【樋口委員】 資料2の別紙,の収入の状況です。これ,実は働いている人の所得分布ですよね。取っているのが賃金構造基本調査だから常用労働者に限定したもので,元々無業者が入ってない。パーセントで見ると,ゼロの人が一番多いんですよ,個人ベースで見ると。

【小林主査】 事務局,いかがですか,この収入分布の話ですけれども。これ,就業構造基本調査と賃金センサスと二つ合わせた資料になっているということで,特に御説明がなかったと思うのですが,いかがでしょう。

【渡辺学生・留学生課長】 すみません。この資料は下に書いていますように賃金構造基本調査と就業構造基本調査のデータを使って,それぞれ,年齢ごとの年収の分布を得て,その年収の分布と年齢に対して,その上で現在の返還している方々,これは5歳ごとの区切りで区切った上で当てはめていますけれども,そうすると大体推計率なんですが,現状例えば25歳から29歳の社会統計を参考にしたデータを当てはめると,大体300万から400万ぐらいの年収の層にいる方が60万人のうち約30%いらっしゃいます。そういうデータになっています。

【樋口委員】 そうだと思うんですけれども,これは無業者が入っているかということなのです。

【渡辺学生・留学生課長】 無業者は入っていないです。

【樋口委員】 働いている人に限定しているから,入ってないですよね。だから,無業者まで入れると,実はゼロというのが一番多い数なんですよ,パーセントで言うと。ということで,もし個人ベースでやるんだというシミュレーションをするんだと,これでは逆にまずい。

【小林主査】 今の無業者問題というのはかなり大きい問題で,確かに賃金センサスは元々当然入っていませんし,就業構造基本調査には含まれているのですが,それを除いてどうも集計しているということなので,そこのところをちょっと検討していただきたいということだろうと思うのですが。
どうぞ。

【濱中委員】 一番詳しいのは小林先生だと思うので小林先生に質問ですけれども,諸外国の例を考えたときに,各国でローンという呼び方をしているので借りた額といいますが,借りた額以上に,もちろん利息や手数料の形で少し多くなることはありますけれども,幾ら稼いだからといって借りた額以上に返すというか払うという仕組みを導入している国は私の理解では今のところないと思うのですが,どうでしたか。

【小林主査】 これは,もう一つローンとは少し仕組みが違うのですが,大卒税という考え方がありまして,大卒者から所得税のような形で一定の割合を取るというようなアイデアがあり,この場合は税金になりますので働いている限りは取られるという仕組みですから,結果として借りた額以上に多くなるということがあり得ます。ただ,これはイギリスで数年前に導入しようという動きがあったのですけれども,いろいろな問題点が多いということで,結果として大卒税は採用されませんでした。それ以外の国で,私の知っている限りでは大卒税を導入している国はありません。

【島委員】 ちょっとよろしいですか。諸外国との比較という点で少し気を付けなきゃいけないなと個人的に考えているのは,イギリスとかオーストラリアは,これは認識が間違っていれば教えていただきたいんですけれども,もともと授業料がなかった。それに対して授業料を入れるという形で,言ってしまえば,単純にそれをやるとすごい家計支出の増が生じる。そういう文脈の中で,例えば500万円だとか400万円だとかなり高い返還免除の基準になっているので,単純に500万円,400万円というものを我々日本の場合と,それに近いのが常識的な数値であるという考え方は気を付けなければいけないんだということは,我々の中で共有しておかなければいけないと思います。その事実認識はまずそれでよろしいでしょうか。

【小林主査】 もちろん国によって事情は違いますし,イギリスは非常に難しいですけれども,形態的には私立大学ですが国庫負担金が非常に大きいということであります。オーストラリアはそもそもこの制度の対象になっているのが公立大学だけであります。日本の場合には,私立大学が7割以上学生で占めているわけですから,単純にイギリスとかオーストラリアの仕組みを入れることは難しいと思っております。
アメリカは学生数で言えば公立大学が多いですけれども,私立大学が数で言えばかなりたくさんありますので,アメリカの場合には選択制をとっておりまして学生の方でどういう返済方法を選ぶかということは選択できるという方式になっております。所得連動型というのは,そのうちの一つに過ぎませんので,そのあたりは非常に大きな議論だろうと思います。
すみません,いろいろな意見がありまして,なかなかこれは1回で決着をつけられる問題では実はないと思いますし,先ほど来出ておりますように,データそのものがもう少し考慮しなければいけない点もあります。現行の制度というのも既に複雑なものになっておりますので,そのあたりも考慮して,また次回事務局の方でシミュレーションも行っていただけるということでありますので,先ほどの年収の問題,無業者をどうするかという点など様々な問題もありますので,それを考えていただければと思います。それから,そもそも等価可処分所得を使うとどうなるかということもありますので,その辺も含めて少し検討していただければと思いますけれども。よろしいでしょうか。
私の方で,逆に御質問したいのは,先ほど,赤井委員が国の基準に従ってというようなことをおっしゃったと思うのですけれども,つまり,所得を把握するときに,現在,樋口先生の方から世帯年収を基準にするというのは一つの考え方であるということの御説明があったと思うのですが,税制的にはどういう考え方になっているんでしょうか。

【赤井委員】 まさに考え方,今までの経緯で決まっている部分もありますけれども,今まさに配偶者控除をどのようにするべきなのかとか,配偶者控除の103万の壁はもうなくなったと言われているんですけれども,130万円の壁があったりとか働きを阻害している,小林委員の方がお詳しいと思いますけれども,そこをどのように変えるべきなのかというのが議論をされていますので,ここ同様どうあるべきなのかをまだ議論しているところということなんだと思います。専業主婦が優遇されているのではないかという議論があり,それが働くのを阻害しているんではないか,そこを改革すべきじゃないかということで,まさに同じような議論がなされています。何がいいのかというところは同じように議論があると思いますけれども,混乱しないという意味では,国が税金の仕組みというのをつくったときに所得はこうあるべきでそこに所得税を掛けるというのがある程度決まってきますから,それに連動したような形でやるのが簡素という意味ではいいのではないかということです。

【小林主査】 ありがとうございました。
それはまだ今審議中だということですけれども,いつ頃になるか,見込みが分かりましたら教えていただきたいんですが。

【赤井委員】 何となくは御存じでしたか。

【樋口委員】 それは分かりませんが,私もこの間諮問会議の勉強会で意見を言うチャンスがありましたが,方向性は見えているのかなというふうに思いますけれども。

【赤井委員】 そうですね。配偶者控除に関しては何らかの改革をということを議論しているところはあると思います。まあまあ難しいと思います。

【小林主査】 ありがとうございました。
こちらの議論では,とにかく平成29年度にもう導入しなければいけないということでロードマップがつくられておりますので,方向性だけでも分かれば,それに合わせてということができるかと思いますので,その辺も含めて検討していきたいと思います。
ほかの様々な要素が連動しているということでありまして,いろいろなことを決めないうちに家族を単位か,あるいは個人を単位かということがなかなか難しいというようなことがむしろはっきりしたのではないかと思います。今,主に論点の8について議論していただいたわけでありますけれども,その前に言いますと,今もう議論になっているのは7番の議論ですね。所得の捉え方のところです。それから,私の考えでは様々なもう少しエビデンスを用意していただいてからの方が議論が進むのではないかと思いますので,残った問題といたしましては9番目の人的保証と機関保証の選択性のままでよいのかという議論ですが,所得連動型を導入したときに,この保証の問題,人的保証と機関保証にどういう問題があるかということでしょうか。事務局から説明いただければ有り難いのですが。

【渡辺学生・留学生課長】 先ほど申し上げましたように,現状は人的保証が約54%,機関保証が46%ということで,大体半々なんですけれども,これはあくまでも御本人の選択制になっています。機関保証を選択する場合は,毎月の貸与額から一定の金額を保証料として支払っているということになっています。
これもまた別途の議論が次回以降に議論されると思いますけれども,そもそも新しい所得連動の返還の仕組みを導入した場合に,一体何年間かけて,何歳になるまでその方の返還を追い続けるのかということも関係してきますけれども,人的保証の場合ですと,余り長い期間でしたら今度は保証者,連帯保証人,もちろんその連帯保証人が不幸にも亡くなった場合は新たな連帯保証人を立てていただくんですけれども,現実的にそういうことが本当に長い期間にわたって実行し得るのかという問題があると事務局は考えております。
そういった意味で,現状は選択制で人的保証と機関保証ということではあるんですけれども,長い期間を掛けて返還をすることが必要になってくるような所得連動の仕組みを導入する場合には,果たして現状の選択制でよいのか。むしろ,機関保証というのを原則とするようなことまで含めて検討する必要があるのではないかという問題意識と思います。

【小林主査】 その人的保証に問題があるということはよく分かるのですが,機関保証にする場合には何か問題はないのでしょうか。

【渡辺学生・留学生課長】 機関保証の場合ですと,現状はもちろん機関保証に入っている方は,今ですと約1年経って実際に機構の方に返還ができなかった場合には保証機関が代位弁済にして,請求権,債権は保証機関の方に移行して,今度は保証機関の方が債務の回収を行うという仕組みになっておりますけれども,そもそも所得連動の仕組みが完全に導入されて,例えば35年経ったら35年間真面目に返せばもうその時点で債務は残額については償却をしますというような扱いになった場合に,果たして現行の保証制度のままでよいのかどうか。つまりは,その際の最後に償却をすべき債権を,例えば通常のほかのローンのように保証機関により多くの保証料を払っていることで,もう債務は保証料の方が支払うのか。あるいはもう債権として償却するので,償却する財源をどこに求めるのか。それと連動した形で期間保証についても保証料の考え方についても詳細に検討する必要があると考えておりますが,ちょっとそれは詳細について議論をする場合のデータが現状ではそろってないような段階でございます。

【小林主査】 この論点はまだ含まれてなかったと思うのですが,先ほど課長から説明がありましたように,返還終了年齢を切るかどうかということが決まらないとこの問題はなかなか決まらないわけですよね。現行の制度のままで行きますと,本人死亡ですか,その場合に債権が消滅すると考えてよろしいのでしょうか。

【甲野理事】 本人が死亡の場合には,もう債権はまず免除という形になります。それでもって債権が償却という形になります。

【小林主査】 その場合,機関保証というのはどういう意味を持つかということですよね。債権は免除されてしまっているということになりますから,現行の制度では機関保証という意味はどういう意味を持つかということですけれども。

【甲野理事】 もう一般的に免除ということでございますので,保証が人的保証であろうとあるいは機関保証であろうと免除という形になりまして,その後請求が保証人に行くですとか,あるいは保証機関に行くということはないという取扱いでございます。

【小林主査】 そうすると,機関保証にするということの意味は非常に変わってきてしまうということですね。ただし,現行の人的保証であるとすると,返済期間が長期化することの問題点が出てきてしまうということで,これをどうするかというのはやはり技術的には大きな問題だろうと思いますけれども。
他の委員の方,御意見ございませんでしょうか。
現在の機関保証について簡単にどのような制度であるかということをまず御説明いただいた方が認識が共有できやすいと思いますが,いかがでしょうか。

【渡辺学生・留学生課長】 よろしければ,次回,現状制度と,それから具体的にもう少し詳細な論点を整理しまして御報告させていただければと思いますが,よろしいでしょうか。

【小林主査】 分かりました。非常に多くの問題が関係しておりますので,一つ所得連動型というのを入れるということによっていろいろな制度を動かさなければいけない。きょう,それ以外にも基準の問題でありますとか,ほかの現行の制度を変えるということによって様々な問題が生じてくるということがありましたし,意見もございましたので,そのあたりをもう一回整理して次回の会議に間に合えば出していきたいと思っております。
ほかに委員の方から全般についてで結構ですが,御意見ございませんでしょうか。あるいは,次回に向けてこういったことを調べておいた方がよろしいということがありましたら,是非お伺いしたいんですが,いかがでしょうか。
どうぞ。

【赤井委員】 全般というか,ちょっと私が十分理解していなかったために混乱させてしまったのですが,所得連動というのがほかの国でも導入されているけれども,基本的に所得を得た人から貸し付けた以上に取るということはしていないということなので,もしそうだとすると,結局高所得の人から低所得の人への再分配をしているということは今までないということなので,それはしないとするのか。新しくする場合はいろいろ課題があると思うんでしょうけれども,それをするとするのかというところで,もししないとすれば,結局のところ論点は所得連動型にすると,もう所得のない人はずっと払わなくていいので,それを払わずに終わってしまった場合の新たな持ち出しが多くなる。でも,今でも300万のところの議論がありますから,新たな持ち出しというのがどのぐらいになるのかという推計はどこかにもうされているのでしょうか。
その話と,ちょっとまだもう一つ理解していないので教えていただきたいのですが,この300万のところで,例えば所得連動型返済のモデルの7ページ,資料4のところで,返さなくなるという額は,要するに例えば年収300万までを返さなくていいとなると,そこに入っている人は返さなくてもよくなってしまうので,その分財源が必要になるということは分かるんですが,300万のところを変えなければ,今の状態でも新しい状態でもそこの部分は余り変わらないですよね。
あと,返還率を変えることで,例えば10%にするか15%にするかというところは,確かにあるときにどれだけ払うべきかという額は変わりますけれども,完全に返済する,いわゆる所得がある程度あって普通に生活していくような人から返される額は変わらないので,基本的に持ち出しの財源の影響はないですよね。一部,300万からちょっと500万ぐらいになって十分返せずにそのまま一生を終えるような人がいた場合は,ちょっとでも多く返してもらう10%より15%の方が返してもらう額の方が多いというシミュレーションもできますよね。ここのところ,シミュレーションをされたときに,結局新たな持ち出しはどうなるかと,どういうふうに計算されるのでしょうか。

【小林主査】 これは,次回もう少し精密なシミュレーションはしていただけるというお話でしたが,私の方のシミュレーションは8ページと9ページにあるわけですが,まず現行の所得連動型について所得層別に見たものですが,ここにありますように,最も低所得層の人だけが完済しないということになります。ただし,これはかなり所得がずっと賃金プロファイルに従って上がっていくという,かなり楽観的な想定ですので,そこは御了解いただきたいのですが,一応そういう形になっております。平均的には水色のラインですけれども,ここの完済できない部分が何らかの補塡が必要な部分ということになります。これは個人ベースですので,これを全体でどのぐらいの金額になるかということはもう少しきちんとした推計が必要だと思います。
それから,今の赤井委員の御質問ですが,9ページで幾つかのシミュレーションをやってみたわけですけれども,先ほど説明いたしましたが,それだけ返還率を高めていきましても,返還期間が短くなるということはあるのですが,そもそも先ほど年収のところでありましたボリュームゾーンである300万円から400万円のあたりのところが一番大きいわけでありますので,その人たちには率を変えても余り影響がないのです。そういう意味では,見方によりますけれども,5%程度ですと18%ぐらいは返ってこないと。20%に上げても5.5%は返ってこないというシミュレーションになっております。これが,ですから何らかの補塡が必要な部分ということになります。

【赤井委員】 だから,多分まだ十分整理されていないので,また次回議論されたらいいと思うんですけれども,結局財源をどのぐらい用意できるのかというところと制度設計というのはかなり密接に関わっているような気もするので,そこのところを整理するような,ある程度ここでは整備されていると思うんですけれども,さっき島委員が初めにおっしゃったようなところですが,そこのところと制度設計は関係するのかなと思います。
あとは,もし稼いだ人から戻すならインセンティブの問題とかあったと思うんですけれども,もう一つの論点としては,ある同じ月に早く返すか返さないかになりますよね,この返還率が高いと。そのときの労働供給への影響がどのぐらいあるのかということが関係するかと思うんですが,でも返す額が一定だと普通のライフサイクルで将来まで考えて行動するような,ある程度高所得の人はそうだと思うので,返還総額が変わらないのであれば,初めというか,毎月毎月が高いか低いかというのは,それほど労働供給に影響を与えないのではないかと思う。そこは樋口委員,何かあれば。

【樋口委員】 変わらないです。

【赤井委員】 そうですよね。だから,そういうふうにも考えられるので,逆に高所得からたくさん取るとなれば労働供給があると思いますけれども,一定額となれば労働供給の話は余り議論する必要はないのかなと。そういう制度であればね。だから,まさに財源との関係に終着していくのじゃないかなと自分は思いましたけれども,どうでしょうか,樋口委員。樋口委員の声から労働供給に関するコメントを是非。

【樋口委員】 結果的には,まさにリカードの生涯にわたってどのタイミングで労働供給するかという問題だけになります。

【赤井委員】 結局返す額が一緒であれば,所得を最大化するように労働するだけで,早くいつどのタイミングで返すのかというようなところを制度的に変えても,それが労働供給に影響を与えないのかなと思います。

【樋口委員】 要するに,返すタイミングが違うだけであって,返す総額は変わらない,利子うんぬんはあるかもしれないですけれども。ということですから,それは労働供給にも影響は出て,タイミングは。

【赤井委員】 タイミングはありますよね。

【樋口委員】 あると思いますけれども,出てこないということになります。

【赤井委員】 それほど大きい話じゃないですね。

【宗野顧問弁護士】 たくさん返すというお話なんですけれども,これが所得の再分配という考え方で,これを国が税制として行うんであれば別に何ら問題ないと思うのですが,機構が行っているのは奨学金事業,機構は独立行政法人ですけれども,基本的な法的性質は私人間の契約,消費貸借なので,それをたくさん貸した額以上に取ると,それが例えば貸した額の倍になるという話になると,それは利息制限法に多分引っかかってしまって違法だという話になると思います。

【赤井委員】 できないということですね。

【宗野顧問弁護士】 どういう形で。

【赤井委員】 できないということですか。

【宗野顧問弁護士】 はい。どういう形,名目にするとしても,結局奨学生としてはお金の貸与を受けたという形で返還額がどんどん,例えば稼いだら増えていくという話になって,それは法的にその部分機構が取る名目は何かというと,やはり利息になりますね。税金であれば,それは国が配分で決めるべきことですけれども,だから,ちょっとその議論で言うと,私個人としてはなかなか難しいのではないのかなと思います。
金額をまだ上げていくという話。これは確かに返す額が同じであればそれは余り意味がないという主張もよく分かるのですが,今回の場合60歳とか,一定の年数で場合によっては免除される制度も検討対象です。所得で連動して上がっていかないと,要は所得が増える時期が例えば後半になった場合,例えば長年低所得だったけれども,途中で成功して一気に所得が増えましたと。そうした場合,残り10年しかないときに,所得に応じて月の返還額が大幅増加すれば,そこで回収できるという考え方もあると思うんですね。それが低い率でいると,例えばその後非常に成功しても,要は完済できない,得をするみたいな話になります。そういう意味で,最後まで結局免除されないんであればどこで稼ごうが一緒だという話なんですけれども,最後,年齢,一定の年数のゴールがどこか決めて免除されるという意味であれば,連動させることで少しでも国庫負担とか減らせるという意味はあるんではないかとは思います。

【小林主査】 ありがとうございました。
どうぞ。

【渡辺学生・留学生課長】 一点補足といいますか。先ほど,私も赤井委員の御指摘に応じて申し上げましたように,完全にその議論については排除されるべきじゃないと思いますし,我々も内部的には検討はしておりました。高所得の方から多く返していただく。これは先ほど宗野弁護士がおっしゃった,利息制限法の話は恐らくかなりたくさん返してもらう場合には利息制限法に掛かるので,利息制限法に掛からないような返し方というのは可能,基本設定にあると思います。

【赤井委員】 ちょっとの差を付ける。

【渡辺学生・留学生課長】 ただし,一方として,有利子奨学金の利息が今年3月に卒業した方,5年見直しの変動で0.1%,前期比較で0.63%であるので,無利子奨学金なのにそれ以上の利息が付くことが果たして奨学金制度として,学生さんたちにとってもそういう選択をすることがどこまでインセンティブを持たせられるのかという問題は,別途に議論があると思います。

【樋口委員】 基本的に奨学金も個人契約ですから,連帯の考え方というのはないわけですよ。誰かが払わなかったから払っている人にもっとたくさん払えということはできないだろうと基本的に思いますけれども。

【赤井委員】 だから,財源との相談で,財源がたくさん確保できるなら十分払わない人もいるような制度も入れられるけれども,財源がないとその制度が入れられなくなりますよね。財源に限りがあった場合でも,稼いだ人から払わなかった人に回せるのであれば,財源が限られていてもその制度を導入できます。だから,そういう意味での再分配がある方がより柔軟に制度設計もできるということもあるので,本当に学生全体を考えるときにどういうのが望ましいのかということと,あとは稼ぐ稼がない,モラルハザードの問題はありますけれども,将来稼ぐか稼がないかの努力の部分を除いたリスクというのがある程度あって,稼いだときには返済しないといけないけれども,稼がなければ返済しなくて済むということで,逆に言うと大学に行ったときの将来稼げるか稼げないかのリスクがちょっとシェアされているという意味で,大学教育を受けやすくなるというメリットもありますから,そこのところを総合的に考えて,大学教育で奨学金をどう設計するべきかという話になると思います。

【小林主査】 ありがとうございました。
この議論は,リスクプーリングとリスクシェアリングというのがありまして,赤井委員がおっしゃっているのはリスクプーリングの考え方をもう少し適用したらどうかという御意見だと思いますけれども,現実の問題としては,先ほどありましたようにこれがなかなかただ難しいわけです。私はむしろ,互助会方式で皆さんでリスクをプールするべきだという考え方ですけれども,現実の問題としては,今ありましたように実際にはなかなか難しいということになります。
そこで,非常に今日いろいろな御意見をまた頂きまして,資料としても用意しなければいけないこともたくさんございました。少し時間は早いのですが,もしよろしければ,御意見を頂くのは大体ひとわたり頂きましたので,次回にまた検討させていただく,資料を出させていただくということで,このあたりで閉めたいと思うんですが。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは,次回の会議日程について,事務局から説明をお願いいたします。

【八島課長補佐】 次回は11月18日水曜日ですけれども,午後の開催を予定しております。開催時間,場所については,決定次第御連絡したいと思います。
以上でございます。

【小林主査】 では,第2回の所得連動型返還の検討に関する有識者会議をここで閉めさせていただきます。
皆さん,どうも御協力ありがとうございました。


―― 了 ――

お問合せ先

高等教育局学生・留学生課