資料2 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議まとめ素案)

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議まとめ素案)

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議は、平成26年9月に設置され、○回の精力的な審議を経て、以下のとおり取りまとめた。
当会議としては、本審議まとめを踏まえ、今後中央教育審議会等において、我が国の将来を担う質の高い専門職業人養成が実現するよう、具体的な制度設計等について審議が行われることを期待する。

1.高等教育の多様化の必要性

(多様な若者のニーズと産業界の人材需要への対応)


○ 中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(平成26年12月22日)においては、すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花開かせるため、「これからの時代に社会に出て、国の内外で仕事をし、人生を築いていく、今の子供たちやこれから生まれてくる子供たちが、十分な知識と技能を身に付け、十分な思考力・判断力・表現力を磨き、主体性を持って多様な人々と協働することを通して、喜びと糧を得ていくことができるようにすること」を教育改革の重要な目標の一つとした。
○ 一方、グローバル競争の激化に伴い技術革新や企業淘汰が加速しており、職業に必要となる知識や技術も高度化・複雑化している。また、我が国は、急激な少子高齢化とこれに伴う生産年齢人口の急減、産業構造・労働力市場の変化等の大きな課題に直面している。地方においては、若年世代の地方流出と東京圏への一極集中による地域経済の縮小や深刻な人手不足が指摘されている。社会的需要に応じた質の高い職業人を高等教育段階で養成することが望まれているのみならず、そこで養成される人材への社会的なニーズが多様化している。大企業の正社員という立場で働く人は長期的には減少傾向にあり、既に我が国の雇用の約8割を占めるのはサービス業を中心とした中小企業となっている。
〇 このように産業構造・労働力市場等の劇的な変化が見込まれる中、一人ひとりが企業や組織で活躍していくには、自らのキャリアを通じて、職業に必要となる実践的な知識や技術を学び続けていくことが必要となってきている。さらに、それを実現することは、我が国の社会・経済の成長・発展にとっても不可欠な課題である。
○ しかし、企業における職業能力開発をめぐる状況に目を向けてみれば、厳しい経済状況などを背景に、新卒一括採用や長期雇用などを特徴とした日本型雇用システムが変容し、正規職員以外の就業形態で働く若者が増加するともに、企業が人材育成にかける費用を縮小している状況がある。企業内における職業訓練の機会が減少している中、職業に必要な知識・技能を十分に身に付けるためには、学校教育における職業教育の充実が必要となっている。
○ 現状においては、明確な職業観・目的意識を持つ若者が、専門性の高い職業人材となることを目指し、実践的な知識や技術、資格等を身に付けたいと考えた場合、現行の学校教育体系においては、中学校卒業時の進学先としては高校学校専門学科(専門高校)、高等専門学校、専修学校高等課程があり、高等学校卒業時の進学先としては大学、短期大学、専修学校専門課程(専門学校)がある。このほか、各省庁が設置する大学校(職業能力開発総合大学校、気象大学校等)に進み、専門的な職業訓練等を受けることも可能である。
○ 我が国の大学・短期大学への進学率は、かつて10%台であったものが現在56.7%(平成26年度)にまで達しており、また、その卒業時には約7割が就職していることを踏まえ、多様な若者の幅広いニーズに応えた高等教育が提供される必要がある。こうしたニーズに対し、既存の高等教育機関においてもキャリア教育・職業教育を充実・強化してきており、一部の大学等では社会のニーズに的確に対応した高度な職業教育を行い、生産性の高い人材を輩出している。特に、短期大学においては職業又は実際生活に必要な能力の育成を目的として資格取得とも連動した教育課程を編成し、高等専門学校においては職業に必要な能力を育成することを主な目的として実験・実習を重視した質の高い職業教育を行ってきた。
○ しかしながら、社会や産業の急速な変化に対応した、質の高い専門職業人養成を量的に拡大していくことが求められている中、以下のように、現行制度上の既存学校種だけでは限界があるのではないかと考えられる。

・ 大学は、制度として教育と研究の双方をその目的に掲げ、我が国の学術研究の発展という使命をも担っているため、学生や社会の現代的なニーズに応えた専門職業人養成機能のさらなる量的拡大に比重を置いて対応していくことには限界がある。
・ 短期大学は、地域に根差した身近な高等教育機関として専門職業人を養成しているが、社会の複雑化に伴って職業人に求められる能力が高度化している中、短期の修業年限の範囲でこうした要請に対応することが難しい場合もある。
・ 高等専門学校については、中学校卒業時から学生を受け入れて後期中等教育段階から高等教育までを一貫した教育を行うことに特徴があり、その点で高い社会的評価を得ているものであるため、大量の高等学校卒業者を受け入れることが制度上想定しにくい。
・ 専門学校については、制度として職業等に必要な能力の育成を目的に掲げており、社会的ニーズに弾力的に応えて多様な職業教育を展開し、実際的な知識や技能を育成しているが、教員数や施設設備に関する水準が緩やかなものとなっており、その柔軟な制度的特徴から、教育の質が保証されたものとはなっていない。

 

○ また、高校生全体の約3割を占める専門高校生は、分野によって差はあるものの、平均して2割程度しか大学等に進学しない。専門高校卒業生のニーズに合った実践的な職業教育課程を整備し、進学機会を拡大することが求められている。
○ 世界の主要各国では、学術研究を志向する教育課程や、高度な技能を必要とする専門職に就くための教育課程(医学等)に加えて、実践的又は特定の職業的な専門教育課程も大学体系に位置付けてきた。
○ 我が国においても、国家資格制度と密接に結び付いた医・歯・薬・獣医学において修業年限の延長、実習内容の追加等が行われ、また理論と実務を架橋した高度で実践的な教育を行う大学院として、平成15年度に専門職大学院制度が新たに創設された。
○ 今後さらに急速に産業構造の変化や技術革新、グローバル化、情報化等が進展することが予想され、近い将来には今ある職業が存在しなくなることも想定しなければならない。このため、学士課程段階において、生涯の中でどのような社会状況の変化に直面しても職業を通じた社会との関わりを持ち続けることができる資質を養うとともに、生涯のいつでも希望するときに実践的な職業教育を受けられるようにすることが喫緊の課題となっている。

(社会人の学び直し需要への対応)

○ 産業・経済の急速な変化等を受け、一度社会人となった後に、より高度な知識や技術の修得を目指す学び直しの機会の拡大についても必要性が一層高まっている。厳しい経済情勢から、企業内の職業訓練は縮小傾向にあることもあり、産業界等の現場の要望を踏まえた社会人の学び直しのための高等教育機関における教育プログラムへのニーズが高まっている。また、地方創生の観点からも、各地方の高等教育機関において最新の知識・技能等についての再教育を受けられる仕組みが整備され、地域の活性化に資する人材が地元に定着することが期待されている。
○ 一方で、我が国では、25歳以上の学士課程への入学者の割合が2%となっており、OECD諸国の平均(2012年に18%)に比して相当低いことから、時間的制約のある社会人学生が入学しやすく、実践的で学びやすい教育課程を一層充実することがますます重要となっている。 

(高等教育体系の多様化・複線化)

○ 以上のように、社会経済の変化に伴う人材需要に即応した質の高い職業人を育成するとともに、専門高校卒業者の進学機会や社会人の学び直しの機会の拡大に資するため、専門職業人を養成するという目的に最も適した、機動的な枠組み・特徴を持つ実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関を制度化することが必要である。
○ 新たな制度の創設により、学ぶ意欲と能力のある若者・社会人が質の高い教育を受けることのできる社会の実現に向けて、多様化・複線化した高等教育体系を整備することができる。

2.新たな高等教育機関の基本的な方向性

○ 我が国の高等教育の多様化・複線化を図っていく観点から、新たな高等教育機関を我が国の産業の高度化を担う質の高い専門職業人を養成する機関としていくためには、新たな高等教育機関が既存の大学等と比肩する高等教育機関と位置付けられることが必要である。このためには、まず、想定される各種の職業分野を越えた共通理念や目的に基づく普遍性の構築が求められる。
○ 新たな高等教育機関は、産業界と連携しつつ、どのような職業人にも必要となる基本的な知識・能力とともに、実務経験に基づく最新の専門的・実践的な知識や技術を教育する機関とすることが適切である。新たな高等教育機関の教育内容・方法、教員、施設・設備、評価等の基準は、その目的を達成するために最も適した枠組みとして新設することが適切であり、諸外国における専門大学等も参考としながら、国際的にも高等教育機関として認知されるようなものとすることが重要である。我が国の既存の高等教育体系を念頭に、単に現行の大学・短期大学の設置基準よりも低い基準とすることで新たな高等教育機関になりやすくするといった考え方はとるべきではない。
○ 新たな高等教育機関の制度化に当たっては、育成すべき人材像やそれに相応しい教育内容の在り方等に応じて、

1 大学体系の中に位置付けるべきか(学校教育法上の短期大学に関する規定と同様の位置付け)、
2 大学とは異なる新たな学校種が設けられるべきか(学校教育法上の高等専門学校、専門学校等に関する規定と同様の位置付け)
のいずれにするかによって、制度設計上で配慮すべき点が相当異なる。

 

○ 18歳人口の過半数が大学に進学する現状において、実践的な職業能力を身につけた人材を輩出することを目的とした機関が求められていることを踏まえれば、サービス産業の高付加価値化など我が国の産業の高度化への要請に対応して人材養成の高度化を図ることや、卒業生の学修成果に関する国際的・国内的な通用性を確保することは極めて重要であり、この観点からは、新たな高等教育機関を大学体系に位置付け、卒業生に求めるべき学修成果(ラーニング・アウトカム)に関する水準についての国際的議論を踏まえながら、学位授与を行う高等教育機関と位置付けることが有益と考えられる。
○ また、高等教育における専門職業人養成機能の充実というニーズに対応し、我が国の高等教育機関の多様化を図っていくとの観点からは、現行制度上の4年制大学や短期大学、また、質の高い専門職業人養成を行う専門学校からも新たな高等教育機関に進んで参加できるような仕組みとする必要がある。その際、現在も、4年制大学に短期大学部が併設されている例があるのと同様、既存の学校種を設置したままで、一部の学部や学科を新たな高等教育機関として併設することができる仕組みとすることも考えられる。
○ これらを踏まえれば、新たな高等教育機関に関しては、大学体系の中に位置付ける方向で制度設計の検討を更に進めることを基本とすべきである。
○ ただし、この位置付けの判断については、学位授与機関としての国際的互換性等を踏まえて必要となる諸要件の具体的な内容や、大学・短期大学との差異、学位の種類をどのようなものとするか等に関する精査が必要であり、今後、中央教育審議会等での議論においては、大学とは異なる新たな学校種を設ける可能性を全く排除することはせず、これらを踏まえて審議することが必要と考えられる。

3.制度化に当たっての個別主要論点

○ 大学体系に位置付ける場合、新たな高等教育機関は学位授与機関となることから、学位授与機関としての水準に関する国際的互換性や、国内の既存学位授与機関の水準を踏まえる必要があると同時に、実践的な職業教育を行う教育機関として社会人の学び直しや専門高校等の卒業生の学習の深化・発展に寄与する仕組みとすることも必要である。

 (1)新たな高等教育機関の目的(教育・研究)

○ 新たな高等教育機関は、職業に従事するために必要な実践的知識・技能・能力の育成を行うものとするため、その主たる目的としては「教育」、特に「質の高い専門職業人養成のための教育」を位置付けることが適当である。
○ 教育再生実行会議第五次提言において、新たな高等教育機関に対して専門高校卒業者の進学機会や社会人の学び直しの機会の拡大に資することが期待されていたように、現行の大学では「教育」と並ぶ目的とされている「研究」よりも「教育」に対する期待が大きい。このため、海外の学士(Bachelor)を授与する教育機関の目的として「研究」を限定的に規定する例があることに倣い、「研究」については、「教育」と並置して主たる目的に位置付けることはせず、例えば、教育内容を学術の進展や職業分野における技術革新等に即応させるために行うもの等と位置付けることが学位授与機関として妥当かという方向で今後検討することが適当である。
○ ただし、これは新たな高等教育機関の教員の研究活動を妨げる趣旨ではなく、産業界の最新動向の把握や分析に関する研究のほか、各職業分野に関する企業との作品の共同制作、実用化に向けた改良や応用的な共同研究等の新たな高等教育機関の性格に適した研究活動については奨励されるべきであり、新たな高等教育機関には、質の高い専門職業人を社会に輩出することはもとより、これらの活動を通じて、高等教育機関として社会の発展に寄与することが期待される。

(2)教育内容・方法

○ 各職業分野に従事するために必要な実践的知識・技能・能力を培うとともに、社会人としてバランスのとれた人材を育成するためには、専門教育とその基盤となる教養教育にわたって体系的な教育課程を編成することが必要である。
○ 特に、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関における教養教育については、哲学や古典等についての素養を養うのではなく、その教育課程全体を通じて、どのような職業人にも必要とされる知識や思考法等の知的な技法など、変化の激しい現代の実社会を主体的に生きていくために必要な活用力・応用力を学生が身に付けられるようにするための基盤を形成することが重要である。また同時に、コミュニケーションスキル、ICTスキル等の基本的な能力を育成したり、インターンシップやグループでのPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)等を通じて、協調性や責任感等の非認知的能力を培ったりすることにも配慮が必要である。
○ 教育課程の編成については、最終的には新たな高等教育機関の責任の下で決定されなければならないが、各職業分野のニーズを的確に反映させるには、何らかの制度的仕組みを設けることにより、産業界による一定の参画を義務付けることが適当である。その仕組みの具体的在り方については、今後検討することが必要である。
○ また、「学士」相当の学位を授与する場合は、学位プログラムの学習成果(Learning Outcome)の具体化を目指している諸外国の動向も踏まえ、中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』が示す「学士課程共通の学習成果に関する参考指針」や、諸外国における学習成果の指標に照らした検討が必要となる。
○ 教育方法については、実習・実技・演習・実験等を重視し、講義形態の授業よりもPBLや現場での実習等を行うなど実践的な方法を積極的に取り入れることを分野の特性に配慮しつつ制度化すべきである。特に、効果的に実践的能力を培う観点から、在籍する全ての学生が長期インターンシップ等に参加するよう努めるものとすることが望ましい。また、分野横断的にどの職業人にも求められる能力についても、実際の指導に当たっては、学生の学習意欲を喚起するなどの観点から、例えば、職業分野の特性を踏まえて当該分野の具体的事例を導入題材に用いるなどの教育方法上の工夫が行われることが望ましい。
○ 卒業に必要な学修量については、例えば、修業年限4年の場合は124単位、修業年限2年の場合は62単位の修得を求めるなど、既存の学位授与機関と同水準を求めることが適当である。

(3)入学者受け入れ、編入学等

○ 新たな高等教育機関は、社会人と高等学校等の新卒者いずれもの入学が想定される。このため、新たな高等教育機関の教育内容については、関連分野での就業経験のある社会人や専門高校の卒業生等がそれまでの学習や経験等から培った知識・能力等を継続して深化・発展させることができるものとするとともに、関連分野での就業経験がない社会人や普通科及び総合学科の高等学校卒業生等を受け入れる際には、専攻分野の学修への円滑な導入を図ることができるような配慮が必要である。
○ また、新たな高等教育機関を大学体系に位置付けるには、その教育や入学者選抜の在り方を「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(平成26年12月中央教育審議会答申)を踏まえたものとするよう検討することも必要となる。
○ 高等教育機関の間における移動については、制度的には相当程度可能となっている。従来から、短期大学・高等専門学校・専門学校の卒業生は大学に編入学することができるようになっているが、昨年12月には、高等学校専攻科からも大学への編入学を可能とするよう中央教育審議会から答申がなされており、また、各省庁が設置する大学校での学修を大学の単位として認定することも可能となっている。
○ しかしながら、一度入学した高等教育機関から学生が自らのニーズに合わせて別の高等教育機関に移ることは必ずしも容易ではなく、高等教育機関の間での進路変更の柔軟化を図ることも重要であることから、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関は、現行の大学からの転学者を受け入れられるような制度設計とすべきである。

(4)修業年限

○ 大学、特に学士課程教育における専門職業人養成に対するニーズを踏まえ、修業年限は、各職業分野に従事するために必要な知識・技能・能力に応じて2年から4年までの設定を可能とすることが適当である。
○ また、社会人の学び直しに対応するためには、学位プログラムの修業年限では学修期間が長すぎることが考えられるため、学位プログラムをモジュール化した上で履修時期も分散し、短期間(例えば2~3か月単位)での履修やその短期履修の積み上げにより学位を授与することを可能としたりするなどの工夫も検討することが求められる。
○ さらに、学業と就業の場を往き来しやすくするためには、修業年限4年の場合は、2~3年制の前期課程と1~2年制の後期課程の二段階編成とすることの検討も考えられる。その際、前期課程の修了者は、「短期大学士」相当の学位を取得した上で、就職という進路を選択するほか、後期課程へ進級したり4年制大学へ編入することが考えられる。また、後期課程への入学者については、前期課程の修了後にそのまま継続的に進学して学業に専念する者のほか、就業しながら後期課程に進学する者や、前期課程・短期大学・高等専門学校・専門学校の卒業者で数年間の実務経験を経た者が学び直しのために入学する場合なども考えられる。
○ こうした二段階編成の導入により、短期大学、高等専門学校及び専門学校の学生が、卒業後、新たな高等教育機関の後期課程で学ぶことで、4年間の実践的な職業教育を中心とした学修で「学士」相当の学位を取得できる進路の構築を検討することは有用と考えられる。

(5)学位・称号

○ 修業年限4年の場合は「学士」相当の学位、修業年限2~3年の場合は「短期大学士」相当の学位を授与することが適当である。
○ ただし、現在の「学士」や「短期大学士」を授与するか、あるいは、それ相当の別の職業学位という概念が国際的標準の視点も含めて適切かなどについては、大学、短期大学や高等専門学校における学位又は称号の授与に関する現状を踏まえ、今後検討を行う必要がある。

(6)教員

1必要教員数

○ 学術研究志向の大学に比べて、教員組織全体として研究活動に大きなエフォートが求められるものではないが、他方、新たな高等教育機関が重視する実習・実技・演習・実験等の教育方法を行うためには、教育活動に対してより大きなエフォートが求められることを勘案する必要があり、新たな高等教育機関の必要教員数については、これらの点と、現在の大学や短期大学における教員数に関する基準を踏まえて、更に検討する必要がある。
○ 実践的な職業教育を行う際は、当該分野における人材需要が高度に専門的であるために、現行の大学に比べて一学科の収容定員を小規模に設定する必要が生じることが想定される。現在の大学設置基準における必要教員数等の算定では、一学部の収容定員200名(入学定員50名)が最小の基準とされているが、新たな高等教育機関ではそれより少ない収容定員に対する基準を設定し、現行の大学よりも少人数の教員・学生による学科を設置しやすくすることも考えられる。このほか、教育課程やコースに応じて必要教員数を設定することを検討することも考えられる。

2教員の資格要件

○ 教員の資格については、上述の新たな高等教育機関の目的に照らし、教育上の指導能力の有無に最重点を置いたものとする。
○ また、教員組織の一定割合は、各職業分野において卓越した実績を伴う実務経験を有する者(実務家教員)とすることが適当である。また、実践的教育内容の陳腐化を避けるため、最先端の実務に携わりつつ並行的に教育にも当たる者を確保できるよう、一定条件の下、そうした者も必要教員数のカウントに算入できる仕組みとすることが望ましい。
○ 実務に関する能力については、保有資格や実務上の業績、離職年数の制限等により確実に質が保証できる仕組みが必要である。また、非常勤の実務家教員をはじめとする教員の教育上の指導力向上のため、FDによる能力向上も求められる。
○ 学術研究を志向する大学に比べれば、教員の資格要件において学術研究上の業績に過度な比重を置くことは適当でないが、専門的職業教育を志向する諸外国の高等教育機関においても、学生に学士(Bachelor)レベル修了者に求められる能力を身に付けさせるため、専門分野の学術研究を通じて批判的思考展開等の訓練を積んだ者が教員として必要とされていることを踏まえ、これらの者を一定程度備えることが必要である。

(7)施設・設備等

○ 新たな高等教育機関においては、職業分野の特性に応じ、実践的な職業教育を行う上で必要な施設・設備を備えることが不可欠である。ただし、具体的にどのような施設・設備が必要であるかについては、職業分野により大きく異なる上、実社会における変化に柔軟に対応する必要があることにも留意が必要である。このため、施設・設備について、学生の安定的利用が確保されている場合については必ずしも自己所有を求めないこととすることや、他の学校と併設される場合には双方の学校教育に支障のない範囲内で一定の共用を認めることも考えられる。
○ いずれの職業分野においても、実践的な職業教育を行う教育機関として当該職業分野に応じた図書等の資料を備えることや、授業時間以外においても学生がいつでも自発的学習を行うことができる学習環境を整備することが必要である。これらの環境の提供の仕方については、ICTの活用を検討することも考えられる。他方、新たな高等教育機関の目的やそれに応じた教育のあり方等を踏まえ、運動場や体育館を必置とするかについては検討が必要である。
○ 校地・校舎面積については、各職業分野における質の高い専門職業人養成に必要な施設・設備を備えることができる適切な基準とすべきである。その際、新たな高等教育機関においては、産業界と連携した実践的な演習等やインターンシップ等の学校外での学習の機会が相当程度期待されているほか、社会人の学び直しにより積極的に対応して通学の利便性を向上する必要があること、企業等と兼任する実務家教員を確保する必要があること等の理由により、特に校地面積を確保することが難しい立地条件の場所(地方で昼夜間人口比率が1を超えるような人口集積がある地域等)に設置する必要性が高いこと等を踏まえつつ、教育上最低限必要となる校地・校舎面積の確保に適した基準について今後検討を行う必要がある。

(8)質の保証システム(設置認可、情報公開、評価、公的助成)

1設置認可

○ 大学や短期大学とは別に、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関に相応しい設置基準を設定することが適当である。なお、設置基準や設置認可の在り方を今後検討する際には、人材需要の変容をはじめとする産業界・経済界等の変化に迅速に対応し、教育内容を機動的にニーズに適応させていく必要性が高いことに配慮すべきである。
○ 設置者は国・地方公共団体・学校法人とし、設置認可は文部科学大臣が行うこととするのが適当である。また、設置者となる学校法人に求められる要件は、永続性・安定性の確保のため、既存の学位授与機関を設置する学校法人に求められている水準と同等の水準設定が必要である。

2情報公開

○ 教育情報や財務情報の公開(「大学ポートレート」への参画等)については、少なくとも既存の学位授与機関と同程度の水準が求められ、その具体的在り方について今後検討を行う必要がある。
○ また、新たな高等教育機関が質の高い専門職業人の養成を目的とする教育機関であることや、学生や保護者にとって学校の選択等に際し有益な情報を提供する観点からは、卒業生の社会における評価等(例:学生の資格・検定試験等の合格率、卒業生に対する就職先企業の評価、学生の授業評価の結果等)についても情報公開において義務付ける方向とするとともに自己点検評価の指標としても活用することについて、その具体的在り方を今後検討することが必要である。

3自己点検・評価、第三者評価

○ 個々の新たな高等教育機関が主体性をもって自己点検・評価を行うこととすることが適当である。また、既存の学位授与機関と同様、第三者評価として文部科学大臣が認証する評価団体による認証評価を行うことが適当である。その際、機関別評価に加え、各職業分野の専門性に応じた分野別評価を実施することが必要であるが、その具体的在り方については今後さらに検討が必要である。

4公的助成

○ 新たな高等教育機関を学校教育法第1条に位置付ける場合には、質の高い専門職業人養成という重要な目的を担う公的教育機関であることにかんがみ公的助成の対象としうると考えられるところ、新たな高等教育機関の設置基準に相応しい助成水準の検討とともに、新たな高等教育機関による追加的財政需要に見合った財源の確保が必要である。
○ その際、新たな高等教育機関の目的に照らし、求められる成果を上げている学校にはより多くの配分を行い、成果を上げていないものについては配分を少なくするという仕組みとすることで、教育の質の保証を図るインセンティブを設けることについても今後検討が必要である。

5その他

○ 設置認可や自己点検評価、第三者評価においては、学術研究を志向する大学とは異なり、職業分野の産業界関係者の積極的協力を得ながら教育の質を確保することができるシステムが必要である。特に資格に関連する分野については、各職業分野の人材の質を確保する仕組みとして職業資格団体等による教育課程認定等を活用することを含め、制度設計に当たって資格との関係に留意が重要である。この点を含め、各分野の業界・職能団体との連携の具体的在り方については、分野別に今後の検討が必要である。
○ 経営の悪化等により教育の質の保証ができなくなった場合の対応の在り方についても、今後検討が必要である。

4.その他の検討課題

(1)名称

○ 学校種の名称については、例えば「専門職業大学」や「専門職大学」等が考えられるが、今後の具体的な制度設計に応じて適切な名称を検討する必要がある。

(2)分野

○ 制度として職業分野の限定は行わない。なお、設置基準において各分野の特性を踏まえた基準を設ける際にどのような分野の種類を設けるかについては、現行の大学における学部の種類や現在の職業教育における実態等を踏まえて、更に検討をする必要がある。
○ ただし、新たな高等教育機関に対しては、サービス産業の高付加価値化や地方創生のための地方産業の活性化を人材供給面から支えるという機能を果たすことが期待されており、こうしたニーズにも十分に対応できるものとすることが重要である。

(3)卒業生の実社会での活躍に向けた産業界との連携・協力

○ 新たな高等教育機関の卒業生の出口が確保されて実社会で活躍できるようになるためには、産業界の連携・協力が必要不可欠であり、産業界には、実務家教員の派遣、教育課程の編成、自己点検・評価や第三者評価への参画、採用した卒業生に対する評価等の各種場面における実効的な連携・協力が強く期待される。

○ 新たな高等教育機関における教育の質の保証のためには、上記の各種場面における産業界からの支援や協力が、各職業分野の特性に応じたものとなることが重要である。このため、新たな高等教育機関に対する各職業分野別団体等による支援・協力体制の構築に向け、行政レベルでの検討を文部科学省が関係省庁と連携して進めていくべきである。
○ また、教育の質が保証されることが前提であることは当然であるが、新たな高等教育機関で学んだ者が就職する場合に、例えば修業年限4年の課程を修了した者が大学の学士課程を修了した者と同等に処遇されること等により、新たな高等教育機関の位置付けが社会的にも既存の大学等と比肩するものとなるような配慮が併せて期待される。そのため、新たな高等教育機関においては、社会に貢献する質の高い専門職業人の養成に真摯に取り組み、成果を上げていかなければならない。

お問合せ先

生涯学習政策局参事官(連携推進・地域政策担当)付企画係

電話番号:03-5253-4111(代表)(内線3406)

高等教育局高等教育企画課法規係

電話番号:03-5253-4111(代表)(内線3341)

(生涯学習政策局参事官(連携推進・地域政策担当)付、高等教育局高等教育企画課)