資料2 独立行政法人日本学生支援機構提出資料その1(「学生への経済的支援の在り方について(中間まとめ)」に関する意見)

「学生への経済的支援の在り方について(中間まとめ)」に関する意見

独立行政法人日本学生支援機構

1.学生に対する国の経済支援の考え方

「学生への経済的支援の在り方について(中間まとめ)」においては、「学生等への経済的支援」を、当機構の大学等奨学金だけではなく、授業料減免やティーチングアシスタント(TA)、リサーチアシスタント(RA)など、幅広く捉えられている。これにより、国の責務として、様々な手法、様々な主体による「学生等への経済的支援」のより一層の充実が図られることが期待されている。
〔経済的支援の例〕
(1)学生等の支出を減らすための取組み
 授業料減免制度、学生寮の整備
(2)学生等の収入を増やすための取組み
 TA、RA、ワークスタディ
(3)収支差を埋めるための取組み
 奨学金(学校独自の奨学金、民間団体による奨学金を含む。)

2.機構の奨学金制度について

(1)啓発の強化
経済的に困難な家庭の学生等が、奨学金制度を知らないがために進学を断念することのないようにするため、また、制度に対する理解不足等を理由とした新たな延滞債権の発生を抑制するため、奨学生(返還者)、保護者、学校、関係機関等に対し、必要な情報を提供している。
 <1>奨学金の希望者への情報提供
 高校生やその保護者に対し、「奨学金ガイドブック」を配付し、奨学金の希望者には「奨学金案内」を配付するなど、奨学金制度の積極的な周知に努めている。また、都道府県教育委員会、全国高等学校PTA連合会などが主催する各種研修会への当機構職員の派遣や配付物「大学・短期大学・専修学校(専門課程)に進学を希望する皆さんへ」を配付するなど等、奨学金事業に対する保護者、学校、関係機関等の理解の促進を図っている。
 <2>インターネットを活用した情報提供
 奨学金の希望者や返還中の者等が、容易に必要な情報を得られるよう、ホームページの充実や奨学金モバイルサイトの運用、メールマガジンの配信など、引き続き情報提供の充実を図る。
 また、平成21年度から、進学等に際してのファイナンシャルプランの設計時に役立つよう、また、返還を意識してもらい借り過ぎの防止等を図るため、ホームページ上に、貸与金額と返還金額をシミュレーションすることができる「奨学金貸与・返還シミュレーション」を設置した。
 更に、平成22年度からは、ウェブ上で個人の貸与情報や返還状況の閲覧が可能となる「スカラネットパーソナル」を設置した。更に、転居・改姓の手続き、繰上返還の申込み等のための機能など、順次、新たな機能を追加し、その充実を図っている。
 <3>その他の取組み
 返還等に関する相談に確実に応えるため、平成21年10月から民間委託によりコールセンターを設置し、その充実を図っている(平成24年度実績:着信数73万件、応答数67万件、応答率91.8%)。
また、学校の奨学金事務担当者を対象として、業務連絡協議会や新任者研修会(平成22年度~)、採用業務研修会(平成23年度~)を開催し、高校関係者対象には、教育関係の月刊誌に平成24年4月号から奨学金関連記事を掲載し、制度や事務処理に対する理解促進を図っている。

(2)入学前の予約採用の拡大
 意欲と能力のある学生等が、経済的理由により進学等を断念することなく、予見性を持って安心して修学できる環境を整備するため、進学前の予約採用枠の拡大を進める。これにより、基準に適格でありながら予約採用候補にならなかった学生を極力減少させ、より奨学金の必要な学生に奨学金の貸与が可能となるようにする。

(3)貸与中の指導 
 奨学金事業は教育的な側面を持っており、当事業に対しては、採用時の審査のみならず、貸与中においても、学業成績を含む奨学生としての適格性の維持・向上を図ることについて、厳格な対応が求められている。当機構では、各学校の協力を得て、学校を通して奨学生に対する貸与中の指導を実施している。
 <1>適格認定の実施
 当機構では、毎年度「適格認定」を実施し、各奨学生の状況に応じた適切な措置を講じている。
 適格認定は、奨学生に対して1年間の学修状況等を振り返らせ、自らの経済状況に照らした奨学金の必要性や適正な貸与月額を判断させることにより、奨学生としての責務を再確認させるとともに、借りすぎの防止や返還意識の涵養を図る重要な機会となっている。
 また、学校においても、奨学生の学修及び生活の状況から判断して、当該奨学生が引き続き人物・健康・学業・経済状況の面で適格性を有しているか否か等を確認したうえで、必要に応じて学業成績の向上を促すなど、適切な指導を行う重要な機会となっている。
 本機構においては、各学校の協力を得て適格認定を実施しているが、平成24年度に行った調査において一部不適切な事例が見られたところであり、この調査結果等を踏まえ、関連規程の改正を行い、一層の適正化に取り組んでいる。
 <2>返還説明会の実施
 貸与終了を控えた奨学生に対して、学校を通じて返還説明会を開催している。これにより、奨学生が返還の方法や返還期限猶予制度・減額返還制度といった救済措置等を知るとともに、返還意識に関する理解を促す機会を設けている。

(4)返還金の回収
 <1>返還金の役割・重要性
 元奨学生からの返還金は、次世代の奨学金の原資として循環運用される。つまり、奨学金が先輩から後輩へと受け継がれる仕組みであり、我が国の奨学金事業の根幹を成すものとなっている。
 他方、経済的に困難な学生等が安心して高等教育機関への進学を選択するためには、国による経済支援施策が安定的に運営されていることが重要である。仮に、事業の運営が不安定な状況に陥った場合、学生等にとって、奨学金の受給の可否が不確かとなり、進学または修学の継続を断念することに繋がりかねない。
 したがって、教育の機会均等という奨学金事業の本旨を実現するためには、元奨学生からの返還金を円滑に奨学金として次の世代へと還元し、もって事業を安定的に運営することが不可欠である。
 <2>早期延滞解消の重要性
 返還に当たっては、「延滞しない」「延滞しても早期に解消する」ことによって、仮に延滞しても延滞が長くなる前に延滞を解消することが重要と考えている。このため、延滞者に対しては、文書や電話等によって延滞となっていることを当機構又は当機構が委託した業者から何度も連絡し、延滞の解消(返還猶予の申請を含む。)の指導を行っている。この結果、平成22年度以降要返還額が毎年度増加している中で、新規に発生する延滞額は増加していない状況が続いている。
当年度分の回収率:平成20年度94.0%→平成24年度95.6%
うち期首時点無延滞者の回収率:平成20年度98.7%→平成24年度99.1%
 <3>返還困難な者に対する救済制度
 奨学金事業は、経済的な困難者に修学の機会を提供するという性格を有することから、その返還の段階においても相応の配慮が必要である。従来より、減額返還制度、返還期限猶予制度などの制度を有し、更に平成24年度の採用者からは「所得連動返還型無利子奨学金制度」を導入し、当機構としても、その広報・周知や円滑な審査に努めてきた。
 更に平成26年度からは、真に困窮している返還者の救済として、
1 延滞金賦課率の引下げ(10%→5%)、
2 経済的困難による返還猶予制度の年数制限の延長(5年→10年)、
3 返還猶予制度等の柔軟な適用
  ・適用基準の緩和(返還者の所得への扶養控除制度の導入)
  ・基準を満たした延滞者に対する適用
  ・返還開始時における減額返還制度の申請手続きの簡素化
 を実施することを予定している。
 これらの救済制度は、対象となる者に確実に認知され、活用されることが重要である。機構においては、返還説明会や各種送付文書、ホームページ等で周知するとともに、返還相談センター(コールセンター)や債権回収会社(サービサー)も活用してその案内に努める。
 <4>延滞者に対する学校からの働きかけ
 奨学金は貸与であると同時に教育施策の重要な一環である。したがって、貸与を受ける前に「借りたものは返す」ことを意識付けることが重要である。特に、長期延滞に陥ることを抑制するためには、延滞しないこと、延滞を放置しないことの意識付けを徹底することが重要である。また、これらの意識付けは、出身校が教育の一環として実施することが効果的と考えられる。
 一方で、当機構単独での周知には限界がある。奨学金事業の運営上重要な返還意識の涵養とともに、長期延滞に陥ることを抑制するためには、延滞しないこと、延滞を放置しないことの意識付けを徹底するための取組みが、学校においてなされることにより高い効果が期待できる。したがって、今後は、各学校と機構とのより一層の連携の強化を図り、こうした意識の涵養に努めるとともに、これらの救済措置の周知徹底も図る。
 <5>返還者への極め細やかな対応
 こうした学校と当機構とが一体となっての啓発の取組みの成果もあり、平成25年度においては、平成25年度の新規返還者の回収率は、平成25年12月末現在で既に95.2%(対前年同月比0.3ポイント改善)を超えている。機構としては、新規に延滞となった返還者等からの相談に極め細やかに応じていく方針である。

3.目指すべき奨学金制度 - 経済支援の一環としての奨学金事業の改善

(1)給付型奨学金の創設
 保護者の経済的格差が子の教育格差として次の世代に引き継がれないよう、また、次の世代の優れた人材の育成に資するためには、貸与奨学金と比較して給付型の支援がより有効と考えられる。
 また、先進諸国のほとんどが、高等教育に関して給与補助(給付型奨学金等)又は授業料無償などの給付的な公的補助制度を有している。
 我が国においても、厳しい財政状況の中ではあるが、施策としての効果の高さや、先進諸国の動向を踏まえ、給付型奨学金の導入が検討されることを期待する。

(2)無利子奨学金の拡充
 国が実施する奨学金事業においては、教育の機会均等を保障することを本旨とするものであるため、学生の需要を満たす規模を確保することが重要となる。また、貸与制の奨学金は、給付制と比較し、国の財政負担の観点から、必要な規模を維持し易いという利点がある。このため、貸与制であっても、学資を必要としている学生が、より好条件で支援を受けられることが重要である。
 他方、有利子奨学金制度の創設の際の経緯を顧みたとき、有利子奨学金が無利子奨学金の補完措置であることは明らかである。厳しい財政事情の中、平成26年度予算案においては無利子奨学金の拡充が図られているが、今後とも、無利子貸与の拡充を目指していただきたい。

(3)より柔軟な「所得連動返還型奨学金」導入に向けた準備
 平成24年度採用者から現行の「所得連動返還型無利子奨学金制度」が導入された。しかし、年収が300万円以上の場合は本人の所得と返還額が連動する訳ではないなど、限定的な制度となっている。個々の返還者の返還能力に応じた負担を課す観点から、諸外国の制度を参考にしつつ、より柔軟な「所得連動返還型奨学金」の導入に向けた準備を進めるべきである。
 なお、制度の導入には、正確な所得の把握と確実な事務処理が大前提となる。システム開発はもとより、人員や予算などの体制整備や関係する行政機関等との折衝など、実施機関である当機構に国からの十分な措置や支援に配慮いただきたい。

(4)高校生やその保護者に対するより一層の情報提供の充実
 現在、大学等へ進学する高校生(約74万人)の約半数である34万人が当機構の奨学金の予約採用を申し込んでいる。
 一方で、奨学金の貸与を受ける際には、奨学金(お金)を借りることの意味、適切な貸与金額の選択、保証制度(人的保証・機関保証)の選択、有利子奨学金における利率(固定方式・見直し方式)の選択など、金融的な知識とこれに基づく判断が必要となる。
 現在、当機構においては、啓発の強化の一環として、様々な方策・手段でこれらの情報提供に努めており、都道府県教育委員会と連携した高校への情報提供を検討している。更に、より一層理解を深めてもらうため、例えば、高校生やその保護者を対象とした「奨学金申込DVD」のようなものを作成し、配付やインターネット配信するなど、新たな仕組みを検討する。

4.奨学金事業の執行機関としての要望

 当機構は、平成16年度に独立行政法人として発足して以来、関係機関等から様々な指摘等を受けつつ、健全な奨学金事業の運営に努めてきた。この間、事業規模は大幅に拡大し、これに比例して貸与者数・返還者数も急速に増加している。また、国民のニーズの多様化等に対応するため、制度の改正や新設等に常に対応してきた。
 一方で、独立行政法人として、厳しい効率化が求められている。事業を運営するための経費である運営費交付金は、平成16年度には86億円であったものが、平成26年度予算案においては67億円(対16年度比約28%減)となっている。また、職員定員数は、平成16年度には549人であったものが、平成25年度には487人(対16年度比約13%減)となっている。
 このように、当機構は、求められた厳しい効率化を達成しながら、急速に拡大する事業規模や制度の多様化・複雑化に対応し、また、返還金の回収状況の改善等に取り組んできた。

 他方、「学生への経済的支援の在り方について(中間まとめ)」においても言及されているとおり、近年の経済状況を背景に、家庭の収入が減少する一方で、大学の授業料が上昇し、高等教育の費用が「重い」負担感として現れるなど、高等教育の学資を取り巻く状況も変化している。また、非正規雇用者の割合の増加など、学生等の卒業後の状況も非常に厳しい状況に置かれている。このような現状を踏まえると、当機構の奨学金事業を含めた経済支援の重要性は、更に重いものとなっている。

 このような時代の変化に対応しつつ、事業規模の拡大や制度の充実等に対応するためには、相応の人的体制と安定した財源が不可欠である。
 高等教育における経済支援の重要性が増していることに鑑み、国において、当機構の体制強化に配慮いただくことを強く期待する。

参考 日本学生支援機構の奨学金事業の運営状況の概要

<1>高まる奨学金の需要
 → 貸与者数の増加
(貸与者数:(16年度)83万人 → (24年度)132万人〔9年間で1.6倍〕)
 → 返還者数の増加
(要返還者数:(16年度期末)199万人 → (24年度期末)358万人〔9年間で1.8倍〕)
<2>国民のニーズの多様化
 → 制度改正等よる対応
〔平成11年度〕第二種奨学金の貸与規模の拡大(「きぼう21プラン奨学金制度」発足、貸与月額選択制の導入)、「緊急・応急採用奨学金制度」創設
〔平成13年度〕「きぼう21プラン奨学金」貸与学種拡大(博士課程、高専4.5年)
〔平成15年度〕「入学時特別増額貸与奨学金制度」創設
〔平成16年度〕「入学時特別増額貸与奨学金制度」拡大(第一種にも拡大)、「第二種奨学金(海外進学)制度」創設、法科大学院の創設に対応した奨学金の拡充、「機関保証制度」創設、「特に優れた業績による返還免除制度」創設
〔平成18年度〕「第二種奨学金(短期留学)制度」創設
〔平成19年度〕第二種奨学金利率選択制の導入
〔平成20年度〕第二種奨学金新月額の導入(大学等12万円,大学院15万円)、全国銀行個人信用情報センターに加入
〔平成21年度〕第一種奨学金月額選択制の導入、入学時特別増額貸与奨学金貸与額選択制度の導入
〔平成22年度〕減額返還制度の導入、第一種奨学金支給開始時期の早期化(7月→4月)
〔平成24年度〕「所得連動返還型無利子奨学金制度」創設
〔平成26年度〕海外留学のための奨学金制度の充実(無利子奨学金制度の拡大、若者の学び直し支援のための無利子奨学金の同学種間の再貸与制限の緩和、貸与基準の見直し、延滞金賦課率の引下げ(10%→5%)、返還猶予制度の年数制限の延長(5年→10年)、返還猶予制度の柔軟な適用

<3>年々削減される運営費交付金予算・人員
 → 効率化の推進
(運営費交付金予算額:(16年度)86億円→ (26年度予算案)67億円〔28%減〕)
   (組織定員(全体):(16年度)549人→ (25年度)487人〔13%減〕)
<4>求められる返還金回収強化(勧告の方向性、事業仕分け等)
 → より高い成果を達成
第2期中期目標(21~25年度)において設定された目標値:総回収率82%
(総回収率(実績):(20年度)79.7%→(24年度)82.1%〔2.4ポイント改善〕)

返還金の回収強化を求める関係機関等からの主な指摘等〔関連部分の抜粋〕

「独立行政法人の主要な事務及び事業の改廃に関する勧告の方向性について」
(平成18年11月:政策評価・独立行政法人評価委員会)
2 奨学金の回収の強化
(中略)、回収業務の抜本的な強化を図る必要があることから、民間有識者を含めた検討体制の下で、その原因分析を行い、かつ、効果的な回収方策を検討・策定し、その着実な実施を図るものとする。その一環として、現行の中期計画に掲げられている新規返還者の初年度末の返還率に係る回収目標についても、達成に向けた具体的方策を明らかにした上で早期にその達成を図るとともに、次期中期目標・中期計画においては、総回収率に係るものも含め現行の回収目標を上回る目標を具体的かつ定量的に設定するものとする。

「事業仕分け」評価結果(平成21年11月 行政刷新会議)
WGの評価結果
(1)評価結果 
 見直しを行う
回収の強化、給付型奨学金、経済状況への柔軟な対応、独立行政法人のあり方を中心に)
(2)とりまとめコメント
 大学等奨学金については、見直しを行わないという意見が2名、見直しを行うという意見が14名であった。借金であるから回収を強化すべきという意見が多い一方で、返済方法についての柔軟性や、給付型奨学金を検討すべきという意見もあった。また、(独)日本学生支援機構のあり方については見直しが必要であるとの意見が複数あった。WGとしては、回収の強化、給付型奨学金、経済状況への柔軟な対応、独立行政法人のあり方、といった点を中心に、見直しを行う方向でまとめる。

独立行政法人日本学生支援機構中期目標(平成21年4月~平成26年3月)
 奨学金貸与事業は、返還金をその原資の一部としていることから、返還金を確実に回収し、奨学金貸与事業の健全性を確保する観点から、返還金の回収について、迅速かつ的確な現状把握と、適切かつ厳格な回収を実施するための方策を講ずる特に、延滞債権について回収の抜本的強化を図る。また、総回収率(当該年度に返還されるべき要回収額に対する回収額の割合)を中期目標期間中に82%以上にすることを目指し、返還金の回収促進策を推進する
 その際、目標として設定した総回収率については、奨学金貸与事業の健全性を確保する観点から、奨学金貸与事業の将来見通しを明らかにした上で、平成23年度までにその妥当性について検証し、延滞債権に対する新たな財政負担の増加を抑制する。

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