資料1 日本弁護士連合会提出資料その1(「学生への経済的支援の在り方について(中間まとめ)」について)

「学生への経済的支援の在り方について(中間まとめ)」について

2014年(平成26年)2月3日
日本弁護士連合会

1 貸与型支援の在り方(無利子奨学金の拡充)について

 「学生への経済的支援の在り方について(中間まとめ)」(以下「中間まとめ」という。)が貸与型奨学金について無利子奨学金を原則とし,その拡充に取り組むべきだと指摘したこと,及びこれを受けて,2014年度政府予算案で無利子奨学金の事業予算が拡大したことを積極的に評価したい。
 他方で,無利子奨学金の家計基準が厳格化されたことは大変残念である。無利子奨学金事業の財源としての政府貸付金を増額させる,民間資金の活用については国による利子補給を積極的に行うことなどにより,基準を厳格化することなく,無利子奨学金の更なる拡充を目指すべきである。

2 返還者の経済状況に応じた返還方法について

(1) 延滞金の付加率の見直しについて
 「中間まとめ」が延滞金付加率の引下げ等の必要性を指摘したことを受けて,2014年度政府予算案で,延滞金付加率を年10%から5%に引き下げることが予定されていることを前向きに捉えたい。
 しかし,その対象は平成26年4月以降に生じる延滞金から適用するとされており,現在,延滞金の負担に苦しんでいる人は対象とされていない。延滞金付加率の引下げは,現在生じている延滞金も対象にすべきである。
 そもそも,延滞金は,返済ができるにもかかわらず返済をしないことに対するペナルティとしての性格があるところ,延滞者の多くが所得が低く,非正規雇用の割合が多いことなどに照らせば,返したくても返せないのが実情であり,これに延滞金を付加することには正当性がない。延滞金の付加は,将来に向けて止めるべきである。
 独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)は,現在,延滞金の減免をほとんど認めていない。しかし,延滞金の減免に関する施行細則2条1項(1),業務方法書19条2項ただし書は,「要返還者,連帯保証人又は保証人の責に帰することができない事由により延滞金が生じて,延滞金を請求することが適当でないと機構が認定した場合」には,「真にやむを得ない事由」があるとして,延滞金を減免できる旨定めており,これを柔軟に適用することも可能なはずである。また,従前,機構は,元金相当額を返済した場合に,延滞金の減免を柔軟に認める運用をしていた。また,返済金を元金,利息,延滞金の順に充当することも制度上不可能ではないはずである。延滞金廃止までの間は,このような既存の制度と運用の改善により,延滞金の負担を可能な限り減らすべきである。
 なお,近時,機構が,返済期限未到来の奨学金について期限の利益を失わせて繰上げ一括請求をし,これに多額の延滞金を付加して請求するケースが増えている。これについて日本学生支援機構法施行令5条は,支払能力があるにもかかわらず割賦金の返還を著しく怠ったと認められる場合にかかる一括請求を認めているところ,実際には,支払い能力がないと思われるケースでも,このような繰上げ一括請求がなされていることが少なくない。これにつき,機構は,督促しても連絡がない場合は支払能力があると認識する旨説明しているが,乱暴という外はない。延滞金にも関わるこのような不当な運用は止めるべきである。

(2) 真に困窮している返還者に対する救済措置の拡充
 「中間まとめ」が,真に困窮している返還者に対する救済措置拡充の重要性を指摘したことを積極的に評価したい。
 機構の奨学金の返還に苦しむ人の多くは,できるはずのない無理な返済を強いられ,追い詰められている。その深刻な事実を直視し,返還困難者の実情に合った十分な救済制度を「早急に」整備すべきである。
 特に以下の対策を進めていただきたい。

<1> 利用者等が無理な返済を強いられることのないよう,各種救済手段の適用条件を抜本的に見直し,かつ緩和すること
 「中間まとめ」の指摘を受け,2014年度の政府予算案では, 返金期限猶予制度等の適用基準の緩和が目指されているが,制度の改善が減額返還制度や返還期限猶予制度など一部制度の限定的な改善に止まることのないよう,返還困難者の実情に合った十分な救済制度の実現に向け,具体的かつ継続的な取組を,スピード感を持って行うべきである。制度設計にあたっては, 返還困難者の実情をよく調査して正しく認識し,仮にも「真に困窮している」を限定的に捉えて無理な返済を強いることのないようにすべきである。

<2> 救済制度の期間制限は撤廃すること
 「中間まとめ」を受け,2014年度の政府予算案では,返済期限の猶予制度の利用制限年数を5年から10年に延長することなどが目指されている。しかし,例えば経済的困難を理由として猶予を認める場合などに,利用年数の制限を求めるのは不合理である。かかる期間制限は撤廃すべきである。

<3> 救済制度の不当な運用上の利用制限を止め,運用基準を全て公表すること
 返還困難者に対する現在の制度内救済制度は,利用条件が極めて厳しく, 現状に適合しないだけでなく,様々な運用によってその利用が不当に制限されている。
 延滞を解消しない限り救済制度が利用できない,返還免除の申請は,病気等の回復の見込みがないことを確認するためとの理由で, 何年か猶予の申請を続けなければ免除の申請用紙すら交付しない, 病気を理由に半額免除を受けた場合は,残額について同様の病気を理由とする猶予は認めないなど,多くの不当な制限がなされていることが報告されている。かかる不当な制限は止めるべきである。
 また, 運用上の利用制限は,非公表の内部基準に基づいて行われていることがあり, その根拠すら明らかでない場合も多く,利用者が予想外の不利益を被っている。また, 同様のケースであるにもかかわらず,全く異なる対応がなされていることも少なくない。このような弊害をなくすため,運用基準とその根拠は全て公表すべきである。

<4> 救済制度についての十分な情報提供と利用の支援
 限られた返還困難者に対する救済制度さえ,利用者は知らない場合が多く, また, 制度や手続が非常に複雑なため,その利用は大きく制限されているのが実情である。
 救済制度をもれなく利用できるよう,契約時は無論のこと, 返還困難や延滞に陥った人に対しても機構の方から積極的に救済制度についての十分な説明を分かりやすく行うとともに,親切に申請の手助けをするようにすべきである。そのためには, 機構の担当者が制度に精通するよう,教育体制と相談体制を早急に充実すべきである。

<5> 改善した救済制度の遡及適用
 奨学金の返還が困難な人は,多くの場合, 様々な生活上の困難を抱え,無理な督促により, 更に追い詰められ疲弊していることが多い。その救済は正に喫緊の課題である。救済制度等が改善された場合, 返還困難者が等しくその恩恵を受けられるよう,それを現在の返還困難者に対しても遡って適用すべきである。制度の柔軟な運用で対応できる事項については,現在の救済制度を最大限活用すべきである。

<6> 返還困難者からの返済案に柔軟に応じること
 返還困難者からの分割返済案に対し,毎月,約定返済月額の2倍以上の返済をしなければ和解に応じないなど, 強行な対応に困っているとの相談が多く寄せられている。このような対応を改め,利用者等からの分割返済案には柔軟に応ずるようにすべきである。

(3) 「所得連動型奨学金」の導入
 「中間まとめ」が,所得に応じた月額の返済方式(経済的難度に応じた免除も含む)(所得連動型返済方式)の導入を指摘していることを積極的に評価したい。
 「中間まとめ」も指摘するように,現在,「所得連動返還型の無利子奨学金制度」と称される機構の制度は,新規の無利子奨学金について,利用者の所得が一定額に達するまで返還を猶予するものに過ぎない(これを「所得連動型」と呼ぶことは誤解を招くので止めるべきである)。
 利用時には将来の仕事も収入も分からず,常に返済困難に陥る危険を内包する貸与型奨学金については,所得に応じた月額の返済方式を基本とすべきである。その具体的制度設計に際しては,返済月額を利用者の家計状況に応じた無理のないものにするとともに,有利子の場合における利息負担の軽減,一定期間返済を継続した後の残額の返還免除等もあわせて検討し,利用者が真に利用しやすいものにすべきである。

3 給付的な支援について

 「中間まとめ」が,先進諸国ではほとんどの国で給付型奨学金制度が実施されているとして,給付型奨学金を含む給付的な支援の制度設計を行う必要性を指摘したことを評価したい。引き続き,制度の早期実現に向けた具体的検討を期待したい。
 なお,2014年度の政府の予算案では,高校生に対する給付型の奨学金の一部導入が予定されているが,高校無償化に所得制限を導入することで浮いた予算を給付型奨学金の財源に充て,教育予算内での配分の問題の域を出ていない。我が国の高等教育への公財政支出の対GDP比は,OECD加盟諸国中最下位であり,OECD平均の半分以下である。しっかりとした予算の裏付けのある給付型奨学金制度を導入し,かつ拡充すべきである。

4 高等教育の無償化について

 「中間まとめ」は,我が国が「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約」13条2(b)及び(c)の留保を撤回したことに言及し,高等教育の無償化の漸進的導入を目指すことが求められるとしている。
 ところが,我が国では,1975年に私立学校助成法が成立した際,経常費に対する補助の割合を「できるだけ速やかに二分の一とするよう求める」ことが国会の付帯決議で採択されたにもかかわらず,政府は削減を続け,1980年度に29.5%であった水準が今日では10.5%にまで落ち込んでいる。
 かかる事態に警告を発し,国際公約となった高等教育の無償化の漸進的導入の迅速かつ効果的な達成を,国に対して強く求めていただきたい。

5 個人保証の徴求の禁止

 「中間まとめ」では,この問題に全く触れていないが,個人保証の徴求禁止は求めるべきである。
 機構の奨学金を利用するには,個人保証か機関保証を選択するが,約半数は,保証料の負担のない個人保証を選択している。個人保証の場合,連帯保証人は原則として親など,保証人はおじ等の親族がなるケースが多い。その結果,本人が返済できない場合に,年を取った親などが年金から無理な返済を続けるというケースを生み出している。また,制度内の救済手段が極めて不充分なことから,返済ができない利用者は最終的には自己破産等の法的債務整理手続を取らざるを得ないことが多いが,保証人である親や親族に迷惑をかけたくないとして,自己破産に踏み切れないケースが多くある。
 現在,個人保証を制限しようという民法改正の動きがあるが,その趣旨は奨学金にも当てはまる。加えて,奨学金では,借入額が大きくなること,返済期間が長期にわたること,貸付時に利用者本人と保証人の返済能力が審査されて貸付がなされるわけではなく,むしろ限られた収入の場合に貸付がなされること,学生の将来の仕事や収入は借入時には予期できず,今日,安定した仕事に就けないリスクは飛躍的に拡大していることなどに照らせば,個人保証の徴求は,保証人に過度の負担を課すものである。また,親などが保証人になるのを求めることは,最終的には,教育費の負担を親に課すことになり,教育費を社会全体で負担すべきとの理念にも反する。
 したがって,個人保証の徴求は止めるべきである。
 それまでの間は,運用によって保証人への無理な請求をしないようにするとともに,保証人への督促,保証人からの回収を制限するガイドラインの策定を急ぐべきである。

6 専門職大学院(法科大学院)の奨学金に関して留意すべき点

 専門職大学院である法科大学院の学生に対する経済的支援の在り方を検討するにあたっては,特に下記の点について留意いただきたい。

(1) 「給付的支援に関する検討における,奨学金等の目的・ターゲット層に応じた制度改善」について
 現在,法科大学院在学中の成績や活動内容を理由として免除される機構の第一種奨学金免除制度について,法科大学院修了後,実務家になった後の活動等を理由として免除できる仕組みを加えてゆくべきである。
 今回の「中間まとめ」も含め,これまでの奨学金に関する議論では,(ア)入学時(入口)等での経済的困難性の有無,(イ)在学中(中間)での学業が優秀か否か,といった点だけが議論されているが,法科大学院のような専門職大学院では,学生が卒業後に特定の職業に就くことが当初から想定されていることから,(ウ)卒業後(出口)での仕事の内容による免除の有無が想定しやすいし,奨学金の目的設定の一つとしてそのような制度設計が試みられるべきである。
 例えば,弁護士過疎地(女性ゼロワンを含む)や事件過疎的な公的部門を担う事務所(アメリカでの公設事務所のようなパブリックな事務所や法テラス等)に就職した場合に免除する等の制度設計が考えられる。同様の制度設計は,教職大学院(過疎地赴任者に対する免除等),医学部(過疎地医療従事者に対する免除等),会計大学院(公的NGO等に対する会計業務に従事する者に対する免除等)等,卒業後特定の職業に就くことが想定される他の専門職大学院等でも検討可能である。

(2) 法曹養成過程が長期にわたることに関する配慮
 日本では,基本的に,大学の学部(4年),専門職大学院(法科大学院)(2~3年),司法修習(1年。現時点では貸与制)という7~8年の非常に長期の法曹養成過程を経なければ法曹になることができず,貸与型の奨学金を利用した場合に極めて高額な貸与金を負うことになる。このように法曹養成過程が長期にわたることに対して十分配慮し,負担が加重になることがないように,この分野での更なる奨学金の充実や貸与制から給費制への再移行等を積極的に検討する必要がある。

7 最後に

 学びを支え,その人の人生を支えるためのものであるはずの奨学金が,奨学金とは名ばかりの「学資ローン」と化し,その後の人生の大きな負担となってその人を苦しめ,気力や体力を奪い,人生の選択肢を奪い,人としての誇りや尊厳までをも奪い取っている。
 あるべき学生への経済的支援,あるべき奨学金制度の改善とその道程を考えるためには,今,現場で何が起こっているのかを正しく知る必要がある。当連合会がその一助を担うことができるのであれば,当連合会は,そのための協力を惜しまない。
 真に学びと成長を支える奨学金制度の実現に向け,貴検討会の更なる尽力を期待する。

以上

お問合せ先

高等教育局学生・留学生課