資料2-2 独立行政法人日本学生支援機構の在り方に関する有識者検討会第2ワーキンググループ報告書(案)【清書版】

目次

1.留学生支援事業  

1.独立行政法人日本学生支援機構の留学生支援事業について

(1)留学生支援事業の概要
 ○留学生交流の意義
 ○政府等の取組の方針と現状
 ○独立行政法人日本学生支援機構の行う業務
(2)これまでの行政改革の議論における指摘と対応
 ○指摘の内容
 ○機構における対応

2.留学生交流の推進における課題と機構の留学生支援事業の今後の方向性について

(1)留学生支援全般について
 ○戦略的な留学生交流の促進
 ○ナショナルセンターとしての機能の強化
(2)日本人学生の派遣
 ○グローバル人材の育成
 ○留学生交流の質の確保や効果の検証
 ○海外留学の障壁の解消
(3)外国人留学生の受入れ
 ○留学生の戦略的な受入れ
 ○受入れ段階等における窓口機能の強化
 ○滞在中の環境の充実
 ○卒業(修了)・帰国後のフォローアップの強化

3.機構の留学生支援事業に係る組織の在り方について

(1)留学生交流の推進体制の在り方
(2)各主体の担う役割の分担と連携
 ○国と機構の役割分担
 ○大学と機構の役割分担
(3)諸課題に適切に対応するための組織の在り方
 ○国内における国際交流の中核的拠点の整備
 ○国際交流会館の廃止の在り方
 ○奨学金支給事務の実施体制の在り方
 ○日本語教育の実施体制の在り方
 ○海外拠点間の連携
 ○ナショナルセンターとしての機能の整備
(4)留学生支援事業を実施する組織の実施主体の在り方
 ○機構における三事業の在り方
 ○「統合後の法人」への移管の可否

2.学生生活支援事業

1.機構の学生生活支援事業について

(1)学生生活支援事業の概要
(2)これまでの行政改革の議論における指摘と対応
 ○指摘の内容
 ○機構における対応

2.機構の学生生活支援事業に係る課題と今後の方向性について

(1)学生生活支援に係る現状と課題
 ○学生生活を取り巻く状況
 ○各大学の置かれた状況
(2)今後の方向性
 ○総合的な対応の必要性
 ○調査・分析機能の充実

3.機構の学生生活支援事業に係る組織の在り方について

(1)学生生活支援に関する体制の在り方
(2)諸課題に適切に対応するための組織の在り方
 ○重点的な支援
 ○固有のニーズのある学生への支援
 ○役割の検証
(3)学生生活支援事業を実施する組織の実施主体の在り方
 ○機構における三事業の在り方
 ○「統合後の法人」への移管の可否

 


1.留学生支援事業

1.独立行政法人日本学生支援機構の留学生支援事業について

(1)留学生支援事業の概要

(留学生交流の意義)
 留学生交流は、グローバル化する社会で活躍できる人材の育成を図り、また我が国を世界により開かれた国とし、大学等の国際化を進める上で重要な意義を有するとともに、我が国と諸外国との間の人的ネットワークの形成や、相互理解と友好関係の深化に資する事業である。

(政府等の取組の方針と現状)
 政府は平成20年7月に「留学生30万人計画」を、平成22年6月には日本人学生等の海外交流30万人、外国人学生の受入れ30万人を2020年までの目標として掲げる「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)を決定した。また平成24年6月には「グローバル人材育成戦略」を策定するとともに、産学官の連携により同年5月に「産学協働人財育成円卓会議」において「アクションプラン」をとりまとめるなど、我が国が一体となって留学生交流の推進に取り組んでいるところである。大学においても、秋期入学移行の是非や課題等をめぐる議論が活発化するなど、留学生交流の促進の気運が高まっている。
 一方、海外へ留学する日本人学生の数は平成16年の82,945人をピークに減少に転じ、平成21年には59,923人となっている。また、日本で学ぶ外国人留学生は増加傾向にあるものの、平成23年は東日本大震災の影響もありやや減少し138,075人となっており、より積極的・戦略的な留学生交流の活性化のための方策が求められている。
 (注)派遣についてはOECD、IIE、ユネスコ文化統計年鑑等調べ、受入れについては文部科学省及び日本学生支援機構調べ。

(独立行政法人日本学生支援機構の行う事業)
 
独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)は留学生支援事業として、

  1. 留学前の段階では、国内及び海外での留学フェアの実施、ウェブサイトや海外向けのポータルサイトの開設、海外事務所等を通じた情報提供や相談サービスの実施
  2. 外国人留学生の留学先の決定に際しては、学習到達度を判定するために国内及び海外で「日本留学試験」を実施
  3. 留学中には、奨学金の支給、特に外国人留学生に関しては日本語予備教育の提供、交流活動の支援、宿舎の支援
  4. 卒業(修了)・帰国後には、外国人留学生への就職活動の支援、帰国した元外国人留学生の招聘、メールマガジンの発行などを通じたコミュニケーションの維持

等に取り組んでいる。
 このように、日本人学生と外国人留学生の双方に対し、留学前のプロモーションから卒業(修了)・帰国後のフォローまで、一連の支援業務を総合的に実施する中核的な支援機関として、留学生交流の一層の促進を図ることが期待される。

(2)これまでの行政改革の議論における指摘と対応

(指摘の内容)
 一方で、機構の行う留学生支援事業については、これまでの行政改革の議論において、

  • 留学生宿舎(国際交流会館等)の設置・運営の廃止(※)
    (※)「大学・民間等への売却を進め、平成23年度末までに廃止する」こととされた。
  • 留学情報センター(東京・神戸)の運営事業の廃止
  • 私費外国人留学生学習奨励費の見直し(※)
    (※)「成果検証を厳しく行うとともに、渡日前の予約採用の拡充を図る。さらに、留学生借り上げ宿舎支援事業等を統合し、奨学金を中心とした私費外国人留学生等奨励費給付事業として運営する」こととされた。
  • 海外事務所の見直し(※)
    (※)「バンコク事務所を日本学術振興会と共用化するなど、海外事務所の廃止又は他機関事務所との共用化を進めるための検討を行い、具体的な結論を得る」こととされた。

等の指摘を受けている(※)。
 (※)行政刷新会議「事業仕分け(第2弾)」(平成22年9月3日)、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)における指摘

(機構における対応)
 機構においては、これらの指摘を受けて、

  • 国際交流会館等については、全13館の一般競争入札を実施し、平成23年度末までに7館を売却(※)
    (※)一般競争入札によっても買い手のつかなかった6館に関しては、「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針(平成24年1月20日閣議決定)」において「やむを得ない事情により売却が困難なものについては廃止の進め方について現行中期目標期間終了時までに結論を得る」こととされている。
  • 留学情報センターについては、平成22年度までに廃止
  • 私費外国人留学生学習奨励費については、受給者の進路状況や学習奨励費の活用状況の調査を実施し、その結果を平成23年度に有識者からなる委員会において検証するとともに、渡日前の予約に資する新たな制度を創設し(平成23年4月入学者から対象)、渡日前の予約採用の割合を増加
  • 留学生借り上げ宿舎支援事業においても、私費外国人留学生学習奨励費の支給対象者を優先して支援する方法に平成23年度から改め、学習奨励費の推進時期に合わせて募集を実施
  • 海外事務所については、平成23年度中に、バンコク事務所の独立行政法人日本学術振興会との共用化を開始

等、指摘を踏まえた対応を順次進めてきたところである。

2.留学生交流の推進における課題と機構の留学生支援事業の今後の方向性について

(1)留学生支援全般について

(戦略的な留学生交流の促進)
 我が国の留学生交流施策の推進に当たっては、留学前のプロモーションから、滞在中の支援、卒業(修了)・帰国後のフォローまでを通じた、一貫性のある戦略的な留学生交流の促進が求められる。

(ナショナルセンターとしての機能の強化)
 機構は日本人学生と外国人留学生の双方に対し、留学前の段階から卒業(修了)・帰国後のフォローまで、一連の支援業務を統一的視点から総合的に実施している。このような留学生支援の総合的な実施機関として、機構は、ナショナルセンターとしての機能(情報収集・発信、調査分析、専門的知見の提供、コーディネートや連携の支援・促進等)を強化し、もって戦略的な留学生交流の促進に資することが期待される。

(2)日本人学生の派遣

(グローバル人材の育成)
 これからの我が国社会を支える人材の育成の観点から、語学力・コミュニケーション能力等を身につけ、国際的に活躍できる「グローバル人材」(※)の裾野を拡げ、厚みのある人材層が形成される取組を進めることは、我が国の現下の重要課題である。また、産学官一体となって社会のトップ・リーダー人材を養成するために国として必要な環境整備を行うことも重要である。
 (※) 「グローバル人材育成戦略」においては「グローバル人材」の概念には概ね以下のような要素が含まれるものと整理されている。
    要素1:語学力・コミュニケーション能力
    要素2:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
    要素3:異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

(留学生交流の質の確保や効果の検証)
 機構の行う留学生交流事業については、平成24年度文部科学省行政事業レビューにおいて公開プロセスによる議論が行われた(※)。ここで行われた議論も踏まえ、大学における国際化の取組等の他のプログラムとの連携により事務の効率化を図りつつ学生の海外留学派遣を促進する。さらに、採択時審査の厳格化(特に短期派遣については目的の明確化など)、3ヶ月未満の短期派遣事業の成果の検証、フォローアップの強化等に取り組むことも必要である。
 (※)「留学生短期受入れと日本人学生の海外派遣を一体とした交流事業」として、留学生派遣(長期・短期)及び留学生受入れ(短期)に係る奨学金等の支給事業が対象とされた。

(海外留学の障壁の解消)
 海外へ留学する日本人学生の数は、前述のとおり近年減少傾向にある。
 一方で、留学先の多様化や若年雇用をめぐる状況、また大学の秋期入学の議論等も背景に、海外留学時にインターンシップやボランティア等の活動も行うことへの注目度は高まっており、社会の変化を踏まえて海外留学の魅力や意義を考える視点が必要である。
 また、海外留学を見送る理由として、海外への魅力や海外留学のメリットを感じないなど、若い世代の「内向き志向」もしばしば指摘される。一方、経済力、大学の体制の問題、就職の問題、語学力の問題等を挙げる調査結果(※)もあることを踏まえ、彼らの意識の問題に還元するのみではなく、留学の障壁となっている要因を把握・分析し、それを解消するような取組が求められる。
 (※)「東京大学国際化白書」(2009年3月)より。なお、国立大学協会国際交流委員会留学制度の改善に関するワーキンググループが実施した、各国立大学に対する留学制度の改善に関するアンケート(平成19年1月)においても同旨の結果が出ている。
 これらの観点から、機構における実態把握や調査・分析の機能が一層重要となる。

(3)外国人留学生の受入れ

(留学生の戦略的な受入れ)
 グローバル化が進展する世界で、我が国社会のグローバル化を促進し大学等の国際化を進めるためには、外国人留学生の受入れを通じた国際交流の重要性が増している。優秀な留学生の受入れ促進に当たっては、世界各国の若者が日本で学び、働きたいと思えるような環境づくりを産学官で進めるとともに、今後の成長分野や地域戦略を踏まえた機動的かつ戦略的な留学生交流を推進することが重要である。

(受入れ段階等における窓口機能の強化)
 優れた留学生の受入れを促進するためには、日本留学の魅力についてのアピールを効果的に行うとともに、情報提供や相談サービスを行う窓口機能を強化することが重要である。
 その際、海外政府機関や大学団体等から我が国との留学生交流(大学間交流)の希望があるにも関わらず、我が国の大学等に関する連絡や情報提供を包括的に行う代表的窓口機関が現状では存在しない。このような実態を踏まえ、機構が国と緊密な連携の下、海外の大学等との留学生交流を促進するための情報提供等の窓口機能を担うことが期待される。

(滞在中の環境の充実)
 来日した留学生が、滞在中に安心して勉学に励み、十分に留学の効果を上げるためには、大学における教育環境の整備のみならず、奨学金等の経済的支援、住居の確保、日本語のサポート、交流活動の推進等の生活面の様々な整備も必要であり、さらに、機構が担うべき主な課題として以下の点が挙げられる。 

○経済的支援について
 近年、民間による留学生向け奨学金も拡充されつつあるが、留学生が日本への渡航前に奨学金受給を確保できる予約型奨学金は未だ極めて限られているのが実情である。優秀な留学生に日本留学を志向させるためには公の資金による予約型奨学金の拡充が不可欠である。

○留学生との交流の活性化について
 我が国においては、来日した留学生と日本人学生等との交流の機会が十分でないと言われる。留学生が日本留学の効果を十分に上げ、また我が国の内なる国際化やグローバル人材の育成に寄与する観点から、留学生と日本人学生、若手企業人、また地域住民等との交流の活性化を積極的に進める必要がある。その際、機構においては、大学の枠を超えた幅広い留学生との交流の中核的な機能を担うことが重要である。

○宿舎面の支援について
 海外の留学生が安心して来日し、また来日した留学生が充実した留学生生活を送れるよう、住居にかかる経済的負担や保証人制度等の我が国独自の慣行による障壁を軽減することが必要であり、機構は大学等における宿舎提供等の取組を支援する必要がある。
 その際には、宿舎の経済支援の面のみならず、留学生と日本人学生の混住型宿舎が果たしている教育機能の面にも、十分な留意が必要である。例えば、民間企業等の提供する留学生寮に入居した留学生は、卒業(修了)後に我が国企業へ就職した者の割合が高いこと(※)などは注目すべき事実であろう。
 (※)外国人留学生のうち日本国内に就職する者の割合は25.1%(平成22年度)である(機構「外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」より、大学の学部、修士課程及び博士課程の状況)。
 一方、財団法人留学生支援企業協力推進協会の実施する「社員寮への留学生受入れプログラム」に参加し、卒業・修了により社員寮を退寮した留学生のうち、日本で就職した者の割合は59.1%(平成23年度卒業・修了者)である。

(卒業(修了)・帰国後のフォローアップの強化)
 かつて日本へ留学していた元留学生は、国を超えた人的ネットワークを形成し相互理解と友好関係を構築していく上で、我が国の財産とも言うべき存在であるが、現状では帰国後の関係の維持が十分とは言い難い状況である。
 元留学生へのきめ細かなフォローアップやネットワークの充実・継続は次の優秀な留学生の獲得にもつながり、各大学等においても自主的に取り組まれるべきものであるが、特に我が国が国費を投じて受け入れた留学生等について、帰国後の我が国との良好な関係維持のための充実した取組が課題である。機構においても、国と密接な連携を図りつつ、元留学生の帰国後の動向の把握・集約や、元留学生による同窓会等の活動への支援をはじめ、諸外国の取組も参考にしながら(※)、効果的な取組を進めることが必要である。
 (※)例えば近年では、Facebook等の既存のSNSを活用した元留学生のネットワーキング化(英国の例)や、元留学生向けの独自のオンライン・コミュニティの運営(米国、ドイツの例)といった取組も見られる。
 なお、我が国にとどまり就職や研究を継続する元留学生も同様に重要な存在であり、大学や地方自治体、産業界等とも連携し、我が国社会で活躍できるよう取り組むことも重要な課題である。

3.機構の留学生支援事業に係る組織の在り方について

(1)留学生交流の推進体制の在り方

 グローバル人材の育成の観点からは、政府、大学、企業、団体等が一丸となって留学生交流の促進に取り組むことが必要である。
 すなわち、留学生交流は各大学においてそのミッションに照らし主体的に推進されるべきものであるが、国は高等教育政策や国際交流に係る政策の一環として留学生交流の在り方や基本方針を定め、また全ての大学を通じた課題を把握し、取り組むべき政策の立案を行うこと、機構は国の政策に基づき留学生交流を支援・推進するとともに、政策立案に資するための実態調査・分析を行うことが求められる。この他、企業や団体等も、留学情報の発信、奨学金支給、日本語教育等、様々な役割を果たしており、これらが一体となって留学生交流の促進が図られることとなる。
 その際、機構は、日本人学生と外国人留学生の双方に対し、留学前の段階から卒業(修了)・帰国後のフォローまでの一連の支援業務を総合的に実施する機関として、情報収集・発信や調査分析、コーディネーションや連携促進等のナショナルセンターとしての機能が期待される。

(2)各主体の担う役割の分担と連携

(国と機構の役割分担)
 国は留学生政策の企画立案や外国政府との窓口の役割を担う。機構は国の定める方針に基づき、また国と密接な連携の下、国が自ら主体となって直接に実施することになじまない執行事務を総合的に実施する。
  (参考)独立行政法人とは
 「公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的」とする法人(独立行政法人通則法第2条より)

(大学と機構の役割分担)
 各大学はそのミッションを踏まえ主体的に留学生交流を推進し、機構は各大学の主体的な取組を支援する。

(3)諸課題に適切に対応するための組織の在り方

(国内における国際交流の中核的拠点の整備)
 留学生交流の効果を十分に発揮できるよう、留学生を受け入れる各大学は留学生と日本人学生等との交流の活性化に取り組むべきであり、また民間団体や学生団体等においても様々な交流の取組が行われているが、機構においては、大学の枠を超えた交流拠点の中核的役割を果たす場を「中核的な留学生交流の場」として構築し、大学や民間団体、地域社会等とも連携・協力しながら、若手人材の国際交流拠点のモデルとして活用すべきである。

(国際交流会館等の廃止の在り方)
 国際交流会館等については引き続き売却をめざす。ただし、留学生交流の効果を十分に発揮させる上で必要な交流拠点の中核的役割を果たすにふさわしい条件を備えた施設があれば、「中核的な留学生交流の場」としての再構築も視野に入れるべきである。

(奨学金支給事務の実施体制の在り方)
 国費外国人留学生制度(現在、募集・選考は国で実施)について、採用段階から卒業(修了)・帰国後のフォローまで一貫した実施体制による効果的な実施や、私費外国人留学生学習奨励費制度(現在、機構で実施)との事務一元化による合理化が望まれる。

(日本語教育の実施体制の在り方)
 機構の日本語教育センターは、これまでの教育研究の蓄積に裏打ちされた質の高い教育の提供や、高等専門学校入学予定者等の多様な学生のニーズに応じたきめ細かな指導により、現在、国として責任を持って受け入れるべき国費外国人留学生や外国政府派遣留学生の受入れ・教育において重要な一翼を担っている。もっとも、将来的には、日本語教育を行う他の機関との関係の整理や、民間の日本語教育機関の動向等も踏まえ、機構による教育実施の必要性や求められる機能等につき引き続き見直しを図ることが望ましい。 

(海外拠点間の連携)
 
機構の有する海外拠点、すなわち海外事務所は、日本留学に興味を持った海外の若者等が気軽にアクセスし情報を集められる場であることはもちろんのこと、出身国で活躍する元留学生の状況を把握し、日本留学の成果を次代の学生達に紹介するなど、元留学生のフォローアップから次代の日本留学のアピールまでを通じて、優秀な留学生の獲得の好循環の確立において積極的な役割を担いうる存在である。
 このような拠点の機能を充実・強化するためには、海外に展開されている他機関や大学の海外拠点とのより柔軟で積極的な連携を図ることが極めて重要である。
 (※)機構は現在4カ国4都市に海外事務所を展開している。なお、米国のフルブライト奨学金(Education USA)は173カ国400都市以上、英国のブリティッシュ・カウンシルは111カ国197都市、ドイツのDAADは14カ国14都市(及び情報センター47カ国50都市)、フランスのキャンパスフランスは97カ国155都市に海外拠点を展開。(出所:Education USA (2011)、HESA(2011)、DAAD(2010b)、Campus France(2011))

(ナショナルセンターとしての機能の整備)
 日本人学生等の海外交流及び外国人学生の受入れをそれぞれ30万人とする目標に向けて、戦略的な留学生交流の促進を支えるナショナルセンターとしての機構の機能を強化していく上では、政府としても我が国の留学生交流の促進のため必要な措置を講ずるとともに、機構においては関係機関との連携等による機能の強化や、適切でメリハリのある資源配分が行われるよう業務の不断の見直しを行うことが必要である。

(4)留学生支援事業を実施する組織の実施主体の在り方

(機構における三事業の在り方)
 機構は、我が国唯一の学生支援のナショナルセンターとして、奨学金事業、留学生支援事業及び学生生活支援事業の三事業を総合的に実施しており、窓口の一元化により、業務運営が効果的かつ効率的に実施される必要がある。
 特に日本人学生の派遣に関しては、留学生事業部の実施する奨学金支援は、奨学金事業部の実施する貸与型奨学金(海外留学第二種奨学金)とも連動させて推進することが効果的であり、奨学金事業と連携して行う必要がある。
 加えて、機構の留学生交流支援機関としての国際的な認知も踏まえ、海外におけるプレゼンスの観点にも留意が必要である。

(「統合後の法人」への移管の可否)
 「統合後の法人」(※)は、現在、その検討が進められているところであり、留学生支援事業の「統合後の法人」への移管については、当該法人の体制が明らかになった段階で、その内容を踏まえて検討していくことが必要であろう。
 (※)「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24年1月20日閣議決定)において、大学入試センター及び大学評価・学位授与機構については統合するとともに、国立大学財務・経営センターを廃止し、その業務のうち当面継続されるものについて統合後の法人に移管することとされている。

2.学生生活支援事業

1.機構の学生生活支援事業について

(1)学生生活支援事業の概要

 大学等における豊かな実りある学生生活を実現するために、今日の大学等には、多様化する学生等に対するきめ細かな教育・指導が求められている。機構は、大学等が行うこれらの様々な学生生活への支援機能をサポートするため、

  1. 大学等の教職員を対象とした研修事業の実施(学生相談・メンタルヘルス、就職・キャリア支援、障害学生支援の各分野)
  2. 「障害学生修学支援ネットワーク」(先進的な取組を行う大学及び研究機関等により構成)の構築を通じた、大学等からの相談への対応や理解啓発、研究促進
  3. 学生生活支援に関する調査・分析、情報収集及び大学等への情報提供

等に取り組んでいる。

(2)これまでの行政改革の議論における指摘と対応

(指摘の内容)
 機構の行う学生生活支援事業については、これまでの行政改革の議論において、

  • 大学情報提供事業(学生支援情報データベース等)の廃止、ゼロベースで厳しく見直し
  • 研修事業の重点化、有料化
  • 各種調査の重点化

等の指摘を受けている(※)。
 (※)行政刷新会議「事業仕分け(第2弾)」(平成22年9月3日)及び「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月7日閣議決定)における指摘

(機構における対応)
 機構においては、これらの指摘を受けて、

  • 大学情報提供事業については、「学生支援情報データベース」及び冊子「大学と学生」を、平成22年度をもって廃止
  • 研修事業については、各大学等における取組が十分でなく公共上の見地から必要な事業内容に厳選するとともに、平成24年度から研修の一部を試行的に有料化
  • 各種調査については、平成23年度に見直しの方向性を定め、重点化に向けた作業を実施

等、指摘を踏まえた対応を順次進めてきたところである。

2.機構の学生生活支援事業に係る課題と今後の方向性について

(1)学生生活支援に係る現状と課題

(学生生活を取り巻く状況)
 今日、大学等への進学率は50%を超え、また国際化の進展により我が国大学等に在籍する留学生も増加し、大学等には資質や能力、知識、興味・関心に加え、生活習慣や文化的背景も大きく異なる学生が在籍するようになっている。これに伴い、学生が必要とする支援のニーズも多様化している。
 学生を取り巻く社会環境の変化をみても、経済が長く停滞し経済的格差の拡大する中で、急激な少子化の進展、地域コミュニティの衰退に加え、グローバル化や情報化の進展、労働市場や就業構造の流動化等の様々な要因が絡み合い、社会に生ずる問題も多様で複雑なものとなっている。

(各大学の置かれた状況)
 近年、大学等のユニバーサル化に伴い、学生の求める支援ニーズが増加・多様化するばかりでなく、キャリア支援やグローバル人材の育成など社会が大学等に求める役割も幅広いものとなっている。
 また、障害のある学生をめぐっては、国連の「障害者の権利に関する条約」(※)が平成20年に発効し、国内においても平成19年に発達障害者支援法成立、昨年は障害者基本法の改正が行われるなどの背景を踏まえ、高等教育段階における障害のある学生の修学環境の充実に期待が高まっている。
 (※)我が国は平成19年に署名。同条約は締約国に対し、高等教育においても「合理的配慮」が障害者に提供されることを求めている(第24条第5項)。
 しかし、格差の拡大や少子化の進展、地域のつながりの弱体化等を背景に、他者とのつながりが希薄化し様々な心の問題を抱える学生が増えている。現在各大学において取り組まれている大学教育改革においても学生の主体性の育成が鍵とされる一方で、経済成長期を経験したことのない現代の若者は将来への希望を持ちづらいとされるなど、各大学が向き合わねばならない課題は拡大する一方である。しかしながら、学生の抱える様々な課題に対処するためのノウハウを各大学が十分に持ち合わせているとは限らず、苦労を重ねている現状にある。

(2)今後の方向性

(総合的な対応の必要性)
 先に述べたように学生生活において生じる諸問題は多様化・複雑化している。また困難に直面しても周囲に支援を求めることができずに学生本人が抱え込んでしまうケースの増加なども指摘されており(※)、個別の課題毎あるいは個別の大学毎の対応のみでは十分な対応が図られず、総合的な対応が求められている。このようなことから、各大学における取組やノウハウの蓄積が十分ではない課題について、機構がその解決に向けた手がかりとなる情報や知見を提供することが重要である。
 (※)機構の調査においても、「学生相談に関する今後の課題として、特に必要性が高いと思われる事項」(複数回答可)について、92%の大学が「悩みを抱えていながら相談に来ない学生への対応」を挙げている(最多回答)。(出典:「大学、短期大学、高等専門学校における学生支援取組状況に関する調査」(平成22年度))
 また、社会で生ずる問題が複雑化している中、その縮図である学生生活上の課題への対応においても、これまで以上に社会や地域の関与が重要となっている。このような現状を踏まえ、機構においては、大学や、関係機関、地域社会、NPO等の連携により、総合的な見地から的確に学生の支援に取り組むことが必要である。

(調査・分析機能の充実)
 多様化・複雑化する学生生活上の課題や取組状況を把握し、適切な支援を実施するためには、その前提として全大学を通じた学生生活の実態把握や分析が不可欠である。
 しかしながら、現在、学生生活をめぐる諸課題に係る基礎データは十分に把握されているとはいえず、機構が継続的に学生生活支援に関する調査・分析を実施することが求められる。 

3.機構の学生生活支援事業に係る組織の在り方について

(1)学生生活支援に関する体制の在り方

 大学等への進学率が50%を上回る今日、学生の抱える問題はもはや一部の層に特有のものではなく、社会の多くの者に共通するものとなっている。このことを踏まえれば、学生生活をめぐる多様で複雑な諸課題に適切に対応するには、大学のみならず、関係機関や地域社会などがそれぞれの立場から学生支援に参画し、社会全体で学生を支えていくことが必要である。
 このうち、個別の大学における学生支援は、各大学等においてその本来業務として取り組まれるべきものである。国においては大学全体を通した学生生活上の課題を把握・認識し、高等教育政策の一環として学生生活支援のあるべき姿に向けた政策立案を行う一方、機構においては、政策立案に資する情報収集や調査・分析を行うとともに、各大学における学生生活支援の先導的なモデルを提示する役割が求められる。これに加え、地域の保健・福祉や就職等に係る関係機関や民間団体、NPO等の支援団体、そして当事者である学生等も一体となって、学生生活を支えていくこととなる。

(2)諸課題に適切に対応するための組織の在り方

(重点的な支援)
 機構は、先導的なモデルの提示の一環として、各大学の参考となる事例の収集・提供や、大学等の職員に向けた研修などの支援を行い、これを通じて各大学における効果的な取組の実施や望ましい支援体制の整備を促し、底上げを図る。
 その際、機構は、国の政策と連携し、喫緊の課題や政策上特に重要性の高い課題、各大学の自主的な取組を促す必要のある課題への対応について、重点的に支援する。
 例えば、学生の就職・キャリア支援は、各大学においても取り組まれているが、厳しい経済状況下での政策上の重要課題であることを踏まえ、機構は大学・経済界・国のコーディネートの機能等を通じて、大学等の取組を支援している。

(固有のニーズのある学生への支援)
 障害のある学生やメンタルヘルス等の、固有のニーズのある学生に対する支援については、支援のニーズが増加する一方である。中には、自殺の問題を抱える学生や中退の危機にある学生など、緊急の対応が求められる課題も少なくない。〔また、消費者トラブルやカルト問題等の社会情勢を反映した課題への対応も重要である。【保留】〕これらに対して的確な支援を行うためには、専門的な知識や支援実績に基づくノウハウが求められることから、各大学等における取組には限界があり、関係機関の支援が不可欠である。機構は、先進的な事例の収集・共有や、専門的な知見の提供等により、各大学の取組を積極的に支援することが求められる。
※事務局注
「『消費者トラブルやカルト問題等の…』といった記述を加えるかどうかは委員の皆様のご判断に委ねたいと存じます」とのご意見をいただいています。 

(役割の検証)
 機構の行うこれらの支援に関しては、大学等をめぐる社会状況や学生像の変容に応じて、また各大学における知見やノウハウの蓄積の状況等も踏まえ、各主体の担うべき役割や機構が重点を置くべき分野について、必要に応じて見直しを行うことが必要である。
※事務局注
「これに加え、もう幾分か記述がほしい気がします。例えば以下の内容は少々具体的過ぎるでしょうか」とのご意見をいただいています。
 〔社会や大学をめぐる状況、あるいは学生像の変容に応じて新たなニーズが生じる場合があり、分野の設定あるいは組み替え(例:広く学生支援全般の資質を向上させる研修の検討等)や対象者の焦点化(例:学生支援担当の副学長等によるディレクター会議の開催等)を視野に入れて、これらのニーズに対応できるような構えが望まれる。〕

(3)学生生活支援事業を実施する組織の実施主体の在り方

(機構における三事業の在り方)
 機構は、我が国唯一の学生支援のナショナルセンターとして、奨学金事業、留学生支援事業及び学生生活支援事業の三事業を総合的に実施しており、窓口の一元化による業務運営が効果的かつ効率的である。
 特に、学生生活上直面する困難は、経済面に起因するものも多く、奨学金事業との連携した事業実施が求められる。また、大学の国際化の進展により、留学生も学生生活支援の対象となりつつあり、留学生支援事業との連携もますます重要となっている。 

(「統合後の法人」への移管の可否)
 「統合後の法人」(※)については、現在、その検討が進められているところであり、学生生活支援事業の「統合後の法人」への移管については、当該法人の体制が明らかになった段階で、その内容を踏まえて検討していくことが必要であろう。
 (※)「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24年1月20日閣議決定)において、大学入試センター及び大学評価・学位授与機構については統合するとともに、国立大学財務・経営センターを廃止し、その業務のうち当面継続されるものについて統合後の法人に移管することとされている。 

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