医学教育カリキュラム検討会(第4回) 議事録

1.日時

平成21年3月13日(金曜日)16時~18時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.議題

  1. 関係者からのヒアリング(1.看護の立場から 2.救急、精神・神経科の立場から)
  2. その他

4.出席者

委員

荒川委員、飯沼委員、石川委員、小川委員、辻本委員、名川委員、奈良委員、伴委員、平出委員、福田委員、南委員、吉田委員

5.議事録

 ○荒川座長  それでは、時間も来ました。これから、第4回の医学教育カリキュラム検討会を開きたいと思います。

 きょうは4名の先生にご出席いただきました。ヒアリングをしたいと思います。

 最初に、事務局から、きょうの委員の出欠状況報告と配付資料の確認をお願いします。

○樋口医学教育課長補佐  失礼いたします。本日は、お忙しいところにもかかわらずお集まりいただきまして、ありがとうございます。また、本日意見発表いただきます4名の先生方には、年度末のお願いにもかかわらずご承諾いただきまして、まことにありがとうございました。

 それでは、この会に先立ちまして出欠状況の確認でございますけれども、出席委員につきましては、お手元の座席表に掲げていますとおりでございますが、飯沼委員、南委員、名川委員におきましては、少し所用のためにおくれてご出席になられるということで承ってございます。

 次に、配付資料の確認をさせていただきます。

 まず、本日の議事次第、それから座席表に続きまして、資料1といたしまして、前回、カリキュラム検討会(第3回)の概要、それから資料2から4といたしまして、本日ヒアリングをいただく先生からご提出いただきました資料及び関連の冊子、それから参考1といたしまして平出委員ご提出の資料、参考2といたしまして石川委員ご提出の資料がお手元にあると思います。

 なお、検討会の議事録、現在、各委員の方々の意見を取りまとめてございますが、終了次第、速やかにホームページでの公開、掲載をさせていただきたいと思います。

 資料の過不足等ございましたら、お申し出いただきたいと思いますが。

○荒川座長  よろしいですか。

 それでは、きょうは実は2つのことがございます。1つは、チーム医療を担う医師の養成科のお立場から医学教育に求められるものということで、国立大学病院看護部長会議会長で東京大学医学部附属病院の看護部長の榮木先生にお願いしてあります。それから、前回に続きまして各診療分野の立場から医学教育に求められることにつきましては、きょうは日本救急医学会救急医学領域の教育研修委員長で帝京大学医学部附属病院救命救急センター長の坂本先生、それから、日本精神神経学会理事長で大宮厚生病院副委員長の小島先生、それから、日本医科大学精神医学講座の大久保先生の4名の方々からご意見を賜りたいと思っております。先生方には、お忙しい中、大変ありがとうございました。

 まず最初は榮木先生から、看護の立場から見た最近の医師の動向、また、チーム医療、あるいは看護師・医師間の協働連携をしていく上で卒前教育に何が求められるかというようなことにつきまして、10分ほどのめどでお話しいただきまして、その後、20分ぐらい議論したいと思っております。

 続きまして、後半では救急、精神科、それぞれの立場から、診療科等の医療を取り巻く課題から、将来のその科を担う先生方と同時に、また、すべての医学生に対してどう教育するかということにつきましてもお話をそれぞれ10分くらいいただきます。そして議論したいと思います。

 それでは、まず最初に、榮木先生からまず10分ほどお願いします。よろしくお願いします。

○榮木発表者  東大病院の榮木でございます。よろしくお願いいたします。

 本日、このような機会をいただきまして、医学部の学生の教育はどうなっているかなということで、私自身、昔を思い出したり、病棟を回って状況を確認したり、あるいは全国の看護部長さん方からご意見を伺ったりして、非常に反省いたしました。医学教育、あまりほとんど関心を持っていなかったということがよくよくわかって、とても反省した次第です。

 大学病院に働く看護職としては、医師の教育にかかわるという意識は持っていますので、研修医の教育には比較的積極的にかかわっていたんですけれども、医学生の教育、全く関心を持っていなかったということが実感でしたので、そんなことも含めて、現場から看護職から見た医学教育はどのようになっているかということをお話しさせていただきたいと思いますが、これは決して東大病院の実情ではありません。東大病院の内容も入ってはおりますけれども、全国の国立大学病院の看護部長さん方から意見をいただいてまとめたものですので、東大病院の東京大学の先生、お二方入っていますけれども、きょうはまだいらしていませんけれども、東大病院のことを言われているというふうには思っていただきたくないと思いますので、よろしくお願いいたします。

 資料2をご参照いただきたいと思います。まず、看護職から見た医学部の臨地実習はどうなっているかということです。

 昔を思い出し、それから病棟を回り、それから看護部長さん方からご意見を伺いましたけれども、学生の実習期間がいつから始まっていつ終わるのか、知りません。担当教官がだれなのか、それも知りません。学生が受け持つ患者さん、だれなのか、それもわかりません。

 学生実習が始まりますとか、いつからどのような患者を受け持つのでよろしくお願いしますというような説明が、一切、看護職にはないんですね。ですから、私たちから見て、どうも学生らしい人がベッドサイドにいるから学生実習が始まっているのかな、というような状況、あるいは、何かいつの間にか電子カルテを触っている人がいるけれども、もしかしたら学生さんかしら、というような、そんな実態です。これは、20年以上も前、30年以上も前の、私が臨床にいたときと今も、どうもあまり変わっていないような感じはいたします。

 看護職の場合の臨地実習は、もうちょっと違うんですね。まず、実習期間、それから指導者はだれになるか、それから担当患者、学生が受け持つ担当患者はだれですというようなことを含めて、まず、病棟内に表示して、もちろんスタッフ(看護職)がわかるように、あるいはその病棟の医師にもわかるように、当然、学生が来ますということを病棟の責任者にも説明し、患者さんの担当医には、当然、了解を得るような形で説明して、もちろん学生も担当医に紹介いたします。そのような形で看護職の場合は臨地実習が始まります。

 臨地実習で基本的な行動として、指導者は何を教えるかといいますと、まず、時間厳守なんですね。看護学生の臨地実習というのは申し送りから始まりますので、必ず申し送りの前の5分から10分前には病棟に来なさい、来たら、まず周りのスタッフの方々にあいさつをしなさい、そして、患者さんのところへ行ったら朝のあいさつをし、そして、実習が終わったら、「きょう、これで実習が終わります。ありがとうございました」というあいさつをして帰りなさいという、まあそのようなあいさつの説明・指導をします。

 それから、身だしなみについても、相当厳しい指導をしますね。髪の毛はユニフォームの襟にかからないようにとか、長い髪の毛はちゃんとまとめなさいとか、それから、ユニフォームの着方なども、身だしなみについて、相当厳しい指導をいたします。

 これだけの指導をしたから就職したときにきちんとマナーが守られているかといったら、そうでもないんですけれども、でも、それでも、基本的な教育は学生のときからしているというような状況です。

 医学部の教育目的はどのようになっているかというと、「医学・医療の発展」ですね。「人材育成」があります。この「人材育成」も、各大学によって違うんですね。「次の世代を担う優秀な人材育成」とか、東京大学の場合は「国際的指導者になるための人材育成」とか、形容詞がそれぞれの大学で違っていますけれども、それでも「人材育成」。それから、「全人的な医療の実践」、この3つが医学教育のキーワードになっていると思います。

 このキーワードをもとに、私たちとして学んでほしいと思う内容としては、社会人としての基本的なマナーをまず身につけてくださいということなんですね。だから、時間厳守をしてくださいということです。実習時間が何時からなのかということもわかりませんから、それはせめて学生に徹底して、来たら周りの職員にあいさつをし、患者さんにあいさつをし、そして実習が終わったら、やっぱり教えてもらう学生の立場ですから、患者さんに「きょうはありがとうございました。これで終わります」というあいさつをして帰りなさいということは指導してほしいとは思います。それから、身だしなみを整えてほしいと思います。きれいな靴で、ジーパンなどではなく、清潔な白衣で来るようにというような指導もしてほしいと思います。

 それから、整理整頓ですね。飲みかけのペットボトルが散乱していたり、カルテは出しっぱなしというような状況がありますので、そんなこともきちんと指導してほしいというふうに思います。

 それから、今、チーム医療が言われていますから、チーム医療の実際ということはどういうことなのかということも、まず学生のうちから教えていただきたいと思っています。今、いろいろな病院で緩和ケアチーム、あるいはNSTのチームが動いたり、褥瘡のチームが動いたり、あるいは医師と看護師とでカンファレンスを行ったりしますので、そのようなチーム医療に学生さんにも参加していただきたいと思っています。

 どんな職種がまず病院にいるのかということもわかってほしい。リハビリの作業療法士の人たちがいて、ベッドサイドで運動療法をしたりというようなこともありますから、そんなことにも興味を持ってほしいですし、特に一番身近にいる看護師がどんな仕事をしているのか、どんな役割を持っているのかというようなことも、まず学んでほしいとは思います。

 特にチーム医療ということでは、外科などで手術が終わったら、その後、看護師がどんな観察をし、どんな処置をすることで医療が継続しているのかというようなこともぜひわかっていただきたいんですね。そんなことを学んでほしい。チーム医療ってどんなことかということを学んでほしいと思っています。

 それから、キーワードの中に「全人的医療の実践」とありますけれども、患者を全人的にとらえることがどういうことなのかということを、まず臨地実習でも教えていただきたいと思います。患者さんから、基礎情報としていろいろな情報をとります。家族背景、社会的な背景をとりますが、それが治療にどのように結びつけて考えたらいいのかというようなことも指導してほしいと思っています。

 特に最近は、退院支援ということで在院日数を短くするためにいろいろな形で看護職員と医師も含めてカンファレンスなどを行っています。これはチーム医療の実際にも通ずることなんですけれども、自分の担当の患者さんの退院に向けてのカンファレンスや何かにもぜひ積極的に参加するような実践をしていただきたい、実習をしていただきたいと思っています。

 看護職から見た医師はどうなのか。こんなことをいろいろ聞き始めて、医学教育ってどうなっているのかなと、今回、初めて考えてみました。

 まず、技術教育が、学生のときにどの程度、どのように行われているのかという疑問です。まず、看護師の教育の場合は、演習室というのがあって、ベッドからいろいろな機器類があって、実習に出る前に実技の訓練をするんですね。それはカリキュラムに当然入っています。医学教育の場合は、演習室ってあったかなということと、技術教育がどれくらい実際にやられているのかということが、よくわからない。採血とか、胃カテの挿入とか、ほんとうに身近な基本的な技術訓練をまずやった上で臨床に出ていけたらいいのではないのかとは思います。

 臨地実習で何を学ばせたいかということが見えてこないんですね。学生さんがベッドサイドにいる時間は短くて、端末の前でずっといたり、あるいは控え室でずっと話をしていたりということで、何を臨地実習で学ぼうとしているのかということがなかなか他職種から見えてこないというような実態があります。

 卒業時点で医師の場合は、到達度、どの辺まで技術的な訓練を目指すのかというような到達目標があるのかな、ないのかなということが、なかなか見えてこない。看護職は、やっぱり最近非常に臨床に出たときのギャップが大きいということで、到達目標をつくりましょうというような議論が始まっていて、いろいろな項目をつくり始めています。それに向けて基礎教育としては取り組んでいるわけです。

 そんなことで、医学教育のなかなかわかりづらい部分があるということが印象としてありました。

 最近ですけれども、というか、ここ七、八年でしょうか、医学生に看護実習を取り入れましょうという空気が出てきているんですね。幾つかの大学で看護実習を取り入れ始めた大学があります。ここに挙げています北海道大学、熊本大学、鹿児島大学、このほかにも多分あるのだろうと思います。

 具体の内容を確認してみました。非常にすごいことをやっているというのは筑波大学ですね。まず、目的が「医師以外の医療職の視点で患者を理解する」というようなことで、日勤、準夜、深夜を経験しながら、これだけのことを看護師とともに実践・体験しているようです。それから、医学類・看護学類・医療科学類の学生がグループでチーム医療とか、あるいは患者のケアをテーマに1週間議論しているのだそうです。それから、佐賀大学でも、やっぱり夕方から夜間帯にかけて看護師と行動をともにして看護体験をするというようなことをやっているようです。

 やっぱり、これらの体験をした学生さんの感想がすばらしいですね。感想も看護部長さんが送ってくださいましたけれども、やっぱり非常にすばらしい感想、チーム医療をまさに実感したというような感想が述べられておりました。

 そのほかに千葉大学は、最近ですけれども現代GPの予算で看護学が中心になって、医学・看護学・薬学の学生の三者で事例検討なども始めているというようなこともあるようです。

 具体的にこのような実習の実践例もありますけれども、もう少し看護職としても積極的に医学教育にかかわっておくべきだなということを、ほんとうに反省点として、今回、感じたところです。

 以上です。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 それでは、ただいまの榮木先生のお話にいろいろとまた委員の方々からも、ご意見なり、またご質問があると思いますので、ひとつお願いいたします。

 では、吉田先生からいきましょうか。

○吉田委員  九州大学の吉田です。

 大変興味深いコメントをいただいたという。先ほど始まる前からこの資料を楽しみにしておりました。

 九州大学では、平成6年度の入学生で平成11年度から実際には診療参加型臨床実習を本格的に導入したところ、結局、それは診療科によって随分やれること、やれないことがあるということがわかりました。平成13年の診療参加型臨床実習への移行のためのガイドラインをまとめたときの調査では、一番診療参加をやっていた診療科は、産科婦人科だったんですけれども、その学生の行動が実際にどうなっているのかというと、やはり、臨床実習の学生が、ファースト・レスポンダーとして看護師から報告を受けていたのです。それは、一般的には、我々のころの教育では研修医だったわけですけれども、そういうふうな役割を病棟で与えられると診療参加がうまくいっているという状況がございました。

 ですので、この資料の一番上に書いてある3つの青字で書いてある項目は、そういう看護師さんから報告を受けるということであれば、絶対にその看護師さんが知っておかないとできないわけですから、これを見ただけでその診療科で診療参加型臨床実習ができているか、できていないかというのは、もう一目瞭然だという感じがします。

 看護師さんの職種、その業務がどういう役割なのかを学ぶという点で、筑波大学さんですとかそういうところの看護体験実習は以前から聞いていますけれども、これ以外にも入院体験実習という、病室に1日学生がいると、部屋に入ってくる看護師さんがどういう役割なのかというのは、周りの患者さんの様子を観察することで、彼らも実は看護師さんというのは「白衣の天使」なんだというふうなことが実感できたという学生もいます。ふだん、学生は病棟では、どっちかというと、看護師さんのお仕事を邪魔しないように、控え目に、控え目に、ちょっと恐れながら看護師さんに接しているという状況があるのですが、入院体験実習では、実際に患者さんに対しては非常にやさしい目線で接されているんだなというのがわかるという、そういう感想も得られています。

 非常に興味深いお話でした。どうもありがとうございます。

○荒川座長  「看護職から見た医学教育の不明点」ということで、技術教育とか卒業時の技術という、これは福田先生が全部やって、この辺でひとつ何か、先生、コメントございませんか。

○福田副座長  いや、実は、今の問題は大変実態をあらわしていると感じました。

 というのは、チーム医療って何だということを考えた場合に、医療の現場のことを考えればいいだけの話なんですね。医学教育をやりながら診療参加型実習にするという場合に、チーム医療ということが必ず出てきます。では、現場とそれが一致しているかどうかというと、決して一致していないということを感じておりました。

 だとすると、何をやっているんだろうと、思わざるをえないところがあります。看護のこともその教育のことも知らないし、それから、実際には患者を介助させるような行為は、当然、看護のほうから技術指導してもらったほうがいいと私は思っています。しかも、入学当初の早い時期から、救急と、患者介護ということは、当初からやるべきであろうと思います。外国ではかなりやっていますので、そういう視点は我が国では忘れられている。

 これらの視点については前回の協力者会議の報告書にも触れられておりまして、チーム医療をきちんともう1回考え直さないといけない。そのためには、一緒にやっていただく人たちからも指導をお願いするし、逆に言えば、そういうところから基礎訓練を学生がしていくことでチーム医療がうまくいくのだろうと感じています。

 それからもう1点は、私は外科にいましたから、夜中の5時過ぎすると、もう看護師の人たちは手洗いしないんですね。手洗いはみんな私たち、私はインターンのときから手洗いは全部やらされていましたし、麻酔と手洗いは全部やる。

 そこで気付いたことは、外科と内科で医療チームの在り方が大分違う。看護師の体制と医師の体制も全く違う。内科は主治医体制ですよね。外科はチーム医療になっています。きょう、委員の東大の外科の名川先生がおられればよかったのですが、外科のほうが手術をチームでやるので、チーム医療をやりやすい。これは事実です。複数の患者を複数のドクターが診ているし、研修医もいるし、レジデントもいるし、屋根瓦になっていますので、これはやりやすい。内科の主治医制度について、いろいろな病院の看護部長さんなどにいろいろお聞きすると、1人1人の主治医に、個別全部伝えなければいけないようです。その下に研修医がぶら下がっているから、ものすごく複雑な構造になっている。外科の場合には、その診療グループの大将――「大将」って表現は悪いんですけれども、外科のチームの大将に一言伝えれば全部通じるようです。当然、その診療グループの中に学生も入ってきます。先生のお話からは、そういうのは全然見えていないというご指摘なので、まさにそのとおりだと思いますね。

 我々も情報をどんどん流さなければいけないし、それから、看護の先生方も忙しいでしょうが、医学生の教育にもご協力をいただきたく、これからよろしくお願いいたします。私どもも、いろいろな手順を踏んで改革を進めてきてまいりますので、それをまたご紹介させていただこうと思います。よろしくお願いいたします。

○荒川座長  いかがでしょうか、先生方。どなたか。

 では、先生、平出先生。

○平出委員  京都大学の平出と申します。

 以前、大阪大学におりました時期に、先ほど吉田先生からもありました臨床実習の改革を担当しました。見学型から診療参加型にしなければいけないということで、そのためには、看護師さんたちが認めてくれないとできないだろうということで、婦長会議に行って説明させていただいたことがあるんです。そうしたら、先生方が「おまえはそんな恐ろしいところに行ったのか」と。(笑)「普通はそういうことはしないものだ」と、こう言われました。教育をオーガナイズする者たち、教育センターだとか、あるいは実習担当の教員だとか、そういう人たちと看護職の皆さんとのコミュニケーションは、ひょっとしたら、足りないのかなと認識したのですけれども、その点はいかがでしょうか。

○榮木発表者  先ほども申しましたけれども、やっぱり大学病院で働く看護職は、教育にかかわるという意識は、もうほんとうに最近、持ち始めていますから、育てようというふうに考えているんですね。だから、研修医の教育などはとても積極的にかかわっていますから、師長会が怖い時代は、もう十二、三年、20年も前のお話で、今はそんな状況はありません。歓迎すると思います。

○福田副座長  実は、はたと思ったんですけれども、先生からそういう話を聞いて、私どもが進めてきた今までのプロセスが、多分、紹介されていないなということを感じます。医学界だけで話が進んでいる可能性があり、チームワークでやっているほかのメディカル・スタッフの人たちに、私どもの進めてきたプロセスがほとんど理解されていないというのは、これはとんでもないことですので、これは逆にいい機会だと思います。

○荒川座長  かなり、この「不明点」のことで突っ込んでいるんでしょうけれども、そこのコミュニケーションが見えるような形でいくとね。

 では、小川先生、どうぞ。

○小川委員  岩手医大の小川です。

 大変興味のある内容で、大変よかったと思います。

 3点お願いしたいんですけれども、1つはチーム医療の実際ということになると、これはもう、ですから、チーム医療をやっているような科であれば、教育もできているのではないかと。ですから、要するに、もうチーム医療の教育ができていないというところは、その診療科そのものが、チーム医療がちゃんと機能していないということではないかと感じました。

 それからもう1点ですね、うちのほうでも看護体験実習をやっているのですが、6年間ある医学教育の中で、どの段階で看護体験実習をやらせれば一番効果があるとお考えでしょうか。

○榮木発表者  そうですね、あまり早い時期ではわからないのだろうなと思います。やっぱり、最後の卒業間際、5年生か6年生ぐらいがいいのではないのかな。6年生は、もう受験勉強でしょうか、国試の。

○荒川座長  それも困るんですね。(笑)

○小川委員  その辺がややこしいところで。

 あと、それから、先生の内容とはちょっと離れるかもしれませんけれども、社会人としての基本的なマナーですね、これはもちろん非常に重要なことなんですけれども、高校のときの学業優秀な人であればあるほど、どうも親の顔が見たいと。要するに初等中等教育がちゃんとなっていないので、こういう問題が出てくるのかなと。何で大学になって、大学で何でマナーとか、時間厳守だとか、あいさつを教えなければならないかというところがありまして、非常にその辺は、これはもう大学の問題ではなくて、あるいは医学教育の問題ではなくて、もう教育全体の、初等中等教育を含めた教育全体の問題ではないかと私は思いますけれども。

○榮木発表者  確かに小さいころのしつけがあまり今はできていないというようなことはあるんだろうと思いますけれども、でも、やっぱり言わないとわからない世代ですから、もう言い続けるしかないと思います。時間厳守に関しても、例えば、では大学教育で講義の時間におくれてきたら、もう一切入れないとかということは、やっていないですよね。おくれて来ても、それはそれで学生を受け入れているわけです。その習慣がずっと臨地実習に出ても出てきてしまうわけですよね。何時から実習が始まるのかわからないけれども、おくれて来ても平気で、患者さんのところに行っているのか、行っていないのかわからないとか、あるいは、例えば突然休むようなことがあったら、やっぱりそれは指導者に連絡をして、指導者が「きょうは学生は来られません」と言うようなことがきちんと患者さんに伝わらないといけないだろうと思うんですよね。持たせていただきますということで。そういうことのやっぱり指導は、言わないとわからないだろうと思います、今の世代は。看護学生も、言ってそれですぐ身につくかといったら、そうではないです。就職しても、やっぱりそれは言い続けないと直っていきませんけれども、でも、やっぱり言い続けたら、やっぱり変わってきていますよね。

○荒川座長  私が創設時代の川崎医大にいたときには、時間が来ると、戸を閉めて入れないようにしました、学生をですね。伴先生は、今、どう考えていられるでしょう。先生も川崎医大におられて、今は名古屋ですけれども、何かいろいろなことを含めて。それに限らず、ひとついかがでしょうか。

○伴委員  名古屋大学の総合診療部の伴と申します。

 今おっしゃった、小川先生もおっしゃいましたけれども、言われていないからできない、言えばできるというところがかなりあると思いますね、確かに。だから、臨床実習に来ても、約束の5分前に来るのが社会人としてマナーだというふうに言えば、次のときからはちゃんと多くの学生は5分前に、それでも来ないのがいますけれども、来るようになりますし、ですから、先ほど言われた繰り返し、繰り返しやるという、これが大学でやることかと言われると、やることではないのかもしれませんけれども、そういう状態ならやらざるを得ないというのが現状かなと思います。

 それから、このチーム医療というのは、やっぱり日本の医学教育の中では随分やっぱり取り組みが難しい領域の1つで、1つはやっぱり看護師さんのほうも、臨床と臨床前の担当の方が異なりますよね。で、例えば1年生、2年生は、看護教員のほうで教えられて、僕はこれは非常にいいなと昔は思っていたんですけれども、それですごく臨床になったら、今度は外来に行くと、看護師さんのほうの、また、教員の人は、看護師さんの教員の人は現場に行かれているんですけれども、すごく小さくなっていて、現場の方に仕切られているという感じになっていて、ですから、何かその辺のシームレスな流れが医学教育よりも看護師教育のほうが少ないのかなというふうな感じがしていて、その辺のところも含めてプレ・メディカル、プレ・クリニカル、クリニカルというふうな形でうまくチーム医療をやっていくのにはどうしたらいいのだろうというのがなかなか今でも、先ほどから出ている看護実習とそれから病棟のチーム・カンファレンスぐらいのところから出られないんですね。だから、まだ試行錯誤の段階です。

○荒川座長  後ほどまた議論もできますんですが、今ここで特に発言――また、後ほど総合討論もありますんですが、何かございますか、特に。

○福田副座長  ちょっといいですか。

○荒川座長  はい、どうぞ。

○福田副座長  先生は多分いろいろなことをご存じないと思いますので、2月の半ばぐらいですか、新木課長も含めて医学教育課の方々と東大の医学部の学生の臨床実習前の技能試験を拝見に行ってきました。

 何回か、もう私も行っておりますが、医学生の態度は非常にきちんとしております。

○榮木発表者  技術……?

○福田副座長  ええ、技能試験です。

○榮木発表者  ああ、技能試験。

○福田副座長  臨床実習開始前に技能・態度についての標準評価試験OSCEを大分長い間やっております。それを見た範囲では、学生の看護の先生方に対する態度と私たちどもに対する態度とがらっと変えているのかどうかは知りませんが、非常にきちんとしておりました。診察技能のレベルも高いですね。感心しました。実際、OSCEをどうやっているのか、ぜひ医学部の先生方とご相談いただくのがよろしいのではないかと思いますので、ぜひお願いいたします。

○榮木発表者  そうですね。

○福田副座長  私ども、ビデオもつくって学生には配付しておりますので、こういう態度をしなさいとは言わないけれども、そういうことまでやっておりますので、ぜひごらんいただいて、理解していただければと思います。

 本日は、委員の東大の先生方がご出席いただいていないので、困ったなと思っておりましたので、弁護のためとは申し上げませんけれども、お伝えしておきます。

○榮木発表者  はい、ありがとうございます。

○荒川座長  ありがとうございました。

 それでは、ちょっと次に移りたいと思いますが、坂本先生からちょっとお願いいたします。ひとつ時間内にちょっとお願いいたします。

○坂本発表者  ありがとうございます。帝京大学救命救急センターの坂本と申します。

 このたびは日本救急医学会の救急医学領域教育研修委員会の委員長ということでこの席に出させていただきました。事務局から、この今のパワーポイントのある点、「救急科を取り巻く医療の現状と課題」「救急科を担う医師の求められるもの」ということで、救急科を今後しょっていく担い手はどうであるべきか、そして、医学生が医学教育の修了時点で何を学ぶべきかということ、そして、そのための効果的な方策・取り組みについてということで求められましたので、この宿題について簡単に私見を交えてご紹介させていただきたいと思います。

 もう今、昨今、新聞報道等で「救急医療崩壊」という言葉がさんざん使われているんですけれども、崩壊かどうかは別として、疲弊していることは確かであると。

 そのうち、特に「たらい回し」などという言葉も使われるわけですけれども、基本的には受け入れ不可能な状況が多発しているということで、これは現場で医師が怠けているという問題ではなくて、救急医療体制自体の問題である、構造的な問題だと、いわゆる需要と供給のバランスが完全に狂った状態だというふうに、我々学会では判断しております。

 需要は、もちろん患者数の増加、あるいは、患者さんが最初から専門医を志向するということ、そして、高齢者が多くなるために入院が長期化してベッドがあかないというようなこと、供給側から言うと、救急病院が減少している、そして診療科が閉鎖、特に救急を引き揚げるところが多い、そこを支える勤務医が不足している、などということが問題として挙げられます。

 この救急医療の疲弊については、問題は1つだけではございませんので、医者を増やせば何とかなるかというふうな話がしばしば言われるんですけれども、これは医療全体の中の入り口が救急医療ということなので、結局、入り口だけもし整備しても、その後の急性期の病棟、あるいは療養病棟、在宅医療と、そういうところで患者さんが滞れば、結局、流れなくなって、入り口で渋滞するというふうに認識しております。

 そういうわけで、この救急医療全体の問題は、システム全体を考えていく必要があるというふうに考えておりますけれども、その中でも、やはり医者を増やすこと、特にすべての医師がちゃんとした救急医療を最低限できるようになることというのは具体的な解決策として重要ではないかと考えておりますので、それについては少し説明させていただきます。

 これは総務省消防庁の発表による「救急車による搬送人員の推移」で、経年的に増加をしているわけですけれども、その中で一番下の赤が、これがいわゆる高齢者ということで、65歳以上になっております。全体の伸びの中で着実に増えているのは高齢者であるということで、これはすなわち高齢者というのは、単位人口当たりの救急車を呼ぶ頻度がもともと高い、病気の率の高い方でありますから、日本はこれからますます高齢化社会になってくれば、この需要が増えてくるというのは、これはまあみんなが安易に救急車を呼ぶようになったということもあるかもしれませんけれども、それよりは、人口の高齢化ということのほうがはるかに因子としてはでかいのではないかと思っています。

 また、事故種別ということで、これも総務省消防庁データでございますけれども、かつて交通戦争の時代には、約4割が交通事故もしくは一般負傷ということでけがで、病気は41.3%と、少なかったわけですけれども、現在、この高齢化ということ、そして疾病が増えて、逆に事故は予防等で減っているということから、直近で見ますと、約6割が急病であると。交通事故は13%まで減っているということで、我々救急の対象が、このような高齢者の疾病に非常に需要が傾いているというようなことが挙げられてまいります。

 それに対して供給側がどうかといいますと、この青い線が今示した救急車で搬送される患者さんの1,000人ですから、約490万程度。最近、少しいろいろ救急車の適正利用のキャンペーン等で横ばいにはなっておりますけれども、約500万件に対して、いわゆる救急告知医療機関のうち診療を除く病院数は、この10年間で1割ぐらい減っているということで、確かに医療機関が減っているというようなことになってまいります。

 また、それを支える医療体制はどうであるか。これは現場で特に、例えば外勤、当直等をされている先生は肌身に感じていらっしゃると思いますけれども、これは東京都の二次医療機関の実態調査でございますけれども、多くの病院がせいぜい1人か2人の当直で何とか夜を切り盛りしていると。その1人か2人で診ている病院が全体の救急医療の半分以上を支えているというのが日本の実態であるというふうに言えます。

 そして、このような小さなところでどのぐらい患者が来るかというと、これは東京都の数なので、このまま日本全国へ普遍化できないんですけれども、大体、救急車の数が6台から15台ぐらい、そして、歩いていらっしゃる患者さんが18人から32人ということで、実は救急車だけではなく、夜間、独歩でいらっしゃる患者さん、いわゆる「コンビニ受診」というのが最近言われたりしますけれども、これらに対しての対応も、現在、必要とされているわけです。

 このような中で、我々救急医学会は、救急科というものを、一応、基礎的な領域と位置づけて、「救急科専門医」というものを養成しております。救急科専門医というのは、ここに書いていますように、これは学会のホームページで我々は国民に向けてアピールしている文書でございますけれども、病気、けがや、やけどや、中毒などの急病の方を診療科に関係なく診療し、その中で特に重症の場合には救急救命処置や集中治療もできますという、この二面性を出しております。そして、病気やけがの種類、治療の経過に応じて、適切な診療科と連携して診療に当たります。つまり、救急科だけでこの救急診療は完結するものではないと。それぞれの科のさまざまな専門家と適切なこの入り口になりますということを宣言しているわけです。

 そして、そのような病院の中だけの医療だけではなく、救急医療体制全体、これは病院前救護も含めた体制、あるいは災害医学等、こういうようなものを我々の重要な業務だと考えております。

 この救急の専門医、どのくらいいるかと申しますと、日本救急医学会の会員自体は1万強でございますけれども、救急科専門医がことしの1月時点でまだ2,850名しかございません。また、それを養成する専門医の指定施設は431施設でございます。

 この2,800人という数字をちょっと覚えていただきたいんですけれども、現場でのニーズをこの2,800という数値が満たしているかどうかと、幾つかの観点で検討させていただきます。

 まず、救急診療に必要な医師の数がどのくらい要るかと。先ほど救急搬送が490万件、全国にあると述べました。24時間体制で医師がローテーションを組むには、基本的には5人の医師がローテーションを組む必要があると。この5人のチームで24時間のローテーションをして、毎日救急車を10台ずつ診るというふうに考えると、医師数は単純計算で6,700人ぐらい医者が要ると。ですから、救急科の医師が2,800人ですべての救急車を診ろと言われても、これは到底足りない数だということがわかります。

 また、時間外に自力でいらっしゃる患者さん、これはなかなか、いわゆる単なる時間外外来なのか、ほんとうの意味での救急患者なのか、その境がなかなか難しいんですけれども、東京都の指定二次医療機関というところで調査を行っている中では、大体、救急車で来る倍ぐらいの数が、いわゆる、ただ薬をもらいに来たとかそういう形でない救急患者さんというふうに推測されています。こういう方が、ですから、夕方の5時から朝6時まで20人、1時間2人ずつぐらい来るというのを、これを1人当直で診て、5人でローテーションしようと思うと、これだけでも6,800人と。これを両方同時にやったとしても、かなりの人数が必要であることがわかります。したがって、救急科専門医ですべての救急治療を満たすことは、現時点、あるいは近い将来も困難であると。

 では、日本は、なぜこのような救急医療体制を持ってきたかというと、救急科ということにこだわらず、すべての医師が当直業務、時間外業務というdutyでこの救急患者に対応してきたのが日本の救急医療を支えてきたわけですから、このような各科の努力は、今後引き続き必要になってくるだろうと思います。救急科専門医が派遣されてきたので、もうこれで私たちは当直しなくていいと言って皆さんが当直から手を引くというのが、これが一番崩壊する、よくあるパターンです。

 救急科専門医というのは、みずから診療に当たることは当然としながらも、自分以外のほかの人が診ても一定の質が保てるように、救急診療に関する教育を担当して、その医療機関全体の質の向上に貢献するというようなことが必要ではないかというふうに考えております。

 一方、「救急医療機関に必要な医師数」という観点で見ますと、救命救急センターが全国に212施設ございます。これを1施設最低6人必要とすると、これだけで1,200人。救急告知病院が全国で4,000弱。これをもしそこに1人ずつさらに配置するということになると、5,200人の救急科専門医が必要になります。

 また、臨床研修病院では、必ず救急部門の研修が必須とされているわけですから、そこに救急科専門医が必要になるわけですけれども、この2,252施設に1人ずつを入れて、それに救命救急センター分を足しても3,500人ということで、今現在、救急科専門医というのは、この数さえ満たしていないということがわかってまいります。

 このようなことを踏まえますと、我々、すべての医師は、やはり救急科専門医でなくても、最低限の救急診療はできるべきだというふうに考えて、2003年に日本救急学会の救急医学領域教育研修委員会では、卒後臨床研修における必修の救急カリキュラムというふうなものを提案させていただき、現在、多く反映されていると思います。

 では、この中ですべてこれを卒後でなくてはいけないのか、卒前でやるべきものがあるのではないかと。特に1カ月、2カ月という長期間のクラークシップがあれば可能なものがあると思います。

 これは私見でございますけれども、この救急医学会が提言している卒後臨床研修プログラムの中で、例えばバイタルサインの把握ができる、身体的特徴を的確にとれるとか、重傷度と緊急度を判断できる、あるいはACLS、BLS等ができるというようなことは、これはやはり学生レベルで、これを完全にできるとは言いませんけれども、これらができる端緒につくということは必要ではないかと思います。

 また、緊急性の高い異常検査を指摘できる。これは、多くの医師が非常にひどいアシドーシスだったり、低酸素症があったら、もうそれに対して注意を払わないということが事故のもとになるということからも、こういうようなことも学生時代に教育をしておくべきだと考えております。

 また、実際に手技的な問題に関しましては、いわゆる救命にかかわるさまざまな処置は、これはもう医者になった途端にそのことを自分一人しかいない場合にはやらざるを得ないという責任を負わせますので、気道確保から始まり、さまざまな救命的な処置に関しては、学生時代に十分な指導のもとで、そして、後でも述べますけれども、できればシミュレーターを使ったような十分安全の確保された環境のもとで訓練をした上で実際に患者に経験をすべきだと考えております。

 また、この頻度の高い症状、あるいは症状・病態というようなものについて、いわゆる病気を学ぶのではなく、症状や病態というもの、これは最近、強調されてはおりますけれども、特に救急の現場というのは、診断名がついていない患者が入ってくるということで、このようなものを学ぶには一番いい場面でございますので、こういうようなものも卒前に予診をさせるというふうな形でできるだけ身につけさせるべきだと思います。

 これは、ちょっと見にくいですけれども、私の病院の5年生のベッドサイド・ラーニング、2週間でうちの病院はローテーションしておりますけれども、その具体的な一例でございますけれども、1週間をER、1週間を救命センターで経験し、基本的には昼だけではなく、ERに関しては一番忙しい準夜帯にシフトして、午前中を休みにして夕方から始めて準夜帯にその患者さんへのファースト・タッチを行うと。そして、あいている時間はいろいろなこの病態・症候にかかわるクルズスを入れて、そしてピンクで出しているところは、これはシミュレーターを使ったトレーニングとして二次救命処置、そして外傷初期診療を入れております。それから、丸1日、救急車同乗実習を行い、病院前救護の現場を知っていただくと、このようなものをやっていますけれども、実は全く不足しております。

 5年生で約1カ月のクリニカル・クラークシップがあるんですけれども、これを2週間経験した上で6年生でクラークシップで来るものに関しては、初期研修医とかなり近いレベルまでいろいろな処置をやらせることができますので、これをベースにした上でクラークシップをしていかなければいけないだろうと思います。

 ただ、その問題、これは3カ月、ちょっと欲張って書きましたけれども、これらを実践するためには、もちろん大学という現場で救急のリソースは絶対足りません。ですから、これは卒後臨床研修と同じように協力病院の活用ということで、多くの市中病院でこの救急に関する卒前実習が十分にできるというふうな体制を構築すべきではないかと思います。

 そして、その中でERの活用、そしてもう一つOff-the-jobトレーニングということでシミュレーター等を使って、やはり最近、この手の教育に関しては非常に教える側のスキルがアップしておりますので、これらを十分教育に取り込んでいければよろしいのではないかと考えさせていただきました。

 以上でございます。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 それでは、坂本先生のこのお話につきまして、皆さんからご質問、ご意見を賜りたいと思いますが、いかがでしょうか。お願いします。

○伴委員  名古屋大学の総合診療部の伴です。

 ありがとうございました。ほとんど先生のおっしゃることに同意するものですけれども、2つご質問したいのですけれども、1つは、救急科専門医の数が少ないとおっしゃったと思うんですが、これはどうして少ないのでしょうか。ハードルが高いのですか。それとも、専門医制度が発足して歴史がまだ浅い?

○坂本発表者  1つは、まず歴史が浅いということがまずあります。救急医学会自体が新しい領域でございますので。最近、年々受験者は増えております。ただ、結構ハードルが高いというか、筆記試験が結構厳しいということで、願書を出して、大体、最終的な合格率が60%程度ということで、毎年受け直しているという方がいらっしゃいます。

 それからもう一つ少ないことの理由、実はこの2,800人というのは、少し水増しとは言いませんけれども、救急科専門医を取った後に、結局、救急の現場に長くいられずに、専門医は持ちながらも開業されたり、あるいはほかの科に進まれたりということで、実際、その救急の現場で歩どまりとしてすべてが働いているかというと、実は調査をしてみますとそうではないという問題もございます。

 今現在、年間、大体、救急科専門医の希望者が、受験者が300人程度、合格者が200人程度というのが今の実態でございます。

○伴委員  もう一つよろしいでしょうか。2つ目は、テレビの『ER』がありますね。あれは、アメリカの医学、ちょっと誇張はありますけれども、かなり近いことをアメリカの医学生はやっていると思うんですけれども、日本の医学生があのようなレベルに近いところまでは、どうするとできるのでしょうか。ああいうのは、もう、ちょっと難しいということでしょうか。

○坂本発表者  やはり、おそらく今、6年生で国家試験を受ける。知識のレベルとしては、そのレベルを4年生でもう終わりにして、あとの2年間を今の卒後臨床研修の部分に充てるぐらいのつもりでいかないと、きっと難しいのかなと思います。

 ただ、先ほどもちょっと言いましたけれども、クリニカル・クラークシップで6年生で回ってくる者が、1カ月そこでしっかりとやりますと、基本的には初期研修を卒業してすぐ1年目の者と、もちろんそれは意欲を持って、クラークシップですから選択してくるもので、本人の意欲があるということはもちろん十分あるわけですけれども、かなりのレベルまではいくと思いますので、その辺はやっぱり、より早く知識的なことはとりあえず片づけて、やはりこのような患者さんへの態度であるとか実際の実技というようなものを学部の中に盛り込んでいけば、『ER』で見るような形に少し近づくのかなと思います。

○荒川座長  どうぞ。

○小川委員  今の伴先生のお話も、私、実はよくわかりまして、というのは、私自身がもともと脳外科医で救急の現場にいて、市中病院にもいて、それで救急医学会が立ち上がった時点からいろいろ存じ上げているのであれなんですが、いろいろな紆余曲折があって今現在があるということだと思っています。

 実は、うちも高度救命救急センターがありまして、そのほかに一次・二次も扱っているということで、年間、大体うちの附属病院で、一次・二次まで含めますと5万人の救急患者が来ます。

 問題は、高度救命救急センターに来る重症例に関しては、これはもう重症だということがわかっているので、全然問題ないと――問題ないと言えば語弊があるんですが、ちゃんと専門医が必ず出てきて、どこかから必ず、脳外科でも、整形でも、外科でも出てきて処置がされるので、高度救命救急センターの患者さんに関してはあまり問題はないんですね。

 問題なのは、どこが問題かというと、一次・二次救急なんですよ。一次・二次救急で軽い頭痛で大したことないなと思っている患者さんが、実はクモ膜下出血でそのまま帰せばとんでもないことになるとか、その辺のあれにつきましては、先生のスライドの、多分、8ページの上の卒後研修プログラムの2、3、身体所見が迅速かつ的確にとれて、重傷度と緊急度が判断できるというところに行くのだろうと思うんですが、私が常日ごろ申し上げているので非常に一番重要なのは、臨床判断であると。臨床判断して、この患者さんをきょうこのまま帰してもいいのか、入院させなければいけないのか、専門医に診せなければいけない疾患なのかという臨床判断ができるか、できないか、ここの教育が最も重要だと思うんですけれども、この辺に関しては、先生はどういうふうにすればよろしいかとお思いでしょうか。

○坂本発表者  今の臨床判断、あるいは、この患者さんを帰すか入院させるか、いわゆる我々は「ディスポジション」という言い方をしますけれども、これが非常にERの医師の業務としては非常に重要なものですし、ERで教育できるものとしても非常に重要です。

 ただ、先ほど歴史的な話もちょっとありましたけれども、我が国ではそもそも救急科の医師ではなくて、内科、外科、各科の医師が、専門ではないけれども、とりあえず当直というdutyの中でそういうようなことをみんな共有してやってきたわけですね。

 そこで、救急医学会がこの救急科専門医をつくり始めた最初のころは、実はそのようなERで初療に当たる医師を多く養成するために我々はつくったというのでは決してないんですね。昭和50年代、先生ご存じのように交通事故等で多発外傷であるとか、さまざまな心疾患、脳卒中等の治療が十分できないということで、その医療の中で特に重症救急の担い手がいないということで、そのすき間を埋めるために日本救急医学会というのが学問体系をつくり、救急科専門医を養成してまいりました。

 そういう中で、昨今、この救急の現場でのERでの必要性というものが多く議論されるようになって、救急医学会の中で実はこの10年、大きな議論がずっとされてまいりました。結局、だれかがやらなければいけない。我々がやらなければ、では、総合診療の先生方がやってくれるのか、プライマリー・ケアがやってくれるのか、あるいは内科学会がやってくれるのかというと、どうもやはり我々救急医というものの社会的な責務、あるいは救急医学会の公益性ということを考えると、今まではそこがあまり軸足を置いてこなかったけれども、やはりそこに軸足を置くべきだろうと。そして、さらに疾患がこのような高齢者の、特に内因性の疾患は、患者自身が自分が重症か軽症かわからないままに病院に来るということが非常に多いので、軽いつもりで来て実は重いというものが非常に多いと。

 そうすると、我々はその重症を少なくとも診るということは、軽症の中の重症を全部少なくとも社会の中から拾い上げるということも救急医学会としては、それは業務だろうということで、この5年間、大きくそのERにおける治療の標準化であるとか、あるいはERでの教育とか、あるいは救急医学会自体がそのER型の救急科専門医というものを養成するということで、そちらにかなり重点を置き始めております。まだまだ数が足りなくて解決には結びついていないんですけれども、方向性はそういう方向になっております。

○小川委員  もう1点、いいですか。

○荒川座長  はい。

○小川委員  先生おっしゃるとおり、ERの方が診れば、それは臨床判断ができて、きちっとそこまでいくのですが、問題は、ですから、うちも高度救命救急センターがあって、そこには50名ぐらいのERが働いているわけで、ただ、そこまでいかないんですよね。ですから、5万人のうちの数千人ぐらいしか、結局、ERが診ていない。ですから、あと4万数千名の救急の患者さんは一次救急で、ERの目に触れないで帰っていく。そのときの臨床判断が極めて問題で、その辺の教育をどうすればいいかということなんですが。

○坂本発表者  先ほど言ったように、救急医学会の今の専門医の数や今の医師の数から見て、押しなべて日本の救急医療の初療を全部ERに集約してERに固めるというようなことは、これはできるようなことではございません。先生おっしゃるように、特に岩手であるとか、そういう人口が比較的密度が低いところに行けば、通常の一次・二次できちっとやらなければ、これは絶対無理なわけですね。

 したがって、我々は今回、卒前教育ということでなぜここを一生懸命強調しているかというと、やはりそれはすべて卒前、卒後、つまり通常医師になるのであれば、これはやはりERの専門医ほどではなくてもいいんですけれども、きちっとしたそういうふうな臨床判断、先生おっしゃる臨床判断ができるような自分の専門分野でなくても、危険な頭痛であるとか、危険な胸痛であるとか、あるいは危ない呼吸困難なんていうものがきちっと見つけられるようにすべきだろうと。それを教育するのは、やはり我々救急医学会としてはその責任の一端を担わなければいけないだろうというふうに考えて現在活動しております。

○荒川座長  学生が卒業して、今、臨床研修でなかなか大学に残らないと。いろいろな理由が議論されておりますが、直接聞く理由の1つには、やっぱり救急というものを学生時代に見ていて、何となく漠然とした不満を持っていると。大学病院に対して。このことは、やっぱり全国的に見るといかがですか。

○坂本発表者  大学病院の救急は、いろいろな意味で不満があると思います。我々、例えば自分の大学、特に私立大学を中心としていわゆる救命救急センターを中心とするところについて言えば、重症の勉強はもちろんできるけれども、いわゆる、そういうコモンディジーズの勉強ができないと。あるいは国立大学、公立大学で言えば、そもそもが高度先進医療を目指していて救急患者さんはお荷物的なところで、そのお荷物を見る係だから、当然、重視されないというふうなことで、そういうふうな姿をもちろん学生時代に見ていますので、それがいわゆる市中病院、つまり地域病院、地域を支える病院というところは、そこはその地域の住民のために何かをするということになると、その中で救急医療は絶対大事な柱になりますから、職員もやりがいを持ってやっていますし、住民もそれを頼っていると。そして、救急部だけが独立してその救急医療をやるのではなくて、病院全体がおそらく救急医療をやる気がいっぱいあって、その最前線で救急医が頑張っていると。そんなところを見せつけられれば、そちらに魅力を感じるのは当然であろうと思いますし、私自身は、初期研修をそういうようなところできちっと質の高いそういう市中病院で研修するということは別に否定はしてございません。

○荒川座長  平出先生は後ほどまたお話しになるのですが、今の時点で何か補足することはございませんか。

○平出委員  その点なんですけれども、私も坂本委員会のメンバーで勉強させていただいたこともあるんですが、今のご指摘は非常に重要だと思うんですね。

 先日、ちょっとシンガポールでその大学医学部大学病院のマネジメントに関する国際学会というのがあって、行ってきたんです。日本で1人だけだったんです。

 大学病院というのは、大体、三次救急医療を担っているというのが世界的な傾向で、それは非常に経済的な圧迫になっていると。それを何とかしないといけないということが話題になっていました。

 実は、その議論の中では、コモンディジーズを診るのも大事だけれども、やはり学生に対して最重症の患者のケアを知ってもらうことは医学教育においてエッセンシャルであるという認識なんですね。ですので、今までコモンディジーズを診ないといけないというのは我が国では最近非常に言われてきたけれども、一方、やはり重症患者もちゃんとケアができるようにならないといけないというのが大事なことだと思うんですね。そして、大学のエコノミーといいますか、附属病院の経済をどうやっていくのかというところまで自立的に考えていかないといけない時代になったのではないかなというのは感じています。

○荒川座長  その両方が必要だということですよね。はい。わかりました。

 ちょっと、では、順番にいきましょう。では、先生から。

○福田副座長  今の点ですが、これは前回の協力者会議でも議論になりました。2点ありまして、医療安全の観点から、学生教育の中で危険なものとそうでないものを見分ける能力は初めから養わなければいけない。それに関しては、臨床実習の中に救急が位置づけられていますが、もっと早くにやらなければいけないだろうという点です。次に全体にわたって救急に関することをみっちり学習する体系をつくらなければいけないことです。救急の先生方が努力されているのをずっと見てきましたけれども、やっぱり新しく入った、「新参」と言ってはおかしいんですけれども、古い診療科が結局は十分な支援体制をつくらなかったということと、それから基本的に大学病院がそういうことをしなくてもいいのではないかという発想があったのではないかと思われます。特に国立大学について、結局、救急部を独立させたところは少なかったですよね。やはりICU主体にやってきているんですよ。救急はやっていられないと古い時代の先生方は多くおっしゃっていた。

 ところが、阪大は初めに特殊救急部をつくられて、これは非常に高度なのをやっておられました。それから後は幾つかの大学で、三次救急のセンターをつくっています。私立は確実に高度救命救急センターを社会の需要にこたえてやっている。

 そうなってくると、国立大学は厳しい予算の中ですが、救急医学の診療・教育をどうしていくかというのは、文科省にお願いする必要があります。そうしないと人材は育っていかないのではないかと思います。私立だけが頼りになっちゃってしまいます。先生は多分、そういうところをお感じになっているんじゃないんですか。

○荒川座長  ええ、私は、既存の枠組みを壊す以外にないと思っていますから。それしかないと思いますね。やっぱり、今のままでは、なかなか行かないと思います。

○福田副座長  ただ、小川先生がおっしゃったように、やっぱり私立は全然違うでしょう。

○荒川座長  では、先生、一言おっしゃってください。

○小川委員  いや、私立大学と国立大学の違いというところをちょっとお話しさせていただきたいんですけれども、私立大学は、大体の大学は救命救急センターを持ってやっているので、これは問題ないんですけれども、問題は、ですから地方の、あの阪大のような特別なところは別として、地方の国立大学が、結局、救急は地方の医療であるから、地方自治体が責任を持つべきであるということで国立大学に予算をつけてこなかったです。ですから、大体、ほとんどの国立大学は、救急に関しては教授1、助手1、看護婦2、ベッドなし、大体、こんなものですよね。ですから、救急センターの体をなしていない。

 ですから要するに、これは新木課長がいて申しわけないのですが、要するに国立大学においては、救急医療というのは地方自治体がやるべき問題だから、地方自治体が適当にやりなさいと。国立大学は大学病院としては教育だけをすればいいと。救急の教育だけをすればいい。したがって、病室も持たなければ、外来も持たなければ、当然のことながら教授1、助手1、看護婦2で何ができるわけでもございませんし、当然、教育ぐらいしかできていなかったと。ですから、これをどうにか先生がおっしゃるように、構造を変えないとどうしようもないのではないかと思うんです。

○荒川座長  後ほどまた議論しましょう。

 それでは、ちょっと次の小島先生から、まずお願いしましょうか。大久保先生も一緒にコメントされるということでお願いします。

○小島発表者  精神科についてこういう発表の機会を与えていただきまして、大変感謝いたしております。

 精神科をめぐる問題としましては幾つかございますが、例えば総合病院の精神科医が非常に不足しており、病棟が閉鎖に追い込まれているとか、それは医療費の問題や、さまざまな問題を反映しているのですが、そういうこととか、児童精神科医が不足しているとか、あるいは、緩和ケアチームの精神科医が不足しているなど、さまざまな問題がございますが、きょうは少し焦点を絞ってお話しさせていただきたいと思います。

 一つは、精神疾患についての考え方、位置づけといいますか、それが非常に重要であり、それについてきちんと教える必要があるのではないかということ、それからもう一つは、精神障害者に対する偏見の問題、全人的医療の態度とも関連してきますが、それをきちんと教える必要があるというようなことに焦点を絞ってお話しさせていただきたいと思います。

 この病気は、想像以上に多いということが言えます。1カ月有病率が15.4%、1年の有病率が26.2%で、約4人に1人、それから生涯罹患率は46.4%で、約2人に1人ということでございます。そして、24歳までに75%が罹患しているということは、若い人たちが非常にこの精神疾患に罹患しているということで、これは非常に重要な問題を示しております。

 生活に障害を与えている程度と持続について評価した指標にYLDというものがありますが、それによりますと、アメリカの全国民の疾患による障害について調べたところ、10疾患のうちに7つが精神疾患で占められていました。約43%が精神疾患であるということは、非常に重要な所見ではないかと思います。

 これは、イギリスのデータですが、これはちょっと資料がお手元にないのですが、申しわけありませんけれども、縦軸が今の生活障害に与える影響、YLDということで、横軸が年齢です。そうしますと、この赤で示したものが心臓、循環器の疾患です。それから、青ががんですね。それから、この橙色が精神疾患でございます。

 そうしますと、10歳台から40歳、50歳ぐらいまでの間では、精神疾患で占める割合の大きいことがわかります。若年労働人口の健康を阻害する最大要因が精神疾患に起因するという、これも大きな問題だと思います。こういうふうに見ますと、精神疾患は、がん、心臓・血管疾患と並ぶ三大疾患という位置づけを与えることができると思われます。

 次には、これは自殺の問題ですが、自殺死亡率が欧米と比べて、日本はロシアの次に位置づけられていて、非常に死亡率が高いということがございます。その原因を見ますと、精神疾患が75%を占めております。そして、その中でうつ病、それから統合失調症とアルコール・薬物依存、こういう精神疾患がその自殺の背景にあるということでございます。

 心の病気は、生活に支障を与える最大の原因で、しかも、自殺の背景でもあるという、こういうことをきちんと学生に認識させる必要があると思います。

 それから、次に身体疾患を持つ患者に精神疾患が非常に高頻度に見られるということ、これも重要でございます。

 これは、一般科の外科や内科の外来や病棟の患者さんについて精神科医が調べて診断をした結果なのですが、外来患者の精神障害の有病率が10~30%、うつ病の有病率が5~10%という高い値です。それから、入院患者の精神障害の合併率は、さらに上がりまして30~40%、うつ病が20~30%という割合になります。

 こういうように、身体疾患の患者に精神疾患の合併率が非常に高いという、体の病気になると、非常に不安が起きたり、いろいろな心理的な影響が生じて、そのために精神疾患が起こりやすいということでございます。

 次に、その精神障害者に対する偏見の問題、これが非常に重要なので、これについてお話しいたします。

 身体、知的、精神、これは「三障害」と言われますが、このうち、身体・知的障害については見える、わかるという、そういう障害者の様子がわかるわけで、違和感はあるけれども、不安感はあまり起きにくい。それで、これは小学生、中学生のころはいじめの対象になったりしますが、高学年になると、そういうこともなくなってくるわけです。

 しかし、精神障害の場合には、よくわからない、見えないという点があって、違和感が生じ、それから不安感、恐怖感が生じてきます。こういうことで、障害者になるべく近づかない、離れようという、そういうことから排除する方向にどうしてもいくということがございます。

 こういう偏見に対して、それを除去するにはどうしたらいいかということ、それが卒前教育の中で重要です。卒後でも重要なのですが、1つの方法として、例えば面接の仕方を工夫します。患者に接する場合に傾聴して共感的な態度が必要なのですが、それをロールプレイで学びます。学生が医師・患者になって役割を演じます。そして学生同士評価し合う、そういう方法を使います。そして、その後で実際に患者を受け持って、そして体験することによって、患者がどんな世界にいるのか、どんな障害に対してどのように立ち向かっていこうとするのかということがわかると、心の変化が起きます。その結果をグループで話し合う、そして体験を共有化する、こういう方法で偏見を軽くすることができるわけです。

 実際に学生がどんなふうに心理的に変化が起きるかといいますと、うつ病患者や統合失調症の患者さんの身近に寄り添って彼らの話を傾聴し、彼らの立場に身を置いて、そういう苦しみを感じ取ろうとするわけですが、そうすると、医学生の中に同情と共感が起きて、さらに心の病に立ち向かおうとする患者に対するある種の尊敬の念が起きてきます。こういうことを通して、見方ががらっと変わってくるということがございます。

 これをまとめますと、まず最初に精神疾患の概念をきちんと教えることがまず第一に必要ですが、偏見についての理解をさせるということと、今申しましたように患者・医師関係をロールプレイで学んで、実際に患者を診ることによって、その心の変化が起きる、そういうことを通して偏見が除かれる、そういうことが全人的態度の獲得・習得等とつながってくるということでございます。

 これは、イギリスの例ですけれども、イギリスでは非常に精神障害に対して積極的に政府として対応しているわけですけれども、その中でやはり、偏見が非常に問題になって、それに対して熱心にに対応します。その中で雇用者、若者、特に医療従事者の精神障害に対する偏見が最も大きいということが問題になって、精神保健啓発や研修教育が盛んに行われているということでございます。

 最後に医学教育モデルのコア・カリキュラムについて少し触れさせていただきます。

 こういうことで精神科的には心身両面からの人間理解ということを重視しているわけで、最初の段階から身体と同時に心の面から患者を診ていくように教えることが必要です。それから、この心を臓器の1つのように扱わないということも大切です。そして、精神科を早い段階で教える。ということは、学生のメンタルヘルスの問題が非常に問題になっていますので、早いうちから精神科を教えることが大事かと思います。

 そして、このコア・カリキュラムのガイドラインの中にあります病因と病態の中に「心理社会的病因」ということをぜひ入れていただきたい。こういう項目がありませんので、お願いしたいということです。それから、診療の基本のところで「抑うつと不安」の項目も必要だと思います。

 そして、これは具体的な例ですけれども、実際に教える場合に、赤字で書きました身体症候、こういう症状が出てくる場合には、精神科的な側面としてはパニック障害などの場合があるわけで、そういうものもあわせて一緒に教えていく。循環器の先生と精神科医が一緒に学生を教えるという、そういうふうな統合的な教え方があるのではないかと思います。

 卒前教育と卒後教育を一貫して指導する、教えることが重要です。卒前教育では、心身両面からの人間理解ということ、それから精神疾患の概念、診断、治療を教え、全人的な態度の獲得と偏見の除去が重要ですし、卒後になりますと、実際に患者を受け持って主治医としての全人的態度の獲得や偏見の再学習と実体験が必要です。それから精神科プライマリー・ケア、リエゾン精神医学を中心としたプライマリー・ケアを学ぶことが必要です。このようにして卒前、卒後教育を一貫して教えることが重要です。

 まとめますと、精神疾患の位置づけを正しく伝えるということ、それから、精神疾患に対する偏見の除去と全人的医療の態度を獲得する、卒前・卒後の一貫した教育、そういうことが言えるかと思います。

 どうもありがとうございました。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 大久保先生、コメントございましたら、ちょっと。

○大久保発表者  私自身、コア・カリの作成と、その後のクリニカル・クラークシップの部会で一応、委員をさせてもらったので、今さら、それでそのときなぜ言わなかったというような立場でもあったのですが、小島先生と相談して出させていただきました。やはりコア・カリをつくるとき、あのときは、精神科が必修になるかどうかというような議論から始まって、むしろ、当時は精神科を必修にしてもらえるのかというような状況でしたが、医学教育の中で全人的な医療をするということで、そういう医学教育の専門家の先生方の精神科をぜひ入れるべきだという意見もあり、精神科は必修に入ってきたのだと思います。

 そういう点は十分評価できます。片や卒後研修でも必修化になったわけですけれども、実際始まってみると、ここ数年の医学教育改革の中で一番意味があったのは、卒後研修で精神科が必修になったことだと思います。1カ月間の間でも実際に精神科の患者さんに接すると、精神障害の方にですね、それは身体疾患で精神障害のある方もそうですけれども、その経験のインパクトが非常に大きいのだと思います。むしろ卒前のほうは、福田先生をはじめコア・カリから積み上げてCBTをつくって、それでクリニカル・クラークシップをよくしようとやってこられたんですけれども、そのように理念はよくて戦略もいいんだけれども、実際はクリニカル・クラークシップがどうかと考えると、非常にやっぱり残念ながら成果はまだ上がっていないのではないかと思います。

 前回の会議での意見を見せていただきましたが、CBTも、すごく成果があって、非常に立派なシステムだとは思いますけれども、やはりCBTが終わってクリニカル・クラークシップをやらせると、どうしても学生はお客さんで、なかなか入り込めないし、やはり6年のときのペーパー試験、もうあれがある限り、やっぱり実の入ったクリニカル・クラークシップはできない面があるかと思います。だから、前回の議論でも出たようですけれども、もしもほんとうにやるのだったら、そこまで考えた改革をやっていただかないと、到底無理ではないかと思います。

 振り返ってみると、最初、コア・カリをつくった先生方の話を聞いていると、卒後の研修は1年ぐらいだろうと。そうすると、1年間を卒前の中でしっかりしたクリニカル・クラークシップをやって、そして2年にするというような意気込みでやっておられたと思うんですけれども、実際のところ、やっぱり何らかの壁に、それは厚労省と文科省の壁なのかもしれないですけれども、なかなか進展していないのではないかとも感じます。

 そういったことで、やはり精神科とすると、やはり医師になるすべての人に経験していただきたいということで、卒後の、今回は残念ながら選択必修に卒後の研修はなったんですけれども、そこはぜひ守りたいと主張しているところです。それで、卒前に関しては、それでも実際にチーム医療の中でというのはなかなか難しくても、実際に患者さんに接していただくことはできるので、予診とり、初診の外来ベースでの診察は、かなり各大学、できているのではないかと思います。あともう一つ、コア・カリのプログラムをもう一度、今回、見直してみて、小島先生が指摘されたように、精神科が臓器の中の1つのように扱われている、――精神科は確かにもう一度見直してみると、各論の一番最後に入っているんですね――というような点を指摘できると思います。それが諸外国、先進国のほうでは、私は最近、厚労省の班研究でオーストラリア、イギリスの精神保健に関する取り組みを見ましたが、精神・心の問題をちゃんとしようという運動がかなりしっかりされていると思いました。それはどうしてかというと、高齢化社会でピラミッド人口になったときに、若い人がそのピラミッドを支えます。その若い人の一番の障害の原因は心の問題、メンタルヘルスであるというデータがあるのです。そこをしっかりしなければいけないということで、イギリスなどは心理などもそうですけれども、精神科医を150%増やすとか、かなり力を入れていて、医学教育だけではないんですけれども、一般教育の中にメンタルヘルスの教育を必ず入れるという動きがあるようです。

 日本では、これは別のレベルで運動をしようと考えているところですけれども、例えば中学・高校のレベルでどういう心の病気があるか、統合失調症、うつ病、不安障害とか、そういうものをもう早い時期から教える必要があるのではないかということが言われています。このような取り組みが進んでいるオーストラリアでは15歳の時点で主要な精神疾患をすべて教えるということを、普通の教育の中で入れています。

 日本は遅れていて、医学教育でも専門科目になったところで初めて精神障害の話をするということだと思います。1つの取り組みですけれども、我々のところでは1年生に入ったすぐの段階で、ほんとうに彼らがよくかかるような病気ですね、うつ病、それから摂食障害とか、そういったものをスモール・グループ・ラーニングで勉強させる試みを始めました。そのプログラムは、ほとんどオーストラリアで中学生が使っているようなプログラムで教えるというようなことをやっています。

 だから、精神科はこの新しい教育改革の中で卒前、卒後で必修化されたわけですけれども、やはりもっと精神医学、メンタルヘルス教育を取り入れてほしいと訴えていきたいということでございます。

○荒川座長  わかりました。

 それでは、ただいまの小島先生、大久保先生のお話にご質問がございましたら、お願いします。いかがでしょうか。

 どうぞ、吉田先生。

○吉田委員  2点ございまして、九州大学の吉田と申します。

 まず、1点目は、ふだん学生と接していて、彼らの状況と非常によく一致するなと思いながらお話を聞いていたのですが、学生の中には、やはり精神科の患者さんは怖がるというか、不安に思うと言う学生がやっぱり少なからずいて、その一方では、もう全く何のてらいもなくというか、もう中にどんどん入っていける学生もいるわけですね。両者ははっきりと区別できるぐらいかなと思っています。

 先ほど、「偏見」とお書きになっていらっしゃったのですが、そういった不安とか接することに対する恐れというものについて、何か「知的に理解」というふうに書いてあったのですが、それは具体的にはどのようなことをすると怖がっている学生が怖がらずに患者さんの中に入っていけるようになるものなんでしょうか。

○小島発表者  まず、不安があるというのは、よくわからないということが非常に大きいんですね。ですから、どういう病気、精神疾患があって、彼がどんなふうなことで苦しんでいるのかということを詳しく教えるということと、それからもう一つは、その偏見が起きている過程といいますか、きょうは簡単に触れましたけれども、ああいうことをきちんと教えるということ、そして、その上で実際に患者に接してみると、今までとは大分違うということがわかって、そこでかなり心の変化が起きてきますね。それは非常に劇的です。

○吉田委員  ありがとうございます。

 自分自身も学生のときは、非常に精神科の病棟に行くのが怖かったんですけれども、外科医になった後はそうも言っていられなくて、精神科の患者さんとうまく診療ができるようになっていましたので、どこかでそういう変化が起こるのだろうとは思うんですけれども、もう1点は――ちょっと済みません、忘れました。(笑)

○荒川座長  では、後で。

○吉田委員  はい。

○荒川座長  ほかにございますか。

○大久保発表者  では、一つ。

 おそらくずっと精神科、精神医学は統合失調症を中心にしてきました。ただ、そうではなくて、うつ病とか不安の問題ですね、ストレスに関連して、そういうニーズが、今後さらに強くなっていくのだと思います。今、私の病院は1,000床ぐらいですけれども、精神科の病床は30床です。大体、60%以上はうつ病など統合失調症以外ですし、あと重要なのは、1,000人の病床の中で大体60から80人ぐらい、精神症状を合併している方がいらっしゃるということです。多くはうつ病、もしくはせん妄などです。だから、身体疾患の方がみんなそれぞれやはりそういったストレスに関連してうつになるなど精神症状を呈するわけです。統計でも自殺の主要な原因も「病気の苦」ということです。そういったことで、身体疾患で医療を受けている患者さんが、しばしば精神症状を呈するということを経験すると、当然、スティグマはなくなってくると思います。みんなが精神症状を呈することがあるという意味でです。

○吉田委員  思い出しました。先生、よろしいでしょうか。

○荒川座長  はい、では。

○吉田委員  先ほど精神科の配属を必修にするというお話なんですが、クリニカル・クラークシップで学生が卒前に例えば1カ月なり2カ月なり行った学生は、卒後研修では行かなくてもよいというようなことは考えられますか。

○小島発表者  実際に卒前でやった場合と、卒後に自分が担当医になっていろいろ処方まである程度できたり、そういう中で患者に接するという場合と、全然違います。責任の持ち方とかそういうことからも違ってきます。

 ですから、卒前の場合は、基本的なことを学んでおいて、卒後で仕上げといいますか、そういう形になるのではないかと私たちは思っています。

○荒川座長  では、伴先生、お願いします。

○伴委員  名古屋大学の総合診療部の伴と申します。

 今、小島先生からも大久保先生からも出ておりましたけれども、イギリスは、ジェネラル・プラクティショナーですね。GPと。私は、昔は「一般医」と訳していたんですが、「総合診療医」というふうに訳しているんですけれども、その人たちがかなりそういうふうなメンタルな問題の教育にかかわられていて、それが不安とか、そういうふうに心身二分、2つに分けるみたいなものを大変そういうふうなものを克服するのに役立っているというふうなことがありますし、それから、先ほど例えばパニック障害を循環器の医者と精神科の医者が教えるというのも1つの方法ですけれども、そうでなくて普通の一般心理日常診療をやっている医師がそういうふうな判別の問題の1つに普通な形で挙げていって、そして、それに対する配慮もするというふうなことが、やはり心身両面を診るということをほんとうに体現する。別々に教えるというのは、方法論的にちょっと矛盾しているというふうにも思うんですよね。

 ですから、ぜひ総合診療という役割は、もちろん精神科領域だけではありませんけれども、精神科領域の教育では非常に大きな役割を持っているというふうに思います。

○荒川座長  ありがとうございます。

 では、 先生、お願いします。

○福田副座長  コア・カリキュラムと共用試験についてコメントいただき、また、先生にはご協力いただいており、ほんとうにありがとうございました。

 これをつくったときのことを思い出しているんですが、やはり先ほど伴先生が言われたように総合診療医、あるいは医師一般として、精神的な障害については、全員が学ぶべきだという基本姿勢があったと思います。

 いろいろコメントいただきましたけれども、これは参考にさせていただきます。それから、臨床実習として挙げた中に、内科系としてありますが、精神科は入っております。ですから、卒前の臨床実習のコア部分としては位置づけられている、これは間違いありません。

 それからもう一つは、やっぱり先ほど小島先生からスライドでご指摘があったように、これはみんなよく知っていることですが、30歳台の死因の1位が、精神疾患が背景にある自殺、これは間違いないですね。これをきちんと学習しなければいけないというのは当然で、それが臨床実習に入っていてよろしいと思っておりますし、いただきましたご意見を参考に改善に向けて使わせていただきたい。

 それから、先ほどの先生の19ページのパニック障害の件で、これは具体例が出ていますが、実際にはこれは臨床症状の中にこういうものも選択肢の中に入れた問題をつくっていると思います。奈良先生、そうですよね、入っていますよね。

○奈良委員  入っています。

○福田副座長  ごらんになっていただいて、そういうところが総合的には入れているつもりですけれども、逆に先生に入れていただいて、いい問題をつくっていただければありがたい。

○荒川座長  それでは、ちょっと時間も押してきましたですけれども、きょう実は、自由討論もありますが、その中に資料提供したいというので、平出先生、石川先生から資料を提供いただいているんですね。これをちょっとまず簡単にお話しいただいて、それからしましょうか。では、簡潔にひとつお願いします。

○平出委員  資料、参考1というのは、私、平出から出させていただいた資料です。ごく簡単にご説明させていただきます。

 これは、全国国立大学病院・公立大学病院の救急部の協議会でとったアンケートです。京都大学の小池薫教授から、これをせっかくとったので、そういう医学教育カリキュラム検討会というものがあれば、ぜひ生かしてほしいということです。参考としてお考えいただければありがたいと思います。53大学、国立大学病院と公立大学の病院に対しアンケートをとりまして、43大学から回答をいただいたということで、この協議会が自発的にやってみた調査です。

 チュートリアルというのは、小グループ・ディスカッションの教育です。7割ぐらいが実施しているということですね。

 次の系統講義、それから次のスライドの臨床実習、これはもうもちろん全大学がやっているという状況です。

 そして、選択実習ということで、救急部で選択実習をとりたいという学生を迎え入れる実習もやっていると。9割の大学ですね、実施しているのは。

 次から特徴がある結果だと思うんですが、「講座名/部門名」、実にばらばらですね。

 それから、次のスライド、系統講義、やっていると言うけれども、実際にコマ数はばらばらなんです。もう非常に貧弱な大学もあるわけですね。

 それから、講義内容については次の次のスライドですけれども、こういった救急特異的な、ほかの授業では扱わないようなものが多いわけです。外傷初療が一番多いわけですけれども、結構、多様性がある。

 そして、次のスライドです。救急車同乗だとか、トリアージ訓練に参加したりとか、いろいろ工夫はしているんだけれども、先ほどもありましたけれども、人員が少ないところもあって、苦慮しているという実状です。

 この臨床実習の対象ですが、5年生を対象とする大学が一番多いですけれども、多様であるという結果です。

 そして、ページをめくって、臨床実習の期間ですね、1日とか、2日とか、3日というところもあるんですね。2週間、1週間の大学が数の上では多いですけれども、なかなか学生さんを受け入れるのは大変で、苦慮している様子がわかると思います。

 そして、その中でも、いろいろな実習を取り入れて工夫している。それは次のスライドですね。で、エレクティヴの実施期間も、このような形です。

 そして、最近は、シミュレーション教育は救急が一番取り入れていると思うんですけれども、実はこれについては結構頑張って実施しているのではないかと思います。

 フリーコメントのところに「エマルゴ」とかありますが、これは災害のシミュレーション・パッケージなんですね。そういったようなものも取り入れて、非常に工夫してはいる。けれども、なかなか苦慮している。

 ずっとフリーコメントのほうはざっと目を通していただいたら結構です。フリーコメント4ですね、非常に手いっぱいである。スタッフの数に余裕がなく、本来はもう少し教育に力を入れたいが、それができない。私の知り合いが某地方の救急部の教授で行ったんですけれども、1人だけしかいないということで非常に悲しいと、こう言われたこともあります。そういう大学もある。救急部は全国立大学では設置されているんですけれども、実態は結構多様だというのは、この結果からわかるのではないかと思います。以上です。

○荒川座長  ありがとうございました。

 石川先生、ちょっとお願いします。

○石川委員  参考資料2をご参照ください。これは平成18年度の厚生労働省科学研究費補助金による「卒前教育から生涯教育を通じた医師教育の在り方に関する研究」の一部でございます。

 これは、臨床研修の到達目標の中で卒前に前倒しができると思われる項目に関して、指導医と2年間の研修を修了した3年目の研修医に対して行ったアンケート調査結果です。調査対象の病院は大学病院13と臨床研修病院12の計25病院で、全数調査ではございませんので、一つの傾向として、ご参考になればと思います。

 結果のグラフは、44ページからで、到達目標のAとCの一部に関して調査しております。

 Aの(1)「医療面接」の中には、卒前に前倒し実施が可能な項目があると約3割から4割の研修医や指導医の方々が答えておられます。(2)「基本的な身体診察法」に関しまして、

1)「全身の観察」、2)「頭頚部の診察」、3)「胸部の診察」などは、卒前への前倒し実施に関して、約2割から3割ぐらいの指導医や研修医は可能ではないかということでした。

 5)「泌尿・生殖器の診察」のように、患者の羞恥心に配慮が必要な診察に関しては、前倒し実施に消極的な傾向がありました。

 8)「小児の診察」9)「精神面の診察ができ、記載できる」における卒前への前倒し実施に関しては、ほかの診察よりも難しいと考えられている傾向でした。

 (3)「基本的な臨床検査」に関しましては、1)「一般尿検査」、(2)「便検査」、(3)「血算・白血球分画」、4)「血液型判定」などでは、大体3割から5割程度を研修医や指導医は卒前への前倒し実施が可能とのではないかということでした。。

「基本的な臨床検査」の中でも、11)「髄液検査」では研修医、指導医とも前倒し可能との意見は1割程度、13)「内視鏡検査」では研修医、指導医とも前倒し可能との意見は5%以下であり、患者さんに侵襲を与える可能性のある検査に関しては、研修医、指導医とも、卒前への前倒し実施は消極的な傾向にありました。

 (4)「基本的手技」に関しましては、1)「人工呼吸」や3)「心マッサージ」、4)「圧迫止血法」などは、約2割から3割の研修医や指導医が卒前への前倒し実施が可能との意見でしたが、6)「中心静脈確保」に関しましては、患者さんへの侵襲を考慮して、指導医や研修医とも卒前の前倒し実施は困難という意見でした。

 また、8)「穿刺法(腰椎)」、9)「穿刺法(胸腔、腹腔)」などは、卒前への前倒し実施の可能性に関しましては、指導医は0%でしたし、12)「胃管の挿入」、13)「局所麻酔法」なども研修医、指導医とも、卒前への前倒し実施に関しましては、消極的な傾向にありました。

 C特定の医療現場の経験(1)救急医療に関しましては、先ほど坂本先生のスライドにもございましたが、1)「バイタルサインの把握」では卒前への前倒し実施が可能ではないかということでした。そのほかの4)「二次救命処置(ACLS)」や5)「頻度の高い救急疾患の初期治療」などに関しましては、卒後しっかりと研修すべきという意見でした。

 51ページから53ページまでのグラフは、基本的な臨床検査」の一部に関しまして、3年目の研修医に、所属する診療科別での違いの有無を見た結果です。外科や麻酔・救急に所属している研修医では、11)「髄液検査」や13)「内視鏡検査」に関しましては、内科やその他の科に行った研修医よりも、卒前への前倒し導入に関して、やや積極的な傾向にありました。

 以上でございます。

○荒川座長  ありがとうございました。

 それでは、残された時間できょうのお話を含めて全体でひとつ皆さんからご意見やご質問をいただくと。

 では、どうぞお願いします。

○辻本委員  患者の立場ということでお尋ねしたいと思います。

 3人の方、それぞれにお答え願いたいのですが、患者にとっては、やっぱり学生さんに直接診られるということは、どうしたって不安が高いと思います。その現場で、そういう患者さんの協力・理解を得るために何が必要かと、看護の場面、救急の場面、精神の場面、それぞれで教えていただきたいと思います。

○荒川座長  では、どなたでも結構ですが、お願いします。

○榮木発表者  そうですね、やっぱり協力していただくという姿勢をきちんと持つということですよね。ですから、やっぱりそのためにきちんと礼儀をわきまえるとか、患者さんを尊重するとかという態度をきちんと身につけながら患者さんに対応するということなんだろうと思います。

○坂本発表者  歩いて来られるような患者さんに関して言えば、全く、今、同じようにきちっとした対応ができるということは大事ですけれども、もう一つやはり救急で、救急車で来てもう待ったなしで診るというようなことを考えると、これはやはり病院のポリシーとして「当院では教育病院でありますので、学生が初療で当たります。ただ、必ず指導医がいて」云々というような形で、これはもう明らかな、目につくところに掲示をする、あるいはパンフレットに入れるというようなことで準備をするというようなことも必要ではないかと思います。

○小島発表者  大学病院などの場合には、そういう教育病院であるということを表示してありますが、実際には、それぞれの個々の患者についてはやはり主治医がきちんと説明して、学生の担当になってもいいかどうかということを聞いてから、担当にするということになると思います。

○荒川座長  よろしいでしょうか。

○大久保発表者  ついでに。

○荒川座長  はい、どうぞ。

○大久保発表者  やはり、学生に、ただ見学型だと、やはりもう患者さんも非常に抵抗が強いですし、昔は取り囲んで診察を精神科でもやっていましたが、今は、もうとてもできないので、やはり役割を与えるという。だから、最初に患者さんの症状を評価してくるということで学生と名乗って、役割を与えるような実習形態にしないと、おそらく患者さんの協力も得られにくいし、学生も経験できないのではないかと思っております。

○荒川座長  ほかにいかがでしょう。

 では、奈良先生、お願いします。

○奈良委員  東京医科歯科大学の奈良です。先生方のお話を聞いていて強く感じたのは、卒前教育を充実するためには、患者さんに安全な医療を行うという観点から、シミュレーション教育、ロールプレイ等を用いた臨床実習を推進することが非常に大切だと思います。

 坂本先生と平出先生がお示しになられたように、確かに救急の分野ではシミュレーション教育が実施されています。ただ、私どもが全国の医学部に対してアンケート調査でシミュレーション教育の現状と課題を調べてみたところ、、全国80大学の中で8割程度しかスキルスラボが設置されていませんでした。。しかも、その中で実際に臨床実習にシミュレーション教育を活用しているのは8割ぐらいしかないということが分かりました。シミュレーション教育の中では救急処置のトレーニングが多いのですが他の医療手技の教育は実に千差万別で、実習に費やす時間も様々でした。患者さんに納得して実習を受けていただくためには、シミュレーション教育できちんとトレーニングを受けていることが必須になると思います。そうでなければ、実験台になるといったような批判につながりかねません。

 シミュレーション教育の器材は現在では優れたものが多くあります。また、バーチャルで、実際に医療手技を体験できるものもあります。そういったものをどしどし活用し、臨床実習の精度を高めていく必要があると思います。

 スキルスラボを充実するには経費の問題が常に伴います。全国80校にすべからく同等のレベルのスキルスラボを設置するのは非現実的だと思います。むしろ、いくつかの施設で拠点となるようなスキルスラボを設置し、学生が相互に利用できるシステムを構築するなどの工夫が必要ではないでしょうか。

○荒川座長  先生の実感として、8割の8割ですね。

○奈良委員  はい。

○荒川座長  そうすると、あとの残りは4割ぐらいですが、これは進めていくというのは、一番の障害はやっぱり財政問題でしょうか。それとも意識の問題でしょうか。

○奈良委員  ええ、予算の問題は確かにあります。それと同時に、シミュレーション教育で学生を指導する立場の教員の意識の問題もあると思います。欧米ではどの国でもシミュレーション教育が進んでいますが、そこでは教授を始め、教員が積極的に学生の指導に当たっています。ただでさえ教員は多忙で、シミュレーション教育など行っていられないといった声も耳にします。この課題は世界でも共通した問題です。この解決には、ドイツやスペインなどでは学生がスキルスラボの管理・運営を行い、上級生が下級生が指導するなど、学生自身がスキルスラボ教育を積極的に行っています。日本でもこのような工夫は必要かと思います。

○荒川座長  ほかにいかがでしょうか。

○吉田委員  医学教育の改革に、この10年余り取り組んできて感じていることを申し上げます。医学教育の改革に際して、多くの点で欧米で行われている医学教育を取り入れてきているというところはあるんですけれども、ただ、1点だけ大きく実は違うのではないかと思っているのは、海外では学生や研修医が外来の患者さんを初診で診ているという場面が非常に多いわけですけれども、日本では、外来に初めて1人で患者さんを外来で回すというのは、研修医が終わってから、各診療科で専門医の修練中に行うことが非常に多いのではないかと思うんです。学生や研修医の頃は、むしろ、病棟主体の実習や研修が行われていて、その状況で欧米型の外来診療のシミュレーションや外来診療の臨床実習をやろうとしても、なかなか現場の意識を大きく変えないといけないですし、先生方の負担もかなり大きいということが考えられますし、また、患者さんも、いきなり初診で学生が出てくるのかという、そういうところもかなり大きな変革が必要になっていくんですけれども、将来的に――海外がそういうふうになったのは、例えばアメリカだとDRGが導入されてから入院日数が少なくなって、外来中心になったという事情もあります。日本は、今はそういうふうになりつつあるのかもしれないですけれども、これまでのところ歴史的にそういうことではないですから、今の日本の医学教育を取り巻く状況で考えるのでしたら、外来教育というのは、今お話があったように救急のとにかくどこの診療科に行っても急変状態の患者さんが大丈夫なのか、それともやっぱり精密検査や集中治療が必要なのかどうかというところが判断できるというのは、どの診療科の医者でも必要だと思いますので、そこのところは、どこの診療科に行く学生や研修医にも必要だろうと思います。

 ただ、そこで1つ非常に自分自身どうなのかなと思っていたのは、救急の先生方の数なんですよ。きょう、坂本先生から、教育をやっていきたいという心強いお言葉が聞かれたので、ただ、急にそれを一遍にやると、かなり苦しいと思いますから、計画を立てて何年後にはこれぐらいの学生や研修医がそういう教育を受けられるようにしようという計画を立てていくというのが必要なのかなと思っているのが1点と、もう1点は、先ほどからお話ししている目の前の患者さんがほんとうに救急対応が必要なのかどうかということを判断するようなシミュレーション教育が、さほど普及していないということ。確かに、この10年ほど、心肺蘇生についてはかなり全国的に広まりましたし、街角にAEDがたくさん置かれるようになりましたけれども、「意識のある救急患者の診方」の効果的な教育があまり普及していないと思うんですよね。

 しかし、今、救急医学会の中で「意識のある救急患者の診方」のシミュレーション教育をやっておられる先生方がいらっしゃるので、あのプログラムをもう少し広めるというか、卒後研修や卒前教育に導入できないのかなと考えているところです。

○荒川座長  私の年代ですと、学生実習は外来だったんですけれどもね。僕はまた古いですけれども、それがいつの間にかなくなったということなんです。

 ちょっときょうはご発言ない方がおられますが、ぜひひとつ一言ずつお願いしたいのですが、どうでしょうかね。

 では、名川先生、いかがでしょうか。

○福田副座長  私、名川先生にちょっと逆にお聞きしたいのは、先ほど厚生労働省の厚生労働科研から石川先生がお話しになって、これはかなり大事な話で、名川先生は前の臨床実習のワーキング・グループでご検討になったときのとかなりダブっているようで、ぜひコメントください。

○名川委員  前回の医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議のところで、あれは全国79でしたかね、大学からアンケートをとって、石川先生からお話のあった内容と同じとは言いませんけれども、やはり同じような傾向があって、臨床実習、診療参加型の臨床実習といいますと、どうしても採血ができるとか、そういうほうに傾きがちですけれども、実際は違って、やはり先ほど榮木さんがおっしゃっていましたけれども、態度とか、マナーとか、その辺がしっかりしていれば、例えば自分が患者になっても、あまり嫌な感じはしないと思うんですね。それが、例えば技術に関係する問題とかということになると、やはりうまい人にやってもらいたいと、これは人情だと思うんですね。

 ですから、学生を教育していくのに、「診療参加型」という言葉だけに引っ張られて何か侵襲的行為をやったりとか、あるいは、羞恥心を惹起させるような行為を行わせるということではなくて、態度、マナーというような人間としてあるべき基本的な部分ですね、これをしっかり植えつけて、国家試験を通って、その後は侵襲的な行為を行うというような部分が大事かなとは感じましたけれども。

○荒川座長  ありがとうございました。

 飯沼先生、何かございませんか。

○飯沼委員  きょう、日本医師会で生涯教育の連絡協議会があったんですけれども、そのときに、こういう種類の会議に2年が終わった研修生、もしくはジャストの研修生を入れたらどうかというのがありまして、これは気がつかなかった意見なので、申し上げておきます。そういう意見がございました。

○荒川座長  南さん、何かございませんか。

○南委員  またおくれて参りましたので、ちょっと前半のほう、特に看護のほうは残念ながら伺っていないのですが、まず、救急医療に関しては、やっぱり国民的には、どこの医療施設であっても当たり外れなくといいますか、必ず何か緊急な問題を持って医療にアクセスすれば一定のレベルの治療、診療が受けられるようにしてほしいというのは、これはもう国民の共通した希望であると思います。

 ですから、これはもう教育の中でぜひどういう形になるのかわかりませんけれども、救急医療というものを位置づけていただきたいという希望があると思います。

 それから精神医療に関しても、これだけやはり心の時代とかいろいろ言われているにもかかわらず、偏見ということで言えば、国民の偏見というのはもう非常になくなったと思います。むしろ、私が非常に深刻だと思うのは、他科の医療の中の、先ほどのスライドにもありましたけれども、むしろ医療従事者の中の無理解とか、そういうものが非常に強いというふうに私は感じていますので、それをまた研修医なり学生さんがそれを受けて偏見を持つというようなことが非常に深刻であると思いますので、これはやはり医療の側としても、ぜひともそこは教育上、改善していただきたい点であると思います。

○荒川座長  ありがとうございました。

○小島発表者  ちょっと、そのことでいいですか。

○荒川座長  はい、どうぞ。

○小島発表者  今の南先生のお話の偏見のことですけれども、臨床研修制度で精神科に回ってきた人たちの2年目が終わった人たちのアンケートをとりました。そうしましたところ、全人的医療ができたとか、偏見がなくなったとか、そういうふうな答えを出す人が80%以上なんですね。

 わずか1カ月という短い期間でも、実際に患者と接するなかで非常に変わってくる。そして、他の科の先生たちは、これまで精神症状を表す患者が来ると精神科に行きなさいということで自分達で診ることはしませんが、新しく研修した先生たちは、一応受けとめて話を聞いて対応して、その上で精神科に紹介したり、相談に来るという、そういうふうな形になって精神科との連携がうまくできるようになっています。

 ということは、偏見の除去という面では、1カ月でも経験することが非常に大きいということを感じております。

○荒川座長  そろそろ時間は時間ですが、ぜひきょう発言したいという方、では、お願いします。

○辻本委員  大変失礼な発言になるかもしれません。学生さんにマナーなどをお教えになる教員のマナーは、どこでどのように質を担保していただけるのか、患者の立場として非常に関心の強いところです。

○荒川座長  これはやっぱり頑張らないといかんですね。実際、どうなんでしょうかね、その辺のところは。

○福田副座長  いや、私は、この間の医学教育カリキュラム改訂作業のときに、「医師として求められる基本的な資質」というこの原案をつくりました。それで、これは文科省の方にも目を通していただいてつけ加えていただいたんですけれども、改めてみずから反省するところ、極めて多いと感じました。我々も一緒に基本の原点は守っていかなければいけないというのを感じながらこれを書きましたので、そのつもりでみんなやっていただけると思います。

○荒川座長  私がアメリカにいたときは、ヒッピー全盛だったんですけれども、やっぱりそういう格好をした人は、もう絶対拒否しますね、教官は。実習をさせませんでしたね、直すまで。あのアメリカでもやっていましたですね。

 さあ、大体この辺で皆さん、よろしいでしょうかね。

 それでは、きょう、先生方、どうもありがとうございました。

 きょうは、前回もこれは議論しましたが、この前ちょっとお話ししたんですが、先生方、卒前の医学教育をどう変えるかということで、帰りの時点でもって皆さんにひとつ文書でお願いしたいということを申しましたが、これはひとつ改めてお願いします。3月23日締め切りでございますので、ぜひお願いします。ぜひ皆さんから忌憚のないご意見を賜りたいと思います。よろしくお願いします。

 それでは、事務局からお願いします。

○樋口医学教育課長補佐  それでは、次回の開催の予定でございますが、次回は3月23日の月曜日の16時から、同じ建物の3階、3F1会議室で開催する予定でございます。

 議事といたしましては、引き続き診療科等の医療を担う医師の養成ということと、あと諸外国の医学教育の比較ということを含めて関係者からの意見ヒアリングを予定してございます。

 以上でございます。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 それでは終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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