獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議(第5回) 議事要旨

1.日時

平成21年4月27日 月曜日 15時から17時

2.場所

中央合同庁舎7号館東館 文部科学省16F特別会議室

3.議題

  1. 獣医学教育の質保証の在り方について
  2. 教育内容に関する小委員会経過報告
  3. その他

4.出席者

委員

唐木座長、酒井座長代理、石黒委員、伊藤委員、加地委員、片本委員、廉林委員、小崎委員、境委員、田中委員、長澤委員、政岡委員、矢ヶ崎委員、山崎光悦委員、山崎恵子委員、山田委員、山根委員、吉川委員

文部科学省

戸谷高等教育局担当審議官、藤原専門教育課長、坂口専門教育課企画官、神田専門教育課課長補佐、伊藤専門教育課課長補佐 他

オブザーバー

オブザーバー安田環境省自然環境局総務課動物愛護管理室長

5.議事要旨

(○:委員 ●:事務局)

(1)事務局から、事務局の人事異動、オブザーバーの人事異動、配付資料について説明の後、吉川委員より資料6に基づき教育内容に関する小委員会の報告が行われ、報告に基づき自由討議が行われた。報告の概要と主な発言は以下の通り。

<吉川委員報告>

 ○ 小委員会の主たる役割は、協力者会議において特に充実が必要という指摘がある臨床教育、公衆衛生教育等を含めた獣医学教育が、実際にそれぞれの大学においてどのようなカリキュラム・授業単位数・教育研究体制で実施されているかを分析し、必要な改善方策について検討することである。そのためには、まずは獣医学教育において必要とされる教育内容の整理を行い、その後大学における教育内容(シラバス)と委員会で考えた必要とされる教育内容とを突き合わせて、全国的に大学において教育が不十分な部分や大学別の差異を比較分析することとした。

   本日机上資料とさせていただいた比較分析のために小委員会で現在検討中の教育内容案は、日本獣医師会でまとめられた「標準的カリキュラム」をたたき台に、重複する科目の削除や抽象的な科目の具体化、分野間・科目間の単位数の見直しを行った。また、教育内容は、基礎獣医学、応用獣医学、臨床獣医学に分類し、加えて個々の専門に入る前の導入教育として獣医学概論、獣医法規、獣医倫理を設定してある。公衆衛生分野については、公衆衛生学総論の他、疫学、食品衛生学、環境衛生学、人獣共通感染症に独立した科目をつけて必要な教育内容を整理した。臨床分野については、部位別に独立させたことに加えて産業動物臨床学という科目を設けた。なお、小委員会のシラバスでは講義科目については90分15回で2単位、実習科目については180分15回で1単位を想定している。

   本日は、小委員会で検討中の教育内容案について、特に分野間・科目間の単位数等のバランスがこれでよいか、履修内容に過不足がないか、卒業論文は全ての学生に必要であるかという点に加えて、各大学の分析をする際に留意すべき点についてご意見をいただきたい。また、この教育内容は必要最小限と考えて、加えてコース制を設ける等して半年なり1年間つけ加えることも必要であると考えるが、その点についてもご審議していただきたい。

 ○ 基本的には2004年の全国代表者協議会の標準カリキュラムが基になっており、文言の整理と同時に、導入教育の設定や科目分類がされている。単位のバランスについても、標準カリキュラムとほぼ同じバランスになっており基本的には意見はない。

   ただ1点、学士課程答申の中で単位の実質化が問われている中で、単位あたりの授業時間数については、60分15回で1単位として整理をしていただきたい。また、「公衆衛生学」は「獣医公衆衛生学」とした方が良いかどうかはこの場で検討したい。

 ○ 授業時間については小委員会で議論をしたが、90分15回で特に異論はなかった。

 ● 単位あたりの授業時間については、獣医学教育の中だけで結論の出せる話ではないので、単位の実質化の議論全体の中で見極めていきたい。

 ○ 獣医学教育における公衆衛生は、医学部の公衆衛生や衛生学とは全く異なるため、「獣医公衆衛生」としたほうが良いと思う。ただ、衛生学に関しては、「獣医衛生学」とすると優生学等のニュアンスが含まれるため検討が必要。

 ○ 「公衆衛生学」に関しては、「獣医」を付けるかどうかを小委員会でも議論したが、個人的には「獣医」をつけてもよいと思う。「衛生学」については、従来の家畜衛生学に相当する科目を「動物衛生学」として、もう片方で「環境衛生学」を独立して設けた。

 ○ 確認したいが、この会議は夏までに取りまとめると聞いているつもりだが、あと何回ぐらい開催する予定か。

 ● 議論の進捗具合によるが、小委員会での分析作業の結果を踏まえて、今後の方向性について協力者会議で議論をしていただき、整理していただくというステップが必要だと考える。

 ○ 議論があまりにも各論に入り過ぎている印象がある。この段階で「家畜衛生」を「獣医衛生」にするか「動物衛生」にするかという議論をすべきではない。カリキュラムは重要であるが、この教育内容を教育できる教育体制を作るのであれば根本的な議論する必要があるのではないか。過去の議論を繰り返すのではなく、もう少し具体性ある話をしていただきたい。このカリキュラムを教育するためには大学間の再編・整理や連携教育について議論すべきではないか。

 ○ 標準的なカリキュラムを作成した目的は、各大学の教育内容を分析するためである。各大学の現状を分析して、それが十分であれば獣医学教育に改革は必要ないが、不十分であれば、どこがどのように不十分でどのような改革が必要であるかが次の議題となる。

 ○ 分析は重要であるが、分析結果を踏まえた獣医学教育の改善・充実につながらなければ意味がないため、あえて厳しいことを言わせてもらった。

 ○ 本日机上配付させていただいた資料にもあるとおり、我が国の獣医学教育は医学・歯学分野に遅れて6年制となり、大学基準協会が必要な教育研究体制として18講座以上、教員72名以上を最低基準として設定している。

   平成13年には国公立大学農学関係学部長会議にて審議を行い、獣医学教育研究組織の規模は「72名以上の教官から成ることが望ましいが、当面これに準ずる規模として、18名の教授を含む54名程度の教官から成る組織が必要最低限である」、「自助努力で獣医学教育の改善が達成出来ない場合には、他大学獣医学科等との再編などの道を考える」という決定を出した。

   文部科学省においても2004年に、「国立大学における獣医学教育に関する協議会」が設置され、「関係各大学は、国公立大学農学系学部長会議が決議した獣医学教育の改善策の精神を基本に据え、自主的・自律的に最大限努力すること」という結論を出したという経緯がある。

   今回の協力者会議もこのような積み上げが前提にあるが、獣医学関係者内での検討をもう一回見直して、今後について考えていくということについてご理解いただきたい。

 ○ 非常によく理解できるが、時間的な余裕もないのであえて厳しいことを言わせていただくが、設備・施設・教員数が絶対的に不足している状況を改善するために何をしたらよいかを是非議論していただきたい。

 ○ 小委員会の分析作業によって、大学のどこにどのような不足があるのかということが浮き彫りになった後に、その対策が当然考えられるべき。小委員会にはできるだけ短期間で、獣医学関係者以外の方が納得できる緻密な資料を是非作成していただきたい。

 ○ 一方では、資格試験のための最低限の知識レベルがあるが、加えて各大学が特色を出した教育をするための部分があるはず。学問は常に発展しているため、事細かく標準カリキュラムを作ってしまうと、かつてアメリカの工学教育と同じ過ちを犯すことになってしまう。

 ○ 医学、歯学、獣医学と工学では異なる部分があり、例えば解剖学のような普遍的なコアの部分が非常に多い特徴がある。しかし、時代と共に変化する部分については改訂していかなければならない。

 ○ 第1回の資料にあるが、4点の論点を文科省のほうで整理しており、その中で「教育内容・方法の在り方について」という部分は小委員会が努力しているが、教育研究体制あるいは組織の在り方についても早く手をつけなければならない。

   カリキュラムについては内容的にはほぼ了解するが、基礎、応用、臨床3分野というのは、このまま継続するのか。

 ○ 小委員会でも議論をしたが、基本的にはやはり基礎、応用、臨床の3つに分けるのが一番わかりやすいと考える。

   また、あるべき教育内容については以前から検討されているが、それを実際に、各大学でどれだけ教育されているかを定量的に比較したことは一度もない、今回はそこまでやる。今後、対外的に説得性を持つためには、ある程度定量性を持った標準があった方がわかりやすいし、同時に小委員会の作業は、不足を解消するにはどのような教育研究体制をとっていかなければいけないのかという議論の前提となるので、できるだけ早く報告したいと考えている。

   そのため、例えば微生物学を基礎分野とするか応用分野とするかは人によって意見が分かれるが、それよりも実際にそれぞれの大学でどこまで教育されていて、どこが足りないのかという分析を行わなければと思い議論を省略した部分がある。

 ○ 議論を聞いていて、このカリキュラムを細かく議論する時間はないことは理解するが、公衆衛生行政に携わっている者としてこのカリキュラムを見ると、教室数を増やすために科目を変えただけのような印象が拭えない。

   例えば、微生物学と動物感染症学、家禽疾病学、予防学、人獣共通感染症、野生動物学の全てにウイルス性が入っており、重複する部分が多過ぎる。採用試験を作成する際、微生物学と感染症学と寄生虫学の教員に依頼しても同じ問題が出てくることがある。

   先ほどの微生物や病理については基礎的な部分も応用的な部分もある。

   毒性学については極めて重要視している分野である一方、環境衛生については実際の行政分野では手を引きつつある。ただし、食物を介してくるダイオキシンなどについては、毒性学や食品衛生学で対応する。

   また、解剖学の教育内容のほとんどがイヌの解剖で、ブタ、反芻獣、ウマの解剖の割合が少ないが、と畜検査はイヌは扱わない。各大学の分析を行い、不十分な部分を検証を行うたたき台であるなら現在の形になるが、現状とは乖離していると思う。

 ○ 実際に各大学を検証するという次の段取りを考えると、あまりにも履修内容の記述が細かく重複も多い。むしろ、どこかで到達目標を設定していただき、それに向けていろいろな観点から教育するというふうにまとめた方がわかりやすいのではないか。履修内容を細かく書けば書くほど、「イヌばかりではないか」とか「産業動物はどうなっているんだ」、「同じ病原体が重なっているのではないか」という点が問題となる。大変な作業にはなると思うが、医学教育のモデル・コア・カリキュラムのように到達目標を設定し、「ある事柄についてきちんと説明できるようなところまで教える」とした方が、単位の実質化にも絡んでくると考える。

 ○ 重複をなくして効率よく教えることが理想的ではあるが、例えば微生物学でもマイクロバイオロジーの側に立って教えるものと、生物の側から感染症として教えるのでは違う。なるべくダブるものは削るが、一概に「一度教育した内容は他の科目では必要ない」となるわけではない。

   また、獣医は多くの種類の動物を扱わなくてはならないが、全ての動物種を同程度の比重で教育することは困難であるので、代表的な動物種について基本的内容を教育を行った上で他の動物種について教育するのが現実的。厚生労働省の立場からは「と畜場でイヌを解剖することはない」という考え方も成り立つかもしれないが、大学教育を考えると、やはり臨床頻度が高く供給数の多いイヌを使った教育を行った後にと畜場を想定した動物種について教育することになる。

 ○ 私の専門は薬理と毒性であるが、薬理と毒性の基礎は生理学であり生化学である。その部分との重複を無くしてしまうと、薬理の半分はなくなってしまう。薬理学、毒性学の中で必要な生理学、生化学あるいは病理学の知識があり、そうした内容は薬理学の中で教育せざるを得ない。必要性のある重複とそうでない重複について検討いただき精査していただきたい。

 ○ 工学部の例もあるので、もう少しフレキシビリティを持たせた方がよい。ここまで細かく教育項目を設定して比較しても時間の無駄なのではないかと指摘したい。

   また、獣医学概論の10番目の「学校動物の獣医師の役割」、獣医倫理の「学校動物の役割」「ウマを用いたアニマルセラピー」「その他の動物介在療法」の4つの分野は、世界的に獣医師がリーダーシップを握っていない。また「ウマによるアニマルセラピー」という言葉は古く、今はAnimal-Assisted Interaction―「AAI」という言葉が一般的になりつつある。学校で使う動物も、補助犬も、セラピーも、すべて「AAI」という言葉の中に入るので、「AAI」という講義があればその中で「補助犬の実態」や「ウマを使うセラピーの実態」について学習でき、獣医師はそうした分野でどのような活躍ができるのかが理解できるのではないか。補助犬に関しても、行動学上の基準や、公衆衛生上の管理、繁殖学的に遺伝性疾患をどのようにして取り除くかといった分野では獣医師が貢献しなければ発展できない部分である。

   獣医学専門教育課程で基礎的な教育ができていれば、学習した知識をどのような分野で活用できるのかという科目があれば1単位でまかなえるのではないか。

 ○ 重複が全てだめだと言っているわけではなく、それぞれの目的に向けて、例えば公衆衛生では、ヒトに対してどれぐらいの被害があるかという観点がそれがそれぞれの科目の中に入っているということが重要。野生動物の疾病についても多くの科目に散らばっているが、それがヒトにどのように関与してくるのかという観点が、まさに公衆衛生の観点。よって公衆衛生の科目は総論が一つあればよいと思う。将来的には全ての科目において何らかの形でヒトとどのような関わりがあるかという観点に立って教えていただけることを期待したい。

(2)事務局から、資料7について説明の後、資料に基づき自由討議が行われた。主な発言は以下の通り。

 ○ 学生が行える医行為について日本では非常に制限があるとは知っているが、実際にどの程度の行為であれば学生が行えるのかが知りたい。また、聞いた話であるが、獣医学部の4年生、5年生の学生に避妊・去勢手術を行わせている団体もあるようだが、そういった状況の中で、どうすれば学生に正当にメスを握らせることができるのだろうか知りたい。

 ○ やはり、数名のスタッフで総論から各論を教えるのは不可能に近い。それをどうやって克服するかが、一番大切ではないかと申し上げたい。

 ○ 学生が病院で実際に診療にどの程度当たれるのかというのは、前提としてオブザーバーの管理下にあるということが必要であるが、それでもどこまでできるのかという検討は必要だろう。

   その際に参考になるのは、現在、農林水産省が考えている獣医看護師の制度化である。獣医看護師はどのような教育を受ければ、どのように診療行為に関われるのかという検討されているが、学生であっても獣医師あるいは教官の監督の下、範囲を設ければその問題は解決できると思う。

   ただし、その際には畜主との関係で、事故が起こったときにどうするのか整理しておかなくてはならないだろう。

 ○ 学生が行える行為に関しては、先日の全国大学獣医学関係代表者協議でも話題になり、医学部のように国家試験以前の学生の臨床実習を手術の難易度や畜主との関係、教官の監督などによりカテゴリー別に分類できないか、案を作成した上で、農林水産省と文部科学省に申し入れをするという話になっているので、近々に答えが出てくるだろうと思う。

 ○ 現在の大学設置基準の必要教員数は現実から離れたものである。現状でも基準を上回る教員がいるが、それでも不足しているのであればどこまで必要なのか。昭和から平成にかけて、最低72名は必要であろうということで、関係者の中ではコンセンサスが得られているが、今回はきっちりとした標準的なカリキュラムから、もう一度この数を検証することは必要だろう。

 ○ 今、つくろうとしているカリキュラムができ上がれば、いわゆる主要科目というものが指定できる。主要科目が指定できれば、主要科目は原則、准教授以上で講義すると大学設置基準で規定されているため、そこで准教授以上の数が決まってくるだろう。さらに、獣医学教育は准教授以上だけで教育を行うこと無理であるため、私はその3倍程度の教員数は、当然、必要になってくる。そうすれば、おのずから必要な教員数は出てくるのではないか。

 ○ 学生に何を教えるのか、どこまで教えるのかによって、必然的に必要な科目数や教員数が出てくる。次の課題として、今後どのように専門性のある教員を確保するのかという点があがる。この課題に対しては、人材バンクの様な制度にするのか、どこかで人材確保するのか、専門家の教育をどこで行うのか等の議論も行わなければならない。

 ○ 教育内容と教育研究体制はリンクしている。質の保証をどうするかといったときに、適正な教育の規模は以前から議論できるが、教員の資格審査については議論しにくい。これまでの議論の中で話が出ていたように、論文一辺倒での教員の資格審査には疑問が常につきまとう。だとすると、獣医学教育に携わる教員の資格要件について明文化することが必要になってくるのではないか。

 ○ 獣医学教育の中で学生に何をどこまで教えるのかということが決まれば、規模の問題が出てくる。小規模な大学で必要な教育が全て行えないのであれば、規模を大きくするという論点が出てくる。そこまで議論しなければ、今後の獣医学教育は進んだ議論ができないのではない。

 ○ 共同学部の実施は獣医学分野で本当に可能なのかどうか深刻な問題がある。連大は失敗だった言わないが、獣医系の大学が非常に広域にわたっている中で、教育の実を上げるにはどうしたらよいのか。学生や教員を移動させる、あるいは寮をつくる等、色々なことを考えなければならないが、それで教育効率が上がるのだろうか非常に悩ましい問題がある。

 ○ コア・カリキュラムあるいは標準カリキュラムを決められれば決められるほど、標準化されてしまって、どの大学へ行っても教えることが同じになってしまう。そうするとテレビ会議システムや、教員の出張で簡単に終わらせてしまうことになるのではないか。

 ○ 基礎分野については教員の移動やIT技術を活用して行えるが、臨床実習等は実習が非常に多いため難しい。それをどう解決するのかという問題もある。

 ○ 第1回会議で「選択と集中」という言葉を使ったが、どの分野でも人は足りないので、非常勤講師や資格のある人材を活用している。獣医学だけ教員が足りないという認識は納得できないので、そこに説得性をつけていただきたい。

 ○ 最短で教員数を確保して学生に効率よく教えるために、例えば導入教育に関しては役所の職員や愛護団体の長、補助犬の団体の長等に依頼して、どこかの拠点で集中講義で教育できれば、応用や実習に時間を使うことができるのではないか。

 ○ 社会ニーズへの対応と同時に、国際的な通用性を確保することが求められているため、拠点システムの活用で海外の適格認定を得られるかという問題が生ずるのではないか。

 ○ 実際に獣医学教育をどのような形で行えば、その実効性があるのかという点は非常に重要であるので、その点も考えていただきたい。

 ○ 小委員会で作成するカリキュラムを、獣医学教育全体の中で必要なカリキュラムという呼び名にしたのは、場合によっては、その上に専門コースのようなものを積み上げて、最後にブラッシュアップをしていく方法もあるのではないかと小委員会で議論しているためである。

   ただ、現在の体制ではそのカリキュラムを全うすることもままならない。だとすれば、今後のロードマップとしてどういう方法があるのかを議論しなければならない。連合大学院ではスクラップ・アンド・ビルドを全くできなかったのでうまくいかなかったのならば、次に必要なのは、再編のためのスクラップ・アンド・ビルドをどのように行い、教育者が脆弱な部分をどのように補っていくかというステップになる。

 ○ 15年ほど前に私の大学でも放送大学や通信衛生を使った遠隔教育システムが導入されたが、今はもうほこりをかぶっているのが現状である。獣医学は実学であるため、見たり触ったりすることが必要なため、遠隔教育には限界がある。

   そこを、よく理解した上で、学生や教員が移動するのか、寄宿舎をつくるのか、統合するのかを考えていきたい。

 ○ 第1回会議でも話したが、日本の国立大学全体の獣医学教育の教員は決して不足していない。全ての国立大学の学生数と教員数を合わせて例えば3つに分けると、欧米の大学並みの学生数と教員数になる。問題はそれを細かく分け過ぎてしまったために、それぞれの大学の教育体制が異常に貧弱になってしまったことである。

   よって、解決策は数字の上では非常に簡単で、全国立大学を合わせて、再編すればよいのだが、現実の問題としては非常に難しい。

 ○ 工学分野でも過去に、特許を得ていないテクノロジーを使った衛星を打ち上げてたため、多額の維持費を要したにもかかわらず成果が出なかったことがある。

   しかし、現在のインターネットを使えば、比較的安いソフトで成果を出すことが可能になってきているので、全ての授業で動物に直接触らなければならないと言うことはない。

 ○ 平成19年、2007年に日本獣医師会が獣医学教育改善に向けての外部評価のあり方委員会を設置して、第三者評価機関を設置することを提言している。また、自己点検・評価、相互評価については、以前に全国協議会で国公私立を通じての自己点検・自己評価、相互評価をするという試みあり、現在でも私立大学では相互評価を続けている。

 ○ 現状を検証して分析し、どこに改善点があるのかを共通認識を持って改善していくことが重要である。私立大学間ではほぼ2年間隔で相互評価を行っており、現在は特に、動物病院の在り方と臨床教育についての検証を行っている。

   相互評価を行うと痛み(他大学と比較して充実していない部分)があるが、獣医学教育を求める学生によりよい教育・研究環境を提供するためには、勇気を持って痛みを次の改善に結びつけていかなくてはならない。

 ○ 私学間での相互評価では、評価結果に対するペナルティーはあるか。

 ○ 相互評価なのでペナルティーはない。評価結果に基づいて自助努力を行い、次の評価までに改善する。現在、第5次評価を行っているが、第4次評価まで実施してきた段階で非常に充実してきている。例えば動物病院については、私立の動物病院は毎年どこかが改善しており、教育制度も改善している。そうしたことを通じて獣医学系の私立大学がボトムアップしていると実感している。

 ○ 評価というものは改善を行うことが目的であるため、私立大学間の相互評価のように全体がボトムアップしていけば良いと思うが、現実問題として国立大学では国立大学法人評価を受けて、認証評価を受けて、さらに外部評価も受けることになれば、「評価疲れ」を起こしてしまう。実際に評価を受けて改善しなければ、次は在学生の履修単位が認められないとか、運営費交付金が減らされる等、もっとダイナミックに評価に対する目的・目標が設定されなければ、ただ労力が増えるだけになってしまう。

   やはり達成目標、どこまで教えなければいけないのかという目標をはっきり立てなければならない。そうなれば、教育課程を完成させられない大学や、評価基準を満たせない大学は「自前では無理なので、2つ、3つぐらいで一緒になって、きちんとしたカリキュラムをつくりましょう」という方向に進んでいくのではないか。でなければ、教員数だけ充実しても、例えば感染症の専門家ばかりが増えてしまっては、教育課程を編成できなくなってしまう。

   「達成目標はここです。単に知識を教えるだけではありません。」という達成目標を設定した上で評価制度も導入すれば、基準をクリアできない大学が再編・統合を考えざるを得なくなるのではないか。

 ○ 評価結果をどのように資源配分にリンクさせるのかということも、考えなくてはいけない。それがなければ、以前、国公立獣医学系大学で行ったように、各大学に非常に大きな差があっても農学部の一学科にすぎないために、大きな記事になっても放置されてしまう。それでは、苦労して評価を受けても何のプラスにもならない。今回はその結果がきちんと何かに反映されることを願っている。

 ○ 再編・統合もアクレディテーションもカリキュラムも重要だが、例えば社会のニーズということを考えたときに、特に公衆衛生獣医師や産業動物獣医師が不足している中で、このようなことで本当に解決につながるのかわからない。今この会議で議論しているようなことを行えばアメリカに追いついていくだろうが、アメリカでも公務員獣医師が非常に不足していることに対して議論が活発に行われている。公衆衛生で働く獣医師がいなくなりつつあるという現状や、大動物の診療の獣医師が実際に減っているという現実を踏まえた議論を早急にしていただきたい。

 ○ なぜ公衆衛生や大動物臨床に携わる獣医師が少ないのか、これは教育がほとんど行われていないことも一つの大きな原因である。例えば、夏期休業中に産業動物の臨床を学生に体験させたら、その中から産業動物臨床に従事したいという学生が出てきたという話がある。教育を改善することですべてが解決するとは思わないが、現状で教育が不足しているから学生が従事しない分野があれば、その分野については少なくとも改善するだろうと。そこから先は、また別の手を考えなくてはならない。

 ○ 職域偏在の解消の手段の一つは質の保証、もう一つは待遇改善である。待遇改善についても別の場で議論しなければ、職員偏在、地域偏在は残ってしまうだろう。

 ○ やはり今のこの大学のスタッフでは、統廃合したとしても教える内容がそんなに変わるとは思えない。そこで、実際に公衆衛生に携わっている外部教育スタッフを非常勤や特任教授という形でうまく使えないか検討していただきたい。インターンシップでも集中講義のような形でもよいので、とにかく現場を見せて現場に携わらせることが、やはり一番効果がある。大動物診療分野でも、NOSAIが以前は1週間であった研修を1カ月に延長している。厚生労働省にインターンシップに来る学生も、「初めて厚労省の仕事を知った」という学生が多く、次の年に受験をする事例も多いので、ぜひ外部教育スタッフの活用について考えていただきたい。

 ○ 職域偏在の解消には、獣医師の質の保証と待遇改善の両方が必要である。医療職Ⅰに入っている公務員医師と、医療職Ⅱに入っている公務員獣医師では、初任給から倍以上の差があるが、「卵が先か、鶏が先か」ではないが、しっかりと大学で教育して獣医師の質の保証をしなければ、処遇改善だけを求めることもできない。

   現在、福岡県、鹿児島県、四国全県、青森県、北海道等々が初任給調整計画を上げているが、同時に獣医師の質の保証をしっかりと行って行かなくてはならない。

 ○ 産業動物診療分野でインターンシップが盛んになった成果として、かつて年間100人から40人まで落ち込んだ産業動物診療分野に新規就業する者が、現在70人までに回復している。やはり職域偏在の解のためには、教育も重要であると考えられる。

(3)事務局から次回の日程について説明があり、閉会となった。

 

 

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