モデル・コア・カリキュラムの改訂に関する専門研究委員会(平成22年度)(第2回) 議事録

1.日時

平成22年8月5日(木曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文化庁特別会議室

3.議題

  1. 調査研究チーム(委託先)における検討の方向性
  2. 関係者からのヒアリング

4.議事録

【唐沢課長補佐】  おはようございます。定刻より少し早いですが,本日出席予定の委員の先生方が皆様お集まりですので,ただいまからモデル・コア・カリキュラム改訂に関する専門研究委員会(第2回)の医学・歯学合同の会議を開催いたします。

 本日は,ご多忙の中,また,猛暑の中ご参集いただきまして,まことにありがとうございます。

 まず初めに,私から,本日の委員の出欠状況についてご報告申し上げます。この専門研究委員会は19名の委員で構成されていますが,本日は19名のうち13名の委員の方々にご参集いただいております。ご都合によりご欠席の先生をご紹介申し上げますが,医学につきましては梶井委員,奈良委員,光山委員がご欠席です。また,歯学につきましては,嶋田委員がご欠席です。また,一般の方としてご参画いただいている辻本委員,邉見委員の2名がご欠席という状況になっております。また,今回は,オブザーバー等ではございませんけれども,前回の連絡調整委員会及び専門研究委員会の合同会議におきまして貴重なご意見をいただいた団体から,聖路加看護大学学長の井部俊子様,また,社団法人日本病院薬剤師会会長の堀内龍也様にもお越しいただいております。よろしくお願いいたします。

 それでは,本日の配付資料を確認させていただきます。お手元の茶色の封筒から資料をお出しいただけたらと思いますが,議事次第の下に資料として7種類,参考と付した資料が3種類の合計10種類の資料を準備させていただきました。

 一つ一つ確認させていただきますが,議事次第の次が資料1といたしまして,モデル・コア・カリキュラム改訂に関する要望書。ホチキスどめしたものでございます。

 次に,資料2,医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂にあたって。

 資料3,歯学教育モデル・コア・カリキュラム改訂にあたって。

 資料4が,医学部教育の中で男女共同参画等が求められるという資料。

 資料5が,医療安全に関する卒前教育についてという資料。

 資料6が,歯周病と全身状態の関連に係る資料。

 資料7が,今後の検討スケジュールについて(案)でございます。

 その後に,参考資料といたしまして3種類用意しております。

 参考1が,専門研究委員会の委員名簿。

 参考2が,前回の会議でもお示しさせていただきましたが,医学・歯学教育に係るカリキュラムの改善に向けて。

 参考3は,平成22年度医学・歯学教育指導者のためのワークショップについてという,大きく3種類の資料を準備させていただきました。

 資料の不備,落丁等がございましたら,事務局までご連絡いただけたらと思います。

 引き続きまして,本日の議事に入ります前に,委員の追加及びオブザーバーの変更がございましたので,ご報告させていただきます。

 恐縮ですが,今ご説明申し上げました配付資料の参考1の専門研究委員会の委員名簿並びに参考2の医学・歯学教育に係るカリキュラムの改善に向けてという2種類の資料をお手元にご準備願います。

 参考2をごらんください。参考2の資料は,前回の会議でもお示しした今回の検討の体制等を記したものでございますが,下段にございますように,前回の会議でも申し上げましたが,今般のモデル・コア・カリキュラムの改訂に当たっては,この専門研究委員会の上に連絡調整委員会という組織を設けるのみならず,今回の改訂に当たっては,その上にございます「医学教育カリキュラム検討会」並びに「歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」で提言された検討内容に係る改訂素案の作成等につきましては,文部科学省の先導的大学改革推進委託事業により,大学に外部委託して行うこととしておりましたが,公募審査を経て,去る7月16日付で東京大学が委託先として選定されました。

 参考2の資料の2枚目をごらんください。この委託先には,当該委託先の大学のみならず,医学教育,歯学教育それぞれについて複数名の大学等の関係者により構成される調査研究チームを設置していただき,その調査研究チームが中心となって,改訂素案の作成に向けた調査研究を進めていただくこととなりますが,今般,調査研究チームのリーダーとして,医学教育につきましては,東京大学の教授でもあられ,また,本委員会の委員でもあられる名川先生に,また,歯学教育のリーダーにつきましては,東京医科歯科大学の荒木教授に担っていただくこととなりました。本委員会におきましては,冒頭の参考2の1枚目にございますように,今後,調査研究チームが作成していただく改訂素案を精査するなど,本委員会と調査研究チームというのは密に連携していくことが不可欠であります。このため,歯学教育に係る調査研究チームのリーダーとなられた東京医科歯科大学の荒木教授にも本委員会に参画していただくことといたしました。改めまして,荒木委員,よろしくお願いいたします。

【荒木委員】  荒木でございます。よろしくお願いします。

【唐沢課長補佐】  また,参考1をごらんください。委員名簿でございますけれども,去る7月30日付の人事異動に伴いまして,本委員会のオブザーバーをお願いしておりました厚生労働省の幹部の方に変更がございましたので,この場をおかりしてご紹介いたします。厚生労働省医政局の医事課長に着任されました村田課長でございます。

【村田医事課長】  村田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

【唐沢課長補佐】  同じく厚生労働省医政局の歯科保健課長に着任されました上條課長でございます。

【上條歯科保健課長】  上條でございます。よろしくお願いいたします。

【唐沢課長補佐】  村田課長,上條課長,よろしくお願いいたします。

 引き続きまして,本日の専門研究委員会につきましては,医学・歯学合同という形で開催させていただいておりますが,前回の会議におきまして,本委員会の医学担当の委員長には福田委員に,また,歯学担当の委員長には江藤委員が選任されましたが,本日は合同会議ということでございますので,議事を円滑に進行するために,座長と副座長を置くことにしたいと思います。事務局からの提案でございますけれども,前回の会議では医療関係の高久委員長を座長に,歯学関係の江藤委員長を副座長とさせていただいたことから,今回は逆に,歯学担当の江藤委員長を座長に,医学担当の福田委員長を副座長にお願いしたいと思いますが,よろしいでしょうか。

( 拍手 )

【唐沢課長補佐】  それでは,本日の合同会議の座長は江藤委員長に,副座長は福田委員長にお願いしたいと思います。

 ここからの進行は江藤座長にお願いしたいと思います。江藤座長,よろしくお願いいたします。

【江藤座長】  江藤でございます。それでは,本日の議事に入りたいと思います。

 本日は,議事次第にございますように,最初に議題1の調査研究チーム(委託先)における検討の方向性について,先ほど事務局から報告がありました調査研究チームの医学・歯学それぞれのリーダーに約15分ずつ今後の検討の進め方についてご報告をいただきまして,その後,10分程度の質疑応答をお願いしたいと思います。次に,議題2でございますが,関係者からのヒアリングといたしまして,3名の方々からそれぞれ15分程度ずつご説明をいただきまして,その後,11時55分をめどに,3名の方々からの説明に対する質疑,意見交換をまとめてお願いしたいと思います。

 なお,本日は,先ほどご紹介がございましたように,第1回の会議においてヒアリングをお願いいたしました聖路加看護大学の学長の井部俊子様,それから,社団法人日本病院薬剤師会会長の堀内龍也様にお越しいただいております。本日の会議全般を通じまして,何かお気づきの点がございましたら,お二人からも適宜ご発言をいただきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

 それでは,本日の議題1に入りたいと思います。まず,事務局より前回の会議からの経過報告を5分程度でよろしくお願いいたします。

【唐沢課長補佐】  前回の会議が開催された6月16日から今日に至るまで,この検討委員会に関連する経過をご報告させていただきます。お手元の資料1と参考3の2種類の資料をご準備願います。資料1は,モデル・コア・カリキュラム改訂に関する要望書,また,参考3は医学・歯学教育指導者のためのワークショップについてという資料でございます。

 まず,資料1についてでございますが,資料1の表紙の参考以下に記載されている内容につきましては,前回の6月16日の会議におきまして,コア・カリキュラムにかかわらず,医学教育,歯学教育全般に関する要望,提言等の主なものとしてご紹介申し上げたところですが,前回,6月16日の会議以降,新たに2つの要望書が提出されていますので,この場をおかりしてご紹介申し上げたいと思います。

 資料1の1ページ目をごらんください。1つ目が,先月7月1日付で社団法人日本医師会会長より,当省の川端大臣あての要望書として来たものでございます。本日は,この内容に関連いたしまして,日本医師会の常任理事の保坂シゲリさんにお越しいただいていますので,詳細は保坂さんからご説明いただけたらと思います。

 引き続きまして,2ページ目をごらんください。2ページ目には,7月21日付で独立行政法人放射線医学総合研究所より,連絡調整委員会の委員長である高久委員長あてに要望書として来たものでございます。内容は,大学医学部教育における放射線医学・放射線科学領域の教育の拡充についてというものでございます。冒頭,放射線医学・放射線科学の重要性等が述べられ,そういったことを推進するためには,大学医学部教育等において,放射線医学・科学の基礎を体系的に身につけた者に期待するところが大きいという状況,そうした教育をきちんとやっていってほしいということが述べられております。

 2ページの下段にございますように,現行の医学教育モデル・コア・カリキュラムにおきましては,放射線医学・放射線科学領域に関連する内容は,医学一般の基本的事項等に記載されているという状況,そうした中,2ページの下段にございますように,今後は3ページにあるような観点から,社会的な要請も踏まえ,一層内容を精選していただきたい要望が来ております。

 3ページをごらんください。3ページの下段にございますように,先ほど申しました現行のモデル・コア・カリキュラムにおきまして,医学の方でございますが,B.2(3),これは医学一般,個体の反応という部分でございますけれども,その中の「生体と放射線・電磁波・超音波の「放射線と生物」」の項において,項目は示されているけれども,やや内容が包括的,抽象的ということから,到達目標の記載でございますが,少し具体性を持たせたほうがよろしいのではないかという要望でございます。

 もう一点は,D,これは「全身におよぶ生理的変化,病態,診断,治療」に関する項目でございますが,その中の「疾患」の項において,4ページにございますような到達目標として,今3つ記載されていますけれども,新たに1つ,放射線による障害,「放射線の外部被ばくおよび内部被ばくの症候,診断と治療を説明出来る」という目標を掲げた教育を担っていただくように盛り込んでいただけないかという要望が来ております。

 5ページ以下は,放射線医学総合研究所から出された要望書の参考資料でございます。

 なお,この資料の11ページ以降は,前回の会議でもお示しいたしましたが,右肩に「参考」と付けていますけれでも,内容によってはコア・カリキュラムの改訂に係るような内容も中にはございますので,ご参照いただければと思います。

 引き続きまして,参考3と資料番号を付させていただきました「平成22年度医学・歯学教育指導者のためにワークショップについて」の資料をごらんください。このワークショップ自体は,本専門研究委員会と直接的なかかわりがあるものではございませんけれども,今回,ワークショップにおいては,モデル・コア・カリキュラムの改訂等に向けた関連事項に関する大学の実態,あるいは大学関係者がどういうふうに受けとめているかということを意見交換,情報交換等していただきました。

 1枚目にございますように,このワークショップ自体は,実は今年度で10回目を迎えたわけでございますが,基本的な趣旨としては,各医科大学(医学部)や各歯科大学(歯学部)の教育指導者にご参集いただいて,直面する課題等について情報交換,意見交換等をして,その結果を各大学に持ち帰って,主体的かつ組織的な教育内容の改善等をお願いできればという趣旨で開催したものでございますけれども,今年度は,今般,コアカリ改訂等が動いているということもございましたので,そういったこととリンクするようなことを検討いただいたところでございます。

 先週の水曜日の8時半から17時にかけて行われ,参加者は,医科大学(医学部)については,防衛医科大学校を含めた全国80大学から計89名の方々が,また,歯科大学(歯学部)については,全国27大学29学部から計31名の方々にお越しいただきました。

 内容としては,大きく2つの内容に分かれまして,1つがグループ別のセッションとグループ別の全体報告会・総合討論。もう一つは,(2)として下段にございます,全体セッションというものでございます。(1)のグループ別セッション等につきましては,参加者を七,八名ぐらいのグループに分けまして,1つはモデル・コア・カリキュラムの改訂の方向性ということで,医学教育,歯学教育について,ここに記載させていただいたような内容に関する取り組み状況や課題,さらにはそうした課題の解決方策に向けた意見交換等をしていただいたということです。もう1つ,臨床実習に係る評価の在り方,資料に記載されている2点のことに関する状況や課題,解決方策について意見交換等をしていただきました。

なお,全体セッションにつきましては,下にございますように,今回のテーマに関連した先進的な取り組み事例として,本委員会の委員でもある俣木先生をはじめとする3名の方々からプレゼンをいただいたという状況でございます。

 なお,参考3の後に別添と記させていただいている資料は,ワークショップにおけるグループ別全体報告会・総合討論におきまして,各グループから検討結果をご報告いただいたものを集約,整理したものを参考までに添付させていただきました。別添と書いた資料に目次が記されておりますけれども,テーマ1,テーマ2,それぞれ医学・歯学,医学・歯学と分かれておりますけれども,それぞれのテーマごとに,例えば次の1ページをごらんいただければ,テーマ1についてはAからFの大きく6つのグループを構成し,それぞれに記載のような大学の関係者に入っていただき,ご議論いただき,そして,2ページ以降にございますように,例えば基本的診療能力の確実な習得につきましては,グループAでは,議論した結果として,取り組み状況や課題としてこのような点があるのではないか,それについて改善すべき方策はこのようなことがあるのではないかということをご議論いただいたという構成となっております。

 時間の関係から説明は省略させていただきますが,適宜ご参照いただければと思います。私からの経過報告の説明は以上とさせていただきます。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,続きまして,医学教育に係る調査研究チームにおける検討の方向性について,チームリーダーであります名川先生から,15分程度ご説明をお願いいたします。よろしくお願いいたします。

【名川委員】  東京大学の名川でございます。よろしくお願いいたします。

 資料2をごらんいただきまして,これに沿ってご説明させていただきたいと思います。

 先ほどご案内のございましたように,先月,先導的大学改革推進委託事業ということで,東京大学から応募させていただきまして,選出していただきまして,調査研究チームが立ち上がったところでございます。

 時間的な関係もありまして,もう既に8月2日に1回目の会合を持っております。最初の資料2の1枚目にありますように,これは前回の会議でもご案内がありましたけれども,大学のほうで改訂素案の作成,評価システムの検討を行って,この専門研究委員会に上げるというのがミッションでございます。

 実施体制につきましては,下の段の調査研究チームに掲げてございます。国公私立,あるいは一般病院・有識者等,全部で13名から成るメンバーで検討を開始しております。

 1枚めくっていただきますと,先導的改革推進委託事業の内容が書いてございます。これは後ほど歯学関係の荒木先生からもご説明があるかと思いますけれども,これは同じ調査研究テーマでございまして,医学・歯学教育の改善・充実に関する調査研究ということでございます。検討項目としては2項目ありまして,モデル・コア・カリキュラムの改訂に係ること。もう一つは,臨床実習等に係る評価システムの構築に係ることという2項目になってございます。

 最初の項目のモデル・コア・カリキュラムの改訂に係ることに関しましては,大きく3つの方向性で検討を行うことを考えております。1つは,国内外のカリキュラムの実情を調査する。各大学の意見反映をする。社会的ニーズを十分に検討の対象とする。これまでの改訂に関する検討も踏まえて改訂素案の作成を行うということでございます。

 これまでの改訂に関する検討と申しますのは,具体的に申し上げますと,平成21年5月の「臨床研修制度の見直し等を踏まえた医学教育の改善について 医学教育カリキュラム検討会 意見のとりまとめ」,通称検討会の意見と言われておりますけれども,この内容をまず検証して,必要な部分を取り入れていくと。その中身につきましては,その下の項目に書いてありますように,大きく3つございます。臨床実習の系統的・体系的な充実。2番目が,地域の医療を担う意欲・使命感の向上。研究マインドの涵養でございます。

 その次のページ,社会的ニーズに関する部分につきましては,これまで言われているものは医療安全,医療倫理,チーム医療,男女共同参画等に対応した教育でございます。医療安全,医療倫理,チーム医療につきましては,既に今のモデル・コア・カリキュラムのA項目の中に入ってはございますけれども,それのさらなる充実という意味で検討をしていきたいと思っております。

 先ほどご案内がありましたように,資料1を見ていただきますと,私も先ほどご説明のときにこの内容を見ていたんですが,日本医師会からは,一番下の行にありましたけれども,男女共同参画やワークライフバランスについての講義を必修とするようにというような要望書が来ておりますので,これもぜひ検討させていただきたいと考えております。

 2ページ以降の部分につきましては,放射線医学・科学の基礎を体系的に身につけられるようにしてほしいという要望書でございまして,これは今,拝見いたしますと,非常に具体的に,3ページでは,例えば放射線と放射能の種類,性質,測定方法,単位について説明できるとか,このままモデル・コア・カリキュラムに使えそうな文言で提示されております。4ページに関しましては,マル4のところに到達目標という形で書かれてございます。7ページ以降は,拝見しますと,共用試験の問題にそのまま出せるような形までつくっていただいているような感じでございます。この辺につきましても,ぜひ検討をさせていただきたいと考えております。

 それでは,資料2に戻っていただきまして,先ほどご案内がありました医学・歯学教育指導者のためのワークショップ,これは先月の28日に開かれたものでございますが,午前中にグループセッションとして1,2に関すること,午後は全体セッション,あるいはグループ別全体の報告ということで,参考の3に大体すべてのグループからの項目が掲載されてございます。

 資料2の4ページを見ていただきますと,グループ別セッションの中から,幾つか重複しておりますので,抜き出したものでございます。特別な意図を持って抜き出したわけではございませんけれども,検討させていただきたいという部分で抜き出したものでございます。基本的診療能力の確実な習得の部分では,学習環境の整備が必要だろうということで,スキルスラボの整備,あるいはe-learningの設備,こういったものが必要だろうと。それから,もう既に行っているところもあるかもしれませんけれども,医療事故に対する学生の保険が必要であろうという意見もございました。電子カルテの部分については,これから導入されるところ,あるいは既に導入しているところでの問題点等が挙げられまして,例えばアクセス権限の吟味をすべきだろうとか,学生記入用の領域を設けておいて,問題のある記述については適切な管理を行うという部分とか,あるいは個人情報の保護の問題からしますと,学生から誓約書をとっておくほうがいいだろうという意見もございました。

 その下の部分ですが,地域の医療を担う意欲・使命感の向上につきましては,具体的な方策については検討を要するかと思われますが,地域医療の魅力を伝える。それからモデルとなる医療スタイルを視覚に訴えるという意味で,ビデオを作成して,その意欲の向上に役立てる。あるいは入学後に地域医療に対する意欲・関心を高めていく。それから教育理念,地域医療学等を充実していくというような意見がございました。

 その次の5ページを見ていただきますと,これは基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養の部分でございますが,これも既に取り入れられている大学もありますし,これからというところもあると思いますが,基礎臨床融合講座を設けたらどうかといったご意見。あるいは研究室配属を充実させる。あるいは,MDPhDコースを創設したらどうか。学生なんかには卒業論文のようなものをつくらせて,研究マインドの涵養をしていったらどうかというような意見がございました。

 5ページの下のほうですが,社会的ニーズに対応した教育ということで,先ほど少しご案内いたしましたが,医療安全,医療倫理,チーム医療,男女共同参画等でございますが,これらについては教養教育,準備教育に入れてはどうかという意見。それから,卒後教育,病院機能評価,病院リスクマネージメント,あるいは法医学教室との連携が必要であろうと。この辺を構築していったらどうかという意見がありました。医療倫理につきましては,既に群馬大学で医学哲学・倫理学講義が行われている。チーム医療につきましては,旭川医大でチーム医療の講義が行われている。男女共同参画についても,旭川医大では講義を行っているというようなご意見がございました。

 1枚めくって,最後のページを見ていただきますと,これは臨床実習等に係る評価システムの構築に係ることでございます。この辺も非常に難しい問題がございますが,国内外の先進的事例を調査して把握すると。当然大学の意見反映もしていくと。これまでの臨床実習等の評価に関する検討も踏まえて検討していくということで,実際には実施履歴,あるいは評価を記録・蓄積できるようなシステム構築を考えていきたいと思っております。特に医療人としての基本的な姿勢,あるいはコミュニケーション能力,この辺をどういうふうに評価していくかという点がポイントになるかと思います。

 臨床実習等に係る評価システムの構築については,先日のワークショップでは下の段にあるようなご意見がございました。学外実習等で教育内容,評価を大学が審査していくという一体的な系統立った評価をすべきであろうというご意見。あるいは臨床実習を総括的に評価・企画する組織が必要ではないかといったご意見。それから,学生用の電子カルテを採用したらどうかと。これは先ほどの電子カルテと重複する部分がございます。学生にStudent Doctor,あるいはStudent Physicianと呼ばれているような称号を授与するときに,学生に誓いの言葉等を行ってもらって自覚を促すといったような意見もありました。それから,卒後臨床研修の評価にエポックというのが使われておりますけれども,これの学生版をつくったらどうであろうかといったようなご意見。それから,実習態度の評価としては,患者さんによる評価なんかも重要ではないかと。診療科間,実習病院間での評価の共通化を図ることも必要ではないかというさまざまなご意見をいただきました。

 なるべく早く検討を行って,素案を専門研究委員会に上げたいと考えておりますので,どうぞご協力のほど,よろしくお願いいたします。以上でございます。

【江藤座長】  名川先生,どうもありがとうございました。

 引き続きまして,歯学教育に係る調査研究チームにおける検討の方向性について,チームリーダーであります荒木先生より,15分程度ご説明をお願いいたします。

【荒木委員】  それでは,調査研究チームの歯学のチームリーダーをやっています荒木からご説明をさせていただきます。

 資料の3をごらん下さい。最初のほうは,先ほどの名川先生のご説明と基本的には変りません。このような形で,歯学は東京医科歯科大学に再委託されますが,調査研究チームがたち上がり,素案をつくりまして,この専門研究委員会にご提示いたしまして,今後,作業を進めていく予定でございます。

 調査研究チームにつきましては,歯科の場合は,1ページ目の下にありますように,8名の委員が選定されましたので,この委員と協力し合ってやっていきたいと思っております。

 2ページ目をあけていただきますと,これも先ほど名川先生が言われたように,文部科学省の先導的な大学改革推進委託事業の中の調査研究が認められました。検討項目といたしまして,医学と同じように歯学のモデル・コア・カリキュラムの改訂及び歯科の臨床実習に係る評価システムの構築という2つの大きな検討項目について検討するということで,作業を進めていくということでございます。

 特に歯科は医科に比べて社会状況が少し違います。歯学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議の第1次報告の中に,確かな臨床能力を備えた歯科医師養成方策が昨年の1月30日に報告されまして,基本的にはこの内容を検証しながら,新しいモデル・コア・カリキュラムの改訂と臨床実習の評価システムをつくっていくということで作業を進めることにしております。

 3ページ目をあけていただきますと,ここに第1次報告に書かれた大きな柱が4つございます。歯科医師としての必要な臨床能力の確保,優れた歯科医師を養成する体系的な歯学教育の実施,歯科医師の社会的需要を見据えた優れた入学者の確保,未来の歯科医療を拓く研究者の養成,この4つの大きな柱が提言として出されておりまして,これを検証しつつ,モデル・コア・カリキュラム,あるいは臨床実習の評価システムを作っていきたいと思っております。。

 先ほど名川先生が言われたように,7月28日の教育指導者のワークショップで歯科の教育指導者を一堂に会しまして,医学の先生方と皆さんで話し合いました。歯学の部分につきましても,セッションの内容は午前中は同じでございまして,モデル・コア・カリキュラムの改訂の方向性と臨床実習に係る評価の在り方についてグループで話し合っていただきました。歯学は全国に29大学あります。それぞれ1に2グループ,2に2グループの合計4グループでディスカッションをしていただきました。その報告書は参考の315ページ以降が歯学教育のモデル・コア・カリキュラムの改訂の方向性,35ページ以降に臨床実習に係る評価の在り方の歯学教育がありますので,そちらを見ていただきたいと思いますが私のほうでピックアップというか,大体大きなところを抜き書きしてみました。

 資料3の4ページを開けていただきますと,話し合っていただいたのは大きな黒の星印の4つでございますが,この基本的診療能力の確実な修得というところでございまして,モデル・コア・カリキュラムが開始されまして,このモデル・コア・カリキュラムに準じて各大学のカリキュラムを改訂していただいて,新しい教育方法をいろいろ導入して,各大学実施しているという報告がありました。いろいろな新しい内容,特にここに基礎-臨床融合型の統合科目,あるいはPBLチュートリアルの授業,シミュレーション教育,学生相互実習の実施等を新しく導入したのですが,教員と大学全体の負担が大きいというような課題が挙げられました。

 改善すべき方策として,特に基礎-臨床融合型の統合科目等をカリキュラムに入れて円滑に行うためには,基礎と臨床を統括するコーディネーターが必要なのではないか,統合講義を行える専門家あるいは教員数を増加させる必要があるのではないか,歯学系には学生の臨床実習における歯科的な診療行為として,水準1から水準4という分け方をして,それぞれの治療の内容が細かく分かれているのですが,現在なかなか学生さんが臨床実習を行う環境が整わないので,これを模倣したシミュレーション教育を実施するというようなことを項目立てていただいたほうがよろしいのではないか、というような意見が出されておりました。

 歯学教育を取り巻く環境変化を見据えた特色ある教育の体系的な実施ということでございますが,これは基本的に一番話題になったのは,歯学教育の中に医学教育的なものをもっと多く取り入れたらどうかということです。提言では出されていますが,それについての議論では,多くの大学で医学教育の取り組み自体は講義としては行っているが,何をどこまで学生に教授していいかということの基準とかコンセンサスがないという悩みがある。それから,口腔疾患と全身との関連性についての歯学系のコアカリの項目立てがないということで,どういう形で教えていいかについての課題が浮き彫りになりました。

 それに対しまして,改善すべき方策として,全身を診れる歯科医師を養成すべきではないか、新たな時代の変化に対応した歯学のモデル・コア・カリキュラムを策定すべきではないか、特に必要な内科知識,高齢社会に向かっての在宅医療,全身管理等についてのきちんとしたコアカリの項目を打ち出すべきではないか、というような意見をいただきました。

 5ページ目を見ていただきますと,これは未来の歯科医療を拓く研究者の養成ということで,研究マインドを持った歯科医師の養成のことでございますが,多くの大学で研究室の配属や研究のコース制を求めて,研究マインドを歯学生のうちから養成することには努めているということが挙げられています。しかしその多くの配属が基礎研究室が主に行われているというのが現状です。この場合,やること自体は何も問題はないですが,学生さんが臨床の勉強,あるいは臨床実習に行って,その後1年間の臨床研修を行うと,大学院の進学はどうしても臨床系のほうに行きたいということが起こるのは当然です。低学年で基礎の研究室にばかりに学生を配属しているということで,なかなか基礎系の大学院の進学に気持ちが向かないという悩みがあるとのことです。それから,これはある班が書いた内容ですので,すべての大学のすべての学生にかかわるとは思いませんが,いわゆる知的好奇心,すなわち研究をどんどん進めていきたいとか,自分で興味を持ったらそれを自分で調べていくとか,そういうことを意味している思いますが,そのような知的好奇心が低下してきているのではないかというような意見が課題として出されておりました。

 それに対する改善すべき方策として,研究室の体験をもっともっと充実させることが挙げられていました。これは多分,臨床系の研究室にも行かせたほうがいいというような意見だと思います。それから,せっかく学生さんが一生懸命頑張って,ある一定期間,研究の体験をして何らかの結果が出るわけですので、学内での発表会というのはよくやっているのですが,できれば,その中ですばらしい内容については,,日本の学術の専門学会などで学生の発表を行わせるような奨励をしたらいかがかとの意見がありました。それから,アカデミックポストを確保したらどうかという意見や、自分たちの大学だけではなかなかうまく円滑にできないのですが,他大学と連携することによって,学生のうちから研究マインドを養成していくことが今以上にできるのではないかというようなことが改革すべき方策として挙げられております。

 また,さまざまな社会的ニーズに対応した,これは医学系と同じように,医療安全,医療倫理,チーム医療,男女共同参画等について話し合っていただきました。

特にチーム医療ということについて,現場で行っている先生はもちろん皆さん多くいるのですが,教育的な立場からそのようなものを教育していく専門家がなかなか歯科にはいないという悩み、それから,医療安全の座学的なものは行っていますが,それを行っても歯科医師になったときに依然として経験の浅い歯科医師が,針刺しとか血液・体液の暴露事故などがインシデント・アクシデント・レポートに多く挙がってくるというようなことが課題として出ておりました。

 それに対しまして,改善すべき方策でございますが,学生も臨床実習に上がっているときには,職員に対して実施する研修会の開催が各大学には必ず義務づけられておりますが,ここに学生を出席させたらどうなのかというような意見、薬害について,これは医学系でも先ほど名川先生が言われましたけれども,コアカリの項目立てをすべきではないか、それから,薬害被害者の方に講義をしてもらうような試みをしたらどうか、男女共同参画は,医学・歯学の教育に,全然分け隔てがないはずなので,共同歩調でやったらいかがかというような意見が出されておりました。

 最後のページでございますが,臨床実習に係る評価のあり方につきまして,これもワークショップでいろいろ改善策をいただきましたが,歯科の場合の今一番の問題は,臨床開始時・終了時における能力の適正な評価がきちんと行われていない,あるいは行われにくいということが課題として挙げられました。それの1つの解決策の提言としまして,評価の客観性を高める努力をするべき、効果的・効率的な評価方法の確立をするべき、学生へ評価しても,絶対的じゃなくて,形成的にフィードバックをするべきではないかという意見が出されていました。また、モデル・コア・カリキュラムと歯科医師国家試験の出題基準と,もう一つ,歯科には各大学でが共同でつくった歯学教授要綱という3つの大きな教育の柱があるのですが,この3つはかなり重なっていますが,お互いに全く重なっていない,あるいは別個の項目が存在していて,整合性がとれていないことが言われていまして,それについてできる限り整合性をとるべきだという意見がありました。それから,先ほどご説明しました口腔と全身の関連領域がいろいろ不足しているが,これについては全国の各大学の実態調査をして,どのようなものがやられている,あるいはどのようなものを今後やるべきかということを調査するべきではないかというような意見も出されていました。それから,パート1,パート2というのはアメリカの歯科の試験でございますが,アメリカでは基礎の科目をパート1でいわゆる国家試験的に行いまして,それを合格した学生さんが臨床実習に上がって,臨床実習が終わるときにパート2の試験,これは臨床だけの試験でございますが,これを実施して歯科医師を育てているというような制度になっています。もちろん米国とは教育制度が違いますので,全く同じようにできるとは思いませんが,このような発想で,共用試験CBTと歯科医師国家試験に非常に似通った問題が出ているという問題点も指摘されていますので,それについてうまくシェアというか,分けるような方策を考えてはいかがかということでございます。この適正な評価のときに,指導医以外のスタッフ,医療関係者の看護師さん,歯科衛生士さん,あるいは実際の患者さんからの評価ももらうべきではないか、それから,学生自身の評価も入れてもいいのではないかというような意見をいただきました。

 以上のものを踏まえまして,実は歯科も昨日,8月4日に調査研究チームの第1回を開催しました。委員の先生8名お集まりいただきまして,先ほどからお話しました内容をを全部ご説明しまして,今後のモデル・コア・カリキュラムの改訂及び臨床実習の評価のあり方についてどんどん進めていくということを昨日話し合ったばかりでございます。

 以上,歯科のご説明をさせていただきました。

【江藤座長】  荒木先生,どうもありがとうございました。

 それでは,ただいまの名川先生,荒木先生のご説明全般を通じまして,ご質問ございましたらよろしくお願いいたします。

 どうぞ,黒岩先生。

【黒岩委員】  黒岩でございます。

 質問というよりは,問題点として,私が感じた課題について述べさせていただきたいと思います。まず,カリキュラムを考えるときに,「形」と「心」という二側面があります。「形」を変えても「心」を入れないとだめだということを,先週の7月28日のモデル・コア・カリキュラム会議でもプロセス,コンテンツ,マインドという三要素が重要であることを指摘しました。最後のマインドのところは北村先生が以前からおっしゃっているヒドゥン・カリキュラムに相当するところかと思います。先ほど話題となりました地域医療のところでも姿勢,意欲,使命感をどうはぐくむかという「心」の問題,「心」をどういうふうに育てるかという話題がありました。それに関しては,例えばリサーチマインドであれば教室配属,臨床マインドであれば臨床実習の強化であるとか,「形」を整えるということも非常に重要です。しかし一方,教授自身の意識改革であるとか,「形」ではないところの意識改革,そういうことも必要です。そのようなマインドとかメンタリティとかプロフェッショナリズムなどと言われるものをどうすべきか,「形」と「心」をどのように調和させてカリキュラムを立てていけばよいのか,そこがポイントです。

 第二に,コア・カリキュラムの定義について議論したいと思います。従来,卒前医学教育と6年まで終わった後の医師国家試験との整合性への疑義,医師国家試験で重視されているウェートと,モデル・コア・カリキュラムで強調されている医学教育との間に少しディスクレパンシーがあったのではないかという現場からの声があります。コア・カリキュラムでの項目についてCBTとの整合性,あるいは医師国家試験との整合性が十分であるのかを検証していく,そしてコア・カリキュラムの見直しにフィードバックしていくことが重要です。

 第三に,社会的な制約あるいは法律的な制約という問題があります。電子カルテの問題について、私は7月28日のモデル・コア・カリキュラム会議でも申し上げました。学生がアクセスできる範囲はレポートを書く担当患者さんだけに限定されるのか,それとも例えば眼科を回っていたら,眼科のカルテは指導医の許可のもとにすべてアクセスすることができるようにするのかが重要です。患者さんから興味本位に見られたのではないかと訴えられるとか,そのようなトラブルも想定されます。特にアクセスした記録はすべて医療情報部門で後で打ち出せば,学生さんや指導医が何を見たのか,アクセス履歴はすべて明らかにされるわけであります。今後,臨床実習を強化していくときに,何らかのトラブルが起きる可能性がありますので,深刻に検討しなければいけないと思います。

 第四に,侵襲的な医行為を臨床実習でどこまで許容するかについては,国民の目との関係を配慮すべきです。例えば私は神経内科が専門ですが,ティッシュペーパーを角膜にタッチさせて角膜反射を見るというのを,患者さんは嫌がります。舌圧子をのどに入れて咽頭反射を見るのも患者さんは嫌がります。このような神経学的な診察は外来ポリクラ実習では控えるようにしていますが,本来,そういうことも実習でできなければいけないと思います。そのためには,社会的なサポート,法律的なサポート,そういうものがどうしても必要になってきます。これは今後の重要な問題です。

 最後に,統合的なモデル・コア・カリキュラムは基礎・臨床融合的,あるいは学問分野横断的という面で,シームレスな形をとりますから,理念的には美しいわけでございます。しかし,実際の教育の現場では,オロジー派と統合派,それらの間でいろいろ賛否の議論があります。このような面も今回の見直しで調整していただくことが必要です。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,4点,5点,名川先生,ただいまのご質問といいますか。

【名川委員】  心を入れていくというのは非常に難しくて,いろいろご指導いただきたいんですが,モデル・コア・カリキュラムの中で例えば心を入れていくと記載しても心は入らないわけで,どういうふうにしていけば……。多分,心を入れるような幾つかの方策があるかと思うんですね。心が入っていくような方策を幾つかとっていくことが1つ考えられるかと思います。

 共用試験,あるいは医師国家試験との接続性,連続性,これは前々から言われていることだと思います。2つ意味があって,項目が重複しているという部分を削っていいのかどううかという観点ですね。これは今のモデル・コア・カリキュラムでは到達目標という形で示してございます。卒後臨床研修のガイドラインでは臨床経験ということで,同じような項目があっても,どこを目指していくのかというエンドポイントの部分が違うので,項目が重複していても構わないという考えもありますし,整合性を保つべきだろうというご意見もありますので,これも調査研究チームで議論させていただきたいと考えております。

 3点目の電子カルテの話ですね。これは学生さんが患者さんの個人情報を見る,見ない,これをどういうふうに個人情報を保護していったらいいのかと。これは電子カルテだから流出が多いということはあっても,紙媒体のころから当然あったわけで,ここに対する担保をより一層強化していくと。先ほどの心を入れていくという問題からすると,わりと技術的に解決がつくのかなという気がいたします。

 最後のご指摘の学体系でいくのか,横断的でいくのかという観点ですけれども,これは私の個人的な考えですが,モデル・コア・カリキュラムというのはこれがコアですということを示すのが目的であって,方策としてどういう方法をとるかという部分については,各大学の方法論でやっていただければいいんじゃないかなと考えております。

 以上です。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,荒木先生から。

【荒木委員】  今,黒岩先生から医科のことを言われましたが,ほぼ同じ内容のことが歯科でも当たりますので,私が答えられる範囲でお答えします。マインドについては,名川先生が言われたように,これはどんなに文字で伝えようとしても,一番問題なのは,現場で教育する指導者の気持ちだと思います。この部分については各大学の例えば長の先生、,あるいは教育委員会を中心として,全体として心を入れながら教育していくということをとりあえずやっていただかないと無理だと思います。それはおそらく,別の次元で,いろいろなところで教育担当の先生方がお願いしていくということをやらなければいけない、というのが私の考えです。もちろん今言われたように,研究体験で各研究室に配属すると,一生懸命,日夜真剣に研究している先生方の姿を見て,学生さんがそれをまた心で感じるものがあって自ら変わっていくとか,いわゆる師の背中を見て育っていく,そういうこともありますけれども,今の若い人達はそういうのよりは,こちら側からもう少し気持ちを強く伝えるようなものを相手に与えてやらないと,なかなか学生さんは答えてくれないというのが現実ですので,何とかうまく実現できるような方法を考えなければいけないなと思っております。

 コアカリとそれ以外,特に歯科の場合は歯科医師国家試験がございますが,歯科医師国家試験出題基準とモデル・コア・カリキュラムは正直言ってほとんど重なっています。さらに問題があるのは,歯科医師国家試験の問題の中に共用試験CBTと同じような問題が,数問出るような時代が来ています。,しかし、特に学生さん側から同じような問題が出てると言っても,各大学の先生はCBTの問題は何が出ているかというのは知りません。ところが,学生さんからそういう訴えがあると,逆にそういうことを聞いてCBTと歯科医師国家試験の問題が重なっているのがいっぱいあるのではかと思ってしまうようです。もちろん,基準を見ても重なっているものがあるので,同じような出題がされても仕方がないというのが,歯科の一番の問題点で,それぞれの改訂のときに歩調を合わせて直していくしか方法がないと思います。今般,歯科のモデル・コア・カリキュラムのほうが先に改訂時期が来ましたので。数年後には,歯科医師国家試験出題基準の改訂があるということを聞いておりますので,後で歩調を合わせていただくということになるのではないかと期待しております。あるいは歯科医師国家試験基準の関係の方々と事前にいろいろ相談して,整合性をとれるようなことを前もって考えるということも1つの方法かなと思います。あくまでも私の意見でございます。

 臨床実習につきましては,正直言って,医学系と歯学系では立場が違いまして,先ほど言われました侵襲性のある治療行為というのは,歯科の場合は,もし患者さんに歯学生が何かをやってもらうことになった場合は,ほとんど侵襲性のある治療行為になる可能性が非常に高いと思います。特に歯を削るとか,歯肉は短期間で再生しますけれども,例えば歯石を取ることでも歯肉は傷つきます。麻酔を打たないと歯は削れないとか,かなり侵襲性の高い治療行為が歯学生の臨床実習にはあります。どちらかというとこれらの侵襲性のある程度高いものが水準1で学生自ら行うべきだということになっているんですが,この部分についてどうしても患者さんのご理解が得られない,それから法律的なもので,違法性の阻却がかなり問題になってきます。以前に違法性の阻却等については,一定の条件が整っていれば大丈夫だということについては報告がなされているんですが,なかなか全国29歯科大学の方々全部がコンセンサスが得られないということで,学生さんが患者さんに侵襲性のある治療行為を学生のうちから行わせるということがなかなか行えない状況です。そうすると,基本的に歯科の場合は全部見学となってしまいます。これだと歯科の場合は技術が8割から9割ぐらい必要ですから,全然臨床技能の教育にはならないというのが一番の悩みでございます。

 最後に統合のカリキュラムにおけるオロジー派と統合派の件ですが、これは医科も歯科も同じで,モデル・コア・カリキュラムができたときに何とか学という名称が全部消えてしまいました。,そこから新しい概念でカリキュラムをつくっていくときに,例えば東京医科歯科大学では最初非常に抵抗がありましたけれども,何とかクリアできました。,ここでまた新しくカリキュラムを改訂する中で今のようなお話が出てくるのはよく理解できます。,ただ,できる限り歯科はオロジーよりは統合のほうをやったほうがいいのではないかなという意見のほうが多いとは思いますが。ただ,今言われたように,オロジーの考え方を持っている先生方は特に基礎系の先生に多いので,その辺のことは、ご意見をいろいろ聞いて考えていきたいと思っています。

 以上でございます。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 ほかに。どうぞ,宮村先生。

【宮村委員】  私は開業医というか,歯科医師会から参加させていただいているんですけれども,その観点から申し上げますと,もちろん歯学のほうですけれども,荒木先生に,この資料3の4と5なんですけれども,私たちが特に思うのは,社会の環境の変化と社会ニーズに合わせるという,4ページと5ページにあるところが特にコメントしたいんですけれども,つまり社会環境ということは高齢社会になったということで,高齢歯科医療,特に在宅診療というのが4ページにありますね。これはぜひとももう少し濃く進めていただきたいというのが1つございます。

 もう一つは,社会ニーズの中の5ページの下の段のチーム医療なんですけれども,チーム医療の専門家がいないというのはどういうことなのかなと思うんですけれども,チーム医療の現場を知っている人がいないということなのかなと思いますけれども,僕らとしては,今,厚労省でチーム医療の推進会議にも私,出ていますけれども,チーム医療というのは,そこに書いてあることは,例えば病院横断的なチーム医療,あるいは地域横断的なチームとして,医師と歯科医師を中心として医療スタッフが機能分担というか,協働しながら連携するというのをチーム医療というわけですから,専門家はないと思うし,チームリーダーは少なくとも医師だと我々は認識しているし,厚労省もそういうふうに認識している。そうすると,これはぜひとも進めていただきたいんだけれども,現場をという意味で医療の専門家がいないならば,まさに荒木先生の医科歯科大学とか,医学部と歯学部があるところが少なくとも最初,院内横断的なチーム医療をどんどん進めてもらわないと,大学がサボっているんじゃないかなという気がするんですけれども,結論はチーム医療と在宅高齢歯科医療をコアカリの中にもう少し濃厚にしていただきたいというのが要望の結論ですけれども,チーム医療についてはぜひ大学が頑張ってほしいという気がします。

【荒木委員】  ありがとうございます。在宅医療につきましてはまさしくそのとおりで,モデル・コア・カリキュラムがつくられたときも,実質上は高齢社会になってきたことは予想されていましたけれども,あれから10年たって現実にそういうことになっていますが,歯科のモデル・コア・カリキュラム上は高齢者歯科医療は非常に薄いと思います。各大学の実情を聞きますと,間違いなく在宅医療についての知識だけでなく実践も学生さんにも経験させるという取り組みを行っている大学も,特に地方大学を中心にございます。ただ,コアカリに書いてないと,どうしてもやらなくてもいいんじゃないかとか,教えなくていいんじゃないかとか,薄くていいんじゃないかという考え方を持つ方々もおられますので,ぜひここは今回の改訂にはかなり強く入れたいというのが私たちの希望でございます。

 もう一点は,ほんとうにお恥ずかしいのですが,多分,先ほどの資料を書かれた人は皆,大学の先生方がお集まりになってやった会議での討議でして,今,宮村先生が言われたように,大学としてそういうことを積極的にやっているのがほとんどないというのが現実だと思います。ご自分たち所属の歯学部附属病院の中で診療をやるというのが主なので,医科の先生たちと協力して在宅で何かやるとか,そういうことについての経験がほとんどないと思っています。お恥ずかしいのですが,東京医科歯科大学歯学部付属病院でもはっきり言って今のところ積極的に在宅医療を行っていません。ただ,現在,,新しくカリキュラムを改革して,医科と歯科がもう少し融合したカリキュラムを多くつくるということで努力しております。チーム医療の経験を学生のうちから行うことにしています。,もちろん医学生にも歯科のことを見てもらうし,歯学生が医科のことを見てもらうとか,そういうことをどんどんやるようなカリキュラムを作っています。それをオープンにして,ほかの大学にこの試みを参考にしてもらうように,すなわちモデルになると一番いいなと思っています。チーム医療につきましては,全国的な取り組みについてもう一回よく調べてみたいと思います。ありがとうございました。

【宮村委員】  了解しました。ありがとうございます。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,少し時間が押していますので,北村先生まで。

【北村委員】  黒岩先生がおっしゃったマインドの話で,ちょっと冷めたことを言って恐縮ですが,医の心というか,プロフェッショナリズムの教育は極めて大事です。これは大前提です。ただ,今議論しているカリキュラムに書き切れるものかどうか冷静に考えたいと。心の教育というのは大事なんですが,カリキュラムに落とし込むと,結果,評価,到達目標に達したか達していないかということを考えるようなカリキュラムになっています。心がいい心になったかならないかをどうやって判断するか。評価すらできないことをカリキュラムに書くと,かえってカリキュラムそのものが空文化します。だから,コア・カリキュラムのところは,僕は例えば前文とかそういうところにしっかり書くのであって,細かいところに何々ができるとか,何々について述べることができるというようなことは書き切れないのではないかと思います。

 先日開かれた医学教育学会においても,プロフェッショナリズムという言葉を使われていましたが,心の教育が一番大事なことで,多くのシンポジウムや特別講演が開かれていて,世界的に一番大事であることは論をまたないんですが,カリキュラムというか到達目標にできるかどうかは,ぜひ研究会で検討していただきたいなと思います。

 チーム医療に関しては,言葉ばっかりでなんですが,インター・プロフェッショナル・エデュケーションということで,いろいろな看護師等を含んだ教育という環境を今考えているところなので,その中にどんどん盛り込んでいったらいいと思っています。

 以上です。

【江藤座長】  ご質問ですか。

【伴委員】  いや,ちょっとコメント。

【江藤座長】  どうぞ。

【伴委員】  名古屋大学の伴でございます。

 今,出てきたディスカッションについて,少しだけ私のところを追加させていただきたいと思うんですけれども,どういうふうにカリキュラムに書くかというのはテクニカルな問題はありますけれども,プロフェッショナリズムというのは世界を通じて心の問題が一番大きなところで,技術とか知識に走り過ぎてというところで出てきているテーマだと思います。プロフェッショナリズムという言葉をどう表現するかは別にして,ぜひ今回のコア・カリキュラムの1つの大きなテーマに据えていただく必要があると思います。

 実習とかに関しては,歯科からもご意見が出ていましたけれども,実際に身につく知識というのは経験しないと獲得できないわけですので,いろいろな社会的事情とかありますけれども,それに対するシミュレーション教育というものを入門的にやった段階で患者さんに接するようにする等、いろいろな学び方も工夫されてきていますので,とにかく臨床実習を推進する,学生が参加するという方向で,国民への訴えかけも含めて進めていく方向での検討をしていただきたいと思います。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,最後に福田先生。

【福田副座長】  先生方のご意見,どうもありがとうございました。

 心の問題,プロフェッショナリズムのことですが,この委員会の委員でもあられる辻本さんにこういうカリキュラムをつくって,先生方自身はどうなんだと鋭く言われまして,まさにそのとおりで,じくじたる思いで聞きましたが,いい手本を示せるように頑張りたいと思っていると応えたところです。

 もう一つは,モデル・コア・カリキュラムの改訂版が19年に出ました。そこに今お話があったプロフェッショナリズムをどうきちんと記載すべきか,掲げる目標が既に示されておりますので,これをもうちょっと洗練されたものにしていきたい。歯のほうでこれを同じようにつくっていただいていますが,これで十分かどうかはご検討いただきたい。

 2点目は,モデル・コア・カリキュラムを作成したときに,学体系の話が出ましたので,実際どうだったんだということをお話ししますと,初め学体系でつくりました。それでつくった原稿が,床から積み上げたら,大変な高さの膨大なもになりました。それを出したら,高久先生以下,そのときの協力会議で何だこれはということで,これではコア・カリキュラムにならないでしょうということで,最終的には約1,400項目に圧縮いたしました。ところが,圧縮の程度に濃淡があって,もうちょっと簡単なものにすべきであろうというのが1つ。それから,統合型の形として提示されたけれども,このこと自体は,書いてありますけれども,これ自体が授業科目を意味するものではないことです。それから,授業の順序を意味するものでもないとです。だから,この辺の判断は,この記載された趣旨を各大学の判断によってやっていただければいいということになっております。指導要領みたいに授業科目の中でも設定するものではないということは改めてご理解いただく必要があると思っております。よろしくお願いします。

 以上です。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,これで議題1は終了とさせていただきます。名川先生,荒木先生におかれましては,資料1の先ほどの要望書でございますが,この要望書の内容を含めまして,国内の社会的ニーズを念頭に置かれて,今後改訂素案の作成に向けて調査研究をよろしくお願いいたします。

 なお,調査研究チームにおける検討状況につきましては,今後の本委員会におきまして,適宜経過報告をお願いしたいと思いますので,引き続きよろしくお願いいたします。

 それでは,本日の議題2でございますが,関係者からのヒアリングをいただくということでございます。本日は3名の方にお越しをいただいておりますが,先ほどご説明しましたとおり,まず,3名の方々から順番に15分ほどご意見を伺った後にご質問をいただくということにしたいと思います。

 まず,日本医師会の常任理事をされております保坂シゲリ様からご意見を伺いたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

【保坂氏】  よろしくお願いします。

 資料の1の最初のところに日本医師会,私どもの会長からの要望書がついておりますけれども,その内容についてご説明すると思っていただいてよろしいかと思います。

 ちなみに私は,こちらにたくさん委員として出ていられる東京医科歯科大学の出身の小児科医でございます。

 資料の4を見ていただきたいんですが,非常に簡単な,本日のお話にはふさわしくないような中学生の資料のようなものでございますので,少し肩の力を抜いてお聞きいただきたいと思います。ご存じのとおり,医師国家試験の合格者の男女比はだんだん上がってきておりまして,ただ,この10年ぐらいは大体3割台,全体の3分の1ぐらいで経過しておりますけれども,これにはおそらく入学定員の中の女性をある程度絞っているという部分もあって,3分の1が女性ということは皆さんもご存じのとおりでございます。大学によっては,医学部の学生さんの中で5割を超えているところもあるということもご存じのとおりでございます。

 1枚おめくりいただきますと,2番目に女性医師数の推移が出ております。この赤線のグラフにありますように,割合がどんどん増えております。ここには出しておりませんけれども,女性医師の割合が増えることによって,医師全体の数は定員を増やしているので増えているのでございますけれども,若い医師の中の実は20代の男性医師はこの何年か減っていたということがございました。女性医師は非常に増えていたというところがございまして,とにかく日本の医師の中の女性の割合が爆発的と言ってもいいくらいに増えているのが現状でございます。

 次の3番,2の下でございますけれども,女性医師の活動率,ちょっと古いデータでございますが,見たものでございます。ピンクが女性医師の活動率でございますが,黄色が一般の女性の活動率でございまして,ごらんになっておわかりのように,大体30代のところで1つ大きなくぼみがあって,またどんどん社会に戻っていくということでございますが,女性医師の場合も30代にへこんで,それが一般の女性に比べまして戻りがちょっと遅うございまして,最後に40代になって戻っていくということで現在推移しているところでございます。

 そういうことも踏まえて,女性医師について就業を支援しなければいけないという視点から,平成18年の11月に医師再就業支援事業を始めようと厚生労働省が思われて,その委託先として日本医師会に委託がされたところでございまして,平成18年11月からその事業を私ども日本医師会でやっております。

 この医師再就業支援事業という名前は,医師不足の折に家庭で眠っている医師を何とか連れ出そうというような視点で始まったものでございますが,実はそれはあまり意味がなくて,今働いている女性医師が継続して働くことができるような形にしなければ,眠っていた人は連れ出してきてもほとんど役に立たないというようなことでございまして,それから眠っている人もあまりいないと。必要がないのに眠っている人はあまりいないと。家庭の事情等でどうしても仕事ができないとか,ご本人の意欲がないとか,そういうことでございますので,ということで始まったものは,女性医師の就業の継続ということに視点が置かれたものに変わっていきました。

 平成19年の1月に女性医師のお仕事をしていないか,あるいはパートで仕事をしているのが常勤になりたいとか,あるいは出産・育児に伴って,今のところの常勤の仕事は無理なので,自分が仕事ができるような場所に移りたいとかいう方のニーズを満たすため,あるいは仕事上のいろいろな悩みを聞いてあげるということのために,女性医師バンクというものを開設しております。そこで今,数字を持ってきておりませんけれども,現在までに二百数十名の就業の成立をさせています。バンク以外の事業もやりまして,そのことは後でご説明いたします。

 平成21年の4月から就業あっせんだけではなく,すべての女性医師の支援に関わる試みをするということを目的に,女性医師支援センター事業と厚生労働省の事業名を変えていただきましたので,私どものところにも今,日本医師会女性医師支援センターというものがございます。

 そこと、日本医師会の中には男女共同参画委員会という会内委員会があるんですけれども,こことの共同で,女性医師の勤務環境の現況に関する調査というのを2008年の12月から2009年の1月に行いました。全国の全病院に依頼しまして,病院に勤務する女性医師に調査票を配付していただきまして,無記名で回答してもらって返送していただきましたが,病院から配付したアンケート数を言っていただきまして,その中でこちらに直接戻していただく形だった回答数を見ますと,約1万5,000配っていただいて7,500の回答があったということで,約50%の回答率ということで,おそらく日本で初めての全国的な女性医師の調査であったと思っております。

 その結果,何がわかったかといいますと,次のページを見ていただきますけれども,実働勤務時間,宿日直日数,休日日数などから多くの女性勤務医師が過酷な勤務環境にいる。勤務医全体の勤務環境が厳しいことや,医師の勤務・労働に関して,法についての十分な理解がないこととともに,若い女性医師には非正規雇用の立場の人が多いこともあり,出産・育児について法の保護を十分に受けられていない。育児・家事について配偶者の協力は,配偶者が医師である場合には,非医師である場合よりも得られる場合が低い。多くの女性医師が求めているのは医師全体の勤務環境の改善であり,そのための医療への財政投入,それによる医師不足の解消,勤務医の身分の確立である。多くの女性医師は出産・育児を経ても働き続けられる環境の整備,また,一時休業せざるを得なかった場合の復帰支援を求めている。出産・育児についての支援策として,24時間・病児保育を併設した院内保育所の普及のほか,さまざまな保育サービスの利用に対する補助及び学童保育の充実を求めている。多くの女性医師は意志決定にかかわる立場・指導的立場に女性が少ないことに問題を感じ,男性中心の医療界の意識改革を希望している。ここを見ましても委員に女性は一人もいらっしゃいません。医療界の上のほうの方に女性はあまりいないということがよくおわかりかと思います。

 そこから基本的に必要なことは何かということで考えて,私たちのテーマを決めたわけでございますが,医師全体の勤務環境の改善,医療への適正な投資,指導的立場,意志決定機関への女性の参画が必要であろうということで,それについて具体的に私たちができることは何かということでいろいろな試みをしているんですけれども,1番目に,病院管理者や病院長への啓発。2番目に法律の整備など。3番目,若い女性医師,女子学生への働きかけ,キャリアモデルの提示等。4番目,就業継続支援。5番目,再研修支援。6番目,出産・育児支援。

 私たちはこの若い女子学生への働きかけというのをやっているんですが,これを最初にやったとき,これは厚生労働省の委託事業だったもんですから,学生は文部科学省の分野だから,この予算を使っちゃだめだと最初言われまして,この予算を使ってはできなかったんですが,余計な話ですけれども,交流人事で文部科学省の方が厚生労働省の課長に,医政局医事課が担当課なんですけれども,いらしたときに,いいんじゃないのということになって,今は女子学生への働きかけもこの事業の中でやっておりますが,そういうことの中で,大学教育の中でやらなければ,ほんとうは高校生のころからやらなければいけないということはもうわかっているんですが,私たちが高校生のところまで手を伸ばすことはなかなかできないので,医学部の学生さんにぜひいろいろなことを教育しておきたいということで,コア・カリキュラムにそういったことを入れていただくということをもう何年か前からお願いしておりまして,今回,正式にお願いできるような運びになったところです。

 次のグラフを見ていただきたいんですが,これが衝撃的なものでございます。アンケートに答えていただいた女性医師の結婚している方の7割が配偶者は医師でございます。その医師である配偶者がいかに協力の度合いが低いかということがはっきり数字で出ております。1枚目のところは,全年齢においてですけれども,一番上が医師,医師じゃないにかかわらないもので,2番目のところが医師,3番目のところが医師以外でございまして,ブルーがまあいいでしょうというので,赤はちょっと不満であるというか,そういったものでございますけれども,明らかに医師と医師以外では差があるということで,次のページを見ていただきますと,年齢別の家事や育児への協力度についてのグラフでございますけれども,年齢が上がるに従って協力する度合いが少なくなってくる。今の若い人は比較的協力の度合いが高いけれども,どの年代でも配偶者が医師の場合が医師でない場合に比べて協力がない。特にごらんになっていただくと,40代,50代は,医師である人と医師でない人の協力度の差が大きい。なぜ医学部の教育の中に入れていただきたいかということの理由のもう一つは,そうすることによって,40代,50代の教える側の意識の改革もぜひしていただきたい。それをしない限りは全体の意識の改革はできない。女子学生だけにこのことをやってもだめで,男子学生と,今教えている40代,50代の方もこのことを理解して,医療界全体がこういうことを理解していくことが,女性医師を生かしていくということだけではなくて,男性医師のクオリティオブライフといいますか,そういうものを高めて,今,心が大事というお話が出ておりますけれども,ほんとうに心を持った医療ができるようになる人材を育てていくことにつながるのではないかと思いますので,ぜひよろしくお願いします。

 以上でございます。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,続きまして,大阪大学医学部附属病院の中央クオリティマネジメント部長で教授でいらっしゃいます中島和江様にご意見を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

【中島氏】  よろしくお願いいたします。私の資料は資料5でございます。 私は医療安全に関する卒前教育について,これまで私自身が大学で10年間,この領域を教育した経験と,最近の海外の動向を踏まえて,お話しさせていただきます。

 コアカリにおいて医療安全は,1ページの左の2つ目のスライドにありますように,安全性の確保と医療上の事故等への対処という2つの項目から構成されています。安全性の確保につきましては,病院の医療安全管理体制に関する知識であり,事故等への対処につきましては,事故後に正直に患者さんや家族に説明や謝罪をすることや法的責任のフレームワークについての教育です。

 私自身は大阪大学において,ページ左の一番下にございます医学部3年生,これは正確には医・歯・薬合同で,医は医学科と保健学科がございますが,3年生に対しまして,「生命倫理・法・経済」という科目の中で,平成17年度から医療安全,90分一コマの講義を担当しております。また,医学部の5年生に対しては,「臨床医学特論」という科目で,ヘルスケアリスクマネジメントというタイトルの講義を60分,3コマで担当しており,平成11年から今年で12年目になります。また,他大学や大学院においても教育の機会をいただいており,CBT問題のブラッシュアップの委員にも参加させていただいております。

 医・歯・薬合同の「生命倫理・法・経済」は,ページ右側の真ん中のスライドにございますような講義から構成されており,その中の一つに医療安全があります。これら学部の3年生に対しましては,講義内容として,重大な医療事故事例の紹介で学生に目を覚ましてもらった後,ヒューマンエラーを具体的に理解してもらい,そして,システム指向の安全対策とは何か,さらに,チームにおける安全を確保するときに,コミュニケーションをはじめとするノンテクニカルスキルが非常に重要だということを90分で講義をしていす。ここでは人間の特性と限界を認識させることに焦点をあてています。

 資料の2ページになりますが,ここにありますスライドは講義スライドの一部ですが,人間の特性と限界を理解させるためにクイズを行ったり,また,写真にありますような「ものを取り違える」という同じエラーでも,これにはさまざまな,例えばPerceptual confusionであるとか,Blends and spoonerismsとか,confirmation biasなど,それぞれメカニズムが違っており,従ってその対処方法も違うんだよ,ということを説明しています。人間の能力の特性と限界を理解したうえで,次に「エラー防止をどうする」ということに進むようにしています。

 2つ目のテーマであるシステム指向の医療安全対策では,医療現場には日常生活以上にエラーを誘発する状況がたくさんあるため,注意力だけに頼らないさまざまなシステム指向の対策が必要である。すなわち医療現場はマルチタスクであり,予期しないことがしばしば発生し,仕事が中断されることも日常茶飯事で,さまざまな職種の人たちと働く中での安全の対策の基本的な考え方を教えています。

 また,2ページ目の右の一番下ですが,大きな事故の中には,コミュニケーションやチームワークに問題があるものも見られており,このような事故を回避するためには,チームにおけるノンテクニカルスキルが非常に大事なんだということも伝えています。3ページ目の資料をごらんください。左側の真ん中ですが,これは講義に使用しているビデオで,先ほど事務局から皆様に配付していただきましたが,現役の英国のパイロットが奥さんを通常の耳鼻科の予定手術で亡くしたという医療事故の実話です。これは麻酔の導入時に気管挿管が非常に困難になって,バッグ換気もできず,緊急気管切開の適用の場面であったけれども,知識も技術もある非常に誠実な医療チームの人たちが,気管挿管という一点に取りつかれて,周りでそのことの重大性に気づいていたナースもうまくそれを言葉にできず,この重大事態を回避できないで患者さんが亡くなったということを示したビデオであります。こういった具体的なものを通じて,医療チームの中でも,例えばコミュニケーションで情報を伝達するとか,患者さんや家族とうまくコミュニケーションをとるという以外のいわゆるノンテクニカルスキル,状況認識,意思決定,コミュニケーション,チームワーク,リーダーシップということを比較的若い時期の学生さんに伝えるようにしています。

 このような結果,教育効果につきましては,3ページ目の右の列でありますが,ヒューマンエラーについて理解できたかどうか。HI大学というのは兵庫医療大学の看護系の2年生の学生さんです。O大学は大阪大学の先ほどの医・歯・薬合同で,Tは東京大学の5年生の医学部の学生さんですが,エラーについては学部,学年を問わず,比較的ちゃんと理解できている。システム指向の安全対策につきましては,臨床的な例も多いことから,東大の医学部の5年生の方の理解は比較的高いわけですが,それ以外の人たちはちょっと難しい。そして,先ほどのノンテクニカルスキルについても,学部,学年を問わず理解がよいという結果が得られています。

 4ページ目をお願いいたします。左側の真ん中ですが,先ほどのノンテクニカルスキルに関する教育をいつ実施したらよいかと学生に尋ねたところ,学生の間もしくは研修医になってから,学生であれば,4年生もしくは5年生でした。また,フリーコメントで多く見られたのは,それぞれの時期に繰り返して学習することが必要だというものでした。また,医療安全講義全体に関する感想として,Patient Safetyについては,1つの科目としてやってもやり過ぎではないというPatient Safetyのカリキュラムの充実を要望するものまた,ヒューマンファクター,人的要因に関する学習はもっと早い時期に行う方がよいというものもありました。歯科の学生では,ノンテクニカルスキルの教育は医師だけで行うのではなく,歯科衛生士を含めたインターディスプリナリー(他領域の学生と一緒)なエデュケーションが要るという指摘もありました。また,最後に右側の一番上のスライドにあるように,学生に対して「日常生活を含めてチームで何かを行っていた時に大きな失敗を経験したことがあれば,失敗の直接原因となったエラーやノンテクニカルスキル上の問題を指摘し,根本原因を追求し,二度と人生で同じ失敗を起こさないようにするためにはどのようなシステムや訓練方法が必要か」というレポートの課題を出しています。身近なエラーから入り,引き続いて医療の内容に入っていくという流れや,このようなレポート課題は「医療安全」を教育する際に非常に有効ではないかと思っています。

 次に4ページの右の真ん中ですが,これは医学部の5年生に平成11年度から行っております60分を3コア実施する講義です。臨床医学特論という科目には,診療科の枠を超えたテーマに関する講義が,この中で行われております。医療安全につきましては,右の一番下ですが,コアカリの中に述べられているような内容をレクチャーしていますが,用語の定義や事故の頻度などの知識を身につけてもらうことも大事ですが,医療安全マインドの教育とか,日常診療との関連性をかなり強調するようにしております。

 次のページ,お願いいたします。これら一連のスライドは講義内容ですが,失敗を共有することの重要性であるとか,エラーの原因となった根本原因の分析を教えていますが,ここでは分析のテクニックよりもシステムの構造的な問題に迫ることができるような力を養うようにしています。なぜなら,医師が患者さんの病気を診断し治療するということは大切な仕事ですが,同時に,リアルワールドの診療現場のシステムに潜む問題についても根本原因を追求し,自らがリーダーとなって問題解決ができるような能力が求められるからです。

 また,患者さんとの信頼関係,倫理性の確保,透明性の確保の重要性も盛り込んでいます。

 さらに,右の一番上では,診療における臨床能力が医療安全の本質であることから,外部講師としてご自身の医療機関で通算200回以上,研修医に対する問題解決型勉強会である通称,「寺子屋」を開いている医師を招聘し,医学的な問題点,コミュニケーション上の問題点,医療安全上の問題点について,実践的な教育も行っております。

 また,学生からは医師賠償責任保険に関する講義のリクエストも多く,保険に関する内容も入れておりますし,また,昨今話題になっておりますような医師法21条や医療安全調査委員会等,医療安全の推進に関する法社会制度のあるべき姿等についてもディスカッションを行っております。

 6ページをごらんください。いろいろな試行錯誤をやってきましたが,うまくいかなかったこともあります。例えば,医学部3年生に公衆衛生実習の一貫として数カ月間,薬剤のインシデントのプロセス分析をやったことがありますが,学生は診療現場の業務プロセスを知りませんので,指導が困難でした。また,5年生にロールプレイとして,「患者の診療で困り,夜中にPHSで指導医に応援を求める」という情報伝達の仕方をやってみましたが,なかなかうまくいきませんでした。また,学生の要望に応えてインフォームドコンセントとか,医療事故の法的責任に関する講義を,最前線の医師や弁護士に行っていただきましたが,自分達でリクエストしたわりにはきょとんとして聞いており,医学的知識や実務知識が足りない段階で何を教育するのかということについては,よく考えないといけないなと感じた次第です。

 左の一番下のスライドにございますイリノイ大学のDavid Mayerという医療安全教育を熱心になさっている方が,うまくいかなかったことについて,教育内容と時期をどうするかということ,それから医療安全の教育者としてロールモデルとなる講師を内外に探すのが難しいこと,それから,チームで学習する,また専門の異なる学生が一緒に学習するということ等を挙げています。また,学生の関心は国家試験に出るのかどうかということであったという点も挙げています。

 最近になって,諸外国から医療安全のカリキュラムが提案されています。6ページの右側の真ん中にありますのは「Telluride Interdisciplinary Roundtable」,これはコロラド州のテルライドというところで医療安全のカリキュラムを何とかしたいという関係者が集まって,2005年と2006年にラウンドテーブルでディスカッションした結果です。6ページの右の上は,Teaching and Learning in Medicineに掲載された論文をもとに私が表にしたものでありますが,医学部入学の早い時期から臨床実習を行う時期に至るまでに,学習すべき11の項目が提案が提案されています。

 具体的には,その下のスライドにありますような,まず重大な事故の歴史を語り,次の7ページの左上ですが,異なる職種から構成されるチームワークスキルや時間やストレス管理,これは先ほど出てきました,いわゆるノンテクニカルスキルの教育に当たります。

 それから,4番目の医療のマイクロシステム,これは先ほどご議論がございましたが,オロジーとかサイロと呼ばれるような診療科目別や職種別に行われている教育だけでなく,現実社会にある医療機関や医療チーム等のシステムの中で仕事をすることに関する教育が必要だとしています。また,5番目には電子カルテ等のITの有用性やリスクがあります。

 6番目には,エラーというのはあくまでも認知心理学や人間工学,脳科学,行動科学等のサイエンスとして教育するべきである。7番目のコミュニケーションは,医療従事者間で患者さんの診療に必要な情報を伝達する際にどのようにエラーを予防するかということが挙げられています。

 8番目には,フルディスクロージャー(全面開示)について,9番,10番目には,日本ではほとんど言われておりませんが,先ほど少し申し上げました,医師は病気を直すだけじゃなくて,医療現場に潜むシステムの問題も直していく能力も身につけるために,いわゆる「クオリティ・インプルーブメント・プロジェクト」に関する教育や実習が盛り込まれています。

 8ページの右の真ん中ですが,医療安全の大枠の教育方針として,今後いろいろな職種に分かれていく学生達が一緒に学習できるような機会,interprofessional educationが必要だとしています。これはみんなで仲よく一緒に勉強するプロセスが重要なのではなくて,知識,価値観,倫理観を共有して,将来,医療従事者としてお互いに尊敬し合えるようになることが目的とされています。

 それから,longitudinal curriculumが必要で,我が国では医療安全については,おそらく横浜市立大学しか1年生から6年生までを通したカリキュラムを持っておられないと思いますが,単発の講義ですませないことが求められています。また,皆よりも熱心に医療安全を勉強したいという学生には,将来の医療安全のリーダーになれるような選択コースを設けるように提案されています。それから,教育方法については,みんなで汗をかいて行ったこと(グループワーク,ロールプレイ,シミュレーション等)に対して,リアルタイムにフィードバックができるような仕組みがあれば,学習の効果が大きいとしています。さらに,学生の能力評価においては,個人としての優秀さだけではなく,チームのメンバーとしての能力についても評価するべきであると提案しています。

 8ページの一番下ですが,アメリカのNational Patient Safety FoundationにLucian Leape Instituteが設立され2010年3月に,卒前卒後教育における医療安全を充実させるために,医学部長及び教育病院長が行うべきことが提案されています。具体的な内容は資料に書かれているとおりですが,プロフェッショナリズムは1つのキーワードになっており,卒前と卒後を通して医療安全に必要な知識,技術,態度を身につけることができるような教育をきちんと行いましょうというメッセージです。教育内容には,コミュニケーションやリーダーシップなどのノンテクニカルスキルが盛り込まれています。重要な指摘として,医学部長や病院長が「医療安全」を大切なこととして認識すること,大学や病院の認定基準に医療安全教育・トレーニングを盛り込むこと,医療安全教育を行うことに対する教員や指導医へのインセンチィブの付与,医療安全を教えることができる医師の養成等が必要であると言っています。また,9ページ,左の上,医療安全は,小手先のトラブル対策ではなくてサイエンスだということが強調されています。このような提案を受けて,カリキュラムの変更に着手した米国の医学校が23校あり,これらの大学名は報告書の中に列挙されています。 

それ以外にも,9ページの右側ですが,イギリスでも下院が医療安全に関する教育・トレーニングが卒前教育として十分に行われていないという報告書を2009年に出しており,特に,ノンテクニカルスキル,すなわち意思決定,チームワーク,コミュニケーション等の教育や,日常診療における診断に関する教育を,今後の医学教育のカリキュラムに盛り込むように提言しています。

 それからWHOも2009年に医療安全に関する卒前教育のカリキュラムを発表しており,本日出てきたような内容に加え,患者参加や手術領域の安全性等を含め,スタンドアローンで教育できる項目が11項目提案がされています。

 最後のまとめのスライドです。これまで各国で医療安全教育の体系化やカリキュラムが検討されてきましたが,2009年,2010年になって海外から具体的な提案がなされています。我が国でも,現在のコアカリにある医療安全の内容を充実させる時期に来ています。学生時代に,医師になってからより安全な診療を行うことができるような知識,技術,態度を身につけておく必要があります。そのための医療安全の教育は,病院の医療安全管理者の業務内容の紹介ではないと考えます。医療安全はヒューマンファクターやシステムに関する科学として教育されるべきでありそのような観点から,医学部の6年間で教えるべき内容と時期また最適な教育方法を検討する必要があります。教育内容の中には,医療チームのパフォーマンスを向上するようなノンテクニカルスキルの教育や自分の職場においてシステムの問題を解決できるようなクオリティ・インプルーブメント能力の開発も含まれるべきだと思います。以上です。ありがとうございました。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,最後,大阪大学歯学部附属病院の副病院長で教授の村上伸也様,よろしくお願いいたします。

【村上氏】  大阪大学の村上です。先ほど歯学からの資料の3に触れられておりましたけれども,そちらで医と歯の連携ということで話題が提起されておりましたけれども,今回,私,専門が歯周病の臨床教育研究を担当しておりますので,歯周病のほうから歯周病と全身状態の関連ということで,それをベースにした医学・歯学の新しい連携が模索できないかということで資料を準備させていただきました。

 資料6の下段に当たりますが,歯学の先生もおられますので,少し釈迦に説法的になりますが,歯周病と言われる病気は,歯を支えています歯槽骨と呼ばれるようなあごの骨に代表される歯周組織が,口腔内の細菌バイオフィルムが原因となって慢性炎症的に破壊されていく疾患で,最終的には歯の喪失を招く病気であります。最近では随分一般の国民の方にも認知されているところでありますけれども,現在でも随分その原因もわかって,予防法も随分確立してきているんですが,依然,成人の方の8割の方が歯周病に罹患しているというのが最近の歯科疾患実態調査の結果なんかでも浮き彫りにされているところであります。

 1ページの下段のグラフに挙げさせていただいておりますように,中高年以降,残念ながら,歯の喪失が避けがたい状況が続いているわけですけれども,こういった中高年の方の歯を失う原因の1番が歯周病になっております。

 ページめくっていただきまして2ページ目ですが,古くはこういった歯科の疾患が口腔領域以外のところにということで,歯性病巣感染(dental focal infection)という言葉で表現され,いわゆる口の中の歯に起因するようなう蝕であったり歯周病であったり,歯の根っこに病気ができる根尖性歯周炎といった病気が他の領域に波及して,例えば関節リウマチや糸球体腎炎や掌蹠膿疱症といったような疾患に何らかの影響を及ぼしているのではないかということが提言されていて,一部教育もされたわけですが,残念ながら,その当時は十分な今でいう科学的なエビデンスが創出されなかったというところで,概念というところを大きく超えることができなかったというのが実情ではなかったかと思います。それがここ10年ぐらいの間に,歯周病という病気をベースにしてさまざまな疫学的な研究も進められ,まだ十分ではありませんが,エビデンスというものが創出されて,そちらから医科・歯科との連携ということが示されている状況にあります。

 2ページ目の下段ですが,よく言われる,どうして歯周病が全身にというときに使われるスキームなんですけれども,いわゆる歯と歯茎の間にポケットと呼ばれるすき間が細菌の温床に当たるところが形成されますと,親不知を除いて28本の歯すべてに5ミリの深さのポケットが形成されると,バクテリアに直接接触する,暴露される歯肉の面積がおよそ大人の手のひらサイズになるということで,こういった歯肉の上皮が潰瘍などを形成していることを想定しますと,わずかではあるけれども,菌が体内に進入することが想定されるし,慢性炎症としての炎症の影響が全身に波及するということが想定されています。話題提供としてお示ししたいのは,2ページ目の一番下段のところですが,2006年のThe Wall Street Journalに掲載された記事なんですけれども,いろいろな報告をもとに,歯周病を予防・早期治療することが後々の生活習慣病のリスクを下げてくれると。それならば,そういった疾患に対する医療費の抑制につながるという期待から,アメリカの大手保険会社はほぼすべてが歯科治療,特に歯周治療に対する保障の範囲を拡大するという形でポリシーの変換をし出したということを報告している新聞であります。一部こういった口腔領域の情報が社会全体の仕組みを変えていくようなこともアメリカでは起こっております。

 個々の事例についてお話をさせていただこうと思うんですが,3ページ目のところですけれども,非常によく研究されている分野の1つでは,歯周病と糖尿病の関係だと思います。これに関連しましては,日本歯科医学会から歯周病学会に依頼を受けて,糖尿病患者に対する歯周病治療のEBMベースのガイドラインを作成されたしということで,学会で作成をして,その内容に関してはMindsに収録されております。もしご興味をお持ちいただけましたら,そちらでフリーアクセスできますので見ていただければと思うのですが,歯科としてはあまりたくさん事例がないケースですけれども,エビデンスベースでガイドラインを作成したということであります。2009年に作成しましたので,エビデンスとして集積しましたのは2008年度の秋から冬にかけてのデータをベースにしておりますので,それ以降,アップデートされたものがあるということはご承知おきいただきたいんですが,例えば一番根本である糖尿病になると歯周病になりやすいんですかという問いに対しては,それが実際に証明されているということの幾つかのエビデンスがありますということで,文言をそこに並べさせていただいております。

 次,4ページにいっていただきまして,1つ非常に代表的なデータをそこにお示ししておりますけれども,これはアメリカでやられました疫学の研究ですが,アメリカの原住民のピマインディアンという種族に関しましては,約4割が2型糖尿病を発症するということで,非常にハイリスクなポピュレーションであるということが知られているんですが,そのピマインディアンを対象にしまして,非糖尿病,糖尿病の患者さんで,各年齢層で,縦軸のアタッチメントロスというのは歯周病による破壊が進んだ程度をあらわしているとお考えいただければ結構ですが,どの年齢層をとっても糖尿病に罹患している方のほうが歯周病の状態が悪くなるということが示されています。このような背景から,日本糖尿病学会から出されています治療ガイドの中でも,糖尿病患者さんの6番目の合併症として現在記載されるというところまで至っています。

 4ページ目下段ですが,歯周病の治療をすると糖尿病の状態を改善するのかということに関しては,幾つかの肯定的な文書,パブリケーションがある中で,メタ解析ではまだ十分なデータがそろっていないということで,非常に興味は持たれて着目されているけれども,エビデンスとしてはさらなる検討が必要だという判定を行っています。

 先ほど医学・歯学との連携というお話もありましたけれども,幾つかの実例と,こういったものは科学でいかに証明し,語っていくべきかということも,こういった事例から学生さんには教育できるのではないかと考えます。

 次,5ページですが,こちらには歯周病と動脈硬化症という切り口で,代表的な最近のパブリケーションをそこに3つほど挙げさせていただいておりますけれども,例えばapoE欠損マウスに歯周病菌の一番の原因菌の1つと考えられているようなP gingivalisという菌を感染させると,口の中では歯槽骨が吸収され,初期のアテローム性動脈硬化症が加速されるというエビデンスがあったとか,あるいはメタアナリシスを行った結果,CHD(coronary heart disease)の有病率と罹患率が歯周病患者さんに有意に増加するということが示されたですとか,あるいは,最後の場合,歯周病は社会経済的な,ソーシャルエコノミカルなステータスを含む従来のリスク因子とはまた独立したCHD(coronary heart disease)のリスク因子,もしくはマーカーになるということを示唆するデータが,個別の研究であったり,メタアナリシス等で示されている状況があります。

 5ページの下段のところは,私どもの大学の教員が行った研究ですけれども,実際に手術で大動脈瘤を摘出するという手術を受けられた患者さんのご了解をいただいて,動脈瘤壁と壁在の血栓,それぞれに分けて,それぞれの中に口腔内に存在するバクテリアのDNAが検出されるかどうかということを解析した結果ですけれども,下の棒グラフで少し色が変わってしまっておりますが,左から順番に腹部,胸部,一番右が胸部の大動脈瘤の検体をあらわすわけですけれども,かなりの高い割合でそういったところから虫歯の菌,口腔レンサ球菌であったり歯周病の菌が検出されるということを示しております。これが原因か結果かということに関しては,まださらなる検討が必要であろうかとは思います。

 ページめくっていただきまして,6ページですか,これも日本の研究者が『The New England Journal of Medicine』に掲載された情報なんですが,福岡市で健康調査を行って,BMIと歯周病の程度を大きく区分けして,健康か軽度の歯肉炎程度か歯周炎かという区分けをしてみると,やせの方の相対危険度を1とした場合に,肥満の方になっていくほど歯周病の状態が悪くなってきているという割合が示されて,その関連性を示しているということであります。どういった原因でという関連に関しては100%証明されているところではないんですが,いわゆるメタボリックシンドロームの中に歯周病が何らかの関連性を持って,緩やかではあるけれども,リスクを示しているんじゃないかという形で理解をされています。

 6ページの下段は,歯周病と早産・低体重児出産との関連を示した事例であります。一番最初の上段に示しているパブリケーションでは,メタ解析を行って,歯周病の患者さんのほうが早産であったり低体重児出産のリスクがあると。だけれども,質のよい,ハイクオリティの研究であれば,そのリスクの程度は低いということを示した論文があります。私もこれも非常に記憶があるんですが,2006年に京都府の産婦人科の先生方に講演を依頼されて準備をしていましたら,ちょうどその下の論文が直前に発表されまして,『The New England Journal of Medicine』で独自にたしか200人だったから400人だったかの妊婦さんを対象に行われた研究で,この研究では特に歯周病を治療することで,口の健康はよくなるけれども,早産・低体重児の出産のリスクに関しては影響は出なかったという報告であります。さらにその後,2009年にはやはり減少させる傾向が見られるという形でメタアナリシスを行った論文が発表されるということで,少し結果が揺れておりますけれども,こういったものも今のクオリティにのっとる臨床研究,疫学研究等々で関連性等を研究することが進められています。

 7ページになりますが,上段のところ,一例としまして,正常児出産を経験された方,低体重児出産を経験された方,それぞれ初産とすべての妊婦さんを対象にした場合に,先ほどと同じですが,縦軸は歯茎の程度が悪くなっている程度をあらわしていると理解していただくと,そういった低体重児出産を経験されたお母さんのほうが歯茎の状態が悪かったということを示すデータが発表されているとこであります。

 7ページ目の下段は,歯周病と呼吸器疾患との関連性で,一番明確でわかりやすいのは,誤嚥性肺炎を起こすという関連性で,特に寝たきりになっていらっしゃるような特別養護老人ホームの入所者の方を対象にされて,日本の米山先生が検討されて,Lancetにも報告されたペーパーですけれども,実際に口腔のケアを行った,そこに書いてあるようなお口のお世話をした患者さん184名と,プロフェッショナルなケアを特段行わなかった182名の方で比較して,両群の2年間の発熱日数,肺炎の発症,死亡率を比較したということなんですが,8ページを見ていただきますと,それぞれの群で口腔ケアを行ったほうが発熱の発症率も下がり,肺炎の発症率も下がり,死亡率に関しては減少するという疫学調査が得られたと。私たちの領域では非常に有名な報告の1つであります。

 次のスライド,8ページの下段なんですが,お渡ししたスライドがつぶれてしまったので,棒グラフがうまく見れていないのですが,数字のパーセンテージだけ見ていただければと思うんですが,こちらは私どもの大学の教員が医学部附属病院と連携を行って,食道腫瘍の術前,術後で口腔ケアを行うことで何かいいことが起こり得るでしょうかということを検討された事例なんですけれども,誤嚥性肺炎,吻合部の縫合不全,あるいは術後の在院日数等々を比べまして,私たちの歯学部附属病院の教員が口腔ケアという形で介入を行うことによって,それぞれの項目で統計学的有意に肺炎も縫合不全も在院日数も減少するという結果が得られましたということで,1つ,連携の事例として資料を準備させていただきました。

 最後,9ページになりますけれども,今後の課題としまして,いろいろなさまざまな疾患があるんですけれども,その中には既に証明されている既知のメカニズムがあるでしょうと。ですけれども,それが100%すべてのからくりがわかっているわけではなくて,そのわかっていないからくりの中には,医科と歯科と連携をするということで,新しい仕組みの解明,医科と歯科との新たな連携によって不明だった部分のメカニズムの解明につながる可能性があると思いますし,そういったことから,新規の診断法,治療法の確立や,これまで十分に実施されてこなかった医科・歯科の医療連携というものが創出されてくるのではないかと。もしくはそうあるべきではないかということで,今後の課題とさせていただきました。

 以上です。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,もう時間があまりなくなってしまいましたけれども,ただいまの3人の方々のご意見につきまして,ご質問ございましたらお願いいたします。

【福田副座長】  それでは,私からコメントさせていただきたいと思います。

 初めの男女共同参画につきまして,私なんかは何も言える立場ではありません。先生のこのデータから見ると,一番悪い年齢層に入っていて,70に近いところにおりますので,何も言えませんけれども,幸い家内は医師をやっておりません。

 実はこの点に関しましては,前回の文科省の協力者会議でもコアカリに直接盛り込むことはできませんでしたが、男女共同参画についてどうしたらいいかということをかなり力を入れて議論いたしました。これに関しては,平成19年3月に出された最終報告はにきっちりまとめて入っておりまして,女性医師の増加は社会的にかなり大きな戦力になってきているので,出産・育児を終わった後,仕事へ復帰していただくにはどうしたらいいかということを,何も医師だけではないと思いますけれども,その点について議論をいたしました。そこでは,一番大事なのは,例えばの話なんですけれども,夜勤のこととか,セミナーを医局の中で遅くやるとか,そういうことまで議論が出てまいりました。そうすると,参加できない方がいらっしゃるわけですね。そういうところは全体として,それこそ特定事業主の行動計画をきちんとやらなきゃいけないことになっていますので,きちんとやっていただく必要があります。ですから,これはほんとうにこれから働いていただくために我々は必要だと思っています。資格のない立場でこういうことを申し上げるのは大変恐縮なんですが,ぜひそうさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

【保坂氏】  せっかく今,そのようにおっしゃっていただいたのに,1つだけ今の委員長のご発言に念押しというか,出産・育児を終わって復帰するようにというお言葉は,医師の世界ではほとんどないと思ってください。ですから,育児を終わってというような長期間の休みがあってはいけないということ,それから,出産は女性しかできませんけれども,育児は男性の問題でもあるということを医学教育の中であれしていただかないと,これからの社会,医師だけじゃなくて,社会全体が女性の労働力を必要としている中で,ぜひそこのところはほんとうに申しわけないんですけれども,もう一度再度認識していただけたらと思います。よろしくお願いします。

【福田副座長】  それは当たり前の話ですので,周知するように努めさせていただきたい。ありがとうございました。

 それから,2番目の医療安全のお話を伺いましたけれども,先生にはCBTの問題作成に昨年来ていただきまして,見ていただいて,医療安全に関しては,コアカリをつくるときは平成11年,12年ぐらいから作業してまいりましたけれども,はっきり言って,だれも何も持っておりませんでした。これをつくるのに非常に苦労いたしました。その後,それをつくったために,これが総務省の目にとまってしまって,医療安全の教育をちゃんとやっているかの行政観察を抜き打ちでやったということもありました。その後,例えば共用試験にどういう問題を出しているんだという問い合わせもありました。平均点は何点ぐらいなんだということまで問われて,私どもとしてはやっておいて非常によかったなと思っております。これを学生にどう位置づけるかというのは,試験問題に関して出すと,必ずそれが反映されますので、非常にいい方法なので,先生からご指摘いただいた事例をきちんと検討できる,自分の力で考えられるような問題を今年ようやく総力を挙げてつくって出すことにいたしました。OSCEに関しても,患者確認のこととか,基本事項に関するところはすべてに優先してやっておりますので,これが各大学にうまくフィードバックがかかることを期待しておりますので,どうもありがとうございました。

 歯周病の件に関しては,実際,議論になりました。私どもの耳鼻咽喉・口腔系のところに入っていないんですね。どうするかという議論はいたしました。これはかなり現実的な話なので,私どもとしても名川先生のチームでどういうふうにするかご検討いただければと思います。どうもありがとうございました。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,予定をしておりました時間になりましたので,これで本日の会議は終了させていただきます。

 最後に,事務局から今後の予定等についてお願いいたします。

【唐沢課長補佐】  今後の検討スケジュールについて,案でございますけれども,1枚紙で資料7という資料をお配りしていますので,それをごらんください。

 前回,6月16日,そして今回,8月5日に第2回会議を開催させていただきましたけれども,今後は今日ご紹介させていただきました調査研究チームにおいて,当面検討いただいて,今のところ9月下旬ないし10月上旬を目途に,次回の第3回の専門研究委員会を開催させていただいて,そこでの中間的な経過報告を検討状況としてご報告いただき,総括的な審議をいただき,10月以降はまだ未定の要素もございますが,医学,歯学に分かれて少し個別の内容についてご議論いただき,年末には連絡調整委員会を開催し,改訂内容を審議,決定できればと考えていますので,ご協力をお願いいたします。

【江藤座長】  ありがとうございました。

 それでは,本日の会議,これで終了いたします。長時間どうもありがとうございました。

お問合せ先

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電話番号:03-5253-4111(内線2509)