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2.大学への早期入学(飛び入学)制度の適切な運用及びその活用の在り方について


(1)飛び入学の位置付け

   21世紀は、新しい知識・情報・技術が、政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代であると言われている。かかる中では、先見性・創造性・独創性に富み卓越した人材を養成・確保することが重要である。
   戦後の我が国の学校教育は、量的にも質的にも著しく普及発展し、我が国の成長と発展に大きく寄与してきたが、全体的な教育水準の向上が重視される中で、年齢に基づく平等性を重視する余り、ややもすれば一人一人の子どもの能力・適性に応じた教育を進めるという視点からの取組が必ずしも十分ではないという指摘が従来なされていたところである。
   以上を踏まえ、大学への飛び入学は、一人一人の能力・適性に応じた教育を進める観点から、特定の分野で特に優れた資質を有する者に早期に大学入学の機会を与え、その才能の一層の伸長を図るために制度化された。
   この大学への飛び入学は、能力・適性に応じたより柔軟な教育の展開による、一人一人の資質の伸長、及び我が国の学校教育全体としての教育の多様化・弾力化を推進する契機となりうるものと考えられる。
   今後、この飛び入学制度のねらいを果たすことができるよう、適切な形での運用・活用が一層図られる必要がある。
   そのために、以下、これまでの飛び入学の実施状況や現行の大学への飛び入学が抱える諸課題等についての検証を行うとともに、今後の飛び入学制度の更なる活用に向けた検討を進める。

(2)これまでの飛び入学の実施状況等

  1   千葉大学・名城大学における取組、取組の評価
   これまで、千葉大学は、平成10年度から平成17年度までの間で、32名の飛び入学生を受け入れ、名城大学も、平成13年度から17年度までの間、19名の飛び入学生を受け入れてきた。
   例えば千葉大学からの報告によれば、飛び入学生は、多事にわたって意欲が豊富で、自発的に勉学・諸活動に参加しており、極めて躍動的とのことである。加えて、飛び入学生の存在が、一般入学生や教員・事務職員にも意識改革をもたらしているとのことであった。
   また、飛び入学生のうち、千葉大学及び名城大学を既に卒業した者の大半は、現在大学院に進学し学習を継続している。
  協議会としても、千葉大学の先進科学研究教育センターへの視察を実施し、飛び入学生自身から、飛び入学制度に対する考え方や、大学での学習に対する旺盛な好奇心等を実地に確認した。前例のない制度への取組に対して、一定の評価ができるものと考えられる。
   もっとも、飛び入学制度による人材育成の効果についての本格的な評価は、中長期的観点に立って行う必要があり、拙速は避けねばならない。今後、飛び入学を実施する大学においては、学校教育法施行規則上規定されている飛び入学制度の運用状況についての自己点検・評価を引き続き行うとともに、協議会としても、どのように現行の飛び入学の取組の評価を行うことが適当であるか検討を進め、評価を行い、その評価結果に基づき更なる改善策を検討する必要がある。

  2   平成17年度、18年度からの新実施大学の状況
   平成17年度入試から昭和女子大学、成城大学、エリザベト音楽大学が飛び入学制度による学生募集を開始し、平成18年度入試から会津大学が同様に募集を開始したところである。
   しかし、例えば、平成17年度の新規募集大学には志願者がいなかったこと等を踏まえると、未だ取組として定着しているとは言えないものと考えられる。

  3   これまで飛び入学の件数が伸びてこなかった要因
   これまで飛び入学の件数が伸びてこなかった要因については、複数考えられるところである。例えば、
   
 飛び入学制度を導入することにより、個人・大学・社会にもたらされる効果が明確ではない
 大学側の教育目的達成のために、必ずしも飛び入学の実施の必要がない
 教育における、年齢に基づく「公平性」「平等性」の考え方が強く存在する
 学校教育法施行規則上、飛び入学生を入学させる大学は、出願者が特に優れた資質を有すると認めるに当たっては、入学しようとする者の在学する学校の推薦を求める等により、適切に飛び入学制度が運用されるよう工夫を行うものとされているが、飛び入学出願の際にこの推薦を行わない高等学校がある
 大学が飛び入学制度の導入による業務の増加を望まない
 (一般学生と同じ学費で、飛び入学生を対象に、特別に手厚い教育環境を整備することは、)特に私学では、学生への説明責任に耐えられない等の点が、その要因として考えられる。
   また、文部科学省において実施した調査結果によると、平成15年度現在、全699大学・1,773学部中、飛び入学の実施を検討している大学は、57大学・112学部にとどまり、実施の予定はないと回答した大学は、660大学・1,658学部となっている。
   
このうち「実施の予定はない」と回答した学部は、飛び入学実施の検討を行っていない要因について、
 飛び入学させることは教育上課題が多いという見解を持っている(36.4パーセント)
 学校教育法第56条第2項に定める「特に優れた資質を有すると認めるもの」の判断が困難(31.9パーセント)
 他の大学でもほとんど実施されていない(25.6パーセント)
 関係法令等で大学側に求められている飛び入学させた者への特別な配慮を行うことが困難(21.2パーセント)
等の事柄を挙げたところである。
   今後、飛び入学の適切な形での運用・活用を一層図っていくためには、これらの飛び入学の件数が伸展してこなかった要因の分析を深めることが重要である。引き続き、協議会としてもこの要因の検討を進めるとともに、検討を踏まえ、課題解決のための方策の検討を進めることとする。

(3)今後の飛び入学制度の在るべき方向性

  1   各国及び我が国における大学入学年齢要件の捉え方
   我が国の学校教育制度上、我が国の大学に入学するためには、正規の学校教育における12年の課程を修了しなければならないものとされている。そのため、結果として、原則18歳以上でなければ大学に入学できない。
   ただし、我が国においても、大学への飛び入学制度を用いれば、17歳で大学に入学することも、大学入学年齢要件の特例として現在可能となっている。
   一方、アメリカ・フランス・ドイツ・中国等の各国においては、年齢による大学入学制限は行われていないことが一般的である。

  2   高校生の約50パーセントが大学又は短期大学に進学する中での位置付け
   平成17年度においては、18歳人口を基準とした大学と短期大学を併せた進学率は51.5パーセントにまで達している。
   進学率の上昇に伴う高等教育の大衆化や高等学校段階までの履修内容の変化等によって、大学入学者について履修歴の多様化が一層進み、このことが大学入学者の知識・能力等の多様化を招いているとの指摘もある。
   以上のような中で、多様性を受け止めることができる仕組みを、日本の教育の中にも今後ともなお一層確保していく必要があると考えられる。

  3   人格全体の育成の観点からと、一人一人の能力を伸ばしていく観点からの、適切な方向性
   上記の各国及び我が国の状況等も鑑み、我が国においても、大学入学年齢要件についてできる限りの柔軟性を持たせる必要があるとの指摘がある。
   一方、大学入学年齢の低年齢化は、生徒の全人格的成長を妨げないか、受験競争の低年齢化を招かないか、いわゆる「受験エリート化」を助長することにならないか、大学入学後における大学生活に円滑に適応できるか、等の面も考慮する必要がある(もっとも、全人格的成長は、高大間の接続部分に集中して論ずるべきものではないことにも留意する必要があり、また、千葉大学・名城大学からの報告によれば、通常より1年早い飛び入学による、全人格的成長面への不安は現段階では感じられないとのことであった。)。
   また、現在の飛び入学制度自体についても、まだ十分に評価ができる段階にまでその取組が定着していない。
   以上を総合的に踏まえると、大学への飛び入学に係る年齢要件の在り方については慎重に検討することが必要であり、当面、現行の17歳での大学への飛び入学制度を踏まえつつ、生徒一人一人の能力・適性に応じた教育が図られるよう、その促進策を検討し、まず制度の定着を図ることが適当ではないかと考えられる。
   なお、制度の定着や実施の状況を踏まえつつ、将来的には、飛び入学に係る現行の年齢要件の在り方を検討することも考えられる。

(4)飛び入学制度の活用に向けて

  1   飛び入学生の選抜方法、飛び入学生に対する指導体制の在り方の検討
  (選抜方法)
   学校教育法施行規則上、飛び入学生を入学させる大学は、出願者が特に優れた資質を有すると認めるに当たっては、入学しようとする者の在学する学校の校長の推薦を求める等により、適切に飛び入学制度が運用されるよう工夫を行うものとされている。
   この推薦については、
 高等学校等の校長等、出願者の資質を知り得る者からの推薦を求めること等により、特に優れた資質を有するか否かを適切に判断できるようにするとともに、
 推薦に当たって、大学関係者と高等学校関係者等との積極的な意見交換・連携に努めること
を求めているものである。
   一方、実際に高校生が大学へ飛び入学することを希望していたが、当該高等学校が推薦を行わなかった事例があるとの指摘もある。
  (飛び入学生に対する指導体制)
   学校教育法上、飛び入学生を受け入れる大学は、「特に優れた資質を有する者の育成を図るのにふさわしい教育研究上の実績及び指導体制を有すること」とされており、この「教育研究上の実績及び指導体制」の具体的内容は、
1  特定の分野における特に優れた資質を伸長するため、適切なカリキュラムを編成するとともに、必要な教員が確保されており、十分な指導体制が整っていること
2  飛び入学により入学した学生が、様々な分野での基礎的な内容を必要に応じ学習することが可能であるようなカリキュラム及び指導体制が整っていること
3  学生に対する助言指導又は指導体制が整備されていること
4  円滑に学位が授与されているなど充実した教育研究活動が行われていること
5  募集を行う学部等から大学院への進学の実績があること
と示されている(平成13年12月27日13文科高第1396号学校教育法施行規則の一部改正等について)。
   特に指導体制に関しては、協議会として視察を行った千葉大学・先進科学研究教育センターにおいても、充実した指導体制の下で、飛び入学生に対する教育が行われていたところである。
   飛び入学生が通常の大学入学生より1歳以上年齢が低いこと等に鑑みれば、大学として上記に掲げられた諸点に留意することは必要と考えられるところであるが、一方で、今後飛び入学制度の一層の活用を促進していく観点に立つと、飛び入学生を対象とした指導体制を必要以上に手厚く求めるべきではないとの指摘もある。

  (選抜方法、指導体制の在り方の検討)
   さらに、前述の文部科学省調査結果によると、「飛び入学の実施の予定はない」と回答した大学学部のうち、21.2パーセントが、関係法令等で大学側に求められている飛び入学させた者への特別な配慮(※)を行うことが困難ということを、実施の検討を行っていない要因に挙げていた。
 ※ここで言う配慮事項は、選抜方法、教育研究上の実績・指導体制や自己点検・評価の実施等を指す。
   これらを踏まえ、今後、飛び入学制度の趣旨に反した各大学の安易な運用は抑止しつつも、意欲があり優れた生徒の期待に応え、かつ大学や高等学校等に過度の負担を強いない選抜方法、指導体制等の在り方について、協議会として検討を進めていく必要がある。
   むしろ、飛び入学制度の活用が進む中で、飛び入学生によっては、一部科目については一般の大学生に比してより時間をかけた学習が必要となる可能性もあることを踏まえ、飛び入学生を受け入れる大学は、必要に応じて弾力的な学習進度を認める等、柔軟な指導体制を整えることが必要との指摘もある。
   なお、大学へ飛び入学した学生についても、単位制高等学校(定時制又は通信制)における特定の授業科目を聴講生として履修することも制度上可能である。学生の学習状況に応じ、これらの制度の有効活用を検討していくことも考えられる。

  2   「特に優れた資質」の具体的な捉え方の検討
   大学への飛び入学者は、学校教育法上「当該大学の定める分野において特に優れた資質を有すると認めるもの」とされている。
   具体的に、この「特に優れた資質」とは、特定の分野で他に抜きん出て優れた才能であることを指し、分野により異なるが、例えば、総合化する思考力、構想力、斬新な発想や独創的な考えを提起する力、理解の早さ又は意欲の強さ等の点において極めて高い能力を有すること等が考えられると示されている(平成13年12月27日13文科高第1396号学校教育法施行規則の一部改正等について)。
   飛び入学制度は、一般の学校制度の枠内における取扱ではその個性や才能を十分に発揮できないほどの特に優れた資質を有する者に、大学において高度で専門的な指導を受けさせることによりその才能を一層伸長させることが望まれているものであり、例えば、単に通常の試験で高得点を取るような者をその対象として想定しているものではない。
   一方で、前述の文部科学省調査結果によると、「飛び入学の実施の予定はない」と回答した大学学部のうち、31.9パーセントが、「特に優れた資質を有すると認めるもの」の判断が困難であることを、実施の検討を行っていない要因に挙げている。また、飛び入学生の推薦を行うこととなる高等学校側にとっても、「特に優れた資質」の判断が困難であり、このことが高等学校側に飛び入学生の推薦を躊躇させることにつながりうるものと考えられる。これらより、「特に優れた資質」を有するか否かの具体的な判断方法の確立を求める指摘もある。
   もとより、「特に優れた資質」の判断方法は国が一律に定めるべきものではなく、学問分野ごと及び各大学の個性・特色等により「特に優れた資質」の捉え方は変わり得るものであり、画一的な判断基準を作成することはその性質上困難と考えられる。しかし、我が国の飛び入学制度の趣旨に鑑みたとき、「特に優れた資質」を判断するに際し、例えば分野別の国際的なコンテストの結果の活用等も含め、どのような要素を考慮することが考えられるのか等について、今後、協議会として検討を進めることも有用と考えられる。
   また、実際の飛び入学実施主体である大学・高等学校双方の間においても、「特に優れた資質」について共通理解を持つことができるよう、相互の連携協力を深めていくことが望まれる。

  3   高校生が飛び入学に求める魅力の検証
   飛び入学制度による学生募集を実施しようとする大学においては、高校生が飛び入学に求める魅力を検証し、この魅力を高めるべく努めることが重要である。
   協議会が実施した千葉大学・先進科学研究教育センター視察での飛び入学生の意見では、千葉大学への飛び入学については、学生は、1年早く進学できる点に加え、提供される教育メニューの質の高さに魅力を感じていたとのことであった。
   特に優れた資質を生かし、より早く大学の高度な学問を学びたいと考える一部の生徒の期待にも応えることのできるよう、各大学が、大学の本来の責務である質の高い充実した教育研究の実施、及びその成果の絶え間ない公開を行うことが、結果として高校生の飛び入学への魅力をも高めるのではないかと考えられる。
   協議会としても、飛び入学の運用・活用方策の検討を進める上で、高校生が求める魅力という観点も踏まえた情報発信の在り方等に留意することが必要である。

  4   その他、大学が留意すべきと考えられる事項
   飛び入学実施大学においては、前述の事項に加え、例えば、
 飛び入学生の全人格的成長の観点から、高等学校と共同して研究を進めるとともに、机上の学習・研究を進めるだけでなく、実験、実習等を特に重視した学習プログラムの機会の提供や、課外活動の取り入れ等を図り、バランスの取れた人格、優れた資質を社会に還元することのできる人材の育成を目指すこと
 指導力の高い教職員の育成に努めること
 大学のアドミッション・ポリシーの中で、それぞれの大学の個性・特色を踏まえつつ、飛び入学の位置付けの検討を行うこと
等も求められる。

(5)その他

  1   過去の旧制中学校・旧制高等学校高等科への早期入学等との比較
   我が国の旧学校制度においては、尋常小学校第5学年修了(通常6年)から旧制中学校への早期入学、旧制中学校第4学年修了(通常5年)から旧制高等学校高等科への早期入学を一般的に認める制度が存在した。
   昭和5年において旧制中学校への早期入学は、全入学者の0.5パーセント、旧制高等学校高等科への早期入学は全入学者の24.8パーセントであった(ただし、高等教育への進学率自体が当時と現在とでは大きな差があることに留意することが必要である)。
   一方、現在の飛び入学制度は、高等学校卒業後に大学に進学するという原則を維持しつつ、特定の分野において特に優れた資質を有する者に対してのみ大学進学への途を開くという学校教育体系上例外的な制度である。
   よって、当時と現在の飛び入学はその趣旨及び仕組みが異なるものだが、旧制度下での運用の実態は、今後の飛び入学の運用の在り方を考えていく際の参考となり得るものと考えられる。

  2   高等学校卒業の取扱との関係
   現行制度においては、大学へ飛び入学した学生は、高等学校を中途退学して大学に入学することとなっており、高等学校卒業という取扱にはならない。
   この取扱に対し、大学への飛び入学者にも一定の要件(飛び入学した大学を卒業する、一定の履修単位を大学において修得する等)の下、高等学校卒業の取扱を認めることができれば、飛び入学制度の活用が促進されるのではないかとの指摘もあるが、本指摘については学校教育制度全体の在り方の中で検討すべき課題であり、現在の我が国の学校教育制度を前提とすれば、大学への飛び入学者を高等学校卒業として取り扱うことは困難と考えられる。
   なお、飛び入学した学生については、飛び入学を実施した大学において責任をもって指導することが基本であるが、やむを得ない事情等により他大学へ転学等する場合には、学校教育法施行規則上、一定の要件の下、当該学生に対しては大学入学資格が認められており、必要に応じ、本規定を活用することも考えられる。

  3   大学学部の早期卒業・大学院への飛び入学等、大学学部・大学院段階における取組との関係
   大学学部・大学院段階においては、それぞれの修業年限の原則は維持しつつ、
 大学学部の早期卒業(学部を3年間(修業年限4年を超える場合は4年間)で卒業することが可能)
 大学院への飛び入学(学部在籍3年(医学等を履修する際は4年)の後に、大学院へ入学が可能)
 修士課程、博士課程の短期修了
等の制度があり、能力・適性に応じた、柔軟な大学・大学院教育を実施することが可能となっている。また、大学への飛び入学に比べると、これらの制度の活用は進んでいるところである(平成15年度現在、大学学部の早期卒業を実施した大学は29大学、大学院への飛び入学を実施した大学は38大学。)。
   一人一人の能力・適性に応じた教育の必要性は、高等学校・大学間の接続時に限定して論じられるべきものではない。各大学においては、それぞれの個性・特色を踏まえた上で、大学への飛び入学以外にも、例えば、上記の諸制度の活用を進めること等、多様な方法により、一人一人の能力を伸ばす教育を展開していくことも望まれる。


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