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2  看護学の教育内容のコアである技術学習項目
   本章では、看護学の学士課程の教育内容のコアを構成する一つの重要な要素として、「看護実践を支える技術学習項目」を示す。具体的には、人間を対象として活動する基盤である『看護ケア基盤形成の方法』と、実践力を育成する基本的な技術である『看護基本技術』との二つに分けて整理し、それぞれについて、看護実践能力をどのような側面から、どの段階まで習得させるかを検討した。もとより、看護学の大学教育では、看護実践能力ばかりではなく、専門知識に基づいた問題解決能力の育成に幅広く取り組む。看護職者として、特に重要なことは、幅広い教養を基盤に据えた豊かな人間性の涵養とその人間性に基づく倫理的判断力の育成であろう。加えて、対象者の自立と自己表現を支えるための創造力の育成が重視されなければならない。 したがって、大学教育で追究する真の意味での看護実践能力の育成は、これらの人間性と創造性に支えられたものであることは、論を待たない。しかし、この面での教育方法については、多くの大学で創意と工夫をしつつ、方法の検証をしている時期にある。各大学におけるこれらの活動について、一層の促進を間接的に図るという意味合いにおいて、看護実践を支える技術学習項目とその到達度を取りまとめた。

<看護実践を支える技術学習項目>
看護実践を支える技術学習項目

  1.看護ケア基盤形成の方法
  看護実践では、常に人間を対象として活動をするので、技術を実施する時、一人の人の看護ケア全体に及ぶ基盤を構成していく方法が不可欠となる。学士課程の教育では、そのような広い意味での技術、看護の方法を確実に学習しておく必要がある。その内容を以下の18に示した。
  学士課程の教育では、社会人として信頼し得る倫理的感性に富んだ人間性の涵養、看護対象者の人間としての尊厳・権利の尊重に基づいた擁護者としての在り方、専門的知識に基づいた判断力と実践能力の育成が重視される。したがって、個々の技術を看護行為として実践する過程では、人間や社会に対する深い理解と社会的責任に立脚した判断が含まれるので、それを含む学習が必要になる。この意味で、本項で扱っている『看護ケア基盤形成の方法』に関する学習では、次の項で取り上げる『看護基本技術』の各項目との関連性を含めて、看護ケアの成り立ち・構造を教授する必要がある。以下に18の各方法について述べるが、それらの学習のためには、少なくとも表1に示した事項が重要となる。   

1   看護の展開方法
  看護の概念や専門機能の学習を踏まえ、援助ニーズを判断し、計画・実施・評価を重ねつつ、看護実践を展開していく。『看護基本技術』の実践は、この看護の展開方法を確実に活かして、一人の対象者の状況を総体的に判断しながら、行うものである。 ここでは、「対象理解とアセスメント」、「看護実践による対応と問題解決」に関する能力が必要となる。また、各能力については、卒業時までには以下の段階まで修得しておく必要がある。

  ○対象理解とアセスメント:
  発達段階に応じた生活・健康問題、身体異常の識別・健康レベル、認識・感情と心理的変化の関係、個人・家族・地域における生活の営みの把握、生活・環境・健康の相互関連性の分析と解釈、以上についての修得した知識に基づき、対象の援助ニーズを判断できる。
  ○看護実践による対応と問題解決:
  ニーズに対応した援助の実施、多様なニーズにおける優先性の判断を含めた看護過程の展開ができる。

  次に、看護の展開方法では、当面のケアを描き実践するというだけでは不十分である。学士課程教育では看護実践を改革していくという観点が不可欠であり、そのために看護学固有の課題追求・実践改革能力の育成が必要となる。これらは、看護職としての責務遂行能力の育成と相まって、社会ニーズに即した人材育成を可能とし、学生自身の自己啓発能力が伴って看護生涯学習の土台となるものである。これらの各能力は、卒業時までには以下の段階まで修得しておく必要がある。
  ○課題追究・実践改革:
  看護実践の場において、看護現象への疑問や課題の発見、課題関連情報収集と解決に向けた方法の検討・選択、文献活用などが自立してできる。
  ○責務遂行:
  看護専門職としての責任・責務、法的根拠に基づいた看護活動、社会・科学・医療の変化に対応した専門職の役割について理解できており、その視点から自分の行動が考えられる。
  ○自己啓発:
  生涯学習が必要な看護職者の在り方を理解し、自分の将来的な在り方を描くことができ、それに向けた自主的な学習行動がとれる。   

2   療養生活支援の方法
  治療や療養が必要な場合、可能な限り、その人が本来有している生活の場で専門性の高いサービスを受けることができるようにすることは、看護職の重要な役割である。従来から実績のある、退院後の療養生活支援、外来患者への生活支援、看護職の保健指導を構成している療養・育児・介護支援に加えて、訪問看護制度に基づくサービス提供形態において必要となる方法の原則を示す。
  これは、対象の生活の営みに合わせた具体的な援助の方法であり、対象の私生活の場を訪ねて展開する看護の方法、育児・介護を含めた家族員や介護職者との関連において展開する看護の方法である。また、訪問看護制度の中での専門機能の在り方、日常生活上の各行為の援助方法、在宅福祉資源利用の援助などが重要となる。 卒業時までには以下の段階まで修得しておく必要がある。

  ○在宅療養・育児支援:
  家族ケア・介護・育児における援助ニーズの判断、医学的管理(受療・自己管理など)への援助、生活の営みに対応した療養方法の援助、日常生活上の各行為の確認と自己管理援助、介護保険事業・保健医療福祉資源の利用支援、などについては看護職者の指導の下に自立してできる。医師・理学療法士・介護職等の他職種や関係機関との共同活動については看護職者の指導の下に自立してできる。
  ○訪問看護:
  訪問看護制度について理解できており、当該事例の医学的管理・保健福祉事業・介護保険事業・福祉制度など諸資源の利用状況と、対象者・家族の要望を加味した援助ニーズを総体的に把握できる。対象者の生活の場を訪ねて援助の意思表明をして関係形成ができる。訪問場面では、病態の安定している療養者については、症状観察や療養生活の現状と療養者・家族の要望の把握を含め看護アセスメントを自立してできる。訪問看護師の指導の下に、家庭において、『看護基本技術』を実施できる。   

3  人間尊重・擁護の方法

  看護職者は、対象者が治療及びケアを受ける過程で遭遇する具体的な場面で、常に、その人の尊厳と権利を擁護する立場で行動できることが不可欠である。学士課程においては、表1に示した学習項目を支える知識の各項について、広い視野で専門領域の人材を登用して学習する機会を持つ。また、学生自身がその意味に深い関心を持ち、看護職者が対象者の権利擁護者として機能することの意義を追究できるよう、具体的な看護事象を用いた演習を組むなど、学生同士の討論や患者など対象者から学ぶ方法を採用することが大切である。 卒業時までには以下の段階まで修得しておく必要がある。

  ○多様性を持つ個人を尊重・擁護する:
  対象者の立場に立つこと、個人の文化背景・価値観・信条の理解、意思決定の擁護、意思決定に必要な情報の提供、自己決定権・人間としての尊厳・人権の尊重、インフォームド・コンセントの実践とその過程での支援、プライバシーの保護と個人情報の適切な扱い、セカンドオピニオンの意義などについて、その意味と具体的な援助の方法を理解でき、実践について明確な意思を持っている。また、看護職者の指導の下に自立して代弁者役割をとることができる。   

4  援助的人間関係形成の方法

看護実践は、看護職自身が築いていく対象者との人間関係を基盤にして行う。『看護基本技術』の各技術を実施するに際しても、対象者を尊重・擁護する態度を基本に人間関係をつくりながら、対象者の気持ち・考え、希望をとらえて行うことが原則となる。そのため、学生には常に対象者と意思疎通を図り、治療やケアを受ける過程で生じる対象側の不安な気持ち等に対応していく方法を学習させる。 卒業時までには以下の段階まで修得しておく必要がある。
  ○コミュニケーション:
  自分と異なる年代や立場の人との意思疎通、対象者の意思表明の援助、提供するケアの説明と相手の要望の受け止め、対象に応じた援助関係の形成、などについては、自立してできる。また、対象と意思疎通を図ることができれば、医療・介護チームの中で、意見の表明が必要となるが、これについては、看護職者の指導の下に自立してできる。   

5  健康に関する学習支援の方法
  人々は、保健・医療・福祉の専門サービスを利用する時には、健康について、専門サービスの在り方について、あるいは社会の諸制度について多くの学習をしている。看護職者は、外来通院や入院体験がその人の良い健康学習の機会となるように、積極的な情報提供等の対応を意図的に行うべきである。ここでの看護職者の役割は、『看護基本技術』実施などの機会を通して、人々が、健康を守るために必要な知識や情報を得るための学習を促進し、支えることである。ここでいう健康学習とは、単に健康に関する知識学習ではなく、個人が体験の過程で得る幅広い学びである。
  看護職者が知識や情報を提供する時に重要なことは、対象の問題意識や理解状況、価値観、実施時期と方法などを判断することであり、それは個別相談的対応を伴う方法となる。
  この学習支援は、健康の保持増進、異常・疾病の早期発見と治療、リハビリテーションなど、すべての場面に必要である。健康の保持増進などの予防の段階では、健康教室のような形で、積極的に専門サービスプログラムをつくって実施する。これらはいずれも、対象の自己管理を支える学習を助ける方法であるので、課題によっては、同じ状況にある人々や生活の営みを共有する人々を集めた小集団で行うことが効果的な場合もある。 卒業時までに以下の段階まで修得しておく必要がある。
  ○健康学習支援:
  個人の自己管理能力における課題の把握ができる。助言を受けながら、入院・外来利用時の個別相談と自己管理についての支援ができる。個人・家族単位の保健行動把握ができ、看護職者の指導の下に自立して健康習慣形成支援ができる。個人別の健康目標について対象との協同設定ができる。グループダイナミックスの利用による健康学習効果が理解できる。   

6  健康管理支援の方法

  我が国では、乳幼児期以降成長発達の各期の段階に応じた疾病予防対策に基づく専門サービスがある。看護職者は、このサービスを担当する重要な一員であり、人々の保健行動を把握し、対象者の状況に即応して、各種の予防行動を支えることができるようにする。健康診断を一例にしてみても、単に異常のスクリーニングに終わらせるのではなく、その人の健康管理を支える個別相談や事後管理の充実など、1回の受診の意味を広げるための看護職者の役割は大きい。
  我が国の予防施策に基づく社会サービスを実施し、その内容を充実させる看護職の役割は重要であり、管理や組織的対応を含む広範な方法へと発展させるべき課題が含まれる。 卒業時までに以下の段階まで修得しておく必要がある。

  ○予防的看護の実践:
  成長発達段階に応じた予防支援ニーズの判断や生活習慣形成・加齢に向けた援助ニーズの判断と個別支援はできる。健康診査の事後管理の必要性の判断ができ、看護職者の指導の下に自立して実施できる。慢性疾患を持つ人への自己管理の課題は判断でき、看護職者の指導の下に自立して個別支援ができる。感染症予防や性行動にかかわる普及教育、異常や早期発見のための健康管理支援の必要性が理解でき、看護職者の指導の下に自立して知識や情報の普及など教育活動ができる。   

7  チームワークの基本とマネジメント方法

  医療サービスは、チームワークで所期の目的を達成する。看護職は、他職種と協働すると同時に、複数の看護職者で看護サービスに責任を持つ。したがって、常に目標と情報の共有等チームワークの基本を行うことが不可欠となる。家庭で看護を行う場合も、この原則は同様であるが、医療現場において対象者の治療とケアにかかわる専門職としては、特に積極的に働きかけてチームワークを形成していくことが不可欠となる。チームの一員として機能する時には、マネジメントの方法についての基礎を理解しておくことが重要となる。
  卒業時までには以下の段階まで修得しておく必要がある。

  ○チームワーク:
  治療・ケアの目標の共有、対象のケアに関係する人の役割と行動の予測、現状の把握ができる。関係者との情報の共有について必要性の判断と実施ができる。ケア体制の充実やケアの継続性の確保に必要な対策が描け、看護職者の指導の下に自立して実施できる。単純な事例では助言があれば、資源利用調整とケアチーム形成に向けたコーディネートができる。
  ○マネジメント:
  対象の援助ニーズと課題を総体的に把握でき、チームメンバーそれぞれの役割を認識している。組織的問題解決の過程、組織目的と自己の役割認識を理解していて、報告の必要性と意味が判断できる。ケアサービスに関連した諸資源を把握していて、対象者の利用意思の確認はできる。対象者の生活環境を配慮した対処行動がとれる。日常的に起こりやすい事故の予測ができ、看護職者の指導の下に自立して予防策を実施できる。危機発生時の対処方法を把握していて指示に従った行動がとれる。   

8  成長発達各期の支援方法
  乳幼児期から老年期に至るどの時期の人にも共通した看護の基盤となる方法を17の各項で取り上げたが、成長発達の各期には、その期に応じた看護の方法がある。これらは、看護の専門性の基盤ともなり、『看護基本技術』の各技術の実施方法に大きく影響するものである。 卒業時までに以下の段階まで修得しておく必要がある。

  ○生涯にわたる健康生活支援:
  人の成長発達各期における援助ニーズ並びに成長発達状態の判断ができ、看護職者の指導の下に自立して援助ができる。健康障害を持った者に対しては、成長各期における固有の援助が自立してできる。成長各期の課題を踏まえてターミナル期の人と家族等への支援と遺族支援、家族危機支援が看護職者の指導の下に自立してできる。   

表1  『看護ケア基盤形成の方法』の学習項目と学習内容

学習項目 学習内容
1   看護の展開方法  対象理解とアセスメント(インタビュー、観察、バイタルサイン測定等)、健康に対する人間の反応・心理・文化的背景・信条・価値観の影響、セルフケアの基本、個人及び家族の問題解決能力、看護計画の基本と看護過程、利用者ニーズに基づく看護計画、看護記録の作成・管理を含む看護情報処理、看護実践を改善する方法、保健・医療・福祉領域の動向とシステム、看護職の責務・法制度・看護行政、看護実践における効果測定と質保証
2   療養生活支援の方法 家庭訪問の方法、在宅療養者支援、家族ケア・育児・介護支援、訪問看護制度、資源利用支援、『看護基本技術』についての家族指導・ケア管理の方法
3  人間尊重・擁護の方法 看護実践にかかわる倫理の原則、看護職の倫理規定、基本的人権の尊重、権利擁護者としての理念・行動、治療に関わる自己決定権、インフォームド・コンセント、プライバシー保護、セカンドオピニオンの意義
4  援助的人間関係形成の方法 援助過程における人間関係形成、不安等への対応、意思表明への支援、コミュニケーション、相談技術、カウンセリング
5  健康に関する学習支援の方法 対象者の健康学習、セルフケア能力の向上、自己実現への支援、健康行動とグループダイナミックス
6  健康管理支援の方法 健康の概念、予防のレベル、健康増進、健康管理と疾病予防対策、施策化の方法論、個人予防対策支援、健康政策環境と保健問題並びに関連する国内・外の施策
7  チームワークの基本とマネジメント方法 保健・医療・福祉チーム、保健・医療・福祉領域における連携・協働、社会資源活用、ケアチームにおけるマネジメント、看護サービスマネジメント
8  成長発達各期の支援方法 生涯発達、家族機能、リプロダクティブヘルス、成長発達段階における危機への支援、小児・成人・老年期特有の疾病治療と健康回復、ライフサイクル各期特有の看護方法・終末期ケア

2.看護基本技術

1)基本技術学習項目の構成
  学士課程での看護実践能力の育成に欠くことのできない学習内容として、基本技術学習項目を整理し、表2の「a」から「m」に示した。なお、「k.感染予防の技術」、「l.安全管理の技術」、「m.安楽確保の技術」は、「a」〜「j」の各基本技術施行に際し、同時に行われる性質を持つものでもあり、前項1.の『看護ケア基盤形成の方法』に包含させることも可能であるが、いずれも、特定の知識に基づいた技術学習内容が系統的に整理でき、それらは、卒業までに確実に身に付けておくべきものであるため、ここでは基本技術として挙げた。
  「a」〜「m」の各技術は、『看護ケア基盤形成の方法』との関連において、対象者のニーズに応じた判断と計画の確認が伴って初めて、その方法が定まってくるものである。
  したがって、学習に際しては、単にその技術に関する知識や手順ばかりではなく、技術施行の対象となっている人の状況を確実に受け止め、対象者のニーズを総体的に配慮した上で、その技術を施行することを実地に学ぶことが大切となる。特に、対象者への説明やそれに対する対象者の反応、対象者の立場からの気持ち・思い、希望を確実にとらえた看護の方法を学習する。
  『看護ケア基盤形成の方法』と『看護基本技術』との関係を確認するために、表3に、各基本技術を施行する時の看護職者の行為には、どのような要素が含まれるかを整理して示した。これによると、各基本技術には、知識に基づく個別対象者に向けた判断がまず必要になる。臨地実習の場では、学生が自分の既習の知識と観察される諸事象とを結び付けて理解することとなる。そして、表3の「知識と判断」、「実施と評価」については、『看護ケア基盤形成の方法』の看護の展開方法で取り上げた個別アセスメントに基づく看護計画の中に位置付けて方法を構成していく。「対象者への説明」、「プライバシーの保護」についても、援助的人間関係形成の方法人間尊重・擁護の方法に基づいた看護行為を行う。

表2  『看護基本技術』の学習項目

学習項目 学習を支える知識・技術
a.環境調整技術 療養生活環境調整(温・湿度、換気、採光、臭気・騒音、病室整備)、ベッドメーキング、リネン交換
b.食事援助技術 食事介助、経管栄養法、栄養状態・体液・電解質バランスの査定、食生活支援
c.排泄援助技術 自然排尿・排便援助、便器・尿器の使い方、摘便、オムツ交換、失禁ケア、膀胱内留置カテーテル法、浣腸、導尿、排尿困難時の援助、ストーマ造設者のケア
d.活動・休息援助技術 歩行介助・移動の介助・移送、関節可動域訓練・廃用性症候群予防、体位変換、入眠・睡眠の援助、安静
e.清潔・衣生活援助技術 入浴介助、部分浴・陰部ケア、清拭・洗髪、口腔ケア、整容、寝衣交換など衣生活支援
f.呼吸・循環を整える技術 酸素吸入療法、吸引、気道内加湿法、体位ドレナージ、体温調整
g.創傷管理技術 包帯法、創傷処置、褥創予防ケア
h.与薬の技術 薬理作用、薬物療法、経口・外用薬の与薬方法、皮下・皮内・筋肉内・静脈内注射の方法、点滴静脈内注射・中心静脈栄養の管理、輸血の管理
i.救命救急処置技術 救急法、意識レベル把握、気道確保、人工呼吸、救命救急の技術、閉鎖式心マッサージ、止血
j.症状・生体機能管理技術 バイタルサインの観察、身体計測、症状・病態の観察、検体の採取(採血、採尿・尿検査、血糖測定)と扱い方、経皮的・侵襲的検査時の援助(心電図モニタ・パルスオキシメータ・スパイロメータの使用、胃カメラ、気管支鏡、腰椎穿刺)
k.感染予防の技術 スタンダードプリコーション(標準予防策)、洗浄・消毒・滅菌、無菌操作、医療廃棄物管理
l.安全管理の技術 療養生活の安全確保、転倒・転落・外傷予防、医療事故予防、リスクマネジメント
m.安楽確保の技術 体位保持、罨法等身体安楽促進ケア、リラクセーション、指圧、マッサージ
     
表3  『看護基本技術』を支える態度や行為の構成要素
態度・行為の要素 説        明
知識と判断 ・  技術に関する目的・必要性、実施方法に関する正確な知識を持っている。
・  対象者の症状と他看護職者が実施している行為を見た時、既習知識との関連で理解する。
・  対象者に対する技術適用の意義と必要性を的確に判断をする。
・  対象者の気持ち・考え・思いや要望を把握し、それを考慮した方法を考える。
実施と評価 ・  準備・施行・後始末の各段階を基本的な法則に基づいて正確に実行する。
・  対象者の反応を見ながら、技術の実行方法を調整する。
・  実施した成果・影響を客観的に評価する。
対象者への説明 ・  技術施行の目的・必要性・期待される効果及び事後の影響につき、対象者の理解状況に合わせた方法で説明する。
安全・安楽確保 ・  技術施行過程における安全確保対策について判断し、実行する。
・  対象者にとって安楽な方法を判断し、それを実現しながら、技術を施行する。
プライバシーの保護 ・  全過程でプライバシーを考慮しながら、その技術を施行する。
指示確認
報告・記録
・  必要な指示かどうかの判断と指示の確認を実行する。
・  報告の時期・相手を適切に選び、実行する。
個別性への応用    ・  対象者の個別性(年齢・性別、病状、習慣・嗜好、心理状態)に応じた方法で実行する。
家族相談・助言 ・  必要に応じ、家族の意思や心情を考慮しながら説明する。
・  必要に応じ、対象者のセルフケアや家族ケアのための相談・助言・指導を行う。

2)『看護基本技術』の学習項目の到達度
  『看護基本技術』の学習項目についての到達目標・卒業時の到達レベルは、各項目に共通して、表3の各構成要素で示すことができる。まず、正確な知識を持っていることに加えて、『看護ケア基盤形成の方法』の学習に基づき、当該対象者について、その技術の適用の意義と必要性が判断できることが求められる。後述の対象者への説明とも深く関連するが、対象者の思い・考えや要望を把握してその実現を含めた援助ニーズの判断ができることが基本となる。
  実施にあたっては、基本的法則や方法を正確に知っていることは当然であるが、卒業の時点では、自立して実施できるものと指導・監視の下でなければできないものとがある。その区別については、学生自身確実に認識している必要がある。
  対象者への説明については、援助的人間関係形成の方法を基盤に、当該技術のその対象者にとっての必要性・効果、事後の影響などについての知識を用いて実施する。技術施行や医療処置を受ける立場の人は、極めて複雑な心理状況となり、不安が伴うものであることから、一方的な説明のみではなく、説明に対する相手の反応を鋭敏に、そして確実にとらえた対応が必要となる。したがって、了解を得る、場合によっては約束をするという内容も加味されてくる援助的人間関係形成の過程も含まれる。卒業時の到達度としては、技術項目、対象の状態などにより多様ではあるが、看護職者の確認・指導があれば自立してできるレベルが求められる。
  指示の必要性の判断や実施方法については、自立してできる段階が求められる。表3に挙げた各技術実施過程における「安全・安楽確保」については、各技術項目ごとに多彩な側面がある。これらを配慮しながら行うところに看護技術の特色があるのであり、この複雑な技術を自立して行える段階にする。「個別性への応用」、「家族相談・助言」のいずれの項目についても、対象及び場の複雑な条件が伴わない限り、自立してできる必要がある。

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