大学における保健師・看護師及び助産師教育について
検討会報告で学士課程の特質のひとつとしてまとめられているように、看護系大学では、保健師・助産師・看護師の国家資格取得につながる専門職業教育を行っている。看護系大学の増加とともに、学士課程で育成される看護職者は、年々増加傾向にあり、資格取得にかかわる教育も変化している。ここでは、職種別に学士課程教育の経過や現状について整理する。
1 保健師・看護師教育について
看護師については、看護系大学の学士課程を修めた者のうち、看護師資格を取得後に入学する3年次編入生を除くすべての者が看護師国家試験の受験資格を付与されることになっており、平成14年度は、5,010名が看護師資格を取得している(表1)。その卒業時の就業状況は、卒業生5,727名のうち、76%が看護師として就業し、この看護師就業比率は大学数の増加と共に高まっている(表2)。
表1 保健師・看護師・助産師国家試験合格者数(新卒・平成15年3月)
|
保健師 |
看護師 |
助産師 |
総 数 |
名
6,796 |
%
100 |
名
43,860 |
%
100 |
名
1,396 |
%
100 |
大 学 |
5,144 |
75.7 |
5,010 |
11.4 |
261 |
18.7 |
短期大学
(専攻科含) |
613 |
9.0 |
4,988 |
11.4 |
485 |
34.7 |
養 成 所 |
1,039 |
15.3 |
31,486 |
71.8 |
650 |
46.6 |
高等学校
専 攻 科 |
- |
- |
2,370 |
5.4 |
- |
- |
その他 |
- |
- |
6 |
0.0 |
- |
- |
表2 看護系大学学士課程卒業者の卒業直後の就業状況
|
2001.3 |
2002.3 |
2003.3 |
卒業者総数 |
名
3,703 |
%
100 |
名
4,847 |
%
100 |
名
5,727 |
%
100 |
保健師 |
390 |
10.5 |
447 |
9.2 |
469 |
8.2 |
助産師 |
109 |
2.9 |
166 |
3.4 |
187 |
3.3 |
看護師 |
2,657 |
71.8 |
3,536 |
73.0 |
4,363 |
76.2 |
養護教諭 |
24 |
0.6 |
43 |
0.9 |
33 |
0.6 |
学校養成所 |
12 |
0.3 |
22 |
0.5 |
11 |
0.2 |
その他 |
51 |
1.4 |
55 |
1.1 |
48 |
0.8 |
進学 |
321 |
8.7 |
339 |
7.0 |
409 |
7.1 |
未就業ほか |
139 |
3.8 |
239 |
4.9 |
207 |
3.6 |
資料:看護関係統計資料集、平成13-15年、日本看護協会出版会刊行
平成15年度現在、学生受け入れを行っている103大学の入学定員の合計は8,596名であり、4年後(2007.3)の供給体制は、3年次編入生を除く7,708名となる。
次に、保健師についてであるが、看護系大学学士課程の中で、保健師の受験資格につながる教育をすることは、1952年の学士課程開始時より実施してきている。
わが国の保健師の誕生は、保健所に看護職員を配置したことから始まり、就業の場は、保健所・市町村など地方自治体の保健福祉事業を担う公務員という立場の、看護の技術職として発展した職種である。そのため、教育内容については、看護の保健・福祉行政の成り立ち、行政サービスとしての各種事業の特性に及ぶ学習が必要となる。保健師は、行政サービスの枠組みの中で、保健・福祉活動、予防の諸活動に従事しているが、看護の専門性を生かした役割に関しては、社会変化に応じ、住民ニーズを捉えて適切な対応方法を常時開発していかなくてはならない立場にある。近年では、高齢者問題・介護保険の諸事業、児童虐待問題など幅広い問題についても、看護の立場からの参画が期待されている。また、わが国の保健予防の体制は、学校・産業の場について、地域とは別立ての仕組みがある。近年、これらの場でのヘルスケアニーズは多様になり、学校看護・産業看護の充実の必要性が高まっていることも忘れてはならない。
平成15年度現在、学生受け入れを行っている103大学において、8,596名が保健師免許への受験資格を付与する教育体制となった。しかし、平成14年度の卒業状況では、77大学・5,727名の卒業者のうち、保健師就業者は469名で、そのうち保健所71名、市町村309名に過ぎない(表3)。保健師への就業は、需要量・採用数の減少などに著しく影響を受け、就業希望者は増大しても、就職できずにいるという課題がある。
表3 学士課程新卒看護職者の卒業直後の就業先
|
保健師 |
看護師 |
助産師 |
就業者総数 |
名
469 |
名
4,363 |
名
187 |
病院・診療所 |
55 |
4,337 |
185 |
保健所 |
71 |
- |
1 |
市町村 |
309 |
- |
- |
介護老人保健施設 |
2 |
4 |
- |
工場・事業所 |
15 |
- |
- |
学校 |
1 |
2 |
- |
助産所 |
- |
- |
1 |
その他 |
16 |
20 |
- |
資料:看護関係統計資料集、平成15年、日本看護協会出版会刊行
この動向は、保健師養成所・短大専攻科においても同様で、53校・1747名の卒業者を出し、保健師就業者652名(保健所55・市町村362)である。大卒と合せた需要量は、保健所126、市町村671、合計797名であり、年々減少が著しい。ことに自治体の合併問題を控え、市町村の採用は著しく抑制され、今後は改めて自治体の行政サービスに看護職の専門性で住民サービスがどのように充実し得るかについて、強力なPR活動が必要となっている。
一方、保健師の役割は、保健部門ばかりではなく、福祉部門や介護保険事業などに広がっており、行政職の中で専門性の高い能力が発揮できる技術職として期待されている。これらは、大学院教育が対応すべきもので、学士課程としては、保健・福祉分野の諸事業と行政サービスの特質を踏まえた住民の健康生活の支援等の実践能力が求められる。これらの内容については、今回、卒業時の到達目標とそのレベルという形で示した。
2 助産師教育について
学士課程における助産師教育は、1964(昭和39)年に開始され、徐々に増設された。特に近年では、助産師資格取得希望者の増加や、短大専攻科と養成所の減少を反映し、学士課程における助産師養成に対する期待が高まり、地域の要望に応えるために、助産師教育を行う大学が増えている。平成15年度現在、107大学のうち73大学で助産師国家試験の受験資格を付与する教育を準備しており、学士課程における助産師養成数の増加が見込まれている。
表4 学士課程新卒者の助産師国試受験者数・合格者数・就業者数
試験実施年月 |
受験者数 |
合格者数 |
就業者数 |
平成11年3月 |
名
155(172) |
名
142 |
名
( )内は% |
12年3月 |
137(167) |
127 |
82(64.6) |
13年3月 |
212(227) |
188 |
109(58.0) |
14年3月 |
260(293) |
226 |
166(73.5) |
15年3月 |
312(349) |
261 |
187(71.6) |
・ |
受験者数の( )は新卒+既卒者数を示した |
・ |
就業者数は、助産師としての就業者のみを示した
(看護関係統計資料集、日本看護協会出版会刊行)より |
助産師は、助産と妊婦・褥婦・新生児に対する保健指導を業とする専門職である。これら助産師の業務は、正常経過においては助産師の判断で行い得るものであり、助産師に独占的に認められているものである。さらに、近年の少子高齢社会においては、次代を育む母子や家族に対する支援、介護に関わる女性の健康生活への支援においても助産師がケアを行うことが求められるようになり、助産師の責務は拡大している。
助産師教育として重要な学習内容には、助産に関わる知識と技術に加え、母子やその家族に対する育児支援、リプロダクティブヘルスへの支援、女性の生涯にわたる健康生活支援がある。これらの支援は、看護師及び保健師の活動にも必須のものであることから、三職種に共通の教育内容として教育されている。
助産に関する科目については、その一部を選択必修科目または自由選択科目と位置づけている大学が多い。これに該当するものとして助産実習があげられる。これは、10例程度の分娩介助を含む実習であり、履修できる学生数を制約して十分な実習が行えるように指導体制を整えているのが現状である。
平成14年度の実績を見ると、40の看護系大学学士課程において、340名が助産師国家試験受験資格を得るための科目を修めている。このうち資格を得て助産師として就業したのは187名である(表4)。助産師の資格を持ちながら看護師枠で採用となった者、看護学をより広く学修するために助産関係科目を履修し、助産師以外で就業した者など、学生側の助産科目履修を希望する理由が多様であることが、卒業時の就業状態に反映されている。
助産師教育を含む教育課程の編成は、各大学が学士課程での人材育成の本来的意義を踏まえ、工夫を重ねている。学士課程において、いずれかの看護分野を選択して履修することは、卒業者が将来看護職者として各自の専門性を高める方法を学ぶという点で極めて重要である。教育課程の充実と共に、教授方法の改善や学生に負担が過重にならない履修方法の開発の努力が各看護系大学で続けられているところであり、今後も一層発展させていく必要がある。
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